ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第73話『様々な思惑です!』
大洗機甲部隊の次なる対戦相手………
プラウダ&ツァーリ機甲部隊は、大洗の事など歯牙にも掛けず、不気味な計画を企てていた。
一方、黒森峰の方でも………
遂にみほの事が、母であり西住流の現師範であるしほに知られてしまう。
西住流としてみほの勝手な振る舞いを看過出来ないと言うしほは、みほを黒森峰、引いては西住流に連れ戻す事を決める。
しかし、もしみほが次の試合で負ける様ならば、西住流としても用無し………
勘当を言い渡すとまで言い放つ。
圧倒的歩兵数を誇るプラウダ&ツァーリ機甲部隊を前に、大洗女子学園廃校の件を知らない機甲部隊の隊員達には、何処か必死さが欠けていた………
そんな中………
帰宅した弘樹が目にしたものは………
自分の家の前に佇む梶 都草の姿だった。
弘樹が自宅の前にて都草と出くわしていた頃………
みほが生徒会に呼び出されたので、沙織、華、麻子と一緒にアイス屋に寄り道し、帰路に着いて居た優花里は………
(今日の生徒会の皆さん………何だか妙な雰囲気でした………)
その途中、優花里は戦車格納庫での生徒会メンバーの様子を思い出す。
(西住殿、1人呼び出されていましたが………作戦会議………ですよね?)
そんな生徒会に呼び出されたみほの事が心配になる優花里。
と、その時………
「ようよう、兄ちゃん。俺等が誰だか分かってるのか?」
ガラの悪い声でそう言う台詞が聞こえて来る。
「!?」
優花里がその声のした方向を見やるとそこには………
「知らんな………少年聖歌隊か?」
見るからにチンピラと思われる人物達、10数人に取り囲まれて、うっとおしそうな表情をしている白狼の姿が在った。
(! 神狩殿!!)
「へへへ、兄ちゃんよぉ。怪我したくなかったら、それ以上生意気な口聞くんじゃねえぞ」
とそこで、チンピラの1人がポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、白狼の目の前にチラつかせる。
「…………」
(はわわっ!? か、神狩殿が危ない!!)
白狼は無表情でそのナイフを見ていたが、様子を窺っていた優花里は慌てる。
(け、警察に!!………いや、駄目であります! 大会期間中に警察沙汰になんてなったら………)
最悪、出場停止も有り得ると思い、携帯を取り出した状態で固まる優花里。
(けど、このままでは神狩殿が!!………ええいっ! こうなったら!!)
するとそこで、優花里はいつも持ち歩いているバッグから、コレクションの1つである戦車兵用のヘルメットを取り出して被る。
更に、戦車整備用の大型レンチも取り出して両手に握る。
「神狩殿ぉ! 今お助けします! 秋山 優花里! 突貫ーっ!!」
大型レンチを振り上げ、チンピラ達に向かって突貫して行く優花里。
しかし………
「ぐへっ!?」
「ごはっ!?」
「おぼあっ!?」
次々に汚い悲鳴が聞こえて来たかと思うと、白狼を取り囲んでいたチンピラ達は、1人残らず倒れ伏した。
「………アレ?」
「喧嘩売る相手は良く選ぶんだな………」
唖然とする優花里の前で、白狼は両手を叩いて埃を落としている。
「か、神狩殿?」
「ん? 秋山? 何でこんなとこに居んだ? つうか、何て恰好してんだよ?」
優花里が恐る恐る声を掛けると、白狼はそこで初めて優花里の存在に気付いてそう言う。
「い、いや、神狩殿が絡まれているのを見て、助けようと………」
「あんなの絡まれた内に入らねーっての」
白狼は肩を竦めながらそう言う。
「いやはや………恐れ入りました」
白狼の喧嘩での強さを目の当たりにし、感心する様にそう呟く優花里。
「………アレ?」
とそこで、優花里は何かに気付いた様に声を挙げる。
「? 如何した?」
「アレ………西住殿では?」
「ん?」
優花里がそう言うのを聞いて、その視線の先を見やる白狼。
そこには優花里の言う通り、みほともう1人………
着物姿の女性の姿が在った。
みほとその着物の女性は、親しげに会話を交わしている。
「誰でしょう?」
「西住総隊長の知り合いか?」
謎の着物の女性を見てそう言い合う優花里と白狼。
一方、みほと着物の女性は、優花里と白狼に気付いていないらしく、会話を続けながら何処かへと向かっている。
「…………」
「!!………」
と、その時………
みほの顔に一瞬陰りが浮かんだのを、優花里は目撃する。
数分後………
みほと着物の女性は近くに在ったファミレスへと入店した。
そして………
「オイ、何やってんだよ? こんなストーカー紛いな事して………」
「い、いや、でも! さっきの西住殿の様子が気になって!………」
白狼と優花里も、2人の後を付けて来て、ファミレスへと入っていた。
現在、仕切りを挟んで、みほと着物の女性が居るデーブルの反対側のテーブルに着き、2人の会話を盗み聞きしている。
「それはお前の勝手だがよ………何で俺まで巻き込まれてるんだ?」
「そ、その………つい勢いで………」
「ったく………」
巻き込まれた形となった白狼が愚痴る。
「ご注文はお決まりですか?」
とそこで、店員が2人に注文を訪ねて来る。
「! ド、ドリンクバー1つ!」
「サンドイッチセットで」
慌てて反射的にドリンクバーを注文する優花里と、小腹が空いていたのかサンドイッチセットを注文する白狼。
「畏まりました。今なら、期間限定のカップル用ドリンクがございますが、如何ですか?」
すると店員は、2人の注文を承った後、期間限定メニューを開いて、1つの飲み物に2本のストローが付いている、所謂『カップルドリンク』を紹介する。
「ええっ!? そ、そんなものがぁ!?」
「俺達がカップルに見えるのか?」
純情な反応を見せる優花里と、対照的に冷めた様子で店員にそうツッコミを入れる白狼。
「うふふ………ごゆっくりどうぞ」
店員は2人供照れているのかと思い、笑いを零すとその場を離れて行った。
「ったく………」
「…………」
愚痴る白狼を、赤くした顔を俯かせて上目使いで見やる優花里だった。
と、そこで………
「菊代さん。いつも手紙ありがとう」
「!!」
みほのそう言う声が聞こえて来て、優花里は再びみほの方へと意識を向ける。
「いえ………みほお嬢様もお元気そうで安心しました」
和服の女性………西住家でお手伝いさんとして働いている『菊代』は、みほにそう返す。
(ん? この人、西住流の方かな?)
「最近のみほお嬢様の御活躍。拝見しております」
優花里がそう思っている中、菊代はそう言葉を続ける。
「…………」
それを聞いたみほは、何故か強張った表情を浮かべていた。
(そりゃあ、大洗機甲部隊は今回の全国大会で大躍進! 注目のダークホースですから!)
(何ドヤ顔になってんだか………)
それを知らない優花里が、自分の事の様に喜んでいると、そんな優花里を見て、白狼が心の中でそうツッコむ。
「………菊代さんが来たのは、その事ですか?」
しかし、みほは強張った表情のまま、菊代にそう尋ねる。
「ハイ………今日私が来た事でお分かりかと思いますが………今回の大洗でのみほお嬢様の件………既に奥様もご存じです」
「!!………」
菊代のその言葉を聞いた瞬間、みほの身体が一瞬震える。
(奥様って、西住流の………)
優花里は、その奥様と言うのがみほの母親………西住流の現師範である事を察する。
「やっぱり………」
その会話の後、暫しの間沈黙するみほと菊代。
(な、何やら空気が………)
優花里は2人の空気が重くなったのを感じて黙り込む。
「お待たせしました」
「ん………」
一方の白狼は、我関せずと言った様子で、届いたサンドイッチセットに手を付け始める。
「………この様な事を私などが申し上げるのも憚られるのですが………奥様は第5回戦の後………お嬢様を黒森峰、そして西住家へ連れ戻すお積りの様です」
「…………」
(!? えええっ!?)
菊代の言葉を聞き、険しい表情を浮かべるみほと、思わず声を挙げそうになったが、如何にか両手で口を押さえて防ぐ優花里。
「ですが………」
(!? まだ何か!?)
更に菊代が言葉を続けるのを聞いて、優花里の顔が強張る。
「もし、第5回戦で敗退した場合………みほお嬢様は西住家より………勘当されます」
「!!」
「!?!?」
みほは固まり、優花里は驚愕を露わにした………
結局その後、みほと菊代は会話もそこそこに店を立った。
残された優花里と白狼はと言うと………
「西住殿が………勘当………」
「やれやれ。流派の家元ってのも大変だな………」
ショックを受けている様子の優花里とは対照的に、白狼は他人事の様にそう呟く。
「! 何を呑気な事を言って居られるのですか、神狩殿! 西住殿が実家から勘当されてしまうのですよ!!」
そんな白狼の様子を見て、優花里は声を荒げてそう言い放つ。
「それはアイツの個人的な事情だろう。大体、俺達に何が出来るんだ?」
しかし、白狼は尚も冷めた様子でそう言い放つ。
「! そ、それは………ですが! 西住殿は我々の総隊長なのですよ! 大切な仲間です! 心配するのは当然の事です!!」
「仲間ね………」
「神狩殿だってそう思っているのでしょう!」
そう白狼に言い放つ優花里だったが………
「悪いが俺にとっちゃあ、西住は飽く迄只の機甲部隊の指揮官殿だ。それ以上の感情は持ち合わせちゃいない」
「!?」
白狼がそう言い返したのを聞いて、驚愕を露わにして黙り込む。
「序に言っちまえば、大洗機甲部隊の面子だって、俺の中じゃ一部を除いて只の同じ事をやってる連中だってだけだ。ダチは選ぶ方なんでな」
「…………」
沈黙したまま俯く優花里。
「まあ、少しぐらい同情はするが、それ以上は………!?」
と、そこで優花里の事を改めて見やった白狼は驚愕して固まる。
何故なら、優花里が両目から………
ボロボロと大粒の涙を零していたからだ。
「私は………神狩殿の事は………ずっと前から仲間だと………友達だと思っていたであります………けど………神狩殿はそうは思っていてくれなかったのですね………」
泣きながら白狼にそう訴える優花里。
「オ、オイ………」
「失礼します!」
白狼が何か言おうとした瞬間、優花里は席から立ち、まるで逃げる様に店から出て行った。
「…………」
残された白狼は只茫然とする。
「………クソ………何だってんだよ………」
悪態を吐き、残っていたサンドイッチを口に詰め込む白狼。
何故か先程までとても美味しかった筈のサンドイッチが、妙に不味く思えた………
一方、その頃………
舩坂家では………
「粗茶ですが………」
「ああ、どうもありがとう」
弘樹の前へと姿を現した都草は、舩坂家の居間へと通され、湯江に茶を出されていた。
「いえ、どうぞごゆっくり………」
湯江はそう言って頭を下げると、居間から出て行く。
「良く出来た妹さんだね」
茶の入った湯呑を手に取りながら、弘樹の方を見てそう言う都草。
「どうも………それで、本日はどの様な御用件で?」
それに応えながらも、早速本題へと入る様に促す弘樹。
「…………」
都草はそれを聞いて、茶を一口飲むと、少しの間沈黙する。
まるで切り出すタイミングを計るかの様に………
「………みほちゃんの活躍が母親………西住流の現師範であるしほさんに知られた」
「………それで?」
平静を保ったまま、弘樹は更にそう問う。
遅かれ早かれ知られる事であるとは分かっていたので、問題はそれを知った母親………しほの対応についてである。
「西住の名を持つ者として………コレ以上勝手な振る舞いは許さないらしい。今度の試合後に、みほちゃんを黒森峰、引いては西住流に連れ戻す積りだそうだ」
(………どっちが勝手だか)
今の今まで放って於いて、活躍して名が知れて来た途端にこの仕打ち………
弘樹の中で、しほと西住流への評価が駄々下がりになる。
「しかし………」
「まだ何か?」
「もし、今度の試合で大洗が負ける様であれば………西住流としても用無し………その場にて勘当を宣告するそうだ」
「!?」
それを聞いた弘樹の顔が驚愕に染まる。
「………本気なのですか?」
「しほさんの性格からして、恐らくはね………」
「それが………それが母親が娘に取る態度か!」
弘樹は声を荒げてそう言い、拳をちゃぶ台へと叩き付ける!
「しほさんは母親である前に、西住流の現師範だ………」
「だが、西住 みほの母親だ………」
「…………」
都草は沈黙の後、再び茶を一口飲む。
「………何故その話を小官にしたのですか?」
弘樹はそんな都草に向かってそう尋ねる。
「無責任な事を言うが、君ならば如何にかしてくれると思ってね………確証は無いが、確信はしている」
都草は、弘樹の方を見ながらそう答える。
「…………」
「何処までやれるかは分からないが、私の方からもしほさんに働きかけてみる。だが、1番しなければならないのは、この後も大洗が勝ち続ける事だ。こんな事を言える立場ではない事は承知だが………君達の健闘を祈らせてもらう」
「…………」
「要件はそれだけだ………そろそろ失礼させてもうらうよ。長居をしても悪いからね………」
沈黙を続ける弘樹に、都草はそう言うと立ち上がり、居間から出て行く。
「あら? もうお帰りですか?」
「ああ、用件は済んだからね。夜分に失礼したね」
「いえ、お気になさらず。またいらして下さいね」
「ありがとう。では、失礼………」
「…………」
廊下の方から、湯江と都草のそう言う会話の後、戸を開け閉めした音を聞きながら、弘樹は沈黙を続けている。
(西住くんが………勘当………何て事だ………)
そう思いながら、頭を抱える弘樹。
(最早負ける事は絶対に出来なくなった………だが、今の大洗の戦力でプラウダ&ツァーリ機甲部隊と真面に戦えるのか?)
次の試合の事を思い、苦悩する。
(如何すれば………如何すれば良い………)
必死に頭を捻る弘樹だったが、出来る事は無く、只歯痒い思いばかりが積み上がって行く………
と、その時………
家の電話のベルが鳴り響いた。
「あ、ハーイ」
近くにいた湯江が、受話器を取る。
「ハイ、舩坂です………ハイ………まあ! ご無沙汰しておりますわ。そちらもお元気で………ええ、今代わりますね」
受話器に向かってそんな会話を交わしていたかと思うと、弘樹の元へとやって来る湯江。
「お兄様。お電話ですよ」
「? 小官に? 誰だ?」
「お懐かしい方ですわ」
「? 今出る」
はぐらかす様にそう言う湯江に首を傾げながらも、弘樹は電話の元へ行き、横に置かれていた受話器を取る。
「もしもし? 弘樹ですが」
「…………」
そう言う弘樹だったが、相手からの返事は無い。
「? もしもし?」
「…………」
再度呼び掛けるが、やはり返事は返って来ない。
(悪戯か?………)
と、弘樹がそう思った瞬間………
「よう戦友、まだ生きてるか?」
受話器の先の相手が、そんな台詞を言って来た。
「!? その声は!? まさか!?」
その相手の声を聞いた弘樹が、驚愕を露わにする。
「相変わらずだな………戦友」
◇
その翌日の放課後………
大洗女子学園・戦車格納庫にて………
プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合に向けての準備に入ろうとしていた大洗機甲部隊では、ちょっとした騒動が起きていた………
「舩坂くんが暫くお休み!?」
「マジかよ………」
信じられないと言う顔をしてそう言うみほと地市。
他の面子も、多かれ少なかれ驚きを露わにしている。
「うむ、ちょっとした用でね………暫く学園艦を離れるそうだ。何、試合の時にまでは戻るそうだから心配しなくて良い」
弘樹が暫く公休を取る事を告げた迫信は、更にそう告げる。
「試合の時までにはって、そんなに掛かる用事なのかよ」
「あの舩坂さんが訓練を休んでまで行くんです………かなり大事な用なのでしょう」
迫信の言葉を聞いた了平と楓がそう言い合う。
「………皆さん、今は兎に角、プラウダ&ツァーリ機甲部隊戦に向けた準備に入りましょう」
とそこで、みほが皆の方を振り返ってそう言った。
「みぽりん………」
「大丈夫だよ………舩坂くんは理由も無く無責任に居なくなる様な事はしないよ。きっと本当に大事な用が有るんだよ」
心配する様に声を掛けて来た沙織にそう返すみほ。
「それに、試合までには帰って来るって………舩坂くんは絶対に約束を守るよ………私はそう信じてる」
そう言うみほの顔は、確信と自信に満ち溢れていた。
(西住殿………)
だが、それでもそんなみほの事を心配する様子を見せる優花里。
昨夜の1件が、やはり衝撃的だったらしい。
「では、準備に入ります」
そんな優花里の様子には気付かず、みほはそう言って先陣を切る様に準備を始め、それに続く様に他の面子もプラウダ&ツァーリ機甲部隊戦に向けた準備に掛かるのだった。
「………あ」
「…………」
みほに続く様に歩き出した優花里だったが、その途中で白狼と目が合う。
「…………」
優花里は気まずそうに視線を反らすと、白狼から逃げる様に離れて行った。
「………チッ」
そんな優花里の姿を見て、白狼は小さく舌打ちをすると、自分のバイクの所へと向かう。
「そう言えば、みほさん。昨日生徒会の皆さんに呼ばれたのは何だったんですか?」
準備に入ったあんこうチームの中で、華が昨日、みほが生徒会に呼び出されたのを思い出してそう尋ねる。
「それが、あんこう鍋を御馳走になっただけで、特に大事は話は………何だか、言いたい事があるんだけど、言い出せなかったみたいな感じで………」
「そうですか………生徒会の人達にしては珍しいですね」
みほがそう返すと、華は首を傾げながらそう言う。
「持って来たよ~」
とそこで、沙織が次回のプラウダ&ツァーリ機甲部隊戦の会場が、かなり北の地域になるとなった為、相手の得意な雪中戦に備えた防寒具が入った段ボールを持って来る。
「カイロまでいるんですか?」
その中にカイロが大量に有るのを見て、華がそう言う。
「戦車の中には暖房無いから、出来るだけ準備しておかないと」
「俺達の場合は戦闘服が多少の防寒機能を備えてるんだよな?」
「ええ、でも十分とは言えませんから、指定の防寒具を着用する事になりますね」
「あ~、俺寒いの苦手なんだよなぁ………」
みほがそう答えている傍で、同じ様に戦闘服と防寒具の用意をしていた地市、楓、了平がそんな事を言い合う。
「タイツ、2枚重ねにしようか?」
「レッグウォーマーもした方が良いよね」
「それより、リップ、色の付いたのにした方が良くない?」
「もう5回戦だし、ギャラリー多いだろうしね」
「チークとかも入れちゃう?」
M3リーの傍で、ウサギさんチームが燥ぎながらそんな事を言い合っている。
「どうだ?」
「私はコレだ」
更に、カバさんチームも、左衛門佐がちょんまげのカツラ、カエサルが月桂冠を被りながらそんな事を言い合っている。
「段々と見に来てくれてる人が増えてますね」
「戦車にバレー部員募集って書いて張っておこうよ」
「良いねー!」
アヒルさんチームでも、そんな会話が交わされている。
「全く………授業の一環なんだから、少しは校則を守って欲しいわ」
そんな一同の様子を見て、みどり子が愚痴る様にそう言う。
以前の彼女であれば、口を酸っぱくして注意していたところであろうが、付き合いが長くなった為、この連中には言うだけ無駄だと分かっており、半ば諦めた様な溜息を吐く。
「よ~し! 次も勝って、ライブをしよう~っ!!」
特に盛り上がっているのは、聖子達サンショウウオさんチームである。
何せ、この度、チームにまた新たなメンバーが加わったのだ。
「当然ですわ! 何せこの私のスクールアイドルデビューのライブになるのですから! 華麗なる勝利を決めて、見事なライブを披露してあげますわ! オ~ッホッホッホッホッ!!」
高飛車なお嬢様口調と笑い声を挙げるのは『薬丸 早苗』
神大コーポレンションに次ぐ程の富豪・薬丸家の令嬢である。
サンショウウオさんチームに入った理由は、お嬢様故にアイドルと言うものを良く知らず、先日の学園放送で、録画されていた聖子達のライブ映像を拝見し、自身の世界とは全く違う世界に興味を持ったからとの事である。
「OK! ノリノリじゃん、薬丸さん! ロックだね~!」
ノリの良い口調でそう言うのは『内海 郁恵』
アメリカから帰国した帰国子女で、コチラもアメリカ全土でチェーン展開している超高級すし屋の社長令嬢である。
人を楽しませることが大好きな性格であり、早苗と同じく学園放送で録画されていた聖子達のライブ映像を見てチームに入ったのである。
「郁恵ちゃんもスクールアイドルになってくれるなんて、嬉しいよ」
「アッチ(アメリカ)でもパパの会社のCMに出たりして似た様な事してたからね。って言うか、水臭いよ、静香! クラスメイトの私にこんな楽しい事を黙ってるなんて!」
郁恵は静香とクラスメイトでもある様で、そんな会話を交わす。
「ゴ、ゴメン………」
「まあ、兎に角! コレからも大洗女子学園を全国にアピールする為にも! 戦車道もスクールアイドルも頑張って行くよーっ!!」
静香が謝って居ると、聖子がそう言って握った右手を天へと突き上げる。
「………ちょっと良いかしら?」
「ふえっ?」
とそこで突然声を掛けられ、聖子は間抜けた声を挙げながら、声がした背後を振り返る。
そこには、大洗女子学園の制服を来た、1人の少女の姿が在った。
「………誰?」
「!? 近藤 里歌!」
聖子が首を傾げていると、その女子生徒の姿を見たみどり子が、驚きの声でその生徒………『近藤 里歌』の名を挙げる。
「どうも、御無沙汰してます、園先輩」
「…………」
里歌はみどり子にそう挨拶するが、みどり子は気まずそうなをしている。
「あ、あの………何の用?」
とそこで聖子が、改めて里歌にそう問い質す。
「ああ、そうでした………改めまして、私は『近藤 里歌』。2年G組のクラス委員長をやっています」
そこで里歌は、改めて自己紹介をする。
「本日伺ったのは………貴方達、サンショウウオさんチームに活動停止を要求する為です」
「!? ええっ!?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
里歌からの予想外の要求に、聖子達は驚愕を露わにする。
「ど、如何して?………」
「貴方達のスクールアイドルとしての活動を以前より拝見させてもらっていました………あんなパフォーマンスを全国レベルで披露しているなんて、大洗女子学園の恥です」
「なっ!?」
「酷い!」
「そこまで言う事ないじゃん!」
身も蓋もない里歌の言葉に、優、明菜、満里奈がそう声を挙げる。
「私は事実を言ったまでです。コレ以上パフォーマンスを続けると言うなら、私は法的措置も辞さない所存です」
「ほ、法的措置って………」
「ペリシティリウムアギトへ至る王権(訳:国家権力)!?」
法的措置も辞さないと言う里歌の態度に、伊代と今日子が恐れ戦く。
「さあ、如何しますか?」
「クウッ………」
里歌の睨む様な視線を受け、聖子は思わず1歩後ずさる。
「ハイハイ、そこまで~」
とそこで、杏が両者の間に割って入った。
「! 会長さん!」
「角谷生徒会長………」
「近藤ちゃ~ん。悪いけど、ウチ等もうすぐ試合なんだよ。その前に士気を落とす様な事は止めてくれないかな~」
杏は里歌に向かってそう言う。
「角谷生徒会長………貴方はいつも横暴が過ぎます」
しかし里歌は、相手が杏でも物怖じせずにそう言い放つ。
「横暴は生徒会に許された権利だからね~」
だが、杏も杏で、飄々とした様子のままそう反論する。
「「…………」」
暫しの間、両者の睨み合いが続く。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
固唾を飲んでその様子を見守るサンショウウオさんチーム。
「………分かりました。今日のところはコレで引き下がります。ですが………必ず活動停止にしてみせますから」
やがて里歌はそう言うと、杏とサンショウウオさんチームに背を向け、戦車格納庫を後にした。
「は~~、胃が痛くなったぜ」
里歌が居なくなったのを確認して、唯が大きく息を吐きながらそう言う。
「………そど子。あの女と知り合いか?」
と、麻子が里歌の名を挙げていたみどり子にそう尋ねる。
「そど子って呼ばないで………前に風紀委員に居た子なんだけど、あんまりにも厳し過ぎるもんだから辞めてもらった子なの」
「お前が厳しいって言うんだから相当なもんだな………」
みどり子がそう返すと、麻子は冷や汗を流しながらそう言う。
「しかし………彼女は私達と言うより、寧ろスクールアイドルそのものを目の敵にしている様にも見えましたが………」
「…………」
優がそう言っていると、聖子は何かを考え込むかの様に、里歌が去って行った方向を見やるのだった。
「さあさあ! 試合の準備を進めないと! もう時間が無いんだからね!!」
とそこで、格納庫内の空気を変える様に杏が手を叩いてそう言う。
それを受けて大洗機甲部隊の一同は、準備を再開するのだった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
みほの勘当を知る事となった弘樹、優花里、白狼。
白狼の冷めた態度に、優花里は涙し、2人の仲はギクシャクとする。
そんな中、弘樹の事を戦友と呼ぶ謎の人物から電話を受けた弘樹は、大洗から姿を消した………
そして、サンショウウオさんチームを目の仇にする近藤 里歌………
様々な思惑が交錯しつつ、プラウダ&ツァーリ機甲部隊戦が幕を開ける。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。