ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第162話『逆転作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第162話『逆転作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

「クッ! すまない! やられたっ!!」

 

牽引車で引かれながら8.8 cm PaK 43を撃っていた紫朗の砲兵部隊が、直撃弾を貰う。

 

「コレで砲兵は完全に全滅だ!」

 

「もう少しです! 皆さん! 頑張って下さいっ!!」

 

俊がそう言う中、みほはそう声を挙げ、残存大洗機甲部隊は遅滞行動を続ける。

 

(あと少し………もう少し………)

 

みほの顔からは汗がだらだらと流れ、呼吸も自然と荒くなる。

 

キューポラの視察口越しには、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊がジワジワと迫り来る様子が見えている。

 

「…………」

 

みほの顔を流れる汗の量が増える………

 

「西住総隊長! 目標地点に到着しました!!」

 

「!!」

 

とそこで、弘樹からそう報告が挙がるがいなや、みほはハッチを開けて車外へ姿を晒す。

 

風が汗を冷やし、急激に冷えるが、みほはそんな事には気を取られず、自分達が居る場所を確認する。

 

そこは、多数の線路が敷かれている車両基地の跡地だった。

 

「………全車、現エリアの端まで移動して下さい。但し、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が全てエリア内に入るギリギリまで惹き付けてから離脱して下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほの指示が飛ぶと、残存大洗機甲部隊はそれまでの遅滞行動から、一気に車両基地エリアの端まで後退。

 

一旦そこで停止すると、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を待ち構える。

 

少し間が有って………

 

進軍速度を変えていなかったナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が再び姿を見せ始める。

 

「急に思いっ切り退いたかと思えば、今度は堂々と待ち伏せ?」

 

「何だか行動が読めませんね」

 

「総隊長。如何します?」

 

ソルト、ペッパー、マヨネが、シュガーにそう問い質す。

 

「………作戦変更は無し。このままジワジワと追い詰めるわ」

 

しかし、シュガーは警戒を解かず、飽く迄慎重に攻めて行く。

 

(………何だ? この感じ?)

 

ジャックは、妙な違和感を感じていたが、それが何かは分からず、警戒しながら前進するのだった。

 

ジワジワと距離を詰めながら進軍して来るナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

それに対し、残存大洗部隊は、今度は遅滞行動もせず、ただその場でジッとしている。

 

「キャアッ!?」

 

「至近弾が多くなって来ました!」

 

至近距離に着弾する砲弾の衝撃に、聖子と梓がそう声を挙げる。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! やられたああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「河嶋! 落ち着けっ!!」

 

ヘッツァーの方でも、桃が絶望の悲鳴を挙げ、杏が諌めるが、その彼女の声にも何時もの余裕は無い。

 

「フラッグ車が命中弾を喰らってしまったらお終いです!」

 

「…………」

 

優花里がそう言うが、みほは黙ったままである。

 

作戦を成功させるには、まだこの場に留まるしかない。

 

今みほに出来る事は、フラッグ車が命中弾を喰らわない様に祈るだけだった。

 

そんなみほの思いを嘲笑うかの様に、徐々にM3リーへの至近弾が増えて行く。

 

(お願い………当たらないで………)

 

M3リーを見ながら懇願する様に祈るみほ。

 

と、その時………

 

「…………」

 

弘樹が無言で、M3リーの前に仁王立ちした。

 

「!? 弘樹くんっ!?」

 

「舩坂先輩っ!?」

 

みほと梓が驚きの声を挙げる。

 

その間にも、M3リーには次々に至近弾が襲い掛かる。

 

当然、その前に立っている弘樹には、至近弾が巻き上げた土片やら何やらがビシビシと当たっているが、弘樹は眉1つ動かさずに仁王立ちを続けている。

 

「先輩! 危険です! 下がってっ!!」

 

「危ないよ! 弘樹くん!!」

 

梓とみほの悲鳴の様な声が飛ぶ。

 

だが………

 

「………小官に弾は当たらん」

 

弘樹はそう返し、ただ正面のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を睨みつける。

 

………心做しか、先程から弾の方が弘樹を避けている様に見える。

 

「フー………アレが英霊の加護か………」

 

そんな弘樹の姿を見て、ジャックはそんな言葉を漏らす。

 

「総隊長! ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が完全に車両基地エリアに入りました!!」

 

とそこで、高所から観測をしていた清十郎が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が、全部隊完全に車両基地エリアに入った事を確認し、そう報告する。

 

「!! 全力後退っ!! 同時に爆薬点火っ!!」

 

すぐさまみほはそう指示を飛ばし、残存大洗機甲部隊は全力で車両基地エリアを離脱。

 

その直後!!

 

予め仕掛けていた爆薬が爆発し、残存大洗機甲部隊が離脱して行った道を、瓦礫が塞いだ!!

 

「! 全軍、停止っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

シュガーの指示が飛び、全軍停止するナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

その直後!!

 

今度は、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の後方で爆発が発生!!

 

またもや瓦礫が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が侵入してきた経路を塞いだ!

 

「! 総隊長! 背後でも爆発! 通って来た経路が塞がれました!!」

 

「閉じ込められた!?」

 

「いえ、線路が有る左右は開いています。脱出は可能です」

 

ハロウィン歩兵からの報告に、ソルトが慌てるが、別のハロウィン歩兵からそう報告が挙がる。

 

その瞬間!!

 

車両基地エリアの彼方此方から、煙幕が立ち上り始めた!!

 

「! 煙幕です!!」

 

「此処で仕掛けてくる積り?」

 

「けど、煙幕なんて、ウチには通用しないよ」

 

報告を挙げるハロウィン歩兵の声を聴いて、マヨネとペッパーがそう言い合う。

 

「………防御陣形」

 

だが、シュガーはその光景に何処か違和感を感じながらも、部隊に防御陣形を取らせる。

 

煙幕はやがて、完全に車両基地エリアを覆い尽くす。

 

「さあ、何処から来る、大洗!」

 

「返り討ちにしてやるぜっ!!」

 

しかし、こんな煙幕など何の問題にもならないのか、ハロウィン歩兵達からはそんな声が挙がり、ナイトウィッチ戦車チームにも動揺は見えない。

 

と、その時………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊から見て、右側の線路の方から、『何か』が迫って来る。

 

「! 来たなっ!!」

 

「私に任せて! 返り討ちにしてやるわっ!!」

 

その『何か』に、マヨネのトータスが主砲を向ける。

 

ポルシェティーガーさえ正面から撃破した主砲だ。

 

残存大洗戦車部隊のどの戦車でも、1撃で行動不能は免れない。

 

だが、現れたのは大洗の戦車では無く………

 

貨車を牽いた、『蒸気機関車』だった!!

 

「………へっ?」

 

思いも寄らぬモノの登場に思わず呆けてしまうマヨネ。

 

「マヨネ! 避けなさいっ!!」

 

シュガーのその声が飛んだ瞬間には、蒸気機関車はそのままトータスへと衝突!

 

途端に!!

 

突っ込んで来た蒸気機関車は、潰れた先頭の機関車が大爆発!!

 

その爆発に連鎖する様に、連結されていた貨車も、まるでチェーンマインの様に次々と爆発する!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

多数のハロウィン歩兵と、ナイトウィッチ戦車チームの一部がその爆発に巻き込まれ、戦死・撃破判定を受ける。

 

当然、蒸気機関車が衝突したトータスも、白旗を上げている。

 

「クウッ! 何なの!?」

 

「如何やら、無人の蒸気機関車に爆薬や可燃物を満載して突っ込ませた様だね」

 

「こんなの流石に予想外よ!!」

 

ソルトが叫ぶと、ジャックがそう答え、ペッパーが呆れ混じりにそう言い放つ。

 

その瞬間!!

 

「突入っ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

フラッグ車のM3リーを除く残存大洗機甲部隊が、車両基地エリアに再突入していた!!

 

「!? 大洗が来たぞっ!!」

 

「迎え撃てっ!!」

 

迎撃行動に出るナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

しかし、先程の無人蒸気機関車爆弾の事で動揺が走っており、攻撃の精度が落ちている。

 

「大洗の為にーっ!!」

 

「バンザーイッ!!」

 

「母校の名誉に掛けてぇーっ!!」

 

「バイノハヤサデーッ!!」

 

「よし! 俺が突撃するぅーっ!!」

 

対する残存大洗機甲部隊は、もう後が無く、コレ以上手も無い事から、全員が捨て身で攻撃して来ており、戦意と士気は高い!

 

「だ、駄目だぁ! 抑えきれないっ!!」

 

「コレが壊滅寸前の部隊の攻撃かよぉっ!!」

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、遂に完全に浮足立つ。

 

各員の足並みが揃わなくなり、防御陣形が綻び始める………

 

「敵陣形、乱れていますっ!!」

 

「この機を逃すな! 『無人ディーゼル貨物車爆弾』、全車投入!!」

 

高所からの観測を続けていた清十郎が、煙幕の合間から僅かに見えるナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の様子を見てそう報告すると、迫信がそう声を挙げた!

 

その瞬間!!

 

ディーゼルエンジン音と共に、多数の貨車を引くディーゼル機関車が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊と残存大洗機甲部隊を挟み込む様に突っ込んで来た!!

 

「!? 今度はディーゼル車っ!?」

 

「に、逃げろぉっ!!」

 

「逃げろって何処にっ!?」

 

突っ込んで来る『無人ディーゼル貨物車爆弾』を見て、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は大混乱!

 

逃げようにも前後の通路は瓦礫で防がれ、開いている左右の線路は『無人ディーゼル貨物車爆弾』が埋め尽くしている。

 

「死なば諸共っ!?」

 

「!!」

 

シュガーの悲鳴の様な声が挙がり、ジャックの顔も強張った瞬間………

 

『無人ディーゼル貨物車爆弾』は、全て車両基地エリアへ突入!!

 

貨車に積まれていたありったけの爆薬と可燃物が大爆発!!

 

車両基地エリアから、まるで原爆の様な巨大な炎とキノコ雲が上がった!!

 

「キャアアアアッ!?」

 

その車両基地エリアから、やや離れた場所で待機していたM3リーにも、爆発の際に発生した強烈な爆風が襲い掛かり、ハッチから姿を晒していた梓が悲鳴を挙げる。

 

「うあああっ!?」

 

「と、飛ばされるぅっ!!」

 

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

「落ち着いて! 流石に戦車が飛ばされたりしないからっ!!」

 

爆風はM3リーの車体をも揺さぶり、パニックを起こし掛けているあや、桂利奈、優希を必死に宥めるあゆみ。

 

「…………」

 

只1人、紗希だけがしっかりと車内の取っ手にしがみ付いて、身体を固定している。

 

「………収まった」

 

やがて爆風が収まると、梓は改めて立ち上ったキノコ雲を見上げる。

 

そのキノコ雲はとても巨大であり、頭頂部は今まで出ていた空の雲よりも更に上に位置していた。

 

「西住総隊長………」

 

そこで梓は視線を前に向け、今度は炎に包まれている車両基地エリアを見やる。

 

あの大爆発である。

 

恐らく、残存大洗機甲部隊も、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊も………

 

………と、その時!!

 

炎の中から砲弾が飛び出して来て、M3リーの傍に着弾した!!

 

「!?」

 

「クッ! 外したか!!」

 

梓が驚きを露わにした瞬間………

 

燃え盛る炎を掻き分ける様にして………

 

ところどころが黒く焦げたバレンタイン歩兵戦車が現れる。

 

フラッグ車である総隊長のシュガーのバレンタインだ!!

 

「!? フラッグ車っ!?」

 

「嘘ぉっ!」

 

「あの爆発で無事だったのぉっ!?」

 

梓が声を挙げると、あやと優希も悲鳴の様な声を漏らす。

 

その間に、シュガーのバレンタインは、主砲のオードナンスQF 75mm砲を向けて来る。

 

「! 後退っ!!」

 

「あ、あいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

梓が慌てて指示を飛ばし、桂利奈がM3リーを後退させる。

 

だが、その直後!!

 

発砲音がしたかと思うと、対戦車ライフルの弾と思わしき弾丸が、M3リーの右履帯へ命中!

 

履帯が破断する!!

 

「!? 履帯がっ!?」

 

「いやはや、流石に危なかったよ………」

 

梓が声を挙げると、炎の中からボーイズ対戦車ライフルを携えたジャックが姿を見せる。

 

「ありがとうジャック」

 

「いや………礼を言われるのは早いみたいだ」

 

「………その様ね」

 

とそこで、シュガーのバレンタインとジャックは、炎の方へ向き直った。

 

その瞬間!!

 

炎の壁を突き破って、Ⅳ号戦車が現れる!

 

「無事ですか! 梓さん!!」

 

「西住総隊長!」

 

ハッチが開いて、みほが姿を見せると、梓が嬉しそうな声を挙げる。

 

そして更に………

 

炎の中から足音が聞こえて来たかと思うと………

 

「…………」

 

戦闘服の彼方此方が焼け焦げている弘樹がゆっくりと姿を見せる。

 

燃え盛る炎を背に、歩み寄って来る弘樹。

 

正に炎の臭いが染みついて………

 

むせる

 

「フー………やはり健在だったか。舩坂 弘樹」

 

「…………」

 

ジャックがそう言うと、弘樹は無言で四式自動小銃を構える。

 

「ジャック。舩坂 弘樹は任せるわ。良いわね」

 

「望むところさ………」

 

シュガーがそう言うと、ジャックは僅かに笑みを浮かべてそう返す。

 

「…………」

 

と、その会話が聞こえていたのか、弘樹がジャックを誘い出すかの様に、Ⅳ号から離れる。

 

「フッ………」

 

その後を追うジャック。

 

「さてと………」

 

それを見送ると、シュガーはハッチを開けて車外に姿を晒した。

 

「!!」

 

「ふふふ………」

 

みほが身構えると、シュガーは不敵に笑う。

 

そして、シーツの様な大きな布を取り出したかと思うと、それで自分を覆い隠す。

 

「??」

 

何をする気だと、みほが怪訝な顔をした瞬間!

 

「ワン! ツー! スリーッ!!」

 

手品の掛け声と共に、バッと布が取り払われる。

 

そして現れたのは………

 

「!? わ、私っ!?」

 

動揺するみほ。

 

そう………

 

布の中から現れたのは………

 

紛れも無く、『西住 みほ』だった。

 

「貴方の敵は………貴方自身だよ」

 

バレンタインに乗る西住 みほ(シュガー)が、みほに向かってそう言い放つ。

 

「…………」

 

その言葉を聞いたみほは、身体が震えるのを感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ジャックを誘い出した弘樹は………

 

みほ達から少し離れたかと思うと立ち止まり、付いて来ていたジャックに四式自動小銃を向ける弘樹。

 

「フー………いよいよ対決と行こうか。英霊を継ぐ者くん」

 

「…………」

 

不敵な様子のジャックに対し、弘樹は射撃姿勢を崩さずジッと見据える。

 

「フッ………」

 

ジャックはそんな弘樹の姿を見て、満足そうな様子を見せたかと思うと、持っていたボーイズ対戦車ライフルを捨てる。

 

そして、肩に掛けていた小銃を構えて、弘樹に向ける。

 

それは弘樹と同じ、『四式自動小銃』だった。

 

「!………」

 

自分と同じ武器を構えた事に、弘樹は僅かに反応を見せるが、隙は見せない。

 

「「…………」」

 

お互いに四式自動小銃を向け合ったまま、膠着状態となる両者。

 

しかし、その膠着は長くは続くなかった………

 

「………!」

 

膠着が続くかと思われた瞬間に、弘樹は引き金を引いたのだ!

 

10発全弾をジャックへと叩き込む弘樹。

 

「フッ………」

 

だが、弘樹が発砲したのと同時のタイミングで、ジャックも発砲。

 

更にその弾丸は、弘樹が撃った弾丸と寸分違わず同じコースを飛び………

 

そのまま弘樹の撃った弾に命中!!

 

お互いの弾が空中で衝突して、砕け散る!

 

「!………」

 

弾丸に弾丸を当てて撃墜すると言う離れ業に、弘樹は驚いたものの、身体は本能的に移動を初め、近くに在った瓦礫の陰へと隠れた。

 

一方、ジャックの方も同じ様に瓦礫の陰に隠れる。

 

(………大した奴だ)

 

四式自動小銃に新たな弾を込めながら、弘樹はジャックがかなりの実力者である事を察する。

 

「…………」

 

弘樹は瓦礫の上から顔を出し、ジャックが隠れている瓦礫を確認する。

 

「…………」

 

そして、九九式手榴弾を手に取ると、瓦礫の陰に向かって投げ込もうとする。

 

………が!

 

「フッ………」

 

何と、弘樹が投げるよりも先に、ジャックの方が九九式手榴弾を投擲して来た。

 

「!!」

 

驚きながら、すぐに四式自動小銃を構え、空中に在った九九式手榴弾を撃ち抜く!

 

九九式手榴弾は空中で爆発する。

 

「クッ………」

 

破片から身を守る為に、再び瓦礫の陰へと伏せる弘樹。

 

「………!!」

 

だが、そこで殺気を感じ、すぐさまそこから離れると、先程まで弘樹が居た位置に銃弾が着弾する!

 

「!………」

 

「フフ………」

 

銃弾が飛んで来た方向を見やると、そこには不敵な笑みを浮かべているジャックの姿が在った。

 

如何やら、さっきの手榴弾の爆発に紛れて接近して来た様である。

 

「………!」

 

反撃にと、弘樹は牽制も兼ねて四式自動小銃を発砲する。

 

「当たらないよ………」

 

だが、ジャックはまるで牽制目的である事が分かっているかの様に、至近距離への着弾を気にせず、再び瓦礫の陰に身を隠した。

 

「!………」

 

弘樹も、前方に在った瓦礫を跳び越えて、その陰へと隠れる。

 

(牽制で撃ったのが分かっていたのか?………)

 

そう思いながら、再びリロードを行おうとする。

 

(! 弾切れか………)

 

しかし、四式自動小銃の九九式普通実包は、先程の牽制で使ったのが最後だった………

 

「…………」

 

止むを得ず、弾の無くなった四式自動小銃をその場に置くと、腰のホルスターからM1911A1を抜く。

 

(接近戦に持ち込むか………)

 

M1911A1を構えながらそう考え、煙幕手榴弾を取り出す。

 

だが、そこで………

 

何かが転がった様な音が聞こえたかと思うと、辺りに煙が立ち込めた!

 

(! 煙幕か!?………)

 

すぐに口元を押さえる弘樹。

 

(………さっきからコチラの行動の先を行かれている………)

 

ジャックは最初に銃弾に銃弾を当たれた時から、手榴弾を投げようとした瞬間、煙幕を使おうとした瞬間と先んじられ、コチラの行動の先を行かれている。

 

「行動を先読みされている………と気付いた様だね」

 

「!!」

 

不意にジャックの声が聞こえ、辺りを見回す弘樹だったが、煙幕の為に何も見えない。

 

「僕達が研究していたのは西住 みほだけではない。君の事も良く研究させてもらったよ、舩坂 弘樹くん」

 

「…………」

 

「君も西住 みほと同じ大洗の要だ。当然の事だろう。君の戦術パターンや動きの癖は全て把握している」

 

「…………」

 

そう語るジャックの位置を、弘樹は聴覚を最大限に活用して探ろうとする。

 

しかしそこで………

 

「!!」

 

左から僅かに感じた殺気に、弘樹はバッと後方へと飛び退く!

 

直後に、弘樹が隠れていた瓦礫を、鉈らしき刃が掠め、火花を散らした!!

 

「!………」

 

ジャックが接近戦を仕掛けて来たと判断した弘樹は、すぐさま風上に向かって移動し始め、煙幕の中から抜け出す。

 

「フッ………」

 

だが、直後に鉈を手にしているジャックも飛び出して来る。

 

「!!」

 

弘樹は瓦礫の間を縫う様に走り、距離を取ろうとしたが………

 

「甘いね………」

 

何とジャックは、その瓦礫の上に跳躍したかと思うと、そのまま次々に瓦礫の上を軽やかに飛んでショートカットして来る。

 

(あの動き………パルクールか)

 

弘樹はジャックのその動きが、パルクールのそれであると気付く。

 

その瞬間には、ジャックは弘樹の頭上を取った!

 

「!………」

 

すぐにM1911A1を向けた弘樹だったが、ジャックのキックで弾き飛ばされる。

 

「フー………」

 

続け様にジャックは、弘樹をコルバタで投げ飛ばす。

 

「グッ!………」

 

背中から地面に叩き付けられた弘樹が、声を漏らす。

 

「!!………」

 

だがすぐに立ち上がると、英霊を鞘から抜く。

 

「接近戦は望むところだよ」

 

そこでジャックは、弘樹目掛けて手斧を投擲した!

 

「!!」

 

飛んで来た手斧を、英霊で弾き飛ばす弘樹。

 

だが、その瞬間には、ジャックが目の前で鉈を振り被っていた!

 

「!!」

 

「貰ったっ!!」

 

弘樹の脳天目掛けて、鉈を振り下ろすジャック。

 

すると弘樹は、何を思ったか、振り下ろされる鉈に向かって頭突きの様に頭を衝き出す!

 

そして、鉈が当たる瞬間に首を捻って角度を付けたかと思うと、ヘルメットで鉈を受け流した!

 

「………!」

 

驚きで目を開くジャック。

 

僅かでも角度が狂えば、即座に戦死判定を受ける行為である。

 

「セヤアッ!!」

 

そのジャックに向かって、英霊で突きを繰り出す弘樹。

 

「!!」

 

ジャックはバック宙で距離を取りながらかわす。

 

「…………」

 

正眼の構えを取り、ジャックを見据える弘樹。

 

「フー………」

 

対するジャックは、自然体で鉈を構える。

 

「! セイヤーッ!!」

 

弘樹は上段へと構えを変えたかと思うと、一気に斬り掛かる!!

 

「! 見切ったっ!!」

 

だが、ジャックは英霊が振り下ろされるタイミングを見切り、アッパーカットの様に鉈を斬り上げる!

 

鉈が英霊の刃に当たると、英霊は弘樹の手から離れ、回転しながら上空へと舞った!

 

「!………」

 

「ハッ!」

 

反射的に弾かれた英霊を見上げてしまった弘樹に、ジャックは足払いを掛ける。

 

「! しまったっ!?」

 

仰向けに倒れた弘樹に、ジャックは鉈を振り下ろす!

 

「!!」

 

危機一髪のところで、最後の武器である銃剣を抜き、鉈の刃を受け止める弘樹。

 

だが、その瞬間………

 

弘樹の胸の上に何かが落ちる。

 

「!?」

 

落ちて来た物を見た弘樹が目を見開く。

 

それは、九九式手榴弾だった。

 

「ジエンドだ、舩坂 弘樹………」

 

ジャックはそう言って、バッと弘樹から飛び退く。

 

(コレで僕は英霊を超えた………)

 

勝利を確信したジャックは、そんな事を思いやる。

 

………だが!

 

信管が作動し、白い煙を出していた九九式手榴弾だったが………

 

爆発の瞬間になって、突然煙が消える。

 

「………!」

 

「!? 何っ!?」

 

ジャックが驚きの声を挙げる。

 

如何やら、『偶然』不発弾だった様である。

 

「!!」

 

弘樹はその不発弾を掴むと、起き上がりながらジャック目掛けて投擲した!

 

「! グッ!」

 

ジャックの頭に当たった不発弾は、ヘルメットに弾かれて打ち上げられる。

 

「このっ!………!?」

 

不意打ちを食らったが、不発弾だった為、ジャックが気にせず突撃しようとしたところ………

 

先程、ジャックが弾いた英霊が………

 

上から回転しながら落ちて来て………

 

『偶々』不発弾に突き刺さった!!

 

その衝撃で不発弾は爆発!!

 

ジャックの姿が爆煙に包まれた!!

 

「…………」

 

その光景を見据えながら、弘樹が右手を上げると、その手に爆風で飛ばされてきた英霊が納まる。

 

そこで爆煙が収まり、中から………

 

「馬鹿な………こんな事が………」

 

戦死判定を受けて倒れているジャックの姿が露わになった。

 

「…………」

 

それを確認すると、弘樹は英霊をバッと一振りし、鞘へと納めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

予想されていた方も居られましたが、大洗の起死回生の作戦は………
『無人在来線爆弾』、もとい『無人蒸気機関車爆弾』と『無人ディーゼル貨物車爆弾』でした。
シン・ゴジラは良いぞ(爆)
庵野監督のアイデアには脱帽させられました。
あんなの見たら自分も使いたくなるでしょう(笑)

そして、勝負は一気にエース同士の対決へ。
まるで自分と戦っている様な錯覚生じさせるジャックの戦法。
遂に弘樹もコレまでかと思いきや………
最後は本物の英霊の子孫である証………
異能生存体並みの悪運で切り抜けました。
さあ、長らく続いた準々決勝も次回で集結です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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