ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第8話『試合、やります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第8話『試合、やります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム&随伴分隊対抗で行われた、初めての戦車道+歩兵道の合同演習は………

 

みほ達の乗るⅣ号のAチームと、弘樹が率いるα分隊の勝利で幕を閉じた。

 

行動不能となった戦車と、撃破された車両や兵器が、自動車部と輸送科達によって運ばれ………

 

整備部達の協力の元、早速修理され始めている中………

 

みほ達と弘樹達は、女子学園の戦車格納庫の前に整列して集合していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「皆グッジョブ! ベリーナイス! 初めてでコレだけガンガン動かせれば上出来よ!!」

 

亜美が集合しているみほ達と弘樹達を前に、仕切りに褒め言葉を口にする。

 

「特に、Aチーム! 良くやったわね!!」

 

とそこで、亜美はAチームであるみほ達を見やり、そう言う。

 

教官に褒められ、沙織、華、優花里は笑みを浮かべる。

 

麻子は眠そうな表情をしていたが………

 

「…………」

 

そしてみほは、何やら複雑そうな表情を浮かべている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一方で、歩兵道受講者達は、緊張した面持ちで黙り込んでいる。

 

「…………」

 

何故なら、教官である嵐一郎が一同の前に仁王立ちし、睨み付ける様にして一同を見据えているからだ。

 

戦車道と違い、歩兵道は其々個人の評価がハッキリと分かる。

 

今回の戦いでは、弘樹の活躍が目立ったが、何も出来なかったままに終わった者も数多い。

 

また説教が飛んで来る………

 

そう思うと、歩兵道受講者達の心は重かった。

 

「………まあ、こんなものだろうな」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しかし、嵐一郎の口からは意外な言葉が発せられ、歩兵道受講者達は驚く。

 

「上手く動けなかったのは俺の教育不足だ。明日からはまた再訓練だ! 覚悟して置け!!」

 

「「「「「「「「「「! ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

続くその言葉で、歩兵道受講者達は意気消沈した様な様子を見せたが、嵐一郎が只厳しいだけの人物でない事を知ったのだった。

 

「戦車道の皆も、後は日々、走行訓練と砲撃訓練に励んでね。分からない事が有ったら、何時でもメールしてね」

 

「一同、礼!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

桃の号令で、みほ達と弘樹達は一斉に、亜美と嵐一郎に向かって礼をする。

 

「ありがとうございました!………それじゃ、嵐一郎。帰りましょうか」

 

「そうだな………」

 

と、挨拶を受けると、亜美は乗って来た10式戦車へと乗り込み、嵐一郎はウェストバッグから『何か』を取り出した。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

一同が何をする気だと注目していると………

 

「それじゃあ、またねー!」

 

「さらばだ!!」

 

と、亜美と嵐一郎がそう言った瞬間!!

 

10式の車体の角4箇所から、巨大な気球が展開!!

 

嵐一郎も、取り出した何かを膨らませて気球へと変える!!

 

そしてそのまま、気球の浮力で垂直に上昇!!

 

すると、亜美が繰る際に使った航空自衛隊のC-2改輸送機が現れ、10式と嵐一郎をワイヤーで回収して、夕焼けの空の彼方へと消えて行ったのだった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一連の流れを目撃していた一同は、言葉を失っている。

 

「………何時から自衛隊はフルトン回収システムを採用したんだ?」

 

やがて我に返った一同の中で、大詔がそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

飛び去って行ったC-2改輸送機の客室内では………

 

「お疲れ様です! 蝶野教官! 最豪教官!」

 

「お疲れーっ!」

 

「御苦労」

 

輸送機のパイロットと挨拶をかわし、機内に回収された亜美と嵐一郎は向かい合う様に座席に座る。

 

「大洗かぁ………フフフ、面白い部隊になりそうね。これからの成長が楽しみだわ」

 

「だったらもう少し真面に指導したら如何だ?」

 

大洗メンバーの素質を感じ、その成長に楽しみが生じている亜美と、そんな亜美にそうツッコミを入れる嵐一郎。

 

「そう言う嵐一郎は随分と肩入れしてるじゃない? やっぱり、自分が自衛官になろうとした切欠を作ってくれた人の子孫が居ると気合が違う?」

 

すると亜美は、意地の悪そうな笑みを浮かべて、嵐一郎にそう返す。

 

「………舩坂軍曹は俺の憧れだった………その人の子孫が大洗に居ると聞いた瞬間、他の連中を蹴散らして教官役を志願した………だが、それと指導に関する事は別だ」

 

「全く、素直じゃないわね………『ストーム1』」

 

「そのコードネームで呼ぶな」

 

そんな会話を交わしながら、2人の自衛官は風に揺られて、駐屯地へと引き上げて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「舩坂殿! 今日の試合ではありがとうございましたっ!!」

 

解散の命令が出ると、優花里が弘樹の元へ走り寄って来て、敬礼しながらそう言う。

 

「いや、小官1人の力で勝てたワケじゃない。全員が自分が成すべき事を頑張ったからこそ勝てたんだ」

 

「でも、凄かったよねぇ。最後に1年生達の戦車に突っ込んでったとこなんて、すっごくカッコ良かったよ!」

 

「正に日本男児の手本の様でした」

 

謙遜する弘樹に向かって、沙織と華もそう言って来る。

 

「2人供、持ち上げ過ぎだ。小官も他の皆と同じく、出来る事を可能な限り実行したまでだ」

 

「でも、今日は何度も舩坂くんに助けられたよ。ホントにありがとう」

 

と、そこでみほが、弘樹に向かって改まってお礼を言う。

 

「………如何致しまして」

 

弘樹はそこで微笑を浮かべたのだった。

 

「それにしてもさぁ………舩坂くんのその服って………何だか随分と古い感じがするね」

 

するとそこで、沙織が弘樹の戦闘服を見ながらそう指摘する。

 

「確かに………随分と使い込まれている感じがしますね。長く使ってるんですか?」

 

「ああ………この戦闘服はご先祖様が現役の頃に使っていた物なんだ」

 

華もそう尋ねると、弘樹はそう返す。

 

「!? 何ですとっ!? その戦闘服は舩坂軍曹殿の現役時代の物なのですか!?」

 

途端に、優花里が仰天の声を挙げる。

 

「ああ………この刀も、ご先祖様が使っていた軍刀の拵えを変えてもらったんだ」

 

左腰に差していた刀の柄に手を置きながらそう言う弘樹。

 

「おおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!! まさか舩坂軍曹が使っていた戦闘服と軍刀をこの目で見る事が出来るなんて~………」

 

優花里は目を煌めかせて、戦闘服姿の弘樹と、彼が持っている刀を見ている。

 

「あ、秋山さん?」

 

「!? ハッ!? す、すみません~!!」

 

「ハハハハハッ」

 

みほに声を掛けられて、優花里は我に返り、そんな姿を見て、弘樹は笑いを零すのだった。

 

「クッソ~ッ! 何でアイツばっかりっ!!」

 

「お前何時も言ってんな、ソレ」

 

「と言うか、まだそのままだったんですね………」

 

砲弾の直撃を受け、全身黒焦げのアフロヘアになっている了平が、弘樹がみほ達と楽しそうにしている姿を見て嫉妬し、地市と楓がそんな了平の様子と姿にツッコミを入れる。

 

「そろそろお風呂入りに行こうか?」

 

と、話が一段落したところで、沙織がみほ達にそう呼び掛けた。

 

「そうですね。汚れてしまいましたし、汗も掻いてしまいましたから」

 

「! お風呂っ!!」

 

華がそう返していると、了平が鼻の下を伸ばした顔となって何かを想像する。

 

すると、了平の鼻から鼻血が垂れて来る………

 

「ぐへへへへへへ………」

 

「了平………まさか貴方………良からぬ事を考えているのではありませんよね?」

 

法律違反ギリギリの顔をしている了平を見て、楓がそう言う。

 

「イケナイのか!? 健全な男として当然だろう!!」

 

了平は反省するどころか、楓に向かってそう力説する。

 

「貴方の信念を如何こう言う積りはありませんが………後ろの人は如何ですかね?」

 

「後ろ?」

 

楓の言葉で、了平が後ろを振り返ると、そこには………

 

「…………」

 

視線だけで人も殺せそうな顔をした弘樹が、日本刀を抜き身で上段に構えていた。

 

「えっ!? ちょっ!? 弘樹!? 待てっ!! 親友に何する積りだ!!」

 

「親友だからこそ止めねばならん事もある………助兵衛成敗!!」

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

「「自業自得………」」

 

弘樹に制裁を受ける了平を見ながら、地市と楓はそう呟く。

 

「さて………小官達も学校へ戻って一風呂浴びるとするか」

 

と、弘樹がそう言った瞬間………

 

「あ! ねえねえ、舩坂くん達!………って、綿貫くん、如何したの?」

 

学校に備えられた運動部用の浴場に行こうとしていた沙織が、弘樹達に声を掛けて来て、血溜まりの中に倒れている了平を見てそう尋ねる。

 

「気にするな。コレはいつもの事だ」

 

「あ、そうなんだ」

 

弘樹がそう返すと、沙織はそれ以上は気にしなかった。

 

「ひ、酷くない………ガクッ」

 

了平はそう呟き、力尽きる………(注:死んでません)

 

「それより、何か用だったのではないか?」

 

「ああ、そうそう! 帰りに寄りたいとこ在るんだけど、舩坂くん達も付き合ってくれない」

 

弘樹が改めて問い質すと、沙織は弘樹達を見ながらそう言う。

 

「小官は構わないが………」

 

「俺も良いぜ」

 

「僕も大丈夫です」

 

「俺もーっ!!」

 

弘樹、地市、楓がそう返事を返し、光の速さで復活した了平も名乗りを挙げる。

 

「じゃあ、お風呂終わったら、ウチの正門前で待ち合わせね。宜しく~!」

 

沙織はそう伝えると、改めてみほ達と一緒に、浴場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

汗を流したみほ達と弘樹達が向かったのは………

 

学園艦の街に在る、ホームセンターだった。

 

「………ホームセンター?」

 

「何で此処なんだ?」

 

何故ホームセンターに来たのかが理解出来ないショッピングカートを押している弘樹と麻子がそう呟く。

 

「てっきり、戦車道ショップへ行くかと………」

 

それを期待していた優花里が、若干落胆している様子でそう言う。

 

「だって、もうちょっと乗り心地良くしたいじゃん」

 

と、そこで沙織がそう言いながら、クッション売り場の前に立つ。

 

「乗ってると、お尻痛くなっちゃうんだもん」

 

「ええっ!? クッション引くの!?」

 

沙織の意図を察したみほが驚きの声を挙げる。

 

「駄目なの?」

 

「駄目じゃないけど………戦車にクッション持ち込んだ選手って、見た事無いから………」

 

(素人ならではの発想だな………)

 

沙織とみほの会話を聞きながら、弘樹は内心でそう思う。

 

「あ! コレ可愛くない!?」

 

「コッチも可愛いです!」

 

とそこで、沙織がハート型のクッション、華が座布団型のクッションを手に取ってそう言う。

 

「ねえねえ、如何かな!?」

 

「ああ、えっと………」

 

「そうですね………」

 

「うんうん! 良いよ良いよ! 沙織ちゃんにピッタリだよ!!」

 

沙織に尋ねられ、地市と楓が返答に困っていると、了平がポイントを稼ごうと無責任にそう返す。

 

「ホント! ありがとう!! じゃあ、ちょっと持ってて」

 

「すみません」

 

沙織と華はそう言うと、持っていたクッションを地市と楓に預け、次の物品を見に行く。

 

「あっ!?」

 

「オ、オイッ!?」

 

有無を言わさずに荷物持ちにされた楓と地市。

 

「「…………」」

 

2人は無言で頷き合うと、了平の足を思いっきり踏んづけた!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

了平の悲鳴が挙がるが、2人は更に追い打ちを掛けるかの様に、了平の足をグリグリと磨り潰し始める。

 

「すいません! すいません! すいませーんっ!!」

 

(何をやってるんだ………)

 

必死に謝る了平を、弘樹は呆れた眼差しで見やる。

 

「あとさぁ………土足禁止にしない?」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

するとそこで、沙織からまたも驚きの提案が挙がり、みほ達は困惑の声を挙げる。

 

「だって汚れちゃうじゃない」

 

「土禁はやり過ぎだ」

 

スリッパを見ながらそう言う沙織に、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「ええ~~っ?」

 

「武部くん。少なくとも操縦手は足でペダルを操作する必要が有る。スリッパでは操縦に支障が出てしまう」

 

納得が行かない様な沙織に、弘樹が言葉を選んでそう言う。

 

「そっか~………あ! じゃあ、色とか塗り替えちゃ駄目?」

 

「色? 迷彩の柄を変えるのか?」

 

「違うよ~。もっとこう可愛く………ピンクとかさぁ」

 

「ピ、ピンクゥッ!? 駄目です! 戦車はあの迷彩色が良いんです!!」

 

それを聞いた優花里が、何を馬鹿な事を言う様に沙織に詰め寄りながら反論する。

 

「あ、芳香剤とか置きません?」

 

「ズコーッ!?」

 

するとそこで、華がそう言って来て、優花里は思わずズッコケる。

 

「鏡とかも欲しいよね。携帯の充電とか出来ないかなぁ?」

 

「…………」

 

沙織と華の遣り取りを、みほは呆然と見ていた。

 

「やれやれ………」

 

「あ、ふ、舩坂くん………如何しようか?」

 

弘樹の呆れた声に反応し、みほはそう尋ねる。

 

「………まあ………居住性を挙げる事は、性能の底上げに繋がる………のだろうか?」

 

流石の弘樹も返答に困り、思わず疑問形で返してしまう。

 

「あ、あはははは………」

 

みほは乾いた笑いを零すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

合同演習に集まった歩兵部隊と、みほ達Aチームのメンバーは、戦車格納庫前でトンでもないモノを見つける。

 

「………何だコレは?」

 

唖然としていた一同の中で、最初に口を開いたのは弘樹だった。

 

その目の前には昨日の練習試合の後、整備された戦車達が並んでいるのだが………

 

Bチームの八九式には、車体と砲塔の横に白いペンキで、デカデカと『バレー部、復活!』と言う文字が書かれ、更にはバレーボールのマークも描かれている。

 

CチームのⅢ突は、赤、黄、白、青と言ったド派手なカラーリングに塗装され、4本の旗が立っている。

 

DチームのM3リーは、ピンク一色のカラーリングに塗られている。

 

そして、Eチームの38tは、某4番目の偽名を使っている赤い彗星が乗っていた100年使えるモビルスーツの様に、金ピカに塗装されていた。

 

「コレは酷い………」

 

地市も、まるでオブジェの一種かと思いたくなる様な有り様となった戦車達を見てそう呟く。

 

「ああ~~………」

 

みほも、当然であろうが、こんな戦車を見たのは初めてで、思わず声を漏らす。

 

「カッコイイぜよ」

 

「支配者の風格だな」

 

「うむ」

 

「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが」

 

派手派手となったⅢ突の前で、Cチーム・歴女の面々がそう言い合う。

 

「コレで自分達の戦車がすぐに分かる様になった~」

 

「やっぱピンクだよね~」

 

「可愛い~」

 

悲願を刻み込んだ八九式と、オブジェの様なピンク色のM3リーの傍でも、バレー部・Bチームと、1年生・Dチームがそう言っている。

 

「良いね………」

 

「そ、そうかな?………」

 

金ピカの38tを見て満足そうに言う杏に、蛍は困惑した様子を見せる。

 

「この勢いでやっちゃおっか?」

 

「ハッ、連絡して参ります」

 

「えっ? 何ですか?」

 

しかし、杏はそれを無視して、桃にそう言うと、桃は何処かへと向かい、柚子は困惑する。

 

「むう~~~! 私達も色塗りかえれば良かったじゃ~んっ!!」

 

「いや、戦車に女の小物持ち込んだだけでも相当アレだと思うぞ………」

 

不満げに叫ぶ沙織に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「ああ~っ! 38tが! M3が! Ⅲ突が! 八九式が何か別の物に~っ!!」

 

そして戦車を心から愛する優花里は、変わり果てた戦車達を見て、悲鳴の様な声を挙げる。

 

「………ハア~~~ッ」

 

弘樹も、再び変わり果てた戦車達を見渡したかと思うと、溜息を吐いた。

 

「いやはや、彼女達の行動には驚かされるよ」

 

すると、そんな弘樹の隣に、口元を扇子で隠したドイツ軍の戦闘服に身を包んだ迫信が並び立つ。

 

「! 会長閣下っ!!」

 

迫信の姿を認めると、弘樹はすぐに姿勢を正して迫信に向き直り、ヤマト式敬礼をする。

 

「ふむ………舩坂くん。歩兵道経験者から見て、彼女達の戦車を如何思うかね?」

 

扇子を閉じ、弘樹に向かってそう問う迫信。

 

「………ハッキリ言わせて頂ければ、何を考えているんだと言いたくなります。ですが、彼女達には圧倒的に経験が不足しています。技術や練度は演習でも高められますが………心構えは、実戦を経験しなければ身に付きません」

 

弘樹は敬礼を解くと、一瞬言って良いものかと悩んだ様子を見せたが、やがてそう口を開いた。

 

「やはりそう思うかね。心配しなくとも、心構えについては問題あるまい」

 

「えっ? 会長閣下、それは如何言う………」

 

「うふふふ………ふふふふ、うふふふふふっ」

 

と、迫信の言った言葉の意味が分からなかった弘樹が、問い質そうとしたところ、みほが笑い声を漏らした。

 

「? 西住くん?」

 

「西住殿?」

 

突然笑い声を零し始めたみほを、弘樹と優花里が注目する。

 

「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど………何か楽しいね。戦車で楽しいなんて思ったの、初めて」

 

「そう………良かったね、みぽりん」

 

「ハイ」

 

屈託無い笑みを零すみほを見て、沙織と華も笑みを浮かべてそう言う。

 

(………小官もまだ配慮が足りんな)

 

一方弘樹は、戦う事ばかりに考えが行ってしまい、みほへの配慮を疎かにしまっていた事を反省し、戦闘帽を目深に被り直す。

 

「すまない、西住くん」

 

「!? えっ? 如何して舩坂くんが謝るの?」

 

突然謝られて、みほは困惑する。

 

「君への配慮をすっかり忘れて、実戦云々を語ってしまった………君とっては戦車は心の傷に障る物だったのを忘れてな………本当に申し訳無い」

 

そう言って弘樹は、改めてみほに向かって頭を下げる。

 

「そ、そんな! それぐらいで謝らないで! 私気にしてないから!」

 

「そうか………ありがとう」

 

みほにそう言われて、弘樹は安堵した様な表情を浮かべる。

 

「真面目だよね~、舩坂くんって」

 

「ああ………自他とも認める、『クソ真面目な男』だからな」

 

そんな2人の姿を見て、沙織と地市がそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

とある学園艦の女子校の一室にて………

 

「大洗女子学園? 戦車道を復活されたんですの? おめでとうございます」

 

電話に出ているブロンド髪で、青い目を少女………『ダージリン』は丁寧な女言葉でそう言う。

 

如何やら、電話の相手は大洗女子学園の者………恐らく桃であろう。

 

「結構ですわ………受けた勝負は逃げませんの」

 

そう言って電話を置くダージリン。

 

「試合の申し込みですか?」

 

と、室内に在ったテーブルに着き、イギリス人宜しくティータイムを楽しんでいたダージリンと同じくブロンド髪で、黒いリボンをした少女………『アッサム』がそう言う。

 

「ええ………大洗学園艦の部隊とね」

 

「話を聞いた限り、戦車道を復活させたばかりみたいですけど、それでウチに挑んで来るなんて………」

 

アッサムと同じくティータイムを楽しんでいたオレンジ髪の少女………『オレンジペコ』が、無謀な事をと言う様に呟く。

 

「確かに、普通に考えれば無謀かも知れないわね………けれど、例え相手が誰であろうと騎士道精神の名の元に正々堂々全力で戦う………それが我が『聖グロリアーナ女学院』の信条ですわ」

 

ダージリンはそう言うと、テーブルの上に乗っていたハンドベルを手に取って鳴らした。

 

「失礼致します」

 

「お呼びでしょうか? お姉様方」

 

すると、部屋のドアが開き、2人のメイドが入室して来る。

 

「今度の日曜日に試合を行う事にしました。『聖ブリティッシュ男子高校』の歩兵道の皆さんにお伝えしてくれるかしら」

 

「「畏まりました」」

 

ダージリンの言葉を聞き、メイド2人は御辞儀をすると、踵を返して部屋から出て行った。

 

「フフフ………」

 

そして、ダージリンが不敵に微笑んで自分の席に着くと、紅茶に口を付け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって………

 

聖グロリアーナ女学院からすぐの場所に在る兄妹校………

 

『聖ブリティッシュ男子高校』の歩兵道者の演習場では、歩兵道受講者達が訓練を行っていた。

 

「全員集合っ!!」

 

とそこで、教官の教師からの集合が掛かったかと思うと、訓練をしていた歩兵達は一斉に訓練を中断し、物の数秒で教官の前に整列して集合する。

 

「ん? 『アールグレイ』は如何した?」

 

「ロードワーク中です。今日はかなり走るって言ってましたけど、間も無く帰って来るかと………」

 

「そうか………では、先に話しておく。聖グロリアーナ女学院の戦車隊の隊長・ダージリンくんから連絡が在った。今度の日曜日に練習試合を行うとの事だ。相手は大洗部隊」

 

「大洗?」

 

「聞いた事無いな………」

 

大洗と言う名に聞き覚えの無い生徒達がそう呟く。

 

「20年前に女子学園側が戦車道を廃止し、男子校側も歩兵道を縮小させていたそうだが、今年から戦車道が復活し、歩兵道にも再度力を入れ始めたそうだ」

 

その呟きを聞いていた教官が、一同に説明する様にそう言う。

 

「今年から復活って………それでウチに試合を挑んで来るとは」

 

「よっぽどの大馬鹿みたいだな。自慢じゃないが、ウチは準優勝経験もある強豪校だぜ」

 

「無名校がそうそう勝てる相手じゃないっての」

 

無名も良いところの大洗部隊の挑戦に、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員の何人かは失笑する。

 

「馬鹿者っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

途端に教官から怒声が飛び、歩兵部隊員達は硬直する。

 

「どんな相手だろうと油断は禁物だ! 油断は隙を生み、取り返し難いミスへと繋がる! 如何なる者からの挑戦も受け、正々堂々と力の限り戦う! それが聖ブリティッシュ男子高校、そして聖グロリアーナ女学院の誇りだ!!」

 

無名の大洗相手に油断を見せていた歩兵部隊員を叱咤し、そう言い放つ教官。

 

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす………驕りは決して許さんぞ!!」

 

「その通りだ、皆。気を引き締めて掛かろう」

 

そこで、教官の言葉に同意する様に、メガネをかけているロン毛の男………聖ブリティッシュ男子高校歩兵隊の隊長『セージ』がそう言う。

 

「ぶわっはっはっはっはっ!! セージの言う通りじゃ!! ワシ等は兎に角戦えば良いんじゃ!! ぶわっはっはっはっはっ!!」

 

すると、歩兵部隊員の中で一番背が高く身体がデカいが、手の甲と顔が異様に大きい見るからに馬鹿そうな雰囲気が出ている巨漢………『オレガノ』が豪快に笑いながらそう言う。

 

「そうですね。僕等は全力で戦う。それだけです」

 

かなりの美形で、歩兵にしては少々華奢な体つきをしており、何故か目を閉じている生徒………『ティム』がそう言う。

 

そこで、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員達は、表情を引き締めた。

 

「………良し! では訓練に戻れっ!!」

 

「「「「「「「「「「イエッサーッ!!」」」」」」」」」」」

 

教官が最後にそう言うと、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員達は教官に向かって敬礼し、訓練に戻って行く。

 

「うむ………うん? 帰って来たか」

 

ふと、校門の方を見やった教官は、校門から入って来てグラウンドの方へと向かって来るパーカーを着てフードを被った人物に気付く。

 

「………只今戻りました」

 

その人物は、教官の前まで来ると気を付けし、そう報告する。

 

「うむ………今度の日曜に練習試合を行う事になった」

 

「相手は?」

 

「大洗学園艦の機甲部隊だ」

 

「大洗………」

 

「今年から女子校側が戦車道を復活させたそうだ。男子校側では歩兵道は続いていたが、試合に出れる様な規模ではなかったそうだ」

 

「分かりました………万全の態勢で臨みます」

 

教官とそう会話を交わす男。

 

「まあ、お前の事だ。心配はしておらん………ところで、今日はどれぐらい走って来たんだ?」

 

「学園艦を………200周程………」

 

「200周!? このまえ100周を完遂出来たと言っていたばかりじゃないか! もう記録を塗り替えたのか!?」

 

「はい………」

 

「全く………お前の身体能力と向上心には驚かされる………今日はもうクールダウンをしたら上がって良いぞ」

 

「はっ………」

 

そう言うと男………聖ブリティッシュ男子高校歩兵道のエース『アールグレイ』はフードを脱ぎ、クールダウンに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方………

 

再び、大洗女子学園・戦車格納庫前にて………

 

「今日の訓練、御苦労であった!」

 

整列して集合している、一部を除いて疲れた様子の戦車部隊員達と歩兵部隊員達を前に、桃がそう言う。

 

「「「「「「「「「「お疲れ様でした~」」」」」」」」」」

 

「え~、急ではあるが、今度の日曜日、練習試合を行う事になった」

 

「「「「「「「「「「!? ええっ!?」」」」」」」」」」

 

とそこで桃は、練習試合を行うと宣言し、一同は寝耳に水状態となる。

 

(成程………会長閣下が言っていたのはこの事だったのか)

 

弘樹は、内心でそう納得していた。

 

「相手は………聖グロリアーナ女学院戦車部隊、そして聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊だ」

 

「「えっ!?」」

 

対戦相手の学校名を聞いて、みほと優花里が驚きの声を挙げる。

 

「如何したの?」

 

「「?」」

 

それに気づいた沙織が声を掛け、華と麻子も注目する。

 

「聖グロリアーナ女学院戦車部隊、聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊から成る機甲部隊は、全国大会で準優勝した事もある強豪です」

 

「ええっ!?」

 

「準優勝………」

 

対戦相手が全国大会の準優勝記録を持つ部隊だと知り、沙織と華も驚愕する。

 

「オイオイ、準優勝って………」

 

「イキナリそんな強豪と練習とは言え、試合なんて………」

 

「何て無謀な………」

 

それを聞いていた地市、了平、楓も思わずそう声を漏らす。

 

「相手にとって不足は無いな………」

 

「オメェのその図太い神経が時々羨ましいぜ」

 

1人戦意高揚している様子を見せている弘樹を見て、地市がそんなツッコミを入れるのだった。

 

「日曜は、我が学園に朝6時に集合だ! 遅れるなよ!!」

 

「そんなに朝早く~?」

 

「やれやれ………早起きは苦手なんだがなぁ」

 

集合時間を聞いたあやと俊からそんな声が漏れる。

 

と………

 

「止める………」

 

「ハイッ?」

 

「やっぱり戦車道止める」

 

突如麻子がそう宣言した。

 

「もうですか!?」

 

「そんな!? 何故突然!?」

 

突然の宣言に、華と楓が驚愕の声を挙げる。

 

「麻子は朝が弱いんだよ」

 

と、幼馴染の沙織がそう説明していると、麻子は早足にその場を去ろうとする。

 

「ああ! 待って下さいっ!!」

 

「ちょっ! ストップ、ストップ!!」

 

慌てて引き止めに掛かるみほ達と地市達。

 

「6時は無理だ」

 

「モーニングコールさせて頂きます」

 

「家までお迎えに行きますから!!」

 

「麻子ちゃ~ん! 気持ちは分かるけど、頼むよ~っ!!」

 

若干ムスッとしている表情でそう言う麻子に、優花里、華、了平がそう言う。

 

「6時だぞ………人間が朝の6時に………起きれるか!!」

 

「簡単だろ」

 

「弘樹………低血圧の奴にはそれが辛いんだって………」

 

麻子の言葉にアッサリとそう返す弘樹に、地市がツッコミを入れる。

 

「いえ、6時集合ですから、起きるのは5時くらいじゃないと………」

 

「………人には出来る事と出来ない事が有る。短い間だったが、世話になった」

 

と、優花里がそう言うと、麻子は完全に心が折れた様子でそう言い、踵を返した。

 

「冷泉さん! もう貴方の身は貴方1人の物では無いのですよ!!」

 

「そうだよ! 麻子が居なくなったら誰が操縦するの!?」

 

しかし、楓と沙織がそう言い、引き止めを続ける。

 

「それに良いの! 単位!!」

 

「!!」

 

そして、沙織のその一言で、麻子の足は止まる。

 

「このままじゃ進級出来ないよ! 私達の事、先輩って呼ぶ様になっちゃうから!! 私の事、沙織先輩って言ってみぃっ!!」

 

「さ、お、り、せ………」

 

沙織を先輩付けで呼ぼうとして口篭る麻子。

 

「それにさあ、ちゃんと卒業出来ないとお婆ちゃん滅茶苦茶怒るよ」

 

「! お婆!!………」

 

「ウチの祖父も厳しかったからなぁ………悪い事をすれば、容赦無く鉄拳制裁されたよ」

 

「き、厳しいお爺さんだったんですね………」

 

お婆ちゃんと言う言葉に、麻子は怯える様子を見せ、弘樹は厳しかった祖父を思い出し、優花里はその話に戦々恐々とする。

 

「うううう………分かった、やる」

 

麻子は暫し逡巡する様子を見せたが、やがて諦めた様にそう呟いた。

 

「大丈夫かよ、オイ………」

 

「今は彼女を信じるしかないな………」

 

不安な様子を見せる了平に、弘樹はそう言う。

 

「ではこれより、練習試合に向けての作戦会議を行う!!」

 

「では、我が校の作戦会議室を使ってくれたまえ」

 

「? 作戦会議室?」

 

桃がメガホンを手に皆にそう呼びかけると、迫信がそう言い、柚子が首を傾げる。

 

「歩兵道が盛んだった頃に造られたものでね。あそこなら全員で作戦会議を行う事が出来る」

 

「良いねー。じゃあ、全員大洗国際男子校の作戦会議室へ移動っ!!」

 

迫信の説明を聞くと、杏がメンバー全員にそう言い放ち、大洗国際男子校に在る作戦会議室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

大洗国際男子校・作戦会議室にて………

 

「す、凄い………」

 

「まるで映画のセットみたい………」

 

「おおお~~~っ! 男子校にこんな作戦室が在ったなんて………知りませんでした~!」

 

みほと沙織が驚きの声を漏らし、優花里が感激の声を挙げる。

 

迫信に案内されて辿り着いた作戦会議室は、まるで本当に軍隊が使用している様な、異常なまでに充実している作戦室であった。

 

向かって正面には、壁一面を埋め尽くす様な大型モニターが設置され、室内中央には巨大なテーブルがあり、既に練習試合が行われる試合場所の地図が敷かれて、自軍と敵軍を示す戦車の模型と歩兵の駒が置かれている。

 

現在、戦車道受講者達と、歩兵道受講者達は人数分用意されたパイプ椅子に腰掛け、正面の巨大モニターの方を向いている。

 

その巨大モニターの下の、一段高くなっている床の上には、杏、桃、柚子、蛍、迫信、十河、熾龍、逞巳、俊、清十郎の女子・男子両校の生徒会メンバーの姿が在る。

 

「では、これより作戦会議を開始する」

 

迫信がそう言うと、正面の巨大モニターに映像が点灯。

 

1台の戦車の静止画が映し出される。

 

それは、聖グロリアーナ女学院が使用している戦車である、イギリス製の『マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ』だった。

 

「良いか。相手の聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の機甲部隊は、装甲の強固な歩兵戦車と共に隊列を組んだ歩兵部隊を進軍させるいう浸透強襲戦術を得意としている」

 

桃がそう説明すると、モニターが静止画から、行進間射撃をしながら進む歩兵戦車と共に、戦列歩兵宜しく、キチンと隊列を組んで進軍している歩兵部隊の動画に切り替わる。

 

「兎に角、相手の戦車は固い。主力のマチルダⅡに対して、我々の戦車の砲は100メートル以内でないと通用しないと思え」

 

「100メートルって………」

 

「と言う事は、対戦車砲も………」

 

「余程の大口径砲でない限り、同じ様に至近距離まで引き付けて撃たないと駄目ですね」

 

続いて十河がそう説明すると、地市、鷺澪、誠也がそう呟く。

 

「そこで、一分隊が囮となって、こちらが有利になるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を利用して残り全部隊がコレを叩くっ!!」

 

「キルゾーンには予め対戦車地雷を中心としたトラップを仕掛けて置く。戦場では敵より先に高みの場所を占めるが優なり………コレは兵法の常道だ」

 

そこでモニターがまたも切り替わり、先程桃と十河が言った作戦のシミュレーション映像が流れる。

 

「「「「「「「「「「おお~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

一見すれば完璧に見える桃の作戦に、集まった一同から歓声が挙がる。

 

「…………」

 

しかし、みほは何か不安な表情をしていた。

 

「「…………」」

 

みほだけでなく、壇上に居る迫信と熾龍も、何か思うところがある様な表情をしている(迫信は扇子で口元を隠しているので、少々分かり難いが)

 

「あ………」

 

そこで何かを言い出そうとしたみほだったが、引っ込み思案な性格故か、声が出ない。

 

「河嶋広報官殿、神居副会長殿。意見具申を申し上げても宜しいでしょうか?」

 

すると、そんなみほの代弁をするかの様に、弘樹が手を上げてそう発言した。

 

「舩坂 弘樹………」

 

「こ、広報官殿………な、何だ! 言ってみろ!!」

 

そんな弘樹に視線を送る十河と、広報官殿などと敬称付けで呼ばれた事に若干気を良くしたかの様な桃がそう言う。

 

「ハッ! では、僭越ながら意見具申させていただきます!」

 

弘樹はそう言って立ち上がり、他の部隊員達の視線も、弘樹に集まる。

 

「今回の敵である聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校は、長年戦車道と歩兵道を続けており、全国大会準優勝の経験もある強豪校です」

 

「ふ~ん、それで?」

 

弘樹の言葉を聴いていた杏が、不敵な顔をして尋ねる。

 

「失礼ですが、我々は戦車部隊、歩兵部隊共にほぼ素人の集まりです。この作戦も既に相手に読まれていると考えるのが当然かと」

 

「! 何だとっ!!」

 

「心配するな。相手は強豪校だ。此方の事など歯牙にも掛けていない。その油断を突く」

 

桃が弘樹の言葉に激昂した様子を見せるが、十河はどや顔でそう言い放つ。

 

「それはつまり………敵がコチラの思惑に1から10まで乗ってくれると言う事を想定していると言う事ですか?」

 

「!? そ、それは………」

 

しかし、弘樹にそう指摘されると、忽ち動揺を露にする。

 

「先程、高所を押さえるのは兵法の基本と仰られていましたが、作戦は奇を以って良しとすべし………こう言う言葉もあります」

 

「うぐぐぐっ!!………」

 

更にそう言われて、十河は完全に黙り込んでしまう。

 

「全く………頭でっかちの立てる作戦は肝心な所が抜けている」

 

とそこで、腕組みをして仁王立ちしていた熾龍がそう毒を吐く。

 

「何ぃっ!!」

 

「貴様! 何か文句が有るのか!!」

 

十河と桃は、熾龍に噛み付こうとしたが………

 

「…………(ギロリッ)」

 

「「!? ヒイイッ!?」」

 

熾龍が鋭い眼光で睨み付けた瞬間に、2人して尻餅を着いてしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その姿を見て、先程まで作戦にノリノリだった一同も、不安を見せ始める。

 

「じゃあ、舩坂よぉ。オメェには何か考えがあるのか?」

 

するとそこで、俊が弘樹にそう尋ねた。

 

「………西住くん。宜しいかな?」

 

「!? ふえっ!?」

 

突然指名され、みほは驚きの声を挙げる。

 

「この隊の中で、戦車道の経験が有るのは君だけだ。歩兵側からの戦術案だけは完全な作戦は立てられない。是非、戦車側である君の意見を伺いたい」

 

「そ、それは………」

 

「是非お願いします、西住殿! 西住殿の戦術眼なら、間違いありません!!」

 

みほが戸惑っていると、優花里もそう言って来る。

 

一同の視線もみほに集まる。

 

「あ、う………」

 

戸惑いを残したまま、みほは立ち上がって、自分が考えた作戦を述べ始める。

 

「先ず、先輩達が立てた作戦を実行します。ですが、敵はそれを逆手に取って逆包囲される可能性も有ります。それに、経験不足の私達では、長距離砲戦では勝ち目は有りません。ですので、最初の作戦で敵を何両か撃破出来たとしても、すぐにその場から移動して、市街地に向かった方が良いかと………」

 

「成程………遮蔽物の多い市街地で待ち伏せを行い、ゲリラ戦に持ち込むんですね」

 

みほの戦術に、清十郎が頷く。

 

「ハイ。ですが、どっち道、敵の戦車や歩兵が間近まで接近するまで攻撃のタイミングを誤らない事が前提となります」

 

「それは………」

 

「厳しいですね………」

 

だが、そうみほが補足すると、柚子と逞巳が渋い顔をする。

 

「そこは部隊員を信頼するしかないな………あと必要なのは、状況に合わせて臨機応変に指揮を取る有能な指揮官だ」

 

するとそこで、迫信が扇子をパチンと閉じてそう言う。

 

「じゃあ、西住ちゃんが戦車隊の総隊長ね」

 

「えっ?………!? ええぇ~~~~っ!?」

 

突然杏から総隊長任命を受け、みほがまた驚愕の声を挙げる。

 

「では、歩兵部隊の総隊長は私が引き受けよう。異議の有る者は居るかね?」

 

迫信がサラリと自分が歩兵部隊の総隊長になると宣言しながら一同に向かってそう尋ねる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一同からは特に反対する様な声は挙がらず、寧ろ賛成だと言う様に拍手が鳴り始め、大拍手となっていった。

 

「ううう………」

 

その大拍手の中で、みほは困った様子を見せている。

 

ふと、その視線が弘樹を向いた。

 

「…………」

 

他のメンバーの様に拍手はしていないが、弘樹はジッとみほの事を見つめていた。

 

まるで彼女の事を信じていると言う様に………

 

(小官、舩坂 弘樹は、この全身全霊を持って来て西住 みほ殿を助け、その力となる事を此処に誓う)

 

(舩坂くん………)

 

みほの脳裏に、自分の力になると宣言した弘樹の姿が思い起こされる。

 

「………皆さん! よろしくお願いしますっ!!」

 

やがてみほは意を決した様に、皆に向かってそう頭を下げた。

 

途端に一同から再び大拍手が巻き起こる。

 

「頑張ってよ~。勝ったら素晴らしい賞品あげるから」

 

「えっ? 何ですか?」

 

「杏の事だから、どうせ………」

 

そこで、杏から不意に賞品が出ると言う言葉が飛び出し、柚子が驚くが、蛍は何か予想が付いている様子で呟く。

 

「干し芋3日分~っ!!」

 

「やっぱり………」

 

杏がそう言い放つと、蛍が苦笑いする。

 

「あの、もし負けたら?」

 

するとそこで、典子がそう尋ねる。

 

「うん? う~ん………大納涼祭りであんこう踊りを踊ってもらおうかな~」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「何~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

あんこう踊りと言う単語に、女子側は絶望した様な表情となり、男子側は歓喜に似た声を挙げる。

 

「ふえ? な、何?」

 

しかし、只一人、大洗に来て日が浅いみほは、如何言う事なのか分からず困惑する。

 

「あんこう踊りだなんて恥ずかし過ぎるぅ~っ!! あんなの踊っちゃったらもうお嫁に行けないよ~っ!!」

 

「絶対ネットにアップされて、全国的な晒し者になってしまいます~」

 

「一生言われますよね………」

 

と、傍に居た沙織、優花里、華が絶望した表情のままそう悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「そんなにあんまりな踊りなの………」

 

そんな3人の様子を見て、まだ見ぬあんこう踊りへの恐怖を募らせるみほ。

 

「聴いたかよ! あんこう踊りだってよっ!!」

 

「って事は、女学園の皆が『あの格好』で、『あんな事になって』!!」

 

「もう~! 溜まらんですな~っ!!」

 

「おっぱいぷる~んぷる~んっ!!」

 

一方、男子は了平を中心に興奮した様子を見せている。

 

如何やら、男子にとってはあんこう踊りは歓迎すべきものらしい。

 

「…………」

 

そんな露骨な態度に、弘樹は不快感を露にする。

 

すると………

 

「ふむ………女子がそれだけ過酷な事をすると言うのに、男子が何もしないと言うのは少々不公平だな」

 

迫信がボソリとそう呟いた。

 

「「「「「「「「「「………えっ!?」」」」」」」」」」

 

途端に男子側も、先程の興奮した様子から一転して絶望した様子となる。

 

「あ、あの~、生徒会長?」

 

「では、負けた場合、男子側はふんどし一丁で大洗海岸をランニングするとしよう」

 

「「「「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

了平が何か言う前に迫信がそう宣言し、男子側も騒然となった!

 

「ちょちょちょちょっ! 待って下さいよ、会長閣下~っ!!」

 

「そりゃ厳し過ぎますって~っ!!」

 

「ならば勝ち給え………」

 

抗議の声を挙げる男子生徒に、迫信は扇子で口元を隠しながら不敵にそう言い放つ。

 

「その通りだよ!! 勝てば良いんでしょっ!!」

 

「分かりました! 負けたら私もあんこう踊りやります! 西住殿一人に、辱めは受けさせませんっ!!」

 

「私もやります!!」

 

「私も!! 皆でやれば恥ずかしくないよっ!!」

 

「皆………ありがとう」

 

沙織、優花里、華、みほがそう言い、Aチームの団結が高まる。

 

「絶対に負けられなくなっちまったなぁ………」

 

「試合に臨む以上、そういう気持ちは常に持たねばならん………」

 

頭を抱えながら溜息混じりに呟く地市の隣で、弘樹はそう言い放つ。

 

(全国大会で優勝を目指す以上、経験が少ない我等は実戦で磨かれるしかない………茨の道だな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

チーム対抗の練習試合はみほ達のAチームと弘樹達のα分隊の勝利に終わりました。
しかし、息つく間もなく、次の別の学校との練習試合が始まります。

皆大好き、格言ティータイムお姉様こと『ダージリン』が率いる聖グロリアーナ女学院戦車部隊と、それを守る聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊。
いよいよ本格的な機甲部隊VS機甲部隊の戦いになります。
原作におけるグロリアーナとの試合は、ガルパン人気の火付けともなった話ですので、気合を入れて書きたいと思っています。

今回チラリと登場しましたが、聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊の面々の活躍も楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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