ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第21話『黒森峰男子校の歩兵隊長です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第21話『黒森峰男子校の歩兵隊長です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国大会への出場、そして試合相手の組み合わせを決める為に………

 

さいたまスーパーアリーナを訪れたみほ達と弘樹達。

 

大洗機甲部隊の1回戦の相手は、優勝候補の1つである………

 

戦車部隊女子校の『サンダース大学付属高校』と歩兵部隊男子校の『カーネル大学付属高校』からなる、『サンダース&カーネル機甲部隊』となった。

 

戦車の保有台数は全国1位のサンダース校と、高度に機械化され、対戦車兵の数は全国1を誇るカーネル校。

 

初戦から強豪と当たる事となった大洗機甲部隊。

 

そんな組み合わせが決まった帰り道………

 

試合出場への手続きをしている杏達を待つ間、優花里の勧めで『戦車喫茶 ルクレール』へと立ち寄ったみほ達と弘樹達。

 

そこへ現れたのは、黒森峰女学園の戦車道部隊の隊長であり、みほの実の姉である『西住 まほ』

 

そして、みほの後に副隊長へ着任した『逸見 エリカ』だった。

 

みほに対して僻みにも似た感情を抱えていたエリカは、みほを罵倒し、それが原因で沙織達や弘樹達と一触即発の状態となる。

 

しかし、その罵倒を録音していた迫信が、それを戦車道連盟に提出すると言い、エリカに謝罪を要求する。

 

みほが黒森峰に居た頃の親友『毛路山 久美』も現れ、混沌とした場に現れたのは………

 

黒森峰女子戦車部隊を守る、歩兵道のエリート部隊、『黒森峰男子校歩兵部隊』の総隊長………

 

『梶 都草(かじ とぐさ)』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車喫茶 ルクレール・店内………

 

「アレが黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長………」

 

「梶………都草」

 

「うう………只そこに居るだけだってのに………何だか震えて来るぜ………」

 

突如現れた都草の姿に、地市、楓、了平は戦慄にも似た感覚を感じる。

 

「…………」

 

弘樹も、無言で都草の事を見やっていた。

 

「か、梶歩兵隊長………」

 

「逸見くん。またやってしまったみたいだね………感情的になり易く、目先の出来事に囚われ、物事を大局的に見れなくなる………君の悪い癖だよ」

 

動揺しているエリカに向かって、都草はやんわりとながら厳しい言葉を浴びせる。

 

「も、申し訳ありません………」

 

「そもそも、昨年の敗北の責任が西住副隊長にあると言うこと自体が誤りだよ」

 

エリカが頭を垂れると、都草はそう言葉を続けた。

 

「アレは我々歩兵隊の責任だ。守るべき戦車を守れなかったと言う醜態を晒した我々黒森峰歩兵部隊のね」

 

「梶歩兵隊長! それは!!………」

 

「黙ってなさい、エリカ」

 

都草のその言葉に、エリカが何かを言おうとしたが、まほに阻止される。

 

「兎も角………彼女の非礼は自分が代わって謝罪する。如何か、平に御容赦願いたい………誠に申し訳無い」

 

そう言うと、都草は迫信に向かって深々と頭を下げた。

 

「か、梶歩兵隊長!!」

 

「西住副隊長も申し訳無い………我々が不甲斐なかったばかりに、この様な事態まで巻き起こしてしまい」

 

エリカが動揺する中、都草は更に、みほに向かっても深々と頭を下げ、心から謝罪する。

 

「か、梶さん! もう良いです! もう良いですから!! 私、気にしてません!!」

 

みほは見ていた自分の方が申し訳なくなってしまい、慌てて都草に向かってそう言う。

 

「じ、神大さんも、もう良いです! 私はもう良いですから!!」

 

「ふむ、西住総隊長殿がそう仰られるのなら………」

 

迫信に向かって、みほがもう十分だと言うと、迫信はアッサリと録音データを消去した。

 

「感謝する」

 

「な~に、我々は何時までも根に持ったりはしない主義でね」

 

「ぐう………」

 

遠回しに非難され、エリカは苦い顔をする。

 

「いやはや、面目次第も無い」

 

それに対し、都草は反論する様な事はせず、只管に自分達の非を認めるばかりだった。

 

「カッコイイ………」

 

「何と出来たお方なのでしょう………」

 

「流石『歩兵道を体現する男』と呼ばれた黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長です!」

 

「キザな奴だ………」

 

そんな都草の姿に、沙織、華、優花里は感銘を受け、麻子の毒舌ながら、少々思う所がある様な顔をする。

 

(この男………かなり出来るな………)

 

迫信の後ろに控えている熾龍も、都草の秘めた実力を見抜いている。

 

「…………」

 

そして、そんな都草を未だにジッと見やっている弘樹。

 

「…………」

 

と、そんな視線に気づいたのか、都草が弘樹の方を向いた。

 

「君が舩坂 弘樹くんか………噂は聞いているよ」

 

「黒森峰男子校の歩兵部隊総隊長に知っていてもらえるとは………光栄です」

 

一応先輩に当たる為、弘樹は敬語を使って話す。

 

「君の祖先、舩坂 弘軍曹は歩兵道を歩む者にとっては目指すべき存在だ。無論、私もその1人だ」

 

「そうですか…………」

 

「…………」

 

2人はそこで視線を交差させる。

 

「フフフ………実に良い目をしている。英霊の子孫の血に偽り無しだな」

 

「…………」

 

「都草。それぐらいにして、行くわよ」

 

と、そこでまほが、都草にそう呼び掛けた。

 

「了解しました。西住総隊長」

 

それを受けて、都草は弘樹達に背を向ける。

 

「………君と銃火を交わす日を楽しみにしているよ」

 

「………!」

 

だが、去り際に弘樹に向かって背を向けたまま、そんな言葉を投げかけたのだった。

 

そのまま店の奥へと向かう都草とまほ。

 

「フン………行くわよ、久美」

 

「ああ! 待ってよ~、エリカ殿~! みほ殿! またお会いしましょうっ!!」

 

それに付き従う様に、エリカも店の奥へと向かい、久美もその後を追って行く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残されたみほ達や弘樹達の間には、何とも言えない沈黙が漂っていた。

 

「………さて、仕切り直しと行こうか」

 

すると、率先する様に、迫信がそう言い、自分の席へと戻ると、コーヒーに口を付ける。

 

「! あ、ああ………」

 

「そ、そうだね」

 

「ケーキ、もう1つ食べましょうか?」

 

「もう2つ頼んでも良いか?」

 

その言葉で、地市達や沙織達は行動を再開し、改めてスイーツタイムを楽しみ始める。

 

「それにしても、黒森峰にも色んな方がいらっしゃるんですね。私、もっとこう、軍人みたいな人ばかりの学校だと思ってました」

 

そこで優花里が、先程のまほ達との事………

 

主に久美の事を示してそう言う。

 

「久ちゃんは特別だから………何て言うか………凄く『適当』なんだ」

 

「適当?」

 

みほが苦笑いしながらそう言うと、沙織が首を傾げる。

 

「うん………『行くなと言ったところに行く』『入るなと言ったところに入る』とかは日常茶飯事だし、問題を何かと先送りしたがるんだ。それで、おいしい所だけ持って行ったりして………まあ、かなりのお調子者って言えるかな?」

 

「良く黒森峰に入れたものだ………」

 

熾龍の容赦無い毒舌が炸裂する。

 

「でも、久ちゃんなりの良心とか責任感は持っててね。友達の窮地は身を呈しても助けて、皆の健康を願ったりって、優しい所もあるんだよ。だから、お姉ちゃんとは別の意味で隊の皆に慕われてたんだ」

 

「良いお方なのですね」

 

みほの言葉に、華はそう相槌を打つ。

 

「………梶 都草隊長については、如何なんだ?」

 

するとそこで、緑茶の入った湯飲みを右手に持っていた弘樹が、みほにそう尋ねて来た。

 

「あ、うん………梶さんは………お姉ちゃんと一緒で、2年生の頃から黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長を務めていたの」

 

「去年の戦いで、黒森峰機甲部隊は優勝こそ逃したが、素晴らしい成績を残し………戦車部隊の隊長である西住 まほくんと歩兵部隊の隊長である彼は、共にMVPに選ばれているね」

 

そこで、みほの言葉を補足する様に、迫信がそう言って来る。

 

「国際大会でも活躍し、歩兵道や戦車道の世界では今最も注目されている人物と言っても過言では無いだろう」

 

「…………」

 

迫信の言葉を聞きつつ、弘樹は表情を険しくして行く。

 

(この大会………最大の敵は………彼になりそうだな………)

 

そして心の中で、そんな事を思いやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

その都草とまほ達は………

 

店の1番奥にあるテーブルに着き、注文を済ますと、品物が届くのを待ち始める。

 

「梶歩兵隊長………先程は申し訳ありませんでした」

 

そこで、エリカは都草に向かって頭を下げた。

 

「気にしなくて良いさ。私は当然の事をしたまで」

 

「しかし………」

 

「エリカ………悔やむのなら2度とあんな事の無い様に改めなさい」

 

都草は気にしなくて良いと言うが、エリカは言葉を続けようとしたが、まほがそう言って遮る。

 

「ぐう………申し訳ありません」

 

「いやはや、エリカ殿のキレ易い性格にも困ったものでありますなぁ~」

 

「アンタにも責任があるでしょうがぁ~~っ!!」

 

と、まるで他人事の様にいう久美の首を両手で掴み、前後に揺さぶりながら怒りを露わにするエリカ。

 

「ぐええっ!? 苦しいぃっ!?」

 

「大体、アンタはいつもいつも!!」

 

日頃の鬱憤をぶつけるかの様に、エリカは久美を前後に揺さぶり続ける。

 

「エリカ………」

 

と、そこでまほが、低い声でエリカを呼ぶ。

 

「!? も、申し訳ありませんっ!!」

 

それを聞いたエリカは、慌てて久美を解放する。

 

「ゲホッ! ゲホッ!………死んだ祖父殿が川の向こうで手を振っていたであります………」

 

漸く解放された久美は、やや危ない発言をする。

 

「毛路山もいい加減にしなさい。もう少し真面目になったら如何なの?」

 

まほは更に、久美にもそんな事を言う。

 

「ゲロ? 我輩、何時だって真面目でありますよ?」

 

すると久美は、首を傾げながらそう返す。

 

ふざけているワケでは無く、如何やら本当に心の底からそう思っている様だ。

 

「………もう良いわ。ハアア~~」

 

すると、まほは諦めた様にそう言い、深い溜息を吐く。

 

とそこで、ドラゴンワゴンがまほ達が注文したスイーツを乗せて到着する。

 

「さ、来たみたいだよ。この話は一旦置いて、今は楽しもうじゃないか」

 

それを確認した都草が、まほ達に向かってそう言う。

 

「………そうね」

 

「頂きます」

 

「頂きますであります!」

 

注文したスイーツに手を付け始めるまほ、エリカ、久美。

 

「美味しいですね」

 

「………うむ」

 

笑みを見せるエリカとは対照的に、まほは無表情でスイーツを頬張り続けている。

 

「ゲロゲロリ。流石はルクレールのスイーツでありますなぁ。まあ、『ランゼン殿』が作った物と比べると、かなり見劣りするでありますが………」

 

「! オイ、毛路山くん!」

 

と、思わずそうポロリと漏らした久美に、都草が慌てた様に声を掛ける。

 

「!? あっ!?」

 

久美が『しまった!?』と言う様な顔になり、慌てて両手で口を塞いだ瞬間………

 

「「…………」」

 

先程まで笑みを浮かべていたエリカと、無表情だったまほが、露骨に落ち込んだ様な様子となり、まるで通夜の様な暗い雰囲気を醸し出し始めた。

 

「………ランゼンさん」

 

「ランゼン………何故だ………何故居なくなってしまったんだ」

 

ブツブツとそんな言葉を呟き始めるエリカとまほ。

 

「むう………コレは暫く治らないな………」

 

「ゲロ~! ゴメンであります~、エリカ殿~! まほ殿~!」

 

都草は困った顔でそう呟き、久美は申し訳無さそうに泣き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして………

 

ルクレールの入り口前にて………

 

「あ~、美味しかった~」

 

「また来たいですね」

 

ケーキを堪能したみほ達と弘樹達は、そろそろ杏達が手続きを終える時間となり、迎えに行く為に店を後にしようとしていた。

 

「………!」

 

すると不意に、最後尾に居た弘樹が足を止め、ルクレールの入り口の方を振り返る。

 

「? 弘樹? どした?」

 

それに気づいた地市が、弘樹に声を掛ける。

 

「………すまない。忘れ物をしていた様だ。先に行って居てくれ。すぐに追い掛ける」

 

やや間が有って、弘樹は地市達の方に向き直るとそう言い放つ。

 

「おう、そうか。分かった、先行ってるぜ」

 

「気を付けて追い掛けて来てね」

 

地市とみほがそう返すと、アリーナへ杏達の迎えに向かう。

 

「「…………」

 

と、迫信と熾龍だけは、何かに気付いていた様に、去り際に弘樹へ視線を送った。

 

「………出て来られても結構ですよ」

 

地市達とみほ達が離れたのを確認すると、弘樹は再びルクレールの方を振り返り、そう言い放つ。

 

「………気づいていたか。流石だな」

 

すると、そう言う台詞と共に、ルクレールの店内から都草が姿を見せた。

 

「まだ何か御用が御有りでしたか?」

 

警戒しながら、都草に向かってそう尋ねる弘樹。

 

「そう警戒しないで良い。個人的な事を聞きたいだけさ」

 

そんな弘樹の警戒心を解く様に、都草は柔和な雰囲気を出しながら笑みを浮かべて話し掛ける。

 

「………個人的な事?」

 

しかし、弘樹は警戒を解かず、都草にそう問い返す。

 

「………みほくんの大洗での生活は如何なんだい?」

 

と、都草はそれを気にする様な素振りは見せず、弘樹に改めてそう問う。

 

「………如何、とは?」

 

隊長としてのみほの事を聞き出そうとしているのかと警戒を更に強める弘樹。

 

だが………

 

「ちゃんと食事は取っているのかい? 健康状態は問題無いのか? 学校で虐められたりはしていないだろうね?」

 

「………は?」

 

質問の内容が余りにも日常的で身内的なものであった為、弘樹は一瞬呆気に取られる。

 

「………少なくとも、小官が知る限り、特に問題は無い筈です」

 

一瞬答えるべきが迷った弘樹だったが、やがてそう返した。

 

「そうか。良かった」

 

それを聞いて、都草は安堵した様な笑みを浮かべる。

 

「………随分と彼女の事を気にされるのですね。」

 

弘樹は都草の質問の意図が読めず、問い質す意味も込めてそんな台詞を言う。

 

「気にするさ。自分の未来の義妹になる子だからね」

 

「………は?」

 

と、都草の予想外の返しに、またも弘樹は呆気に取られる。

 

すると………

 

「ちょっと都草! 何言ってるのよっ!!」

 

そう言う台詞と共に、ルクレールの店内からまほが姿を現した。

 

その頬は真っ赤に染まっている。

 

「何だ、まほ。結局出て来たのかい?」

 

「貴方が変な事を言うからよ!!」

 

「フフフ………」

 

都草に向かって怒鳴るまほだが、都草は笑いを零す。

 

「何が可笑しいの!?」

 

「怒っているまほも可愛いと思ってね」

 

「!? なっ!?」

 

そう返されて、まほは今度は顔全体を真っ赤にして金魚の様に口をパクパクとさせる。

 

「本当に可愛いなぁ、まほ」

 

そんなまほを、都草はその頭に手を置き、優しく撫でる。

 

「あううう………」

 

まほは真っ赤になったまま、されるがままである。

 

「…………」

 

すっかり蚊帳の外となってしまった弘樹は、只々呆然とするばかりだった。

 

「すまない。本当は彼女が1番みほくんの事を気にしていたんだが、立場上おいそれと口を聞くワケには行かなくてね。私が代わって尋ねさせてもらったのさ」

 

そんな弘樹に向かって、都草はそう説明する。

 

「………そういう事でしたか」

 

そこで漸く納得が行った顔になる弘樹。

 

(やはり彼女も人の子か………たった1人の妹を心配しないワケがないか………)

 

そして内心で、まほも人の子であった事に安堵する。

 

「しかし、その………未来の義妹と言う事は………」

 

しかし、まだ都草の言葉の中で引っ掛かった部分があった弘樹は、それを都草に問い質す。

 

「うん? ああ、そうさ。僕とまほは将来を誓った恋人同士なのさ」

 

「と、都草!」

 

あっけらかんとそう言い放つ都草に、まほはまたも赤面する。

 

「別に隠す様な事じゃないだろう?」

 

「あ、あうう………」

 

都草に平然とそう返され、まほはまたも縮こまってしまう。

 

「は、ハア、そうでしたか………その………もう御用はお済でしょうか?」

 

若干居た堪れない気持ちになって来た弘樹は、その場を後にしようとそんな台詞を言い放つ。

 

「うむ………まほ。もう聞く事は無いかい?」

 

「あ、う、うん………もう十分よ」

 

「では………失礼します」

 

弘樹は都草とまほに向かって礼をすると、踵を返してその場から去ろうとする。

 

「! 待ってくれっ!!」

 

「…………」

 

と、その瞬間にまほから呼び止められ、弘樹は後ろを向いたまま立ち止まる。

 

「………舩坂 弘樹………こんな事を頼める立場で無い事は十分承知している………私はみほに恨まれてもしょうがない………姉としてみほを守ってやる事が出来ず………西住流次期師範としての立場を取ってしまった私には………」

 

「…………」

 

まほの言葉を、背中越しに黙って聞き入る弘樹。

 

「だが! だが、頼む! あの子を………みほを………守ってやってくれ。お願いだ」

 

「…………」

 

懇願するか様なまほの声に、弘樹は沈黙で返す。

 

「………すまない………虫のいい話だったな………忘れてくれ」

 

それを否定と受け取ったのか、まほは俯きながらそう呟く。

 

「………貴女に言われるまでもない」

 

「? えっ?」

 

しかし、弘樹からそんな台詞が返って来て、まほは思わず声を挙げる。

 

「小官は彼女を………西住 みほをこの全身全霊を掛けてあらゆる物事から守ると誓っている」

 

そしてまほに背を向けたまま、更にそう言い放つ。

 

「例えそれが………西住流からでもです」

 

「!!」

 

「………失礼します」

 

最後にそう言うと、弘樹は再び歩き出し、アリーナへと向かったのだった。

 

「…………」

 

残された都草とまほの内、まほが複雑そうな表情で俯く。

 

「まほ………」

 

都草は、そんなまほの傍に寄ると、背中から彼女を抱き締める。

 

「都草………私は本当に………酷い姉だな………」

 

自嘲するかの様にそう言うまほだが、その声は微かに震えている。

 

「…………」

 

都草は何も言わず、ただ彼女を抱き締め続けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

手続きを終えた杏達を迎え、大洗へと帰還したみほ達と弘樹達は、そのまま学園艦への連絡船に乗り込み、夕日の中、帰路に着いていた。

 

「「…………」」

 

大洗学園艦が見えて来た頃、みほと弘樹は、連絡船の甲板・左舷側に立ち、水平線に沈み行こうとしている夕日を眺めている。

 

「あ、あの………舩坂くん」

 

「何だ?」

 

「あの時は………守ってくれてありがとう」

 

不意にみほが、弘樹にルクレールでまほ達と出くわした時、エリカの敵意の視線から守ってくれた事にお礼を言う。

 

「いや、小官は大した事はしていない………」

 

「そんな事ないよ。私………すっごく嬉しかった」

 

屈託無い笑顔でそう言うみほ。

 

「…………」

 

夕日に照らされているその笑顔はとても美しく、弘樹は照れ隠しの様に学帽の鍔を下げる。

 

「西住殿。舩坂殿。此方でしたか」

 

とそこで、2人の元へ優花里が姿を見せる。

 

「あ、秋山さん」

 

「寒くないですか?」

 

「ああ………小官は問題無い」

 

そんな事を言い合いつつ、優花里は2人と一緒に水平線に沈み行こうとしている夕日を眺め始める。

 

「全国大会………出場出来るだけで、私は嬉しいです」

 

不意に優花里がそう語り出す。

 

「他の学校の試合も見られるし、大切なのはベストを尽くす事です。例え負けたとしても………」

 

「それじゃ困るんだよねぇ~」

 

と、そこで背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹達が振り返ると、そこには杏、柚子、桃の姿が在った。

 

「絶対に勝て」

 

「えっ?」

 

桃の言葉に困惑した様子を見せる優花里。

 

「我々は如何しても勝たねばならないんだ」

 

「そうなんです。だって負けたら………」

 

「し~っ!」

 

「!? あっ!?」

 

桃の言葉に、柚子が何かを言いかけたが、杏に止められる。

 

(負ければ廃校になるだなどと、言えるワケがないか………)

 

事情を知る弘樹だけは、内心でそう思いやる。

 

「兎に角! 全ては西住ちゃんの肩に掛かってるんだから。今度負けたら、何やってもらおっかな~。考えとくね」

 

杏は半ば脅す様な言葉を残し、桃と柚子を連れてその場を後にする。

 

「…………」

 

「だ、大丈夫ですよ! 頑張りましょう!!」

 

呆然となっていたみほを、優花里がそう言って励ます。

 

「………初戦だからファイアフライは出て来ないと思う。せめて、戦車チームの編成が分かれば、戦い様があるんだけど………」

 

しかし、みほは既に、サンダース&カーネル機甲部隊との戦いに向けて戦略を練り始めていた。

 

「あまり気負い過ぎるな、西住くん。小官も多少なら戦略について考案できる。会長閣下も居て下さる。如何戦うかは、皆で相談して考えれば良い」

 

そんなみほの姿を見て、弘樹は彼女が気負い過ぎる事が無い様にとそんな台詞を言う。

 

「うん………ありがとう、舩坂くん」

 

その台詞を聞いて、みほは弱々しくながらも笑みを見せる。

 

「…………」

 

そしてそんな2人の傍で、優花里は何やら決意した様な表情を見せていた。

 

「………秋山くんは何かを思いついた様だね」

 

そんなみほ、弘樹、優花里の姿を、陰から覗き見る者達が居た。

 

「多分………サンダース&カーネル機甲部隊の偵察に行く気なんじゃないかと思います」

 

迫信と蛍だ。

 

「ふむ、確かに試合前の偵察行為は連盟に承認されている。しかし、もし見つかれば試合が終わるまで勾留されてしまう危険がある」

 

「迫信様………私、優花里ちゃんの手伝いに行きます」

 

迫信が戦車道・歩兵道のルールを確認していると、蛍がそう声を挙げる。

 

「頼めるかね?」

 

「甲賀流忍術の使い手の誇りに掛けて」

 

蛍はそう言い、迫信に向かって畏まる様な体勢を取る。

 

「頼むよ………『あの2人』にも依頼しておくべきか」

 

そんな蛍の姿を見た後、迫信は水平線を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝………

 

大洗学園艦に接舷していたコンビニの定期便船の甲板にて………

 

「………良し。誰も居ない」

 

そのコンビニの制服に身を包んだ優花里が、人影を気にしながら甲板に積み上げられたコンテナの間を移動している。

 

迫信と蛍の読み通り、優花里はこのコンビニの定期便船を使い、サンダース校とカーネル校の学園艦へ潜入する積りらしい。

 

「………ふう~~」

 

やがて上手く隠れられそうなスペースを見つけると、その場に座り込み、安堵の息を吐く。

 

「………後は上手く見つからずにサンダース&カーネル機甲部隊の学園艦に潜入出来れば………」

 

息を殺しながら、小声でそう呟く優花里。

 

「………優花里ちゃん」

 

「!?」

 

と、そこで突然自分を呼ぶ声が聞こえて、優花里は慌てて周りを見回す。

 

しかし、周囲には人影は無かった。

 

「アレ?」

 

「こっちこっち」

 

優花里が首を傾げると、再び声が聞こえて来て、それが上から聞こえて来ている事に気付く。

 

「!?」

 

上を見上げた優花里が見たものは………

 

積み上げられたコンテナの上に立つ、レオタード状の忍者服の様な服を着ている蛍の姿だった。

 

「フッ………」

 

蛍はコンテナの上から飛ぶと、優花里の目の前に音も無く着地する。

 

「ほ、蛍殿!? 如何して此処に!?」

 

「し~っ! 声が大きいよ………」

 

「!!」

 

思わず大声を挙げそうになった優花里を蛍がそう言って鎮めさせる。

 

「ゴメンね、優花里ちゃん。昨日のあの場面………私も見てたんだ。優花里ちゃんが決意した様な顔してたから、もしかしたらと思ったら案の定でね。だから、私も協力するよ」

 

「蛍殿………」

 

「彼女だけじゃないぞ」

 

するとそこで、今度は別の渋い男性の声が聞こえて来た。

 

「!? この声は!!………」

 

優花里は、その声に聞き覚えを感じる。

 

そして声の主を探していると………

 

先程まで無かった筈のダンボール箱が有る事に気付く。

 

「? アレッ? このダンボールは………」

 

と、優花里がそう言った瞬間!

 

ダンボール箱が持ち上がり!

 

中から迷彩服に身を包んだ大詔が姿を現した!

 

「待たせたなっ!」

 

「! 蛇野殿も!!」

 

「まだ居るでござるよ………」

 

優花里が更に驚いていると、またも別な声が聞こえて来て、姿を現した大詔の影の中から、何かがヌーッと姿を現す。

 

「ドーモ、秋山=サン。葉隠=小太郎です」

 

現れた人物………小太郎は、優花里に向かってアイサツをする。

 

「葉隠殿まで!!」

 

「会長閣下から依頼があってな………君を護衛しに来た」

 

「サンダース校は秋山殿と蛍殿にお任せするでござる。拙者と大詔殿はカーネル校の情報を収集して来るでござる」

 

優花里に向かってそう言う大詔と小太郎。

 

「皆さん………ありがとうございます!」

 

感激した様子を見せながら、優花里は蛍、大詔、小太郎に向かって敬礼するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後………

 

優花里達は対戦校であるサンダース大学付属高校とカーネル大学付属高校の学園艦へと潜入した。

 

サンダース校とカーネル校は別の高校であるが、同一敷地内に存在しており、現在4人は、両校の正面が見える位置の物陰に隠れ、両校の様子を窺っている。

 

「アレがサンダース校………そしてカーネル校か………」

 

両校の校舎を見ながら、大詔がそう呟く。

 

「では、手筈通りに、私と蛍殿はサンダース校へ………」

 

「拙者と大詔殿はカーネル校へ潜入するでござるのでな」

 

優花里と小太郎が潜入先を確認する。

 

「それで、具体的には如何するの?」

 

「実はこんなこともあろうかと思って、サンダース校の制服を用意しておいたんです。コレで堂々と潜入出来ます」

 

蛍がそう尋ねると、優花里はバッグの中からサンダース校の制服を取り出した。

 

「大丈夫? バレたら大変だよ?」

 

「上手くやりますよ」

 

「俺達はそうだな………歩兵部隊の装備や車両の種類を確認する。序にコンピューター室にでも忍び込んで、データをハッキングさせてもらうか」

 

「紙媒体ならば、コイツで写真を取れば良いでござる」

 

とそこで、小太郎が忍び装束の懐からデジカメを取り出した。

 

「デ、デジカメ? あの………葉隠殿は忍者なのですよね?」

 

「? そうでござるが?」

 

何故今更そんな事を聞くんだと不思議そうに優花里を見やる小太郎。

 

「あ、いや………別に良いですけど………」

 

「?」

 

「お喋りはココまでだ………行くぞ」

 

と、いよいよ作戦開始だと大詔が音頭を取る。

 

「了解であります!」

 

「ハイ!」

 

「心得たでござる」

 

「良し………コレより、スニーキングミッションを開始する」

 

そして、優花里と蛍はサンダース校へ。

 

大詔と小太郎はカーネル校に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほの為に………

 

そして大洗機甲部隊の勝利の為………

 

敵校への潜入作戦を決行した優花里、蛍、大詔、小太郎。

 

果たして、有益な情報を手に入れ、無事に帰還する事が出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に登場、黒森峰の歩兵隊の隊長・『梶 都草』
主人公である弘樹の、作品を通してのライバルとなるキャラです。
キャラ的に言いますと、所謂『敵だけどカッコイイ奴』って感じですかね。
戦車道や歩兵道は武道でありスポーツなので、あまり悪役的な感じのするライバルは作品的に似合わないだろうと思いまして、紳士的で信念のあるキャラクターをイメージしました。
CVに、七色の声を持つと言われているあの人の声をイメージしていただけると更にカッコ良く見えるかと。
そして、何やらまほとラブラブな様子ですが、コレは主人公のライバルとなるのだからまほの恋人ポジションになるのは必然であり、前述の七色の声を持つ人をCVイメージにしたので、所謂中の人ネタも入っています(爆)
彼の登場に伴い、まほにも原作より人間味が出ています。

さて、皆さん。
お待たせしました。
次回はいよいよオッドボール三等軍曹もサンダース潜入作戦です。
この作品では、他に3人のキャラが同行します。
ジョロキアでもチラッとそれらしいセリフを言わせたりしてましたが、実は蛇野 大詔はあの伝説の傭兵がモデルとなっています。
彼と小太郎が、潜入作戦では大活躍します。
その分、オッドボール軍曹の活躍が目立たなくなってしまうかもしれませんが(笑)
まあ、楽しみにしていただけると幸いです。

次回は年明けですが、いつも通りに日曜朝の更新を維持します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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