ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第78話『突撃軍歌です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第78話『突撃軍歌です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合にて………

 

慢心していた大洗機甲部隊は罠に嵌り、サンショウウオさんチーム達を除いて完全に包囲されてしまう………

 

更に、大洗女子学園廃校の件が皆に知られる事となり、負ける事は出来なくなる………

 

偵察部隊が犠牲を出しながらも決死の思いで、包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の情報を収集していた中………

 

それを援護した謎の狙撃兵………

 

そして、別働隊に襲われたサンショウウオさんチームを助けた者が居た………

 

その正体は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

観客席サイド………

 

『只今、試合を続行するか、協議しております。繰り返します。只今、試合を続行するか協議しております』

 

主審のレミの声で、そう言うアナウンスが響き渡る。

 

「ますます大洗には不利ですね。敵に四方を囲まれ、この悪天候………きっと戦意も………」

 

そのアナウンスを聞きながら、ペコがそう呟く。

 

「それはマズイわね………」

 

「例えまだ戦うとしても、戦意が落ちていたら普段の力は発揮出来ん………」

 

瑪瑙と堅固も、モニターを見ながらそう言い合う。

 

「やっぱり駄目なのかな………」

 

「うん………」

 

琥珀と瑠璃も諦めムードである。

 

「………それは如何かしらね?」

 

しかしそこで、ダージリンが不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「「…………」」

 

そして、アールグレイとジャスパーは、サラリとモニターに映っているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の車両表から、一気に車両が減ったのをジッと見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………

 

「降伏時間まで、あと何時間だ?」

 

「………1時間」

 

桃がそう尋ねると、柚子がそう返す。

 

「1時間をこの状態で待つのか………」

 

教会内は隙間風どころではない風が雪と共にドンドン入り込んでおり、ほぼ外と変わらない気温となっていた。

 

「何時まで続くんだろうね、この吹雪………」

 

「寒いね~………」

 

「うん………」

 

「お腹空いた………」

 

炬燵の様に毛布を取り囲んで入っているウサギさんチームの中で、あや、優希、桂利奈、あゆみがそう呟く。

 

「やはり、コレは八甲田山………」

 

「天は、我々を見放した………」

 

「隊長! あの木に見覚えがありますぅ!!」

 

入り口付近に立っていたカバさんチームは、近代の登山史における世界最大級の山岳遭難事故である『八甲田雪中行軍遭難事件』を思い起こしている。

 

「良い事考えた。ビーチバレーじゃなくて、スノーバレーって如何ですかね?」

 

「良いんじゃない。知らないけど………」

 

アヒルさんチームは、柱の根元に体育座りして、若干上の空気味にそんな事を言い合っている。

 

「………すー………すー………」

 

「寝ちゃ駄目だよ、パゾ美」

 

カモさんチームは、3人で1枚の毛布に包まり、只ジッと耐えている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そして歩兵部隊の面々は会話すら無く、各々に手持無沙汰気味に黙々と武器の手入れをしていた。

 

「食糧は?」

 

「こういう事態は予測してなかったので、さっきゾルダートさんが調理してくれたスープの他には乾パンしか………」

 

「クッ、すまない………満足な物も振る舞えないとは………」

 

桃と柚子がそう言い合っていると、スープを調理したゾルダートがそう謝罪する。

 

「そんな! 気にしないで下さい! この状況下でアレだけの物を作れただけ凄いですよ!」

 

蛍がそう言ってフォローする。

 

ゾルダートが調理したスープはまるで高級レストランで出て来てもおかしくないくらいの美味であり、一時的に士気は持ち直したかに見えたが、厳しい寒さですぐにまた低下してしまった………

 

「何も食べる物無くなったね………」

 

「さっき偵察中に見ましたけど、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の人達はボルシチとか食べてました」

 

沙織がそう呟くと、楓は偵察中に見た光景を伝える。

 

「マジかよ………」

 

「チキショー、此れ見よがしにしやがって………」

 

そう言いながら、地市と了平が包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子を見やる。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊はすっかり勝った気で居る様で、歩兵部隊が焚火を取り囲んで、軽食を摂りながら楽しそうに談笑している。

 

戦車部隊の隊員も、戦車から降りてその談笑に参加している。

 

中には、コサックダンスに興じている者達の姿も在った。

 

「美味しそうだな………」

 

「それに暖かそうです………」

 

「やっぱり、アレだけの機甲部隊を形成している学校ですからね………」

 

その光景を見ていた麻子と華、優花里がそう言い合う。

 

「………学校………無くなっちゃうのかな?」

 

とそこで、沙織がポツリとそう呟いた。

 

「そんなの嫌です………私はこの学校に居たい! 皆と一緒に居たいです!!」

 

その呟きを聞いた優花里がそう声を挙げる。

 

「そんなの分かってるよ………」

 

「如何して廃校になってしまうんでしょうね………此処でしか咲けない花もあるのに………」

 

「…………」

 

沙織がそう返すと、華がそう言い、麻子も表情を険しくした。

 

「皆、如何したの? 元気出して行きましょう!」

 

士気が低下している面々を見て、みほが激励する様にそう言う。

 

「うん………」

 

「さっき皆で決めたじゃないですか! 降伏しないで最後まで戦うって!!」

 

「「「「「「「「「「は~い…………」」」」」」」」」」

 

「分かってま~す………」

 

みほは更にそう言うが、皆からはやる気の無い返事が返って来る。

 

「オイ、もっと士気を高めないと」

 

「えっ?」

 

「このままじゃ戦えんだろ。何とかしろ! 総隊長だろう!」

 

「え、ええっ!?」

 

桃の無茶振りにみほは戸惑う。

 

「相変わらず口先だけは達者だな………」

 

とそこで、熾龍の毒舌が桃へ飛ぶ。

 

「!? 何だと!?」

 

それに桃がいつもの様に言い返そうとしたところ………

 

「河嶋副隊長。今回ばかりは栗林先輩に賛成させてもらいますよ」

 

歩兵部隊の1人から、更にそんな声が挙がった。

 

「!? なっ!?」

 

「いつもいつも口ばっかりで………」

 

「その癖、自分は何の役にも立たないんだからよぉ………」

 

「全くだぜ………」

 

桃が驚いていると、更に別の歩兵達も口々にそんな声を挙げる。

 

「! うう………」

 

「オイ! そんな言い方はねえだろう!!」

 

思わず桃が目尻に涙を浮かべると、弦一朗がその歩兵達にそう反論する。

 

「だって事実じゃねえかよ」

 

「んな事言ってる場合か! コレからプラウダとツァーリの連中にブチ噛まそうって時によ!!」

 

「………なあ? やっぱり降伏するってのは駄目か?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

するとそこで、歩兵部隊からそんな意見が挙がり、戦車部隊の一同が驚愕する。

 

「このまま戦ったって勝てるとは限らねえしよぉ………コレ以上辛い思いするくらいなら、いっそ降伏しまった方が………」

 

「阿保抜かせ! ワイ等が負けたら、大洗女子学園が潰れてまうんやで!!」

 

何を馬鹿な事をと大河が叫ぶが………

 

「別に良いだろ! 俺達の学校はそのままなんだからよ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

歩兵の1人がそう声を挙げ、大洗機甲部隊の一同が固まる。

 

「あ………」

 

言った歩兵も後悔したのか、思わず口を押えたが、その瞬間!!

 

「この馬鹿たれぇっ!!」

 

大河が有無を言わさず、その歩兵を殴り飛ばした!!

 

「ガッ!?………この野郎!!」

 

殴られた歩兵は、大河に反撃する。

 

「ゴホッ! 阿保んだらぁっ!!」

 

そのまま大河と歩兵は取っ組み合いの喧嘩を始める。

 

「オイ、何やってんだっ!?」

 

「馬鹿! やめろって!!」

 

「親分! 駄目です!!」

 

「落ち着いて下さい!!」

 

慌てて大洗連合の舎弟達や他の歩兵が止めに入るが………

 

「オイ、そっちを押さえろって!」

 

「ウルセェッ! そっちで何とかしろ!!」

 

「イデッ!? 誰だ! 今俺を殴ったのは!?」

 

止めに入った歩兵達の間でも殴り合いが始まり、大喧嘩に発展する。

 

「ちょっ! 皆! 止めてよぉっ!!」

 

「落ち着いて下さい!」

 

「仲間割れしている場合じゃないですよ!」

 

沙織、華、優花里から悲鳴の様な声が挙がるが、頭に血が上っている大洗歩兵達には届かない。

 

(ど、如何しよう!? 皆が!?………)

 

みほも只々オロオロとするばかりである。

 

と、そんなみほの脳裏に、弘樹の姿が過った。

 

(! 舩坂くん………)

 

そこでみほは、喧嘩をしている大洗歩兵達を改めて見やる。

 

「…………」

 

そして、何かを決意したかの様な表情となる。

 

「テメェ、この野郎!」

 

「上等だ、ボケェッ!!」

 

「止めるんだ、諸君!!」

 

迫信が身体を張って止めようと、大洗歩兵部隊の大喧嘩の中に割り込もうとした、その瞬間!

 

「貴様等ぁーっ!! この危急存亡の時に仲間割れとは何事だぁーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

脳の芯まで響き渡りそうな怒声が飛び、喧嘩をしていた大洗歩兵部隊の動きが一斉にピタリと止まった。

 

「!? 弘樹っ!?」

 

「舩坂くんっ!?」

 

その怒声が弘樹のものとそっくりであった事に気付いた地市と沙織が振り返る。

 

しかし、その怒声を挙げていたのは………

 

「に、西住殿!?」

 

驚きの声を挙げる優花里。

 

そう………

 

怒声を挙げたのは弘樹ではなく………

 

何と、みほであった。

 

「…………」

 

普段は人を怒鳴りつける様な事など決してしない筈のみほが、険しい顔をして喧嘩をしていた大洗歩兵達を見据えている。

 

………それでも可愛いと思えてしまう辺り、彼女の根の優しさが垣間見れる。

 

「我々は今、大洗の興廃を掛けた重要な局面に面してしている! その重要な局面で内輪揉めなどして………貴様等それでも日本男児か!? 大和魂を何処へやったぁっ!!」

 

「み、みぽりん………」

 

「まるで舩坂さんそのものです………」

 

「…………」

 

沙織と華が驚きを露わにし、麻子も唖然としている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同は、そんなみほの姿に注目する。

 

「………って、舩坂くんだったら言うと思うよ」

 

そこでみほは、いつもの様子に戻り、そう言い放つ。

 

「西住総隊長………」

 

「総隊長………」

 

喧嘩していた歩兵部隊の隊員達が、バツが悪そうな様子を見せる。

 

「ゴメンね、怒鳴っちゃって………お詫びに面白い事するね」

 

「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」」

 

と、続くみほの言葉を聞いて、大洗機甲部隊の面々が首を傾げると………

 

みほは何と、『あんこう踊り』を踊り始めた。

 

「み、みぽりん!?」

 

「あの恥ずかしがり屋のみほさんが、自分から………」

 

その様に再度沙織と華が驚きを示す。

 

「皆を盛り上げようとしてるんですね………」

 

「微妙に間違ってるがな………」

 

優花里がそう言うと、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「私も踊ります!」

 

「やりましょう!」

 

「皆、行くよ!」

 

「仕方ないな………」

 

とそこで、あんこうチームの面々もあんこう踊りに参加。

 

それを皮切りに、他の戦車チームも、次々とあんこう踊りを踊り始めた。

 

「な、何か変な事になってないか?」

 

「だが、盛り上がって来てはいるな」

 

鋼賀がそう呟くと、俊がそう返す。

 

すると、そこで………

 

歩兵部隊の中からも、歌声が響き始めた。

 

「! ハムスターさん分隊!?」

 

十河が驚きの声を挙げる。

 

歌い始めていたのは、勇武達ハムスターさん分隊の面々を中心にした面子だった。

 

歌っている歌は、歩兵達の間で応援歌として親しまれている歌………『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』だった。

 

『苦しい時には、歌を歌いなさい。歌は命令を順守する事を強要される歩兵に許された、唯一神聖なる暗黙の権利よ。両手が使えなくなっても、歌は歌えるわ。歌うなと、上官は言わないわ。何故なら、上官もまた歌うからよ。苦しいとき哀しいとき、己を奮い立たせるその時に、只一つ味方となるのは歌。ガンパレードマーチ(突撃行軍歌)よ』

 

大洗歩兵達の脳裏に、教官である空が言っていた言葉が思い起こされる………

 

やがて、先程まで喧嘩をしていた歩兵達が、大声で歌い始めた。

 

それを皮切りに、大洗歩兵隊の面々は次々に、『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』を歌い始める。

 

廃墟の教会の中に、戦車チームの『あんこう踊り』と、歩兵部隊の『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席サイド………

 

「…………」

 

「お嬢が………」

 

その様子は、大型モニターを通じて観客席側にも伝えられており、百合は頭を抱え、新三郎は驚きを露わにしている。

 

「「…………」」

 

しほは呆れた様な表情を露わにしており、まほは只ジッと無表情でその様子を見ている。

 

「アハハハハ! コレは傑作だ!!」

 

都草は愉快そうに笑っている。

 

「あ、ソレソレ! アンアンであります~!!」

 

そして久美は、便乗するかの様に観客席であんこう踊りを踊り始めている。

 

 

 

 

 

観客席近くの小高い丘の上………

 

「…………」

 

「ハラショーですわ」

 

唖然としているペコの横で、ダージリンは大洗機甲部隊の様子をそう評する。

 

「歌か………」

 

「そう言えば、最近歌ってないですね………ガンパレード・マーチ」

 

堅固と琥珀がそう言い合う。

 

「何時からかしらね………」

 

「そんな事をやってる暇があったら戦うって思い始めたのは………」

 

瑪瑙、瑠璃もそんな事を言い合う。

 

「…………」

 

「ハハハハ! コレは愉快愉快!!」

 

そしてアールグレイはそんな大洗機甲部隊の事をジッと見つめ、ジャスパーは愉快そうに笑い声を挙げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊を包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の中では………

 

「オイ、大洗の連中、何かやってるぞ?」

 

「何だ?」

 

「分からんが、何だか楽しそうな………」

 

若干やる気が感じられないツァーリ歩兵達が、大洗機甲部隊が立て籠っている教会から響いてくる来る楽しそうな声を聞いて、そんな事を言い合う。

 

「貴様等ぁっ! 何をボケッとしているぅっ!!」

 

「「「!?」」」

 

そこで怒声が響いて来て、そのツァーリ歩兵達は慌てて振り返ると、そこには分隊長と思わしきツァーリ歩兵の姿が在った。

 

「サボっている暇が有ったらキッチリ見張りをしていろ!」

 

「つってもよぉ、いくら防寒着を着てたって、この寒さは堪えるぜ」

 

「そろそろ交代させてくれよ」

 

怒鳴るツァーリ歩兵分隊長に、ツァーリ歩兵達はそう言うが………

 

「喧しい! 『正規部隊』はフラッグ車と隊長車の防御で手一杯だ! それに見張りは貴様等『非正規部隊』の役割だろう! 文句を言うな!!」

 

「オイ、そりゃねえだろ!!………」

 

と、『非正規部隊』と言われたツァーリ歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間………

 

その足元に銃弾が撃ち込まれた!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「コレ以上不平不満を言うならば、カチューシャ総隊長の名の元に粛清を行う!」

 

驚く非正規部隊のツァーリ歩兵達に、ツァーリ歩兵分隊長は銃口から硝煙の上がっているトカレフTT-33を向けてそう言い放つ。

 

「「「「「!!………」」」」」

 

それを見た非正規部隊のツァーリ歩兵達は何も言えなくなる。

 

「分かったな………では、見張りを続けろ」

 

ツァーリ歩兵分隊長は一方的にそう言い放つと、その場を去って行った。

 

「チキショー………俺達はこんな扱いかよ………」

 

「強制的に駆り出されて、クソ寒い中で見張り見張り………」

 

途端に、非正規部隊のツァーリ歩兵達から愚痴が漏れ始める。

 

「! うっ!………」

 

と、そこで、その中の1人がフラついたかと思うと、片膝を地に着いた。

 

「!?」

 

「オイ、如何した!?」

 

慌ててその歩兵の元に集まる非正規部隊のツァーリ歩兵達。

 

「すまねえ………実はちょっと風邪気味でよぉ………」

 

「馬鹿! 何で言わなかったんだ!!」

 

「言ったところで休ませてなんざもらえねえだろうさ………」

 

そう言いながら、ドンドンと顔色が悪くなって行くツァーリ歩兵。

 

「クソッ! 如何すりゃ良いんだ!?」

 

別のツァーリ歩兵がそう声を挙げると………

 

「…………」

 

風邪気味のツァーリ歩兵の眼前に、何かの薬が入っている小瓶が差し出された。

 

「!?」

 

「風邪薬だ………使え」

 

そう風邪気味のツァーリ歩兵に言い放つ、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

「あ、ありがてぇ………」

 

小瓶を受け取ると、中の錠剤を口に放り込む風邪気味のツァーリ歩兵。

 

「助かったよ、ありがとう」

 

「いや………」

 

「お前どこの部隊だ?」

 

と、そのツァーリ歩兵の顔が見慣れなかった為、非正規部隊のツァーリ歩兵の1人がそう尋ねる。

 

「隣で見張りをしている部隊だ。歩哨をしていたら、目に付いたのでな………」

 

やや離れた場所で、同じ様に見張りをしているツァーリ歩兵達を、後ろを向けたまま親指で指してそう言う『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

「って事はお前も非正規部隊か」

 

「お互い大変だな」

 

「ああ………」

 

口数の少ない『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

まるで相手から話を聞き出す………

 

或いは、自分の事を余り詮索されない様にしているかに見える………

 

「全く本当に冗談じゃないぜ。幾ら2連覇の為とは言え、元々の歩兵道の受講者に加えて、『運動系の部活メンバー全てをツァーリ歩兵部隊として臨時編成する』だなんてよぉ」

 

「単位やテスト免除の報酬は確かに大きいが………俺達にだって都合と言うものがある」

 

「俺なんて明後日が部活の試合だぜ。ゼッテェー本調子で出れねえよ」

 

口数が少ない『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』を恰好の相手と見たのか、次々と愚痴と共に情報を喋り出す非正規部隊のツァーリ歩兵達。

 

如何やら彼等は元々歩兵道の受講者ではなく、運動系の部活などから半ば無理矢理引っ張って来られた者達らしい。

 

10万人と言う歩兵人数を確保出来たのは、コレが要因らしい。

 

「あ~あ~、いっそ正規部隊の連中に目に物見せてやっかなぁ」

 

「馬鹿、んな事したら粛清と言う名の補習だっての」

 

「だよな~………」

 

「………良いのか?」

 

「えっ?」

 

不意に『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』がそう呟き、非正規部隊のツァーリ歩兵が間抜けた返事を返す。

 

「本当にソレで良いのか?………」

 

短く、在り来たりな言葉………

 

しかし、妙に重みが感じられた………

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを聞いた非正規部隊のツァーリ歩兵達は黙り込む。

 

「………いや、すまない。気の迷いだ。忘れてくれ………原隊に復帰する」

 

そこで『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』はそう言い、隣の見張りをしている部隊の元へと向かった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

残された非正規部隊のツァーリ歩兵達は、顔を見合わせ、何かを考え込む様な様子を見せる。

 

その後………

 

『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』は、次々と非正規部隊の元を訪れ………

 

まるで不満を煽るかの様な言葉を残して行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………

 

未だに、戦車チームのあんこう踊りと、歩兵部隊のガンパレード・マーチ斉唱が続いていた。

 

既に先程までの通夜の様な沈痛な雰囲気は無く、まるで祭りでもしているかの様な賑やかな雰囲気となっている。

 

「………あ! あのぉっ!!」

 

とそこで、教会の入り口から声が響いた。

 

「「「「「「「「「「あ………」」」」」」」」」

 

「プラウダ校の………」

 

そこには、降伏勧告の返事を聞きに来たと思われる、プラウダ戦車部隊の隊員の姿が在った。

 

「もうすぐタイムリミットです。降伏は?」

 

「しません。最後まで戦います」

 

そう言うプラウダ戦車部隊の隊員に、みほは即座にそう言い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の野営陣地………

 

「で? 土下座?」

 

「いえ、降伏はしないそうです」

 

大洗機甲部隊が降伏しないと言う情報は、すぐに総隊長であるカチューシャの元へと届けられる。

 

「ああ、そう………全く、待った甲斐がないわね」

 

「手間取らせやがって………」

 

「そっちがその気なら、こっちも容赦しねえ………全員叩き潰してやるぜ」

 

ノンナからの報告を聞いたカチューシャが不満そうに言うと、ピョートルとマーティンも殺気を出しながらそう言い合う。

 

「それじゃあ、さっさと片付けてお家に帰るわよ」

 

「…………」

 

寝ぼけ眼を擦りながらカチューシャがそう言う中、デミトリだけが1人、何か嫌な予感を感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中………

 

「いよいよですね………」

 

「うん………」

 

Ⅳ号の乗り込んだあんこうチームの中で、優花里がそう言うと、みほが返事を返す。

 

「「…………」」

 

華と麻子の顔も、今までにない緊張で、きつく引き締まっている。

 

「? アレ?」

 

とそこで、通信機のチェックをしていた沙織が、何かに気付いた様に周波数を調整する。

 

「? 沙織さん、如何したの?」

 

「うん、通信回線に何か妙なノイズが………」

 

みほが尋ねると、沙織は通信機を弄りながらそう返す。

 

「ノイズ? コチラに回してもらえますか?」

 

「了解」

 

みほは車長用のヘッドフォンを掛けると、沙織がキャッチしたノイズに耳を傾ける。

 

『………ら………ふ………か………お………ね………』

 

すると、ノイズに交じって声の様なモノが聞こえて来る。

 

「?」

 

それを確かめようと、ヘッドフォンを抑え、良く聞き取ろうとするみほ。

 

すると………

 

『………あんこうチーム、応答願います』

 

「!? その声は!?」

 

不意に通信がクリアになり、音声がハッキリと聞こえ、みほは驚愕の声を挙げた。

 

何故ならその声は、みほが待ち焦がれていた人物のものだったからだ………

 

『こちらは大洗機甲部隊あんこうチーム随伴歩兵分隊・分隊長………舩坂 弘樹』

 

舩坂 弘樹………

 

遅参

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

降伏時間が来るのを極寒の中で待つ大洗機甲部隊。
寒さと飢えで、みるみる士気が低下する。
遂には歩兵部隊で喧嘩が始まり、あわや内部崩壊かと思われたその時………
みほは弘樹を真似て、叱咤を飛ばした。
そして、士気を上げる為に、自ら『あんこう踊り』を踊る。
それに呼応するかの様に、歩兵部隊も『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』を斉唱し始める。

遂に降伏時間が訪れ、大洗機甲部隊が作戦を始めようとしたその時!
遂に、あの男が!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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