ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第179話『敵兵を救助せよ、です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第179話『敵兵を救助せよ、です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとダージリンの戦いに決着が着く寸前………

 

試合会場の洋上でも………

 

「てぇーっ!!」

 

艦長の号令で、長門の主砲が全門火を噴き、ネルソンへと砲弾が飛ぶ。

 

その内の2発が、ネルソンの甲板に命中!

 

巨大な爆発が起こり、ネルソンが朦々と黒煙を上げる。

 

しかし直後に、ネルソンから反撃の砲撃が、陸奥に向かって放たれた!!

 

回避行動を取る陸奥だったが、第3主砲塔に砲弾が1発着弾!

 

その途端!!

 

陸奥の第3砲塔が大爆発を起こし、炎上した!!

 

「陸奥炎上!! 弾薬庫に誘爆した様です!!」

 

「またか!? この前の時にも第3砲塔をやられて誘爆起こしてたろうが!!」

 

副長の報告に、艦長は思わずそう叫ぶ。

 

戦艦陸奥は、かつて第3砲塔が謎の爆発を起こして沈んでおり、そのせいか第3砲塔が損傷を受け易いと言うジンクスがあった。

 

今回もそのジンクスが当たってしまった様である。

 

「陸奥より発光信号! ワレ、ソンショウニヨリ、ソクリョクテイカセリ!」

 

「クッ! マズイな………」

 

伊勢と日向が、クイーン・エリザベスにウォースパイトと撃ち合っている様子を見ながら、副長の報告に舌打ちする艦長。

 

現在、呉校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊は同航戦をしており、1隻でも速力が低下すれば、忽ちその艦が集中砲火の的となってしまう。

 

するとそこで、最上と三隈が速力を上げ、損傷した陸奥を庇う様にその前に位置取る。

 

「! 最上! 三隈! 無茶だっ!!」

 

艦長が叫んだ瞬間に、最上と三隈の周辺に、多数の砲弾が降り注ぎ、水柱が次々と上がる!

 

中には至近弾で、最上と三隈に損傷を与えた物もある。

 

しかし、最上と三隈は1歩も退かず、果敢に主砲で反撃する!

 

だが、その直後!!

 

三隈にクイーン・エリザベスが放った砲弾が直撃!

 

巨大な爆発が三隈から上がったかと思うと、艦橋上部に白旗が出現した。

 

「三隈、轟沈判定っ!!」

 

「クソッ!!」

 

副長が報告すると、艦長は拳を艦橋内の壁に叩き付けるのだった。

 

 

 

 

 

同じ頃、敵の護衛艦隊と戦闘していた呉校艦隊の水雷戦隊は………

 

「魚雷発射っ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

護が叫ぶと、雪風の魚雷発射管の担当乗員が魚雷を2発発射する。

 

放たれた魚雷は、ニューカッスルへと向かう。

 

だが、ニューカッスルは向かって来る魚雷に対し、艦体を垂直にする様に舵を切る。

 

雪風が放った魚雷は、ニューカッスルの両舷を擦り抜けて行く。

 

直後に、後部のMk ⅩⅩⅢ 15.2cm(50口径)三連装主砲が火を噴く。

 

「回避行動ーっ!!」

 

護の叫びと共に、雪風が回避行動を取ると、ニューカッスルの放った砲弾が周辺に着弾し、水柱を上げる。

 

「うおっ!?」

 

「敵艦、離れます! 魚雷射程外っ!!」

 

艦橋に走る衝撃に、護が思わずよろけていると、副長からそう報告が挙がる。

 

「チイッ! さっきからこの繰り返しだな………」

 

その報告を聞いた護が、悪態を吐く様にそう言う。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊は、呉校水雷戦隊の最大の武器である酸素魚雷を警戒し、命中率が下がる遠距離で艦隊隊形を維持して、レーダー射撃による遠距離砲撃戦を行って来ていた。

 

日本海軍はレーダー等の電子機器の開発に於いて、連合国側に大きく差を付けられており、戦争後期の頃には粗負け越していた。

 

無論、呉校水雷戦隊の乗員達は、全員がエリートと言って差し支えない面子だが、彼等は人間であり、疲労もする。

 

機械頼りのグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊との戦いでは、長引くほど不利となる。

 

「よし、良いぞ。このまま距離を保ちつつ砲撃を続けろ。敵に疲労が溜まれば此方が有利となる」

 

護衛艦隊の指揮を取っているサウサンプトンの艦長が、無線で護衛艦隊にそう呼び掛ける。

 

「状況は我々に有利ですな、艦長」

 

そこで副長が、艦長にそんな事を言う。

 

「ああ、懸念事項が有るとすれば、準々決勝でナイトウィッチ&ハロウィンの潜水艦隊を単艦で行動不能にしたという、あの潜水艦だ」

 

「伊201ですか………」

 

「だが、コチラとて対潜戦闘の用意は万全だ」

 

艦長はそう言って、サウサンプトンの艦首側に装備された、多数の柄付き手榴弾を装填しているかの様な形状の兵器………

 

対潜迫撃砲『ヘッジホッグ』を見てそう言う。

 

他の艦艇にも、同様にヘッジホッグが装備されており、中には『スキッド』を装備している艦も在る。

 

ナイトウィッチ&ハロウィン戦での伊201の戦闘を聞き及んでおり、万全に備えてきている様だ。

 

と、その時………

 

「!? ソナーより艦橋へ! 交響曲(シンフォニー)ですっ!! モーツァルト 第40番 第1楽章!!」

 

ソナー員よりそう報告が挙がった。

 

「来たか………場所はっ!?」

 

「待って下さい………! 本艦前方、5000!! 深度200!!」

 

「!? 護衛艦隊の真正面だと!?」

 

艦長が正確な位置の報告を求めると、ソナー員はそう報告し、副長が驚きの声を挙げる。

 

「ほう、面白い………我が艦隊に真正面から挑む積りか………それが無謀でしかない事を教えてやる。全艦! ヘッジホッグ、スキッド用意っ!!」

 

サウサンプトンの艦長がそう言うと、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊は一斉にヘッジホッグとスキッドの発射態勢に入る。

 

「ソナー! 敵進路に変わりはないか?」

 

「変わりありません! 此方に向かって一直線に突っ込んで来ています!!」

 

「良し! 目標がアタックポイントに入り次第、一斉攻撃を行う!」

 

「目標アタックポイントまで、あと100………50………25………10………アタックポイントに入りました!!」

 

「全艦! ヘッジホッグ! スキッド! 発射ぁっ!!」

 

ソナー員からの報告が挙がるや否や、サウサンプトンの艦長がそう号令し、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊から一斉に対潜弾が発射された!!

 

何10発もの対潜弾が次々に水中へと放り込まれて行く。

 

「モビーディックッ! 幾ら貴様が怪物であろうと、水中に居る限り、この対潜弾から逃れる術は無いぞ! 何せ直径2キロの範囲全深度に40発以上だっ!!」

 

勝利を確信しているサウサンプトンの艦長は高らかにそう言い放つ。

 

「伊201よりタンクブロー音! 浮上する積りの様です!!」

 

とそこで、ソナー員から伊201が浮上しようとしている事を探知し、報告する。

 

「対潜弾との接触を回避しようとしているのか? 無駄な事を………信管には接触式と時限式を混ぜてある。例え接触式をかわしても、時限式が爆発し、その時の誘爆によって強大な爆圧が発生する!!」

 

だが、サウサンプトンの艦長は無駄な足掻きだと吐き捨てる。

 

「言った筈だ! この攻撃から逃れる術は無い! それこそ、水中から脱出でもしない限りはなっ!!」

 

その光景を目撃する事になろうとは、この時サウサンプトンの艦長は予想だにしていなかった………

 

やがて、時限式の対戦弾の爆発時間が訪れた。

 

低い轟音が鳴り響き始めたかと思うと、水面が風船の様に盛り上がり始め………

 

やがて次々と水柱が上がり始めた!!

 

「やったっ!」

 

「噂のモビーディックを仕留めたぞっ!!」

 

「俺達は英雄だっ!!」

 

伊201を仕留めたと確信し、沸き立つグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達。

 

だが、その次の瞬間!!

 

突如、一際大きな水柱が上がったかと思うと、その水柱の中から『何か』が飛び出して来た!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の視線が、一斉にその飛び出して来た『何か』に集まる。

 

 

 

 

 

それは………

 

空中を飛翔する………

 

伊201の姿だった!!

 

7メートル………

 

海面から僅か7メートルではあったが………

 

伊201は確かに………

 

『空を飛んでいた』!!

 

 

 

 

 

「!? オーマイガーッ!!」

 

「アンビリーバボーッ!?」

 

「サブマリンがっ!?」

 

「空を飛んでいるっ!?」

 

信じられない光景に、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は己が目を疑う。

 

やがて最後の対戦弾が爆発し終わった直後に、伊201は着水。

 

そのまま急速潜航を掛け、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊が展開している海の中へと消えた!

 

「ま、まさか………対潜弾の爆圧を利用して急速浮上を掛け、そのまま勢いに乗って空中に飛び出したと言うのか!? 有り得んっ!!」

 

サウサンプトンの艦長は狼狽しながらそう叫ぶ。

 

「艦長! 落ち着いて下さいっ!!」

 

その艦長を、副長が落ち着かせる。

 

「ハッ!? そ、そうだ! 落ち着かなければ………ソナー! 伊201は探知出来るかっ!?」

 

それで僅かに落ち着きを取り戻したサウサンプトンの艦長は、ソナー員に伊201を探知出来るかと問う。

 

「駄目です! 先程の対潜弾の炸裂で水中が掻き回されています! ソナーが有効になるには後数10分は要します!!」

 

だが、先程の大量の対潜弾での攻撃により、水中が撹拌されており、伊201の音を聞き取るのは不可能だった!

 

「ならアクティブ・ソナーを打てっ!!」

 

「危険です! コチラの位置を知られてしまいますっ!!」

 

アクティブ・ソナーとは、通常使用されている相手が発する音を聞き取るパッシブ・ソナーとは逆に、自ら音を発してその反射音で相手の位置を特定するソナーである。

 

一般的にパッシブ・ソナーと比べて正確に相手の位置を把握出来るが、自ら音を出すので、相手にも自分の位置を気取られると言うデメリットも存在する。

 

と、その時………

 

「!? レーダーに反応! 本艦左舷後方に不明艦が出現しましたっ!!」

 

レーダー員から突如そう報告が挙がった!

 

「!? 何っ!?」

 

その報告にサウサンプトンの艦長が驚きの声を挙げた瞬間………

 

カーンッ!と言う甲高い電子音の様な音が、サウサンプトンの艦内に鳴り響いた。

 

「うおっ!?」

 

「コレは!?………」

 

「探信音(ピンガー)っ!?」

 

それは、潜水艦が放つアクティブ・ソナーの音………探信音(ピンガー)だった。

 

「艦長ーっ! 伊201ですっ!! 本艦左舷後方、距離300を浮上航行中ーっ!!」

 

「!? 何ぃーっ!?」

 

とそこで、後方の甲板見張り要員の悲鳴の様な叫びが木霊し、サウサンプトンの艦長はすぐさま艦橋から飛び出して後方を確認する。

 

そこには、見張り要員の報告通り、左舷後方300の距離を堂々と浮上航行している伊201の姿が在った。

 

「オノレェッ! さっきの探信音(ピンガー)は、我々はもう撃沈済みだと言う警告の積りか! ふざけおってっ!!」

 

堂々と浮上航行し、更には雷撃ではなく探信音(ピンガー)を打った事に、サウサンプトンの艦長は屈辱を受けたと震える。

 

「後部主砲を発射用意っ!! 目標伊201っ!!」

 

とそこで、艦長はそう叫び、サウサンプトンの後部の主砲が伊201へと向けられる。

 

「撃てぇーっ!!」

 

そして、艦長の号令で主砲が火を噴く!

 

「! 伊201、急速潜航っ!!………!? 艦長ーっ! 射線上に友軍艦がぁっ!?」

 

「!? 何ぃっ?!」

 

そこで、伊201は急速潜航を掛け、そして見張り員は初めて、主砲を撃った射線上に友軍………

 

エンカウンターの姿が在るのに気づいた!

 

サウサンプトンから放たれた砲弾は、急速潜航を掛けた伊201の頭上を飛び越え………

 

そのままエンカウンターへと命中!!

 

駆逐艦が軽巡洋艦の砲撃に耐える事は出来ず、爆発と共に艦橋上部から白旗を上げた!

 

「な、何て事だ………」

 

フレンドリーファイアで友軍艦を撃沈判定にしてしまった事に愕然となるサウサンプトンの艦長。

 

「! 雷跡接近ーっ!!」

 

「!?」

 

たがそこで、畳み掛ける様に左舷の見張り員から報告が挙がり、サウサンプトンの艦長が目にしたのは………

 

自艦に命中する寸前の水面下を進む伊201から放たれた魚雷の姿だった。

 

「!?」

 

サウサンプトンの艦長が驚愕の表情で固まると、その瞬間に魚雷は命中!

 

サウサンプトンから巨大な水柱が立ち上る!!

 

そして、艦橋上部から白旗が上がったのだった………

 

「サウサンプトンがやられたっ!!」

 

「クソォッ! モビーディックめっ!!」

 

その様子を見ていたシェフィールドの乗員からそう声が挙がる。

 

と、その時………

 

シェフィールドが発している航跡………バッフルズの中から、伊201が浮上した!!

 

「うおっ!? 出たぞっ!! 本艦左舷後方! 距離500!!」

 

気づいたシェフィールドの見張り員が慌ててそう叫ぶ。

 

「! 取舵一杯! 魚雷発射用意! 目標、伊201っ!!」

 

シェフィールドの艦長は魚雷を喰らわせようと、取舵を切らせ、魚雷発射管を追尾して来ていた伊201へと向けようとする。

 

その瞬間に、探信音(ピンガー)が鳴り響いた!

 

「! 伊201から探信音(ピンガー)を探知っ!!」

 

「クソッ! 奴はゲームをしている積りなのか!? 魚雷発射っ!!」

 

「魚雷発射しますっ!!」

 

シェフィールドの艦長は怒りに震えながら魚雷発射の指示を飛ばし、シェフィールドから伊201に向かって魚雷が放たれる。

 

すると伊201は、そのシェフィールドの魚雷と並走するかの様に舵を切る。

 

「! 艦長ーっ!! 伊201の回頭先にニューカッスルがぁっ!?」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

見張り員からの報告に、シェフィールドの艦長が慌てて確認すると、伊201が向かった先には、左舷を向けているニューカッスルの姿が在った!

 

伊201に向けて放った魚雷は、並走している為、当然同様にニューカッスルへ向かう。

 

そして、ニューカッスルに向けて伊201がまたも探信音(ピンガー)を放つと急速潜航。

 

魚雷は潜行した伊201の上を擦り抜けて、ニューカッスルへ向かい、そのまま命中!

 

水柱が次々に立ち上ったかと思うと、ニューカッスルから白旗が上がる!

 

「ああっ!? またフレンドリーファイヤを………」

 

「魚雷、来ますっ!!」

 

シェフィールドの艦長が愕然となっていたところに、伊201からの魚雷が接近!

 

正確に機関部に直撃した魚雷は、1撃でシェフィールドを轟沈判定にした。

 

「瞬く間に敵軽巡洋艦が全滅か………相変わらずの腕だな」

 

その一連の様子を見ていた護が、神掛かった伊201の戦法と操艦に舌を巻く。

 

「敵陣形、乱れています!」

 

と、伊201の活躍により、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の陣形は完全に乱れていた。

 

「神通より発光信号! ワレトツゲキス! カクカンアトニツヅケ!」

 

そこで、呉水雷戦隊の旗艦である神通から、水雷戦隊全艦にそう発光信号が送られているのを見張り員が気付いて報告する。

 

「良し! ココからが水雷屋の見せ場だ! 総員に告げる! コレより本艦は神通に続いて敵艦隊へ突撃する! 各員の奮闘を期待するっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

護の号令に、雪風の乗組員達は威勢の良い返事を返す。

 

そして、神通が先陣を切って敵艦隊の中へと突撃すると、第十六駆逐隊と第六駆逐隊も後に続く。

 

砲門と魚雷発射管を其々に左右に向け、敵艦隊の中へと飛び込む呉校水雷戦隊。

 

「主砲及び魚雷! 攻撃始めぇーっ!!」

 

そして一斉に、主砲と魚雷による攻撃を開始した!

 

必中の距離から放たれた砲弾と魚雷は、狙いを過たずに残っていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の駆逐艦達に次々に命中して行く。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の駆逐艦達も、負けじと魚雷や砲撃で反撃するが、呉校水雷戦隊は至近弾や至近距離を擦り抜ける魚雷を気にも留めず、突撃を続ける。

 

水雷魂此処に有りである。

 

「艦長! 護衛艦隊がっ!?」

 

「!!」

 

そこで、その様子に気づいた主力艦隊に居たエクセターの副長が、艦長へ報告を挙げる。

 

と、その時………

 

エクセターの艦内に、探信音(ピンガー)が鳴り響いた!

 

「!? 探信音(ピンガー)!? 伊201かっ!?」

 

「艦長! 重巡洋艦の我々では対潜戦闘は不可能です!!」

 

その音を耳にしたエクセターの艦長がそう言うと、副長がそう報告する。

 

しかし、次の瞬間………

 

「! 右舷500に白波を確認! 潜水艦が浮上しますっ!!」

 

「!? 何だとっ!?」

 

見張り員からの報告に、エクセターの艦長が仰天の声を挙げると………

 

白波の中から、伊201が姿を見せた!

 

「オノレェッ! 馬鹿にしおって! 全砲門を伊201に向けろっ!!」

 

エクセターの艦長がそう命じ、エクセターの主砲全門が、右舷方向の伊201へと向けられる。

 

「射撃準備、完了!」

 

「撃………」

 

「!? 艦長っ!! 左舷より敵の巡洋艦がっ!?」

 

「!?」

 

だがそこで、左舷側より呉校水雷戦隊の重雷装艦・北上と大井が突撃して来た!

 

主砲は伊201に向けている為、応戦出来ない。

 

エクセターと反航戦に持ち込んだかと思うと、重雷装艦自慢の片舷だけで20射線の魚雷発射管が一斉に火を噴き、大量の酸素魚雷がエクセターへと向かった!

 

「か、回避っ!!」

 

「無理ですぅっ!! 魚雷の数は多過ぎますっ!!」

 

艦長と副長の悲鳴の様な声が木霊した瞬間、10本以上の魚雷がエクセターに命中!

 

忽ちエクセターは轟沈判定となった。

 

「艦長! 護衛艦隊がっ!!」

 

「ぬうっ!?………」

 

その様子に、総旗艦であるネルソンの副長と艦長が渋い顔をする。

 

「水雷戦隊に負けるなぁっ!!」

 

「全艦! 撃って撃って撃ちまくれぇーっ!!」

 

呉校水雷戦隊の活躍に遅れは取らぬと、呉校艦隊の士気が上がり、長門、陸奥、伊勢、日向の主砲が次々に火を噴く。

 

内1発は、ネルソンの第2主砲に命中!

 

巨大な爆発が起こり、ネルソンの第2主砲が大破する!

 

「うおっ! オノレェッ!! 反撃しろっ!!」

 

やられてばかりではいないと、グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊が反撃する。

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「後部甲板の火災鎮火!」

 

「前甲板の火災も消火完了しました!」

 

轟沈判定となって海上に留まっていたエンカウンターの甲板にて、火災の消火に当たっていた乗組員達から、消火完了の報告が続く。

 

「よし! 後は連盟の回収船が来るまで………」

 

と、自らも消火活動に当たっていたエンカウンターの艦長がそう言い掛けた瞬間………

 

エンカウンターの船体が大きく揺れた!

 

「!? うわっ!? 如何したっ!?」

 

「潮流が変わりました! 諸に横波が!!」

 

咄嗟で対応出来なかった為、転んでしまったエンカウンターの艦長が叫ぶと、乗組員の1人がそう報告を挙げる。

 

如何やら、試合が長引いた為、潮汐が変化し、潮流も変わった様である。

 

横波は更にエンカウンターを襲い、艦体が更にグラつくと共に、甲板上まで波が押し寄せる。

 

「イカン! 総員、何かに………」

 

しがみ付け、とエンカウンターの艦長が言おうとした瞬間………

 

一際大きな波が、まるでエンカウンターを呑み込む様に襲い掛かった!

 

幸い、エンカウンターが転覆・沈没する様な事はなかったが………

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

甲板で消火活動をしていた乗組員が、全て流れされてしまう!!

 

他の艦でも同じ事が起こった様で、多数のグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達が海へと投げ出されている。

 

更に運が悪い事に………

 

変わった潮流は、沖へと向かう様に流れており、海へと投げ出されたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員は、どんどん遠洋の方へと流されてしまっている。

 

「た、助けてくれーっ!!」

 

「ヘルプミーッ!!」

 

流されているグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達から助けを求める声が挙がる。

 

「大変だ! すぐに救助しないと!!」

 

「どうやってだ!? コッチは殆ど撃沈判定を受けてる上、交戦中だぞ!?」

 

まだ艦上に残っていた乗組員からそう声が挙がる。

 

戦車道と同じく、撃沈判定を受けた艦艇は連盟の回収船が来るまで再度動かす事は出来ない仕様になっている。

 

動ける艦艇も交戦状態にあり、救助に向かえる状況ではない。

 

「連盟の救助隊はっ!?」

 

「今コチラに向かって居るそうです!」

 

「間に合うのかっ!?」

 

連盟からは救助隊を発進させたとの連絡が来たが、潮流は想像以上に速く、流されている乗員は既にかなり沖の方へと運ばれている。

 

このままでは漂流してしまう………

 

その時………

 

「! 艦長! グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗組員達が流されています!!」

 

「何っ?」

 

呉水雷戦隊の中に居た雷でも、見張り要員がその様子に気づいて声を挙げ、艦長も双眼鏡で確認する。

 

「イカン………あのままでは漂流してしまうぞ」

 

「しかし、今は交戦の真っただ中です」

 

「連盟の救助隊に任せた方が良いのでは?」

 

「だが、あの様子では一刻も早く救助せねば危ないぞ」

 

艦長の言葉に、副長を始めとした艦橋の乗組員達は言い争いを始める。

 

「…………」

 

雷の艦長も、目を閉じて静かに考え込む。

 

「…………」

 

やがて、艦橋の壁に飾られていた、1枚の写真に目をやる。

 

それは、旧帝国海軍の軍人と思わしき人物の写真だった。

 

「………諸君」

 

「「「「「………!」」」」」

 

雷の艦長がそう呼び掛けると、副長達は言い争いを止め、艦長に注目する。

 

「コレは艦長である私の独断だ………」

 

そう前置きすると、雷の艦長は副長達の方へと向き直る。

 

そして………

 

「敵兵を………救助せよっ!!」

 

副長達にそう命じた!

 

「「「「「!!」」」」」

 

命令を受けた副長達は、一瞬戸惑った様子を見せたが………

 

「………了解!」

 

「敵兵を救助しますっ!!」

 

「通達! 本艦はコレより救助活動に入る! 総員、救命具を用意せよっ!!」

 

すぐさまキビキビと動き出し、全乗組員に救助活動の用意をせよと通達する。

 

「…………」

 

雷の艦長は、その様子を見て、満足そうに笑いながら頷いた。

 

そして、雷は呉校水雷戦隊の陣形から離脱。

 

流されているグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の元へと向かう。

 

すると、その後に続く様に………

 

電も進路を変更して艦隊を離脱した。

 

「電が付いて来ます!」

 

「発光信号を確認! ワレ、キカンニツヅク!」

 

「アイツ等も同じか………」

 

雷の艦長は、電の方を振り返りながらそう呟く。

 

と、その雷と電の周辺に、次々と砲弾が飛来し、水柱を上げる!

 

如何やら、まだ戦闘可能状態にあるグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の艦が、自軍の乗組員達が流されている事に気づかず、艦隊陣形から離脱した雷と電を恰好の得物だと思って集中砲撃を浴びせている様だ。

 

「! アイツ等!………」

 

「構うな! 救助が先だっ!!」

 

雷の副長がコチラの意図に気づかないグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊を睨むが、雷の艦長は構わずに救助へと向かう。

 

「艦隊から離脱した艦に攻撃を集中しろ!」

 

「如何言う積りか知らないが、良い的だぜ!」

 

一方、まだ気づいていないヨークの砲術員達が、次々と砲弾を雷と電に向かって撃ち込む。

 

(何故だ?………何故このタイミングで陣形から離脱した?)

 

しかし、ヨークの艦長は雷と電の行動が腑に落ちず、怪訝な顔をする。

 

「照準修正完了! 今度は当てるぜっ!!」

 

とそこで、照準の修正を終えた砲術員がそう言う。

 

「喰ら………」

 

「! 攻撃中止っ!!」

 

遂に引き金が引かれそうになった瞬間に、ヨークの艦長が攻撃中止命令を下す。

 

「なっ!? 艦長! 何故ですかっ!?」

 

「あの2隻が向かって居る先を見ろ!」

 

「?………!? 我が艦隊の乗組員達が!?」

 

艦長にそう言われ、砲術員は初めて、自軍の乗組員達が流されていた事に気づく。

 

「まさか………あの2隻は救助に?」

 

「そんな! まだ戦闘中だってのに、態々敵である我々の仲間を、危険を冒してまで救助に向かったと言うのか!?」

 

「コレが………『武士道』か」

 

ヨークの乗組員達が困惑する中で、艦長は雷と電の姿を見ながらそう呟いた………

 

 

 

 

 

その雷と電は、漸く流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の元へと辿り着く。

 

「機関停止! O旗を上げろっ!!」

 

雷と電は、機関を止め、艦を完全に停止させると、マストに国際信号機・O旗………『海中への転落者あり』の旗を掲げる。

 

「しっかりしろーっ!」

 

「もう大丈夫だっ!!」

 

甲板に集まった両艦の乗組員達が、次々と浮き輪を投げ込み、救命ボートを降ろす。

 

「た、助かったーっ!!」

 

「敵が助けてくれるなんて………奇跡だ!」

 

流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は、雷と電に向かって必死に泳ぐ。

 

「落ち着け! 負傷者が先だぞっ!!」

 

そこで、エンカウンターの艦長がそう叫ぶと、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は負傷者や体力が限界の者達から救助して貰う様に動く。

 

雷と電の乗組員達は、救助ボートに乗せた者をラッタルを使って甲板まで上げたり、ロープを使って甲板上から直接引き上げたりする。

 

中にはじれったいとばかりに、自らの身体にロープを巻き付け、直接海へと飛び込んで救助を行う者も居た。

 

誰もが全力で、流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達を助けようとしている。

 

「クソッ! 手が足りないぞっ!!」

 

「泣き言を言うな! やれるだけやるんだっ!!」

 

しかし、漂流者の数は多く、雷と電の乗員達を持ってしても、救助が追い付かなかった。

 

と、その時………

 

雷や電の物とは別に、浮き輪や救命ボートが海上へと下ろされる。

 

「「!!」」

 

雷と電の艦長が目を見開く。

 

それは、先程まで雷と電に攻撃を加えていた筈のヨークだった!

 

ヨークの乗組員達も、全力を持って漂流者の救助作業に当たる。

 

「助けに来たぞっ!!」

 

更にそこで、護の雪風を初めとした呉校艦隊が、長門や陸奥までをも引き連れて、救助活動に参加して来た!

 

「我々も救助に参加させて貰う!」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊も同様である。

 

伊201も浮上し、艦内から現れた乗員が、救助活動を開始。

 

最早、敵も味方も、試合さえも関係無かった………

 

その海域に居た全ての動ける艦艇とその乗組員達が一丸となり、漂流者を救助して行く。

 

シーマンシップ溢れるその光景に、観客席からは割れんばかりの歓声とスタンディングオベーションが送られる。

 

『グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、フラッグ車・行動不能! 大洗機甲部隊の勝利!!』

 

そこで、審判が漸く試合の決着が着いた事に気づいて、そうアナウンスを流す。

 

だが、今の呉校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗員達には、関係の無い話であった。

 

「よし、安心しろ! もう大丈夫だ!!」

 

「ありがとう………ありがとう………」

 

1人の漂流者を救助した雷の乗組員が、その漂流者から涙と共に感謝の言葉を繰り返し受ける。

 

「…………」

 

艦橋で指揮を取りながらその光景を見守っていた雷の艦長は、再び壁に掛けてあった写真を見て、海軍式の敬礼を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その写真の人物は………

 

『工藤 俊作中佐』

 

雷の9代目艦長であり、かつてスラバヤ沖海戦にて………

 

敵である422名のイギリス海兵の命を救った、誇り高き帝国海軍の軍人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

新聞の1面には、こんな見出しが書かれた………

 

『スラバヤ沖の奇跡、再び』

 

と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

洋上でも激しい戦いが繰り広げられていました。
またも出現した伊201によって形勢が呉校側に傾きましたが………
その最中で、グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗員達が波にさらわれてしまうと言う事態が発生。
それを見た呉校艦隊の雷と電が危険を顧みずに救助に向かう。
その2艦の心意気に動かされ、やがては全艦隊が救助に参加したのだった。

ココへ訪れる方や、提督の方は良く御存じであろう、スラバヤ沖海戦で雷と電が行った敵兵の救助活動へのオマージュです。
私も初めて知った時、深く感動致しまして、多くの方に知ってもらいたいと思い、今回取り上げさせて頂きました。
また、この出来事が後々に多少影響する事になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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