感応式を明日に控えたナオミ達は、身を清めるために湖の水を浴びることになった。
彼らは白装束で、湧き水が出ているコリャカナワンツメタイ湖にたどり着いた。
春とはいえ、夜はまだ寒く生徒の中には震えている子供もいる。
この湧き水にはドラゴンと感応しやすい魔法が古《いにしえ》より何度も注ぎ込まれており、この儀式をしない訳にはいかなかった。
湖の辺《ほとり》にはとても大きな木があって、そこにドラゴン達が止まって前夜の儀式を見守っている。
父兄も湖の辺りで、家族の儀式を興味深く見ていた。
「スースラムは寒くないのかい?」
「僕かい。大丈夫だよ。
スリーは、震えているけど?」
「寒いに決まっているだろう。
こんな寒空にさらに冷水だよ。
凍えそうだ。う〜寒い!!」
ニンフルとナオミもやって来た。
2人とも寒がってはなくて、普段と変わらない感じだ。
「スリー、どうしたの震えているよ」
「寒いからに決まっているだろう!!
なんで3人とも寒くないんだ〜〜。
う〜、寒い」
「心の鍛え方が違いますからね」
「ニンフル意地悪言ってはダメだよ。
スリーが痩せているからでしょう?」
「ナオミの方が意地悪だと私は思うんだけれど?」
「え、そう?」
「どっちでもいいよ。
早くすませて、家の温泉に入りたい」
父兄とドラゴン達が見守る中、儀式が始まった。
1人また1人と、順番に湖に入っている。
湖に入って、普段と同じ子もいるが、驚いた表情になっている子もいる。
スリナリルは、なんでこんなに違うんだろうと不思議がった。
仲良し4人組の中ではスリーは最後だった。
最初はスースラムが湖に入って行った。
しばらくすると、スースラムは驚きの表情で湖から上がって来た。
話を聞こうとしても、スリーは入る為の列に並んでいるので話も聞けない。
ニンフルの番になった。
スースラムと同じで、とても驚いている。
一緒に住んで、こんなに驚いている妹のニンフルを見るのは初めてだった。
ナオミの番になった。
湖に入ってすばらくすると、木に止まっているドラゴン達が騒《ざわ》めき出した。
父兄からも騒《ざわ》めきが広がり、辺りは騒然となっていった。
スリーは何事が起きたのかと思ったけれど、今度は僕の番だと思って気を引き締めた。
スリーはユックリと湖に入っていった。
湖の水は冷たくなく、むしろ暖かかった。
突然頭の中で声が聞こえてきた。
「ん〜〜〜む。
また特殊な能力の持ち主が現れたものだ。
素早い、機転がきく、勇敢、いや、無謀か?
ん〜〜〜む。
これは難しい。
先ほどの子供もよりも決めるのが!!」
スリーは声の主に勇気を振り絞って聞いてみた。
「あなたは誰ですか?」
「ほう。
我の声が聞こえるのか?」
「はい。
あなたは、ドラゴンの神様ですか?」
「ワハハハハ。
これは面白いことを言う。
我はドラゴンの精霊だ!!」
「精霊?」
「そうだ!!。
明日の儀式で、どのドラゴンがその子に相応しいのか判断をしておる」
スリーは恐る恐る希望のドラゴンんを言った。
「僕のドラゴンは、速い方がいいんだ」
「これは、これは。
初めてだ。
子供から欲しいドラゴンを言ってきたのは。
ん〜〜む。
よかろう。
戦争が近いので、お前のような子供も必要だろう。
特殊な能力を持ったドラゴン。そして、最も早い。
お前の希望を叶えよう」
スリーは驚いて、思わず足を取られて頭から水の中に潜った形になった。
湖底を歩いていたと思ったのに、そこは巨大なドラゴン背中で、周りには多くのドラゴンが見えた。
精霊?魂?
「プハー。
驚いた〜〜〜!!
ドラゴンの背中を歩いているよ僕。
それに、精霊の言っていた意味がよく分かんなかった。
お前のような子供ってなんだろう?」
スリーは湖から出て3人と合流した。
ナオミは放心状態に近く、ぼーっと立っているだけだった。
ニンフルとスースラムも同じ様な感じで、ドラゴンの精霊からの言葉で、その場に立ちすくんでいる。
「ニンフル、ニンフル。
大丈夫かい?」
珍しく、スリーが妹に優しく声をかけた。
ニンフルはゆっくりとスリーの方に向いて話し出した。
「あのね、頭の中でね、言葉が聞こえてきたの。
あなたは優秀な子供なので、最も優秀なドラゴンと感応するでしょうだって。
ね、スリー、これどう思う?」
「凄いね。
ニンフルにピッタリだよ。
それよりもさ、ナオミとスースラムが、まだぼーっとしているままなんだけど?」
「あ、ほんとだ。
さっきの私みたい。
ナオミ、ナオミ。
大丈夫?」
ナオミはやっと動き出して、ニンフルの方を向いた。
「あの〜〜。
将来のマザードラゴンと感応するって言われたんだけど・・・。
マザードラゴンはドラゴンのお母さんだよね?」
ニンフルとスリーは驚いて、お互いを見た。
しばらくして、ニンフルが興奮して話し出した。
「ナオミ、それって凄いことだよ。
マザードラゴンは黄金色をしていて、ドラゴンの中では最も大きくて最も影響力があるんだ。
それに、卵を産める唯一のドラゴンでもあるんだよ。
マザードラゴンは今は1頭しかいない。
ナオミので2頭になるんだね」
「あの〜〜、私でいいのかな?
地球人の私で?」
スリーも興奮している。
「もちろんだよ。
ドラゴンの精霊が決めたんだから間違いないさ。
僕、精霊と話をしたんだ」
今度はニンフルとナオミが驚いて、お互いを見た。
ニンフルが驚いた口調で質問をした。
「スリー、精霊と話をしたって、それ本当なの?」
「ああ、間違いないよ。
それでね。はやく飛べるドラゴンが欲しいって言ったら、いいよだって」
「信じられない!
話をした事もそうだけれど、希望のドラゴンを言った人、聞いた事がないよ」
「そうなの?
それでね、驚いてつまずいたら、湖の中はドラゴンが一杯いた。
それに、湖底を歩いていたと思っていたら、巨大なドラゴンの背中だったんだ」
「うそ〜。
あれって、ドラゴンの背中を歩いていたの?」
「そうだよ。
明日の感応式楽しみだね。
あ、スースラムを忘れていた。
スースラム、だいじょうぶかい?」
「あ、スリー。
頭の中で声がして、最も魔力の上がるドラゴンがお前には相応しいだって。
これって、本当かな?」
「よかったねスースラム。
それ本当だよ。
皆んな明日の感応式楽しみだよね」
向こうから、スースラムのお母さんと、ナオミのお母さんが歩いて来た。
ナオミのお母さんのマリネラが、ナオミに確かめるように聞いた。
「ナオミ、ドラゴン達が言うには、あなたがマザードラゴンと感応するって言っていたけれど本当なの?」
「あのー、頭の中で聞こえた声はそのように言っていました。
それって、本当に私でいいのでしょうか?」
「もちろん問題ないよ。
ただ、ビックリしただけ。
ここ、千年間マザードラゴンと感応する子がいなかったからね。
ナオミ、周りを見てごらん。
ドラゴン達がそれぞれの家に帰る前に、あなたに深く頭を下げているだろう。
あなたに敬意を表しているんだよ。
ナオミもドラゴン達に頭を下げて、挨拶をした方がいいね。
明日の感応式の後は、ドラゴンと会話ができるようになるよ」
ナオミは軽く頷いてマリネラの言う通りにし、ドラゴン達に一頭一頭に頭を下げて挨拶をした。
結局スリー達は最後まで残る事になったけれど、今夜の出来事で皆んな感動していて、時間の過ぎるのも忘れていた