ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第198話『灰色の狐です!』
西住流が率いる黒森峰機甲部隊に対し………
大洗機甲部隊は得意とするマニュアルに囚われないゲリラ戦により………
多数の黒森峰戦車を撃破する事に成功する。
だが、次の戦場へと向かおうとしていた渡河の最中に………
ウサギさんチームのM3リーがエンストを起こすと言うアクシデントに見舞われた………
果たして、この事態に………
みほはどんな決断を下すのか?………
戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………
陸上自衛隊の東富士演習場………
その中に在った川にて………
「ウサギさんチームがエンストッ!?」
報告を受けたみほが、若干動揺を見せながらそう言う。
「! オイ! M3が停まってるぞっ!!」
「何っ!?」
「!?」
川岸に防御線を張っていた大洗歩兵達も、その様子に気づいて声を挙げる。
「全然エンジン掛からないよ~っ!!」
エンジンの再始動を試みる桂利奈だったが、全く反応が無い。
「このままだと、黒森峰が追い付いちゃう~!」
優季が若干涙目になりながらそう言う。
「………私達は大丈夫です! 隊長達は早く行って下さいっ!!」
「後から追い掛けますっ!!」
そこで梓とあやは顔を見合わせると、みほ達に先に行く様に進言する。
だが、エンジンの停まったM3リーは、川の流れに負けて車体が傾き始める。
「危ないっ!」
「このままだと横転しちゃう!」
その様子を見た優花里と沙織が声を挙げる。
「モタモタしていると黒森峰が来るぞ」
「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら………」
「…………」
麻子と華もそう言うのを聞きながら、みほは俯いて両手を膝の上で握り締める。
このままでは黒森峰機甲部隊に追い付かれてしまう………
だからと言って、ウサギさんチームを見捨てる決断なぞ、みほには出来る筈も無い。
もしまた同じ事が起きれば、自分は同じ行動を取る………
そうは言ったものの、イザその場面に遭遇し、みほの心には迷いが生じる………
如何すれば良いのか………
みほがそう思っていると………
「行くぞっ!」
「「「「「「「「「「せーのぉっ!!」」」」」」」」」」
「!?」
勇ましい声が聞こえて来て、みほはペリスコープ越しにM3リーを見やった。
「押せーっ!!」
「引っ張れーっ!!」
「大洗魂を見せてやれーっ!!」
「今こそ男を見せる時だーっ!!」
大洗歩兵達がM3リーの元へ集まり、その車体に取り付いて押したり、兵員輸送車やポルシェティーガーを牽引した戦車回収車とワイヤーで結んで引っ張ろうとしたりしていた。
しかし、泥濘に嵌り込んでいるのか、M3リーは中々動かない………
「電気系統に異常はありません!」
「なら次は油圧だ! すぐチェックしろっ!!」
M3リーの車体の上には数名の大洗工兵が乗り、エンストの原因を調べている。
誰1人として、ウサギさんチームを見捨てよう等とは微塵も思っていない。
「皆………」
「みぽりんも行ってあげなよ」
その光景にみほが驚いていると、沙織がそう声を掛けて来た。
「沙織さん………」
「コッチは私達が見るから」
「ありがとう、沙織さん………優花里さん! ワイヤーにロープをっ!!」
「! ハイッ!」
みほに言われて、すぐさま優花里はワイヤーとロープを用意する。
「戦車チームの皆さん! 少しだけ待っていて下さいっ!!」
「えっ!? 何する気なのよっ!?」
車外へ出ると、ワイヤーにロープを結び、更にロープの反対側の方を自分の腰に巻いたみほがそう言うと、みどり子が戸惑いの声を挙げる。
「…………」
それを余所に、みほはルノーB1bisと三突を挟んだ先に居るM3リーを見やる。
「! 西住総隊長っ!?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
そこで、M3リーの救助作業を行っていた大洗歩兵の1人がみほの姿に気づき、他の大洗歩兵達も注目する。
「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶ………西住さんならそうするだろうな」
「それでこそ、みほさんです」
「だから皆、西住殿に付いて行けるんです。そして私達は………此処まで来れたんです!」
「そうだね」
みほが居なくなった車内で、麻子、華、優花里、沙織がそう言い合う。
「私、この試合………絶対に勝ちます! みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも、絶対に勝ちます!」
「無論、負ける積りは更々無い」
「その通りです」
「勿論だよ!」
「ハイ!」
再びそう言い合っていると………
「!!」
みほが、Ⅳ号の隣に並んでいるルノーB1bisへと跳躍!
更に続けて、ルノーB1bisの上から、三突の上へ跳躍!
「流石ね、みほさん」
「ワンダフルッ!!」
「それがお前の戦車道か………西住 みほ」
「カチューシャにはあんなこと出来ないなって思ってるんでしょう」
「ち、違うわよ!」
その光景に、各機甲部隊の総隊長も称賛の声を挙げる。
観客席からの歓声も、一層大きくなる。
「西住ちゃん、跳んでるね~」
「皆と勝つのが、西住さんの西住流なんですね~」
「ああ、もう~! 急げ~っ!!」
「頑張って! 西住さんっ!!」
攪乱部隊として残っていたヘッツァーの中で、カメさんチームもそう声を挙げる。
「うんうん! それでこそ西住総隊長だよ!!」
「そうだね………」
「それが私達の総隊長ですから」
「甘いわね………でも、嫌いじゃないわ」
「アタイ等の大将は最高だぜっ!!」
同じくクロムウェルの車内でも、聖子、伊代、優、里歌、唯が興奮気味にそう言う。
そして遂に、みほは三突からM3リーの上へと跳ぶ!
だが、M3リーに片足が乗ったかと思われた瞬間!
バランスを崩し、後方へ仰け反る!
「!?」
思わず目を瞑るみほだったが、そのみほの手を誰かが掴んだ!
「!!」
「…………」
目を開けたみほが見たのは、見慣れた仏頂面の弘樹だった。
「…………」
弘樹はそのまま、みほの手を引っ張ってM3リーの上へと誘う。
「………ありがとう、弘樹くん」
「当然の事です」
みほのお礼に、弘樹はそう返す。
「総隊長~!」
「総隊長!」
そこで、M3リーの車内から、ウサギさんチームが飛び出して来る。
「皆でコレを引っ張って下さい」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
みほの命令で、ウサギさんチームはワイヤーの繋がれたロープを引っ張る。
「我々も手伝うんだっ!!」
「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」
更に弘樹の号令で、M3リーの救助に当たっていた大洗歩兵部隊員達も、ワイヤーで戦車同士を繋げる作業に掛かる。
「良し、俺達も行くぞっ!!」
そこで、まだ川岸の防御線に残っていた大詔が、残存メンバーにそう呼び掛ける。
「待て」
だが、それを同じく残っていたハンターが制止した。
「! ハンター! 何故止める!」
「見ろ。黒森峰が追い付いて来た。このままでは大洗は一網打尽だ」
大詔がそう問い質すと、ハンターは土煙が上がる丘の向こうを見ながらそう言う。
「コレ以上救助に時間を掛けるのはナンセンスだ」
「! ハンター! 貴様っ!!」
ハンターの言葉に思わず怒声を挙げる大詔だったが………
「だから、誰かが黒森峰機甲部隊を止めねばならん」
「! 何っ!?」
続くハンターの言葉を聞いて、今度は驚きを露わにする。
「そしてそれは俺の役目だ」
右手にマチェットを構え、迫り来る黒森峰機甲部隊を見据えながらそう言い放つハンター。
「ハンター!」
「大詔、良く見ておけ………コレがディープ・スロートからの最後のプレゼントだ!」
そしてそう叫ぶと………
「俺が黒森峰を止めるっ!!」
敢然と黒森峰機甲部隊に向かって、駆け出した!!
「ハンターッ!!」
大詔の声が、試合会場内に木霊した………
一方、そんな事など露知らず、黒森峰機甲部隊は………
「やっぱり………アンタはそうするのね」
双眼鏡で大洗機甲部隊の様子を見たエリカがそう呟く。
「その甘さが命取りだってんだ! 全軍、前進! 丘を越えたら川に沈めてやれっ!!」
だが、蟷斬はみほの行動をそう切って捨て、全軍にそう言い放つ。
「………後方7時、敵。パンター11号車、やれ」
一方まほは、攪乱部隊として残っていたヘッツァーとクロムウェルを見つけると、冷静にそう指示を出す。
「よ~し………」
「! 会長! 狙われてる!!」
杏が黒森峰機甲部隊に狙いを定めようとしたが、聖子が狙われているのに気づいてそう声を上げる。
「ありゃ?」
思わず杏が間抜けな声を漏らした瞬間に、1両のパンターが放った砲弾が、近くに着弾する。
「ひゃああ~~~っ! 流石に3度目は無いか~!」
「気づかれてちゃ奇襲は無理だ! 撤退するぞっ!!」
杏がそう言ってヘッツァーが下がると、唯もクロムウェルを後退させた。
逃げたヘッツァーとクロムウェルには目もくれず、黒森峰機甲部隊は大洗機甲部隊の方へと進撃する。
「ん? 隊長! 前方から敵歩兵!」
とそこで、黒森峰歩兵部隊員の1人がそう報告を挙げる。
「数は?」
「それが………1人です」
「1人?………」
その報告を受けた都草は、すぐに双眼鏡を構えて前方を確認する。
「…………」
そこには、マチェットを片手に土煙を上げながら自分達に向かって走って来るハンターの姿が在った。
「たった1人で、何の積りだ?」
「囮………にしても妙ですね」
「自棄の特攻でしょうか?」
ハンターの意図が読めず、黒森峰歩兵部隊員達の間に困惑が広がる。
「構わねえ! 相手は1人だ! 蜂の巣にしてやれっ!!」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
だがそこで蟷斬の声が飛び、MG42を装備していた黒森峰歩兵部隊員達が前へ出る。
「射撃始めっ!!」
そして号令一下、一斉射撃を浴びせる!
毎分1200発の発射速度を誇る複数のMG42の弾幕………
当然ながら、ハンターは銃弾の豪雨に晒される。
「…………」
だが、ハンターは足を止めるどころか、更に速度を上げて突っ込んで行く!
「!? な、何で止まらないんだっ!?」
「頭がイカれてるのかっ!?」
幾ら歩兵道用の人が死なない弾丸とは言え、豪雨とも言える弾幕の中を走り抜けるなど正気の沙汰ではない。
黒森峰歩兵部隊員達に動揺が走り、弾幕が途切れる。
「怯むな! 撃ち続けろっ!!」
慌てて都草がそう叫ぶが………
「…………」
その瞬間には既にハンターは黒森峰機甲部隊の中へと突入!
手近に居た、パンツァーファウストを持った黒森峰歩兵の1人を、マチェットで斬り付けた!
「!? ぐああっ!?」
斬り付けられた黒森峰歩兵が戦死となると、ハンターはそいつが持っていたパンツァーファウストを強奪!
そのまま腰打めに構えると、近場のラングの側面目掛けて発射した!
「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」
パンツァーファウストが命中したラングの傍に居た黒森峰歩兵数名が、爆風を浴びて戦死判定となる。
そしてラングからも白旗が上がる。
「貴様っ!!」
1人の黒森峰歩兵が、ハンターに怒りの声と共にMP40を向ける。
「!!」
するとハンターは、その黒森峰歩兵に向かって、撃ち終えたパンツァーファウストを投擲!
「! ぐはっ!?」
真面に喰らった黒森峰歩兵が仰け反った瞬間に、ハンターは懐に飛び込む!
「!!………」
そしてマチェットで腹を横一文字に斬り裂く!
「がふっ!?………」
斬り付けられた黒森峰歩兵が腹を押さえて倒れ、戦死判定となる。
「このぉっ!!」
とそこで、1両のパンターが、ハンターを轢き潰そうと突っ込んで行く。
「………!!」
だが、いざ轢き潰さんとした瞬間に………
ハンターの姿が忽然と消えた!
「!? 消えたっ!?」
ペリスコープ越しに、パンターの車長はハンターの姿を探すが発見出来ない。
「パンター9号車! 上だぁっ!!」
「上?」
黒森峰歩兵の1人からそう報告が挙がり、パンターの車長がハッチを開けて上空を見やると………
「…………」
マチェットを逆手に構え、落下して来るハンターの姿が目に飛び込んで来た!
「!?」
パンターの車長が驚愕していた間に、ハンターは落下しながら、マチェットをパンターのエンジン部分へと突き立てた!
すると何と!!
落下速度まで加えたマチェットの1撃が、最も薄いエンジンハッチを貫通!!
エンジンを損傷させ、パンターに白旗を上げさせた!
「!? 嘘っ!?」
まさか刃物で撃破されるなど夢にも思っていなかったパンターの車長が驚愕の声を挙げる。
「!!………」
その間にハンターは、突き刺さったままのマチェットを手放し、撃破したパンターの上から跳躍!
アクロバティックに錐揉み回転をしながら吸着地雷を投擲!
投擲された吸着地雷は、別のパンターの側面に張り付き、爆発!!
爆発したパンターからも白旗が上がった!!
「コイツッ!」
「調子に乗るなっ!!」
コレ以上はやらせんとばかりに、2人の黒森峰歩兵が、MP40とMG42をハンターに向かって発砲する!
「!!………」
だが、ハンターは着地と同時に連続後転を繰り出し、MP40とMG42の弾丸をかわして行く。
「手榴弾っ!!」
そこで、別の黒森峰歩兵がM24型柄付手榴弾を、ハンター目掛けて投擲する!
「………!!」
しかし、ハンターは後転の勢いを利用してバック宙の様に跳び上がったかと思うと、飛んで来たM24型柄付手榴弾を蹴り返す!
「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」
手榴弾を蹴り返された黒森峰歩兵は、周りの黒森峰歩兵数名を巻き込んで自爆する。
それを確認しながら着地を決めようとしたハンターだったが………
「喰らえっ!!」
そのタイミングを見計らったかの様に、ヤークトパンターの1両が榴弾を発砲!
「!?」
着地のタイミングを狙われ、ハンターの姿が爆煙に包まれた!
「やったっ!」
手応えは有ったと、思わずガッツポーズをするヤークトパンターの車長。
だが、次の瞬間!!
「………!!」
その爆煙の中から飛び出して来たハンターが、ヤークトパンターの側面に回る!
「!? しまったっ! 側面にっ!! 旋回、急げっ!!」
慌ててヤークトパンターをハンターの居る方向へ旋回させようとする。
だが、その瞬間!
ガキィンッ!と言う甲高い音がして、ヤークトパンターの動きが止まる。
「!? 如何したのっ!?」
「わ、分かりません! 履帯に何かが絡まってて!!」
「何ですってっ!?」
操縦手の報告に、ヤークトパンターの車長が、慌ててハッチを開けて車外へ姿を晒すと、履帯を確認する。
「!? ピアノ線っ!?」
そこで、履帯と転輪や駆動輪にピアノ線がガチガチに巻き付いているのを目撃する。
「アクセル全開! 引き千切って!!」
「駄目です! コレ以上アクセルを踏んだらエンジンが壊れますっ!!」
そう指示するヤークトパンターの車長だったが、整備が完全でないヤークトパンターは、コレ以上の出力アップに耐えられないと操縦手が返す。
「!!」
そのヤークトパンターに向かって、火炎瓶を投げつけるハンター。
「!? ヤバッ!?」
ヤークトパンターの車長が慌てて車内に引っ込んだ瞬間に、火炎瓶がヤークトパンターに命中!
ヤークトパンターの車体が炎上したかと思うと、一瞬間を置いて爆発!
撃破を示す白旗が上がった………
「!!………」
ハンターは続いて、近くに居たティーガーⅡを狙おうとする。
………と、その瞬間っ!!
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
1両のパンターが、半ば恐慌状態でハンターに向かって突っ込んだっ!!
「!? 何っ!?」
恐慌した黒森峰戦車部隊員達の思わぬ行動に、ハンターは意表を衝かれ、退避が遅れた!
「!? グアアアッ!!」
そして何と!!
そのままパンターに追突され、パンターはハンターが狙っていたティーガーⅡの側面に衝突!!
ハンターの身体はティーガーⅡとパンターに挟まれてしまう。
「ちょっ!? な、何すんのっ!? 履帯が切れたじゃないっ!!」
「ハッ!? ゴ、ゴメン! つい我を忘れて………」
ティーガーⅡの車長の抗議の声で我に返ったパンターの車長が、慌てて謝罪する。
「でも、コレであの歩兵も………」
そう言葉を続けようとしたパンターの車長が、挟まれているハンターの姿を確認して絶句した………
何故ならそこには………
「…………」
ティーガーⅡとパンターの2両に挟まれながらも、鬼気迫る表情で収束手榴弾を取り出しているハンターの姿が有った。
しかも、その収束手榴弾は、通常の3倍の量を収束させている特注品である。
「追い込まれた狐は虎や豹よりも凶暴だっ!!」
ハンターはそう叫び、特注収束手榴弾の安全ピンを、躊躇無く引き抜いた!!
途端に………
巨大な爆発が、パンターとティーガーⅡ。
そしてハンターを飲み込んだ!!
「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」
余りに凄まじい爆発で、近くに居た黒森峰歩兵達が戦死判定を喰らう程だった。
やがて、朦々と上がって居た黒煙が晴れ始めると………
その中から白旗を上げているパンターとティーガーⅡ。
そして、その2両に挟まれた状態で、やり切った顔で気絶し、戦死判定となっているハンターの姿が露わになった。
「クソッ! 何てこったっ!!」
「全軍! 被害状況を報告しなさいっ!!」
蟷斬が悪態を吐き、エリカが全隊員に報告を求める。
「………たった1人の歩兵がコレほどまでの被害を………」
一方まほは、ハンターが黒森峰機甲部隊に与えた被害の大きさを見て、若干の戦慄を覚えていた。
「見事だ。舩坂 弘樹以外にもコレ程の歩兵が居たとは………やはり、大洗侮りがたしだね」
そして都草は、衛生兵に扮した大会運営委員によって自軍の戦死判定者と共に運ばれて行くハンターに敬礼を送りながらそう言うのだった。
その頃………
大洗機甲部隊は………
M3リーを、ワイヤーで各戦車に繋ぎ、牽引しながら対岸に向かってゆっくりと進んでいる。
「良し! コレで応急処置はOKな筈です!」
「坂口さん! エンジン再起動を!!」
「あいっ!!」
とそこで、漸く大洗工兵がM3リーのエンジンの応急処置を追え、桂利奈が再び再起動を掛ける。
「動いて~っ!!」
祈る様な思いでイグニッションを操作する桂利奈。
すると………
祈りが通じたのか、エンジンが再起動した!
「! 動いたーっ!!」
息を吹き返したM3リーが、再び動き出す。
「皆! ウサギさんチーム、動き出したよっ!!」
「良かった~」
「全車両、ウサギさんチームと歩調を合わせて進んで下さい」
沙織がそう報告を挙げると、優花里が安堵の声を漏らし、みほは即座に指示を出す。
「西住総隊長………」
「! 弘樹くん」
とそこで、弘樹から通信が入る。
「黒森峰機甲部隊の足止めに向かったハンターが………戦死判定です」
「!!」
それを聞いたみほの顔が一瞬強張る。
「ですが敵戦車部隊の戦車を6両撃破。歩兵部隊にも損害を与えました。彼は………勇敢な歩兵でした」
「………キツネさん分隊の指揮は、以後上田さんが執って下さい」
「了解。指揮を引き継ぎます」
弘樹がそう報告を続けると、みほは辛そうにしながらも、キツネさん分隊の指揮を紫朗に引き継がせるのだった。
「川を渡り切るぞ………」
とそこで、麻子が報告した通り、大洗戦車隊は対岸へと辿り着く。
「此方カメさん。コッチも渡河完了だよ~」
「サンショウウオさんチームもです」
更に、別行動をしていたカメさんチームとサンショウウオさんチームも別の場所で渡河を終えたとの報告が入る。
「歩兵部隊も渡河完了だよ、西住くん」
そして、M3リーを助ける為に川に飛び込んでいた大洗歩兵部隊も、無事に渡河を完了した。
「カメさんチームとサンショウウオさんチームとの合流地点へ向かいます。その後は予定通りに市街地へ向かいます」
「ちょっと待って下さいね………」
と、みほが新たな指示を下すと、灰史がそう言って、工兵達と共に、兵員輸送車からジェリカンを取り出して、中に入っていた液体を川に流し始める。
「下がって!」
やがてジェリカンの液体が全て無くなると、灰史は工兵達を下がらせ、信号拳銃の照明弾で水面を撃った。
すると忽ち!
川の水面が激しい炎に包まれた!!
「………コレ大丈夫なのか?」
「環境に影響を与えない可燃物質を使っています。足止めの為ですよ」
余りの炎に了平が思わずそう呟くと、灰史は笑いながらそう返した。
「急ぐぞ」
そこで弘樹がそう言い、大洗機甲部隊はカメさんチームとサンショウウオさんチームとの合流地点へ向かう。
黒森峰機甲部隊………
「クウッ! アイツ等! 何て真似をっ!!」
漸く態勢を立て直し終わった黒森峰機甲部隊の中に居たエリカが、炎上している川へと差し掛かってそう声を挙げる。
「止むを得ん。迂回するぞ」
「チイッ! トンだ時間のロスだっ!!」
都草がそう指示すると、蟷斬がまたも悪態を吐く。
(………市街地へ向かう積りか。だが、コレ以上はやらせんぞ)
そんな中で、まほは試合会場の地図を見ながらそう思いやるのだった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
エンストしたウサギさんチームのM3リーの救出に奮戦する大洗機甲部隊。
誰1人として見捨てようと等とは考えていない………
これが大洗流です。
だが、刻々と迫り来る黒森峰に対し………
ハンターが決死の突撃を敢行!
戦死となったが大きな損害を与えて足止めに成功する。
『追い込まれた狐は虎や豹よりも凶暴だっ!!』
この台詞を言わせたいが為にハンターと言うキャラを作ったと言っても過言ではありません。
あの名場面を思い出していただけたら嬉しいです。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。