ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第176話『ローズヒップの過去です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第176話『ローズヒップの過去です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

カモさんチームが撃破されながらも、尚もG地点………ゴルフ場を目指すみほ達・大洗機甲部隊の本隊。

 

と言っても、戦車はⅣ号とヘッツァーだけとなっていたが………

 

「………間も無く、予測地点です。カメさんチーム、手筈通りにお願いします」

 

するとそこで、みほがヘッツァーにそう通信を送る。

 

『りょ~か~い! しかし、西住ちゃんも無茶言ってくれる様になったねぇ』

 

茶化す様な杏の返事が返って来る。

 

「すみません………現状ではコレしか手が無くて………」

 

『気にしないで良いよ。そうしなきゃいけない事は分かってるから』

 

みほが申し訳無さそうにすると、杏は気にするなと言う。

 

『だから必ず勝て! 全てはお前に掛かっているんだぞっ!!』

 

とそこで、桃がそう通信に割り込んで来る。

 

『ちょっ! 桃ちゃん! そんな事を言ったらみほちゃんが………』

 

またも炸裂した桃の癇癪に、蛍が慌てるが………

 

「分かってますよ。いつもの事じゃないですか。もう慣れました」

 

みほからは、至って冷静な様子でそんな返事が返って来た。

 

『お、おう、そうか………』

 

こう返されてしまっては桃としても黙るしかない。

 

「では、交信終了します」

 

そしてそのまま、みほは通信を切った。

 

「みぽりん、最近舩坂くんに似て来たね」

 

とそこで、車長席のみほを見上げながら、沙織がそう言う。

 

「えっ!?」

 

「確かにそうだな………」

 

戸惑うみほを余所に、麻子がその言葉に同意する。

 

「やはり、今のみほさんが在るのは、舩坂さんの影響が大きいと言う事なんでしょうね」

 

「は、華さん!………」

 

そして華が良い笑顔でそう言うと、みほは真っ赤になって縮こまってしまう。

 

「!? 西住殿! 来ましたっ!!」

 

「!!」

 

だがそこで、優花里がそう声を挙げると、みほは立ち上がって車外へと姿を晒す。

 

そして見据えた正面には、狭い十字路を塞ぐ様に中心に陣取る、スーパーチャーチル………もとい、ブラックプリンスの姿が在った。

 

「ブラックプリンス………やっぱり来た………」

 

険しい表情で、正面のブラックプリンスを見据えるみほ。

 

先程のチャーチル・クロコダイルの襲撃の混乱の中でも、改めてグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の様子を確認していたみほは、ブラックプリンスの姿が無い事にも気がついていた。

 

そして、最も効果的な待ち伏せ地点を導き出し、予測を立てていたのである。

 

「この交差点を左折すればゴルフ場だよっ!!」

 

沙織が地図を見ながらそう言い放つ。

 

「………カメさんチーム! 行きますっ!!」

 

「あいよーっ!!」

 

みほがそう言って、杏からの返事を聞いたかと思うと、Ⅳ号が加速!

 

一気にブラックプリンスとの距離を詰める。

 

ブラックプリンスは冷静に、突っ込んで来るⅣ号に17ポンド砲を向ける。

 

「…………」

 

だが、狙いを付けられているのは明らかな筈なのに、みほは突撃を続行させる。

 

照準器にⅣ号の姿が重なる。

 

装填も終わり、後は撃つばかりである。

 

そして遂に、引き金が引かれそうになった瞬間………

 

「!!」

 

「ひゃっほーいっ!!」

 

突如Ⅳ号が減速したかと思うと、それを追い越す様にヘッツァーが前に出た!

 

すっかりフラッグ車を仕留める積りで居たブラックプリンスは、突如前に出て来たヘッツァーに戸惑い、僅かに主砲身が左右にブレる。

 

「! 今ですっ!!」

 

すると、その途端にⅣ号が再加速!!

 

僅かに辛うじてⅣ号が通れる程に空いていた左折する道を、ブラックプリンスのすぐ傍を掠める様にして擦り抜けようとする。

 

即座にブラックプリンスは発砲したが………

 

砲身がブレていた為、その砲弾はⅣ号を捉えられず、交差点横に有った建物を破壊!

 

崩れた瓦礫が交差点上に散乱する。

 

ブラックプリンスは車体を旋回させ、Ⅳ号を追撃しようとするが………

 

「させないよーっ!!」

 

杏のそう言う叫びと共に、ヘッツァーがブラックプリンスの左側面前方側に体当たりを噛ました!!

 

衝撃で、ブラックプリンスの履帯が千切れる。

 

更に今、ヘッツァーの砲口が、ブラックプリンスの左側面に接触している状態となってる。

 

しかしそこで、ブラックプリンスも砲塔を旋回させ、17ポンド砲をヘッツァーに向ける!

 

「会長ーっ!!」

 

「!!」

 

柚子が叫んだ瞬間に、杏は引き金を引き、ヘッツァーとブラックプリンスの両方から砲弾が発射される!!

 

両者の姿が爆煙に包まれ、一瞬見えなくなったかと思うと………

 

やがて煙が晴れ、両車とも白旗を上げている様が露わになる。

 

「相討ちっ!?」

 

「今だ! 突破を掛けろっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

直後に、大洗歩兵達が車輌を放棄すると、擱座しているヘッツァーとブラックプリンス、散乱している瓦礫を乗り越えて、Ⅳ号が向かった左の道へと入る。

 

「………ルフナ、行きなさい」

 

「えっ!? し、しかし………」

 

「構いません」

 

「りょ、了解!」

 

するとその直後に、ダージリンのそう言う指示が飛び、フラッグ車のチャーチルが、その自慢の走行能力を活かし、ヘッツァーとブラックプリンスを踏み越えてⅣ号を追撃する。

 

「! ダージリン様!」

 

「いけない! 追い掛けてっ!!」

 

フラッグ車を孤立させない為に、同じ車体を持つチャーチル・ガンキャリアが、同じ様にヘッツァーとブラックプリンスを踏み越えようとしたが………

 

「今だっ!!」

 

「投げられる物は全部投げろぉっ!!」

 

途端に、通路脇の建物内等に潜んでいた大洗歩兵達が一斉に姿を現し、収束手榴弾や梱包爆薬を投げつけて来た!!

 

「!? しまったっ!? Ⅳ号を追ったんじゃなかったのっ!?」

 

チャーチル・ガンキャリアの車長の悲鳴が響いた瞬間に、収束手榴弾や梱包爆薬が次々に爆発!

 

チャーチル・ガンキャリアは、ヘッツァーとブラックプリンスの上に乗っかった状態で白旗を上げる!

 

「!? しまったっ!? コレじゃ通れないっ!?」

 

上にチャーチル・ガンキャリアが乗っかった事で、交差点が更に塞がれてしまい、グロリアーナ戦車部隊はダージリンを追う事が出来なくなってしまった。

 

「我々が!!………」

 

「撃てぇーっ!!」

 

ブリティッシュ歩兵部隊が人力で瓦礫を乗り越えて進もうとしたが、そこで残っていた大洗歩兵部隊が、瓦礫や撃破された戦車を盾に、弾幕を張り始めた!

 

「「「「「! うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

瓦礫を乗り越えようと徒歩で近づいていたブリティッシュ歩兵達が蜂の巣にされ、戦死判定を受ける。

 

「進ませるな! ココで食い止めて、西住総隊長がフラッグ車を倒す時間を稼ぐんだ!!」

 

迫信がそう言い、バイポットを立てたMG34機関銃を薙ぎ払う様に掃射!

 

更には手榴弾を2つ同時に投擲する!

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それによって、複数のブリティッシュ歩兵が纏めて戦死判定を受ける。

 

「会長に後れを取るなぁっ!!」

 

「撃って撃って撃ちまくれーっ!!」

 

その戦果を見て、士気の上がった大洗歩兵部隊も次々に銃撃を浴びせる。

 

「さっきフラッグ車のチャーチルが乗り越えて行こうとした時に撃破した方が良かったんじゃないですか?」

 

「いや、敵の総隊長は我々が潜んでいた事に気づいていた。飛び出せば即座に反撃を喰らって、その間に他の部隊が乗り越えて来ただろう」

 

先程、フラッグ車のチャーチルが瓦礫等を乗り越えて行った時に撃破すべきではなかったのかと言う逞巳に、迫信はそう返す。

 

その瞬間!!

 

1騎の騎兵が、銃弾の雨の中へ突撃して来た!

 

「…………」

 

アールグレイだっ!!

 

巧みな手綱捌きで、まるで縫う様に弾丸と弾丸の隙間を抜けて来る!!

 

「クソッ! 止まらねえぞっ!!」

 

「手榴弾だっ!!」

 

そこで、大洗歩兵の1人がそう叫んだかと思うと、アールグレイに向かって手榴弾が投擲される。

 

投擲された手榴弾は、アールグレイが駆けている騎馬の足元に落ちる。

 

だが!!

 

「………!!」

 

アールグレイが愛馬の脇腹を蹴ったかと思うと………

 

何と、そのまま大跳躍!!

 

大洗歩兵部隊が盾にしているヘッツァー達の残骸を、一足で跳び越え、Ⅳ号とチャーチルが向かった先へと走り抜ける!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「しまった! 抜かれたっ!!」

 

手榴弾が遅れて爆発する中、驚愕の声を挙げる大洗歩兵部隊。

 

「アールグレイさんに続けっ!!」

 

「今こそ騎兵部隊の力を見せる時だぁっ!!」

 

だがそこで、他のブリティッシュ騎兵達も大挙して押し寄せ、次々に瓦礫と撃破された戦車の上を超えて行った!!

 

「うわっ!? コレはマズイッ!!」

 

「流石に、フラッグ車の居る本隊の護衛を任されていただけあって、精鋭の騎兵部隊だった様だね………」

 

逞巳が声を挙げる中、迫信も珍しく苦い顔を浮かべてそう言う。

 

すると、その瞬間!!

 

今度は逆に、大洗歩兵部隊が銃撃を受け始める!!

 

「クソッ! 足止めする積りが、逆に此方が足止めを喰らってるぞ!!」

 

「………後は任せるしかありませんね」

 

十河が苛立ちながらそう叫ぶ中、楓は弘樹の事を思い浮かべながらそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

市街地のとある一角では………

 

「う、撃てっ!!」

 

ねこにゃーの号令で、三式が主砲を発砲する。

 

「クッ!!………」

 

だが、クロムウェル(ニルギリ)は自慢の機動力を持って回避する。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、回避した先に待ち構えていたクロムウェル(サンショウウオさんチーム)が突撃を敢行してくる!

 

「! 左へ流してっ!!」

 

すぐさまニルギリの指示が飛ぶと、クロムウェル(ニルギリ)の車体が僅かに右へ向く。

 

クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は、クロムウェル(ニルギリ)の向けた車体左側へと接触したかと思うと、火花を散らしながら、受け流される!

 

「! 受け流されたっ!?」

 

「撃てっ!!」

 

聖子が驚きの声を挙げた瞬間に、砲塔旋回を終えていたクロムウェル(ニルギリ)は、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)に向かって発砲!

 

「! うおおおおっ!!」

 

咄嗟に唯は操縦桿を思いっきり引っ張り、全力でバック。

 

クロムウェル(ニルギリ)が放った砲弾は、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)の砲塔左側面を掠めて、火花を散らした!

 

「マシンスペックは同じ………となると、乗ってる人間の差で勝負は決まるね」

 

次弾を抱えている郁恵が、そんな言葉を呟く。

 

「………フン、だろうな………しかし、《セカンドゥム》対Ⅰ(イオタ)で翻弄されてましたとさ………ククッ、「かの者」は闇の王の如くな超越者です(訳:けど、2対1で翻弄されてます。相手は相当な実力者です)」

 

「…………」

 

今日子がそう言うのを聞きながら、聖子はクロムウェル(ニルギリ)の事を見据えて、苦い顔を浮かべる。

 

(うう~~、ローズヒップが勝手な事するから、私1人で2輌の戦車を相手にしなくちゃいけなくなってるじゃない~)

 

しかし、当のニルギリは結構いっぱいいっぱいな状態であった。

 

「他人に運命を左右されるとは意志を譲ったという事だ! 意志なきものは文化無し! 文化無くして俺は無し! 俺無くして俺じゃないのは当たり前!! だから!! 俺はやるのだ!!」

 

「上等ですわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!」

 

そのローズヒップは、相変わらず速人のM20装甲車と車体を擦り合せて火花を散らしながら、激しいデッドヒートを繰り広げていた。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「そこだ!」

 

「喰らえっ!!」

 

他の生き残っているクルセイダーやスチュアートⅢ、Ⅳも、手榴弾を野球ボールの様に投げるエースや、対戦車兵の攻撃によって、クルセイダーが3輌葬られ、スチュアートⅢ、Ⅳに至っては全滅していた。

 

無論、キツネさん分隊やタコさん分隊の被害も大きく、隆太に弁慶、ジャクソンがやられ、既に人数も半数近くが戦死判定を受けている。

 

状況は五分五分………

 

いや、元々数で劣っている大洗側が不利な状況である。

 

(何とかしてこう………流れを変えないと)

 

そんな事を思いやる聖子。

 

天性のセンスで、現在の状況が敵にペースに飲まれていると直感し、流れを変える必要があると感じたのだ。

 

だが、良い手は思い浮かばない………

 

手詰まりかと思われた、その時!!

 

『誰か応答して下さいまし! ダージリン様が孤立しました!! 向かえる者は直ちにG地点へ移動して下さいッ!!』

 

グロリアーナ&ブリティッシュ側の通信回線に、グロリアーナ戦車隊員のそう言う叫びが木霊した!

 

「えっ!?」

 

その報告に驚くニルギリ。

 

「!? ダージリン様がっ!?」

 

だが、ローズヒップはそれ以上に驚きを露わにし、顔色を変える。

 

そして、次の瞬間には、アレほどデッドヒートを繰り広げていた速人のM20装甲車からアッサリと離れ、その場から離脱を始めた!!

 

「!? オイ、如何したっ!?」

 

「ローズヒップ、何をっ!?」

 

「今お助けに参りますわぁっ!! ダージリン様ぁっ!!」

 

速人やニルギリの言葉も耳に入らず、ローズヒップは爆走する。

 

そしてそのまま、姿を消した………

 

「ちょっ!? ローズヒップッ!? ローズヒップッ!?」

 

突然いなくなったローズヒップに、ニルギリは大慌てとなる。

 

「! ねこにゃーさん! 今ですっ!!」

 

「! 分かったにゃあっ!!」

 

それをチャンスと確信した聖子は、ねこにゃーに呼び掛け、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)と三式中戦車が、同時にクロムウェル(ニルギリ)へと突撃するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

速人達との交戦を放棄し、ダージリンの元へと向かったローズヒップは………

 

「ちょっ! ローズヒップさん! 落ち着いて………」

 

「ダージリン様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」

 

押し退けられた操縦士の止める声も耳に入らない様子で、ローズヒップはアクセルを全開に吹かし、ダージリンの元へと急ぐ。

 

(絶対に! 絶対にダージリン様をやらせは致しませんわっ!! あのお方は! 私にとって!!………)

 

そう思うローズヒップの脳裏には、ダージリンとの出会いが思い起こされていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズヒップは大家族の末っ子だった………

 

食事の時間などは戦争に近く、毎日がドタバタの連続である。

 

幼き日の彼女は、そんな日々にウンザリとし始めていた。

 

そして、ある日………

 

彼女の人生を一転させる、ある出来事があった………

 

それは、とある日に………

 

学校の帰りにそのまま友人宅へと遊びに行き………

 

つい夢中になって連絡も無しに日が沈むまで遊び呆けていた………

 

だが、慌てて帰宅した彼女を迎えた母親から出た言葉は、叱咤の言葉ではなく………

 

『アラ? アンタ、居なかったの?』

 

と言う言葉だった………

 

大家族の母親として、多忙な毎日を送っていた母親にしてみれば、疲れから思わず出てしまった言葉だったのだが………

 

それ以来、ローズヒップはある思いを抱く事になった………

 

『自分は居ても居なくても大して変わらない人間なのではないか?』と言う思いを………

 

その思いは、やがて彼女を非行に走らせた………

 

荒れた彼女を、自分達が原因だと思っている家族は止める事が出来なかった………

 

やがてローズヒップは、戦車暴走族へと誘われ、そのまま族入り。

 

走っている間………風を感じている間は嫌な事を忘れていられる………

 

そう感じた事で、戦車で暴走する毎日を繰り返していた。

 

そんなある日だった………

 

ダージリンと出会ったのは………

 

『貴方、良い走りをしているわね。私の部隊に入って一緒に戦いなさい』

 

彼女から発せられた第1声がそれだった………

 

自己紹介やローズヒップの事を尋ねるよりも先に、自分の部隊に入って一緒に戦え………

 

何とも高圧的なスカウトである。

 

当然、ロースヒップはその場で蹴った。

 

だが、当然それで諦めるダージリンではない。

 

次の日から、事ある毎にローズヒップの前に現れてはスカウトを繰り返した。

 

1週間が経過した頃には、ローズヒップもブチキレて、そのまま売り言葉に買い言葉で、レースで対決して自分が負けたら入ってやると言ってしまったのが運の尽き………

 

バリバリにチェーンした改造戦車を駆るローズヒップに対し、ダージリンは何時ものチャーチル………それも自らが運転してである。

 

チャーチルの鈍足を知っていたローズヒップは、勝負はもう勝ったも同然だと確信していた。

 

だが、勝ったのはダージリンであった………

 

チャーチルの鈍足を、走行能力でカバーし、道無き道を突き進んで悉く先回り。

 

そのままゴールを掻っ攫った。

 

しかも、いつもの様に紅茶を1滴も零さずに………

 

絶対の自信を持って挑んだ勝負に負けた事で、ローズヒップのプライドはズタズタだった。

 

最早如何でも良いと、ダージリンのスカウトを受けた………

 

彼女が聖グロリアーナ女学院の生徒である事は知っており、自分の頭と経済事情では入学は当然無理であろうし………

 

何より、族を辞めると言う事は、仲間からケジメと言う名の集団リンチを受ける事になる………

 

最悪、命まで失う事になるかも知れない………

 

だが、生きがいを無くしたローズヒップにはそれすらも如何でも良く、ケジメの場に顔を出した。

 

「アラ? 貴方にしてはゆっくりとした到着でしたわね。少々待ちくたびれてしまいましたわ」

 

しかし、そこで見たのは、そう言う台詞と共に紅茶を飲んでいたダージリンと………

 

その後方で、何故かズタボロの状態で警察に連行されている族仲間達の姿だった。

 

その時のローズヒップの唖然とした顔は今思い出しても笑える………

 

後にダージリンはそう語った。

 

その後、ダージリンはローズヒップに付きっきりで勉強を教え、それなりの成績を要求されるグロリアーナの編入試験に、赤点ギリギリながらも合格。

 

しかも、戦車道の才能有りと言うダージリンの推薦が通り、特待生に認定され、学費は免除された。

 

名誉とされるティーネームまで与えられ、正に至れり尽くせりである。

 

何故そこまでしてくれるのか?………

 

どうしても腑に落ちないローズヒップはダージリンにそう尋ねた。

 

するとダージリンは………

 

『私は貴方を必要としているからよ。それでは不満?』

 

満面の笑みでそう言うダージリンに、ローズヒップはこの上ない感銘を受けた………

 

それ以来、ローズヒップはダージリンの事を尊敬し、彼女の為に働く事を決意。

 

苦手だったお嬢様言葉も必死に覚え、グロリアーナ伝統の紅茶を零さない走りもマスターした。

 

………実際のところはどちらも完璧に修得出来ているとは言い難いのだが、

 

『貴方は貴方らしくありなさい。私が許しますわ』

 

他ならぬダージリンからそう言われ、ローズヒップのダージリンへの忠誠度は益々上がって行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在………

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「ダージリン様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そのダージリンが危ないのである。

 

ローズヒップに急がない理由は無かった。

 

「リミッター外しちゃいますわよーっ!!」

 

「!? ちょっ!? ローズヒップさんっ!?」

 

操縦士が止める間も無く、ローズヒップはクルセイダーの調速機を解除する!

 

途端に、クルセイダーの速度が格段にアップする!

 

しかしコレは、クルセイダー自身の故障率を高めてしまう諸刃の剣である。

 

「ダージリン様! 今参りますわぁーっ!!」

 

だがそれでも、彼女はダージリンの元へ最速で駆け付ける事を選択したのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回の話はタイトル通りに、ローズヒップの過去について描写させていただきました。
登場時にもありました様に、私の作品では、ローズヒップは元不良娘と言う設定になっています。
最初にローズヒップを見た時、『不良娘が無理してお嬢様っぽく振舞おうとしている』と言う印象を受けたのが元でして………

そして、グロリアーナの犬キャラとも言われているので、元不良娘が如何にしてダージリンに忠誠を誓う様になったのかを私なりに書いてみました。
しかし………
自分で書いておいてなんですが、これダージリンが何者だよ!?って感じになってますね(笑)
まあ、私の中のダージリンはこういう不敵な強キャラって感じなので………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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