ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第28話『ベオウルフ、参戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第28話『ベオウルフ、参戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース&カーネル機甲部隊の無線傍受作戦を逆手に取り、先制点を挙げた大洗機甲部隊は………

 

サンダース&カーネル機甲部隊の本隊を128高地へ誘い込み、その間にフラッグ車を発見して撃破する作戦に出る。

 

その作戦遂行の為に、敢えて歩兵部隊を128高地へ展開させる事を進言した弘樹。

 

みほは反対したが、大洗歩兵部隊員達に強い意志を信じ、最終的にはその進言を汲み上げる。

 

斯くして、弘樹達の大洗歩兵部隊が128高地でサンダース&カーネル機甲部隊の本隊を食い止めている間………

 

遂にサンダース戦車部隊のフラッグ車を発見したみほ達の大洗戦車隊。

 

しかし、同時に大洗歩兵部隊の足止め作戦も露呈し、勝負は時間との闘いとなっていた。

 

果たして、勝利に栄冠はどちらの手に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース戦車部隊のフラッグ車を発見したアヒルさんチームの八九式は、フラッグ車とその護衛歩兵部隊を引き付けながら、みほの指示通り、0615地点へ向かって居た。

 

その間にも、フラッグ車であるM4A1から執拗な砲撃が襲い掛かる。

 

「何をやっている! 早く片付けろ!!」

 

「ですが! 我々はフラッグ車護衛の部隊で、対戦車火器はそれ程………」

 

「相手は第二次大戦以前に作られた骨董品だ! 手榴弾1発でも当てればカタが着くっ!!」

 

更にそれを追う様に、護衛部隊の歩兵が乗ったジープが数台続いている。

 

「ええいっ!!」

 

するとそこで、八九式の車外に箱乗りしていた典子が、発煙筒をフローターサーブで、M4A1とその護衛部隊へ叩き込む!

 

発煙筒は空中で炸裂し、煙幕がM4A1と護衛部隊を包み込む。

 

「うわぁっ!?」

 

「煙幕か!? エホッ! ゴホッ!」

 

煙幕攻撃の前に咳き込むジェイ達。

 

M4A1は構わずに発砲したが、命中しなかった。

 

「何をやっている! 相手は八九式だぞ!!」

 

「視界が!!」

 

「良いから撃てっ!!」

 

視界が遮られているにも関わらず、攻撃を続行させるアリサ。

 

「ううっ!?」

 

外れはしているものの、着弾の衝撃が車内にも伝わり、あけびが思わず耳を押さえて蹲る。

 

「キャプテン! 激しいスパイクの連続です!!」

 

しかしすぐに、空いている砲塔上部のハッチから、車外に居る典子に新たな発煙筒を投げ渡す。

 

「相手のスパイクを絶対受けないで! 逆リベロよ!!」

 

「………意味が分かりません」

 

典子はあけびにそう返すが、あけびは苦笑いする。

 

尚、リベロとはイタリア語で『自由』を意味し、バレーボールに於ける守備専門の選手の事を言うのが、確かにこの使い方では意味が分からないだろう。

 

「ええい! 装填遅いわよ! 何やってんの!!」

 

一方、そんなアヒルさんチームの様子など露知らず、装填手に近い位置にある即応弾が尽きてしまった為、離れた砲弾ラックへと手を伸ばしている装填手に向かってイラだった口調でそう言う。

 

本来ならば即応弾がもっとあるのだが、皮肉にもアリサ自慢の通信傍受機が砲弾ラック部分を圧迫し、装弾数を減らしていたのである。

 

「す、すみません。砲弾が遠くて………」

 

「なら機銃を撃ちなさい!!」

 

「機銃で戦車を撃つなんてカッコ悪いじゃないですか!!」

 

アリサがそう言い放つと、砲手の子がそう反論する。

 

「戦いにカッコイイも悪いもあるか! 手段を選ぶな!!」

 

彼女らしいダーティーな怒鳴り声がM4A1の車内に響く。

 

とそこで、漸く典子が八九式の車内に戻ったかと思うと、砲塔が180度旋回し、発砲を行った。

 

放たれた砲弾はM4A1に命中したが、弾かれてしまう

 

「!? キャアッ!?………あんの動く鉄屑めぇ~~~~っ!!」

 

しかし、車内に走った振動で転びかけたアリサは、激高した様に上部ハッチを開けて、機銃架に着けられていたM2重機関銃を八九式に向けた。

 

「オ、オイ、アリサ!!」

 

「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

ジェイの声も耳に入らず、大凡女の子が言う様な台詞では無い台詞を吐き、M2重機関銃の引き金を引くアリサ。

 

12.7mm弾が、八九式の装甲に当たって火花を散らす。

 

補足しておくが、旧日本軍の戦車は小銃でも貫通される様な装甲だったと言われる事があるが、誤りである。

 

12.7mm弾でも、余程の至近距離で最も装甲の薄い場所なら貫通出来ただけであり、小銃で装甲を抜かれたと言う事は無い。

 

………多分。

 

それはさておき、すっかり激高したアリサのM4A1と、それに続いているジェイ達護衛部隊は、八九式に誘導されている事に全く気付いていない。

 

やがて八九式は、大洗戦車部隊が集結している0615地点へと突入する。

 

「! 来ました! アヒルさんチームを確認!!」

 

「後方より敵のフラッグ車! 少数の護衛部隊を確認!」

 

「護衛の部隊は居ると思っていたでござるが、意外と数が少ないでござるな」

 

大洗戦車部隊と合流し、離れた場所で待ち構えていた楓、逞巳、小太郎達を含めた偵察兵部隊が、双眼鏡でそれを確認する。

 

「全車、突撃します! 但し、カメさんはウサギさんとカバさんで守って下さい! 偵察兵部隊の皆さんも余り前に出ず、戦車と足並みを揃えて下さい! 敵も軽装備ですが、油断はせずに!」

 

「了解した。行くぞ!」

 

「ROGER!」

 

みほがそう指示を出すとⅣ号を発進させ、大詔とジェームズがそう返事を返す。

 

そして、大洗戦車部隊と偵察兵部隊はサンダースのフラッグ車へと一斉に突撃を開始した。

 

「!? アリサ! 止まれっ!! 罠だ! 誘い込まれぞっ!!」

 

と、M2重機関銃を撃つのに夢中になっていたアリサより、逸早く大洗戦車部隊と偵察兵部隊に気付いたジェイがそう声を挙げる。

 

「へっ?………!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!! 後退! 後退ーっ!!」

 

そこで漸く突撃して来る大洗戦車部隊と偵察兵部隊の存在に気付いたアリサが、慌てて車内へ引っ込み、後退指示を出す。

 

直後に、大洗戦車部隊の一斉砲撃が襲い掛かる!

 

M4A1の至近距離に次々と砲弾が着弾し、車内にはまるで地震の様な振動が走る。

 

「イ、イカン! フラッグ車を守れっ!!」

 

「し、しかし! 我々の装備では!?………」

 

「良いから前に出ろ! フラッグ車がやられたら負けなんだぞ!!」

 

ジェイは慌てて護衛部隊に前に出る様に指示を出す。

 

「護衛部隊が前に出て来ました!」

 

「奴等に対戦車火器は殆ど無い! 此方の戦車に近づかせない様にしろ!!」

 

突撃している38tを守っているM3リーとⅢ突の影に隠れながら進んでいた偵察兵部隊の中で、清十郎と大詔がそう言い合い、SIG KE7軽機関銃とFM mle1924/29軽機関銃を撃ちまくる。

 

「こ、此方フラッグ車! 緊急事態発生! 大洗戦車部隊の集中攻撃を受けています!! 至急救援をっ!!」

 

アリサは慌てて、総隊長であるケイにそう通信を送った。

 

『お~っと! サンダースのフラッグ車、待ち伏せに掛かったぁっ! 大洗戦車部隊全車両からの一斉砲撃に晒される~!!』

 

『八九式と侮って単独で追撃に走ったのが裏目に出た様ですね』

 

実況席ではヒートマン佐々木とDJ田中のそんなコメントが発せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

128高地………

 

「ちょっと、ちょっと! 話が違うじゃない! 大洗機甲部隊が集結してるって言ってたコッチには歩兵部隊しかいないし、如何言う事?」

 

その通信を受けたケイが、アリサにそう問い質す。

 

『ハ、ハイ、恐らく………無線傍受を、逆手に取られたのかと………』

 

とアリサが恐る恐ると言った様子でそう報告すると………

 

「バッカモーンッ!!」

 

ケイは、どこぞの公園前派出所勤務のお巡りさんの上司の様な怒声を浴びせた。

 

『ヒイッ! も、申し訳ありません………』

 

「戦いはフェアプレーでっていつも言ってるでしょ! それとジェイ! 貴方、知ってて黙ってたでしょう!!」

 

『そ、総隊長! 申し訳ありません………ですが! それより今は救援をっ!!』

 

続いて護衛部隊を率いていたジェイへそう通信を送るケイだったが、ジェイからは爆音と銃声混じりのそんな返事が返って来る。

 

「全く、しょうがないわね! 良いから早く逃げなさい!!」

 

『『イエス、マム!!』』

 

アリサとジェイがそう言うと、通信は切断された。

 

「やれやれ………アリサの奴、またやったのか?」

 

ジョーイが呆れた様にそう呟く。

 

如何やら、アリサには前科が有る様だ。

 

「全く、あの子達は………う~ん、無線傍受しておいて、全車両で反撃ってのもアンフェアね。コッチの大洗の歩兵部隊も足止めが必要だし………良し!」

 

そこでケイは128高地に集結していたサンダース戦車部隊に通信を繋ぐ。

 

「敵は5両。3両と442部隊だけ私に着いて来て。ナオミ、ジョーイ、出番よ」

 

「…………」

 

「イエス、マム」

 

ケイにそう言われ、車内で不敵に笑うナオミと、敬礼するジョーイ。

 

「ボブ。此処の指揮は任せたわよ。大洗の歩兵部隊の相手をしてて」

 

「………イエス、マム」

 

続いてボブにそう指示を出したが、ボブは何やら含みがありそうな返事を返す。

 

「それじゃあ、レッツゴーッ!」

 

しかし、ケイはそれには気づかず、ナオミの乗るファイアフライを含めた4両とジョーイの442部隊を引き連れて、フラッグ車の救援に向かう。

 

128高地には、3両のシャーマンと多数の戦闘車両を配備しているカーネル歩兵部隊が残される。

 

「舩坂先輩! 敵部隊の一部が離脱して行きます!!」

 

「フラッグ車の救援に向かったのか………」

 

「オイオイ、マズイんじゃないのか!? 今みほちゃん達を守ってるのは偵察兵部隊の楓達だけだぜ!!」

 

光照の報告に弘樹がそう呟くと、地市がそう声を挙げる。

 

とそこで、残っていたシャーマンが放った砲弾が、3人が居る塹壕の上を飛び超えて、後方に着弾する。

 

「うおっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「しかし、この状況では援護に行くのは難しいね」

 

光照と地市が思わず声を挙げると、何時の間にか近くに来ていた迫信がそう言って来る。

 

………尚、彼も弘樹達と同等の活躍を見せ、かなり奮戦しているのに、戦闘服が全く汚れていない。

 

実にエレガント………

 

「クッ………」

 

苦い表情を浮かべながらも、突出していたM38装甲車目掛けて、二式擲弾器でタ弾を撃ち込んだ!!

 

M38装甲車は爆発し、砲塔の37mm M6戦車砲が外れる。

 

『やったなぁっ!』

 

『前進しますっ!』

 

とそこで、やられた仲間の仇を取ろうと、シャーマン3両が前進する。

 

「待て!」

 

しかし、ボブがそれに制止を掛けた。

 

「お前達は大洗戦車部隊の撃破に行け」

 

『えっ!?』

 

『で、ですが、ケイ総隊長の命令は………」

 

「良いから行け! コレは命令だっ!!」

 

『『!? りょ、了解っ!!』』

 

何とボブは、残っていたシャーマン3両も、大洗戦車部隊を撃破する為に派遣。

 

完全に総隊長であるケイの命令を無視する形だ。

 

「ボブ副隊長!? 良いんですか!?」

 

「構わん! 勝ちさえすれば総隊長も文句はいわねーだろうさ!!」

 

思わずそう問い質してきたカーネル歩兵部隊員の1人にボブは当然の様にそう返す。

 

「! 残りのシャーマン3両も離脱して行きます!」

 

「何っ? 如何言う事だ?」

 

「恐らく、歩兵部隊の副隊長くんの独断だろうね。彼も歩兵部隊の隊長くんも勝ちに拘る主義の様だ」

 

その様子を目撃した灰史がそう報告を挙げると、弘樹が軽く驚いた様な表情を見せ、迫信がそう推察する。

 

「よ~し! 戦車が居ないんなら、コッチのもの………」

 

そこで了平が、珍しく強気な様子でEMP35を構えて塹壕から姿を晒したが………

 

「撃てぇっ!!」

 

直後にM6ファーゴの37mmM6対戦車砲、M116 75mm榴弾砲やM101 105mm榴弾砲の砲弾や榴弾が一斉に叩き込まれた!!

 

「あ、嘘です! ゴメンなさい! ゴメンナサイ!」

 

すぐさま何時もの情けない了平に戻り、塹壕の中に伏せて小さくなる。

 

「チイッ! 戦車が居なくなったちゅうても、数も武器も向こうの方が上やで!!」

 

(イカン………このままでは西住くん達が………)

 

塹壕の中に隠れながら一〇〇式機関短銃を撃ちまくっていた大河の台詞を聞きながら、徐々に焦りを生じさせていく弘樹だった。

 

『さあ、ココで128高地に居たサンダース&カーネル機甲師団の内、約半数がフラッグ車の救援に向かいます』

 

『コレは大洗側に取っては良くない展開ですよぉ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

サンダースのフラッグ車を全車で攻撃していた大洗戦車部隊は………

 

逃走を始めたサンダースのフラッグ車を、全車両で追撃している。

 

楓達偵察兵部隊は、フラッグ車の護衛部隊を待ち伏せ地点に釘付けにし、分断している。

 

「良いぞーっ!」

 

「追えーっ!!」

 

予期せぬ試合展開に、観客席は大盛り上がりを見せる。

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「まさかこんな展開になるとは………」

 

サンダースのフラッグ車が追い詰められている状況になっている事を、ペコが予想外だとコメントする。

 

「うふふ、まるで鬼ごっこね」

 

ダージリンは愉快そうに笑いを零す。

 

「だが、まだ如何なるかは分からん………大洗戦車部隊がフラッグ車の撃破に手間取れば、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊が合流する可能性がある」

 

そして1人、真剣な表情で試合の流れを見ているアールグレイだった。

 

 

 

 

 

そして、大会運営の陣営では………

 

「アハハハハハハッ! 新鮮で良いわぁ! こんな追いかけっこ初めてみたわね!」

 

10式戦車の上に胡坐を掻いて座っていた亜美が、試合の様子を見て笑いながらそう言う。

 

「オイ、亜美。女だったらもっと慎みを持ったら如何だ?」

 

そんな亜美の隣に、腕組みをして仁王立ちしている嵐一郎がそう言い放つ。

 

「へっ? 何が?」

 

「もう良い………全く………」

 

何の事かさっぱり分かって居ない亜美に、嵐一郎は憮然として黙り込んだ。

 

と、そこへ………

 

「ヤッホーッ! 亜美! 最豪一尉も!」

 

愛車の10式・改のハッチから上半身を出している状態の空が、2人の元へやって来る。

 

「アラ、空。如何したの?」

 

「いや、ちょっと知った顔が見えたから挨拶に来ただけよ」

 

「呑気なものだな。大洗の試合を見ていなくて良いのか?」

 

亜美と空がそう遣り取りするのを聞いて、嵐一郎が呆れる様にそう言う。

 

「な~に、あの子達なら大丈夫よ。2人も内心そう思ってるんでしょ」

 

「フフフ、まあね」

 

「…………」

 

しかし、空がそう返すと、亜美は笑みを浮かべ、嵐一郎は仏頂面で黙り込んだのだった。

 

 

 

 

 

黒森峰応援席………

 

「ある意味予想外の展開ですね」

 

「…………」

 

エリカがそう言うが、相変わらず無反応でただ試合の様子をジッと観戦しているまほ。

 

「さて………此処までは順調と言ったところだが………」

 

「みほ殿~! 急ぐであります~!!」

 

心底楽しそうに笑いながら試合を観戦している都草の横では、久美が相変わらず声援を送り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、サンダースのフラッグ車を追撃している大洗戦車部隊へ場面は切り替わり………

 

大洗戦車部隊全車両の追撃を受けているM4A1の中では………

 

「このタフなシャーマンがやられるワケないわ! 何せ、5万両も作られた大ベストセラーよ! 丈夫で壊れ難い、オマケに居住性も高い! 馬鹿でも乗れるくらい操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!!」

 

半ばパニクっている様子のアリサが、発狂したかの様にシャーマンの事をべた褒めしている。

 

とそこで、大洗戦車部隊からの砲撃が襲い掛かり、至近弾とかすった砲弾の振動が車内に走る。

 

「キャアアァッ!?」

 

「お言葉ですが、自慢になってません!」

 

「煩いわよぉっ!!」

 

砲手の言葉に、アリサは喚く様にそう返す。

 

その間にも、次々と大洗戦車部隊からの砲撃が襲い掛かる。

 

「何であんなしょぼくれた戦車に追い回されるワケっ!!」

 

M4A1の砲塔が後方へと旋回する中で、アリサが相変わらず喚く。

 

「そこ! 右!! 私達の学校とカーネルは、アンタ達とは格が違うのよ! 撃てぇっ!!」

 

そして、追撃して来る大洗戦車部隊に向かって発砲する。

 

しかし、大洗戦車部隊は僅かに回避行動を取ったが、砲弾はその頭上を飛び越えて、遥か後方へ着弾した。

 

「何よ、その戦車! 小さ過ぎて的にもならないじゃない! 当たればイチコロなのに! 修正、右3度!!」

 

喚きながらも砲手への指示を出すアリサ。

 

「装填急いで! 全く、何なのあの子達! 力も無いくせにこんなとこ出て来て! どうせすぐ廃校になるくせに! さっさと潰れちゃえば良いのよぉっ!!」

 

「………ハア~~」

 

喚くアリサを後ろに、装填手は大きく溜息を吐いた。

 

『果敢に攻める大洗戦車部隊と必死に逃げるサンダースのフラッグ車。しかし、どちらも有効打を与えられていません!』

 

『第二次大戦中の戦車は、基本的に行進間射撃の命中率が悪いんですよね。余程の砲手が乗っていないと、当てるのは難しいでしょう』

 

 

 

 

 

一方、追撃を続けている大洗戦車部隊側は………

 

「「「?」」」

 

中心となって追撃していたⅣ号の車内にて、みほ、華、優花里が何かに気付く。

 

それは、M4A1のハッチを開けたアリサが、自分達に向かって何かを叫んでいる姿だった。

 

「………何か、喚きながら逃げてます」

 

「うん………」

 

流石のみほも、如何コメントして良いか分からず、困った笑みを浮かべる。

 

「目標との距離、詰まって来ています。60秒後、攻撃を再開予定。順次発砲を許可します!」

 

しかし、すぐに頭を切り替え、大洗戦車部隊に次の指示を出す。

 

「前方に上り坂。迂回しながら目標に接近して下さいっ!!」

 

「分かってる」

 

みほの指示に従い、正面に見えてきた丘を迂回する麻子。

 

「柚子、遅れるな」

 

「分かってるよ、桃ちゃん」

 

「頑張れ~」

 

「杏も少しは仕事してよ~」

 

最後尾に続くフラッグ車の38tの車内では、カメさんチームがそんな遣り取りを交わしていた。

 

そして、大洗戦車部隊は、フラッグ車を再び視界に収めると、再度の砲撃準備に入る。

 

「何でタカシはあの子が好きなの!? 如何して私の気持ちに、気づかないのよぉ~~~っ!!」

 

フラッグ車の中では完全に錯乱しているアリサが、全く関係の無い事を叫び出している。

 

と、その時!!

 

ドゴーンッ!!と言う、まるで火山でも噴火したかの様な凄まじい発砲音が響き渡った!!

 

余りの音と衝撃に、森林地帯から野鳥が一斉に飛び立つ。

 

「! 今のは!?」

 

「ファイアフライの17ポンド砲です!」

 

「何か凄い音だったよ」

 

その音を聞いたみほ、優花里、沙織がそう声を挙げる。

 

そして、みほと優花里がハッチを開け、音が聞こえて来た後方の方を見やる。

 

「? 4両だけ?(舩坂くん達は大丈夫なのかな?)」

 

そこには、小高い丘の上に陣取って砲口から白煙を上げているファイアフライと、此方を目指して前進して来るシャーマン3両の姿が在った。

 

更に、周囲には護衛部隊を務めているジョーイの第442連隊戦闘団の姿も在る。

 

「距離、約5000メートル!」

 

「ファイアフライの有効射程は3000メートル。まだ大丈夫です」

 

すぐに全車両へそう通信を送らせるみほだったが、形勢はサンダース&カーネル機甲部隊へ傾こうとしていた。

 

「来たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その姿を確認した途端、先程まで錯乱していたのが嘘の様に歓喜の声を挙げるアリサ。

 

「よっし! イエイ! 100倍返しで反撃よ!!」

 

そして、増援に来たサンダース戦車部隊と共に、大洗戦車部隊に砲撃を開始する。

 

『あ~っと! 此処でサンダース側に増援が出現!!』

 

『コレはマズイですよぉ。一気に大洗側がピンチになる可能性もあります』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中がそんな実況をする中、先程までとは逆に、今度は大洗戦車部隊が激しい砲火に晒される。

 

「如何する、みぽりん!?」

 

「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします。カバさんと我々あんこうチームは、引き続きフラッグ車を攻撃します」

 

沙織が問うと、みほは素早くそう指示を出す。

 

フラッグ車の38tを中心に、前方をⅣ号とⅢ突、後方をM3リーと八九式が固める陣形を取る大洗戦車部隊。

 

「今度は、逃げないから!」

 

「「「「うん!」」」」

 

梓の声に、紗希を除いた全員が返事を返すウサギさんチーム。

 

「この状況はアラスの戦いに似ている!」

 

「いや、甲州勝沼の戦いだ」

 

「天王寺の戦いだろう」

 

「「「それだ!!」」」

 

カバさんチームの歴女メンバーは、こんな時でもマイペースに、現状を歴史に例えていた。

 

「ココで負けるワケには行かんのだ!!」

 

と、カメさんチームの桃が、そう言う台詞と共に、後方から追撃して来るサンダース戦車部隊目掛けて発砲する。

 

しかし、砲弾は明後日の方向に着弾する。

 

「桃ちゃん、当たってない」

 

「煩い!!」

 

「そもそもこの距離じゃ届かないよ」

 

「壮絶な撃ち合いだねぇ」

 

そんな遣り取りを交わす柚子、桃、蛍を余所に、相変わらず干し芋を齧り続ける杏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「大洗女子、ピンチですね………」

 

一転して窮地に陥っている大洗戦車部隊を見て、ペコはそう漏らす。

 

「………サンドイッチはね、パンよりも中のキュウリが1番美味しいの」

 

するとダージリンが、ペコに向かってそんな事を言う。

 

「ハイ?」

 

「挟まれた方が良い味出すのよ」

 

ワケが分からないと言った様子のペコに、ダージリンはそう説明する。

 

「成程………」

 

そんなダージリンの言葉に頷くアールグレイ。

 

「アールグレイさん、分かるんですか?」

 

「大体はな………」

 

(………私ももっと勉強しないと)

 

そんな2人を見て、変な方向に努力してしまいそうになるペコだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

128高地では………

 

「うわっ!? クソ、スマンッ!!」

 

「本多さんがやられた!!」

 

「もう弾が無いぞっ!!」

 

「如何すりゃ良いんだ!?」

 

「海軍の支援を要請するっ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊は壊滅寸前だった。

 

戦車が居なくなったとはいえ、多数の火砲を備え、何より人数で勝っているカーネル歩兵部隊は、徐々に大洗歩兵部隊を追い詰めている。

 

「良ーし! 砲撃止めっ!!」

 

「砲撃止めーっ!!」

 

「オートバイ部隊前へ! 一気に踏み潰してやる………」

 

ボブの命令で、大洗歩兵部隊の防御陣地への制圧砲撃が中止され、オートバイ部隊が前へと出る。

 

「? 砲撃が止んだ?」

 

「オートバイ部隊が敵部隊の前方に展開しています!」

 

「一気にトドメを刺す積りか………」

 

塹壕から僅かに顔を出した弘樹が、カーネル歩兵部隊の様子を見て、そう推察する。

 

「如何すんだ、弘樹! 何か手は無いのかよ!!」

 

「…………」

 

地市がそう叫ぶが、弘樹は只苦い顔をするだけだった。

 

「アターックッ!!」

 

と、その次の瞬間!!

 

ボブの号令を受けたカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊が、一斉に大洗歩兵部隊の防御陣地へ突撃を開始する。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊、万事休すか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………と思われた、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人のバイクに乗った歩兵が、突撃を決行したカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊の横から突っ込んだ!!

 

「!?」

 

「な、何だっ!?」

 

「敵かっ!?」

 

突然の乱入者に、突撃しようとしていたカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊は混乱を起こす。

 

「!? うわあっ!?」

 

「ギャアアッ!?」

 

乱入者を避けようとしてハンドルを切ったオートバイ兵達が、別のオートバイ兵とクラッシュし、次々に車体から投げ出されて行く。

 

中には打ち所が悪かったのか、そのまま戦死判定を受けた者も居る。

 

「…………」

 

そんなカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊の中を巧みに走り回っていた謎のオートバイ兵は、そのまま右手で、車体に付けていたホルスターから、銃身を切り詰めたソードオフモデルの『ウィンチェスターM1887』を抜く。

 

そして、手近に居たカーネルのオートバイ兵に向かって、至近距離で発砲!!

 

「ぐあああっ!?」

 

散弾を全身に浴びたカーネル歩兵は、オートバイから落っこち、戦死と判定される。

 

「野郎っ!!」

 

「!」

 

背後に居た別のカーネルのオートバイ兵が、ブローニングM1918自動小銃を向けて来たが、その引き金が引かれるより早く、片手でスピンコックしてリロードを終えた謎のオートバイ兵が発砲!

 

「ぐあああっ!?」

 

先程と同じ様に、ブローニングM1918自動小銃を持ったカーネルのオートバイ兵は、全身に散弾を受けて戦死判定される。

 

その後も、カーネルのオートバイ部隊の中を走り回り、特にはアクロバティックな動きを見せて、次々にカーネルのオートバイ兵を倒して行く謎のオートバイ兵。

 

「! アレは!?」

 

「白狼っ!!」

 

それを見た弘樹が声を挙げた瞬間に、飛彗がそう叫ぶ。

 

そう………

 

謎のオートバイ兵の正体は、戦闘服に身を包み、『ツェンダップK800W』に乗った、神狩 白狼その人であった!

 

その声を聴いた謎のオートバイ兵………白狼は、一旦大洗歩兵部隊の防御陣地まで後退する。

 

「よう、苦戦中か?」

 

「白狼!」

 

「待っとったでぇ!!」

 

不敵にそう言う白狼に、海音と豹詑が笑みを浮かべてそう言う。

 

「お前っ! 今まで何処で何やってたんだよ!!」

 

「ちょっとな………」

 

「ちょっとって、お前………」

 

「話は後だ。神狩 白狼………遅れてきた分はしっかり働いてもらうぞ」

 

了平は、今更ノコノコと姿を見せた白狼に噛み付くが、弘樹がそれを制して、白狼にそう命令する。

 

「………上等!」

 

白狼はそう言い放つと、K800Wをスピンターンさせ、再びカーネル歩兵部隊へと突っ込んで行った!

 

「また来るぞっ!!」

 

「オ、オイ、ひょっとして………アイツ、ベオウルフじゃないのか!?」

 

再び突っ込んで来た白狼を見たカーネル歩兵の1人がそう声を挙げる。

 

「ベオウルフって………あの天才バイクレーサーの!?」

 

「何でそんな奴が大洗なんて無名チームに居るんだよ!?」

 

「俺が知るかぁっ!!」

 

バイクレーサーとしての有名を響かせている白狼が、戦車道・歩兵道では無名の大洗機甲部隊に所属している事に、カーネル歩兵部隊には驚愕が広がる。

 

『田中さん! コレは凄い事になりましたよ!!』

 

『ええ、まさか大洗にあのベオウルフが居たとは………いや~、私も初めて知りましたよ』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中も、やや熱の籠ったコメントを零す。

 

「そらっ!!」

 

「ぐやあっ!?」

 

そんなカーネル歩兵部隊の事情など露知らず、白狼は進路上に居たカーネル歩兵の1人をウィリーしたバイクの前輪で跳ね飛ばす!!

 

そのまま、後方に控えていた砲兵部隊や車両部隊の中へと突っ込む!

 

「良~し、いっちょやってみるかぁっ!」

 

白狼はそう言うと、ウィンチェスターM1887をバイクのホルスターに納め、ショルダーホルスターから揚羽より受け取ったカンプピストルを抜く。

 

そして、手近に居たM8装甲車に狙いを定めると、引き金を引いた!

 

「!? ぐうっ!?」

 

途端に襲い掛かった凄まじい反動に、右腕を持って行かれそうになり、バランスを崩しかけたが、如何にか持ち直す。

 

発射されたグレネード弾は、M8装甲車に吸い込まれる様に命中。

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

炎に包まれたM8装甲車から乗員が飛び出し、全員戦死判定される。

 

「確かにスゲェ反動だ。だが、威力は申し分ないし、バイクに乗りながら使えるってのは気に入ったぜ! そら、ドンドン行くぞっ!!」

 

白狼は次のグレネード弾を装填すると、次々にカーネルの砲兵部隊や車両部隊へ撃ち込んで行く。

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「クソッ! 撃て撃てぇっ!!」

 

「駄目です! 速過ぎて捉えられませんっ!!」

 

次々にやられていくカーネル歩兵部隊は反撃を試みるも、白狼のバイクテクニックの前に翻弄されるばかりである。

 

「今だ! 全員、突撃するぞぉっ!!」

 

と、大混乱に陥っているカーネル歩兵部隊を見て、好機と思った弘樹が、突撃命令を出す。

 

「! 着剣っ!!」

 

「着剣っ!!」

 

それを聞いた大洗歩兵部隊の中で、小銃を装備していた突撃兵が次々に銃剣を着剣する。

 

「全軍! 突撃いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

そして、同じ様に九九式短小銃に銃剣を着剣した弘樹が命令を下し、先駆ける様に突撃した。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それに続く様に、大洗歩兵部隊の隊員達は、一斉に塹壕から飛び出し、カーネル歩兵部隊目掛けて突撃して行く!!

 

「支援砲撃です! 残弾を気にせず、ドンドン撃ち込んで下さいっ!!」

 

誠也を中心に、生き残っていた砲兵部隊が、その突撃を支援する為に、残った砲弾をありったけカーネル歩兵部隊目掛けて撃ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダースのフラッグ車を発見し、大洗機甲部隊に勝機が見えたかに思えたが………
撃破に手間取っていた間に、サンダース戦車隊と442連隊の増援が到着してしまう。
歩兵部隊は128高地に逆に釘づけにされ、援護に向かえない。
絶対絶命の危機に現れたのは白狼!
揚羽から譲り受けたツェンダップK800Wとカンプピストル、そしてソードオフショットガンで獅子奮迅の活躍を見せる。
それにチャンスを見出し、大洗歩兵隊はカーネル歩兵隊へ突撃を敢行するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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