ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第207話『赤星 小梅さんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第207話『赤星 小梅さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

「いけない、逸れちゃった………総隊長達は何処だろう?」

 

ラングとパンター、そして黒森峰随伴歩兵分隊を率いていたパンター・小梅車のキューポラから、小梅が姿を覗かせ、辺りを見回している。

 

如何やら、分散している内に本隊から逸れてしまった様だ。

 

「「「「「あっ!?」」」」」

 

と、その前に、数名の大洗歩兵達が現れる。

 

「! 大洗の歩兵っ!?」

 

「ヤバイッ!」

 

「逃げろっ!!」

 

黒森峰随伴歩兵が声を挙げると、大洗歩兵達は一目散に逃げ出す。

 

不意な遭遇であったのだろうか?

 

「待てっ!」

 

「逃がすかっ!!」

 

すぐさま黒森峰随伴歩兵分隊が追撃に入る。

 

「! 待って下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかし、小梅は罠の気配を感じ、黒森峰随伴歩兵分隊を制止する。

 

と、その瞬間!!

 

回転しながら飛んで来た火炎瓶が、黒森峰随伴歩兵分隊から離れたラングに命中!

 

忽ち炎上させる!

 

「うわあっ!? 火炎瓶だっ!!」

 

「しょ、消火器っ!!」

 

車内の黒森峰戦車隊員達が慌てて消火器を取り出そうとしたが………

 

1歩間に合わず、エンジンが炎上したかと思うと爆発。

 

ラングから白旗が上がる。

 

「!? しまったっ!? 狙いは戦車の方!?」

 

それを見た小梅が、慌てながらもすぐに火炎瓶が飛んで来た方向を見やる。

 

「へへっ!」

 

すると、狭い路地でバイクに跨ったまま得意気な顔をしていた弦一郎が、素早くターンして、路地の中へと消えて行く。

 

「追わないで下さい! 随伴歩兵分隊の皆さんは防御陣形で展開! 周辺の建物の陰や狭い路地をクリアリングして下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

小梅はそう指示を出し、黒森峰随伴歩兵分隊は残ったパンター2輌の周辺に展開しながら、周囲の物陰等をクリアリングする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その小梅達が居る場所から少し離れた位置………

 

「随伴歩兵分隊、文月くんを追撃して来ません。戦車の周辺に展開して、辺りの物陰をクリアリングしています」

 

「慎重な相手だ………手強いぞ」

 

火の見櫓の上で双眼鏡を構えて小梅部隊の様子を窺っていた楓の報告に、弘樹はそう呟く。

 

「如何する、弘樹? 分散させなきゃ各個撃破は無理だぞ?」

 

「…………」

 

地市がそう尋ねると、弘樹は顎に手を当てて思案する。

 

「俺迫撃砲持ってるけど、コレで狙ってみるってのは如何だ?」

 

そこで、M2 60mm 迫撃砲を持っていた了平がそう提案して来る。

 

「ふむ、迫撃砲の支援下で突撃を掛けてみると言うにも有りか………相手の戦車がどちらも旋回砲塔なのは懸念事項だが、危険は承知でやるしかない」

 

それを聞いた弘樹が、危険だが迫撃砲の支援下で突撃を行う事を決める。

 

「どの道後はねえんだ。兎に角攻めて攻めて攻めまくろうぜ!」

 

「せや! そうすれば後は西住総隊長はんが如何にかしてくれるわ」

 

海音と豹詑も賛成の意志を示す。

 

「良し、迫撃砲を持つ者は砲撃用意! コレより敵部隊に対し、突撃を敢行する! 腹を括れ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そして弘樹がそう指示を飛ばすと、大洗歩兵達が自らを鼓舞するかの様に万歳三唱を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び小梅達の方では………

 

「周辺のクリアリング、完了しました」

 

「敵の姿は有りません」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

周辺のクリアリングを終えた黒森峰随伴歩兵達が小梅に報告を挙げる。

 

(コチラが警戒していると知って一旦退いた? だとしたら、次に取って来る手は………)

 

小梅がそう思案していると、風切り音が聞こえて来た!

 

「! 迫撃砲です! 注意して下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまそれが迫撃砲であると見抜いた小梅は、周辺に展開していた黒森峰随伴歩兵分隊にそう叫び、随伴歩兵達は姿勢を低くする。

 

直後に、迫撃砲弾が小梅隊の中へと降り注いで来る。

 

「恐らくコレは突撃の為の火力支援と思われます! 随伴歩兵の皆さんは備えて下さいっ!!」

 

そんな砲爆撃の中でも、小梅は車外へ姿を晒し続けながらそう指示を飛ばす!

 

「赤星さん! 危険ですから車内へ入って下さいっ!!」

 

しかし、そんな様子を心配した装填手からそう声が飛ぶ。

 

「でも、状況が………」

 

「周辺の状況把握は我々が務めます! 戦車隊員に弾が当たる事はありませんが、万が一もあります!!」

 

みほの様に状況を把握し易いと返そうとした小梅だったが、今度は黒森峰随伴歩兵分隊員の1人からそう声が挙がる。

 

「………分かった。お願いね」

 

結局小梅の方が折れ、車内へ引っ込むとハッチを閉じる。

 

その瞬間!

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の号令と突撃ラッパの音色の元に、小銃に着剣したり、軍刀を手にした大洗歩兵部隊員達が、小梅隊に向かって突撃して来た!

 

「! 来たぞっ!!」

 

「返り討ちにしてやれっ!!」

 

それを確認した黒森峰随伴歩兵分隊は、MP40やMG42を構え、弾幕を張った。

 

「うわあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

バタバタと倒れて行く大洗歩兵部隊員達。

 

「怯むなっ! 突っ込めっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、元より戦死判定覚悟な大洗歩兵部隊員達は、怯まずに突撃を続ける。

 

「! と、止まらないっ!!」

 

「クソッタレめっ! 大洗の連中は皆狂人かっ!?」

 

その光景に、一部の黒森峰随伴歩兵分隊員は戦慄する。

 

そしてそのまま、大洗歩兵隊員達は、黒森峰随伴歩兵分隊員達の中へと雪崩れ込んだ!!

 

「うおおおっ!」

 

「ぎゃあっ!!」

 

1人の大洗歩兵隊員が、小銃に着剣していた銃剣をMP40を構えていた黒森峰随伴歩兵分隊員に突き刺す。

 

「しえあああっ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

別の場所では、軍刀を振るい、MG42を持っていた黒森峰随伴歩兵分隊員を斬り捨てている大洗歩兵隊員の姿も在った。

 

「ココまで近づけば!………」

 

と、パンツァーファウストの射程まで近寄る事に成功した地市が、小梅のパンターに向かってパンツァーファウストを構えたが………

 

「!!」

 

小梅はすぐさまその地市の姿に気づき、同軸機銃から弾丸を見舞った!

 

「! うおおおっ!?」

 

地市は全身に銃弾を浴びて倒れ、戦死判定となる。

 

「! 地市っ!!」

 

「舩坂 弘樹! 覚悟ぉっ!!」

 

その光景を目撃した弘樹が声を挙げると、1人の黒森峰随伴歩兵分隊員が着剣したKar98kで突きを繰り出して来る。

 

「!!」

 

だが、弘樹は手にしていた英霊を、突きを繰り出して来た着剣したKar98kに向かって振り降ろす!

 

Kar98kが斬り裂かれ、着剣していた銃剣ごと地面に落ちる。

 

「なっ!?」

 

「せええやぁっ!!」

 

驚く黒森峰随伴歩兵分隊員に向かって、弘樹は燕返しの様に勢いの衰えぬ斬り上げを繰り出す!!

 

「ぎゃああっ!?」

 

斬り上げを喰らった黒森峰随伴歩兵分隊員は一瞬宙に浮かび上がり、そのまま地面に叩き付けられて戦死判定となる。

 

「銃だ! 銃を使えっ!!」

 

と、接近戦では不利だと思った黒森峰随伴歩兵分隊員達は、サブウェポンとして携帯していたルガーP08やワルサーP38を次々に抜き、弘樹に向ける。

 

「!………!!」

 

それを見た弘樹は、周囲を見回し、地面に転がっている2丁のMP40を発見する。

 

「撃てぇっ! 撃てぇっ!!」

 

直後に、黒森峰随伴歩兵分隊員達が拳銃を弘樹に向かって発砲。

 

「!!」

 

だがその瞬間に弘樹は地面に向かって跳び、転がりながら2丁のMP40を回収し、それを構えながら再び立ち上がる。

 

「なっ!?」

 

「………!」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員の1人が驚きの声を挙げた瞬間に、弘樹は両手のMP40の引き金を引く!

 

爆音と共に、パラベラム弾が辺りにばら撒かれる!

 

「ぎゃああっ!?」

 

「ぐあああっ!?」

 

瞬く間に黒森峰随伴歩兵分隊員達が戦死判定を受けて行く。

 

「…………」

 

弘樹は両手のMP40の引き金を引いたまま、黒森峰随伴歩兵分隊員達の中を走り回る。

 

反動が強い為、本来は1丁を両手で保持して撃つ筈の短機関銃を片手で保持して撃ちまくり、尚且つ走り回るなど人間業では無い………

 

だが、その瞬間に、弘樹の傍に榴弾が着弾して爆発!

 

「!!」

 

幸いにも直前に気づき、地面を転がって破片と爆風を避けたが、MP40を2丁ともロストしてしまう。

 

「バケモノめぇっ!!」

 

まだ地面に転がっていた弘樹を踏み潰そうと、パンターが車長の恐慌気味な叫びと共に突撃して来る。

 

「………!!」

 

直前のところで再度地面を転がり、履帯と履帯の間に伏せて、突撃をかわす弘樹。

 

「このぉっ!!」

 

するとパンターの車長はハッチを開けて車外に出て来たかと思うと、機銃架のMG34を弘樹に向ける。

 

だが、そこで銃声が響いたかと思うと、パンターの機銃架のMG34の薬室が撃ち抜かれた!

 

「なっ!?」

 

「…………」

 

驚くパンターの車長を、ラハティ L-39に装着していたスコープ越しに見据えている陣は、リロードを澄ますと、続けて履帯を撃ち抜く!

 

甲高い金属音と共に、パンターの履帯が切断される。

 

「! 履帯がっ!?」

 

「良し、今だっ!!」

 

それを確認した鋼賀が、吸着地雷を手に突撃する!

 

「やらせんっ!!」

 

しかし、すぐにそれに気づいた黒森峰随伴歩兵分隊員が、鋼賀に向かってワルサーGew43半自動小銃を向ける。

 

「させませんっ!!」

 

だが、すぐさま楓がその前に飛び出し、至近距離からウィンチェスターM1912の散弾を浴びせた!

 

「! ぐああっ!」

 

「ナイスアシストッ!!」

 

鋼賀がそう言い、吸着地雷を肉薄したパンターの砲塔側面に仕掛ける!

 

そして転がって離れて地面に伏せると、吸着地雷が爆発!

 

パンターは白旗を上げる。

 

「やったっ!」

 

「よっしゃあっ! 残りは1輌やっ!!」

 

それを見た海音と豹詑が、歓声を挙げながら、残る1輌のパンター………小梅車に向かって突撃する。

 

すると、小梅車の周辺に展開していた黒森峰随伴歩兵分隊員が、まるで道を開ける様に散開する。

 

「! 待て! 2人共っ!!」

 

それに気づいた弘樹が叫ぶが、直後に小梅車の上部ハッチ付近から何かが発射される。

 

発射された何かが、突撃していた海音と豹詑の傍に落ち、爆発する!

 

近接防御兵器による擲弾攻撃だ!

 

「「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

破片を諸に浴びた海音と豹詑は、共に戦死判定となる。

 

「キャニスター弾! 発射っ!!」

 

「ハイッ!」

 

続けて小梅が命じると、砲手が発砲!

 

キャニスター弾が発射され、無数の弾が大洗歩兵達を襲う!

 

「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

数名の大洗歩兵達が、悲鳴を挙げて戦死判定を受ける。

 

「随伴歩兵部隊は本車の両脇へ展開して下さい! 機関銃で弾幕を張りつつ前進をっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこで再度小梅の指示が飛び、黒森峰随伴歩兵分隊が小梅車の両脇に広がる様に展開する。

 

(やはりあのパンターの車長、かなり出来る………)

 

『舩坂分隊長! 迫撃砲の砲弾が無くなりますっ!!』

 

弘樹が改めてそう思っていると、迫撃砲で援護している大洗歩兵達からそう通信が入る。

 

「分かった………撤退っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた弘樹は、すぐさま撤退を指示。

 

大洗歩兵達は一斉に小梅隊に背を向け、逃走を始める。

 

「逃げるぞっ!」

 

「追撃します! 但し、距離を一定に保って下さい! 罠の可能性も有ります!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを見た小梅は追撃を命じるが、十分に距離を取る様に促す。

 

「黒森峰部隊、距離を保ちながら追撃して来ます」

 

「………良し、『予定通り』だ」

 

飛彗からの報告を聞いた弘樹がそう呟く。

 

大洗歩兵達は、小梅達に背を向けながら、徐々に分散して狭い路地へと入って行く。

 

「路地へ逃げた歩兵は追わないで下さい。今狙うべきは敵歩兵部隊に指示を出している分隊長です」

 

だが、小梅は路地へと入って行った大洗歩兵達は追わず、全員でまだ弘樹が居る本隊を追い続ける。

 

「何で皆で一斉に路地へ逃げないんだ」

 

「大人数で突撃して来たから、路地へ入り切れないんだろう」

 

すぐに分散せず、徐々に路地へと姿を消して行く大洗歩兵達の様子を、黒森峰随伴歩兵分隊はそう推測する。

 

(何だろう?………嫌な感じがする)

 

そんな中で、小梅は何か嫌な予感を感じる。

 

やがて一同は、歩道橋の掛かった交差点へと差し掛かる。

 

「………良し! 反撃しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すると弘樹達は、交差点の向こう側に、建物が崩れて散乱したと思われる瓦礫の陰で突如足を止めて踵を返し、小梅隊へ銃撃する。

 

「! 反撃して来たぞ!」

 

「戦車を前へっ! 随伴歩兵部隊は戦車を盾に応戦を! 敵の対戦車兵には注意して下さいっ!!」

 

そこで小梅は、自車を前に出し、黒森峰随伴歩兵分隊を敵の銃弾から守りつつ、対戦車兵を警戒させる。

 

「榴弾装填完了!」

 

「撃てっ!!」

 

更に、主砲に榴弾を装填すると、瓦礫に隠れていた大洗歩兵達に向かって発砲した!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

隠れていた瓦礫ごと吹き飛ばされ、戦死判定となる大洗歩兵達。

 

「喰らえっ!!」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員の1人も手榴弾を投擲し、数人の大洗歩兵達を戦死判定とする。

 

「怯むな! 攻撃を続行せよっ!!」

 

しかし弘樹は、攻撃続行を指示する。

 

(逃げない? トラップを設置しているの? でも、地雷は無い様に見えるけど………)

 

大洗歩兵達が逃げないのを見て、小梅はトラップを警戒するが、地面に地雷を設置している様子は無い。

 

と、そこで………

 

小梅隊が歩道橋の下へと差し掛かったかと思うと………

 

「! 今だっ!!」

 

「爆破っ!!」

 

弘樹が声を挙げ、灰史が何かのスイッチを押す!

 

途端に、小梅達の頭上に在った歩道橋が爆発に包まれる!

 

「!?」

 

「しまった!? 歩道橋を落とす気かっ!?」

 

小梅が上を見上げ、黒森峰随伴歩兵分隊員の1人がそう声を挙げる。

 

しかし………

 

歩道橋からは僅かに瓦礫が落ちただけだった。

 

「な、何だ! 驚かせやがってっ!!」

 

「爆薬の量を見誤ったみたいだな! 凡ミスしやがってっ!!」

 

「ふう………このまま前進を」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員達がミスを罵る中、小梅隊は一気に進撃しようとする。

 

すると………

 

「今です! 第2爆破っ!!」

 

灰史がそう叫んだかと思うと、再び手元のスイッチを押す!

 

すると、歩道橋が再び爆発!

 

今度は小梅隊目掛けて崩れて来た!

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「しまったっ!? 最初の爆発はフェイクかっ!?」

 

そう、最初の爆破はトラップが失敗したと思わせる為の偽装爆破だったのである。

 

なす術無く、崩落した歩道橋の下敷きとなる小梅隊。

 

その際に舞い散った粉煙が辺りを覆い尽くす。

 

「撃ち方止めっ!!」

 

そこで弘樹は一旦射撃を中止させる。

 

粉煙はまだ漂っており、小梅隊の様子は確認出来ない。

 

「…………」

 

弘樹は四式自動小銃を構えながらゆっくりと粉煙の方へと接近する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の大洗歩兵達も、其々の得物を構えながら、警戒しつつ接近する。

 

と、大洗歩兵達が間近に迫った瞬間………

 

粉煙内からエンジン音が聞こえて来た!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹達に緊張が走る。

 

しかし、そのエンジン音は徐々に遠ざかって行く様に聞こえる………

 

「!!」

 

「あ、舩坂分隊長!?」

 

それを聞いた弘樹が、即座に粉煙の中へと突入!

 

歩道橋の残骸を踏み越えて、粉煙の中を抜けて再び道路へと立つと………

 

そこには、エンジン部から僅かに黒煙を上げながらも、遠ざかって行く小梅車の姿が在った。

 

「分隊長! 随伴歩兵の連中は全員下敷きとなって戦死判定ですっ!!」

 

とそこで、粉煙が漸く収まり、歩道橋の残骸を確認していた大洗歩兵の1人がそう報告を挙げて来る。

 

「残りの1輌が逃走した! だが損傷を受けている様だ! 追撃するぞっ! 少しでも敵の戦力を減らすんだっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう命じると、大洗歩兵達が小梅車を追い始める。

 

「! 追って来たっ!!」

 

「車長! 如何するんですかっ!?」

 

小梅がペリスコープ越しにその様子を確認すると、操縦士が悲鳴の様な声を挙げる。

 

小梅のパンターは先程の事での損傷に加え、元々整備状態が良くない事もあり、既に悲鳴を挙げている。

 

逃げ切るのは難しい………

 

「えっと………! そこの土手の向こうへっ!!」

 

必死に考えながら、前方側のペリスコープを覗いた小梅の目に、土手が目に入り、それを越える様に指示する。

 

如何やら、土手で一旦大洗歩兵達の視界から外れる積りらしい。

 

だがこの時、ペリスコープ越しの為に小梅は気づかなかった………

 

今から登ろうとしている土手の彼方此方に………

 

何かがめり込んでいる様な跡が多数在る事に………

 

そして、パンターが土手を昇り始めたその瞬間!!

 

突然大爆発が起こった!!

 

「!!………」

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹は咄嗟に伏せたが、何名かの大洗歩兵が爆風を諸に喰らって吹き飛ばされて地面を転がる。

 

凄まじい爆発で、弘樹達の頭上からは舞い上がった土片が霰の様に降って来る。

 

「な、何だぁっ!?」

 

「恐らく、艦砲射撃で着弾したが不発弾だった砲弾が爆発したんだろう………」

 

鋼賀の声に、弘樹がそう推測を述べる。

 

その推測通り、先程の爆発は、大和と武蔵による艦砲射撃の不発弾が今になって爆発した物だった。

 

やがて、爆煙が収まって行くと、そこには………

 

土手が完全に消し飛び、巨大なクレーターとなっており………

 

その中心に、小梅のパンターが装甲の表面が黒く焼け焦げた状態で横倒しとなっていた。

 

当然、白旗が上がって居る。

 

「何か呆気無い最期だな………」

 

「経緯は如何あれ、撃破した事には変わりない。良し、次に目標を………」

 

了平が小梅車が呆気無い最期で終わったを若干不満そうに呟いたが、弘樹はすぐに気持ちを切り替えて、別の目標を探そうとするが………

 

そこで地鳴りの様な音が聞こえて来た。

 

「? 何だ?………」

 

と、弘樹がそう声を挙げた瞬間………

 

土手の向こう側に在った川と接していたクレーターの端が崩れ、クレーター内に水が流れ込み始める!

 

当然、横たわっているパンターは水没し始める………

 

「! 舩坂さん! 乗員は脱出したんですかっ!?」

 

「いや、まだだ………」

 

飛彗がハッとして叫ぶと、弘樹はそう返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのパンターの車内では………

 

「………う、う~~ん」

 

46センチ砲弾の爆発の衝撃を受けてしまった為、カーボン装甲こそ無事なものの、気を失ってしまっていた小梅が呻き声を挙げる。

 

「ア、アレ?………何が?」

 

ぼんやりとながら意識が覚醒し、焦点の合わない目に薄暗い車内の様子が入って来る。

 

すると………

 

「! 冷たっ!?」

 

手に何か冷たい物が辺り、急激に意識が覚醒!

 

狭い車内でぶつからない様に身を起こしたかと思うと、自車が横倒しになっている事に気づく。

 

そして、手に当たった冷たい物の正体を確かめると………

 

それは、ハッチや様々な隙間から車内へと侵入して来ている水だった。

 

「!? み、水っ!? まさか、水没しているのっ!? 皆! 起きてっ!! 早く起きてっ!!」

 

小梅は慌てて同じ様に気絶していた他の乗員に呼び掛ける。

 

「う~ん………!? 水っ!?」

 

「嘘っ!? 浸水っ!?」

 

それによって意識が覚醒した乗員達も、車内へドンドン侵入して来る水を見て一気に青褪める。

 

「脱出します! 急いでっ!!」

 

小梅がそう言って、キューポラのハッチを開けようとする。

 

しかし、ハッチは僅かに隙間が出来たところで動かなくなってしまう。

 

「!? 開かないっ!?」

 

「赤星車長! コッチも駄目ですっ!!」

 

「コッチのハッチも開きませんっ!!」

 

小梅が叫ぶと、他のハッチを開けようとしていた乗員からも、悲鳴の様な声が挙がる。

 

如何やら、爆発のショックでハッチが歪み、開閉出来なくなってしまった様だ。

 

更に運が悪い事に、パンターはトランスミッションの構造上、第二次世界大戦中では多くの戦車に見られた下部の脱出用ハッチも無い。

 

その間にも、水はドンドン車内へと溜まって行く。

 

「や、やだ! 溺れちゃうっ!!」

 

「救助はっ!? 救助は如何したのっ!!」

 

「誰か助けてーっ!!」

 

「死にたくないよーっ!!」

 

パニックを起こし、泣き叫ぶ乗員達。

 

「ぐうううううっ!」

 

一方小梅は、僅かに動いたキューポラのハッチを開けようと力を入れるがビクともしない。

 

寧ろ隙間が空いたせいで、浸水が速まっている節さえある。

 

「こ、コレじゃあ、あの時と同じに………」

 

小梅の脳裏に、去年の決勝戦で自車が水没した時の事が思い起こされる。

 

(やだ………やだよ………助けて………みほさん………)

 

迫る死の恐怖に、小梅は涙を浮かべ、みほの顔を思い浮かべる。

 

………と、その時!!

 

キューポラのハッチに空いていた僅かな隙間に、何かが挿し込まれた!!

 

「!!」

 

工兵用のスコップだ!!

 

「良し! 抉じ開けろっ!!」

 

「「「「「「「「「「せーのっ!!」」」」」」」」」」

 

車外から大洗歩兵達の声が聞こえたかと思うと、スコップが動いて、梃の原理でハッチを抉じ開けようとする。

 

「もっと土嚢持って来いっ!! 水を塞き止めるんだっ!!」

 

更に、川の水が流れ込んでいるクレーターの端部分でも、大洗歩兵達が土嚢を作ってクレーター内に流れ込んでいる水を塞き止めようとしている。

 

その場に居た大洗歩兵達全員が、一丸となってパンター小梅車の救助作業に当たっている。

 

やがて、スコップの梃で、ハッチが更に僅かに動くと、一旦スコップが抜かれ、誰かが車内を覗き込む。

 

「! みほさん!!」

 

一瞬、覗き込んで居る人物に、みほの姿が重なる小梅。

 

「待っていろ、今助ける」

 

だが、実際に覗き込んで居たのは弘樹である。

 

「! ハ、ハイッ!」

 

小梅が返事を返すと、再びスコップがハッチの隙間に差し込まれ、更に抉じ開けようとする。

 

「もっと力を入れろっ!」

 

「駄目だ! 人力じゃコレ以上は動かないぞっ!!」

 

しかし、抉じ開けようとして更に歪んだ事で、ハッチが一層硬くなり始め、徐々に隙間が出来なくなって行く。

 

「泣き言を言うなっ! 大和魂を見せろっ! 日本男児だろっ!!」

 

泣き言を言う大洗歩兵達を一喝し、全身の力を込めてハッチを抉じ開けようとする弘樹。

 

すると、そこで………

 

「居たっ! 大洗歩兵よっ!!」

 

1輌のヤークトパンターが現れ、弘樹達を発見する。

 

「! 舩坂分隊長! ヤークトパンターが!!」

 

「救助が先だっ!!」

 

それに気づいた大洗歩兵の1人がそう声を挙げるが、弘樹は救助作業を続行せよと言う。

 

「! あのパンターは、赤星の………」

 

一方、ヤークトパンターの車長も、大洗歩兵達が小梅車の救助を行っている事を確認する。

 

「車長! 撃ちますかっ!?」

 

「今なら舩坂 弘樹を仕留められる絶好の機会ですよっ!!」

 

「!!」

 

砲手と装填手からそう声が挙がり、ヤークトパンターの車長は苦悩する。

 

確かに、この状況は大洗のエース歩兵である弘樹を仕留められる絶好のチャンスである。

 

しかし………

 

彼等は今、水没しそうになっている敵である筈の小梅車の乗員をそれこそ命懸けで救助しようとしてくれている。

 

ココで攻撃すると言う事は、去年と同じ事を繰り返す事になってしまう………

 

だが、この試合に負ければ、黒森峰は廃校になる………

 

勝つ為には敵のエース歩兵である弘樹は何としても排除したい………

 

けれども………

 

「う、ううう………」

 

苦悩するヤークトパンターの車長。

 

と、その時………

 

「助けてーっ!!」

 

「!!」

 

小梅車の乗員と思わしき、助けを求める声がヤークトパンターの車長の耳に届く。

 

「照準良し! 何時でも撃てますっ!!」

 

そこで、砲手から砲撃準備完了の報告が挙がる。

 

「! ワイヤーを用意してっ!!」

 

「了か………!? えっ!? ワイヤーッ!?」

 

「私達も救助に参加するよ!!」

 

驚いた砲手に、ヤークトパンターの車長はそう言い放つ。

 

「し、しかし………」

 

「責任は私が取るわ! 操縦手! クレーターの端まで行って! 早くっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

そしてそこで、ヤークトパンターは丁度パンターのハッチが向いている方向のクレーターの端へ移動すると、車体後部にワイヤーの片方を結び、もう片方をクレーター内の弘樹に向かって投げた!

 

「!!」

 

「ワイヤーをハッチに結んでっ!!」

 

「協力感謝するっ!!」

 

そう返すと、すぐさま弘樹は、ワイヤーをパンターのハッチに巻き付ける!

 

「全速前進っ!!」

 

そこでヤークトパンターが発進し、ワイヤーで引っ張ってハッチを引っぺがそうとする。

 

「車長! エンジンが危険ですっ!!」

 

「構わないからアクセル踏み込んでっ!!」

 

整備状況の良くないヤークトパンターのエンジンからは黒煙が上がり始めたが、ヤークトパンターの車長は更にアクセルを踏む様に指示。

 

ヤークトパンターのエンジン音が更に大きくなったかと思うと………

 

『バキャッ!!』と言う金属を引き裂いた様な音が響いたかと思うと、横転していたパンターのハッチが引っぺがされた!

 

そして直後に、ヤークトパンターのエンジンは爆発し、車体上部から白旗を上げる。

 

「開いたぞっ!」

 

「引っ張り出せっ!!」

 

すぐさま大洗歩兵達が、ハッチの引っぺがされたキューポラの搭乗口から、小梅を含めた乗員達を引っ張り出す。

 

「弦一朗! 頼むっ!!」

 

「おうっ! 任せろっ!!」

 

弘樹によって引っ張り出された小梅が、弦一朗に託される。

 

「ちょいとゴメンよ」

 

「えっ?………!? キャアッ!?」

 

弦一朗は小梅をお姫様抱っこで抱き上げると、クレーターを一気に駆け上る。

 

「良しっ! もう大丈夫っ!!」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

爽やかな笑顔で弦一朗がそう言うと、小梅は頬を染めてやや視線を反らしながらお礼を言う。

 

「あ、あの………私、赤星 小梅と言います。お名前をお聞きしても宜しいですか?」

 

「ああ、俺は文月 弦一朗! 全ての学校のヤツと友達になる男だっ!!」

 

「文月………弦一朗さん………」

 

そう語る弦一朗に、小梅は熱っぽい視線を向けるのだった。

 

「良し! 救助完了だっ! 全員、クレーターから離れろっ!!」

 

そこで、パンターの乗員全員の救助が終わり、弘樹がそう言い放つと、大洗歩兵達は一斉にクレーターから脱出する。

 

直後に川の水を塞き止める為に積み上げていた土嚢が崩れ、クレーター内に一気に水が浸入。

 

パンターはアッと言う間に水の底へと姿を消した………

 

「ふう~、紙一重でしたね………」

 

「今回はいつもと別の意味で冷や冷やしましたよ」

 

その様子を見ていた飛彗と楓がそう呟く。

 

「良かった………皆無事で」

 

一方、白旗の上がったヤークトパンターから出て来た乗員の中で、車長が小梅達が無事なのを見て安堵の息を吐く。

 

「ありがとうございました。貴方方の協力のお蔭です」

 

とそこで、弘樹がやって来て、ヤークトパンターの車長達にヤマト式敬礼をする。

 

「気にしないでよ。私は只………去年と同じ過ちを繰り返したくなかっただけだから」

 

「…………」

 

「さ、早く行きなよ。一応、敵同士なんだからね」

 

「………撤収っ!!」

 

弘樹がそう声を挙げると、大洗歩兵達は一斉にその場から撤収を始めた。

 

「………直したばっかりだったんだけどなぁ」

 

そこでヤークトパンターの車長は、まだ黒煙を上げている自車を振り返り、何処か達観した様な顔でそう呟いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

弘樹が率いている歩兵部隊と交戦になった小梅隊。
しかしその最中………
小梅の車両が去年と同じ様に水没の危機に!
当然、弘樹達は救助活動を決行する。
ヤークトパンターの車長の協力もあり、無事小梅達の救助に成功するのだった。

もう小梅はみほと弘樹に頭が上がりませんね。
将来子供が出来たら2人の名前を付けるとか言い出しそうです(笑)

そして、最後に協力してくれたヤークトパンター車長は、台詞からお分かりになった方もいるでしょうが、所謂『直下さん』と呼ばれている子です。
劇場版でも登場しましたので、ひょっとしたら最終章で公式に名前が付くかも知れないので、敢えて直下さんとは呼びませんでした。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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