ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第197話『207地点の激戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第197話『207地点の激戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

207地点………

 

みほ達、大洗機甲部隊が目指していたそこは、土の地面が露出している山だった。

 

「西住総隊長!」

 

「お待ちしておりました! 既に陣地の構築は完了しておりますっ!!」

 

そこには既に、スタート時に先行していた大洗工兵部隊の姿が在り、防衛戦の為の陣地を構築していた。

 

蛸壺や塹壕に、それらを繋ぐ地下を通したトンネル。

 

土嚢を積んだ防壁や、戦車の進行を妨害する戦車壕にジークフリート線に置かれていたとされるコンクリートブロック『龍の歯』や鉄製の『チェコの針鼠』、有刺鉄線も張られている。

 

そして、戦車をハルダウンさせる為の塹壕もある。

 

「ありがとうございます! 全員、配置に着いて下さいっ!!」

 

みほがそう呼び掛けると、大洗歩兵部隊の隊員達は其々に塹壕や蛸壺に入り、対戦車砲や榴弾砲、歩兵砲に山砲と言った砲を設置する。

 

更に、戦車チームの面々も、ハルダウン用の壕に入り込み、トーチカと化す。

 

「…………」

 

みほは双眼鏡で、迫り来る黒森峰機甲部隊の姿を確認する。

 

双眼鏡で覗いた先には、朦々と土煙を上げて迫り来る黒森峰機甲部隊の姿が在った。

 

「守り固めたよ!」

 

とそこで、沙織から配置完了の報告が挙がる。

 

「了解! 全車両並びに全対戦車砲は照準をフラッグ車の前に居る車両に! 歩兵部隊は可能な限り弾幕を張って敵歩兵部隊の前進を阻止して下さい!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほが命じると、大洗戦車部隊は砲塔や車体を動かして照準し、歩兵部隊は銃の引き金に指を掛ける。

 

「全車停止」

 

一方、黒森峰機甲部隊は、山の麓にて一旦停止する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そのまま両軍は暫し、睨み合いとなる。

 

緊迫した様子に、観客席も静まり返る………

 

「想定より早く………しかも堅牢な陣地を構築したな………囲め」

 

双眼鏡で大洗機甲部隊の防御陣地を確認したまほがそう呟くと、包囲指示を下す。

 

黒森峰機甲部隊は、戦車と随伴歩兵分隊ごとに分かれると、大洗機甲部隊の陣地を包囲しに掛かる。

 

「………攻撃始めっ!!」

 

「攻撃始めっ!!」

 

「攻撃始めっ!!」

 

それを確認したみほがそう号令を掛けると、迫信と弘樹の復唱の後、攻撃が開始された!

 

戦車砲や対戦車砲、榴弾砲に野戦砲が火を噴き、歩兵部隊が機関銃や小銃で弾幕を張る!

 

「うわっ!?」

 

「凄い弾幕だっ!!」

 

「歩兵部隊は下がって下さい! 先行します!!」

 

弾幕に晒された黒森峰歩兵達を助ける為、パンターの1両が前に出る。

 

途端に、車体上部に三突が放った砲弾が命中!

 

装甲を穿たれたパンターは、即座に白旗を上げる。

 

「やったっ!」

 

「次、1時のラングだっ!!」

 

「ラングってどれだ!?」

 

「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいな奴!」

 

カバさんチームの面々が歓声を挙げながらも、即座に次の戦車を狙う。

 

「11時方向、距離1500に居るヤークトパンターの上面を狙え!」

 

「了解っ!」

 

紫朗も、得意の空間認識能力で的確な狙いを付け、ヤークトパンター1両を撃破する。

 

そしてあんこうチームも、1両のパンターを狙い、砲塔を旋回させる。

 

「大洗フラッグ車、砲塔此方へ指向中!………!? キターッ!?」

 

狙われたパンターの砲手が報告するものの、その瞬間には発砲され、為す術も無く命中弾を喰らう。

 

一瞬の間の後に、命中弾を受けたパンターは白旗を上げる。

 

「五十鈴殿! やりましたね!!」

 

「いよっ! お嬢~! 日本一っ!!」

 

優花里が歓声を挙げ、大洗側の応援席に百合と共に居た新三郎も歓声を挙げる。

 

近くに居る淳五郎と好子も嬉しそうな表情をしている。

 

「………ヤークトティーガー隊。正面へ」

 

するとそこで、まほはそう指示を下し、9両のヤークトティーガー達が、黒森峰機甲部隊の前面へと展開する。

 

「重戦車を盾に使うのね………けど、そう上手く行くかしら?」

 

黒森峰機甲部隊らしい作戦に観客席のダージリンはそう呟くが、次の瞬間には不敵に笑った。

 

展開したヤークトティーガー達に、大洗戦車部隊と砲兵部隊の砲撃が集中する。

 

しかし、その全ての砲弾は弾かれ、明後日の方向に飛んで行く………

 

「堅い………」

 

「正面が全て100ミリ以上の装甲だからな………大戦当時の連合軍に、奴を正面から撃破出来る火砲は存在しなかった」

 

華がそう呟くと、煌人からの情報が入る。

 

ヤークトティーガーの盾を頼りに、進軍する黒森峰機甲部隊。

 

「コレが王者の戦いよ」

 

その中に居たティーガーⅡに乗るエリカは、勝ち誇る様にそう言う。

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「何だよ、黒森峰の連中。戦車の性能を頼りにゴリ押しかよ」

 

「只の脳筋戦法じゃねえか」

 

「こんなの俺でも出来るぜ。西住流も大した事ねえな」

 

その黒森峰機甲部隊の圧倒的な力の様子とは裏腹に、観客席から飛ぶのは野次ばかりである。

 

敵よりも優れた戦力を有し、完全に統制された状態で攻撃するのは戦術の基本であるが、一般人には理解し辛い要項である。

 

「…………」

 

「おお~、凄いね~」

 

そんな観客の野次に、黒森峰側の応援席のしほは拳を握り締め、対照的に常夫は呑気そうにモニターを眺めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内・207地点………

 

徐々に、大洗機甲部隊の陣地内へ撃ち込まれる砲弾の数が増して行く。

 

「折角ココまで来たのに………このままだと撃ち負ける!」

 

「流石黒森峰………」

 

至近弾の振動を感じながら、典子とあゆみがそう呟く。

 

「マルタの大包囲戦の様だな」

 

「あれは囲まれたマルタ騎士団がオスマン帝国を撃退したぞ」

 

エルヴィンがそう例えると、カエサルからそうツッコミが入る。

 

「だが、我々にそれが出来るか………」

 

「大丈夫です」

 

「!!」

 

と、エルヴィンがそう呟いた瞬間、みほが全部隊に向けて通信を流し始めた。

 

「私達には………『不死身の分隊長』が付いて居ます」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほがそう言い放った瞬間、大洗機甲部隊のメンバー全員が………破顔する。

 

その間にも、ヤークトティーガー隊が接近して来る。

 

と、その時………

 

1両のヤークトティーガーが通り過ぎた横の地面が捲れ上がる………

 

いや、捲れ上がったのは地面と同じ迷彩をしていたシートであり、その下に空いていたトンネルの中から………

 

「…………」

 

吸着地雷を手にしている弘樹が飛び出した!

 

そのまま、横を通り抜けようとしていたヤークトティーガーに肉薄し、側面に吸着地雷を張り付ける!

 

「!! ヤークトティーガー2号車! 側面に敵兵だっ!!」

 

「えっ!?」

 

それに気づいた都草が声を挙げた瞬間に、弘樹が伏せると吸着地雷が爆発!

 

ヤークトティーガー2号車は爆煙に包まれたかと思うと、次の瞬間には白旗を上げた。

 

「な、何だっ!?」

 

僚車がやられたのを見て、1両のヤークトティーガーが動きを止める。

 

するとその瞬間………

 

「貰ったぜ!」

 

先程と同様に、地面に見立てた迷彩シートを引っぺがして現れた地市が、手にしていたパンツァーファウストをヤークトティーガーの車体下部へ撃ち込む!

 

爆発が起こった後、パンツァーファウストを受けたヤークトティーガーから白旗が上がる。

 

「て、敵だ! 敵が居るっ!!」

 

それを見たまた別のヤークトティーガー1両が、地市に主砲を向けようと旋回する。

 

「! 馬鹿! 敵の目の前で旋回するな! 側面を曝してるわよっ!!」

 

「頂きっ!!」

 

しかし、旋回をすると言う事は山の頂上付近に陣取っている大洗戦車チームや大洗砲兵部隊に側面を曝すという事であり、エリカの怒声が飛んだ瞬間に、ポルシェティーガーの主砲が火を噴いた!

 

砲弾は旋回していたヤークトティーガーの側面に命中!

 

ヤークトティーガーは敢え無く撃破判定となった。

 

「こ、後退っ! 後退しろっ!!」

 

更に別のヤークトティーガーは、ギアをバックに入れると、正面を向けたまま後退しようとする。

 

だが、その瞬間!!

 

ガコンッ!と言う鈍い音がしたかと思うと、後退していたヤークトティーガーは突然動きを止めた。

 

「ちょっ!? 如何したの!?」

 

「駆動系に損傷! さっきの急なギアチェンジがいけなかったみたいです!」

 

車長が慌てながら操縦手に尋ねると、操縦手は手応えの無くなったレバーをガチャガチャ動かしながらそう答える。

 

「その隙は見逃しませんっ!!」

 

するとそこで、そう言う台詞と共に、またもや偽装シートを剥がして露わになったトンネルから竜真が飛び出して来て、手にしていた梱包爆薬を拉縄を引きながら放り投げる。

 

梱包爆薬はヤークトティーガーの上部に乗っかり、一瞬の間を於いて大爆発!

 

当然、ヤークトティーガーからは白旗が上がった!

 

「イカン! 歩兵部隊、前進っ!!」

 

とそこで、都草の指示が飛び、黒森峰歩兵部隊が前進する。

 

「黒森峰歩兵部隊、前進して来ます!」

 

「引けっ!!」

 

それを確認した大洗歩兵の1人から報告が挙がると、弘樹は即座にそう号令を掛ける。

 

ヤークトティーガーに肉薄していた大洗歩兵達が、再びトンネル内へと姿を消す。

 

「逃がすかっ!」

 

数名の黒森峰歩兵が、それを追ってトンネル内へと飛び込もうとする。

 

「止せっ! 深追いするなっ!!」

 

しかし、都草の制止も間に合わず、黒森峰歩兵数名が入り込んだ瞬間に、トンネルが爆発!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

爆発によって吹き飛ばされてきた黒森峰歩兵達が斜面を転がり、戦死判定となる。

 

更に、爆発が急造のトンネル内を走った事で、トンネル自体が崩落し、斜面の一部がへこみ始める!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

数10名の黒森峰歩兵達はそれに呑み込まれてトンネル跡の中へと落ち込む。

 

「クッ! 何たる様だ!」

 

その光景に、思わず都草からも苦々しい台詞が漏れる。

 

「………そろそろ限界か。ココから撤退します!」

 

とそこで、コレ以上の防衛戦は不可能と判断したみほが、撤退を指示する。

 

「でも、退路は塞がれちゃってます」

 

次弾装填をしようとしていた優花里が、みほにそう意見する。

 

『西住総隊長! コチラ配置に着きました!』

 

『西住ちゃん! 例のアレやる?』

 

するとそこで、別働隊として動いていたサンショウウオさんチームの聖子とカメさんチームの杏からそう通信が入る。

 

「ハイ! 『おちょくり作戦』、開始して下さいっ!!」

 

それを受けたみほは、新たな作戦・『おちょくり作戦』の発動を指示する。

 

『了解!』

 

『準備良い?』

 

『『『ハイ!』』』

 

『おちょくり開始ッ!!』

 

すると、麓に待機していたクロムウェルとヘッツァーが、黒森峰機甲部隊の後方から突撃を開始した!

 

「突撃ーっ!!」

 

干し芋片手にそう指示する杏。

 

「バンザーイッ!!」

 

聖子も万歳と叫ぶ。

 

「こんな凄い機甲部隊の中に突っ込むなんて………生きた心地がしない」

 

「今更ながら無謀な作戦だな………」

 

あの黒森峰機甲部隊の中へと突っ込む事に、柚子と桃は気後れを感じる。

 

「大丈夫! 西住総隊長を信じようよ!」

 

「西住総隊長の作戦なら、きっと上手く行くよ!」

 

しかし、蛍と聖子はみほを信頼し、一片の恐れも見せない。

 

「敢えて突っ込んだ方が安全なんだってよぉ」

 

そして杏も、いつもの調子でそう言い放つ。

 

「………ん?………!? 後方に敵っ!!」

 

とそこで、黒森峰歩兵の1人が、後方から迫って来るクロムウェルとヘッツァーの姿に気づく。

 

「!? 何っ!?」

 

すぐさま黒森峰歩兵達が振り返るが………

 

「撃つよ!」

 

「カ・イ・カ・ン!って奴だね!」

 

ハッチを開けて、聖子と杏が姿を晒したかと思うと、機銃架のビッカーズ・ベルチェー軽機関銃とMG34を掃射する!

 

「「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「!? 何事っ!?」

 

歩兵部隊員の悲鳴を聞いたパンターの車長が慌てた瞬間、車内に振動が走る。

 

「こんちは~」

 

そこで、パンターの左横に接触する様に停まった杏が、呑気そうに挨拶する。

 

「! パンター11号車! エレファント5号車! 脇にヘッツァーが居るぞっ!!」

 

慌ててるのか、砲手の子の肩を何度も蹴りながらそう通信を送るパンターの車長。

 

それを受けた他の黒森峰戦車達が、ヘッツァーの方を向こうとする。

 

「バイバ~イ」

 

するとヘッツァーは前進。

 

低い車高と小回りを活かして、黒森峰戦車部隊の中を走り回る。

 

「クソォッ!」

 

「同士討ちになるから撃てないっ!」

 

射線が重なってしまい、ヘッツァーを攻撃する事が出来ない黒森峰戦車部隊。

 

「行っけえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

更にそこへ、サンショウウオさんチームのクロムウェルが突っ込んで来る!

 

「うわっ!? もう1両っ!?」

 

「このっ! チョコマカと!!」

 

ヘッツァーによって只でさえ攪乱されていた黒森峰戦車部隊が、更に掻き回される。

 

「此方ラング7号車! 自分がやりますっ!!」

 

とそこで、黒森峰戦車部隊の中からやや前進していたラングが、自分がヘッツァーとクロムウェルを仕留めようと旋回を始める。

 

しかし、側面を山頂側に晒した瞬間、三突の砲撃が命中!

 

旋回しようとしていたラングは白旗を上げる。

 

「申し訳ありません! やられましたっ!!」

 

「私が!」

 

「待て! 三突、向かって来るぞっ!!」

 

撃破されたラングの車長が謝って居ると、今度はパンターの隊員が動こうとしたが、三突を始め大洗の戦車隊が前進して来るのを確認したエレファントの隊員が制する。

 

「敵は混乱している! この機を逃すな! 砲兵部隊! 撃って撃ちまくれっ!!」

 

そして、迫信の指示が飛ぶ中、大洗砲兵部隊と前進して来た大洗戦車部隊が、黒森峰機甲部隊に次々と砲撃を見舞う!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

激しい砲撃に晒された事で、黒森峰機甲部隊の混乱は更に加速するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

プラウダサイド………

 

「面白~い! 次から次へと、良くこんな作戦考えるわね!………!? わっと!」

 

「今のところ、大洗のペースですね」

 

黒森峰を混乱に叩き込んでいる様に、カチューシャが燥いでノンナの上から落ちそうになり、ノンナは冷静にそう戦況を見る。

 

「黒森峰からしてみれば悪夢だな」

 

『黒森峰は大洗に地獄へ付き合わされています』

 

デミトリもそう呟き、クラーラがむせそうな事をロシア語で言い放つ。

 

 

 

 

 

サンダースサイド………

 

「あんなに混乱した黒森峰を見たのは初めてです」

 

「黒森峰は、隊列を組んで正確に攻撃する訓練は積んでるけど、その分突発的な事に対処出来ない」

 

「マニュアルが崩れて、パニックになってるワケですね」

 

アリサとケイが、黒森峰の様子をそう評する。

 

「それに、彼女達が頼みとする西住流………完全無欠の戦車道と知られる流派だが、1つだけ弱点が有る」

 

するとそこで、ナオミがそう口を挟む。

 

「えっ!? 弱点っ!? あの西住流にっ!?」

 

驚愕の声を挙げるアリサ。

 

西住流と言えば、島田流と並ぶ日本戦車道の代表流派。

 

それに弱点が有るなど、俄かには信じられなかった。

 

「意外と知られているんだが、その弱点を衝こうと言う連中は皆無に等しかったからな」

 

「何なの、その弱点って!?」

 

「………攻勢に出る時、歩兵が後方に回りがちと言う事だ」

 

「歩兵が?」

 

「そう………西住流の考えでは、歩兵は飽く迄戦車の活動を支援する存在と捉えているらしい。その為、攻勢時には戦車部隊が歩兵部隊より前に出る傾向が有る」

 

「しかし、それは歩兵に守られていない戦車が前に出ると言う事であり、敵歩兵からすれば、護衛の無い戦車を攻撃出来るチャンスでもある」

 

ナオミとアリサが話し合っていると、ジョーイがそう口を挟んで来た。

 

「でも、黒森峰の戦車は!………」

 

「そう………高性能なドイツ戦車だ。普通の神経なら、護衛歩兵が居ないとは言え、歩兵戦力で迎え撃とう等と考える奴は居ない」

 

「だからこそ、この西住流の弱点は今まで衝かれる事は無かったのだ」

 

アリサにそう言うと、ナオミとジョーイは再び試合の様子を見やる。

 

(しかし………幾らマニュアルが崩れているとは言え、黒森峰の動揺が大き過ぎるな………何か有ったとしか思えん)

 

と、ジョーイはそこで更に、今の黒森峰機甲部隊の動揺の具合に違和感を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内・207地点………

 

「如何すれば良いの!? ヘッツァーとクロムウェルを狙うの!?」

 

「それとも、そっちは無視して、山頂側からの攻撃に備えれば良いの!?」

 

「こんな場合のマニュアルなんて無かったよ!?」

 

「総隊長! 指示を! 指示を下さいっ!!」

 

ヘッツァーとクロムウェルに引っ掻き回され、更に山頂から大洗戦車部隊と大洗砲兵部隊の砲撃に晒されている黒森峰戦車部隊員達の悲鳴の様な声が通信回線に響き渡る。

 

現在の黒森峰戦車部隊員の殆どが経験不足の1年生達であり、補給もままならない状況だった為、碌な練習も出来ず、決勝までの訓練を粗座学に費やしていた。

 

その座学で習ったマニュアルが通用しなくなり、彼女達は只々まほへと指示を請うばかりだ。

 

「落ち着け! 冷静に対処するんだっ!!」

 

まほも必死になってそう呼び掛けるが、黒森峰戦車部隊員達の動揺は収まらない。

 

(クッ! やはり訓練不足か………)

 

そんな戦車部隊員達の様子を見て、まほは苦い顔を浮かべるのだった。

 

「右側がグチャグチャだよ!」

 

「右方向へ突っ込みますっ!!」

 

とそこで、右翼の陣形が崩れたのを見た沙織が声を挙げ、みほの指示が飛ぶ。

 

「全員車両に乗れっ!!」

 

「余分な装備や動かせない装備は全て爆破放棄しろっ!!」

 

大洗歩兵部隊も、すぐさま移動の態勢に入る。

 

そして、ポルシェティーガーを先頭に、大洗機甲部隊が一気に斜面を下って移動を開始した!

 

それに気づいた黒森峰戦車部隊のヤークトパンターとラングが、大洗機甲部隊に向かって発砲する!

 

しかし、先頭を行っていたポルシェティーガーが、その堅牢な装甲で弾き飛ばす!

 

そのまま大洗機甲部隊は、混乱の続いている黒森峰機甲部隊の中を悠々と擦り抜けて行く。

 

御丁寧に、最後尾を行っていたルノーB1bisと歩兵部隊が煙幕を張り、視界を塞ぐ。

 

「ヤッホーッ!」

 

「やりましたっ!」

 

「やれやれ………スリル満点だな」

 

無事離脱出来た事に、ツチヤと優花里が歓声を挙げ、麻子が呆れる様にそう呟く。

 

「逃げられました!」

 

「何やってるのっ!!」

 

「態勢を立て直せ!!」

 

戦車部隊員の1人から報告を受けたエリカが叫び、まほが更に指示を飛ばす。

 

「総隊長! 私が追いますっ!!」

 

「お供しますっ!!」

 

とそこで、エリカが混乱の続く黒森峰機甲部隊の中から抜け出し、別のティーガーⅡを1両率いて、大洗機甲部隊を追う。

 

「何処へ向かう気なの?」

 

「面白くなってきたわね~」

 

観客席では、アリサと特大のポップコーンを頬張っているケイがそう呟く。

 

と、離脱している大洗機甲部隊の中で、ポルシェティーガーから変な音が鳴り始め、エンジン部から煙が出始める。

 

「レオポンがグズり出したぞ!」

 

「ちょっと宥めて来る」

 

すると、ナカジマがハッチを開けて、走行中の車外へ出ると、そのままエンジンルームの上へ移動し、エンジンルームを開ける。

 

「はいは~い、大丈夫でちゅよ~」

 

そして走行したまま、ポルシェティーガーのエンジンを修理し始める。

 

「壊れたところを走りながら直してる………」

 

「流石自動車部ですね」

 

みほと優花里はその光景を見て、改めて自動車部のスキルの高さを思い知るのだった。

 

とそこで、追撃を仕掛けて来ていたエリカ車ともう1両のティーガーⅡが距離を詰めて来る。

 

「逃がさないわ。目標、1時フラッグ車っ!!」

 

エリカの指示で、彼女のティーガーⅡがⅣ号へ照準を合わせる。

 

しかし………

 

突然ガクリとエリカ車の車体が揺れたかと思うと、車体が左へ流れ始める。

 

「ちょっ!? 如何したのっ!?」

 

エリカが声を挙げた瞬間に、彼女のティーガーⅡは溝へ落ち込み、動きを止める。

 

「何やってるのっ!?」

 

「左動力系に異常っ!」

 

「操縦不能ですっ!?」

 

「何ですってっ!?」

 

乗員の報告に、エリカはハッチを開けて車外へ姿を晒す。

 

見れば、彼女の乗るティーガーⅡの左の履帯が完全に千切れ、転輪の一部も脱落していた。

 

「クッ!」

 

「私達が追いますっ!!」

 

するとそのエリカのティーガーⅡの横を擦り抜けて、もう1両のティーガーⅡが大洗機甲部隊を追う。

 

だが、その直後………

 

ボンッ!と言う音がしたかと思うと、もう1両のティーガーⅡのエンジンが爆発して炎上。

 

そのまま白旗を上げた。

 

「も、申し訳ありません! エンジンブローですっ!!」

 

「コレが………こんな情けない姿が………黒森峰機甲部隊の姿だと言うの………」

 

次々と整備不良によって脱落する車両や、練度不足な隊員の操縦で力を発揮出来ない様に、エリカは悔しさを滲ませる。

 

「副隊長!」

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

「工兵っ!! 応急修理だっ!!」

 

とそこで、追い付いた黒森峰機甲部隊の歩兵隊員達が、擱座しているエリカのティーガーⅡに駆け寄って来て、工兵達が応急修理を始める。

 

「駄目です! 駆動輪が完全に割れてます! 応急修理じゃ如何にもなりません!」

 

すると、エリカのティーガーⅡは駆動輪が完全に割れており、応急修理だけではどうしようもないと言う報告が挙がる。

 

「仕方が無い………そこのティーガーⅡの部品を使おう」

 

工兵隊長が、白旗を上げているティーガーⅡを見てそう言う。

 

「共食い整備で騙し騙しでやってたのを、今度は廃品利用ですか」

 

「ホント、惨めですね………」

 

そんな様に、黒森峰機甲部隊の士気も低下する。

 

(クッ! 短期戦を試みて損害を増やしてしまったのが完全に裏目に出たか………)

 

まほの表情にも、最早余裕は無くなっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

黒森峰機甲部隊を引き離した大洗機甲部隊は、川の手前で一旦停車していた。

 

「大分引き離しましたね」

 

「この後はどのルートを?」

 

華がそう言うと、優花里がみほにそう尋ねる。

 

「この川を渡ります」

 

「川を渡る?」

 

「上流にはレオポン、下流にはアヒルさんが居て下さい」

 

「成程! 軽い戦車が流されない様に渡るんですね!」

 

みほの意図を察した優花里がそう補足する。

 

「歩兵部隊は後方を警戒! 戦車の渡河を確認後に渡河する!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして歩兵部隊は、川岸に展開し、万が一黒森峰機甲部隊が追い付いて来た時の防御線を張る。

 

皆が緊張している中、大洗戦車チームは渡河を開始する。

 

順調に川の中を進んで行くかに見えた大洗戦車チーム。

 

だが、川の中頃まで差し掛かった瞬間………

 

悲劇は起こった………

 

突如ウサギさんチームのM3リーからエンジン音が消えたかと思うと、その場で停止してしまう。

 

「ア、アレッ!?」

 

桂利奈が慌ててアクセルを踏み込む。

 

しかし、反応は返って来ない………

 

「う、動かないっ!!」

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

桂利奈の叫びを聞いた梓が思わず声を挙げ、あや達も驚愕する。

 

「! みぽりん! ウサギさんチームがっ!?」

 

「!?」

 

沙織からの報告を聞いたみほの脳裏に………

 

また、去年の黒森峰での出来事が過るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に山地での戦いです。
先行させていた工兵部隊により、原作より強固な防御陣地を築いて戦ったので、正に硫黄島の擂鉢山です。

そして、原作で猛威を振るったヤークトティーガー。
この作品では既に1両撃破しているとは言え、まだ9両が健在。
しかし、此処へ来て一気に4両を撃破。
他にも自滅を含めて多数の戦車を撃破しました。

この作品独自設定で、西住流に弱点を付与しました。
この弱点は、黒森峰が原作通りの戦法を取ると、如何しても歩兵部隊が後衛に回りがちになってしまうので、ならいっそ西住流の弱点にしてしまおうと考えまして。
前回の決勝で敗退した時、歩兵部隊の活躍が感じられなかったのも、実はこういう理由があったからと思えば納得出来るんじゃないかなとも思いまして。

さて、次回はあの渡河の場面。
勿論みほは助けに向かいますが、それを助ける為に『アイツ』が決死の行動に出ます。
アレンジされたあの名言も飛び出しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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