ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第188話『没落の栄光です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第188話『没落の栄光です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園に誘拐されたまほを、無事救出する事に成功した大洗機甲部隊とベルウォール機甲部隊………

 

1度は死亡確認された弘樹も、持ち前の生命力で自力蘇生………

 

カンプグルッペ学園は失格となり、黒森峰が不戦勝となった事で、決勝戦が前倒しで行われる事になった………

 

だが………

 

今、黒森峰と西住流は………

 

最大の危機を迎えていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・生徒会室………

 

「コレは………」

 

「酷いです………」

 

「…………」

 

「胸糞悪くなるな………」

 

「まさかこんな………」

 

桃、清十郎、熾龍、俊、逞巳が、生徒会長である杏の机を取り囲んで不快そうな表情や困惑の表情を浮かべている。

 

「「…………」」

 

その机の主である杏とその隣に立つ迫信も、複雑な表情な浮かべている。

 

彼等と彼女達が視線をやっている机の上には、複数の週刊誌が並べられている。

 

その見出しには………

 

『黒森峰の真実! 栄光の裏に隠された犠牲の歴史!!』

 

『殺人流派! これが西住流の正体だ!!』

 

『勝利の為に犠牲を肯定!? 教育機関にあるまじき教導!!』

 

『人殺しの学園! 黒森峰、偽りの栄誉!!』

 

全て、黒森峰や西住流への批判、若しくは誹謗中傷の記事となっていた。

 

「こんな事になるなんて………」

 

「あの戦車道教官。かなり強かな奴だったみたいだな」

 

柚子が影の有る表情で言うのとは対照的に、淡々とそう言う十河。

 

 

 

 

 

そう………

 

こんな記事が出回っている原因は、全てカンプグルッペの戦車道教官・天親にあった………

 

カンプグルッペが行った軍事道に於いて例を見ない不正行為は、世間にも広く知れ渡る事となり、当然カンプグルッペには批判が寄せられた。

 

しかし、その中に………

 

カンプグルッペがその様な行動に走ったのは、黒森峰と西住流にも責任が在ると言う意見が噴出していた………

 

実は、しほやエリカとの電話の遣り取りを記録していた天親は、大洗とベルウォールの奇襲を受けた際に、それらを全て、自分達の素性と共に、マスコミにばら撒いていたのである。

 

彼女達が凶行に走ったそもそもの原因は、西住流と黒森峰の教導や体制にあると………

 

また、天親がしほ、エリカに行った電話記録が公開され、しほやエリカがまほよりも試合の勝利を優先していたと言う事が知られる事となった。

 

脅しに屈しなかったと言えば聞こえは良いが、それが世間一般に通用するかと言われれば答えはノーである。

 

更に、そんな人々の気持ちを煽るかの様に問題となったのが、去年の全国大会での出来事である………

 

あの事件の後、しほがみほを呼び出し、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』と言ったという情報が漏れたのだ。

 

天親のリークを裏付けるこの恰好の情報を掴んだマスコミが、動かないワケがなかった………

 

黒森峰や西住流に対し、有る事無い事を含めた記事が世間に出回り………

 

結果、黒森峰と西住流は世間の非難を一身に受ける事となった。

 

無論、黒森峰側や西住流の関係者も、流通している情報に対する否定の記者会見を行ったりしたのだが………

 

元々戦車道が斜陽となっていた事で、現代の人々は戦車道に明るくなく、それ等の会見は、只の身内の庇い立てにしか聞こえなかった。

 

皮肉な事に、大洗とグロリアーナ&ブリティッシュの試合で、軍艦道の選手達が試合を放り出して人命救助に当たり、人々に感銘を与えていた直後な事もあり………

 

黒森峰や西住流の『犠牲有りき勝利』と言う思想は、大いに否定される事となった。

 

今や黒森峰や西住流は、人々にとって戦車道の名門・日本戦車道の代表流派では無く………

 

人命軽視の学園と殺人流派として見られ、連日の様に非難を浴びていた………

 

 

 

 

 

「不幸中の幸い………と言って良いか分かりませんが、西住への非難が無いのは安心しました」

 

「寧ろ英雄視されてるからね~、ウチの西住ちゃんは」

 

桃と杏がそう言い合う。

 

当初は、西住の人間と言う事もあり、みほへの非難も予想されたが………

 

寧ろマスコミは、みほの事を『西住に生まれながら西住流に反旗を翻した英雄』………

 

『黒森峰の犠牲有りきの風潮に異議を唱えた常識人』などと言った具合に、同情や英雄視する様な報道を行った。

 

プラウダ&ツァーリとの試合後の遣り取りや、去年の決勝戦に於いて、黒森峰戦車部隊の中で唯一救助に動いた者として知られていたからである。

 

これまでみほの事を批判していた評論家達も、掌を返してみほを称賛し始めてる。

 

そんな評論家気取りの連中を見た弘樹が、思わずテレビ画面を叩き割ったのは記憶に新しい。

 

ともあれ、次の決勝戦では、大洗を応援する声が高まっている。

 

黒森峰は負けて当然だと言う様に………

 

「肝心の西住さんは大丈夫なんですか?」

 

「うん、取材とかは皆シャットアウトしてあるし、舩坂くんやあんこうチームの皆が付き添ってくれてるから」

 

みほのメンタルへの影響を心配する逞巳だったが、柚子がそう返す。

 

「西住さんの場合、黒森峰の皆さんの事を心配していそうですけどね………」

 

「だな………」

 

「何を言うか。鉄の掟と鋼の心で纏められた黒森峰だぞ。こんな世間の風評など、気にも留めてないだろう」

 

清十郎と俊の会話を、十河が否定する。

 

「いや、そうとも限らないよ………」

 

すると迫信が、窓の外を眺めながらそう言う。

 

「会長?」

 

「如何言う事ですか?」

 

「硬い物ほど、衝撃に対して脆いものさ………」

 

迫信は意味深な顔でそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻………

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園………

 

総隊長室前………

 

「総隊長………」

 

「ん? 如何した?」

 

総隊長室に入ろうとしていたまほは、5人居た機甲科の隊員の内の1人に声を掛けられ、振り返る。

 

「………コレを」

 

声を掛けた機甲科隊員は、一瞬躊躇った様な様子を見せた後、申し訳無さそうな表情で1枚の封筒をまほへ差し出す。

 

その封筒には『辞意表明書』と言う文字が書かれていた。

 

「「「「…………」」」」

 

他の4人も同じ様に、『辞意表明書』と書かれた封筒を取り出し、まほへと差し出す。

 

「………そうか。君達も辞めるのか」

 

「ゴメンナサイ! 総隊長!!」

 

「本当は私達、辞めたくなんかないんですっ!!」

 

「でも、駄目なんです………もう耐えられないんですよ!!」

 

「毎日毎日非難され………正直もうおかしくなりそうなんです!!」

 

「私ももっと戦車道を続けたかったのに………親が許してくれなくて!! もう転校まで決まってるんです!!」

 

まほが残念そうな表情を浮かべると、5人は堰を切った様に泣き出す。

 

「良いんだ。元は私の実家………西住流が撒いた種だ。本当に申し訳無い」

 

するとまほは、泣いている5人に向かって深々と頭を下げる。

 

「! 総隊長っ!!………」

 

そんなまほの姿を見て、更に泣き出す5人。

 

「………コレは私の方で受理しておく。今日はもう帰ってゆっくり休め」

 

「スミマセン………スミマセン、総隊長………」

 

まほがそう言うと、5人は泣きながら、何度もまほに謝罪しながら去って行く。

 

「…………」

 

5人が居なくなった後、まほは改めて5人の辞意表明書を見て表情に影を落とす。

 

そして、その足で総隊長室に入ると………

 

デスクの上に山の様に置かれた辞意表明書が目に入る。

 

「………ハア」

 

その山の中に先程の5枚の辞意表明書を入れると、まほは重々しい溜息を吐いた。

 

黒森峰と西住流が非難を受ける様になって以来………

 

機甲科の隊員達は連日連夜の様に辞めて行っている………

 

鉄の掟と鋼の心を持つとされた黒森峰と西住流だが、その鉄の掟や鋼の心自体を否定され、機甲科の隊員達は嘗てない程に打ちのめされていた。

 

更に、これまで戦車道の王者として、常に余裕の有る試合を行って来た黒森峰と西住流故に………

 

絶体絶命の危機に陥ると言う様な事は全く無かった。

 

つまり、黒森峰や西住流の人間は、逆境に対して耐性が殆ど無いのである。

 

自分達が追い込まれていると言う状況に慣れていない彼女達は、次々とその状況に耐えられず、辞めて行った………

 

また、彼女達はまだ学生………高校生である。

 

学園の評判が悪くなれば、当然将来にも影響が出る………

 

黒森峰も名門だけあり、グロリアーナ程ではないが、良い所のお嬢様が多い。

 

そして、そう言った人種は世間体や家の名に傷が付く事を極端に気にする傾向が有る。

 

先程の5人の様に泣きながら辞意表明書を渡してくる者などまだ良い方で、悪評の立った黒森峰に用は無いとばかりに、辞意表明書だけを残し、とっとと黒森峰自体から去って行った者達も居る。

 

「…………」

 

改めて山の様に積まれた辞意表明書を見て、ガックリと肩を落とすまほ。

 

とそこで、総隊長室のドアがノックされた。

 

「! 誰だ?」

 

途端にまほは気を張り直して、ノックの主に問い質す。

 

「僕だよ、まほ」

 

「都草か………入ってくれ」

 

しかし、相手が都草である事が分かると、再びガックリと力を抜いてそう言った。

 

「失礼するよ………また辞めた子が出たのかい?」

 

入室して来た都草が、デスクの上に山の様に積まれている辞意表明書を見てそう言う。

 

「ああ………コレでもう、機甲科の隊員の人数は半分を割ったよ………そっちは如何だ?」

 

「似た様な状況さ。幸い話の分かる子は多かったから、説得して何とか思い留まって貰えているけどね」

 

「そうか………」

 

「まほ………」

 

と、覇気の全く見えないまほの姿を見て、居た堪れなくなった様に、都草はまほを正面から抱き締める。

 

「…………」

 

そんな都草に、まほは縋る様に抱き付く。

 

「まほ………いっそ逃げ出すかい?」

 

「えっ?………」

 

「黒森峰も西住流も忘れて、何処か遠くへ行くんだ。僕が手助けしてあげるよ」

 

「…………」

 

都草からの思わぬ提案に、まほは逡巡する様子を見せた。

 

しかし………

 

「ありがとう、都草………」

 

「まほ………」

 

「けど、私は黒森峰の総隊長であり、西住流だ………逃げるワケには行かない」

 

「…………」

 

「まだ残ってくれている隊員達の為にも………私はまだ、戦わなければならない………例え称賛が無く、罵倒されたとしてもだ………」

 

そう答えるまほだったが、やはりその顔に覇気は無く、弱々しい。

 

「まほ………」

 

そんなまほを、都草は更に強く抱き締める。

 

(そうだね、まほ………君はそう言う人だ………なら僕は………最後まで君の味方で居よう)

 

その胸に、決意を抱きながら………

 

だが、そんな2人の決意を嘲笑うかの様に………

 

黒森峰と西住流の状況は刻一刻と悪くなって行っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰・戦車格納庫内………

 

「ちょっとっ! 何よ、コレッ!?」

 

そう金切り声を挙げているのはエリカであり、彼女の手には補給品のリストが握られている。

 

「今度の補給品のリストです………」

 

「燃料と弾薬が必要な量の3割しかないじゃない! オマケに整備用の部品も殆ど入って無いわよ!!」

 

「スポンサーや業者の方が………もう黒森峰相手に商売は出来ないって」

 

「何よソレッ!?」

 

憤りを隠せないエリカ。

 

そう………

 

黒森峰と西住流への非難により………

 

コレまで黒森峰に対し、燃料や弾薬、整備用の部品を卸していた業者やスポンサーが取り引きを打ち切ったのである。

 

両者に浴びせられている非難は相当なレベルであり、下手をすれば黒森峰や西住流相手に軍事道関係の商売をしている業者にまで影響が出かねないと言うのが理由である。

 

企業や業者というものは、イメージや信頼が第一であり、今や世間から人殺し学園だの殺人流派などと呼ばれている黒森峰や西住流相手に商売や支援をする事など出来る筈もない。

 

無論、支援者の中には黒森峰出身のOG会に所属する者達も居たのだが………

 

これまた黒森峰と西住流への非難により、黒森峰の出身と言うだけで勤め先から解雇されるという事態まで発生していた。

 

コレによりOG会の者達も自分達の事でいっぱいいっぱいな状態であり、黒森峰を支援する事など出来なかった。

 

「………足りない分は、使わない戦車から抜き取って、使う戦車の方に回すしかありませんね」

 

「共食い整備か………惨めなモノね………全員、取り掛かりなさい!」

 

「「「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」」」

 

エリカの号令で、機甲科の隊員達が其々の戦車の元へ向かい、僅かな整備員達の指示の元、整備を始める。

 

何故整備員の数がコレ程までに少なく、機甲科隊員達が整備の作業をしているのか?………

 

実は、辞意表明者が出ていたのは、機甲科の隊員ばかりでなく、整備科の生徒達もだったのである。

 

黒森峰自慢のティーガーやパンターと言った旧ドイツ軍の高性能な戦車達。

 

しかし、それ等の戦車は機械的信頼性が極端に悪かった。

 

戦時中は、敵に撃破されたよりも、故障して爆破処分された数の方が多かったと言う物も有る。

 

更に複雑な機構により、整備性にも難を抱えている。

 

その為、黒森峰では其々の車両に専門の整備士のグループを付けると言う贅沢な処置を行っていたが、先述の通りにその整備士達が辞めて行ってしまった為、機甲科の隊員達は自分達で整備を行うしかなくなってしまった。

 

只でさえ信頼性が低く、整備性の悪い戦車達を、専門的な整備に慣れていない機甲科の隊員達が、碌な交換部品も無く共食い整備で整備していて、真面に動かせる筈も無い。

 

現在、黒森峰の戦車の稼働率は、5割を切ろうとしていた。

 

(明日は近くの港への入港日………そこでその街の業者に頼み込んで、補給と整備をお願いしてみるしかなさそうね)

 

顔を油塗れにして自分の乗るティーガーⅡを整備しているエリカが、明日学園艦が港に入港するのを思い出しながら、僅かな期待を込めてそう考える。

 

だが………

 

その僅かな期待さえも………

 

裏切られる事となる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

黒森峰女学園・総隊長室………

 

「入港を………拒否された?」

 

「そんな馬鹿なっ!!」

 

まほが愕然とし、エリカが声を張り上げる。

 

「………市長さんが、現在市街で黒森峰学園艦入港反対のデモが起きており、学園艦と生徒、甲板都市の住民の安全が確保できない為との事です」

 

船舶科の生徒が、申し訳無さそうにそう報告を続ける。

 

「要は私達を入れたくないって事でしょっ! だったらそう言えば良いじゃないっ!!」

 

「ココまでとはな………」

 

エリカは更に声を張り上げ、まほは頭を抱える。

 

まさか港に入港する事まで拒否されるとは………

 

最早、世間に黒森峰と西住流の味方をする者は居ないのか………

 

「分かった………先方には了解したと伝えてくれ。学園艦は近場の入港出来そうな港へ回してくれ」

 

「! 総隊長!」

 

「すみません………」

 

まほがそう言うと、エリカが驚きを露わにし、船舶科の生徒は申し訳無さそうにしたまま敬礼し、退室して行った。

 

「………入港まで拒否されるとはな」

 

「クソッ!!」

 

まほがガックリと項垂れ、エリカが悪態を吐く。

 

黒森峰や西住流に対する非難は、最早魔女狩りと言って良いレベルにまで到達していた。

 

中には、黒森峰と西住流はナチス・ドイツの再興を目論むカルト集団であると言う、突拍子も無い話まで出ている。

 

今回の入港拒否も、そんな噂話に踊らされた一部の人々の暴挙だと推測される。

 

「総隊長! 大丈夫です! 他の港なら、きっと………」

 

「何でこんな事になってしまったんだろうな………」

 

「! 総隊長………」

 

虚空を見上げながらそう呟くまほを見て、エリカが固まる。

 

それは決して………

 

まほが人に見せる様なモノでは無い………

 

弱々しい顔だった………

 

 

 

 

 

その後………

 

エリカの期待も虚しく………

 

黒森峰は第2、第3の港にも入港を次々と拒否され………

 

結局その日の上陸は延期となってしまった………

 

この事が切っ掛けで………

 

甲板都市からの引っ越しを検討し始める黒森峰学園艦住人が出始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本県・某所………

 

西住家………

 

由緒正しき、日本戦車道の代表流派西住流の総本山………

 

だが、その格式が高そうな日本の伝統家屋の家の壁には………

 

スプレー缶で書かれたと思われる落書きや『人殺し流派』、『殺人戦車道』と言う文字が汚く書かれている。

 

更に、敷地内には投げ込まれたと思われるゴミも散乱している。

 

何とも無残な有り様だ………

 

「クリ~ン、クリ~ン、お出かけですか? レレレのレ~」

 

その庭で、竹箒を手に、お約束な台詞を言いながら掃除をしている常夫の姿が在った。

 

「旦那様! その様な事は私がやりますから!」

 

それを見た菊代が、慌てて駆け寄って来て常夫から竹箒を奪おうとする。

 

「ハハハッ! 良いの良いの! 綺麗にするのって気持ちが良いじゃない!」

 

「ですが! こんな時こそ、旦那様が奥様の傍に居てあげなくては!!………」

 

常夫にそう言う菊代。

 

現在、西住家には連日抗議や非難の電話、手紙、ファックス、メールetcが届いており………

 

当初は今までと同じ様に毅然とした態度を執っていたしほだったが………

 

止む事の無い非難の前に、ここ最近は目の下に隈を作るなど、露骨に疲れを見せる様になっていた。

 

非難は本家だけに留まらず、各地の西住流の分家や道場も、同様な状態に陥っている。

 

中には耐え切れなくなって、夜逃げ同然に姿をくらました親戚や、道場を畳み、戦車道から完全に退いた一族の者達も居た。

 

今や西住流は、空中分解寸前なのである。

 

「しほは今試されてるのさ………」

 

と、菊代がそう言ったのを聞いた瞬間、常夫は急にシリアスな雰囲気になったかと思うと、菊代にだけしか聞こえない様に小声で言った。

 

「!?」

 

「あ! そうだ、菊代さん! 今日の夕飯は久しぶりにだご汁が良いな~! アレ美味しいんだよね~!」

 

しかし、菊代が驚いた顔をした瞬間には、何時ものスーダラ親父に戻って馬鹿笑いしながらそう言う。

 

「………畏まりました。失礼します」

 

菊代は一瞬考える様な素振りを見せた後、常夫に向かって深々と頭を下げ、屋敷に戻って行った。

 

「♪~~~♪」

 

常夫は音程を外した歌を歌いながら掃除を続ける。

 

「………西住師範、全然出て来ないな」

 

「オイ、もう行こうぜ。さっきからあの親父の下手な歌を散々聞かされてもう限界だぜ」

 

と、そんな西住邸の事を覗き見ている者達が居た。

 

パパラッチである。

 

黒森峰や西住流への非難の波に乗っかり、金になりそうなネタを狙っていた様だが、常夫にすっかり毒気を抜かれてしまった様だ。

 

「あの親父の写真とって記事にしねーのか?」

 

「アイツの無責任っぷりならもう誰もが知ってるっての。1円の金にもなりゃしねえよ」

 

そう言って、常夫に気づかれない様に去って行くパパラッチ達。

 

(………行ったみたいだね。あ~、良かった。コレで視線を気にせずに昼寝が出来るや)

 

そして実はそれには最初から気づいていた常夫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌日………

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園………

 

いよいよ決勝戦が迫る中、まほとエリカは生徒会長である揚羽に呼び出され、生徒会室へ向かって居た。

 

「天河会長、西住、逸見両名参りました」

 

生徒会室の前まで来たまほが、ドアをノックしながらそう言う。

 

「………入って頂戴」

 

すると、ドアの向こうから、揚羽のやや覇気の無い声が返って来る。

 

「? 失礼します」

 

「失礼します」

 

その事を疑問に感じながらも、ドアを開けて生徒会室へと入るまほと続くエリカ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

先ず視界に入って来たのは、生徒会長の机に付いて難しい顔をしている揚羽と、その背後に控える様に立っている紫染達だった。

 

「? 何かあったのですか?」

 

「西住 まほさんに逸見 エリカさんですね」

 

その様子に、まほが何事かあったと察してそう尋ねるが、それを遮る様な男性の声が聞こえる。

 

見れば、来客用の椅子に座っていたスーツ姿の男が立ち上がり、まほ達に声を掛けていた。

 

「貴方は?」

 

「コレは失礼。私は文科省の学園艦教育局の局長、『辻 廉太』です。以後お見知りおきを」

 

エリカが尋ねると、文科省の役人………『辻 廉太』が笑みを浮かべながらそう言う。

 

だが、その笑みは………

 

とても嫌な感じのする笑みだった………

 

「文科省の? それが一体何故?」

 

「ハイ、実は………」

 

まほが疑問を呈すると、役人の口からトンでも無い言葉が飛び出した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒森峰学園艦は、今学期いっぱいを持って、廃校処分とする事を伝えに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

無事にカンプグルッペからまほは救出されましたが………
天親の最後の仕掛け………
マスコミによる黒森峰と西住流へのバッシングが開始されます。

原作ガルパン本編での黒森峰に居たみほが、水没車両の救助に向かった事を非難された事について、『世間から見ればみほの行動は称賛されて、それを非難した黒森峰や西住流の方こそ非難されるんじゃないのか?』と思って居まして。
その事をちょっと私なりに掘り下げてみました。

戦車道では強豪でも、こういう世間からの非難とか言う事態には耐性が無さそうな黒森峰はボロボロに………
そんな中、何と!
あの役人が廃校の通知に!

事の詳細につきましては次回で明らかにして説明します。
果たして黒森峰の運命は!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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