ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第86話『5回戦、決着です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第86話『5回戦、決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

凍った池に掛かる大きな石橋の上にて………

 

「ハア………ハア………」

 

「如何しました、舩坂 弘樹? 英霊の力はその程度ですか?」

 

勝ち誇る様にそう言うラスプーチンの前には、愛刀・英霊を杖代わりに片膝を着いて息を切らしている弘樹の姿が在った。

 

その戦闘服には、彼方此方に斬られそうになった後や、銃弾が掠めた後がある。

 

(手強い………これ程とは………)

 

内心で冷や汗を流しながら、弘樹は立ち上がって英霊を構え直す。

 

既に戦いが始まって30分以上が経つが、弘樹は攻めあぐねていた。

 

接近戦に持ち込もうにも、ラスプーチンに人間とは思えぬ動きに攪乱され、反撃を受け………

 

かと言って距離を取れば、シモノフPTRS1941で撃たれる。

 

(せめて手榴弾が有れば………敵陣で暴れた時にばら撒き過ぎたか………)

 

遠近共に得意とするラスプーチンを相手に、四式自動小銃を無くし、手榴弾も尽きている弘樹は劣勢である。

 

「遊ぶのも飽きて来ました………そろそろ終わりにして差し上げましょう」

 

とそこで、ラスプーチンはそう言い放ち、シモノフPTRS1941を構える。

 

「!………」

 

それを見て弘樹は身構える。

 

(如何する………弾丸をかわして懐に飛び込んだとしても、あの不思議な動きで避けられればカウンターを諸に喰らう………だが、コレ以上距離を取ればそのまま狙撃戦に持ち込まれて勝ち目は無くなる………)

 

手詰まりと言っても良い状況の中で、弘樹は只管に手立てを考える。

 

(………一か八かだ)

 

と、やがて何かを思い至ったかと思うと、英霊を峰側を向けて八相に構える。

 

「何をする気か知りませんが、無駄ですよ、フフフ………」

 

「…………」

 

小馬鹿にする様なラスプーチンの嘲笑をサラリと流し、弘樹は八相の構えを続ける。

 

「さらばです、舩坂 弘樹………コレで本当の英霊となりなさい」

 

そして遂に!

 

ラスプーチンはシモノフPTRS1941に引き金を引いた!

 

14.5x114mm弾が、弘樹目掛けて飛ぶ!

 

「………! そこだぁっ!!」

 

するとその瞬間、何と!!

 

弘樹は迫って来た14.5x114mm弾に向かって、英霊を野球のバッティングの様にフルスイングする!!

 

英霊の峰が、14.5x114mm弾に当たったかと思うと、何と!!

 

14.5x114mm弾を、ラスプーチン目掛けて打ち返した!!

 

「!? 何っ!?」

 

流石のラスプーチンもコレには驚き、慌てて回避行動を取る!

 

「そこだぁっ!!」

 

と、その回避先を読んでいた弘樹が、ラスプーチンに体当たりを見舞う!

 

「!? ぐうっ!?」

 

2人はそのまま折り重なる様に倒れ、石橋の上を転がる。

 

その際にラスプーチンはシモノフPTRS1941を………

 

弘樹は英霊を手放してしまう。

 

「貴様っ!!」

 

「!!」

 

やがてラスプーチンが弘樹の上に乗っかる様な形で静止したかと思うと、シャスクを逆手に構えて弘樹に振り下ろそうとしたが、弘樹はシャスクを持つラスプーチンの腕を掴んで止める。

 

「ぬうっ! 生意気な!!」

 

「!!………」

 

余裕がなくなって来たのか、台詞と語気が荒くなるラスプーチンに対し、弘樹は必死にシャスクの刃を反らそうとする。

 

「………!!」

 

と、一瞬の隙を見つけ、弘樹はシャスクの刃を横へ反らして、顔の横の地面に突き刺したかと思うと、ラスプーチンを巴投げの様に投げ飛ばす!

 

「!? ぬううっ!!」

 

しかし、ラスプーチンはシャスクを握ったまま、空中で姿勢を整えて着地する。

 

「!!」

 

弘樹はコルトM1911A1を抜き、ラスプーチンに向ける。

 

「させんっ!!」

 

だが、弘樹が引き金を引くよりも早く、ラスプーチンがシャスクで繰り出した突きが、コルトM1911A1を弾き飛ばした!

 

「!? しまった!?………」

 

「むんっ!!」

 

武器が全て無くなった弘樹の顎に、ラスプーチンは回し蹴りを見舞う!

 

「がっ!?………」

 

余りの衝撃で、一瞬空中に舞い上がって錐揉みした後、うつ伏せに倒れる弘樹。

 

「ぐ、う………」

 

軽く脳震盪を起こしたのか、視界がぼやける。

 

だが、無意識の内に伸ばしていた左手が、『何か』を掴む。

 

「?………!」

 

その掴んだ『何か』を目の前まで持って来た見た瞬間、弘樹の意識は急速に覚醒し、すぐに右手で、手頃な大きさの石を掴んだ。

 

「今度こそ終わりです、舩坂 弘樹………」

 

と、その弘樹の様子に気づいていないラスプーチンは、うつ伏せに倒れたままの弘樹に近づいたかと思うと、シャスクを両手で逆手に持って振り被る。

 

「今度こそさらばです、英霊よ。今年の優勝も我々のものです………」

 

そして、ラスプーチンがシャスクを振り下ろそうとした瞬間!!

 

「………!!」

 

弘樹は倒れたまま、ラスプーチンの方を振り返った!

 

その左手には、ラスプーチンが落としたシモノフPTRS1941の14.5x114mm弾が逆手に握られていた!

 

「!? 何っ!?」

 

「貴様がおさらばだ」

 

驚いて固まってしまったラスプーチンにそう言い放つと、弘樹は右手に握っていた石を振り被り、14.5x114mm弾の薬莢の底を思いっきり叩いた!!

 

衝撃により薬莢内の火薬が起爆!

 

14.5x114mm弾がラスプーチン目掛けて発射され、その額に命中した!!

 

「馬鹿………な………そんな………方法………で………」

 

ラスプーチンはよろけながら後ずさり、そのまま石橋の上から凍った池へと落下。

 

氷を叩き割って、水中へと没した。

 

「ッ! 流石に効いたな………」

 

左手に走る痛みに顔を顰めながら起き上がる弘樹。

 

何せ弾薬を素手で掴んで撃つなどと馬鹿とも言える所業を行ったのである。

 

左手の手袋は完全に焼け焦げて真っ黒になっている。

 

衝撃も相当な物だった筈である。

 

とそこで、廃村の中心の方から、爆発音が聞こえて来た。

 

「!………」

 

その爆発音が聞こえて来た方向に視線をやる弘樹。

 

「………やったか」

 

そして、立ち上っている黒煙を確認すると、そう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窪地の中に在る廃村の一角………

 

そこには、車体下部に直撃弾を受けて静止しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車であるT-34-76と………

 

その正面で、砲口から硝煙を上げている、車体の殆どを雪に埋めて隠れていたⅢ突の姿が在った。

 

如何やら挟み撃ちが成功し、見事Ⅲ突がアンブッシュを決めた様である。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車であるT-34-76の砲塔上部に、撃破された事を示す白旗が上がる。

 

『試合終了! 大洗機甲部隊の勝利!』

 

「「「やったーっ!!」」」

 

「よっしゃあー!」

 

「よかった~」

 

「「「「「「「「やったーっ!!」」」」」」」」

 

「やりましたね!」

 

「凄ーいっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

主審のレミのアナウンスが流れた瞬間、大洗機甲部隊の面々から歓声が挙がる。

 

「負け………たの?………」

 

一方、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長であるカチューシャは、装甲が所々黒く焦げているT-34-85のハッチから姿を晒したまま呆然としていた。

 

周りには、スツーカ隊によって撃破されたプラウダ戦車部隊の戦車達が、白旗を上げて擱座している。

 

大洗機甲部隊のフラッグ車を追い詰めたかと思っていたら、急降下爆撃機の編隊に襲われ、必死に逃げ回っていると大洗機甲部隊が勝利したと言うアナウンスが流れた………

 

カチューシャからして見ればそんな状況なのである。

 

「………クッ!………う、うう………」

 

悔し涙が目から溢れ出る。

 

「どうぞ………」

 

すると、何時の間にかやって来ていたノンナが、カチューシャにハンカチを差し出す。

 

「! な、泣いてないわよっ!!」

 

途端にカチューシャはそう強がり、ハンカチで鼻をかむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、集合場所へと集結。

 

試合後の挨拶を終えると、大洗機甲部隊は大騒ぎとなる。

 

「凄いです、西住殿!」

 

「やったー!」

 

「うわっ!?」

 

みほの手を取って喜ぶ優花里と、勢い余って抱き付く沙織。

 

「良くやったぞ」

 

「ありがとう~」

 

「みほちゃんのお蔭だよ」

 

更にそこへ、杏達生徒会メンバーもやって来て、みほに感謝の言葉を述べる。

 

「…………」

 

桃も、無言でみほに向かって頭を下げていた。

 

「…………」

 

その生徒会メンバーの姿を見たみほも頷き返す。

 

「折角包囲の一部を薄くして、そこに惹き付けてブッ叩く積りだったのに………まさか包囲網の正面を突破出来るとは思わなかったわ」

 

「あ………」

 

とそこで、ノンナに肩車されたカチューシャと、彼女達に引き連れられる様にデミトリ、ピョートル、マーティンが、大洗機甲部隊の元へとやって来る。

 

「オマケに狙撃兵や急降下爆撃機の援護まであるとは………」

 

「何よりトンでもなかったのは………」

 

「敵陣に1人乗り込んで暴れまわった舩坂 弘樹だぜ………」

 

デミトリ、ピョートル、マーティンがそう言っていると………

 

「呼んだか?………」

 

自分の名が呼ばれた事に反応したのか、弘樹がやって来る。

 

「!? ヒイイッ!?」

 

途端にカチューシャは怯え出し、ノンナの頭にしがみ付く。

 

「わ、私から半径100メートル以内の距離に入るんじゃないわよっ!!」

 

「如何しろと?………」

 

弘樹の事がすっかりトラウマになってしまったカチューシャの理不尽な要求に、弘樹は困惑した表情でそう言う。

 

「ア、アハハ………」

 

その光景に苦笑いするみほ。

 

「カチューシャ、大丈夫ですよ………貴方が舩坂 弘樹ですか」

 

そこでノンナがカチューシャを宥めながら、弘樹に向かってそう言う。

 

「ああ………」

 

「先程の戦いぶり、お見事でした。やはり貴方は………『歴史の裂け目に打ち込まれた楔』なのかも知れませんね」

 

「? 何だ、ソレは?」

 

「いえ、コチラの話です………」

 

聞き慣れない言葉に首を傾げる弘樹だったが、ノンナは誤魔化す様に笑うだけだった。

 

「と、兎に角! アンタ達の勝ちよ………それは認めてやるわ」

 

「いえ、私達が勝てたのは運が良かったからですよ………飛び出した時に一斉に攻撃されていたら負けてました」

 

「それは如何かしらね」

 

「えっ?」

 

「もしかしたら………ああもう! 貴方達、中々のモノよ」

 

「…………」

 

カチューシャの思わぬ言葉に、みほは少しポカンとする。

 

「言っとくけど、悔しくないから!………ノンナ」

 

「ハイ………」

 

と、そこでカチューシャは、ノンナの肩車から降りて、みほの前に立つ。

 

そして、その右手をみほに向かって差し出した。

 

「あ………」

 

一瞬戸惑ったみほだったが、やがて笑顔でその手を取り、握手を交わす。

 

「………優勝しなさいよ。カチューシャをガッカリさせたら許さないんだからね」

 

「! ハイッ!!」

 

カチューシャのその言葉に、みほはしっかりとした返事を返した。

 

「何や、試合が始まる前は生意気なガキやと思っとったけど、中々潔いとこが有るやないけ」

 

「彼女も求道者だったんですね………」

 

そんなカチューシャの姿を見て、大河と楓がそんな事を言い合う。

 

と、そこへ………

 

「いや~、何とか勝てた様だな。ワシも一安心だよ」

 

そう言う台詞と共に、白いギリースーツを纏い、狙撃銃………モシン・ナガンM28を携えた、小柄な男が姿を見せた。

 

「? 誰?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然現れた謎の男に、大洗機甲部隊の面々も、カチューシャ達も首を傾げる。

 

「シメオン!」

 

只1人、弘樹がその『シメオン』と呼んだ男に近づく。

 

「大活躍だったな、弘樹」

 

「何、お前の援護のお蔭だ」

 

親しげにシメオンと呼んだ男と会話を交わす弘樹。

 

「あ、あの、弘樹くん? 知り合いなの?」

 

とそこで、みほが弘樹にそう声を掛ける。

 

「ああ、すまない。紹介が遅れたな。コイツは小官の中学生時代の歩兵道での戦友で………」

 

「『シメオン・ヘイヘ』だ。よろしく、大洗の皆さん」

 

弘樹がそう言うと、男………『シメオン・ヘイヘ』は、大洗機甲部隊の面々に笑顔で挨拶をする。

 

「!? ヘイヘッ!?」

 

「ま、まさか!?」

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

「何と………」

 

と、その名を聞いた優花里とピョートル、マーティン、デミトリが、驚愕を露わにする。

 

「ままま、まさか、貴方は!?………」

 

「そっ。お察しの通り………ワシの祖先は『シモ・ヘイヘ』だ」

 

「! 『フィンランドの白い死神』! 『シモ・ヘイヘ』!!」

 

シメオンがそう返すと、優花里は途端に目を輝かせる。

 

 

 

 

 

『シモ・ヘイヘ』

 

フィンランド軍の軍人であり、フィンランドとソビエト連邦の間で起こった冬戦争で活躍した。

 

恐らく、『世界最強のスナイパー』と言っても過言では無い人物である。

 

冬戦争中のコッラーの戦いにて、ヘイヘを含むフィンランド軍僅か32人が、4000人のソビエト軍を迎撃。

 

この丘陵地は『殺戮の丘』と呼ばれる様になり、後に『コッラーの奇跡』と呼ばれる戦果を挙げる。

 

戦争開始から負傷するまでの約100日間で、505人のソ連兵を狙撃した。

 

非公式な物を含めると更に多いのではとも言われている。

 

彼の凄まじいところは、狙撃の際にスコープを使わなかったのだが、それでも300メートル以内ならば確実に相手の頭を撃ち抜いたそうである。

 

尚、彼曰く………

 

その狙撃のテクニックの秘訣は『練習』との事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舩坂くんの御先祖様以外にもそんな凄い人が居たんだぁ………」

 

「世界は広いですね………」

 

沙織と華は、シモ・ヘイヘの話を聞き、顔を見合わせる。

 

「! もしかして、貴方だったんですか?」

 

「あの時、僕達を助けてくれたのは?」

 

そこで楓と飛彗が、偵察に出ていた時とデミトリと戦っていた時に、謎の狙撃の援護が在ったのを思い出し、そう尋ねる。

 

「まあね。仲間を助けるのは当たり前だろ」

 

「えっ? 仲間って………」

 

「彼は今日付けを持って大洗男子校に転入。歩兵道へ参加する事になっている」

 

みほがシメオンの言葉に引っ掛かりを感じると、迫信がそう言って来た。

 

「ええっ!? そうなんですか!?」

 

「ああ、その手続きの為に、舩坂くんを極秘裏に派遣しておいたのだがね………」

 

「! じゃあ、弘樹くんが居なくなってたのは!?」

 

「すまない。情報を成るべく秘匿する為に、誰にも話す事が出来なくてな………」

 

申し訳無さそうにみほ達にそう謝罪する弘樹。

 

「そうだったんだ………」

 

「ちょっと! じゃあ、あの爆撃機部隊もひょっとして!?」

 

と、みほがそう呟いた瞬間、カチューシャがそう言って来る。

 

すると………

 

上空からレシプロ機が飛んでいる音が響いて来る。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

一同が空を見上げると、帰投途中と思われるスツーカ編隊の姿が在った。

 

「アレは………」

 

「旧ドイツ空軍の急降下爆撃機、Ju-87だな」

 

エルヴィンがその編隊がスツーカで有る事を確認してそう言う。

 

そこで………

 

その編隊の先頭を飛んでいたG-1型のスツーカが反転したかと思うと、ドンドン高度を下げながら近づいて来る。

 

「1機、近づいて来るぞ」

 

「オ、オイ………まさか、着陸する気じゃねえだろうな?」

 

鋼賀がそう言うと、海音が顔を若干青くしてそう言う。

 

「まさか。この雪上にですか?」

 

「せやけど、ドンドン近づいて来るでぇ」

 

飛彗がまさかと言うが、豹詑の言葉通り、G-1型のスツーカは更に高度を下げて来る。

 

「あの馬鹿………」

 

「! 突っ込んで来るぞぉっ!!」

 

それを見た弘樹がそう呟いて頭を抱えると、地市がそう叫びを挙げる。

 

「! 逃げろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

突っ込んで来るG-1型のスツーカを前に、大洗機甲部隊の面々とカチューシャ達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。

 

そんな中へ、G-1型のスツーカは着陸を強行。

 

運悪く、その進路上には了平の姿が………

 

「うわあぁっ!? 何で俺ばっかりこんな目にぃっ!!」

 

悲鳴を挙げて必死に逃げる了平だが、G-1型のスツーカはドンドンと迫って来る。

 

このままではプロペラと接触して、ミンチより酷い事になってしまう。

 

「ヒイイッ!!」

 

「了平! 伏せろぉっ!!」

 

「!!」

 

絶望し切った表情で悲鳴を挙げた瞬間、弘樹のそう言う声が聞こえ、咄嗟にその場にうつ伏せとなる了平。

 

その上、僅か5センチの距離をプロペラが掠め、G-1型のスツーカは了平を超えて漸く静止する。

 

「あ、ああああ………」

 

恐怖の余り、了平はそのまま気絶する。

 

「了平!」

 

「担架です! 急いで!!」

 

地市と楓が駆け寄り、了平は担架に乗せられて運ばれて行ったのだった。

 

「ちょっ! 隊長! 今誰か轢きそうになりましたよ!!」

 

「そうみたいだな。いや~、悪い事をしたなぁ」

 

「そう思うんなら少しは反省している様子を見せて下さいよ!」

 

とそこで、その着陸して来たG-1型のスツーカの操縦席と後部機銃座から飛行服姿の外人と思わしき2人の男が降りて来る。

 

「ハンネス! 小官の友人を殺す気か!」

 

その男2人の内、操縦席の方から降りて来た男に、弘樹がそう怒鳴る。

 

「よお、戦友! まだ生きているか?」

 

しかし、『ハンネス』と呼ばれたその男は、それをスルーして弘樹にそう呼び掛ける。

 

「ああ、生きているぞ………全く、お前は………」

 

それに返事を返すと、それ以上言っても無駄だと悟ったのか、弘樹は頭を押さえる。

 

「すみません、弘樹さん………」

 

「いや、エグモントが謝る事じゃない」

 

後部機銃座から降りて来た男が謝罪すると、弘樹はその男の事を『エグモント』と呼びながらそう返す。

 

「あの………弘樹くん。その2人もひょっとして?………」

 

「ああ、小官のかつての戦友だ………」

 

そこで、みほが恐る恐ると言った様子で尋ねると、弘樹は若干うんざりした様子を見せながらそう返す。

 

「『ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル』だ! 好きな物は牛乳と体操、それに出撃とソ連製の戦車を破壊する事! そして急降下爆撃だ! 嫌いな物は休暇と飛行禁止命令だ!」

 

「『エグモント・ガーデルマン』です。その………色々とご苦労を掛けるかも知れませんが、よろしくお願いします」

 

G-1型のスツーカから降りて来た2人の男………『ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル』と『エグモント・ガーデルマン』が自己紹介をする。

 

「!? ル、ルルル、ルーデルゥッ!?」

 

「ルーデルにガーデルマンだとっ!!」

 

と、その名を聞いた優花里が驚愕の表情を浮かべ、エルヴィンはキラキラとした眼差しを送る。

 

「ルーデルッ!?」

 

「「「「!!」」」」

 

カチューシャとノンナ達も、その名を聞いた途端に後ずさった。

 

「えっ? 何々?」

 

「如何かされたのですか?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

沙織や華、事情が分かって居ない大洗機甲部隊の面々は首を傾げる。

 

「………彼等の祖先の名は『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』と『エルンスト・ガーデルマン』………第二次世界大戦中の旧ドイツ空軍で………いや、世界で最も戦車を破壊したパイロットとその相棒だった男だ」

 

そんな一同に説明する様に、弘樹がそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』

 

『空の魔王』、『戦車撃破王』、『ソ連人民最大の敵』、『スツーカ大佐』などと言う様々な異名を持つ、ドイツ空軍………

 

いや、世界最強の爆撃機乗りである。

 

その戦車撃破のスコアは、公式に記録されているのでは何と519輌。

 

その他にも装甲車やトラック、火砲に上陸用舟艇などを凄まじい程に撃破している。

 

また、航空機撃墜記録も9機とあり、立派なエースパイロットでもある。

 

余りに戦果が凄過ぎた為、当時のソ連の指導者であるスターリンが名指しで批判し、10万ルーブル(日本円で当時ならば約5億円、現在でも約1億円に相当)の賞金を懸けた程である。

 

兎に角出撃していないと気が済まない人物だったらしく、例え片足を失っても僅か6週間後には義足を付けて戦線に戻り、それ以外でも負傷で入院していても「こうしちゃいられない! 出撃だ!!」と言って病院を脱走して出撃。

 

更には同僚や部下が休暇を貰えるよう自分のスコアを譲ったり、逆に指揮官に任命された後は自身が戦場に留まり続ける為に自分のスコアを過小報告するなどと言う行為をしていた。

 

その人間離れした戦果故に、見合う勲章が無くなり、彼の為だけに新設の勲章『黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章』なる勲章が作られた程である。

 

尚、この勲章は円卓の騎士に準え、12個作られたが、受賞者はルーデル只1人である。

 

因みに、ルーデルはこの勲章を受け取る際に、彼を失う事を恐れて地上勤務に回そうとしていたヒトラーに対し、『もう二度と私に地上勤務をしろと言わないのならば、その勲章を受け取りましょう』と言い放ったと言われている。

 

更に付け加えると、彼は被撃墜数でも30と世界最多を誇っており、その全てが地上からの高射砲によるもので、戦闘機に撃墜された事は1度も無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エルンスト・ガーデルマン』

 

ルーデルの愛機であるスツーカは後部機銃座が在り、そこには彼の相棒を務めた人物が5人搭乗している。

 

その5人の相棒の中で、4番目の相棒であり、有名となっているのがガーデルマンである。

 

軍医でもあり、戦闘中に負傷したルーデルの応急処置を何度もしている。

 

彼も中々の人外であり、ある戦闘時に撃墜され、機体がバラバラになり、後ろに座っていたガーデルマンがルーデルの遥か前方に投げ出されて居た。

 

ガーデルマンは肋骨を3本も骨折していたにも関わらず、『休んでいる暇はないぞガーデルマン、出撃だ!!』とルーデルに引き摺られて行き、機体を換えての出撃に付き合わされた………

 

と言う逸話がある。

 

また、ルーデルの航空機撃墜の記録の中には、ソ連軍のエースパイロットも含まれているのだが、それは後部機銃座のガーデルマンの戦果であると言う説もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦車撃破数519輌って………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

圧倒的な戦果スコアに大洗機甲部隊の一同は言葉を失う。

 

「…………」

 

中でも優花里は、凄く複雑そうな表情でハンネスを見据えている。

 

戦車好きの彼女にしてみれば、ハンネスは頼もし過ぎる味方だが、大好きな戦車を世界一破壊している憎むべき人物でもあるのだ。

 

「いや~、西総隊長からお前が大洗で活躍していると話を聞いて居ても立っても居られなくなってな! こうして参戦に馳せ参じたと言うワケさ!!」

 

「聞けば、戦車部隊の女子高が廃校の危機に瀕しているそうじゃないか」

 

「水臭いですよ、弘樹さん。そんな大事な事態に私達を呼ばないだなんて」

 

そんな優花里や大洗機甲部隊の様子など露知らず、ハンネス、シメオン、エグモントは弘樹を取り囲む様にして口々にそう言う。

 

「いや、皆其々の道を歩み始めていると言うのに、小官の都合だけで呼び出すワケには………」

 

「それが水臭いと言うんだ!」

 

弘樹の言葉を、ハンネスがそう言って遮る。

 

「弘樹、ワシ等は戦友だ。共に戦場を駆けた仲じゃないか」

 

「弘樹さんの要望と在れば、地獄の果てだって御供しますよ」

 

シメオンとエグモントもそう言って来る。

 

「ハンネス………シメオン………エグモント………」

 

弘樹の目に、感激の色が浮かぶ。

 

「また昔みたいに暴れ回ろうじゃないか」

 

「そうとも! そうと決まれば、こうしちゃいられない! 出撃だ!!」

 

「いや、もう試合は終わりましたから………」

 

「…………」

 

そんなハンネス、シメオン、エグモントの前に、弘樹は右手を手の甲を上に向ける様にして差し出した。

 

「「「…………」」」

 

ハンネス、シメオン、エグモントは、笑みを浮かべて、その弘樹の右手に自分達の右手を重ねる。

 

「よろしく頼むぞ………戦友」

 

「「「こちらこそ………戦友」」」

 

そしてお互いにそう言い合ったのだった。

 

「凄い……凄いぞ! 枢軸国側の3強軍人とその相棒の子孫が戦友で一同に会している!!」

 

その光景を見て、エルヴィンが若干興奮している様子でそう言い放つ。

 

「…………」

 

みほも、戦友と再会し、嬉しそうな顔をしている弘樹を見て、自然と笑みを浮かべていたのだった。

 

「心強い味方も来てくれたし、これからも優勝目指して頑張ろうね、西住ちゃん」

 

とそこで、杏がみほにそう声を掛ける。

 

「あ、ハイ。皆さんが居れば、優勝も夢じゃ無くなるかも知れません」

 

みほが杏にそう返した瞬間………

 

「調子に乗らない事ね。貴方達が勝てたのは相手の慢心と運が良かったからよ」

 

「!?」

 

そんな雰囲気に水をさすかの様な冷たい言葉が飛んで来て、みほは一瞬身体を震わせる。

 

「何っ?」

 

「誰だ?」

 

大洗機甲部隊の面々も、その言葉の聞こえた方向を見やる。

 

「久しぶりね………みほ」

 

そこに居たのは、都草とまほ、そして久美を引き連れた、しほだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にプラウダ&ツァーリ機甲部隊との戦いも決着です。
またもギリギリながら、大洗機甲部隊の勝利。

そして遂に登場!
弘樹の戦友であるヘイヘ、ルーデル、ガーデルマンの子孫達。
大洗機甲部隊の戦力は大幅アップです。

しかし………
勝利の場に水を差す様に現れたのは、みほの実の母………
西住流の現師範・西住 しほだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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