ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第76話『絶対絶命です(後編)!』
前年度の優勝チーム、プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合に臨んだ大洗機甲部隊。
初手にて打撃を与え、優位に立ったと思っていた大洗機甲部隊だったが………
コレまで勝利して来た故の慢心により………
プラウダ&ツァーリ機甲部隊の罠に嵌り、完全に包囲されてしまう………
怪我人を出さない為に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊からの降伏勧告を受け入れようとするみほ。
だが、その瞬間………
桃と杏の口から遂に………
大洗女子学園廃校の話が、最悪のタイミングで話されてしまうのだった………
第5回戦・試合会場………
北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………
窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中にて………
「大洗女子学園が廃校になるって………如何言う事ですか!?」
未だ愕然となっていた大洗機甲部隊のメンバーの中で、逸早く我に返ったみほが、杏達にそう問い質す。
「言葉通りさ………ウチの学校、最近生徒の数も減ってるし、目立つ活動実績も挙げてないからね。そんな学校に出すお金は無いって、文部科学省がさぁ」
杏は他人事の様な口調でそう言うが、その表情には曇りが見える。
「でも、今年度中に何か実績を挙げれば廃校を取り下げてくれる………文部科学省の人とそう密約を結んだの」
「それで戦車道を復活させたんですか………」
柚子が補足する様に言うと、みほがそう呟く。
「戦車道をやれば、助成金も出るって聞いてたし、それに学園運営費に回せるしね」
「じゃあ、世界大会と言うのは嘘だったんですか!?」
「それは本当だ」
杏の言葉に、梓がそう声を挙げると、桃がそう返す。
「でも、いきなり優勝なんて無理ですよぉ!」
「いや~、昔盛んだったんなら、もっと良い戦車が有ると思ってたんだけど………予算が無くて、良いのは皆売っちゃったらしいんだよね」
そこで杏から更に衝撃的な発言が飛び出す。
「では、此処にあるのは………」
「うん、皆売れ残ったヤツ」
優花里が大洗戦車部隊の戦車達を見ながらそう言うと、杏はアッサリとそう白状する。
「それでは優勝など、到底不可能では………」
「だが、他に考えつかなかったんだ………古いだけで、何も特徴が無い学校が生き残るには………」
桃が何時になく沈んだ声でそう呟く。
「無謀だったかもしれないけどさぁ………後1年、泣いて学校生活を送るより、希望を持ちたかったんだよ」
「皆、黙って居て、ゴメンナサイ」
「私も知ってたんだけど、口止めされてて………」
杏、柚子、蛍も続く様にそう言い放つ。
「会長! 会長も知っていたんですか!?」
「ああ………」
とそこで、大洗歩兵部隊の方でも、迫信にそんな質問が飛び、迫信は何時もの不敵そうな様子では無く、真剣な表情でそう答える。
「それで歩兵道にあんな法外な特典を付けて、歩兵部隊の再編を………」
「でも! 会長閣下だったら、そんな事しないでも、文部省や政府に話を着けられるんじゃ………」
大詔が納得が行った様な表情となると、光照がそう言う。
「仮に私が話を着けたとしても、大洗女子学園の生徒数減少を止める事は出来ない」
「そ、それは………」
迫信にそう返されて、光照は黙り込む。
「一時的な回避では意味が無い。大会で優勝と言う実績が有れば、生徒数の増加も見込める。だからこそ、歩兵部隊を再編したのだよ」
「会長………」
「だが、皆を騙していた事も事実だ………本当に申し訳無い」
そう言うと、迫信は大洗歩兵部隊の面々に向かって深々と頭を下げた。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
あの迫信が頭を下げると言う事態を目の当たりにし、大洗歩兵部隊の面々は言葉を失う。
「………バレー部復活どころか、学校が無くなるなんて………」
「無条件降伏………」
「単位修得は、夢のまた夢か………」
一方、大洗戦車部隊の面々の方も、まるで通夜の様な雰囲気となっており、ウサギさんチームのメンバーの中には、涙を浮かべて泣き始める者も出ていた。
「この学校が無くなったら、私達バラバラになるんでしょうか?」
「そんなのやだよー!」
華と沙織がそう声を挙げる。
明るい要素は何1つ無く、大洗機甲部隊に暗い雰囲気が伸し掛かる………
だが………
「………まだ試合は終わってません」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
そんな中、そう声を挙げたのは、他ならぬみほだった。
「まだ負けたワケじゃありませんから」
「西住ちゃん?」
「頑張るしかないです。だって、来年もこの学校で戦車道を、歩兵道の皆さんと一緒にやりたいから………皆で」
「総隊長………」
「西住総隊長………」
大洗機甲部隊全員の視線が、みほに集まる。
「私も! 西住殿と同じ気持ちです!!」
「そうだよ! とことんやろうよ!! 諦めたら終わりじゃん! 戦車も恋も!」
「まだ戦えます!!」
「うん………」
それに逸早く同意の声を返したのは、やはり優花里、沙織、華、麻子のあんこうチームだった。
「降伏はしません! 最後まで戦い抜きます! 但し………皆が怪我しないよう、冷静に判断しながら」
「うん………」
みほのその言葉を聞いて、杏は軽く笑みを浮かべて頷いた。
(やはり彼女には天性の隊長としての素質が有る………)
そんなみほの姿に、迫信はみほの才能の高さを改めて認識する。
「よし、諸君! 生き残っている工兵を中心に、戦車チームと協力し、損傷した戦車の応急処置に掛かってくれたまえ! 寒さでエンジンが掛かり難くなると思われるので、エンジンルームの暖気も忘れずに!」
「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」
と、続けて迫信がそう命じると、大洗歩兵部隊は、損傷した戦車部隊の戦車の修理と整備に取り掛かる。
「………我々は作戦会議だ!」
そこで桃がそう言い、首脳陣は作戦会議へと移る。
「そうだ! まだサンショウウオさんチームとアリクイさんチーム! それにタコさん分隊とおおかみさん分隊が包囲網の外に居るんじゃ!!」
するとそこで、蛍が思い出した様にそう声を挙げる。
「! ああっ!」
「沙織さん! すぐに連絡を!!」
「分かった!」
柚子が声を挙げると、みほがそう言い、沙織がⅣ号の通信手席に潜り込む。
「けど、たった戦車2両と随伴歩兵分隊だけで、あの包囲網を如何にか出来るんでしょうか?」
「手数が増えるに越した事はない。作戦の幅が広がれば、その分逆転の手立ても見え易くなる」
不安がる優花里に、迫信がそう返す。
『さあ、完全にプラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲されてしまった大洗機甲部隊の本隊! しかし、まだ試合を諦めていない様です!!』
『状況は絶望的と言っても良いですが、個人的に大洗機甲部隊には頑張って欲しいですね』
ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が流れる中、教会跡の外では、降りしきる雪が激しさを増して来ていた………
◇
一方、その頃………
そのサンショウウオさんチームとアリクイさんチーム………
そして随伴分隊のタコさん分隊とおおかみさん分隊は………
「ハイ………ハイ………窪地の廃村ですね。分かりました。すぐに向かいます」
通信手の伊代がそう言葉を交わすと交信を終了する。
「皆さん! 西住総隊長達がこの先の窪地の中にある廃村で、プラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲されています! 救出しますよ!!」
「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」
そこで聖子が、随伴しているタコさん分隊と、アリクイさんチームとおおかみさん分隊にそう指示を出す。
そのまま一同は、みほ達が包囲されている廃村へと向かう。
「………やっぱり本当だったんだ………廃校の話………」
と、その進軍中、聖子がボソリとそう呟いた。
「聖子ちゃん………」
「「「…………」」」
それを聞いた伊代が聖子の方を見やり、唯、明菜、郁恵の面々は黙り込む。
「そうならない為にスクールアイドルになって、今までアイドルも戦車道も頑張って来たのに………もう、駄目なのかな?………」
「! 何言ってるんですか!? 聖子さん!!」
「そうだぜ! お前らしくないぞ!!」
「まだ負けたと決まったワケじゃないでーす!」
弱気な呟きが漏れる聖子に、叱咤の様な明菜、唯、郁恵の台詞が飛ぶ。
『けど、僕達が行って、何か出来るのかな? 相手は戦車の数でも性能でも勝ってる上に、10万人の歩兵部隊が居るのに………』
とそこで、アリクイさんチームのねこにゃーが、通信でそう会話に割って入って来る。
「それは………」
「「「…………」」」
ねこにゃーの言葉に、唯達は何も言い返せない。
『折角リアルでも友達になれたのに………』
『もう離れ離れになってしまうだっちゃ?』
ももがーとぴよたんからも、沈んだ様でそんな声が聞こえて来る。
「まさかそんな事になっていたなんて………」
「Oh………イッツ、ショックネ」
随伴しているタコさん分隊の中でも、弁慶、ジャクソンからそう声が挙がる。
「いきなりそんな重い運命背負って戦えって言われたってよ………」
「急には受け入れられへんわ………」
おおかみさん分隊の方でも、海音と豹詑がそんな声を挙げる。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
他の分隊メンバーも、重たい雰囲気に包まれている。
「エース、皆が………」
「イカン。慣れない雪中戦に参っている………身体が冷えて、心まで冷たくなっているんだ。この分では、恐らく本隊の皆も」
意気消沈しているメンバーを見て、拳龍とエースがそう言い合う。
「白狼………」
「情けねえ声出すんじゃねえ。まだ負けるって決まったワケじゃねえぞ」
元気の無い声で飛彗が白狼に呼び掛けると、雪の中で器用にバイクを乗りこなしていた白狼がそう返す。
(大洗女子学園が廃校だ?………クッソッ!………何でこのタイミングで言うんだよ!………西住総隊長の事だってあるってのによぉ!)
だが、心の中ではそう悪態を吐いていた。
(………秋山の奴、大丈夫か?………)
そんな中で白狼の思考は、みほの勘当の件を知る優花里の事へと向かう。
(自分達の学校が無くなって、西住総隊長が実家から勘当………アイツにしてみればダブルパンチを喰らう様なもんだ………)
『私は………神狩殿の事は………ずっと前から仲間だと………友達だと思っていたであります………けど………神狩殿はそうは思っていてくれなかったのですね………』
脳裏にファミレスでの優花里の言葉が蘇る。
(………クソッ!!)
白狼は只々、心の中で悪態を吐く。
と、その時………
「「………!?」」
どんよりとした一同の中で、何時もと変わらぬ様子だったシャッコーと陣が何かに気付いた様に周りを見回す。
「? 如何したんだ?」
その様子に気付いた海音が声を掛けると………
「伏せろっ!!」
シャッコーがそう叫んだかと思うと、進軍中の一同の後方で、爆発が上がった!!
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「な、何っ!?」
驚く歩兵部隊の一同と、慌ててハッチを開けて車外に出る聖子。
「居たぞぉっ! 大洗の残存部隊だ!!」
「始末してやれぇ!!」
「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」
すると、そう言う台詞と共に、IS-1、ISU-152、KV-1、SU-100、SU-76のプラウダ戦車部隊を率いて、ツァーリ歩兵部隊が突っ込んで来た。
「!? プラウダ&ツァーリ機甲部隊!」
「別働隊!?」
聖子と、同じ様に車外に出ていたねこにゃーが驚愕の声を挙げる。
「イカン! 敵の戦車は既に此方を射程内に納めているぞ!」
「チイッ!!」
迫り来るプラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊を見て、エースがそう叫び、白狼が舌打ちをするのだった。
『あ~っと! 運良く包囲を逃れていた大洗機甲部隊の面々に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊が襲い掛かるーっ!!』
『コレはマズイですよぉ』
◇
一方、その頃………
観客席の方では………
「完全に囲まれてるんですけど、お嬢は無事なんでしょうか?」
「落ち着きなさい、新三郎」
モニターに映っている大洗機甲部隊の状況を見て、新三郎が心配しそうな声を挙げるが、逆に百合の方は落ち着いていた。
観客席近くの小高い丘の上………
「如何してプラウダとツァーリは攻撃しないんでしょう?」
「プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長は楽しんでるのよ、この状況を。彼女は搾取するのが大好きなの………プライドをね」
「相変わらず悪趣味ね………」
完全に包囲しているにも関わらず、攻めに転じようとしないプラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子を見てオレンジペコがそう言うと、ダージリンがそう説明し、瑪瑙が悪態を吐く様にそう言う。
「隊長………みほちゃん達は勝てるんでしょうか?」
「分からん………今度ばかりは駄目かもしれないな………」
「そんなっ!?」
琥珀、堅固、瑠璃の顔には、今回ばかりは駄目かと言う、諦めにも似た表情が浮かんでいる。
そして、別の観客席………
試合を観戦していたしほ、まほ、そして都草は………
「帰るわ。こんな試合見るのは時間の無駄よ」
しほは早々に見切りを着けた様子でそう言い放ち、席を立とうとする。
「待って下さい」
「?………まほ?」
しかし、まほがそれを引き留める。
「まだ試合は終わってません」
「その通りですよ、西住師範。それにこの試合の勝敗でみほちゃんの処遇を決めるのでしょう? ならば最後まで御覧になられては如何ですか?」
まほがそう言うと、都草もしほに向かってそう言う。
「梶くん………貴方はこの状況から大洗が逆転するとでも?」
「ええ、思っていますよ」
しほが厳しい表情でそう問い詰めると、都草は笑いながらそう言う。
「馬鹿な………みほ達が勝利する要素は何1つ無いわ」
「今はですね………」
そうきっぱりと言い放つしほだったが、都草はモニターを見ながらそう返す。
「まだ『彼』が来ていませんからね………」
「? 『彼』?」
「英霊の子孫がですよ………」
首を傾げるしほに、都草は不敵に笑ってそう返した。
と………
「まだ望みは残っているでありますーっ!! 最後の最後まで希望を捨ててはいけないでありますーっ!! 諦めたらそこで試合終了だって、有名バスケ漫画でも言っていたでありますーっ!!」
大洗機甲部隊の勝利を願う応援旗を振り回している久美が、会場中に響き渡らんとばかりに大声を挙げている。
「…………」
そんな久美の姿を見たしほは、何とも言えない表情となる。
「毛路山………」
「ハハハ、毛路山くんはブレないなぁ」
まほも頭を抱えるが、都草は楽しそうに笑うのであった。
◇
再び試合会場内………
プラウダ&ツァーリ機甲部隊の野営陣地にて………
「ねえ、降伏する条件にウチの学校の草むしり3ヶ月と麦踏みと、ジャガイモ掘りの労働を付けたら如何かしら?」
「お、良いね~」
「じゃあ、俺達もトイレ掃除でもやらせますか」
軍用アエロサン・RF-8の中でボルシチを食べていたカチューシャがそう言うと、焚火に当たっていたピョートルとマーティンもそんな事を言う。
「付いてますよ」
と、そこでカチューシャの口の周りが汚れている事をノンナが指摘し、ハンカチを差し出す。
「知ってるわよ!………ふうっ、御馳走様。食べたら眠くなっちゃった」
そのハンカチを受け取り、口の周りを拭くとベッド代わりのRF-8の中に寝そべるカチューシャ。
「降伏の時間に猶予を与えたのは、お腹空いて眠かったからですね?」
「違うわ! カチューシャの心が広いからよ! シベリア平原の様にね!」
続いてノンナがそう指摘すると、カチューシャはそう言い返す。
「広くても寒そうです」
「煩いわね。お休み」
カチューシャはノンナとの会話を打ち切ると、そのまま眠り始めた。
「~~~♪~~~♪」
するとノンナは、カチューシャの為にコサックの子守唄を歌い始める。
その歌を聴きながら、カチューシャは心地良い眠りへと誘われたのだった………
「同志カチューシャは?」
とそこで、部隊の見回りを終えたデミトリがやって来てそう尋ねる。
「シ~~………今眠ったところです」
ノンナが口の前に人差し指を立ててそう注意する。
「そうか………しかし、包囲したとは言え、少し油断し過ぎではないのか?」
「心配ないって。コッチには数も性能も上な戦車部隊と、10万の歩兵部隊が居るんだぜ。負けるワケ無いさ」
そう指摘するデミトリだが、マーティンが笑いながらそう返す。
「だが、包囲を逃れた部隊も居るぞ」
「そっちには俺の『猟犬部隊』が付いた戦車部隊が向かってる。すぐにでも撃破の報告が来るだろうさ」
デミトリは今度は包囲を逃れたサンショウウオさんチーム達の事を指摘するが、ピョートルがそう返す。
「むう………」
「問題ありませんよ、同志デミトリ。何か有れば私と『ニキータ』………それに『雪化粧狙撃部隊』も動きますので」
と、デミトリが渋面を浮かべると、何時の間にか背後に居たラスプーチンがそう言って来る。
「(!? 何時の間に)急に背後に立つな」
「コレは失礼。お許しを」
突然背後に現れたラスプーチンに驚きながらもそう言うと、ラスプーチンは頭を下げる。
「ラスプーチン。今回ばかりはお前さんの出番は無いかも知れないぜ」
「ああ、ひょっとしたら3時間後には大洗の降伏で、俺達の勝利が自動的に決まりって事も有り得るからな」
完全に大洗を舐めている態度で、ピョートルとマーティンがそう言い合う。
「フフフ、そうなったら素敵ですな………では、所用がありますので、コレにて失礼を………」
そんな2人の会話を聞いて、ラスプーチンは愉快そうに笑うと踵を返し、雪の中に溶け込む様に消えて行く………
(何時もの事だが、味方ながら不気味な男だ………)
ラスプーチンが消えた方を見やりながら、デミトリは内心でそう思うのだった。
一方、その頃………
大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………
「直りそう?」
「何とか動くと思うけど………」
「コッチはOKです」
八九式の内部で整備していたあけびと忍がそう言い合っていると、外側で整備をしていた灰史からそう声が挙がる。
「流石にコレは直せないね………」
「可愛そう~………」
「包帯巻いとく?」
「意味無いから」
主砲が吹き飛んだM3リーの姿を見上げながらあゆみ、桂利奈、優希、あやがそう言い合う。
「澤さん、そっちの配線はコッチにお願いします」
「うん、分かった」
そして、勇武と共にエンジンを整備している梓。
「良し! 動かしてみろ」
「ハイ」
Ⅳ号の主砲塔を弄っていた十河がそう声を挙げると、砲手席に居た華が旋回ハンドルを回す。
すると、Ⅳ号の砲塔が少し嫌な音を立てながらも回る。
「回りますね」
「ええ」
「だが騙し騙しだ。無茶はなるべくするな」
優花里と華がそう言い合うと、十河がそう注意する。
一方、作戦会議を行っているメンバーは………
「問題は、この包囲網を如何やって突破するかだな………」
記憶と予想から描いた戦況地図を見て、桃がそう言う。
「敵戦車の正確な配置が分かれば良いんだけど………」
敵戦車の位置が、現在の場所から確認出来る物しかない地図を見てそう呟く柚子。
「偵察を出せれば良いんですけど………」
みほが苦い顔をしてそう呟く。
敵の正確な配置を知る為には、偵察兵に偵察に行って貰う他無い。
しかし、周囲を取り囲んでいるツァーリ歩兵部隊の人数は10万人………
軽装備な上、偵察と言う任務上、単独行動をしなければならない偵察兵では、見つかればそれで終わりである………
言うなれば、この状況で偵察に出ろと言うのは、死ねと命令するのと同義であった。
「…………」
そう思うみほは命令を躊躇う。
と………
「西住総隊長。偵察に行かせて下さい」
そこで、楓を初めとした生き残っていた偵察兵達が、みほの傍に立った。
「!? 大空くん!? 皆も!?」
「偵察が必要なんだろう?」
「だったら俺達に任せれば良い」
驚くみほに、磐渡と秀人がそう言う。
「でも! 相手は10万人………」
「大丈夫ですよ」
「僕達のミッションは飽く迄偵察です。隠れながら敵をやり過ごし、帰還すれば言いのデス」
危険だと言う柚子に、逞巳とジェームズがそう返す。
「ステルス任務は俺の得意とするところだ。任せておけ」
「拙者のニンジャ偵察力を持ってすれば、この程度の敵を偵察するなど、ベイビー・サブミッションでござる」
何故か脇に折り畳んでるダンボール箱を抱えた大詔と、何やら殺気めいたアトモスフィアを出している小太郎がそう言う。
「西住総隊長。行かせて下さい」
最後に清十郎がそう言い、大洗偵察兵部隊はみほの事を見やる。
「…………」
みほはその視線を受けて、考え込む様な様子を見せる。
「………分かりました。けど、決して無理はしないで下さい。必ず………必ず無事で戻って来て下さい」
「偵察は生きて帰って来てこそ任務完了。心得ています」
やがて、みほが決意したかの様にそう言うと、楓がそう返して敬礼し、他の一同も一斉に敬礼し返したのだった。
プラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲され、絶体絶命の大洗機甲部隊の本隊………
更に、包囲を逃れていたサンショウウオさんチームにも、別働隊が襲い掛かる。
最早、大洗機甲部隊の命運は、大洗女子学園と共に、風前の灯火なのだろうか………
つづく
新話、投稿させていただきました。
プラウダ&ツァーリ機甲部隊に完全包囲されながらも、試合続行を決める大洗機甲部隊。
包囲を逃れていたサンショウウオさんチーム達に別働隊が襲い掛かる中、敵の詳しい配置を探る為に偵察兵達が決死の偵察に出る。
果たして、大洗機甲部隊の運命は?
この作品では、偵察兵がいるので、偵察は彼等に行って貰います。
OVAのスノー・ウォーに当るエピソードはありませんので、ニーナ達は別の機会に登場させようかと思っています。
御了承下さい。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。