ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第9話『神狩 白狼さんとアインシュタインさんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第9話『神狩 白狼さんとアインシュタインさんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道復活、そして歩兵道再興の僅か数日後に………

 

全国大会準優勝経験を持つ強豪校………

 

『聖グロリアーナ女学院』と『聖ブリティッシュ男子高校』と練習試合を行う事となってしまった大洗機甲部隊。

 

戦車・武器の性能、隊員達の錬度に於いても圧倒的に差が有る絶望的な試合に臨むに当たり………

 

みほが戦車部隊の総隊長………

 

迫信が歩兵部隊の総隊長へと就任する。

 

負ければ、女子は『あんこう踊り』

 

男子は『褌一丁で大洗海岸をランニング』と言う、何とも恥ずかしい罰ゲームが待つ中………

 

大洗機甲部隊の面々は、少しでも勝機を上げようと、練習に励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹を先頭に、α分隊の面々が叫び声と共に駆け抜けて行き、そのまま前方の塹壕の中へと飛び込む。

 

直後に、機関銃の掃射が塹壕前の地面を耕し、榴弾が塹壕の背後の方に着弾して爆発した!

 

「くうっ!………」

 

声を漏らしながら、慎重に顔を出したα分隊の偵察兵が、双眼鏡を覗き込む。

 

双眼鏡で見た先には、ゆっくりとα分隊の居る塹壕へ進軍してくるBチームとβ分隊の姿が在った。

 

背後の方では、明夫を中心として砲兵部隊が、支援砲撃を行っている。

 

「敵軍、正面から進軍して来ます! 距離300!!」

 

「Aチームは!?」

 

「現在護衛部隊と共にBチームとβ分隊の背後へ向かって進行中! もう暫く掛かるとの事です!」

 

α分隊の偵察兵からの報告を聞くと、弘樹は通信機を持った突撃兵にそう尋ね、通信機を持った突撃兵はそう報告を挙げる。

 

「各員! Aチームが背後を衝くまで、此処で敵を引き付けろ!!」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の命令を聞いたα分隊の面々が、次々に塹壕から姿を現し、MG08/15重機関銃を二脚を立てて設置する。

 

「敵歩兵部隊は重機関銃を設置したでござる」

 

「チイッ! そうはさせるか!! 全軍! 弾幕を張りつつ一気に突撃やぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

β分隊の小太郎がそう報告を挙げると、大河がそう言い放つと、大洗連合の突撃兵達が、短機関銃や軽機関銃を乱射して弾幕を張りながら突撃を開始する!

 

α分隊が設置した機関銃陣地の周辺にも銃弾が飛び交い、何発かが近くの地面に着弾して、土片を爆ぜさせる。 

 

「うわぁっ! くそぉっ!!」

 

「落ち着け! 牽制で撃ってるだけだ! そうそうは当たらん! 十分に引き付けてから撃つんだっ!!」

 

思わずMG08/15重機関銃の引き金を引こうとした突撃兵を、弘樹はそう言って戒める。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その間にも、大河を中心としたβ分隊の突撃兵達は、硝煙の臭いを撒き散らしながら接近して来る。

 

「分隊長! まだですかっ!!」

 

「…………」

 

段々と至近距離を掠めたり、着弾したりする弾丸に恐れながら、α分隊の突撃兵の1人がそう声を挙げるが、弘樹は何かを待つ様にジッと動かない。

 

「オラオラ! らしくねえなぁ! 怖気づいたのか、大将ーっ!!」

 

と、勢いに乗った1人の大洗連合の突撃兵が1人飛び出し、先んじて敵の塹壕の中へと雪崩れ込もうとする。

 

………その瞬間!!

 

パアンッ!! と言う、乾いた甲高い音が響いたかと思うと、一人飛び出していた大洗連合の突撃兵が、側頭部に衝撃を受け、ブッ飛んだ!!

 

「グアハッ!?」

 

「!? 狙撃や! 散れ! 散れいっ!!」

 

倒れた突撃兵の姿を見て、即座にそれが狙撃による攻撃である事を察した大河は、すぐに突撃していた仲間に分散する様に指示する。

 

しかし、またも銃声が2度、3度と鳴り響き、次々に突撃していたβ分隊の歩兵達が倒れて行く。

 

「右方向に一人孤立しています」

 

「了解!」

 

一方、その狙撃を行っている演習場の塹壕地帯に面している鬱蒼とした林の中では、木の上で双眼鏡を手に観測手を務めている楓が、ギリースーツの様な姿で狙撃を行っている飛彗に指示を出していた。

 

楓の指示した方向にモシン・ナガンM1891/30を向けるとスコープを覗き込み、孤立していたβ分隊の突撃兵の一人にヘッドショットを決める!

 

「ぐはぁっ!?」

 

「チイッ! 狙撃地点は林の中か!!」

 

「良し! 撃てぇーっ!!」

 

と、狙撃によって突撃して来ていた大河達の足が止まったのを確認し、弘樹は遂に射撃命令を下す!!

 

途端に、爆竹の様なけたたましい音が幾重にも鳴り響き、α分隊の機関銃による掃射が開始された!!

 

「うわぁーっ!!」

 

「ぐわーっ!?」

 

薙ぎ払う様に次々と飛んで来る機関銃弾の前に、β分隊の突撃兵達が一人、また一人と倒れ、戦死と判定されて行く。

 

「アカンッ! 先ず狙撃の方を何とかせんと………」

 

「任せてぇーっ!!」

 

と、大河がそう声を挙げると、Bチームの八九式が前進して来て、林の方に砲塔を旋回させ、榴弾を発射する!!

 

風切り音を立てて林の中へと着弾した榴弾は、爆発と共に周囲に破片を撒き散らす!!

 

「クウッ!」

 

「宮藤さん! 移動しましょうっ!!」

 

幸い飛彗達が居る場所から離れた場所に着弾した様だったが、直撃を受けるのも時間の問題だと判断した楓が、木の上から降りてきてそう呼び掛ける。

 

「! 了解!」

 

ギリースーツ状態のまま、茂みの中を移動し始める飛彗。

 

「ドンドン撃てぇっ!!」

 

「ハイ! キャプテンッ!!」

 

そんな飛彗達を追い詰める様に、八九式は次々に榴弾を発射する。

 

「オイ、弘樹! 楓達が危ないぞっ!! 西住ちゃん達はまだかよっ!!」

 

「喚くな! 安心しろ! 西住隊長達は必ず来るっ!! それより弾を込めろっ!!」 

 

弘樹が撃っているMG08/15重機関銃の給弾手を務めていた了平が悲鳴の様な声でそう言うが、弘樹は一喝して装弾を続けろと言う。

 

「そーれっ!!」

 

「「「そーれっ!!」」」

 

と、その次の瞬間!!

 

八九式が放った何発目かの榴弾が、茂みを吹き飛ばし、隠れていた楓と飛彗の姿を露呈させた!

 

「!?」

 

「しまったっ!!」

 

「居たっ! あそこだ!! あけびっ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

典子がそう叫ぶと、砲手のあけびが、2人へと狙いを定める。

 

「撃………」

 

そして典子が砲撃命令を出そうとした瞬間!!

 

風切り音と共に、八九式のすぐ傍に砲弾が着弾した!!

 

「うわぁっ!?」

 

「「「キャアアアッ!!」」」

 

車体に走った激しい振動に、思わず声を挙げるBチーム。

 

「何やっ!?」

 

「むうっ!?」

 

大河と小太郎が驚きながら、砲弾が飛んできた背後を見やると、そこには………

 

「すみません! 外れてしまいました!!」

 

「大丈夫! まだチャンスはあるよ!!」

 

「よおしっ! このまま突っ込むぞっ!!」

 

別行動を取っていたみほ達AチームのⅣ号と、それに随伴していた地市を始めとした対戦車兵が、明夫達の砲兵部隊の背後から姿を現した!!

 

「! Aチームッ!!」

 

「チイッ! 回り込まれたか!! 全部隊反転しろっ!!」

 

典子が驚きの声を挙げ、明夫が砲兵部隊に反転指示を出すが………

 

「させるかってんだよぉっ!!」

 

地市がそう言い放ち、他の対戦車兵達と共に試製四式七糎噴進砲、並びに試作九糎空挺隊用噴進砲を発射!

 

ロケット弾が白煙の尾を引いて、明夫達の砲兵部隊へ次々に着弾するっ!!

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

砲兵達が宙に舞い、野戦砲が破壊される!!

 

「一気に突破しますっ!!」

 

「了解………」

 

その直後に、みほの号令でⅣ号が突撃!!

 

破壊された野戦砲の残骸を踏み越え、一気に砲兵陣地を突破するっ!!

 

「マズイッ! 急速反転っ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

迫り来るⅣ号を見て、慌てて反転しようとする八九式。

 

「させるかっ!!」

 

しかしそこで、弘樹が塹壕を飛び出し、戦闘服のベルトの腰に結んでいたM24型柄付手榴弾の収束手榴弾のピンを抜いて投擲。

 

八九式の右側面にぶつかった瞬間に爆発した収束手榴弾は、履帯を吹き飛ばすっ!!

 

「!? し、しまったっ!?」

 

「撃てぇっ!!」

 

忍が思わず声を挙げた瞬間!

 

八九式を射程内に捉えたⅣ号が発砲!!

 

砲弾は八九式の後部へと吸い込まれる様に命中!!

 

派手に爆発したかと思うと、八九式の砲塔上に、白旗が上がる。

 

『そこまで! 勝者、Aチーム及びα分隊!!』

 

「クッソーッ! やられたぁっ!!」

 

「ええいっ! あそこで突撃を続けとればっ!!」

 

亜美からの通信で、Aチームとα分隊の勝利が告げられると、典子と大河が悔しそうな声を挙げる。

 

「やったね! みぽりんっ!!」

 

「やりましたよ! 西住殿!!」

 

そこで、Ⅳ号のハッチが開き、Aチームの面々が顔を出すと、沙織と優花里がみほにそう言う。

 

「うん。皆ありがとう。舩坂くん達も」

 

「みほちゃ~ん! 褒めてくれるんだったら、序にご褒美も………!? ぐえぇっ!?」

 

「任務完了致しました、西住隊長」

 

調子に乗る了平の首根っこを掴みつつ、弘樹はみほに向かってヤマト式敬礼をする。

 

「やりましたね」

 

「いや~、一時は如何なるかと思いましたよ」

 

そこで、狙撃を行っていた楓と飛彗の2人も帰って来た。

 

「よう! 勝った勝った! 大勝利だな!!」

 

地市もやって来て、一同に向かってそう言う。

 

「宮藤くん。君が狙撃で突撃してきたβ分隊を押さえていてくれたお陰で今回の裏取りは上手く行った。感謝するぞ」

 

そこで弘樹は、今回の功労者である飛彗に向かってそう言う。

 

「いえ、そんな………僕がした事なんて、微々たるものですよ」

 

「謙遜する必要は無い。君の狙撃を見ていて、旧友の狙撃兵を思い出したよ」

 

「ええ、素晴らしい戦いぶりでしたよ、宮藤さん」

 

謙遜する飛彗に、弘樹はそう言葉を続け、華もそう褒めた。

 

「い、いや~、ハハハ………」

 

飛彗は、照れながら笑い、頭を掻く。

 

「………ケッ!!」

 

そして、その光景に露骨に面白くない顔をして舌打ちをする了平。

 

『コラァーッ! 何をやっているぅっ!! 演習が終わったのならとっとと戻ってこんかぁーっ!!』

 

とそこで、通信回線に嵐一郎の怒声が響き渡る。

 

「うおっ!? ヤベェッ! 最豪教官がお怒りだぞ!!」

 

「良し! 全員装備を回収して撤収っ!!」

 

地市がそう声を挙げると、分隊員達に装備を回収させ、撤収に入る。

 

「私達も行こう」

 

「うん。麻子さん、お願い」

 

「ホイ………」

 

その後にAチームのⅣ号も続き、その後ろでは何時の間にかやって来ていた女子学園の自動車部と男子校の整備部が、手早く損傷した八九式の回収作業に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園………

 

「じゃあ、今日の演習はコレまで!」

 

「各員! 反省点と改善点の報告書を纏め、次回の演習までに提出する様に!! では、解散っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

亜美と嵐一郎の両教官に向かって一礼しながら挨拶をする大洗機甲部隊の一同。

 

一同が礼をしている中、亜美と嵐一郎は、またもフルトン回収システムを使って帰還して行った。

 

「さ~て皆~! 練習試合の日はもうすぐだねぇ!!」

 

「絶対に勝つぞ! 全員その積もりで居ろっ!!」

 

と、教官達が帰ったのを確認すると、女子学園の生徒会メンバーが一同の前に出て、杏と桃がそう言い放って去って行く。

 

「いよいよかぁ………」

 

「何か今から緊張して来たぜ」

 

その言葉に、大洗機甲部隊の面々は少々ざわめいた後、各々に解散して行った。

 

「欲を言えば、もう少しでも戦力が欲しいところだな………」

 

そんな中、弘樹はそんな呟きを口にする。

 

「そう心配すんなって。コッチには軽犯罪ハンター様が居るじゃないか」

 

そこで、コレまでの演習で自信が付いて来て調子に乗ったのか、了平がそんな事を言う。

 

「了平………確かに、宮藤くんの技量は素晴らしいが、それだけで勝てるほど戦いは甘くないぞ」

 

そんな了平を戒める様に、弘樹がそう言う。

 

「…………」

 

と、当の飛彗は、何やら複雑そうな表情をしている。

 

「っと、すまない、宮藤くん。気を悪くさせてしまったか?」

 

その飛彗を見て、弘樹は自分の言葉が気に障ったのかと思い、謝罪するが………

 

「あ、いえ………そうじゃありません」

 

そうではないと、飛彗は否定する。

 

「じゃあ、一体如何したのですか?」

 

弘樹に代わる様に、今度は楓がそう尋ねる。

 

「…………」

 

飛彗はやや考えた様な素振りを見せたかと思うと………

 

「僕は………軽犯罪ハンターなんかじゃないんです」

 

弘樹達に向かってそう言い放った。

 

「「「えっ?」」」

 

「………如何言う事だ?」

 

飛彗の言葉に、地市、了平、楓が驚くが、弘樹は冷静に詳しく尋ねる。

 

「僕が痴漢やスリを撃退出来たのも、名誉市民賞を得たのも、少しだけの拳法を得たのも、みんな………『彼』のお蔭なんだ」

 

「彼?………彼とは?」

 

「僕に拳法を教えてくれた人ですよ。ハッキリ言って、僕より強いです」

 

「ならば是非、歩兵道に参加して欲しい人材だね」

 

とそこで、何時の間にか弘樹達の傍に現れていた迫信が、広げた扇子で口元を隠しながらそう言って来た。

 

「!? うおわぁ!?」

 

「会長閣下!?」

 

「と、唐突に姿を現さないで下さいよ………」

 

突如会話に参加して来た迫信に、地市、了平、楓は驚きを露わにする。

 

「………会長閣下ならご存知なのではないんですか? 僕が言う『彼』と言うのが誰かぐらい」

 

「勿論承知しているよ………だから、敢えて君が言うまで待っていたのだよ」

 

「流石、生徒会長閣下ですね」

 

「フフフ………」

 

皮肉る様な飛彗の台詞を、迫信は不敵に笑って流す。

 

「『彼』に会いたいんなら………今晩、この連絡船に乗って下さい」

 

飛彗はそう言って、折り畳んだメモの様な物を迫信に差し出す。

 

「うむ………」

 

迫信はそのメモを受け取ると、広げて中身を確認する。

 

「失礼します、会長閣下」

 

気になったのか、弘樹もそのメモを、迫信の後ろから覗き込む。

 

近くに居た他のメンバーも覗き込む。

 

「オイ、飛彗」

 

「ええんかいな?」

 

と、海音と豹詑が心配そうに、飛彗の元へやって来てそう尋ねる。

 

「別に隠す様に言われているワケじゃありませんし………それに、彼ならきっと力になってくれると思います」

 

飛彗は2人にそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れて、その日の夜………

 

飛彗、海音、豹詑、迫信、弘樹のメンバーが連絡船に乗り、飛彗達の友人が居ると言う場所へと向かった。

 

なお、交渉が目的の為、人数は最小限で良いと言う事になり、交渉役の迫信に加え、護衛を務める弘樹(熾龍は別件が有り、学園艦に残留)と言う少人数編成となっている。

 

飛彗達に指定された連絡船に乗り込み、海原を進んで行く弘樹と迫信。

 

やがて、船首に立つ2人の目に、黒い水平線に浮かぶ、大洗の学園艦より巨大な艦が飛び込んで来る。

 

「アレは………」

 

「学園艦………いや、スタジアム艦か」

 

迫信が、その巨大な艦を見てそう呟く。

 

海上に浮かぶ空母型の巨大な都市船と言えば、一般的に学園艦を示すが、実はコレ以外にも様々な都市船が存在している。

 

学園艦は学校を中心に都市や施設が建造されており、その所属は文部科学省となっているが、他にも工場を中心とした工業艦。

 

農業や畜産業を専門で行っている農業艦。

 

スキー場やゴルフ場、プールを備えたリゾート艦。

 

純粋な海上住居施設として建造されたマンション艦。

 

………と言った具合に、用途も目的も異なる様々な都市船が存在しているのだ。

 

無論所属も、経済省や農林水産省など区々である。

 

また、モデルとなった空母の様に、純粋に軍事施設として用いられている都市船も存在している。

 

今、弘樹と迫信の視界に見えているのは、様々な競技用やコンサート用の施設が建造されたスタジアム艦だった。

 

(………スタジアム艦に居ると言う事は、アスリートか何かの選手と言う事か?………! そう言えば………)

 

「さ、もうすぐ着きますよ」

 

と、そのスタジアム艦を眺めていた弘樹の脳裏に、ある事が過った瞬間に、連絡船はスタジアム艦の乗り入れ口へと到着しそうになり、船尾の方に居た飛彗達がやって来て、そう声を掛ける。

 

「………ああ、分かった。会長」

 

「うむ………では、会いに行くとしようか」

 

思考を中断した弘樹が、迫信とそう言葉を交わすと、連絡船はスタジアム艦の乗り入れ口へと到着。

 

飛彗達に案内され、とあるスタジアムへと向かうと入り口へと回り、飛彗達が受付を済ませると、中へと入って行く。

 

(このスタジアムは一体何の競技を行っているんだ?………)

 

そう思いながらも、迫信を護衛してスタジアムの中へと続く通路を、飛彗達に続く様に歩いて行く弘樹。

 

やがて、スタジアムの中の方から溢れんばかりの大歓声が聞こえて来る。

 

そして遂に、スタジアム内に辿り着くと………

 

目の前に広がったのは、オートバイのロードレース会場だった。

 

何台ものバイクが、爆音を撒き散らしながらコーナーを攻め、直線をブッ千切っている。

 

「此処は………オートバイのレース会場か」

 

「その様だね………」

 

スタジアム内を見回す弘樹と、相変わらず扇子で口元を隠している迫信。

 

「お~い、何やってんだぁ~!」

 

「こっちやで~!」

 

と、先に進んでいた海音と豹詑がそう呼ぶのを聞いて、弘樹と迫信は次のレースに参加するレーサー達が居るピットの前の観客席へと向かう。

 

ピット前では、バイクレーサー達が集まっており、其々がバイクを披露したり、インタビューに答えていたりと、様々な様子を見せていた。

 

「えっと………」

 

その中で、観客席で座った飛彗は誰かを探す………

 

「オイ! 来たぞっ!!」

 

すると、一人のカメラマンが挙げたその声で、カメラマン達が一斉にとある場所へと移動し始めた。

 

そこに居たのは、カッコいいヘルメットを被っている、一人のバイクレーサーだった。

 

ヘルメットを被っているので、顔は分からないが、身長や体格からして、弘樹達と同世代に見える。

 

「あ! 居た居た!」

 

「ほう………彼か」

 

「あの選手か………」

 

飛彗がそのレーサーを見てそう声を挙げ、迫信と弘樹もレーサーの姿を見やる。

 

「今日もブッ千切るぜ! カッコいい写真、期待しといてよぉっ!!」

 

カメラのフラッシュが一斉に点滅する中、レーサーはそう宣言する。

 

「さっ! 撮影は終わりよ! もうスタートするんだからっ!!」

 

すると、突然一人の女性が現れ、カメラマンを蜘蛛の子を散らす様に追い払った。

 

レーサーはそれを気にする事もなく、そのままスタートラインまで移動。

 

更に、別のレーサー達も次々にスタートラインへと着いて行く。

 

『いよいよ最終レースの始まりです! 勝利の栄冠は誰の手に!!』

 

そしてアナウンスと共に、シグナルランプが点灯し、カウントダウンが始まる。

 

レーサー達の乗るバイクのエンジン音が高くなり、歓声に湧いていたスタジアム内が嘘の様に静まり返る。

 

『5………4………3………2………1………スタートですっ!!』

 

シグナルランプが青に変わった瞬間、レーサー達は一斉にスタートした!!

 

再びスタジアム内が歓声に包まれる中、レーサー達は其々が凄いスピードで他選手のバイクを追い越しながら、ゴールまで走り抜け始める!

 

その中でも先程注目されたバイクレーサー………飛彗達の友人らしき人物が徐々にトップまで上り詰めて行く。

 

(早い………それに素晴らしい運転技術だ)

 

バイクの事は良く分からない弘樹だが、その弘樹の目にも、飛彗達の友人らしきレーサーの凄さは、直感にて感じられていた。

 

「…………」

 

一方の迫信は、相変わらず不敵に笑って飛彗達の友人らしきレーサーを見据えている。

 

そうこうしている間にレースはどんどん進み、ファイナルラップとなる30周目のラストパートにて………

 

「良し………行くかっ!!」

 

突如として飛彗達の友人らしきレーサーは、それまでまるで手を抜いていたかの様にスピードアップ!

 

アッと言う間に他のバイクレーサー達をゴボウ抜きに追い抜けて行くっ!!

 

「凄いっ!!」

 

「独走だぜっ!!」

 

「流石や!!」

 

飛彗、海音、豹詑からも歓声が挙がる。

 

そしてそのまま、宣言通りブッ千切りでチェッカーフラッグを切り、見事に優勝したのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式が始まり、優勝したバイクレーサーは台に上がり、優勝カップを貰うと高々と掲げた。

 

「キャーッ! 『神速の狼王(ルボール)』!!」

 

「『無敵の怪物狼(ベオウルフ)』!!」

 

その直後に、興奮し過ぎたのか、押し寄せる波の如く、次々とファンがスタンドから直接レーサーの元へと押し寄せ始める!!

 

「貴方達! マナーは守りなさいっ!!」

 

しかしそこで、カメラマンを散らしたあの女性がまたも現れ、たった一人でファンを次々に追い払い始める。

 

「白狼! 今の内に!!」

 

「サンキューッ!!」

 

女性に言われて、白狼と呼ばれたレーサーは、マシンと共に退散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、バイクレーサーがバイクをトレーラー型のトランスポーターに収めていたところ………

 

「優勝おめでとう! 白狼!」

 

外からそう声が掛けられて、荷台から降りると、そこには飛彗、海音、豹詑の三人と、その後ろに控えている弘樹と迫信の姿が在った。

 

「!! ああ! 飛彗! 海音に豹詑も! やっぱり来てくれたんだな!!」

 

「当たり前じゃないか。折角貰ったチケットを無駄にしちゃいけないからね」

 

そう言うと飛彗は、来る途中で買って置いたドリンクを投げ渡す。

 

「サンキュッ! んぐっんぐっ………」

 

それをキャッチすると、蓋を開けて一気飲みするレーサー。

 

「プハーッ! ウメェーッ!………ところで、そっちに居るのは誰だ?」

 

そこでレーサーは初めて、後ろに控えていた弘樹と迫信について言及する。

 

「白狼………自分の学校の生徒会長ぐらい覚えておこうよ」

 

その言葉に、飛彗が呆れる様にそう言うと、迫信と弘樹はレーサーの元へと歩み寄る。

 

「初めまして、と言うべきかな? 『神狩 白狼』くん。私は大洗国際男子校の生徒会会長を務めている神大 迫信だ」

 

不敵な笑みを浮かべた表情で、迫信がレーサー………『神狩 白狼』に向かってそう言う。

 

「へえ~、よく俺の事知ってるな。学校に何か年に数回しか行ってないってのに」

 

「生徒会長として当然の事だよ」

 

少々嘗めた態度を取る白狼だが、迫信は特に気にする様な様子も見せず、淡々とそう言う。

 

「会長閣下。彼は?」

 

とそこで、白狼の事を知らない弘樹が、迫信にそう尋ねた。

 

「『神狩 白狼』………君と同じ2年の生徒だ。幼少の頃から自転車を乗り熟し、小・中学校時代の頃から、ジュニアバイクレーサーとして活躍。デビュー当時より信じられない記録を更新し続け、本格的なバイクレーサーへと昇格。更にはロードレースだけに留まらず、モトクロス、トライアル、ダートトラック、エンデューロ、果てにはバイクスタントと言ったオートバイ競技を、史上最年少で根こそぎ全て制覇し尽した男さ」

 

「………ホント良く御存じの様で」

 

ペラペラと白狼の経歴を語る迫信に、当の白狼は若干引く。

 

「…………」

 

その経歴を聞いた弘樹は、改めて白狼を見やる。

 

「………お前さんは?」

 

そこで白狼は、今度は弘樹の名を訪ねる。

 

「………県立大洗国際男子高校歩兵部隊所属、大洗女子学園戦車隊Aチーム随伴分隊分隊長………舩坂 弘樹」

 

それに対し、まるで軍人の様に所属と共に名を名乗る弘樹。

 

「歩兵部隊? って事は歩兵道者か? 歩兵道者と生徒会長様が俺に何の用だよ?」

 

生徒会長と歩兵道者の二人が、一体自分に何の用なのか、見当がつかない白狼は、首を傾げて更にそう尋ねる。

 

「白狼、実は………僕達全員、今年の必修選択科目で歩兵道を選択したんだ」

 

すると飛彗が、白狼に向かってそう言う。

 

「歩兵道を? アレ、一番人気がねえヤツだろ? そりゃまた何で?」

 

「それがよぉ、今年から大洗女子学園が戦車道を復活させたんだよ」

 

「それで応募者が殺到してなあ。機甲部隊が再編されたんや」

 

怪訝な顔を続ける白狼に、今度は海音と豹詑がそう言う。

 

「はあ~、そりゃまた………」

 

「それで白狼………白狼も歩兵道に参加してくれないかな」

 

そこで飛彗が、遂に本題を切り出す。

 

「白狼のバイクテクニックなら、歩兵道でも活躍出来ると思うんだ」

 

「今度の日曜日には練習試合があるんだけどよぉ………その相手は大会の準優勝校なんだよ」

 

「大洗機甲部隊は再編されたばかりで戦車の数と性能、歩兵の武装と数………何より隊員全員の練度が足りてないんや」

 

「で、俺にも参加して欲しいと?」

 

「如何かな?」

 

飛彗が改めてそう尋ねると………

 

「お断りだ」

 

白狼はアッサリとそう返した。

 

「! そんな!!」

 

「………理由は何だ?」

 

飛彗は慌てるが、弘樹は冷静にそう問い質す。

 

「俺にとってバイクは飽く迄道を走る交通手段………そしてレースを盛り上げてくれる大事なパートナーだ」

 

愛車のバイクを撫でる様に触りながら、白狼はそう言う。

 

「それ以外の手段に使ってしまうなんざ………とてもじゃないが許せねえんだよ」

 

「白狼! そこを何とか!!」

 

「頼むぜ、白狼!!」

 

「この通りや!!」

 

そう説明する白狼だったが、飛彗、海音、豹詑の三人は拝み込む様にして食い下がる。

 

「そう言われてもなぁ………」

 

それでも気が乗らない様子の白狼。

 

すると………

 

「神狩くん。君がもし歩兵道に参加し、優秀な成績を納めてくれたのなら、生徒会長として君の願いを何でも叶えてあげよう」

 

迫信がいきなり、切り札とも言える歩兵道参加者への破格の条件を切り出した。

 

「………何?」

 

それを聞いた途端に、白狼の顔色が変わる。

 

「本当に『何でも』良いんだな」

 

「勿論だとも。生徒会長として約束しよう………但し、歩兵道に参加し、優秀な成績を納めてくれたと言う事が前提だがね」

 

やけに嫌な笑みを浮かべる白狼に、迫信は不敵に笑ったまま、扇子で口元を隠す。

 

「今言った言葉を忘れるなよ………交渉成立だ」

 

「本当かい、白狼!」

 

それを聞いた飛彗が、嬉しそうな声を挙げる。 

 

「但し! 条件が有る!」

 

しかしそこで、白狼はそういう台詞を言い放つ。

 

「何かね?」

 

「『バイクは使わない』………それだけだ」

 

「良いだろう………我々が欲しているのはレーサーでは無い。歩兵だ」

 

迫信をアッサリと白狼の条件を飲んだ。

 

まるで全てが予定通りだと言わんばかりであるとばかりに。

 

「………食えねえ野郎だぜ」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

「あ! 居た!! 神狩くんよぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「キャーッ!!」」」」」」」」」

 

するとそこで、白狼を探していたと思われるファンが現れ、アッと言う間に地響きを立てて走り寄って来る

 

「おっと! マズイな………細けえ話はまた後だ!!」

 

「会長閣下! 此方へ!!」

 

「うむ………」

 

「僕達も逃げましょうっ!」

 

「「アラホラサッサーッ!!」」

 

ファンを撒く様に、取り敢えず全員がその場から脱出する。

 

そしてその後………弘樹達の一同は連絡船に乗って大洗へと帰還。

 

白狼も、後に別の連絡船で帰って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

大洗女子学園の戦車格納庫前にて………

 

久方ぶりに登校した白狼は、選択科目の授業にて歩兵道の授業へと参加する。

 

「諸君。新メンバーを紹介しよう………神狩 白狼くんだ」

 

「宜しくな」

 

集まって歩兵部隊の面々の前で、白狼を紹介する迫信と、軽い感じで挨拶をする白狼。

 

(アレが噂の新メンバーか………)

 

(結構、ガタイはええやないけ)

 

(でも、僕達と一緒で、歩兵道は初心者なんですよね………)

 

白狼の姿を見た大洗歩兵部隊の面々は、内心で様々な反応を示す。

 

「オイ、新入り!」

 

とそこで、教官である嵐一郎が、白狼へと声を掛ける。

 

「本来ならば貴様には一から基礎を叩き込みたいところだが、生憎と時間が無い。他の者と同様の訓練を受けながら死ぬ気で基礎を覚えてもらう! 覚悟しておけ!!」

 

「へ~い」

 

まるで脅すかの様に言う嵐一郎だったが、白狼は軽く流す。

 

「気の抜けた返事をしおって………全員! 訓練開始だぁっ!!」

 

そんな白狼の様子に眉を顰めながらも、嵐一郎は訓練を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練中………

 

初めて歩兵道へと参加した白狼の腕は………

 

予想だにしないほど酷かった。

 

銃器の扱いがてんでなってない上に、撃ち方や装填の仕方すら碌に分からず………

 

挙句には、手榴弾を本体ではなく、ピンの方を投げると言うぽかをやらかし、嵐一郎の頭を抱えさせた。

 

期待していた歩兵部隊員の反応も、飛彗達を除いて次第に冷やかなものとなって行く。

 

「クッソーッ! 上手く行かねえなぁ………」

 

本人は悔しそうにはしているものの、深刻に気にしている様子は無かった。

 

だが………

 

その日の演習の締めに、ランニングをするという指示が出た時………

 

嵐一郎教官が行ったとある優遇措置にて………

 

白狼の評価に一石を投じる出来事が発生する。

 

 

 

 

 

「よーし! 本日の演習の締めとしてランニングを行う! しかし!! 諸君等も連日の演習にて疲労しているだろう!! そこで、特別措置を行うものとする!!」

 

「特別措置ぃ?………」

 

集まった大洗歩兵部隊の面々に、嵐一郎がそう言い放つと、地市が首を傾げながら反復し、他の面子もざわめき立つ。

 

「アレを見ろ!」

 

嵐一郎がそう言って、自分の背後を見せる様に移動して、後方を指差したかと思うと………

 

そこには何時の間にか、演習場の地面に止め具で固定された高いポールが在った。

 

その天辺には、旗が挿されている。

 

「あのポールの上に有る旗をとった者だけ、私のジープに乗せてやる! 楽がしたければ死ぬ気で取りに行けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

嵐一郎がそう言った瞬間、ポールへと殺到する大洗歩兵部隊の隊員達。

 

「俺が貰った!!」

 

「いや俺だ!!」

 

「俺のモンだぁっ!!」

 

全員が我先にと旗を奪取しようとする。

 

しかし、それまでの訓練の疲労のせいで、誰もが真面にポールを登れない………

 

「やれやれ………」

 

「お前は行かないのか?」

 

そんな光景を弘樹が呆れた目で見ていると、白狼がそう声を掛けてくる。

 

「走らなければ訓練にならんだろうが」

 

「真面目だね~、お前」

 

さも当然の様にそう返す弘樹に、今度は白狼が呆れた様な表情となる。

 

「そう言うお前は行かんのか?」

 

「ん~、もうちょっと待ってからかな?」

 

弘樹の質問に、白狼は不敵に笑ってそう言う。

 

 

 

 

 

数分後………

 

「「「「「ゼエ………ゼエ………」」」」」

 

「「「「「ハア………ハア………」」」」」

 

大洗歩兵部隊の隊員達は、全員が疲労困憊の状態でポールの周辺に蹲っていた。

 

「ご苦労さん」

 

するとそこで、今まで離れて見ていた白狼が、遂にポールへと近づく。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

最早声を出す元気も無く、ただ無言で白狼に注目する大洗歩兵部隊の隊員達。

 

そして白狼は、遂にポールの近くへと立つ。

 

登るのかと全員が注目していると………

 

何を思ったか、白狼はポールの根元にしゃがみ込んだ。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

意図が分からず、大洗歩兵部隊の隊員達が困惑していると………

 

「へへへへ………」

 

白狼は笑いながら、戦闘服から何時も持ち歩いているバイク整備用の工具を取り出す。

 

そして、ポールの止め具を外し始めた。

 

止め具を外されたポールは、呆気無く地面に倒れる。

 

「ホイッ! 取ったぜ!」

 

倒れたポールの天辺に近づくと、旗を取って嵐一郎に見せながらそう言う白狼。

 

「………うむ、良いだろう………乗れ」

 

「「「「「「「「「「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

そんなのアリかよ、と言う様な大洗歩兵部隊の隊員達の声が挙がる中、白狼は嬉々としてジープへと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、程なくしてその日の演習は終了。

 

疲労困憊している大洗歩兵部隊の隊員達を尻目に、白狼は一人涼しい顔をしていた。

 

「よ~し! 訓練終わり~っ!!」

 

「今日はココまでだ!!」

 

亜美と嵐一郎が、集合した戦車道受講者と歩兵道受講者達に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」」」」」」

 

「明後日はいよいよ練習試合ね! 私も見に行くからね!!」

 

「まあ、『今』のお前達の実力で聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校に勝てるとは思えんがな………精々胸を借りる積もりで負けて来い!」

 

そう言うと、亜美と嵐一郎はまたもフルトン回収システムを使って、帰って行ったのだった。

 

「いよいよ明後日か………」

 

「そうだ! 明後日にはいよいよ練習試合となる! 明日はそれに備えて休養日とする! 全員身体をしっかりと休め、試合に備える様に!!」

 

地市が緊迫して来た様子でそう呟くと、桃が一同に向かってそう言い放つ。

 

「今日までの演習には十分に打ち込んできましたが………やはり不安ですね」

 

「相手は準優勝経験校なんだろう………ゼッテー負けるって」

 

楓が不安な表情、了平が絶望した表情でそう呟く。

 

「そこぉっ! 弱気な発言をするな! この敗北主義者めっ!!」

 

「ありがとうございますっ!!」

 

その発言を聞いていた桃がそう罵声を飛ばしたが、何故か了平はお礼を言う。

 

「けど、実際にコレまでの演習でも色々と出来ていない事が有るのは事実です」

 

「特に連携がなぁ………一番大切な要素だってのに………」

 

清十郎と俊も、そう不安を呟く。

 

「う~ん………通信兵みたいな人が居てくれたらなぁ」

 

するとそこで、蛍がふとそう呟いた。

 

「? 通信兵?」

 

「ホラ、SFのミリタリー物とかでさ、行動している兵士に逐次状況や命令を伝えてくれる通信の人が居たりするでしょ?」

 

それを聞いた柚子が呟くと、蛍はそう説明する。

 

「つまり………オペレーターか」

 

「そう! そうです、それっ!!」

 

迫信がそう言うと、蛍が『それだ!』と言う顔になる。

 

「確かに、戦場全体を常に把握し、状況を伝えるオペレーターが居れば有利になれる」

 

「けど、そんな人材や装備がそう都合良く………」

 

十河も顎に手を当ててそう呟くが、逞巳は人材と装備が無いと言う。

 

「それなら心当たりが無くもないぜ」

 

するとそこで、白狼があっけらかんとそう言い放って来た。

 

「! 何っ!?」

 

「本当かい、神狩くん!」

 

桃と逞巳が驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

それに対し、白狼は返事も碌にせず、自分のバックから一台のノートパソコンを取り出す。

 

「パソコン?」

 

沙織がそう呟くと、白狼はノートパソコンを起動させる。

 

すると、ディスプレイに『Einstein』と言う文字が浮かび上がる。

 

「よう、アインシュタイン。ご機嫌如何かな?」

 

『白狼か。久しぶりだね。元気そうで何よりだ』

 

白狼がそう言うと、そのノートパソコンから合成音声で返事が返って来る。

 

「! アインシュタインですって!?」

 

とそこで、アインシュタインと言う名を聞いた清十郎が驚きの声を挙げる。

 

「? 誰?」

 

「歴史上の人?」

 

「アインシュタインと言えば、有名な物理学者の名前だけど………」

 

しかし、事情を知らない大洗女子学園のメンバーと、男子校のメンバーの大半はワケが分からずざわめく。

 

「噂には聞いていたんだがな………4歳にして回路基盤を作り、6歳でエンジンを制作。そして15歳でMITを首席で卒業している超天才がウチの学校に居るってよぉ」

 

「全国でもトップレベルの学力を誇り、進学実績を挙げる事を条件に授業の欠席を黙認されており、全ての授業は独学で図書館で勉強していると言う話だったが………まさか神狩 白狼の友人だったとはな」

 

そこで俊と十河が、一同に説明するかの様な台詞を言う。

 

「MIT卒業って………」

 

「そんな凄い人が僕達の学校に居たんですね」

 

唖然としている了平と、感心する楓。

 

「アインシュタイン。実はお前に頼みがあってな」

 

『ほう? 何だい?』

 

そんな中、白狼はアインシュタインに、先程の件を説明する。

 

「………と言うワケでよぉ」

 

『つまり、そのオペレーターを僕に務めてもらいたいって事かい?』

 

「引き受けてくれねえか?」

 

白狼の問いに、アインシュタインは暫し沈黙する。

 

『………本来ならば野蛮な戦争ごっこに何か関わりたくないところだが、他ならぬ君からの頼みだ。引き受けよう。但し、何時も通り、僕の姿は見せないよ』

 

「それで十分だぜ」

 

「良かったぁ。コレで少しは試合が有利になりますね」

 

成り行きを見守っていた一同の中で、柚子が安堵した様にそう言う。

 

「待って下さい!」

 

するとそこで、異議を唱えるかの様に声を挙げた人物が居た。

 

西住 みほだ。

 

『………何かな? 西住 みほ戦車隊長殿』

 

皮肉る様に、アインシュタインはみほをフルネーム+役職を付けて呼ぶ。

 

「戦車道や歩兵道にとって大事な事は、チームのメンバーを信用して、お互いに信頼し合う事です」

 

『だから?………僕の事は信じられないと?』

 

「ううん、違うの。私は信じてます! アインシュタインさんが私達の期待に答えてくれる人だって………だから! アインシュタインさんも私達を信じて姿を見せて欲しいんです!!」

 

『…………』

 

みほの言葉を黙って聞き入るアインシュタイン。

 

『………考えておこう』

 

しかし、アインシュタインがそう言ったかと思うと、ノートPCの電源が切られてしまう。

 

「あ…………」

 

「ふむ………」

 

みほは落ち込んだ様子となり、弘樹も戦闘帽を目深に被り直す。

 

「ま、兎に角! 明後日は皆頑張ってね~っ!!」

 

杏が空気の悪くなった場をそう纏め、一同は済し崩し的に解散して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・艦舷の公園にて………

 

「はあ~、やれやれだぜ」

 

演習を終え、解散した一同の中で、白狼は一人真っ直ぐ家には帰らず、学園艦・艦舷の公園に来たかと思うと、ベンチへと寝転がる。

 

「はあ~………海風が気持ち良いぜ」

 

寝転がった状態で、肌に吹き付ける様な海風を感じ、そう呟く白狼。

 

「随分と気持ち良さ気だな、神狩」

 

と、そんな白狼に声を掛ける人物が居た。

 

「! その声は!?」

 

その人物の声を聞いた白狼は、すぐさま起き上がり、声を掛けてきた人物を確認する。

 

そこに居たのは、初老ぐらいの男性だったが、妙に迫力と言うか、オーラを持っている。

 

まるで三番目の改造人間か、五色の戦士の青い戦士か、改造人間戦隊の行動隊長か、日本一のさすらいの私立探偵を思わせる。

 

「おやっさん!!」

 

白狼はおやっさんと呼んだその人物の元へと走り寄ったかと思うと、拳を握りパンチを繰り出した。

 

おやっさんと呼ばれた初老の男性は片手を出し、難なくその拳を受け止める。

 

「よー、白狼! あいも変わらず元気にしてたか?」

 

「当たり前だろ! 毎日毎日、バイクだけじゃなく練習してたからな!」

 

「そうか。だったらかなりの鍛錬をしたんだろうな」

 

「もう何年も経つんだ? 独学でやったりもするけど、今一つ超えきれないところがあってよぉ………なあ、おやっさん! また色々と教えてくれよ!」

 

如何やらおやっさんは白狼の師匠でもあるらしく、大分砕けた様子で接している白狼。

 

「そうか。だったら丁度いい………俺に教えて欲しい事があるなら黒森峰に来ると良い。俺はそこでバイクの整備長も兼ねている」

 

何と!!

 

おやっさんは黒森峰の所属だと言う衝撃の事実がアッサリと飛び出す。

 

「本当かよ! あそこの学園めっちゃくちゃ有名校じゃねえか!!」

 

「ああ、俺は有名人だからな。それにお前を凌ぐかもしれない逸材も居ると聞いてな」

 

その後、二人は親しげに会話を続け、日が落ちた頃に漸く両者とも帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回グロリアーナ戦を書くと言っていましたが、予定が少々狂い、グロリアーナ戦の始まりは次回以降となってしまいました。
誠に申し訳ありません。

で、今回の話ですが………
新キャラ『神狩 白狼』と『アインシュタイン』の登場です。

白狼は以前の投稿で批判を受けた篝 火蝋のリメイクキャラで、リメイク前より大分温和になっています。
物語の進行上、彼が中心となって進む場面もあります。

アインシュタインは前でもチラリと出ていたキャラで、白狼の出番がズレたので、一緒に出番がズレる形になりました。
戦闘には出ず、サポートに徹するキャラです。
やはりこういうキャラもいた方が良いかと思いまして。

で、次回から本当にグロリアーナ戦が始まります。
精一杯頑張ります。

これからも、よろしくお願いします。

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