ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第18話『泥んこ作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第18話『泥んこ作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り………

 

大洗歩兵部隊とジョロキア歩兵部隊の乱戦が続く中………

 

大洗戦車部隊と天竺戦車部隊は………

 

「装填完了っ!」

 

「右に5度………発射ぁっ!!」

 

装填手の装填完了の報告を聞くと、即座に照準を定めて発砲するローリエ。

 

コメットから放たれた砲弾は、風切り音を立てながら飛翔し、Ⅳ号の右側の地面を爆ぜさせた。

 

「くうっ!?」

 

振動がⅣ号を揺さぶり、みほは思わず声を挙げる。

 

「みぽりん!? 大丈夫っ!?」

 

「う、うん。ちょっと振動が来ただけだから………それに、行進間射撃はそう簡単に当たるものじゃないから」

 

「だが、このままだと何れ直撃を食らうぞ………」

 

心配する沙織にみほがそう答えていると、麻子がそう言って来る。

 

天竺戦車部隊から必死の逃走を続けている大洗戦車部隊だが、徐々に両者の距離は詰まって来ていた。

 

幾ら命中率の低い行進間射撃と言えど、近距離まで近づかれれば当然当たる確率は高くなる。

 

このまま距離を詰められれば、防御力で劣る大洗の戦車達は一溜りも無い。

 

「皆さん、頑張ってください! もう少し………もう少しなんです!!」

 

しかしみほは、まるで祈る様に呟きながら、『あるポイント』を目指して前進を続けさせる。

 

『敵戦車部隊接近! 駄目です! 追い付かれますっ!!』

 

と、ウサギさんチームの梓から悲鳴にも似た声が挙がる。

 

『このぉっ! 撃て撃て撃てぇっ!!』

 

狂乱したカメさんチームの桃が、38tの砲塔を後ろに向け、次々に砲弾を発砲するが、相変わらず砲弾は明後日の方向に飛んで行っている。

 

『クソッ! 回転式の砲塔さえ有れば………』

 

カバさんチームのエルヴィンは、自走砲故に正面にしか攻撃出来ない事を恨めしく思っている。

 

「…………」

 

そんな中、アヒルさんチームの典子が、キューポラから上半身を曝け出し、後方から迫って来る天竺戦車部隊を睨む様に見ていた。

 

「………皆! やるよっ!!」

 

そして、何かを決意した様な表情になったかと思うと、車内を覗き込んで、チームメンバーに呼び掛ける。

 

「「「! ハイ! キャプテンッ!!」」」

 

妙子、忍、あけびの3人は、即座に典子が何を考えているのかを察する。

 

そして次の瞬間には、八九式が隊列から抜け出し、天竺戦車部隊へと向かって行った!!

 

『!? アヒルさんチームッ!? 何を………』

 

『西住隊長! 此処は私達が食い止めますッ!! 行って下さいっ!!』

 

驚きながら通信を送るみほに、典子がそう返事を返す。

 

『そんな!? 無茶ですっ!!』

 

『そうです! 八九式の主砲じゃ………』

 

『大丈夫! コッチには真田さんが『こんなこともあろうかと』用意してくれた『タ弾』があります!!』

 

タ弾とは、旧日本軍で使われた対戦車用成形炸薬弾の秘匿名称である。

 

ドイツで使われていた物と比べ、威力は落ちているが、それでも四一式山砲で使われた物では、130m以内ならあのマチルダⅡの正面装甲を貫通出来たと言う記録が有る。

 

『私達の根性を見せてやります!!』

 

典子がそう言い残し、八九式は天竺戦車部隊へと突っ込んで行ったのだった。

 

『うう………皆さん! 急いで下さいっ!!』

 

みほは若干苦悩しながらも、アヒルさんチームの気持ちを無駄にしない為、戦車隊を前進させる。

 

「大洗戦車部隊から1両反転。此方に向かってきます」

 

「八九式じゃない。自棄になったのかしら?」

 

自分達の方へと向かって来る八九式の姿を確認した天竺戦車部隊の隊員達が、そんな事を言い放つ。

 

「油断しちゃ駄目よ。アレは自棄っぱちの動きじゃないわ」

 

しかし、ローリエは八九式が自棄になったのでは無いと見ており、全車にそう通信を送る。

 

「さあ行くよっ! 今度こそ本当のバレー部魂を見せてやるんだっ!!」

 

「「「ハイ! キャプテンッ!!」」」

 

アヒルさんチームは再び気合を入れる様に叫び、八九式を加速させた。

 

「そんな戦車! 1発で吹き飛ばしてあげるわっ!!」

 

と、その八九式に向かって、チャレンジャーの1両が主砲を向ける。

 

「撃てぇーっ!!」

 

「アタァックッ!!」

 

そこで、典子の号令であけびが発砲!

 

放たれたタ弾が、主砲を向けていたチャレンジャーの砲塔防楯に命中するっ!

 

「キャアアッ!?」

 

「こんのぉっ! やったなぁっ!!」

 

「お返しよっ!!」

 

しかし、100mm以上の装甲を貫通する事は出来ず、チャレンジャーは反撃とばかりに徹甲弾を発射する!!

 

「右ステップッ!!」

 

「ハイッ!!」

 

だが、八九式は撃った次の瞬間には方向転換を始めており、チャレンジャーが撃った徹甲弾は、先程まで八九式が居た地面を爆ぜさせただけだった。

 

「チイッ! 外れたわっ!!」

 

「任せてっ!!」

 

すると今度は、コメットが側面に回り込みながら砲塔を向ける。

 

「キャプテンッ! コメットが来ますっ!!」

 

「! 忍! 突撃してっ!!」

 

「了解っ!!」

 

典子の指示で、忍は八九式をコメットへ突っ込ませた!!

 

「うわぁっ!? つ、突っ込んで来る!?」

 

「回避! 回避!」

 

突っ込んで来るとは思っていなかったコメットは、慌てて回避しようとする。

 

「ええと、こういう時、何て言うんだっけ………ああ、そうだ! 大洗バンザーイッ!!」

 

だが典子がそう言いながら車内へと引っ込んだ瞬間!

 

八九式はコメットの左側面へと突っ込んだ!!

 

ガシャーンッ!!と言う金属同士がぶつかりあった甲高い乾いた音が響き渡る。

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

コメットの乗員達が、車体に走った激しい振動に悲鳴を挙げる。

 

「クウッ! 砲塔旋回っ!!」

 

しかしすぐに、車長は砲塔旋回の指示を出す。

 

コメットの砲塔が回転するが、密着した八九式に引っ掛かる様にして止まる。

 

「駄目です! 距離が近過ぎます!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

砲手がそう声を挙げた瞬間、八九式は至近距離からタ弾を発射!!

 

だが、発射されたタ弾は、命中して派手に炎を発したものの、コメット砲塔正面の装甲を貫く事は出来なかった。

 

「キャプテン! 駄目です!! 正面装甲じゃタ弾でも無理です!!」

 

「だったらこのまま押せぇっ!!」

 

妙子がそう声を挙げると、典子はそう叫ぶ。

 

その次の瞬間には、八九式がコメットの側面に密着したまま再び前進を始める!

 

「ちょっ!? 引き剥がして!!」

 

「駄目です! 側面から押されて、履帯が!!」

 

離れようとするコメットだが、側面から押されている為、左側の履帯が浮き上がり、上手く脱出出来ない。

 

「行けぇーっ! 突撃アタックだぁーっ!!」

 

典子の叫びと共に、コメットをドンドン押して行く八九式。

 

やがてその先に、急に傾斜している地面が広がる。

 

「ちょっ!? まさか!?………」

 

「殺人スパアアアァァァァーーーーーイクッ!!」

 

コメットの車長が顔を青くした瞬間………

 

八九式は、コメット諸共、傾斜した地面へと突っ込み、2両纏めて急斜面を転がり落ちて行った。

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

コメットの乗員と、アヒルさんチームの悲鳴が響き渡り、やがてコメットは引っ繰り返った状態。

 

八九式は横倒しとなった状態で斜面の下で止まった。

 

その直後に、コメットは車体底面から、八九式は車体側面から白旗が上がった。

 

「大丈夫っ!?」

 

そこで、ローリエが乗ったコメットが斜面の上まで近づいて来たかと思うと、乗員の安否を気遣う。

 

「な、何とか………」

 

「くうぅ………まさか体当たりしてくるなんて………」

 

「見たか! コレがバレー部魂だっ!!」

 

脱出したコメットの乗員がそう声を挙げていると、同じく八九式から脱出したアヒルさんチームの中で、典子が勝ち誇る様にそう言い放つのだった。

 

「………ホントに予想だにしない事をしてくれるわぁ」

 

「フフフ………久しぶりに血が滾って来たよ!」

 

ローリエがマイペースにそう呟くと、操縦席のルウが不敵な笑みを浮かべてそう呟く。

 

「良い試合になって来たわぁ」

 

「でも! 勝つのは私達よ!!」

 

八九式とコメットが回収車に回収されるのを横目に見ながら、ローリエとルウは、残った戦車部隊を引き連れ、再び大洗戦車部隊を追跡し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び天竺戦車部隊から距離を離した大洗戦車部隊は………

 

「みぽりん! アヒルさんチーム、撃破されたよ! でも敵の戦車を1台道連れにしたって!」

 

「ありがとう、バレー部の皆さん………」

 

沙織の報告に、バレー部への感謝を呟くみほ。

 

「もうすぐ例の場所だぞ………」

 

そこで続けて、操縦手の麻子からそう報告が挙がる。

 

やがて大洗戦車部隊は森林地帯を抜け………

 

斜面に棚田が広がっている田園地帯へと辿り着いた。

 

『良し! 此処で天竺戦車部隊を迎え撃ちます! アヒルさんチームの分をカバーしつつ、打ち合わせ通りに展開して下さい!』

 

『ヤヴォールッ!!』

 

『分かりました!』

 

『OK~!』

 

みほが全車へとそう呼び掛け、大洗の戦車部隊は各所へ展開して行く。

 

「それではコレより………『泥んこ作戦』を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

追い付いた天竺戦車部隊が、大洗戦車部隊がやって来ていた斜面に棚田が広がっている田園地帯へ突入して来る。

 

田園地帯へ入った所で、天竺戦車部隊は一斉に停止する。

 

「何か仕掛けてくるとしたら此処ね………」

 

「さあ、如何出て来るかしら?」

 

大洗戦車部隊が仕掛けてくるとすれば此処であると予測を立てるローリエと、大洗戦車部隊が如何いった手で来るかワクワクしているルウ。

 

するとそこで、ローリエ達が乗る戦車の傍に、砲弾が着弾した!

 

「!!」

 

「来たわよっ!!」

 

ルウが反応すると、ローリエが照準器を覗き込む。

 

そこには、茂みに隠れているⅢ突。

 

土手を使ってハルダウンの姿勢を取っているM3リー。

 

斜面の上の方に陣取り、天竺戦車部隊を見下ろす様に位置している38t。

 

そして、天竺戦車部隊に向かって正面から向かって来ているⅣ号の姿が在った。

 

「撃て撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

トリガーハッピーと化している桃が、37mm砲弾を天竺戦車部隊の頭上から次々に見舞う。

 

………しかし、1発も当たらない。

 

「桃ちゃん、ちゃんと狙って撃ってよぉ」

 

「桃ちゃん言うな! ちゃんと狙っているわぁっ!!」

 

「壊滅的だね~」

 

「弾を込める身にもなってよ~」

 

余りにも下手くそな桃の砲撃の腕に、柚子は愚痴る様に呟き、相変わらず喚く桃と、マイペースさを崩さない杏。

 

そして、次弾を次々に込めながら愚痴る蛍だった。

 

「あや! 良く狙って!!」

 

「分かってるよ!」

 

「おりょう! 車体を右へズラしてくれ!」

 

「了解ぜよ」

 

ハルダウンを行っているM3リーの中で梓とあやが、茂みに隠れているⅢ突の中では左衛門佐とおりょうがそんな会話を交わしている。

 

「装填完了!」

 

「撃てっ!」

 

「ハイッ!」

 

そして優花里の装填完了の報告で砲撃命令を出したみほに従い、華が発砲し、Ⅳ号の主砲が火を噴く。

 

「何ぃ? 期待させといて、只の待ち伏せによる一斉攻撃? ガッカリだわ。オマケに1人は凄く下手だし」

 

先程から他の3両と比べ、見当違いの場所ばかりに着弾している38tの砲弾を見ながら、ルウがそう呟く。

 

「ふふふ………反撃しましょうか」

 

と、ローリエがのんびりとした口調でそう言いながら、照準器を覗き込んだかと思うと、引き金を引いた。

 

コメットから放たれた砲弾が、Ⅲ突が隠れていた茂みを吹き飛ばす!

 

「マズイ! 丸見えだぞ!!」

 

「おりょう! 移動しろ!!」

 

「おうぜよ!」

 

カエサルが叫ぶと、エルヴィンがおりょうにそう言い、Ⅲ突は吹き飛んだ茂みの中から飛び出す。

 

「4号車! M3を攻撃して!!」

 

「了解っ!!」

 

更に、チャレンジャーがハルダウンしているM3リーに向かって17ポンド砲の砲弾を放つ!

 

凄まじい衝撃がM3リーに走る。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「やられたぁーっ!!」

 

あやと桂利奈が悲鳴を挙げる。

 

「ううん! まだだよ!!」

 

しかし、直後に梓がそう言い放つ。

 

如何やら狙いが逸れたらしく、M3リーの副砲である37mm砲も砲身が吹き飛ばされている。

 

「助かったぁ~………」

 

「でも如何するの!? コッチの大砲だと、乗り出さないと使えないよ!?」

 

優季が安堵の声を挙げるが、あゆみがそう言う。

 

彼女の言う通り、旋回砲塔の副砲を吹き飛ばされた今、M3リーが使える砲は車載砲塔である75mm砲しかない。

 

一応、左右にも動かせない事は無いが、砲塔に比べて遥かに範囲は狭く、更に車体に直接搭載されている為、撃つ為には姿を晒す必要があった。

 

「確か、隊長達の戦車の大砲も75mmだったよね? それでも弾かれてたけど………」

 

「でもやるしかないよ! 逃げないって決めたんだから!! 西住隊長が作戦位置まで着くまで粘らないと!!」

 

あやがみほ達のⅣ号の砲弾が、天竺戦車部隊に弾かれていたのを思い出してそう言うが、梓は決意を決めた表情でそう言う。

 

「え~い! 破れかぶれだぁ~っ!!」

 

桂利奈がそう叫んでM3リーを稜線から発進させると、天竺戦車部隊に向かって突っ込ませた!

 

「M3が突っ込んで来るわぁ~、気を付けて~」

 

ローリエのノンビリとした口調での注意が飛ぶ中、M3リーはチャレンジャーの1両に向かって突っ込んで行く。

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

紗希を除くウサギさんチームの悲鳴にも似た咆哮が挙がる中、M3リーはチャレンジャーの1両に向かって突っ込みながら、車載の75mm砲を発砲した!!

 

しかし、放たれた砲弾はチャレンジャーの防楯部分に命中し、明後日の方向へ跳ね返される。

 

そして反撃とばかりに放たれたチャレンジャーの17ポンド砲が、M3リーに真正面から命中!

 

突っ込んでいた勢いもあり、M3リーは前方宙返りを決める様に完全に引っ繰り返って、白旗を上げた。

 

「! ウサギさんチームが!?」

 

「クッ! もう少し………」

 

それを見ていたⅣ号の中の沙織が声を挙げる中、みほはⅣ号に突撃を続けさせる。

 

何かを狙っている様に見えるが………

 

「Ⅳ号、尚も接近!」

 

「アッチも破れかぶれ? まるで知波単学園の万歳突撃ね」

 

「残念だけどぉ~、撃破させてもらうわね~」

 

コメットの車長がそう報告すると、ルウがガッカリした様にそう言い、ローリエが容赦無くⅣ号に照準を合わせ、引き金を引こうとする。

 

………と、その時!!

 

コメットに至近弾が着弾する!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

Ⅳ号からの物では無い至近弾の直撃に、ローリエやルウ達が驚く。

 

それは、38tから放たれた砲弾だった。

 

「あ~! 惜しいっ!!」

 

砲手席に着いていた蛍が、照準器を覗き込みながらそう言う。

 

「でも桃ちゃんよりかなりマシだよ!!」

 

「煩い! 何をしてる! 次々撃てぇっ!!」

 

柚子がそう言うと、桃が喚きながら次弾を装填する。

 

「いや~、まさか砲手を交代しただけでこんなに近くへ当てられる様になるとはね~」

 

両手を頭の後ろに組んで席に寝るかの様な姿勢を取っていた杏が、他人事の様にそう言う。

 

そう、実は先程………

 

余りに狙いを外す桃に耐えかねたのか、蛍が自分が撃ってみようかと提案。

 

桃は断固拒否したものの、杏が「良いんじゃな~い」と言った事で、渋々ながらも砲手を交代。

 

そして先程撃ったのが、ローリエ達が乗るコメットへの至近弾となったのである。

 

「了解! よ~し………行くよぉっ!!」

 

気合を入れる様にそう言うと、38tは眼下の天竺戦車部隊へと砲撃を再開する。

 

碌に砲撃訓練を受けていない蛍が撃っている為、やはり命中弾は無いが、それでも桃と比べてかなり至近距離にまで着弾させている為、天竺戦車部隊には連続して振動が襲い掛かっている。

 

………桃の射撃の腕が如何なるものだったかが窺い知れる光景である。

 

「ちょっ!? 何よ、あの38t!? 急に砲撃が上手くなったわっ!!」

 

「あらあら~? 大変ね~」

 

「隊長! もうちょっと緊張感を感じさせる様に行って下さい!!」

 

連続して走る振動にルウがそう叫ぶと、ローリエがノンビリとした口調でそう言い放ち、装填手の子がツッコミを入れる。

 

「! 西住殿! 今ですっ!!」

 

「華さん!」

 

「撃ちますっ!! 一意専心っ!!」

 

その瞬間!!

 

結構な距離まで接近していたⅣ号が、コメット目掛けて発砲した!!

 

しかし………

 

放たれた砲弾は、コメットの正面装甲に弾かれる………

 

「クッ! やったわね! でも装甲は抜けなかったみたいね!!」

 

「コレで本当におしまいよ~」

 

車内に走った振動に耐えながらルウがそう言うと、ローリエは遂に照準器の中にⅣ号を捉える。

 

「………作戦通り!」

 

しかしⅣ号の中のみほは、そんな声を挙げた。

 

その次の瞬間!!

 

先程コメットに弾かれた砲弾が、棚田の部分へと直撃!!

 

衝撃波で土片が舞ったかと思うと………

 

決壊した棚田から、泥水が溢れ出る!!

 

溢れ出た泥水は、忽ち辺り一面に広がって行く。

 

「!? 何ですってっ!?」

 

ルウが驚きの声を挙げていた間に、広がった水によって、アッという間に戦場が泥沼状態となる。

 

「! しまったわぁ! あの子達の狙いはコレだったんだわぁ!!」

 

ローリエもノンビリとしていない口調でそう声を挙げる。

 

『こちら2号車! 泥に足が取られて上手く動けません!!』

 

『4号車、同じく!!』

 

『5号車もです!!』

 

その次の瞬間には、足元が泥沼と化してしまった為、行動に支障が出ていると各チャレンジャーが報告を挙げてきた。

 

「やりました! 『泥んこ作戦』、成功です!!」

 

「やりました! 西住殿!!」

 

「作戦通りだよ、みぽりん!」

 

みほが思わずそう声を挙げると、優花里と沙織が歓声を挙げる。

 

「喜ぶのはまだ早いですよ」

 

「まだ敵を倒したわけじゃないんだぞ」

 

しかしそこで、油断無く照準器を覗き込んだままだった華と、操縦を続けたままだった麻子がそう言って来る。

 

「その通りです………カメさん! カバさん! 一気に勝負を掛けます!! 敵は足を取られて動きが鈍っています!!」

 

『了解だっ!!』

 

『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! 皆殺しにしろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!』

 

『わぁ、桃ちゃんが壊れたぁ………』

 

みほが指示を出すと、エルヴィンの勇ましい返事、桃の狂った様な声と、柚子の呆れた声が返って来た。

 

「麻子さん! 右のチャレンジャーの後ろを取って下さいっ!!」

 

「ほいっ」

 

みほの指示で、Ⅳ号が正面の右側に居たチャレンジャーの後ろを取ろうとする。

 

「マズイ! 早く旋回してっ!!」

 

「だからそれが出来ないんだって!!」

 

チャレンジャーの車長はそう叫ぶが、操縦手は泥沼の中での操縦に苦戦し、真面に戦車を動かせずに居た。

 

しかし、Ⅳ号はその泥沼の中をスイスイと進んで行く。

 

「ヴィンターケッテが役に立ちましたね!」

 

優花里が成形炸薬弾を装填しながらそう言い放つ。

 

そう………

 

Ⅳ号は予め、この作戦の為に、工兵達によって履帯をヴィンターケッテへと換装しておいたのである。

 

そのお蔭で、泥沼の中でも通常履帯の天竺戦車部隊より動けているのだ。

 

そうこうしている間に、Ⅳ号は泥沼に足を取られて真面に動けないで居た1台のチャレンジャーの背後に回り込む。

 

「撃てっ!!」

 

チャレンジャーは砲塔を回して対応しようとしたが、それよりも早くⅣ号が発砲!

 

成形炸薬弾が、チャレンジャーの砲塔側面に命中。

 

砲塔側面から一瞬炎が上がり、黒煙が立ち上り始めたかと思うと、チャレンジャーの上部に撃破を示す白旗が上がった。

 

「やったよぉっ!!」

 

「後3両!!」

 

沙織が歓声を挙げるが、みほは冷静に指示を出し続ける。

 

「クウッ! 2号車が!?」

 

「このぉっ! 2号車の仇!!」

 

するとそこで、別のチャレンジャーが仲間の仇を討とうと砲塔を旋回させ、Ⅳ号を狙う。

 

だがそこで、背後から飛んで来た砲弾が車体後部へと着弾!

 

「「「「「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

乗員達の悲鳴が響く中、エンジン部分から黒煙が上がり、白旗が上がる。

 

「良し! 撃破したぞ!!」

 

「疾きこと風の如くだ!!」

 

その砲弾を撃った主………Ⅲ突の中で、カエサルと左衛門佐がそう歓声を上げる。

 

「コレで後2両!!」

 

と、エルヴィンがそう声を挙げた瞬間!

 

Ⅲ突の傍に砲弾が着弾する!!

 

「!?」

 

「調子に乗るんじゃないわよっ! 次弾装填急いで!!」

 

残る1両のチャレンジャーからの砲撃だ。

 

「装填完了っ!」

 

「よおしっ! 喰らえぇっ!!」

 

再度Ⅲ突に向かって砲撃するチャレンジャー。

 

「! おりょうっ!!」

 

「ぜよぉっ!!」

 

エルヴィンの声を、ギアをバックに居れて思いっきりアクセルを踏むおりょう。

 

Ⅲ突が勢い良く後退すると、先程までⅢ突が居た場所にチャレンジャーの砲弾が着弾する。

 

そのまま左へ車体を切ると、そのままバックで進むⅢ突に向かってチャレンジャーは砲撃を続ける。

 

「クウッ! 射線が取れない!!」

 

自走砲故に、正面を向かなければ攻撃が出来ないⅢ突は逃げ回るしかなく、左衛門佐は苦い表情を浮かべる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

その間に、チャレンジャーは完全に照準器内にⅢ突を捉え、砲手がトリガーを引こうとする。

 

だが、その瞬間に、車体側面へ命中!!

 

砲弾が命中した部分から煙が上がる中、白旗が上がる。

 

「カバさんチーム! 大丈夫ですか!?」

 

最後のチャレンジャーを仕留めた本人………あんこうチームのⅣ号から、Ⅲ突へそう通信が送られる。

 

「西住隊長! すまない! 助かっ………」

 

た、と言おうとした瞬間!

 

Ⅲ突の側面に砲弾が命中!!

 

派手に爆炎が見えたかと思うと、Ⅲ突から白旗が上がった。

 

「!?」

 

すぐにみほはペリスコープ越しにⅢ突を仕留めた砲弾が飛んで来た方向を確認する。

 

そこには、砲口から白煙を上げているローリエとルウが乗車しているコメットの姿が在った。

 

「やってくれるじゃない! まさか一気に3両も撃破されるなんてね!!」

 

「うふふ、ちょっと見くびっていたかもね~………でも、まだ負けたワケじゃないわよ」

 

コメットの中でルウとローリエがそう言い合ったかと思うと、コメットが再び発砲する!

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の目の前に着弾し、大きく土片を舞い上げる。

 

「キャアッ!?」

 

「やっぱり簡単には行かないか………麻子さん! 兎に角動いて如何にか後ろを取って下さい!!」

 

「分かった………」

 

沙織が悲鳴を挙げる中、みほは麻子にそう指示を出し、Ⅳ号を再び走らせる。

 

「逃がさないわよ~」

 

と、ローリエはノンビリとした口調で、装填が完了する度にⅣ号へ向かって発砲する。

 

その全てが至近弾であり、Ⅳ号は振動で車体が揺さぶられ、徐々にボディに細かな傷が着いていく。

 

「敵の砲手は凄い腕です!」

 

「負けませんっ!」

 

優花里がそう声を挙げると、華が照準器越しにコメットを見据えて引き金を引く。

 

しかし、走りながら撃った為、放たれた砲弾はコメットの頭上を飛び越え、泥沼の中へ埋没する。

 

「装填完了!」

 

「貰ったわ~!」

 

その間に、次弾装填完了の報告を聞いたローリエが、Ⅳ号に照準を合わせる。

 

ペリスコープ越しにコメットを見ていたみほは、コメットの砲身が完全な円形になっているのを目撃する。

 

「! 駄目! 直撃コース!!」

 

「「「「!?」」」」

 

みほの叫びに、あんこうチームの顔に戦慄が走る。

 

「撃………」

 

て、とローリエが言おうとした瞬間!!

 

コメットの車体の上で、何かが連続で弾かれる様な音が響く!!

 

「!? 何っ!?」

 

その音に気を取られ、砲撃を中止してしまうローリエ。

 

音の正体は、突撃して来ている38tの、砲塔に備え付けられた7.92mmMG37(t)重機関銃の銃弾だった!!

 

「良し! 機銃が当たってる!!」

 

「コレなら当てられる!」

 

蛍と柚子がそう声を挙げ、38tは速度を上げて更に突っ込んで行く!

 

「先にアッチね~………ルウ」

 

「了解!」

 

それを見たローリエは、38tを先に倒すべきだと判断し、ルウに声を掛ける。

 

ルウは泥沼の中で如何にか戦車を旋回させようとする。

 

砲塔の回転だけでは間に合わないと判断し、車体を回転させて対応する積りの様だ。

 

「敵戦車、動いてる!」

 

「大丈夫! コッチの方が早い! 桃ちゃん! 装填っ!!」

 

「任せろ!!………!? ああっ!?」

 

と、装填を行おうとしていた桃が、大声を挙げた。

 

「!? 如何したの!?」

 

「………ほ、砲弾が………もう………無い………」

 

蛍が尋ねると、桃は青い顔をしてそう報告する。

 

「「………えっ?」」

 

その報告に、蛍と柚子が思わず間の抜けた表情をしてしまった瞬間………

 

コメットが発砲し、徹甲弾が38tの車体正面に直撃!!

 

軽戦車の装甲では防ぎきれず、撃破の白旗が上がる。

 

「や~ら~れ~た~っ!」

 

杏の呑気そうな声が響き渡る。

 

「次! Ⅳ号!!」

 

「装填急いでっ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

それを碌に確認する間も無く、コメットはⅣ号への対応に移る。

 

しかし、既にⅣ号はコメットの後ろを取ろうとしていた!

 

「クッ! 後ろを取られる!!」

 

「狙いを着けられる!!」

 

ローリエとみほは、お互いに相手の方が早いと感じる。

 

「「お願い………間に合ってっ!!」」

 

2人が同時にそう叫んだ瞬間!!

 

Ⅳ号はコメットの背後を………

 

コメットはⅣ号に砲を向ける事に成功するっ!!

 

「「!! 撃てぇっ!!」」

 

ほぼ同時に射撃命令が下り、Ⅳ号とコメットが発砲!!

 

発射された砲弾が触れ合いそうになる位の至近距離を交差し、Ⅳが撃った砲弾はコメットの車体後方・エンジンルームへ………

 

コメットが撃った砲弾は、Ⅳ号の砲塔基部へと命中した!!

 

爆発と共に黒煙が上がるⅣ号とコメット。

 

そして、撃破を示す白旗が両方の車両に上がる。

 

「ど、如何なったの?」

 

「ほぼ同時に着弾した様に見えましたけど………」

 

車内に走った衝撃から立ち直った沙織と優花里がそう言い合う。

 

「…………」

 

みほはジッと審判達の判断を待つ。

 

すると………

 

『そこまで! 試合終了っ!!』

 

レミの試合終了を告げるアナウンスが戦場に響き渡る。

 

『只今の記録を確認したところ………大洗のⅣ号と天竺ジョロキアのコメットが撃破されたのは全くの同時で有る』

 

そして、Ⅳ号とコメットの撃破がまるで同時であった事を告げる。

 

「同時………」

 

「そ、その場合は如何なるの!?」

 

華が呟くと、沙織が不安そうにそう言う。

 

「確か、公式戦の場合は両チームのフラッグ車か、隊長車による一騎打ちが行われますが………今回は練習試合ですし」

 

と、優花里がそう言っていた瞬間………

 

『本来ならば両チームの代表戦車同士による一騎打ちを行うところだが、今回は練習試合の殲滅戦ルールである………よって『引き分け』とする!!』

 

レミの声で、そうアナウンスが流れた。

 

「引き分け………」

 

「やったね! みぽりんっ!!」

 

みほが呟くと、沙織が笑みを浮かべてそう言って来る。

 

「喜ぶ様な事か。勝ったワケじゃないんだぞ」

 

「でも! 負けたワケでもないじゃない!!」

 

麻子がそうツッコミを入れてくるが、沙織は反論する。

 

「確かに………勝ってもいませんが、負けてもいないですね」

 

「そうですよ! この前のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との試合を顧みれば、コレは十分過ぎる戦果ですよ!!」

 

華がそう言うと、優花里がやや興奮した様子で声を挙げる。

 

「………そうだよね。うん!」

 

そこでみほも、笑顔を浮かべてそう言った。

 

『只今より、両戦車部隊の回収を行う。無事な歩兵は自力にて試合開始地点へ集結。その際に、可能な物があれば放棄した武器・弾薬を回収する事』

 

そうレミのアナウンスが流れ、試合が終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊に取って2戦目となった、天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合は………

 

引き分けで幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗戦車隊VS天竺戦車隊の戦い。
一進一退の攻防の末………
引き分けに終わりました。
やはり最初の勝利はサンダース戦でと思ってますので。
次回は、天竺ジョロキア機甲部隊との交流会をお送りする予定です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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