ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第17話『大乱戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第17話『大乱戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹の故郷である、栃木の山奥にある………

 

田舎の農村で、天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合を開始した大洗機甲部隊。

 

ジョロキア歩兵部隊が駆る象部隊を相手に、一時は窮地に追い込まれたが………

 

白狼の機転を利かせたアイデアで………

 

象達をジョロキア歩兵部隊から引き剥がす事に成功した。

 

そして、弘樹達はジョロキア歩兵部隊と交戦を開始し、戦車部隊と分断。

 

歩兵部隊VS歩兵部隊と戦車部隊VS戦車部隊の対決へと持ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

起伏の緩やかな森林地帯の中………

 

「象さん此方! 手の鳴る方へってなぁっ!!」

 

ピーナッツを使い、象達をジョロキア歩兵部隊から切り離した白狼は、そのまま象に追われながら、自転車で森林の中を逃げ回っていた。

 

象達は速歩きで白狼へと何度も迫ろうとするが、白狼は上手く木々の間を擦り抜けて、象達に追い付かれない様にする。

 

と、そこで………

 

白狼の前方に、渓流が広がった。

 

「よおし! 大分引き離したな………この辺で戻るか」

 

その渓流の手前で停止すると、もう十分に引き離したと思い、ピーナッツの袋を投げ捨てようとする白狼。

 

その瞬間!!

 

突如として象の咆哮が響いたかと思うと、今度は木々を踏み散らす様な音が聞こえて来る!

 

「!?」

 

何だ!?と思って白狼が、その音がした方向を見やると………

 

何と象達が、木々を踏み散らして白狼の方へと向かって来ていた!!

 

我慢の限界だったのか、それとも単純に長いお預けを喰らってイラだったのか、象達はかなり興奮している様子である。

 

「! ヤバイッ!!」

 

コレはマズイと思い、慌ててピーナッツの入った袋を投げ捨てる白狼。

 

だが、時既に遅しっ!!

 

興奮していた象達は、白狼がピーナッツの袋を投げ捨てたのに気付かず、そのまま長い鼻で白狼を自転車ごと弾き飛ばす!!

 

「!? おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

弾き飛ばされた白狼は、そのままブッ飛ばされ、水柱を立てて渓流へと落ちた。

 

そして象達は、ピーナッツが落ちているのに気づくと、落ちた白狼には目も暮れず、ピーナッツを食べ始める。

 

「ブハッ! チキショウめっ!!」

 

と、川に沈んでいた白狼が、悪態と共に自転車を片手に浮上する。

 

「クソッ! こっからじゃ上がれそうにないか………」

 

自転車を持ったままではこの渓流は上がれないと悟った白狼は、上陸出来る場所を探して、渓流の中を泳ぎ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃………

 

ジョロキア歩兵部隊から引き剥がした、天竺戦車部隊に追われている大洗戦車部隊は………

 

あんこうチームのⅣ号を先頭に、カメさんチーム、アヒルさんチーム、カバさんチーム、ウサギさんチームの順で縦隊を取り、森の中の一本道を走っている。

 

『ウサギさんチームよりあんこうチームへ! 天竺戦車隊が追い付いて来ました!!』

 

すると、最後尾に居て後方を警戒していたウサギさんチームの梓から、あんこうチームの沙織へそう通信が送られる。

 

「! みぽりん! 来たよっ!!」

 

「!!」

 

沙織から報告を受け取ると、みほはハッチを開けてキューポラから姿を現し、後方を確認する。

 

すると、最後尾のウサギさんチームのM3リーのやや向こうの方から、土煙を挙げて大洗戦車達と同じ様に恐らくローリエとルウが乗ってると思われるコメットを先頭に、縦隊で進んで来る天竺戦車隊の姿が確認出来た。

 

「流石は巡航戦車。スピードが凄いですね」

 

と、装填手席のハッチも開き、姿を現した優花里がそう言って来る。

 

「このままでは追い付かれてしまうのでは?」

 

砲塔内から、華がみほにそう言う。

 

「大丈夫。もうすぐ『例の地点』だから、今のまま行けば振り切れると思う」

 

しかしみほは、華にそう返す。

 

「皆さん! 事前に立てた作戦通りにお願いします! 歩兵部隊の皆さんが敵の歩兵部隊を食い止めている間に決着を着けます!!」

 

『りょーかい!』

 

『分かりました!』

 

『ヤヴォール!』

 

『ハイ! 今度は逃げませんから!!』

 

みほが喉頭マイクを通じてそう呼び掛けると、カメさんチームの杏、アヒルさんチームの典子、カバさんチームのエルヴィン、ウサギさんチームの梓からそう返事が返って来る。

 

「麻子さん! 速度を上げて下さい!」

 

「ほい………」

 

それを確認すると、みほは今度は操縦席の麻子に指示を出す。

 

そして麻子が何時もの気の無い返事を返すと、Ⅳ号の速度を上げる。

 

それに続く様に、他のチームの戦車も速度を上げる。

 

「アラ? コッチに気付いたみたいね?」

 

「フフ………巡航戦車の速度から逃れられると思っているのか」

 

照準器越しに大洗戦車隊を見ていたローリエが、場違いなくらい穏やかな口調でそう言うと、操縦席のルウがそう言い放つ。

 

「油断しちゃ駄目よ、ルウ。多分、敵は何かを考えてるわ」

 

「なら、その前に潰してやるまでさ!」

 

ローリエが戒める様にそう言うが、ルウはそう返してコメットを更に加速させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ジョロキア歩兵部隊と交戦している大洗歩兵部隊は………

 

「敵軍、前進中!」

 

「俺は攻撃を行う! 援護せよぉっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「手榴弾だ! 爆発するぞーっ!!」

 

「砲兵隊向けの標的が在る!!」

 

「敵は強過ぎるっ!」

 

「俺は防衛を行う! この位置を保てぇーっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「1人倒したっ!!」

 

「おみごとぉっ!!」

 

「大和魂を見せてやるーっ!!」

 

「敵の潜水艦を発見っ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

両者が戦っている戦場では、爆発音や銃撃音に混じって、両軍の怒声や罵声が交差している。

 

「オラオラァッ! 大洗を舐めるんやないでぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「いてこますぞコラァーッ!!」」」」」」」」」」

 

そんな中で、果敢に敵軍の中へと攻め入っているのが、大河を中心とした大洗連合の歩兵達。

 

そして………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! 野郎共ぉっ! 俺達の特技は何だぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「この試合の目的は何だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「俺達は歩兵道を愛しているかぁっ!? 大洗を愛しているかぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「ガンホーッ!! ガンホーッ!! ガンホーッ!!」」」」」」」」」」

 

「ならば敵に目にもの見せろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

武志を中心とした大洗国際男子校ラクビー部員達の歩兵メンバー達だった。

 

特にラクビー部員の方は凄まじい士気を誇っている。

 

全員の目から殺る気が迸っている。

 

「な、何だアイツ等ぁっ!?」

 

「ひいいっ!? 殺されるぅっ!?」

 

「逃げろぉっ!!」

 

その気合(殺気)溢れるラクビー部員歩兵を前にしたジョロキア歩兵部隊の中には、思わず敵前逃亡をし始める者まで出る程だった。

 

「オイッ!? コラッ!! 何処へ行く!?」

 

「逃げるな! この腰抜けぇっ!!」

 

慌てて他の歩兵達が呼び止めようとするが………

 

「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

その内の1人に、武志がラクビー仕込みの殺人タックルを食らわせる!!

 

「!? ゲボゴハァッ!?」

 

タックルを食らったジョロキアの歩兵は、身体がくの時に曲がり、口から光るものを飛び散らせて気絶する。

 

無論、戦闘服を着ているので、命の保証はされ、深刻な怪我は無いが、かなりの痛みを味わっているだろう。

 

そんなジョロキアの歩兵を、武志は容赦無く、サブウェポンの十四年式拳銃でトドメを刺し、戦死判定とさせる。

 

「くたばれぇーっ!!」

 

更に、ラクビー部員の突撃兵が、ラクビーボール宜しく、M39卵型手榴弾をキックして飛ばした!!

 

「「「「「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ジョロキアの歩兵達が5人纏めて吹き飛ばされる。

 

「ヒイイッ!?」

 

そんな様子を見て、ジョロキア歩兵部隊からはまたも悲鳴が挙がるが………

 

「狼狽えるな! 俺達は誇り高きジョロキア歩兵隊だぁっ! 自慢のムエタイを見せてやれぇっ!!」

 

そこでキーマが、味方を鼓舞する様にそう叫んだ。

 

「! そうだ! 俺達はジョロキア男子高校の歩兵部隊っ!!」

 

「立ち塞がる敵は! 全て粉砕するのみっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その鼓舞に士気を持ち直したジョロキア歩兵部隊の面々は、一部の者達が乱戦状態を逆手に取り、武器を捨ててムエタイで戦い始める。

 

「ぐああっ!?」

 

「凄い肘打ちと膝打ちだっ!!」

 

「コレが立ち技最強のムエタイかっ!?」

 

立ち技世界最強と名高い格闘技、ムエタイでの攻撃に、大洗歩兵部隊にも大きな被害が出始める。

 

戦いは一進一退であった。

 

「砲兵隊! 援護砲撃は出来ないのかっ!?」

 

「無茶言うな! 敵も味方も入り乱れてるんだ! こんな状況で砲撃出来るかぁっ!!」

 

「僕達は敵の砲兵隊を叩きます! 申し訳ありませんが! 皆さんは自力で頑張って下さいっ!!」

 

海音が後方の砲兵隊に向かってそう叫ぶが、砲兵隊の中に居た明夫と誠也からそう言う返事が返って来る。

 

「よおし、良いぞぉっ! このまま押せぇっ!!」

 

更に味方を鼓舞する様に叫ぶキーマ。

 

と、その瞬間………

 

「………!!」

 

何か嫌な予感がし、キーマはその場からバッと飛び退く。

 

すると、先程までキーマが居た場所に、2発の大口径弾が着弾し、土片を舞い上げた!!

 

「!!」

 

すぐにキーマは、その弾丸を撃ってきた主を確認する。

 

「…………」

 

それは、シモノフPTRS1941を両手に握り、腰だめに構えている陣だった。

 

「オイオイ………対戦車ライフルを両手に持って腰だめ撃ちだなんて………どんな身体してんだよ」

 

その陣の姿に、キーマは呆れる様な笑みを浮かべたが、その頬には戦慄の冷や汗が流れる。

 

「………!!」

 

そんなキーマの心情を知ってか知らずか、陣は再び両手に持ち、腰だめに構えていたシモノフPTRS1941を発砲する!!

 

「!! うおおっ!?」

 

「!!」

 

間一髪で回避するキーマだが、陣は次々に14.5mm弾を放つ!

 

「チイッ! この化け物めぇっ!!」

 

「副隊長っ!! 援護しますっ!!」

 

とそこで、キーマが苦戦しているのを見た突撃兵の1人が、陣にクラッグ・ヨルゲンセン・ライフルを向ける。

 

「………!!」

 

だが陣は即座にその突撃兵の存在に気づき、左手で持っていたシモノフPTRS1941を向け、発砲した!!

 

「ぐあああっ!?」

 

真面に14.5mm弾を食らった突撃兵が、もんどり打って倒れ、戦死判定を下される。

 

「チャパティッ!! この野郎っ!!」

 

とその瞬間に、キーマはGew71に銃剣を着剣し、陣に向かって突っ込んだ。

 

「!!………」

 

陣はすぐに右手のシモノフPTRS1941を向けたが………

 

「舐めるなぁっ!!」

 

キーマは、着剣したGew71を使って、シモノフPTRS1941を弾き、明後日の方向を向けさせた!

 

「!?………」

 

陣の目が驚きで見開かれる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

そのまま銃剣を陣に突き刺そうとするキーマ。

 

「!!………」

 

すると何と!!

 

陣は、突撃兵を迎撃する為に向けていた左手のシモノフPTRS1941を腰だめのまま、身体を使ってフルスイングし、銃身でキーマの横腹を殴りつけた!!

 

「!? ゴハッ!?」

 

思わぬ反撃に、キーマは地面の上を転がる。

 

「!!………」

 

そのままトドメを刺したかった陣だが、距離が近かった為、長いシモノフPTRS1941は使えず、止むを得ず一旦後退するのだった。

 

 

 

 

 

一方、此方は………

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「如何した如何したぁっ!!」

 

ガラムとマサラは、双子の兄弟ならではコンビネーションを繰り出し、大洗歩兵部隊を攪乱する。

 

「ぐああっ!?」

 

「クソォッ! 弾幕を張れっ!!」

 

「そうはさせん!」

 

九二式重機関銃で弾幕を張ろうとしていた大洗の突撃兵達目掛けて、パンツァーファウストを放つマサラ。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

対戦車用の武器とは言え、爆風を諸に浴び、九二式重機関銃で弾幕を張ろうとしていた大洗の突撃兵達は戦死判定を受ける。

 

「クソッ!!」

 

「そこかっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

それを見た大洗の偵察兵が、パンツァーファウストを使えない様に肉薄し、十一年式軽機関銃をマサラへ向けたが、その瞬間にガラムのRifle No.5 Mk 1『ジャングル・カービン』によって狙撃され、戦死と判定される。

 

「「俺達兄弟のコンビを破れるものかっ!!」」

 

勝ち誇るかの様に背中合わせとなり、シンクロしてそう言い放つガラムとマサラ。

 

すると………

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトが辺りを銃声と爆発音が支配する戦場に響き渡ったかと思うと、ガラムとマサラの正面の地面が爆ぜ、人影が飛び出した!!

 

「「!?」」

 

地中より飛び出した人影は、ガラムとマサラの驚きを余所に、空中で前方宙返りを決め、更に錐揉みし、最後には後方回転しながら前に飛ぶと言う、岡元次郎めいたアクションを決め、2人の目の前に着地する。

 

「ドーモ。ガラム=サン。マサラ=サン。葉隠 小太郎です」

 

その人物………小太郎は、ガラムとマサラに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ガラムです」

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。マサラです」

 

すると、ガラムとマサラも、ムエタイのワイクルーめいたポーズを取りながらアイサツを返す。

 

ワザマエ!

 

如何やらこの兄弟2人は、ニンジャとしての心得も有る様だ。

 

アイサツはニンジャのイクサにおける絶対の礼儀。

 

どんな憎しみがあろうとも絶対に欠かしてはならない、と古事記にも書いてある。

 

アイサツの最中に攻撃する事は、スゴイシツレイであり、仲間からもムラハチにされかねない。

 

「貴様等………ニンジャの心得があるか………ニンジャ殺すべし。慈悲は無い」

 

アイサツを返された事により、2人が相当の手練れだと感じ取った小太郎は、目つきを鋭くし、チャドーの呼吸法を発動。

 

ジゴクめいたアトモスフィアが、小太郎の身体から立ち上る。

 

そして次の瞬間!!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎のニンジャシャウトが響き渡ったかと思うと、小太郎の右腕が鞭の様に撓り、2枚のスリケンが、ガラムとマサラ目掛けて射出された!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

しかし!!

 

飛んで来たスリケンを、ガラムは肘打ち、マサラは膝蹴りによって、明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

ナムサン!

 

ジョロキア男子校得意のムエタイカラテだ!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎は再び右腕を鞭の様に撓らせ、2枚のスリケンを射出する!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

ガラムとマサラは、再びムエタイカラテの肘打ちと膝蹴りで明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

「如何した? 貴様のニンジャカラテはそんなものか?」

 

「所詮はサンシタのニンジャ。我等兄弟の敵では無い様だ。ユウジョウ!」

 

「ユウジョウ!」

 

小太郎を嘲笑いながら、ガラムとマサラは兄弟の友情を確かめ合う。

 

「…………」

 

小太郎は平静な態度を維持している様に見せながら、メンポの下で冷や汗を掻いていた。

 

敵はかなりの使い手………

 

しかも2人と来ている。

 

対する小太郎は1人………

 

2人と1人では、どちらが有利かは明らかだ。

 

2人が本気で一斉に小太郎に掛かって来たら、小太郎を倒す事などベイビー・サブミッションである。

 

ココは一気に勝負を急ぐ。

 

小太郎はそう決めると、再びチャドーの呼吸法によって、カラテを高める。

 

「イヤーッ!!」

 

そして三度!!

 

右腕を鞭の様に撓らせ、2枚のスリケンを射出する!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

ガラムとマサラは、ムエタイカラテの肘打ちと膝蹴りで、スリケンを明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

しかし!!

 

それこそが小太郎の狙いだった!!

 

ムエタイカラテを繰り出したガラムとマサラの動きが一瞬止まり、一瞬だけ身動きが取れなくなる。

 

ならば、それを超える速度でスリケンを投げ続ければ良いのだ!

 

『力に力で対抗してはならぬ………速さで行くと決めたならば、飽く迄も速さを貫き通すべし。100発のスリケンで倒せぬ相手には、1000発のスリケンを投げるのだ』

 

メンターである祖父から授かったファースト・インストラクションが、小太郎の脳裏に響いた。

 

これぞ! インストラクション・ワン!!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎はピッチングマシーンの様に両腕を互い違いに回転させ、0コンマ5秒毎の速度でスリケンを投げつけた。

 

「イヤーッ!!」

 

「「イ、イヤーッ?!」」

 

ガラムとマサラは、ムエタイカラテを止める暇がなく、身動きが取れない事に気付いた。

 

「イヤーッ!!」

 

「「イ、イヤーッ?!」」

 

そして小太郎は、動きを止められていたガラムとマサラに接近する!!

 

「慈悲は無い!!」

 

必殺のカラテチョップが、ガラムとマサラ目掛けて繰り出される!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ターメリックと対峙していた弘樹は………

 

「せやあぁっ!!」

 

「むんっ!!」

 

弘樹の銃剣を着剣した三八式歩兵銃の袈裟懸けを、二振りの宝剣を使って、往なす様に捌くターメリック。

 

「!!」

 

だが、銃剣を着剣した三八式歩兵銃を振り終えた弘樹は、右手を素早く腰の愛刀・英霊の柄へと掛け、そのまま居合抜きの様に抜刀してターメリックに斬り付ける!

 

「!?」

 

一瞬驚いた表情を見せたターメリックだが、ボクシングのスウェーの様に上体を反らしてかわそうとする。

 

弘樹の英霊の刃が、ターメリックの顎先を掠める。

 

すると!

 

その状態のターメリックから、弘樹の顔目掛けて蹴りが繰り出される!

 

「!? ぐっ!?」

 

咄嗟に首を捻ったものの、米神の辺りに命中し、弘樹はフラ付く。

 

「むうんっ!!」

 

その弘樹に向かって、インドラとカルラを振るうターメリック。

 

「!?」

 

弘樹は一瞬飛びかけていた意識を無理矢理引き戻し、三八式歩兵銃を投げ捨てると、英霊を両手で握ってターメリックの剣を2刀とも受け止める。

 

「ぐううっ!!」

 

「ぬううんっ!!」

 

そのまま鍔迫り合いへと発展する2人。

 

力任せに押し切ろうとするターメリックだったが………

 

「………!」

 

弘樹はそれを見越し、態と一瞬力を抜いた!

 

「!?」

 

突然力を抜かれて、ターメリックは姿勢が崩れる。

 

「ハアッ!!」

 

その瞬間を見逃さず、弘樹はターメリックの胸に正拳突きを食らわせるっ!!

 

「ぬううっ!?」

 

真面に食らったターメリックは後ろへと下がったが、すぐに踏み止まった。

 

「!!………」

 

一方の弘樹は、正拳を繰り出した手を痛そうに振っている。

 

(何て身体をしているんだ………まるで鉄板を殴った様だ)

 

手に走る鈍い痛みを感じながら、弘樹は心の中でそう思う。

 

「………流石だ、舩坂 弘樹。伝説の英霊の血を引いているだけの事はある」

 

とそこで、不意にターメリックが、弘樹に向かってそんな事を言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹はそれに返事はせず、油断無くターメリックの姿を見据える。

 

「だが、俺とて『虎殺しの蛇王』と呼ばれた男だ………貴様には負けんぞ」

 

すると、ターメリックはそう言葉を続け、ムエタイとは違う、特徴的な構えを取る。

 

(!! あの構えは………)

 

弘樹がその構えに見覚えを感じていると………

 

「舩坂分隊長っ!! 助太刀致しますっ!!」

 

弘樹が苦戦していると見た、とらさん分隊の突撃兵の1人が、銃剣を着剣した三八式歩兵銃でターメリックに突撃した!

 

「! 待てっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

止める言葉も届かず、銃剣を着剣した三八式歩兵銃を振り被る様にしてターメリックへ突きを食らわせようとすとらさん分隊の突撃兵。

 

「! むうんっ!!」

 

ターメリックはインドラとカルラを腕ごと振り回す様にして、とらさん分隊の突撃兵が構えていた銃剣を着剣した三八式歩兵銃を弾き飛ばした!

 

「なっ!?」

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

驚くとらさん分隊の突撃兵を、ターメリックはまるで踊る様な動きで連続で斬り付ける!

 

「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

目にも止まらぬ連続攻撃を受け、とらさん分隊の突撃兵はその場に倒れると戦死と判定された。

 

「やはり………『カラリパヤット』」

 

その様子を見ていた弘樹が、ターメリックの動きがインドに伝わる武術………『カラリパヤット』である事を確信する。

 

「ムエタイだけではない。我々ジョロキア歩兵部隊はカラリパヤットも得意としている」

 

独特の構えを取りながら、ターメリックは弘樹にそう言い放つ。

 

彼の言葉通り、白兵戦を展開しているジョロキア歩兵達の中には、ムエタイの他にカラリパヤットを使っている者達が多々見受けられた。

 

「…………」

 

そんな中で、英霊を中段に構え、摺り足でジリジリと移動を始める弘樹。

 

「…………」

 

するとターメリックも、同じ様に摺り足でジリジリと移動を始める。

 

「「…………」」

 

お互いに相手の行動を注意深く窺いながら、円を描く様に移動し、ジリジリと距離を詰めて行っている。

 

両者の間には凄まじい緊迫感が漂っており、僅かな切っ掛けで激突するであろう。

 

と、その時!!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

2人の近くで戦っていたジョロキアの突撃兵が、ヘッドショットを食らって倒れ、投げようとしていた手榴弾が転がった。

 

転がった手榴弾が爆発し、土煙を上げる。

 

「「!!」」

 

それが切っ掛けとなり、両者はダッと相手に向かって駆け出す!!

 

「チェストオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

走りながら、英霊を大上段に構え直し、独特の掛け声とともにターメリック目掛けて一気に振り下ろす弘樹。

 

「!!」

 

しかし、ターメリックは身を翻す様に身体を独楽の様に回転させてかわすと、その勢いに乗せたまま、インドラとカルラの横薙ぎで斬り付けようとする。

 

「!!」

 

だが、弘樹はそれを読んでおり、振り下ろし切ったと思われた英霊が、グンッとV字を描く様に軌道を変え、ターメリックへと向かった!

 

「! 燕返しっ!!」

 

ターメリックは驚きながらも、バックステップを踏む様に距離を取り、弘樹の返す英霊をかわす。

 

「セエエイッ!!」

 

だが、弘樹の攻撃は止まず、英霊を水平にしたかと思うと、連続で突きを放ち出す。

 

「フッ! ハアッ! トアアァッ!」

 

しかし、ターメリックはそれを全て踊る様な動きの剣さばきで捌いていく。

 

「!!」

 

とそこで、弘樹は不意を衝く様に下段蹴りを繰り出し、ターメリックの足を払った!!

 

「!? ぬあっ!?」

 

突然足を払われ、ターメリックは強かに背中を打ちつける様に倒れる。

 

「セイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

倒れたターメリック目掛け、英霊を思いっきり振り下ろす弘樹。

 

「!!」

 

だが、ターメリックは倒れたまま、インドラとカルラで弘樹の英霊を受け止める。

 

「! セイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

弘樹は軽く驚きながらも、反撃する隙は与えまいとすぐに英霊を引いて、再度振り下ろしを見舞う。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、ターメリックは今度は右手のインドラだけを使って英霊を受け止めると、一旦左手のカルラを手放し、英霊を握っていた弘樹の両手の手首を左手だけで掴み、倒れたまま投げ飛ばす!

 

「!? おうわっ!?」

 

ほぼ空中で1回転してから、ターメリックと同じ様に背中から地面に打ち付けられる弘樹。

 

「!!」

 

それでも受け身を取ってダメージを軽減し、すぐに立ち上がる。

 

「!!」

 

その隙にターメリックも立ち上がると、手放していたカルラを再び握り、弘樹へと斬り掛かる。

 

「!?」

 

咄嗟に防御の構えを取る弘樹。

 

ターメリックの攻撃を受け止めると、腕にまで衝撃が走る!

 

「(ぐうっ!!)デヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

力任せにターメリックを弾き飛ばす弘樹。

 

「くうっ!」

 

弾き飛ばされたターメリックは態勢を立て直しつつ、再びカラリパヤットの独特な構えを取る。

 

「…………」

 

弘樹も英霊を中段に構え、再び両者の睨み合いが展開される………

 

………かと思われた、その時!!

 

「退け退けぇっ!!」

 

数名のジョロキア歩兵が乗ったくろがね四起が、弘樹とターメリック目掛けて走って来る。

 

「「!?」」

 

2人は咄嗟に道を譲る様に飛び退く。

 

「くろがね四起が奪われたか!………」

 

着地を決めた弘樹がそう声を挙げた瞬間………

 

「よおし! このまま戦車隊の援護に向かうぞっ!!」

 

「「「おおぉーっ!!」」

 

奪ったくろがね四起に乗って居たジョロキアの歩兵達がそんな声を挙げた。

 

「!! そうはさせんっ!!」

 

それを聞いた弘樹は、即座にくろがね四起を追う。

 

その途中、ボーイズ対戦車ライフルが落ちていたのを見つけると、握っていた英霊を納刀し、即座にそれを拾い上げる。

 

「!!」

 

そして、鹵獲されたくろがね四起に向かって腰だめで構えると、即座に発砲する!!

 

13.9mm弾が、くろがね四起の左後輪を吹き飛ばす!

 

「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」

 

左後輪を失ったくろがね四起は、横滑りした後に横転し、爆発・炎上。

 

乗って居たジョロキアの歩兵達は全員巻き込まれ、戦死と判定された。

 

「良し………」

 

「テリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

とそこで、背後からターメリックがインドラとカルラで斬り掛かって来る!!

 

「!?」

 

すぐさまボーイズ対戦車ライフルを捨てると、再び英霊を抜こうとした弘樹だったが………

 

「遅いっ!!」

 

ターメリックが振ったインドラとカルラが早く、弘樹が抜こうとしていた英霊は弾き飛ばされ、離れた場所の地面に突き刺さった。

 

「!? しまったっ!!」

 

そう言いながらも、即座にターメリックから距離を取ると、右腰に下げていたホルスターから十四年式拳銃を抜き、ターメリックに向けて牽制する。

 

「戦いの最中に他の事に気を取られるとは………迂闊だな」

 

「…………」

 

ターメリックの指摘に、弘樹は反論する様な素振りを見せず、ただ油断無く十四年式拳銃を構える。

 

「言っておくが、銃を持っているからと言って優位だと思わない事だ。この距離ならば貴様が引き金を引くよりも早く斬る事が出来る」

 

インドラとカルラを擦り合せて金属音を鳴らしながら、ターメリックはそう言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹の頬を冷たい汗が流れる。

 

彼の言っている事は本当だろう。

 

彼ほどの達人ならば、銃を撃つよりも早く斬り込む事など容易い。

 

傍から見れば弘樹が優位に立っている様に見えるが、実際は弘樹の方が追い込まれている状況なのだ。

 

(だが、このままで居るワケにもいかん………一か八かだ)

 

だが、何時までもこの状況を続けるワケには行かないと思った弘樹は、一か八か勝負を仕掛ける事にした。

 

十四年式拳銃を右手で握ったまま、左手を腰のホルスターに掛けてあった九九式手榴弾に手を伸ばす。

 

「させるかぁっ!!」

 

しかし、その瞬間にターメリックは踏み込み、高速で弘樹へと斬り掛かる!

 

(駄目だ! 早い!!)

 

バックステップを踏みながら、十四年式拳銃を発砲しようとした弘樹だが、ターメリックの踏み込みは早くて深く、引き金を引く前に斬られてしまう事は明らかだった。

 

だが、その瞬間!!

 

突如として弘樹とターメリックの間に人影が割って入り、ターメリックのインドラとカルラを刀で受け止めた!

 

「!? 何っ!?」

 

「!?」

 

ターメリックと弘樹は、驚きながらその人影を見やる。

 

「…………」

 

それは、愛刀である刃渡りが長く広い軍太刀『戦獄』を握った熾龍だった!

 

「栗林先輩!」

 

「何をしている………さっさと刀を拾え」

 

驚いている弘樹に向かって、熾龍はそう言い放つ。

 

「!!」

 

その言葉で、弘樹は即座に英霊の元へと走った。

 

「チイイッ! 邪魔をするなっ!!」

 

踊る様な動きで、熾龍に向かって次々に斬撃を繰り出すターメリック。

 

「…………」

 

しかし、熾龍は鋭い目つきの仏頂面を浮かべたまま、その斬撃を全て往なす。

 

しかもその場から動かずに。

 

(コイツ! どれだけの手練れだ!?)

 

熾龍のその強さに戦慄しつつも、斬撃を繰り出し続けるターメリック。

 

「!!」

 

だがその瞬間、弘樹が英霊を回収する。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そして、即座にターメリックへと斬り掛かって行く。

 

「フッ!………」

 

それと同時に、熾龍も防御から攻撃へと転じる

 

「! チイッ!!」

 

ターメリックは舌打ちをしながらも、インドラとカルラで熾龍の戦獄と弘樹の英霊の斬撃を捌いて行く。

 

(クッ! 2人掛かりでも往なすか………だが、今暫く時間を稼げば………)

 

2人掛かりでも攻撃を往なすターメリックに内心で戦慄しながらも、そう思いやる弘樹。

 

「例え2人掛かりでも、俺を倒す事は出来んぞ!!」

 

ターメリックは、弘樹と熾龍に向かってそう言い放つ。

 

「いや………倒す必要は無い」

 

「その通りだ………」

 

しかし、弘樹と熾龍からはそんな言葉が帰って来た。

 

「!? 何だと!?」

 

と、その言葉の意図を見抜けなかったターメリックがそう声を挙げた瞬間………

 

遠方から爆発音が聞こえて来た!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その爆発音を聞いた、大洗・ジョロキア両歩兵部隊の動きが止まる。

 

『そこまで! 試合終了っ!!』

 

そして、審判であるレミの試合終了を告げるアナウンスが響いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

天竺ジョロキア機甲部隊を分断した大洗機甲部隊。
みほが何か作戦を考えている中、敵の歩兵部隊と必死の戦いを繰り広げる弘樹達。
エース達の激しい戦闘が行われる中、敵の歩兵隊隊長であるターメリックに苦戦する弘樹。
しかし………
彼の目的は敵の歩兵に勝つ事ではなく、時間を稼ぐことにあった。
そこへ響く試合終了のアナウンス。
果たして勝ったのは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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