ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第7話『初めての戦車と歩兵です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第7話『初めての戦車と歩兵です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道の訓練は、初日から練習試合となり………

 

其々の戦車チームは、分隊を組んだ大洗男子校のメンバーを連れて、演習場へと向かった。

 

みほの乗るⅣ号・Aチームの随伴歩兵部隊であるα分隊の隊長となった弘樹だったが………

 

戦車道の家者であるみほと、歩兵道求道者である弘樹を警戒したBチームとβ分隊、Cチームとγ分隊に奇襲を掛けられる。

 

初めての試合で恐怖に慣れていなかったⅣ号の車長となっていた沙織は撤退を指示し、Ⅳ号とα分隊は逃げの一手となる。

 

そんな中………

 

成り行きでタンクデサントしてしまった弘樹が、みほと共に、Ⅳ号の行く手に寝転がる女子生徒を発見した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「危ないっ!!」

 

「そこの女子生徒!! 此処は演習場だ!! すぐに退去するんだ!!」

 

みほが寝転がっている女子生徒に向かって叫ぶと、弘樹もすぐに警告を送る。

 

「…………」

 

すると、寝転がっていた女子生徒は起き上がり、向かって来るⅣ号に向き直ったかと思うと………

 

「!!」

 

何と!!

 

衝突すると思われた直前で跳躍し、Ⅳ号の上に跳び乗ろうとして来た!!

 

「!?」

 

しかし、着地の瞬間に足を滑らせ、転びそうになる。

 

「危ないっ!!」

 

だが、すぐさま弘樹が支え、何とか戦車とのキスを回避する。

 

「むう………」

 

「怪我は無いか?」

 

「ああ! 今朝の………」

 

若干不満な声を漏らす少女の身を案じる弘樹と、その少女が今朝自分が弘樹と共に助けた少女・『冷泉 麻子』である事に気づくみほ。

 

「アレ? 麻子じゃん?」

 

するとそこで、キューポラのハッチが開いて、沙織が顔を出すと、麻子を見ながらそう呟いた。

 

「沙織か………」

 

麻子も、顔を出した沙織を見てそう呟く。

 

「あ、お友達?」

 

「うん、幼馴染。何やってんの、こんなとこで? 授業中だよ」

 

「しかも今は戦車道と歩兵道の合同練習中だ」

 

「知ってる」

 

沙織と弘樹の言葉に、麻子は平然とそう返す。

 

「ハア~………!? うわぁっ!?」

 

と、溜息を吐いた沙織の背後で、またも至近弾が着弾し、土片が舞い上がる。

 

「あの! 危ないから中に入って下さい!!」

 

「分かった………」

 

みほにそう言われ、麻子は沙織と共にⅣ号の車内へと引っ込む。

 

「舩坂くんも!!」

 

「小官の事は気にしないで下さい! 戦闘服を着て居れば直撃弾を受けたとしても死にはしません!」

 

「でも!!」

 

「歩兵は戦車の盾………その戦車に守られたとあっては歩兵の名折れです」

 

「! 分かった! 気を付けて!!」

 

「了解!!」

 

弘樹のその言葉を聞き、みほは車内へと引っ込む。

 

(さて………この状況………如何打開する?)

 

それを確認すると、弘樹は後方を振り返り、Ⅳ号に追従している味方の車両越しに、追撃して来るBチームとβ分隊、Cチームとγ分隊を見やりながら、渋い顔をする。

 

一方、車内へと避難したみほ達は………

 

「うう~~………酸素が少ない………」

 

「大丈夫ですか?」

 

イマイチ調子が悪そうな麻子に、優花里が心配する様にそう言う。

 

「麻子、低血圧で………」

 

と、そこで彼女の幼馴染である沙織がそう説明する。

 

「今朝も辛そうだったもんね」

 

みほも、今朝の出来事を思い出しながらそう言う。

 

「えっ? 麻子と会ったの?」

 

「うん」

 

「だから遅刻しそうになったんだ」

 

「えへへ………」

 

沙織が、みほが遅刻しそうになった事に納得が行った様な表情を見せた瞬間………

 

またも至近弾が着弾し、戦車内に振動と轟音が走る。

 

「キャッ!?」

 

「うわっ!?」

 

「もうやだ~! 如何すれば良いのよ~~っ!!」

 

素人である沙織には、状況を打開する手段が思い浮かばず、そう悲鳴を挙げるしかない。

 

「!! 停止して下さいっ!!」

 

するとそこで、タンクデサントしたままだった弘樹が、再び操縦席のハッチを開けて、華に向かってそう叫んだ!!

 

「!? ええっ!?」

 

華は驚きながらも反射的にブレーキを踏む。

 

「おうわっ!?」

 

「何だ何だ!?」

 

Ⅳ号が減速したのを見て、後続のα分隊の車両も、次々にブレーキを掛ける。

 

と、その時………

 

Ⅳ号が停止する直前に、履帯が地面からやや大きめの石を弾き出し、前方へ飛ばした。

 

その石が地面に落ちたかと思うと………

 

石が落ちた場所の地面が爆発し、火柱が上がる!!

 

「「!?」」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「今度は何ぃっ!?」

 

「地雷だ! 地雷が埋まっているぞ!!」

 

みほと優花里が驚き、華が悲鳴を挙げ、沙織がパニックを起こしかける中、弘樹がそう声を挙げる。

 

(逃走進路を読まれていたのか? 何れにしろ、思ったよりも巧みに動いてくれる………)

 

歩兵部隊も素人揃いとは言え、基礎スペックが高い連中が集まっており、対応の良さに弘樹は自分の心に敵を侮っていたところが在った事を反省する。

 

「オイ、如何すんだ弘樹!?」

 

「このままでは追い付かれますよ!!」

 

くろがね四起に乗っていた地市と楓がそう言って来る。

 

彼等の言葉通り、Bチームとβ分隊、Cチームとγ分隊はドンドン迫って来ている。

 

と、そこで、装填手用のハッチが開き、みほが顔を出す。

 

「! 右方向に向かって下さい!!」

 

「!? 何っ!?」

 

そう言われて、弘樹は右の方向を見やる。

 

そこには、谷川に掛けられた、吊り橋が在った。

 

「あの吊り橋を渡るのですか? 追撃されている中の渡河は危険過ぎます」

 

「でも、このままじゃ、やられるのを待つだけだよ」

 

そう言って弘樹の方を見やるみほ。

 

恐らく本人は自覚していないだろうが、その顔には黙ってやられる積りは無いと言う感情が現れている。

 

「………分かりました。全員、煙幕手榴弾と発煙筒を投擲しろ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほのその顔を見た弘樹は、α分隊の面々にそう指示を下し、分隊員全員が一斉に煙幕手榴弾と発煙筒を投擲する。

 

凄まじい量の煙が、辺りに立ち込め始める。

 

「うわぁっ!? 煙っ!?」

 

「クソッ! 前が見えんっ!!」

 

煙で視界が塞がれ、八九式とⅢ突が停止する。

 

「うわっ! コラ堪らんっ!!」

 

「えほっ!! ごほっ!!」

 

β分隊とγ分隊の歩兵達も、煙で咽せ返り、動きが止まる。

 

「良し、今の内だ!! 全員右方向へ!! あの吊り橋を使ってⅣ号を渡河させる!! 我々は橋の前に防御陣地を形成! Ⅳ号が橋を渡るまで防衛するんだ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

「華さん! 右手に見える吊り橋に向かって下さい!」

 

「わ、分かりました!」

 

弘樹がそう命令しながらⅣ号の上から飛び降りると、Ⅳ号は吊り橋の方へと向かう。

 

そして、吊り橋の前で一旦停止すると、その後ろにくろがね四起と九四式六輪自動貨車、シケを防壁代わりに停止させる。

 

「蛸壺を掘れ! 此処を何としても死守するんだ!!」

 

更に、工兵を中心に分隊員達が其々に蛸壺を掘る。

 

「良し!」

 

とそこで、停車していたⅣ号から、みほが飛び降り、吊り橋へと向かった。

 

「今出たら危ないですよ!!」

 

「みほ!」

 

「みほさん!」

 

車外に出たみほを案ずる様に、優花里、沙織、華がハッチを開けて顔を出す。

 

「大丈夫! 煙幕を張ってるし、歩兵の皆が守ってくれるから!!」

 

しかしみほはそう返し、Ⅳ号が渡れるか如何か、吊り橋の状態を調べに掛かる。

 

「………聞いたな、お前達。彼女の信頼を裏切ってはならんぞ!」

 

と、その台詞を聞いていた弘樹が、防御陣地を構築している分隊員達にそう呼び掛けた!

 

「おうよ!!」

 

「此処でポイント稼いで、一気にモテモテだ!!」

 

「頑張ります!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

地市、了平、楓からそう声が挙がり、α分隊員達の雄叫びが挙がる。

 

「皆さん! 煙幕が晴れます!!」

 

とそこで、飛彗がそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこでα分隊の一同は、一斉に得物を構える。

 

何とか掘った蛸壺に籠ったり、地面に伏せて、或いは防壁代わりの車両の影に隠れて、敵を待ち受ける。

 

やがて煙幕の煙が徐々に薄くなって行き………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

雄叫びを挙げて突撃して来るβ分隊とγ分隊の歩兵達。

 

その後ろから履帯を鳴らして進んで来る八九式とⅢ突。

 

更にその背後に陣取り、野戦砲や対戦車砲を設置しているβ分隊とγ分隊の砲兵達の姿が露わになる。

 

「撃ち方始めっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の号令で、α分隊の面々は其々の獲物をぶっ放し始めた!!

 

「ぐあっ!?」

 

「ギャアッ!?」

 

α分隊の弾幕の前に、突撃して来ていたβ分隊とγ分隊の歩兵達は次々に倒れて行き、戦死判定が下される。

 

「チイッ! 伏せい、伏せい!」

 

大河がそう叫ぶと、β分隊とγ分隊の歩兵達は突撃を止め、一斉にその場に伏せる。

 

そして、そのままα分隊に応戦しつつ、匍匐前進でゆっくりと前に進み始める。

 

「………スタンバーイ………スタンバーイ………」

 

地面に伏せて、モシン・ナガンM1891/30を構えて狙いを定めている飛彗。

 

やがて、1人の敵歩兵の頭が、ピープサイトに重なる。

 

「!!」

 

その瞬間に、飛彗は迷わず引き金を引いた!!

 

「!? ぐえっ!?」

 

頭に直撃を喰らった敵歩兵は、両足が真上に上がる様な倒れ方をして、そのまま戦死と判定される。

 

「…………」

 

飛彗は倒した敵歩兵には目もくれず、薬莢を排莢すると、新たな標的を探し始める。

 

「うわあぁっ! 来るな、来るな、来るなぁっ!!」

 

蛸壺に籠り、ベルチェー軽機関銃Mk.1の弾をばら撒く様に撃っている了平。

 

兎に角弾幕を張って、敵を近寄らせない積りらしい。

 

「あそこに妙に撃ちまくっている奴が居るぞ!」

 

「厄介だな………先に片付けろ!!」

 

しかし、その行動は返って敵の注意を引いてしまい、了平が居る場所に攻撃が集中し始める。

 

「うわあぁっ!? 何でだああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!? 何で俺ばっか狙われるのおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

了平は、半泣きになりながら更に弾を乱射する。

 

その攻撃に反応して、更なる敵の攻撃が浴びせられると言う、無限ループが発生していた………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

銃火を掻い潜って、突撃して来た敵歩兵に、蛸壺からバッと姿を現した楓が、ウィンチェスターM1887の散弾を浴びせる!

 

「ゴバッ!?」

 

至近距離から散弾を諸に浴びた敵歩兵は、バタリと倒れて戦死と判定される。

 

とそこで、突撃して来ていた敵歩兵部隊の後ろからやって来ていた八九式とⅢ突が前進して来る!

 

「! 舩坂さん! 敵戦車が前進して来ます!!」

 

「!!」

 

三八式歩兵銃で、敵歩兵を1人ヘッドショットで仕留めた弘樹が、楓の声で前進して来る八九式とⅢ突を見やる。

 

「よっしゃあっ! 此処は俺に任せろぉっ!!」

 

すると、1両のシケの影に隠れていた地市が、試製四式七糎噴進砲をⅢ突へと向ける。

 

「喰らえぇっ!!」

 

そう叫んで引き金を引くと、試製四式七糎噴進砲からロケット弾が発射される。

 

しかし………

 

発射されたロケット弾は、明後日の方向へ飛んで行き、地面に着弾して爆発した。

 

「アラ~?」

 

「何やってんだよ、地市ぃっ!!」

 

思わず珍妙な声を挙げる地市に、相変わらず敵の猛攻に晒されている了平が野次を飛ばす。

 

「い、いや! 俺ちゃんと狙って撃ったぞ!?」

 

「ロタ砲は命中率が低い! 射程100mで命中率は約6割だ!!」

 

地市が慌てていると、一旦蛸壺に籠り、リロードをしていた弘樹がそう言って来た。

 

「何ぃっ!? 何で言ってくれなかったんだよ!!」

 

「自分が使う武器の性能ぐらい把握しておけっ!!」

 

喚く地市にそう言い返し、リロードを終えた弘樹が、再び蛸壺から身を乗り出して発砲を開始する。

 

と、その時………

 

Ⅳ号が渡っている吊り橋から、固い物同士が擦れ合う様な音が聞こえて来たかと思うと、続いて切断音の様な物が響いて来る。

 

「!?」

 

「落ちる~っ!」

 

「嫌だ~っ!!」

 

弘樹が振り返ると、そこには吊り橋のワイヤーに接触してしまい、ワイヤーを切断してしまったⅣ号の姿が在った。

 

ワイヤーが一部切れた事により、吊り橋が不安定となり、Ⅳ号は転落しそうになっている。

 

「イカンッ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

と、弘樹がそう声を挙げた瞬間、Ⅲ突が砲撃!!

 

放たれた砲弾が、轟音と共にⅣ号の車体後部左側に突き刺さった!!

 

「!? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

沙織の悲鳴が挙がるが、幸いと言うべきか、Ⅳ号に撃破判定は下らず、更に衝撃で落下し掛けていたのがある程度持ち直す。

 

「!? Ⅳ号が!?」

 

「やられたのか!?」

 

「クッ!!」

 

地市と了平の声が挙がる中、弘樹は周囲を見回す。

 

「良し! また1人!!」

 

そして、正確な射撃で、敵兵を1人、また1人と確実に仕留めている飛彗の姿を目撃する。

 

「宮藤くん! 援護してくれっ!!」

 

「えっ!? ! りょ、了解!?」

 

弘樹はそう言い放つと、戸惑いながらも援護を開始した飛彗の支援を受けて、Ⅳ号の方へと向かった。

 

「大丈夫かっ!?」

 

飛彗の援護を受けながら、Ⅳ号の元へ走り寄る弘樹。

 

そこでⅣ号の状態を確認する。

 

(徹甲弾だったのが幸いしたか………致命的じゃない場所を貫通したと判定されて撃破判定が下らなかったか………)

 

「舩坂くん!」

 

「華が!!」

 

「操縦者失神! 行動不能!!」

 

Ⅳ号の車体後部左側に突き刺さっているⅢ突の砲弾を見ながら弘樹がそう思っていたところ、みほ、沙織、優花里がそう声を挙げる。

 

「!?」

 

それを聞いた弘樹がⅣ号の前へと回ると、操縦席のハッチから顔を出していた華が気絶している姿が目に入る。

 

「(さっきの砲撃で頭を打ったのか!)通信手席のハッチを開けてくれ! そこに移す!!」

 

「りょ、了解!!」

 

弘樹達は、気絶している華を一旦通信手席へと移す作業に掛かる。

 

「大丈夫なんですか!?」

 

援護を続けている飛彗がそう言った瞬間………

 

「オラァーッ!!」

 

MG34を連射しながら、大河が突っ込んで来た!!

 

「!? うわっ!?」

 

慌てて突っ込んで来る大河に、モシン・ナガンM1891/30を向けようとしたが………

 

「遅いわ、ボケェッ!!」

 

何と、飛彗の目の前まで迫った大河は、MG34を投げ捨て、飛彗のモシン・ナガンM1891/30の銃身を手で掴んで、明後日の方向へ向けた。

 

「ええっ!?」

 

「そうらっ!!」

 

そして、呆気取られる飛彗を殴り飛ばした!!

 

「うわあぁっ!?」

 

「ハハハハハッ!! やっぱり最後に物を言うのは拳や!!」

 

そう言い放つと、大河は再びMG34を拾い上げ、敵陣のど真ん中で四方八方に撃ちまくる!!

 

「ギャアッ!?」

 

「だああっ!?」

 

「ふ、伏せろっ! 伏せろっ!!」

 

突然の自陣中心からの機関銃射撃に、α分隊の面々は大混乱に陥る。

 

「撃てぇーっ!!」

 

更にそこで、追い討ちを掛ける様に、敵部隊の後方に控えていた砲兵隊の中に居た明夫がそう声を挙げると、迫撃砲や榴弾砲、対戦車砲の砲弾が次々にα分隊が居る場所へと叩き込まれる!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

直撃や破片を浴びたり、破壊された車両の爆発に巻き込まれたα分隊員達が、次々に戦死判定を受ける。

 

「クソォッ! 駄目だ!! 持ち堪えられねえっ!!」

 

地市の叫びが挙がった、その時………

 

落下し掛けていたⅣ号が後退し、態勢を立て直す。

 

「! Ⅳ号が!?」

 

「誰が操縦してんだ!?」

 

「頼んだぞ! 敵は我々が食い止める!!」

 

α分隊員の驚きの声が挙がる中、Ⅳ号の陰に居て見えなかった弘樹が姿を現し、再び吊り橋前の防衛線の中へと加わる。

 

「オイ、弘樹! 今Ⅳ号は誰が動かしてるんだ!?」

 

「冷泉 麻子くんだ!」

 

Ⅳ号を動かしている人物を問い質して来る地市に対し、弘樹は再び三八式歩兵銃に二式擲弾器を装着しながらそう答える。

 

「冷泉さんって………途中で拾ったあの子ですか?」

 

「戦車の運転出来たのか!?」

 

「教本を見てその場で覚えたらしい。大洗女子学園じゃ才女と言われているらしいが、驚くべきものだな!」

 

楓と了平にそう返し、二式擲弾器から30mm榴弾を、山形の軌道を描く様に発射する弘樹。

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

後方の砲兵隊の中へと着弾した30mm榴弾が、九一式十糎榴弾砲を破壊し、その砲に付いていた砲兵達にも破片を浴びせて戦死判定を下させる。

 

「チイッ! やっぱりお前さんが厄介やな! 潰させて貰うで! 弘樹っ!!」

 

それを見た大河が、MG34を弘樹へと向けるが………

 

「そうは………させませんよ」

 

そこで、大河に殴り飛ばされていた飛彗が起き上がりながらそう言って来た。

 

「! 何や!? ワイの拳喰らって起き上がるんかい!?」

 

「生憎と、意外とタフなのが売りでしてね………」

 

驚く大河に向かって、飛彗はそう言い放つ。

 

「ほうぉ? 顔の割りには言うやんけ。なら………今度はキッチリ起き上がれない様にしたらぁっ!!」

 

そう叫ぶと、腕を振り被って、再び飛彗を殴り飛ばそうとしたが………

 

「顔の事は結構気にしてるんで………言わないでもらえますか!!」

 

飛彗はそう言い放ち、瞬きをした次の瞬間には、大河の懐に入り込んでいた!

 

「!? なっ!?」

 

「ハイイイイイィィィィィィーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのまま、驚愕した大河の身体に、カウンター気味のエルボーアタックを喰らわせた!!

 

「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

途端に大河は人形の様にブッ飛び、そのまま川の中へ水没する!!

 

「「「「「「「「「「!? 親分ーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

同分隊や、別の分隊に所属していた、舎弟の大洗連合の子分達が、それを見て悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「ス、スゲェ………」

 

「マジかよ………」

 

その光景に、地市と了平が信じられないと言う様な表情を浮かべる。

 

(今のは………八極拳の『外門頂肘』か………)

 

そして弘樹は、飛彗が放った攻撃が、八極拳の技である事を見抜く。

 

「兎に角撃ち込め!!」

 

「連続アターックッ!!」

 

「「「それそれそれーっ!!」」」

 

と、Ⅲ突が次弾装填と方向転換に戸惑っている間に、八九式がⅣ号を仕留めようと、車体前面に装備された九一式6.5mm車載機関銃を発砲する。

 

乾いた音と共に弾丸が次々に吐き出されてⅣ号に命中するが、如何に防備の薄い後部装甲と言えど、機関銃程度で抜ける筈が無く、弾丸は弾かれて明後日の方向に飛んで行く。

 

その間にどんどんと態勢を立て直すⅣ号。

 

「マズイな、逃げられるぞ………ん? アレは?」

 

ブルーノZB26軽機関銃を発砲していた大詔がそう声を挙げた瞬間、何かに気付いて、ピープサイトから目を離す。

 

それは、Ⅳ号が渡ろうとしている吊り橋の向こう側から向かって来る、生徒会メンバー+蛍の乗る38tのEチームに随伴している迫信の率いるε分隊。

 

そして、その後ろから付いて来る1年生達の乗るM3のDチームに随伴する、勇武が率いるδ分隊の姿だった。

 

「フフフ、奴等が目の前の敵に気を取られている隙に回り込んでやる………」

 

「桃ちゃん、悪い顔………」

 

「完全に悪役の顔だね~」

 

「駄目だよ、桃ちゃん。女の子がそんな顔しちゃ」

 

38tの中で、桃、柚子、杏、蛍がそんな会話を交わす。

 

「さて………上手く行くかな?」

 

「フフフ………漁夫の利を狙わせてもらうぞ」

 

「ナンマンダブ、ナンマンダブ………」

 

「…………」

 

熾龍が運転するくろがね四起の後部座席で迫信と十河がそう呟き、助手席の舘芭が祈る様に念仏を唱えている。

 

「おっ、飛彗の奴、大活躍しとるみたいやな」

 

「オイ、今のアイツは敵だぞ」

 

「気持ちは分かるが、今は目の前の敵に集中してくれ」

 

活躍している飛彗を見て、豹詑が思わずそう呟くが、秀人と俊にそう注意される。

 

「ねえ~、このままで良いの~?」

 

「まあ、取り敢えず生徒会に付いてこう」

 

「でも、今は敵なんじゃ………」

 

「向こうも撃ってこないし、良いんじゃない?」

 

「そうそう」

 

目の前に居る敵である筈のEチームとε分隊を攻撃せず、只付いて行っているDチームのM3の中で、桂利奈、梓、あゆみ、優季、あやが呑気そうにそう言い合う。

 

「…………」

 

そして紗希は1人ボーッとしていた。

 

「良いのかな? 目の前のチームは敵なんじゃ?………」

 

「ん~、でも………車長からの指示は出てないし………」

 

「良いんじゃないかなぁ?」

 

一方のδ分隊も、Dチームの車長である梓からの命令が無い為、分隊長である勇武を始め、竜真、光照も行動を起こそうとしない。

 

「何を言ってるスか皆さん! 此処は腕の見せ所ッスよ!! ガッツδ分隊ッ!!」

 

「だ、駄目デスよ、正義サン!」

 

「梓さんは付いて行くって言ってますし、取り敢えずはそれが命令だと思えば良いんじゃないですか?」

 

「まあ、初めての試合だし、胸を借りる積りで行こうよ」

 

突っ込んで行きそうになっていた正義をジェームズが止め、清十郎と誠也もそんな事を言い合う。

 

「Eチームとε分隊………それにDチームとδ分隊か」

 

「コレでまた挟み撃ちでござるな」

 

大詔がそう言うと、ウィンチェスターM1897を構えていた小太郎がそう返す。

 

「弘樹! 吊り橋の向こうからも敵が来てるぞ!!」

 

「!? Eチームとε分隊………Dチームとδ分隊もか」

 

地市の言葉に、弘樹は吊り橋の向こう側を見やる。

 

と、そこで………

 

態勢を立て直していたⅣ号が再発進!

 

「逃がすかっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

「ブッ放せぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

逃がさんとばかりに、Ⅲ突と八九式の砲撃。

 

更には砲兵隊と対戦車兵達が携帯していた対戦車火器が火を噴く。

 

大半は外れて、谷川に着弾して水柱を上げたが、一部がⅣ号の付近に着弾!

 

Ⅳ号の姿が爆煙で見えなくなる。

 

「!? Ⅳ号が!?」

 

「うわぁっ!! やられたぁっ!!」

 

「…………」

 

飛彗と了平がそう声を挙げるが、弘樹は冷静に、爆煙の中を見据えていた。

 

その次の瞬間!!

 

爆煙を突っ切る様に、Ⅳ号戦車が姿を現す!!

 

「外れたっ!!」

 

「次だ次!!」

 

「ハハハハッ! やるなぁっ!!」

 

「次弾発射用意っ!!」

 

エルヴィンと典子が、次弾装填を急ぎ、明夫が仕切っている砲兵隊と、武志を中心とした対戦車兵達も再攻撃の準備に入る。

 

「! 砲兵! 敵の砲兵隊と対戦車兵達の動きを阻害しろ!!」

 

「「「「「「「「「「! 了解!!」」」」」」」」」」

 

しかしそこで、弘樹がそう指示を下し、α分隊の砲兵達が、迫撃砲と榴弾砲を、敵砲兵隊と対戦車兵達に向けって砲撃し始める。

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」

 

砲爆撃を浴びせられ、敵砲兵隊と対戦車兵達は浮足立つ。

 

「西住くん! 敵の砲兵隊と対戦車兵達の動きを止めたぞ!!」

 

「!! 秋山さん! 砲塔を回転させて!!」

 

「! 了解!!」

 

弘樹がⅣ号へそう通信を送ると、みほは砲手である優花里にそう指示を出す。

 

砲塔回転用のモーターが唸りを挙げ、後ろを向き始める。

 

最初に狙うのは火力の高いⅢ突だ。

 

「ぬうう………」

 

Ⅲ突側も狙われている事には気づいており、先んじて砲撃しようと試みているが、旋回式の砲塔を持たないⅢ突は、狙いを定める為には車体を動かすしかなく、照準が遅れる。

 

「早く回って~っ! 撃たれる前に撃っちゃってよぉっ!!」

 

「ハイ!」

 

その隙にⅣ号の砲は、旋回を完了する。

 

「発射用意っ!」

 

みほの号令で、前進していたⅣ号が停止する。

 

「…………」

 

そこで優花里は照準を微調整し、完全にⅢ突を捉える。

 

「撃てぇっ!!」

 

「!!」

 

そしてみほの号令が下った瞬間!!

 

優花里はトリガーを引いた!!

 

轟音と共に放たれた砲弾が、Ⅲ突の砲塔右側へと吸い込まれる様に命中!!

 

爆発音が響いたかと思うと、撃破されたと判定されたⅢ突から白旗が上がる!!

 

「やったっ!!」

 

「よっしゃあぁっ!!」

 

「うむ………」

 

地市と了平が歓声を挙げ、弘樹も無言で頷く。

 

「はああ………スゴッ!」

 

「ジンジンします………」

 

「何だか………気持ち良い~」

 

「…………」

 

そして、Ⅳ号の中では、初めての砲撃の衝撃に、沙織と優花里、そして目を覚ました華が感激の様な感覚を覚えていた。

 

麻子も、言葉こそ出していないが、驚きを露わにしている。

 

「…………」

 

そんな中で、みほは1人冷静に、次弾を装填している。

 

[有効! Cチーム、行動不能!!]

 

[今回は各チーム対抗の殲滅戦だ! そのルールに則り、γ分隊も共に行動停止だ!!]

 

「うええっ!?」

 

「マジかよ!?」

 

通信機から亜美と嵐一郎の声が響いて来て、磐渡と海音の信じられないと言った声が挙がる。

 

「今度は八九式!」

 

「ハイッ!!」

 

と、みほがそう指示すると、優花里は続いて、Bチームの八九式に狙いを定める。

 

「来てる来てる! フォーメーションB!!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

狙われた八九式が先んじて砲撃する。

 

しかし、砲弾はⅣ号に掠りもせず、川へと落ちて水柱を上げた。

 

そして反撃とばかりにⅣ号が砲撃!!

 

Ⅳ号から放たれた砲弾は、八九式の車体前面の中心に命中!!

 

「真面にアタック喰らったーっ!!」

 

衝撃で八九式が僅かに後退したかと思うと、撃破判定が下され、白旗が上がる。

 

「クッ! やられたかっ!?」

 

「何とっ!?」

 

大詔と小太郎から驚きの声が挙がる。

 

「よっし! コレで………」

 

「まだだ! 向こう岸からも来てるのを忘れるな!!」

 

地市が歓声を挙げようとしたが、弘樹がそう言い放ち、九七式手榴弾を手に吊り橋を渡り始める。

 

彼の言葉通り、吊り橋の先では、ε分隊が展開を終えていた。

 

「フフフフフフ………遅かったな舩坂 弘樹………既に部隊の展開は完了した………Ⅳ号は吊り橋の上で身動きが取れない………貰ったぞっ!」

 

勝利を確信している十河が、悪そうな笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

しかしその瞬間………

 

「退け退けーっ!!」

 

「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

後方に控えさせていたEチームの38tが、展開していたε分隊員達を押し退ける様に前へと出て行く!

 

「!? 何ぃっ!? 河嶋 桃! 何故前進するっ!?」

 

彼が事前に立てた作戦では、要である38tを後方に控えさせ、対戦車兵と砲兵の攻撃によって橋の上で動けないⅣ号を撃破する筈だった。

 

だが、今38tはその作戦を無視して前進して行っている。

 

「あ、あの、桃ちゃん………作戦聞いてた?」

 

蛍が桃にそう言うが………

 

「そんなまどろっこしいモノがいるかぁっ! 一気に叩き潰してやるわぁっ!!」

 

桃はまるで別人の様なテンションでそう言い返す。

 

「桃ちゃんの悪い癖が………」

 

「コレだけは治らないね~、何時までも」

 

そう言いながら、特に桃に逆らう様な真似をせず、黙々と操縦を続けている柚子と、相変わらず干し芋を齧っているだけの杏。

 

「ああ! また来るぅ!!」

 

と、その様子をⅣ号のペリスコープで確認した沙織がそう声を挙げると、Ⅳ号の砲塔が再び前を向き始める。

 

「フッフッフッ………此処がお前等の死に場所だ!!」

 

そう言いながら、桃は吊り橋の上のⅣ号に狙いを定める。

 

「させるかぁっ!!」

 

だがその瞬間、Ⅳ号の前へと飛び出した弘樹が、手に握っていた九七式手榴弾のピンを抜き、38t目掛けて投擲した!

 

弧を描いて飛んで行った九七式手榴弾は、38tの手前の地面に落ちたかと思うと、数回バウンドして爆発する!!

 

「おうわぁっ!?」

 

爆発の振動と音に驚き、桃が一瞬怯む。

 

「今だ!!」

 

その瞬間に、弘樹はその場に伏せて、砲塔の旋回を終えたⅣ号にそう言い放つ。

 

「撃てぇっ!!」

 

みほの号令で、Ⅳ号は砲撃!!

 

「!………」

 

至近距離での砲撃に、弘樹は爆風と硝煙の臭いを嫌と言うほど感じる。

 

同時に、38tも発砲したが、砲弾はⅣ号の上の方を通り過ぎて、丁度了平が籠っていた蛸壺に直撃した!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴と共にブッ飛ばされた了平は、地面に叩きつけられたかと思うと、戦死と判断される。

 

「な、何で………」

 

「やっぱり日頃の行いですね………」

 

黒焦げの了平に向かって、楓がピシャリとそう言い放つ。

 

一方、Ⅳ号が放った砲弾は、38tを完全に捉えており、砲塔の右側………丁度7.92mm MG37(t)重機関銃の辺りに直撃していた。

 

撃破されたと判定を受けた38tから白旗が上がる。

 

「あああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」

 

十河がその光景を見て、何て事だと言わんばかりに絶叫する。

 

「おやおや………」

 

対照的に迫信は、仕方がないと言う様に笑みまで浮かべている。

 

「救い様の無い馬鹿だな………」

 

熾龍は、独断先攻した桃にそう毒を吐く。

 

「えええ~~っ!?」

 

「オイオイ、俺達何もしないまま終わりかよ?」

 

「不完全燃焼も良いとこだぜ………」

 

不完全燃焼気味な豹詑、俊、秀人。

 

(ホッ………良かった………危ない目に遭わなくて………)

 

只1人、逞巳は内心で安堵している。

 

「ああ~、やられちゃったね」

 

「桃ちゃんココで外す?」

 

「桃ちゃんと呼ぶな~っ!!」

 

「イッタ~イッ! お尻打っちゃったよ~っ!!」

 

そして38tの車内では、少々煤けた杏、柚子、桃、蛍がそんな声を挙げていた。

 

一方………

 

その一連の成り行きを、ジッと観戦していたDチームとδ分隊は………

 

「み、皆やられちゃったぞ!?」

 

「つ、強い! 流石舩坂先輩だ!!」

 

「西住流も半端じゃないよ~っ!!」

 

「良し! 逃げよう!!」

 

Aチームとα分隊の奮戦の前にスッカリ戦意を無くし、逃走の態勢に入ろうとする。

 

「!!」

 

と、それに気づいた弘樹は、三八式歩兵銃に三十年式銃剣を着剣する。

 

そして、立ち上がると同時に、逃げの態勢に入っていたDチームとδ分隊目掛けて突撃した!!

 

「ちょっ!? 突っ込んで来るよっ!?」

 

「は、早く逃げてえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

着剣した三八式歩兵銃を手に、気迫を感じさせる表情で突撃して来る弘樹に、Dチームは完全にビビって砲撃する事も忘れて逃走を急ぐ。

 

「来、来るぞぉっ!!」

 

「う、撃て! 撃てぇっ!!」

 

一方、δ分隊の歩兵達は、勇敢にも弘樹を迎撃しようとし始めたが………

 

恐怖で震えた手では照準が真面に付けられず、弾丸は有らぬ方向へとばかり飛んで行く為、弘樹は構わずに突撃を続ける。

 

しかし、如何にあらぬ方向へ飛んで行っているとは言え、銃火の中を一直線に突撃するなど、並みの精神を持った人間に出来る事では無い。

 

「…………」

 

弘樹は眉一つ動かさずに突き進み、遂にδ分隊と、その背後で逃走を計っているDチームのM3リーを捉える。

 

「ふ、舩坂先輩っ!?」

 

「退けぇっ!!」

 

丁度正面に位置取る形となったδ分隊の分隊長である勇武に、銃剣で突きを繰り出す弘樹。

 

「!? ぐはあぁっ!?」

 

真面に銃剣の突きを喰らった勇武は、そのままバタリと倒れる。

 

「!? 勇武っ!?」

 

「分隊長がやられたぁっ!?」

 

分隊長である勇武がやられ、他の分隊員達は動揺する。

 

「!!」

 

その隙を付き、弘樹は三八式歩兵銃を手放すと、M3リーに向かって跳躍!

 

その車体にしがみ付いた!!

 

「うわぁっ!?」

 

「取りつかれたっ!?」

 

梓達の悲鳴にも似た声が挙がる中、弘樹はそのままM3リーの車体後部………エンジンルームの上に攀じ登る。

 

そして、ベルトに下げていた漏斗状の物………『吸着地雷』をセットし、信管を作動させ、エンジンルームの上から跳ぶ!!

 

その直後に、吸着地雷が爆発!!

 

「!? うおわっ!?」

 

爆風に煽られ、地面に転がる弘樹。

 

しかし、M3リーのエンジンルームからは炎と黒煙が上がっており、続いて撃破判定を示す白旗が上がった。

 

「やったか………」

 

地面の上を転がった為、全身埃だらけの姿で上半身だけを起こしてそれを確認した弘樹がそう呟く。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

「凄い………」

 

「まあ………」

 

「流石、あの舩坂 弘軍曹の子孫です………」

 

「無茶をする奴だな………」

 

Ⅳ号の車内でその光景を見ていたみほ、沙織、華、優花里、麻子が感嘆と呆れの声を漏らす。

 

[DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム八九式、何れも行動不能]

 

[よって、AチームⅣ号、並びにα分隊の勝利だ!]

 

とそこで、亜美と嵐一郎がそう告げて来て、みほ達は其々の席のハッチを開けて、車外に姿を現した。

 

「わ、私達、勝っちゃったの?」

 

「みたいです………」

 

まだ勝利した事への実感が湧かない沙織と華が、茫然とした様子でそう呟く。

 

「凄い………西住殿と舩坂殿のお蔭です!!」

 

「ふわっ!?」

 

とそこで、感極まったのか、優花里がそう言いながら、みほに抱き付いた。

 

「勝ったと言うか、他のチームが脱落したと言うのが正しいな」

 

「その通りだな。今回の勝利は、他の戦車チーム達が全員未経験者だったと言う事に助けられたのが大きいだろう」

 

と、麻子が冷静にそう言っていると、三八式歩兵銃を回収した弘樹が、Ⅳ号の元へと戻って来てそう言う。

 

試合が終わったからか、その口調は何時もと同じに戻っている。

 

「ハッ! 舩坂殿!! 先程の活躍、お見事でした!! 流石は英霊の血を継ぐ者ですね!!」

 

「行けると判断したから突撃したまでさ。そんな大層な事じゃない………それより、何時までそうして居るんだ?」

 

興奮した様子でそう言って来る優花里にそう返し、みほに抱きついたままな事を指摘する弘樹。

 

「ふえっ?………!? あああっ!? す、すみません! 西住殿!!」

 

優花里はそれでハッとして、みほから離れると、Ⅳ号の砲塔の上で土下座する。

 

「アハハハ………ありがとう、舩坂くん」

 

それを笑って済ませると、みほは弘樹の方を見やってそう礼を言う。

 

「………任務、完了致しました」

 

弘樹はそう言って、ヤマト式敬礼を返すのだった。

 

[回収班を派遣するので、行動不能の戦車や撃破された車両はその場に置いて、戻って来なさい]

 

とそこで、亜美からそう言う通信が送られてくる。

 

「フッ………やはり、彼女に戦車道を受講させたのは正しかった」

 

「それに、あの舩坂くんって子も凄かったですね」

 

「作戦通りだね」

 

「コレで廃校………阻止出来ると良いんだけど………」

 

それを聞きながら、撃破された38tの中では、桃、柚子、杏、蛍がそう言い合っていた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うむ………α分隊! 撤収開始っ!!」

 

とそこで、みほが弘樹にそう言い、弘樹はα分隊に撤収命令を出す。

 

「お~い! ちょっと待ってくれや~!!」

 

するとそこで、何処からとも無く、そんな声が聞こえてきた。

 

「? 何だ?」

 

「誰か~! 助けてくれや~!!」

 

「川の方から聞こえますけど………」

 

「川?………」

 

「「「「「「「「「「………!? あっ!?」」」」」」」」」」

 

そこで一同は一斉に、大河が川へと落ちた事を思い出す。

 

全員が一斉に川を覗き込むと、そこには………

 

「助けてくれや~!!」

 

必死な様子で、流されない様に川中の岩にしがみ付いている大河の姿が在った。

 

「く、黒岩さんっ!!」

 

「た、大変っ!!」

 

「す、すぐに救助をっ!!」

 

試合が終わった脱力感に包まれていた一同は、一斉に蜂の巣を突いたかの様に騒ぎ出す。

 

と、その次の瞬間!!

 

「フッ!!」

 

何時の前にか、吊り橋のワイヤーと自分の身体にロープを巻き付けていた弘樹が、吊り橋の上から川へとダイブした!!

 

「!? 舩坂くんっ!?」

 

「弘樹の奴! また無茶しやがって!!」

 

みほと地市が思わず声を挙げる中、当の弘樹は結構な流れの速さをものともせず、大河の元へと泳ぎ切る。

 

「しっかりしろ、大河!」

 

「おお、スマン、弘樹! 助かったでぇ!!」

 

「引き上げてくれぇっ!!」

 

大河を救助しながら、吊り橋の上に残っていたメンバーにそう呼び掛ける弘樹。

 

そのまま引き上げられ、無事救助は完了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

大洗女子学園と大洗男子校による合同演習は………

 

みほ達のAチーム………

 

そして弘樹の率いるα分隊の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回は冒頭だけでしたが、今回は本格的な最初のチーム対抗試合の様子をお届けしました。
基本的な流れは変わっていませんが、歩兵がいる分、戦闘が激化しています。
今後も、原作でもやった試合は、それを準拠にして行きたいと思っています。

それで作中のルールの補足ですが………
今回はチーム対抗の殲滅戦だったので、戦車を撃破された分隊は共に失格となっていましたが、他校との試合の場合は護衛している戦車を撃破されてしまった分隊は、他の無事な分隊に合流すれば、戦闘を継続する事が出来るという事になってます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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