ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第192話『決戦前夜です!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第192話『決戦前夜です!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に明日へと決勝戦が迫った中………

 

勝利を願い、カツ料理を食べながら、其々の夜を過ごす大洗機甲部隊の面々………

 

そして………

 

我等があんこうチームと弘樹達も…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・舩坂家………

 

「「「「「「「「「「頂きま~すっ!」」」」」」」」」」

 

弘樹の家で、大きなちゃぶ台を囲んでご飯会を開いているみほ達。

 

献立は………やっぱりとんかつである。

 

「あむ………美味しい~!」

 

「カラッと揚がってますね~」

 

「何時でもお嫁に行けますよ~」

 

とんかつに口を付けたみほ、華、優花里が、料理を作った沙織に向かって舌鼓を打つ。

 

「…………」

 

すると、当の沙織は箸を置いたかと思うと、真剣な表情になる。

 

「重大な発表が有ります」

 

「「「えっ?」」」

 

それを聞いたみほ、華、優花里が困惑の表情を見せる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

弘樹達も何事かと沙織に注目する。

 

「実は私………じゃーん! アマチュア無線1級に合格しましたぁっ!!」

 

そこで沙織はそう言って、アマチュア無線技士1級の免許証を皆に見せる。

 

「まあっ!」

 

「ええっ!? 1級ですかっ!?」

 

「1級だなんて、凄く難しい筈じゃ!?」

 

途端に、華、優花里、みほから驚愕の声が挙がる。

 

「おおっ! スゲェッ!!」

 

「良く分からへんけど、凄い事だけは分かるわぁ」

 

「何時の間にそんな資格を………」

 

「凄いですね、武部さん」

 

海音、豹詑、楓、飛彗からも感嘆の声が漏れる。

 

「…………」

 

弘樹も無言で拍手を送る。

 

「いや~、大変だったよ~。麻子と平賀くんに勉強付き合ってもらって」

 

「教える方が大変だった」

 

「全くだよ。元々僕は人に教えるタイプじゃないのに」

 

沙織が照れ臭そうにそう言うと、麻子と煌人からそうツッコミが入る。

 

「アインシュタイン、ご苦労さんだな」

 

白狼はそう言って、煌人を労う。

 

「凄~い! 沙織さん!」

 

「通信士の鏡ですね!」

 

「明日の連絡指示は任せて。どんなとこでも電波飛ばしちゃうから!」

 

そう言って沙織は胸を張る。

 

「まさかそんな免許を取ってたなんて………重大発表がそんな事だとは思いませんでした」

 

「うん。てっきり石上さんと付き合い始めたとかだと思ってたから」

 

「あ、それならもうとっくだよ」

 

「「「「………えっ?」」」」

 

沙織がサラッと言った言葉が理解出来ず、間抜けた声を挙げてしまうみほ、優花里、華、麻子。

 

「地市、お前………」

 

「ひょっとして………」

 

「ああ………沙織と正式にお付き合いしてるぜ」

 

弘樹と楓も、軽く驚きながら地市に問い質すと、当の本人から割とアッサリとした返事が返って来た。

 

「「「「!? えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~っ!?」」」」

 

途端に、みほ、優花里、華、麻子は仰天の声を挙げる。

 

「ほほう、こりゃあ魂消た」

 

「何時の間にそないな事に?」

 

海音と豹詑もそんな声を挙げる。

 

「地市いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

「うおわっ!?」

 

とそこで、了平が血の涙を流しながら、地市の襟首を掴んで来る。

 

「貴様ぁ! 親友であるこの俺を差し置いて! 1人だけ! 1人だけ!………リア充になるたぁ、如何言う了見だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「ぎゃああっ!? 気持ち悪いぃっ!!」

 

更に血涙を流しながら、鬼気迫ると言った表情の了平に詰め寄られて、地市は慌てふためく。

 

「…………」

 

すると、弘樹が不意に立ち上がり、縁側に繋がる障子と、縁側の窓を開ける。

 

「了平………」

 

「何だぁ! 弘樹っ!! 俺は今この裏切り者に………」

 

「人の家で見苦しい真似をするなぁっ!!」

 

そして、地市に掴み掛っていた了平を引き剥がしたかと思うと、背負い投げの要領で空いていた障子と窓を通して、庭へ投げ飛ばした!!

 

「!? ブベラッ!?」

 

投げ飛ばされた了平は、頭から庭の地面に叩き付けられ、バタリと倒れると動かなくなった。

 

「全く………」

 

「で? 結局、何時から付き合い始めてたんだい?」

 

弘樹が呆れた声を漏らすと、煌人がそう問い質す。

 

「あ、ああ………準々決勝が始まる前辺りか?」

 

「そんなに前から付き合い初めてたんですか!?」

 

地市が気を取り直してそう言うと、楓が驚きの声を挙げる。

 

「ど、如何して仰ってくれなかったのですか!?」

 

「いや~、何か気恥ずかしくって………」

 

「別に改まって言う事でもねえかと思ってよぉ」

 

華がそう尋ねると、沙織が照れ臭そうに、地市がごく普通にそう返す。

 

「沙織………人に散々恋だの恋愛だの言って於いて………」

 

「呆れたな………」

 

そんな2人の姿に、麻子はジト目になり、煌人は呆れた様子を露わにする。

 

「夏休みにはお父さん達に挨拶に行ってくれるんだよね~」

 

「あ~、今から緊張して来たぜ………」

 

その2人の言葉も気にせず、沙織と地市は若干ピンク色のオーラを出しながら、楽しげに談笑する。

 

「まあ、何はともあれ………おめでとう、沙織さん」

 

とそこで、みほが沙織に向かって祝福の言葉を述べる。

 

「おめでとうございます、武部殿」

 

「やれやれ………コレでお前の恋愛談義を聞かされずに済むワケか」

 

優花里と麻子も、彼女達なりに祝いの言葉を送る。

 

「ありがとう、皆」

 

「沙織さん、おめでとうございます」

 

沙織が礼を言うと、華も祝いの言葉を述べて来る。

 

「ありがとう、華………華ももう良いんじゃないの?」

 

「? 何がですか?」

 

不意に沙織にそう言われて、華は何の事か分からず、首を傾げる。

 

「もう~! 宮藤くんとの事だよぉ~! お母さんにだって認められたんだし、そっちこそ次のステップを踏み出しても良いんじゃないの~!」

 

「!? ええっ!?」

 

「なっ!?」

 

沙織の爆弾発言に、華は真っ赤になり、飛彗も狼狽する。

 

「さささ、沙織さん! 如何してそれを!?」

 

「ふふ~ん、この恋愛マイスターの沙織さんを甘く見ない事ね」

 

「ワケが分からんぞ………」

 

動揺しながら華がそう問い質すと、沙織はドヤ顔でそう言い、麻子がツッコミを入れる。

 

「…………」

 

一方、最初に狼狽していた飛彗は、何かを考え込んでいる表情になっていた。

 

「? 飛彗? 如何した?」

 

「………決めました」

 

それに気づいた白狼が声を掛けると、飛彗は何かを決意したかの様な顔となる。

 

「華さん」

 

「あ、は、ハイ?」

 

そして、華に呼び掛けると、華は戸惑った様子を見せる。

 

「武部さんの言う事も最もです。もう曖昧な関係は止めにしましょう」

 

「えっ?………」

 

「華さん………僕は貴方の事が好きです。お付き合いして頂けませんか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

飛彗がそう言うと、一同に沈黙が流れる。

 

「………!? え、ええ~~~~っ!?」

 

最初に我に返った華が、真っ赤になって湯気を吹き出しながら声を挙げる。

 

「はわわわわっ!?」

 

「こここここ、告白ですっ!?」

 

「いや、まさか、そんなすぐにするなんて………」

 

「…………」

 

一方、みほも赤くなってオロオロとし、優花里は混乱、沙織はまさかと言う表情をし、麻子は唖然となっている。

 

「かあ~、飛彗の奴、やるじゃねえか!」

 

「こんな中で告白なんて、度胸あるやんけ!」

 

「恥ずかしい奴だ………」

 

「全くだ………」

 

海音と豹詑は親友の度胸に感嘆し、白狼と煌人は呆れた様子を見せる。

 

「………御返事、頂けますか?」

 

とそこで、飛彗が重ねて華にそう言う。

 

「え、ええと………ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

 

すると華は、飛彗に向かって深々と頭を下げてそう返事をした。

 

「五十鈴さん、それでは嫁入りの挨拶みたいですよ」

 

とそこで、新しい御櫃を持って来た湯江が、華にそう指摘する。

 

「あ、アラ、やだ! 私ったら!!………」

 

「「「「「アハハハハハッ!」」」」」」

 

そこで慌てる華の姿を目にして、誰からともなく笑い声が挙がり、皆で笑い合うのだった。

 

「………リア充………爆発しろ………」

 

一方、庭に倒れたままの了平は、気絶したままそう呟く。

 

最早意地である………

 

「…………」

 

と、飛彗の告白を目にしたみほは、何かを考え込む様な様子を見せていた。

 

「…………」

 

そして一瞬だけ………

 

弘樹の姿を見やったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小1時間後………

 

色々と有りつつも、ご飯会はつつがなく終了し………

 

皆は其々の寮や家へと帰る事になった。

 

皆が外へ出ると、弘樹もみほを送る為に玄関にて靴を履こうとする。

 

「お兄様、ちょっと宜しいですか?」

 

と、その弘樹に湯江が声を掛けた。

 

「? 何だ、湯江?」

 

「本来ならば、御2人の問題と思い、敢えて口を出さずに居りましたが………先程の宮藤さんと五十鈴さんの遣り取りを見て、考えが変わりました」

 

「? 何の事だ?」

 

湯江の言っている事が分からず、弘樹は首を傾げる。

 

「お兄様………お兄様はみほさんの事を………女性として如何思っているのですか?」

 

「………はっ?」

 

しかし次の瞬間に湯江から思わぬ質問を受け、呆気に取られる。

 

「お前、何を言って………」

 

「ですから! お兄様はみほさんの事を好きなのですか!? 如何なのですか!!」

 

「うおっ!?」

 

何を言っているんだと言おうとした弘樹の言葉を遮り、湯江がそう怒鳴る様に言った為、不意を衝かれた弘樹が一瞬たじろぐ。

 

「………みほくんは我々の総隊長であってだな」

 

「私が聞きたいのはそんな事ではありません」

 

「………彼女の事は大切に思っている。それではイカンのか?」

 

「では、それをみほさんにお伝えになって如何ですか?」

 

「………別に小官でなくとも、彼女にはもっと相応しい相手が居る筈だ。戦う事しか出来ない小官よりも………」

 

「お兄様!」

 

そこで湯江は弘樹に詰め寄る。

 

「………良く考えて下さい。お兄様はそれで宜しいんですか?」

 

「…………」

 

黙り込む弘樹。

 

その脳裏にはみほとの思い出が過る………

 

トラックに危うく轢かれそうになったのを助けた事………

 

ナンパされていたところを助けた事………

 

友達の為にトラウマを抱えていた戦車道を再びやる事を決めたのに感動し、彼女を守ると誓った時の事………

 

学園祭で主役とヒロインを演じた時の事………

 

「…………」

 

どれもが鮮明に思い出され、弘樹は更に黙り込む。

 

やがて途中だった靴を改めて履くと立ち上がる。

 

「湯江………帰りは少し遅くなるかも知れん」

 

「承知致しましたわ。ごゆっくりと………」

 

その言葉だけで全てを察した湯江は、玄関を出る弘樹に向かって深々と頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

「遅れてすまない」

 

「あ、ううん、大丈夫だよ」

 

弘樹が玄関を出ると、待っていたみほがそう返す。

 

「じゃあな、弘樹」

 

「明日は頑張ろうね」

 

そこで、弘樹が出て来るまで待っていた他の一同の中で、地市と沙織が最初に帰路に着く。

 

「僕達も行きましょうか」

 

「ハイ、飛彗さん………」

 

続いて帰路に着く飛彗と華。

 

先程告白したばかりだから、仲良くを手を恋人繋ぎで繋ぎながら。

 

「確り掴まってろよ」

 

「ハ、ハイであります!」

 

愛車に跨っている白狼とその後ろに跨って白狼にしがみ付いていた優花里も帰路に着く。

 

「コレで帰るまで寝ていられる………」

 

「やれやれ………」

 

同じく愛車のAEC装甲指揮車の運転する煌人に便乗した麻子がそう言い、煌人は仕方が無いなと言う顔をする。

 

「御馳走さん」

 

「ほな、おーきに」

 

「リア充なんて皆死んじまえば良いんだ………」

 

「ホラ、了平、サッサと帰りますよ」

 

海音と豹詑、了平と楓も其々に帰路に着いた。

 

「では、小官達も行くか」

 

「…………」

 

弘樹もみほにそう呼び掛けるが、みほは黙ったままである。

 

「? みほくん?」

 

「あ、あの! 弘樹くん!!」

 

弘樹が再度声を掛けると、みほはやや上ずった声を挙げる。

 

「ちょ、ちょっと寄り道して行っても良いかな?」

 

「えっ?………」

 

みほからの提案に、弘樹は一瞬驚いた様な顔をしたが………

 

「………ああ、構わない」

 

それを了承。

 

2人はとある場所へと向かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・艦首公園………

 

2人がやって来たのは、学園艦の艦首部分にある公園だった。

 

今夜は満月であり、雲1つ無い夜空からは、月明かりが惜しげも無く降り注いでいる。

 

「「…………」」

 

その月明かりに溢れた公園で、弘樹とみほはお互いに水平線を見やったまま沈黙していた。

 

「「………あの」」

 

やがて2人同時に口を開き、ハモってしまう。

 

「ひ、弘樹くんから先にどうぞ!」

 

「いや、みほくんから先に言ってくれ」

 

お互いにお先にどうぞと譲り合う。

 

「「…………」」

 

それを何度か繰り返した後、両者は再び沈黙してしまう。

 

「…………」

 

ふと、みほは横目で弘樹の事を見やる。

 

「…………」

 

何時も通りの仏頂面な弘樹。

 

だがみほは、その表情に僅かに緊張の様子が浮かんでいるのを見抜く。

 

「…………」

 

再び視線を水平線の方へと移す。

 

そこで脳裏に、弘樹との思い出が蘇って来る………

 

エクレールでエリカから庇ってくれた時の事………

 

アンチョビの言葉で動揺した自分に、最後まで味方で居てくれると言われた時の事………

 

大洗水族館でデートした時の事………

 

自分の為に、しほへ真っ向から立ち向かってくれた事………

 

(弘樹くんは何時も………私の事を守ってくれた………私の味方で居てくれた………)

 

そう思うと同時に、胸に湧き上がって来るある思い………

 

(ああ………やっぱり私………弘樹くんの事が好きなんだ)

 

弘樹への好意を改めて自覚するみほ。

 

「…………」

 

そして再び、弘樹の事を横目で見やる。

 

「…………」

 

弘樹は仏頂面のままだ。

 

「…………」

 

それを確認すると、みほは少し下を向き、気合を入れる様にグッとガッツポーズをした。

 

「(よし!) あの、弘樹く………」

 

「みほくん」

 

「あ、ハイッ!?」

 

いよいよ覚悟を決めて言おうとした瞬間に、それを遮る様に弘樹が声を掛けて来たので、みほは出鼻を挫かれる形となる。

 

「(うう~~、タイミング悪いよ~)な、何かな、弘樹くん?」

 

タイミングの悪い弘樹に少し怒りながらも、やや上ずった声で問うみほ。

 

「…………」

 

しかし、当の弘樹は何時になく言い辛い様な様子を見せている。

 

「? 弘樹くん?」

 

そんな珍しい弘樹の姿に、みほが首を傾げる。

 

するとそこで、弘樹は夜空を………月を見上げた。

 

「………『月が綺麗ですね』」

 

そして、月を見たままみほにそう言う。

 

「えっ? ああ、うん、今夜は満月だから、本当にお月様が綺麗………!!」

 

と、みほはその言葉にハッとする。

 

 

 

 

 

かの小説家・夏目 漱石は、英語教師を務めていた時………

 

生徒が訳した言葉を、「日本人はそんな事を言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったと言う。

 

その言葉とは………

 

『 Ⅰ love YOU 』………

 

 

 

 

 

「ひ、弘樹くん!………」

 

「…………」

 

みほが驚きながら弘樹の事を見やると、弘樹は被っていた学帽を目が隠れるまでに目深に被り直している。

 

若干赤面している様に見えるのは気のせいではないだろう………

 

「…………」

 

少しの間、呆然としていたみほだったが………

 

「………『私、死んでもいいわ』」

 

微笑みながら、弘樹に向かってそう言った。

 

それは、同じく小説家・二葉亭 四迷がロシア文学を翻訳した際に、 『Ваша…』 =『yours(あなたに委ねます)』を訳したものだった。

 

「…………」

 

みほの方へと向き直る弘樹。

 

「…………」

 

みほも、弘樹の方へと向き直る。

 

「「…………」」

 

少しの間、お互いに見つめ合っていたかと思うと………

 

「…………」

 

みほが弘樹に抱き付いた。

 

「…………」

 

弘樹は抱き付いて来たみほを優しく受け止め、その背に手を回す。

 

「「…………」」

 

2人は暫しそのままの状態となり、夜の公園は波と海風の音だけが響く様になる。

 

 

 

 

 

………かに思われたが!

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっ! リア充爆発しろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

呪詛の言葉と共に、血の涙を流している了平が、抱き合っている弘樹とみほに向かって突っ込んで来た!

 

「!? わ、綿貫くんっ!?」

 

「!!………」

 

慌てるみほとは対照的に、弘樹は冷静に、みほを少し離すと、突っ込んで来た了平の襟首を掴んで足を払い、背負い投げの要領で投げ飛ばした!

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

投げ飛ばされた了平は、落下防止の柵を飛び越え、そのまま海へと落ちて行った。

 

「了平っ!?」

 

「落ちたぞ、オイ!」

 

「たたた、大変っ!!」

 

すると続いて、地市達や沙織達が現れ、すぐに柵の下の海を覗き込む。

 

「た、助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!」

 

すると、学園艦の外壁にしがみ付いている了平の姿を目撃する。

 

「ああ、良かった………」

 

「こういう時だけしぶといな、アイツは………」

 

「み、皆!? 如何して此処にっ!?」

 

その姿を見て、安堵の声を漏らす地市達と沙織達だったが、みほはこの場へと姿を現した一同に驚く。

 

「あ~、いや、その………」

 

「ひょっとして………」

 

「ゴメンナサイ、みほさん………全部見てました」

 

「!? えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

沙織が口籠っているとみほがまさかと言う顔になり、華が正直にそう答えた瞬間に、悲鳴の様な声を挙げて真っ赤になる。

 

「沙織の奴が怪しいって言うから付いて来てみれば………」

 

「まさか出歯亀をする事になるとはな………」

 

麻子と煌人が呆れた様子でそう呟く。

 

「西住殿! 申し訳ありませんっ!!」

 

「そう思うんなら、付いてくんなよ………」

 

謝罪する優花里にそうツッコミを入れる白狼だが、この場に居る時点でそう言う資格は無い。

 

「オーイッ! 早く助けてくれええええっ!!」

 

とそこで、了平の叫びが挙がる。

 

「ああ、忘れてました」

 

「すぐにロープをっ!!」

 

「全く………」

 

楓と飛彗がそう言い合う中、弘樹とみほも済し崩し的に了平の救助活動に加わるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂に翌日………

 

決勝の日が訪れた………

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

明け方の舩坂家にて………

 

「…………」

 

戦闘服姿の弘樹が、仏壇の前に姿勢を正して正座をしている。

 

その視線の先には、祖先・舩坂 弘の写真が在る。

 

「…………」

 

ジッとその舩坂 弘の写真を見やる弘樹。

 

「………行って参ります」

 

やがて、その写真に向かって頭を深く下げてそう言い、家を後にしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗駅………

 

鹿島臨海鉄道の協力で、試合会場までは列車を使って移動する事になっており、駅では大洗戦車部隊の戦車の積み込みが行われている。

 

「固定完了!」

 

「Ⅳ号、積み込み終わりました!」

 

「よし、コレで最後だな」

 

鉄道職員達によって、今最後だったⅣ号の積み込みが終わる。

 

「積み込み、完了しました」

 

「ありがとうございます」

 

「それでは行こうか………」

 

報告を聞き、みほがお礼を言うと、迫信がそう呼び掛け、作業を見守っていた大洗機甲部隊の一同は客車の方へ乗り込もうとする。

 

と、その時………

 

「お兄様! みほさん!」

 

「! 湯江」

 

「湯江ちゃん!?」

 

突然湯江が姿を現し、弘樹とみほは軽く驚く。

 

「ハア………ハア………間に合いました………」

 

湯江の方は走って来たのか、若干息が切れている。

 

「如何したんだ、湯江。見送りは良いと言ったろう」

 

「湯江ちゃん、私達に何か?」

 

弘樹とみほが傍によると、そう言う。

 

「御2人に………コレを」

 

すると湯江は、着物の袂から、ある物を取り出し、弘樹とみほに差し出した。

 

「! それは!………」

 

「御守り?………」

 

そう………

 

湯江が取り出したのは、大洗磯前神社と鹿島神宮の御守りだった。

 

「渡すのを忘れておりました。どうかコレを持って、武運長久を」

 

「湯江ちゃん………ありがとう」

 

「感謝するぞ、湯江」

 

湯江がそう言うのを聞くと、みほは大洗磯前神社の、弘樹は鹿島神宮の御守りを取り、其々に懐にしまう。

 

「じゃ、行って来る」

 

「行ってきます、湯江ちゃん」

 

「ハイ………いってらっしゃいませ」

 

そして、いよいよ客車に乗り込み、出発した。

 

「大洗機甲部隊、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

すると、大洗町の住人達が現れ、女子学園と男子校の校章が入った旗を手に、大洗機甲部隊の出発を万歳三唱で見送る。

 

それを見て大洗機甲部隊の面々は、一瞬驚いた様な顔ををしたが、すぐに手を振り返したり、敬礼したりして答える。

 

「…………」

 

みほも、見送ってくれた住民と湯江の姿を見えなくなるまでジッと見ていた。

 

「みほくん………」

 

「弘樹くん………」

 

そこで、隣に座っていた弘樹が声を掛けると、みほは弘樹の手に自分の手を重ねる。

 

「………絶対に勝って戻って来ようね」

 

「ああ………」

 

みほのその言葉に、弘樹は力強く頷く。

 

必ず勝って戻る………

 

大洗女子学園の為に………

 

応援してくれている人々の為に………

 

そして何よりみほの為に………

 

弘樹の胸中は、その思いでいっぱいだった………

 

(愛………かつて小官が、愛の為に戦っただろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

決戦前夜も遂にクライマックス。
注目の弘樹達とみほ達の様子です。
何だかんだ言いつつ、1番進んでいるのがこのカップル達ですね。

なお、沙織の免許が1級になっているのは、原作より試合数が増えて日数が経過していたので、勉強期間が長くなって取得出来たという設定です。

そして、何時の間にやら付き合って居たり、目の前で告白なんかをした親友達に触発される様に、遂に弘樹とみほも告白し合ってお付き合い開始です。
ストレートに好きだとか言うのはこの2人には似合わないなと思い、2人揃って有名な逸話を使っての遠回しな告白にしてみました。
この2人はこんな感じが似合うかと。

さあ、いよいよ決勝戦。
ですが、焦らす様で申し訳ありませんが、次回はコレまで戦ったライバル達との遣り取り。
その次は黒森峰との遣り取りになるかと。
試合は次々回くらいから始まります。
原作より関係者が増えたり、関係が変化したりがあるので、その辺の兼ね合いです。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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