ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第181話『逸見 エリカさんです!』
戦車道・歩兵道の全国大会決勝リーグの準決勝にて………
大洗機甲部隊は、因縁の相手・グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を破り………
遂に、優勝の掛かった最終試合………
決勝戦へと勝ち上がった………
準決勝・第2試合にて、黒森峰機甲部隊が勝ち上がって来ると思い………
決戦に向けた準備が行われる大洗………
だが、その準決勝・第2試合………
黒森峰機甲部隊と相対する『カンプグルッペ学園』が………
戦車道・歩兵道の歴史始まって以来の事件を起こそうとは………
この時、誰も予想だにしていなかった………
黒森峰学園艦………
黒森峰機甲部隊の演習場にて………
「では、本日の訓練はコレまでとする!」
「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」
日課の訓練を終えたまほが、黒森峰機甲部隊の隊員達にそう言い、黒森峰機甲部隊の隊員達は姿勢を正して返事をする。
「明後日の試合で対峙するカンプグルッペ学園は、新参校ながらも準決勝まで勝ち進んで来ている学園だ。だが、諸君等が普段の訓練の成果を十分に発揮すれば勝てない相手では無い」
「我々黒森峰はその試合に勝ち、そして決勝戦も勝利し、今一度優勝の栄光を手にする。戦車道・歩兵道に黒森峰在りと知らしめるのだ!」
まほと都草が、隊員達に向かって士気を高める様に演説する。
「「「「「「「「「「ジーク・黒森峰!」」」」」」」」」」
隊員達は一斉にそう叫んで、敬礼する。
「では、明日は試合に備えて休養とする………解散!」
まほがそう纏めると、隊員達は命令通りに解散する。
「………そう言えば、決勝で当たるのって、大洗機甲部隊だよね?」
「うん、副隊長………じゃなかった、みほさんが居る」
とそこで、戦車隊員達の間で決勝戦で相手をする事になる大洗………みほに対する会話が発生する。
「まさかみほさんと戦う事になるなんて………」
「やっぱり凄いよね………大洗って、今年から参戦した殆ど素人の集団なんだよね? それで決勝戦まで勝ち上がって来るなんて………」
「フン、あの裏切り者め………黒森峰の栄光に泥を塗ったばかりか。敵対して来るだなんて」
「西住師範からは叩き潰せとの指示が来ているわ。徹底的にやってやりましょう」
その対応は賛否両論であり、みほの事を気に掛ける者達も居れば、裏切り者だと非難する者達も居る。
気に掛けている者達は主にみほと同学年だった者や非西住流の者達で、非難しているのは3年生や西住流の信奉者達である。
「…………」
そんな様子を遠巻きに見ているエリカ。
彼女はやはり、みほに対しては批判的な立場にある。
元々彼女は、まほと西住流に憧れて黒森峰へと進学して来たのだが、その憧れ故に、当時副隊長をしていた妹のみほの性格や戦術を受け入れる事が出来なかった。
そして、昨年の全国大会にて、結果的にみほが黒森峰の10連覇を阻む事になってしまい、みほが黒森峰から去った後、実力を認められて副隊長へと就任したが、当のみほは大洗の総隊長となって全国大会へ参戦。
黒森峰と西住流に泥を塗っておきながら、のうのうと戦車道を続け、剰え決勝まで勝ち上がって、黒森峰と対峙しようとしている。
更には、西住流の師範であり、黒森峰戦車道の教官である西住 しほに真っ向から反抗したと言う。
その全てがエリカを苛立たせていた。
最も、その苛立ちの中には、みほの才能への嫉妬も含まれているのだろうが………
(明日は非番か………)
そこでエリカは、明日が非番なのを回想すると、何かを思い立った様な顔になるのだった。
◇
翌日………
黒森峰学園艦………
総隊長執務室にて………
「…………」
皆に休養を命じておきながら、総隊長であるまほは、試合に向けての書類整理を含めた最後の調整を進めていた。
「ん? この件は確かエリカに任せたものだな………」
と、書類の中にエリカに一任していた物が有り、詳細を問おうと、まほは携帯を取り出すとエリカへコールする。
『お掛けになった電話は、電波の届かない場所に有るか、電源が入っていない為、掛かりません』
しかし、通話先から返って来たのは、無機質な合成音声だった。
「むっ? おかしいな………」
再度掛け直すが、やはりメッセージは同じである。
「むう、すぐに詳細が要る案件なのだが………仕方が無い。直接出向くか」
と、すぐにでも詳細が必要な為、止むを得ずまほは、直接エリカの元へと出向く事にしたのだった。
黒森峰女学園・女子寮………
エリカの部屋の前………
呼び鈴を鳴らすまほだったが、反応は無い………
「エリカ? 居ないのか?」
再度呼び鈴を鳴らすと、ノックしながらそう問うまほだったが、やはり反応は返って来ない。
「留守か。弱ったな………」
連絡が取れず、部屋にも居ないと来て、まほは頭を捻る。
「あの~………機甲科の西住 まほさんですよね?」
「ん?」
そこで声を掛けられて、まほが振り返ると、黒森峰女学園普通科の生徒の姿が在った。
「逸見 エリカさんに何か御用ですか?」
「ああ。しかし、留守のようでな。携帯も繋がらなくて困っているんだ………」
「私、逸見さんが何処に居るか知ってますよ」
「何? 本当か?」
「ハイ。案内しますので付いて来て下さい」
「ありがとう。助かる」
普通科の生徒にそう言われて、まほは連れられるままに歩き出したのだった………
◇
一方、その頃………
当のエリカはと言うと………
「全く! 何でヘリポートと学園がこんなに離れてるのよっ!!」
悪態を吐きながら街中を歩いているエリカ。
彼女が居る場所………
それは、大洗学園艦の甲板都市だった。
何故、彼女が仇敵とも言える大洗の学園艦に居るのか?
エリカはかなり沸点が低く、気に入らない者には噛み付く攻撃的な性格である。
また、嫌味で執念深いところもある。
何時ぞや戦車喫茶エクレールで見かけたみほにも噛み付いたが、弘樹や迫信の手により返り討ちにあったどころか、結果的に都草に頭を下げさせると言う愚を犯してしまった。
当然、エリカはずっと大洗を目の仇にしており、とうとう決勝戦と言う舞台にまで上がって来た大洗………
引いてはみほに、今度こそ恨みの丈をぶつけてやりたいと思っており、その気持ちを抑え切れずに、こうして大洗学園艦に乗り込んで来たのである。
が………
態々ヘリまで使って来たのだが、当然大洗側に知られるワケには行かないので、学園の敷地内に降りるワケには行かず、一般のヘリポートへと着陸したのだが………
そのヘリポートから大洗女子学園までは結構離れており、また慣れない甲板都市での地理で、完全に迷っていたのである。
「ハアァ~~~、よりによって携帯も忘れるし………」
運が悪い事に、携帯を充電していたのを、息巻いて出かけようとしたので忘れてしまっていた。
「コレも元副隊長のせいよ!」
そんなエリカの苛立ちは、逆恨みとしてみほへと向かう。
と………
「! イダッ! ちょっと! 何処見て歩いてんのよっ!!」
苛立ちで前を良く見ていなかったエリカは、通行人とぶつかり、思わず声を荒げてしまう。
「ああ~ん?」
「姉ちゃんよぉ? ぶつかってきたのはソッチじゃねえか」
「そりゃあ無いんじゃないのぉ?」
(あ………)
だが、ぶつかった相手からの台詞で、その連中がチンピラである事に気づき、内心でしまったと冷や汗を掻く。
「おっ? 良く見りゃ、良い女じゃねえか」
「慰謝料代わりにちょいと付き合って貰おうか」
「ホラ、来い」
案の定、チンピラ達はエリカに絡み出し、内1人がエリカの左腕を掴んだ。
「! 触らないでっ!!」
途端に攻撃的なエリカは、反射的に腕を掴んだチンピラの頬に、空いていた右手で平手打ちを喰らわせた!
「イデッ!………てんめぇー! 女の癖して、生意気なっ!!」
平手打ちを喰らった頬に紅葉を浮かべながら、チンピラ3が怒声と共に、自分の両手でエリカの両腕を掴んだ!
「! 放………!? んぐっ!?」
「へへへへ………」
放せと言おうとしたところで、チンピラ2が背後から抱き付く様に右腕を腹に回し、左手でエリカの口を塞いで拘束する。
「オイ、そこの路地だ」
そしてチンピラ1が、近くに在った狭い路地を指してそう言うと、エリカは拘束されたまま、そこへ運ばれる。
「むぐーっ! むぐーっ!(放しなさい! 何する気よっ!!)」
口を塞がれている為、声にならない声を挙げながら、エリカは拘束を解こうと暴れる。
が、幾ら戦車道をしているとは言え、所詮は17歳の少女。
チンピラ2人の拘束から逃れる術は無かった………
「覚悟しろ。俺達に逆らえない様にしてやるぜ」
「女に生まれた事を後悔するんだな、姉ちゃん」
チンピラ3がそう言ったかと思うと、自由だったチンピラ1が、徐にエリカの制服の胸元を掴み………
一気に引き裂いた!
「!?!?」
ブラジャーと白い肌が露わになり、エリカの顔が朱に染まる。
「お~っ! 結構デケェぞ!」
「最近の女子高生は発育が良くてけしからんぜ」
「こりゃたっぷりと楽しめそうだな、へへへ」
下衆な笑みを浮かべて、舌なめずりするチンピラ達。
(い、嫌ぁっ! だ、誰か! 助けてっ!!)
その様子を見たエリカの顔が恐怖に引き攣り、目尻に涙が浮かぶ。
と、その瞬間!!
突然エリカの身体が引っ張られた!!
「えっ!?」
「な、何だっ!?」
驚くエリカとチンピラ達。
エリカを引っ張った人物、それは………
「…………」
道着姿の拳龍だった。
偶々日課の走り込みをしていて通り掛かり、この場に遭遇した様である。
「あ、アンタは!?」
「大丈夫?」
驚くエリカを背に庇う様にしながら、拳龍は優しげな声でそう問う。
「何だ、テメェッ!?」
「邪魔しようってのか!?」
「如何なるか分かってんだろうな?」
チンピラ達は拳龍を取り囲む。
すると拳龍は………
「…………」
何と、抵抗するワケではなく、防御の姿勢を執った。
「!? ちょっとっ!?」
「ああ?」
「何だ?」
「馬鹿かコイツ!」
エリカが驚愕の声を挙げた瞬間に、チンピラ達は拳龍を袋叩きにし始めた!
防御の姿勢を執り続ける拳龍は只々殴られ、蹴られるばかりである。
「何やってんのよ! アンタ確か空手やってんでしょっ! 殴り返しなさいよっ!!」
「…………」
そう叫ぶエリカだったが、拳龍はやはり防御の姿勢を執るだけだった。
「ハハハッ! ホントの馬鹿だぜ、コイツは!!」
「オラオラ、サンドバッグだ!」
「悔しかったら殴り返してみろってんだっ!!」
一切反撃する素振りを見せない拳龍に、チンピラ達は気を良くして更に暴行をエスカレートさせて行く。
だが、やがて………
チンピラ達は異変に気づき始める。
「オ、オイ………何でコイツ平然としてやがんだっ!?」
「ゼエ、ゼエ………」
「殴ってるコッチの方がイテェってのは如何言う事だ!?」
そう………
既に100発以上もパンチやキックを喰らっているにも関わらず………
「………平気だよ」
拳龍は一切ダメージを受けていないのである!
それどころか、暴行を加えていたチンピラ達の手足の方が痛み出していた。
「こ、この野郎!」
すると、その瞬間!!
チンピラ1が、怒声と共に折り畳み式ナイフを取り出す!
「!? 刃物っ!?」
「もう許さねえっ! ブッ殺してやる!!」
興奮して頭に血が上ったのか、本気で拳龍をナイフで刺そうとするチンピラ1。
と、そこで!!
「お止めなさいっ!!」
「「「「「!?」」」」」
凛とした声が響いて来て、エリカと拳龍、チンピラ達はその声がした方向を見やる。
「男が3人掛かりで無抵抗な1人を甚振るとは………恥を知りなさいっ!!」
それは、買い物帰りと思わしき、湯江だった。
「! 湯江ちゃん!」
「何だぁ、ガキィッ!!」
「俺達に盾突こうってのかっ!?」
「ガキだからって容赦しねえぞっ!!」
拳龍が驚きに声を挙げると、苛立っていたチンピラ達は、標的を湯江に変えて迫る。
「………口で言っても分からない様ですね」
すると湯江は、襷掛けをして袖を纏めると、買い物袋の中に入っていた伸縮式の物干し竿を取り出し、それを伸ばして、薙刀の様に構えた。
「さあ、何処からでも掛かって来なさいっ!!」
「ああっ!?」
「舐めてんのかっ!?」
「ガキの分際でぇっ!!」
その様子に苛立ちが最高潮に達したチンピラ達は、残る2人もナイフを取り出して、湯江に襲い掛かった!
………その瞬間!!
「ハアァーッ!!」
湯江は気合の叫びと共に物干し竿を一振り!
その一振りだけで、チンピラ達のナイフが全て弾き飛ばされ、ブロック塀に纏めて突き刺さった!
「「「………へっ?」」」
その光景に、チンピラ達が間抜けた顔で固まると………
「ハイッ!!」
「! ぐへっ!?」
湯江は先ずチンピラ1の顎に切り上げを食らわせて気絶させる。
「トオッ!!」
「ぐふっ!?」
続いて、チンピラ2の鳩尾を突きで突いて気絶させ………
「ハイイッ!!」
「!? はうわぁっ!?」
最後にはチンピラ3の股間を強打し、悶絶させた!
この間、僅か5秒!!
「………口程にもありませんでしたね」
物干し竿を立てる様に地面に付けて、倒れているチンピラ達を見下ろしながらそう言い放つ湯江。
「嘘………」
エリカも、信じられないモノを見る目で湯江を見ていた。
「杷木さん、大丈夫ですか?」
「うん、平気」
「良かった………アラ? そちらの方は?」
拳龍に声を掛けた湯江が、その背後のエリカに気づく。
「あ、わ、私は………」
「………取り敢えず、御隠しになった方が宜しいかと思いますが」
「えっ?………!?」
湯江にそう指摘されて、エリカは自分の身体を見て、制服が破られて、下着丸出し状態である事を思い出す。
「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」
途端に、悲鳴を挙げてその場に蹲るエリカ。
すると、そのエリカの身体に何かが掛けられた。
「!?」
「使って………」
拳龍の胴着の上着だった。
「…………」
思わず拳龍の事を見上げるエリカだった。
数分後………
「さっ、きりきり歩け」
「「「最近の幼女つえぇ………」」」
通報を受けて駆け付けた警察によって、チンピラは連行されて行った。
「いや~、御手柄だったねぇ、湯江ちゃん」
「いえ、偶々居合わせただけですから」
一方、当の湯江は、顔見知りらしき警官と楽しげに談笑を交えて簡易な事情聴取を終えたところである。
「それじゃあ、えっと、逸見 エリカさんだっけ? 申し訳無いけど、署の方まで御同行願えますか?」
とそこで、警官はエリカの方へと向き直ったかと思うとそう言う。
「えっ!?」
「いや、一応被害者と言う事になりますので、一応詳しい事情聴取をさせていただきませんと。場合によっては先生か保護者の方に来て頂く様になるかも知れませんが………」
「!?」
そう言われたエリカが、明らかに動揺した様子を見せる。
このままでは、エリカが無断で大洗に来ていた事が黒森峰に知られてしまう。
大事なこの時期に個人的な感情で行動した挙句、警察沙汰になったと知られれば、黒森峰内のエリカの立場は無い。
下手をすれば、機甲科から追い出されてしまう可能性もある。
「そ、それは………」
動揺したまま、如何したら良いのかと視線を泳がせるエリカ。
身体も小刻みに震えている。
すると………
「………巡査長さん。逸見さんですが、私の家に連れて行きたいのですが」
「!?」
何と湯江が、警官の事を見ながらそう言って来た。
「えっ? いや、それは………」
「如何やら何か事情を抱えている様です。お願い致します。詳しい話は後で私が警察署の方まで出向いてご説明致しますので」
戸惑う警官に、湯江は深々と頭を下げて更にお願いする。
「う~~ん………普通は駄目なんだけど………他ならぬ湯江ちゃんのお願いだからな。署長も納得してくれるだろ。分かった、良いよ」
「! ありがとうございます!」
信頼の厚い湯江からの頼みとあり、警官は許可し、湯江は再び深々と頭を下げてお礼を言う。
「じゃあ、パトカーに乗りなさい。家まで送って行くよ」
「重ね重ね、ありがとうございます」
そして、湯江とエリカ、それに拳龍はパトカーで舩坂家まで送られたのだった。
舩坂家・居間………
「杷木さん。お兄様の服、サイズは大丈夫ですか」
「うん、大丈夫だよ」
ノーダメージだったが、チンピラ達にボコボコにされてた為に汚れていた拳龍の胴着を洗濯、干し終えた湯江が戻って来ると、拳龍がそう返す。
「ゴメンナサイ、逸見さん。逸見さんに会う服は置いてなくて………さっきお兄様に連絡して、女子学園の方の服を貸していただける様にお願いしたので、帰って来るまで待っていて下さい」
「…………」
一方、着せられる服が無かった為、毛布に包まっているエリカは、不機嫌そうな様子で黙り込んでいる。
「………一体如何言う積り?」
とそこで、不意にエリカは、湯江に向かってそう問い質した。
「? 何がですか?」
「惚けるんじゃないわよ! 私が黒森峰機甲部隊の人間だって知ってるんでしょう! 目的は一体何!? 言っとくけど、私は一切情報は漏らさないわよ!!」
「別に目的だなんて………」
「嘘よ! そうでなきゃ私を助ける理由が無いわ!」
「えっと………エリカちゃん、落ち着いて」
捲し立てる様に叫ぶエリカを落ち着かせようと、拳龍が声を掛けるが………
「気安く呼ばないでよ! 大体アンタ! 何でさっき反撃しなかったの! アンタ空手家でしょ! あんな連中、簡単に片づけられるでしょう!」
エリカは矛先を拳龍へと向ける。
もう殆どヒステリーである。
「………僕、暴力とか苦手だし。それに、武術は無闇に素人の人に振るって良いモノじゃないから」
「ハンッ! 流石元副隊長の部隊の人間ね! 甘っちょろい事を!!」
「それは甘さでは無く、優しさですよ。逸見さん」
とそこで、吐き捨てる様に言ったエリカに、湯江がそう言って来た。
その顔には僅かに怒りの様子が見て取れる。
「先程、元副隊長と仰っていましたが………それはみほさんの事ですね」
「ええ、そうよ。あの子が余計な事をしたせいで、黒森峰は10連覇を………」
「本当にそう思っているんですか?」
「ハッ? 何を………」
「如何なのですか?」
「!? ひっ!?」
口調こそ穏やかで、表情にもそれ程に怒りの様子は見えないが、湯江は凄まじい迫力を出しながらそう問い質す。
(………やっぱり舩坂くんの妹なだけはあるね)
そんな湯江の姿を見て、拳龍はそんな感想を抱く。
「………ッ!」
その迫力に気圧される様に黙り込んでいたエリカだったが………
「………あの子が勝手に黒森峰から居なくなって、残された隊長や私達が皆を纏めるのにどんな苦労したか………」
やがて吐露するかの様に語り出す。
「なのにあの子はのうのうとまた戦車道を始めたばかりか、剰え全国大会に出場して来て、私達の敵になったのよ! 私達や隊長がどんな気持ちで居たか!! 1人で傷ついている積りで!!」
「…………」
「仮にも隊長の妹で西住流のなのよ! それなのに!!」
エリカの言葉を黙って聞き入る湯江。
と、その時………
「湯江、今帰ったぞ」
そう言う台詞と共に、居間に通じる戸が開けられ、弘樹が姿を見せた。
「! 舩坂 弘樹!」
「逸見 エリカ、だったな………本当に来ていたとはな」
エリカは弘樹の事を睨みつけるが、弘樹は軽く受け流している。
すると………
「エリ………逸見さん」
そう言う台詞と共に、紙袋を携えたみほが、弘樹の横から姿を見せた!
「!? 西住 みほ! 何でっ!?」
「湯江から連絡を受けた時、偶々傍に居合わせてな。是非会いたいと言うのでな」
驚くエリカに、弘樹がそう説明する。
「! アンタ! よくも私の前に顔を出せたわね!」
途端にエリカは、みほへと噛み付く。
「逸見さん、それよりも先ずはコレを………」
しかしみほは、エリカの傍へと寄って座ると、紙袋から『ある物』を取り出した!
「! それはっ!?」
「私の黒森峰時代の制服だよ。捨てられなくて取って置いたんだけど、良かったら………」
そう言って、みほはエリカに向かって黒森峰時代の制服を差し出すが………
「! ふざけるんじゃないわよっ!!」
エリカは即座に、みほの手を払い除ける。
「あ!………」
「施しの積りっ!? 生憎、アンタに同情されるほど落ちぶれてなんか………!? ブッ!?」
みほが声を挙げ、エリカがまた喚き始めた瞬間………
湯江がエリカの頬を思いっ切り平手で打った!!
「な、何すん………」
「お黙りなさいっ!!」
「ヒイッ!?」
怒鳴り返そうとしたエリカだったが、湯江に一喝される。
「人の好意は素直に受け取ったら如何なのですか? 仮にも貴方は天下の戦車道名門・黒森峰女学園の機甲部隊員………それが礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育てる戦車道を嗜む者の態度ですか!!」
「う、あ………」
「そもそも先程貴方はみほさんに隊長さんの妹だからだの、西住流だからだのと言っていましたが、それは貴方が勝手な理想像を押し付けてるだけではないのですか!? 1度でもみほさんの事を個人として見た事があるのですか!?」
「うう………(な、何よ、この子の迫力………まるで隊長………いえ、西住師範並みだわ!)
湯江に発する迫力が、西住 しほ並みである事で、エリカは何も言い返す事が出来ず、只黙っているばかりである。
「凄いね………」
「あんな風になった湯江を見るのは久しぶりだ………」
その湯江の様子に、拳龍と弘樹もそう漏らす。
「大体副隊長とは言え、1人が抜けたぐらいで再度隊を纏めるのに苦労した!? それが鉄の掟と鋼の心の西住流を主体とする黒森峰機甲部隊の隊員が言う台詞ですか!? 甘ったれるのもいい加減にしなさいっ!!」
「!? ヒイイィッ!!」
とうとうエリカは涙目になり始める。
小3に説教されて涙目になる高2………
傍から見るとかなりシュールな光景である。
「湯江ちゃん。もう良いよ」
しかし、それを止めたのは他ならぬみほだった。
「! みほさん!………申し訳ありません。私とした事が、お見苦しいところを………」
それで我に返った湯江は、エリカの傍から離れる。
「…………」
みほは払い除けられた黒森峰時代の制服を拾うと、再びエリカの前に差し出す。
「! アンタ………」
「大洗(ここ)に来てから色々とあったからね。こんな事を言ったら、また怒られるかも知れないけど………今なら逸見さんが言ってた事も分かるよ。私が無責任に逃げたのは事実だから」
「!!」
みほのその言葉に、エリカは目を見開く。
「けど、言葉や言い訳なんかじゃ逸見さんは納得しないよね………だから、話は戦車道で着けようと思うの」
「えっ!?」
「戦車道から逃げた責任は、戦車道で取る………それが私の責任の取り方だし、逸見さんも納得するでしょう?」
凛とした表情で、エリカに向かってそう言い放つみほ。
その顔には一切の迷いは無い。
(な、何よ、コイツ!? コレがホントにあのオドオドしてた副隊長なの!?)
そんなみほの姿を、エリカは信じられないと言う表情で見やる。
「………取り敢えずは、これを着て。ね?」
「…………」
そして呆然としたまま、エリカはみほから、黒森峰時代の制服を受け取るのだった………
数分後………
「良かった。丁度良いみたいだね」
みほの黒森峰時代の制服に着替えたエリカを見て、みほがそう言う。
(………若干胸が余る………クソーッ!!)
だがエリカは、内心で敗北感に打ちひしがれていた。
とそこで、みほの携帯が鳴る。
「あ、久ちゃんからだ」
携帯の画面を見て、相手が久美である事を確認するみほ。
「ハアッ!? ちょっと待ちなさいよ! 何で久美からアンタに電話が掛かって来るのよ!?」
黒森峰の久美から、大洗へ移ったみほへ電話が掛かって来た事に、エリカは疑問の声を挙げる。
「えっ? 久ちゃん、良く連絡くれるよ。今日の試合は凄かったとか、新しいガンプラが完成したとか」
「アイツは~~~~~~っ!!」
与り知らぬ幼馴染の行動に、エリカは思わず声を挙げる。
「もしもし?」
『おお! みほ殿! すまないでありますが、ひょっとしてそちらにエリカ殿はお邪魔していないでありましょうか!?』
そんなエリカの姿を尻目に、みほが電話に出ると、久美が何やら切羽詰った様子で、挨拶もそこそこにそう尋ねて来る。
「えっ? うん、居るけど………今代わるね」
久美の様子に違和感を感じながらも、みほは携帯をエリカに差し出す。
「ちょっと、久美! アンタ!………」
『エリカ殿! 今すぐに黒森峰に帰って来るであります!!』
久美を怒鳴り付けようとしたエリカだったが、それよりも先に、久美がそう捲し立てて来た。
「!? 何かあったの!?」
その久美の様子に、何か有った事を察するエリカ。
すると、久美の口から………
信じられない言葉が飛び出した………
『まほ殿が………西住総隊長が行方不明なのであります!!』
つづく
新話、投稿させていただきました。
今回は、劇場版以降、ネット上でカルト的に人気が上がって居る(笑)、逸見 エリカにスポットを当てて見ました。
ぶっちゃけ、私はTV放送時にはエリカにはマイナス感情しか抱いて居ませんでしたね。
今も若干有りますが………
今はメンドクサイが動かすと面白いキャラだと思っています(笑)
で、そのエリカがみほへの鬱憤をぶちまけるべく大洗を訪問。
しかし、危ない目にあったばかりか、幼女には引っ叩かれて説教され、そのみほからは助けられる始末………
やり過ぎましたかね?(爆)
だが、そんな中で飛び込んで来たまほ行方不明の報告。
一体如何言う事なのか?
次回から物語が加速します。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。