ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第15話『天竺女学院とジョロキア男子高校です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第15話『天竺女学院とジョロキア男子高校です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道及び歩兵道全国大会の審判となった亜美と嵐一郎に代わり………

 

新たに教官となった藤林 空達の指導の下………

 

厳しい訓練に明け暮れる大洗機甲部隊。

 

そして遂に、次なる練習試合の相手………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子高校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』との試合の日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栃木県のとある幹線道路………

 

大洗戦車部隊の戦車が、PMC(民間軍事会社)の戦車運搬車『M25 ドラゴンワゴン』で運ばれている。

 

5台のドラゴンワゴンを先導する様に、数台の観光バスが走っている。

 

「凄いですねぇ、男子校の神大生徒会長さんは」

 

「う、うん………」

 

「まさか全車分の戦車運搬車を用意して、その上こんなバスまで用意してくれるなんて………」

 

1番先頭を行く観光バスに乗車していた大洗女子学園メンバーの内、最後部の5人掛けの席に座っていたあんこうチームの中で、華、沙織、優花里がそう言葉を漏らす。

 

バス内の内装はかなり豪華で、まるでリムジンに乗って居るかの様な快適感が有った。

 

「一体何者なの?」

 

「………お前達、気づいていなかったのか?」

 

沙織がそう呟くと、一番端の席で眠りこけていた麻子が目を覚まし、そう言ってきた。

 

「あ、麻子。気づいていなかったって、何が?」

 

「男子校の生徒会長の名前を思い出してみろ」

 

首を傾げる沙織に、麻子はそう言う。

 

「名前?」

 

「確か、神大 迫信さん………でしたっけ?」

 

「!? ちょっと待って下さい!! 神大って………まさか!?」

 

沙織と華が要領を得ない様子でいると、何かに気付いたらしい優花里が驚きの声を挙げる。

 

「そうだ………アイツは多分………神大コーポレーションの人間だ」

 

「!? ええっ!?」

 

「あの神大コーポレーションの!?」

 

そこで、沙織と華も驚きの声を挙げる。

 

「じ、神大コーポレーションって、アレだよね!? 爪楊枝から人工衛星までってキャッチコピーの!!」

 

「私達の日常生活に関する事で、神大コーポレーションが関わっていないモノは無いと言っても過言ではないでしょう………」

 

「世界のあらゆるシェアの70%を握っているからな………噂じゃ総理大臣や大統領だって操れるって話だ」

 

信じられないと言った様子の沙織と優花里に、麻子は淡々とそう説明するのだった。

 

「…………」

 

一方、そんな一同の中で、みほは麻子とは逆の窓際に座り、窓の外に流れる景色を見ている。

 

「西住さん? 如何か致しましたか?」

 

すると、何故か前の席に居た湯江が、そんなみほの様子に気づいて声を掛けてきた。

 

「あ、うん………もうすぐ、湯江ちゃんと舩坂くんの故郷なんだなぁって思って………」

 

「そうですね。私もまさか、こんな形で舩坂軍曹の生まれた地へ来れるなんて、夢にも思っていませんでした」

 

と、みほが湯江にそう答えたのを聞いていた優花里が、そう言って会話に入って来る。

 

「ええ、実は私も………久しぶりの帰郷でちょっとドキドキしています。でも、本当に宜しかったんですか? 大洗機甲部隊とは関係の無い私達まで付いて来てしまって?」

 

久方ぶりの帰郷に胸を躍らせつつも、練習試合に関係無い自分が同行させて貰っている事を申し訳なく思っていた湯江は、更に前の席で干し芋を齧っていた杏にそう尋ねる。

 

「良いの良いの。今回の遠征の費用は全部迫信の奴が持ってくれるんだから。厚意は素直に受け取りなよ」

 

干し芋を齧り続けながら、あっけらかんとそう返す杏。

 

「そうよ、湯江。男子校と女子高の生徒会長さんが良いって言ってくれてるんだから、良いじゃない」

 

「そうだよ、湯江ちゃん」

 

更に、湯江の右隣に居た遥と、通路を挟んで左隣に居たレナもそう言う。

 

「………そうですね。角谷さん、改めてありがとうございます」

 

それを聞いて湯江を笑みを浮かべると、杏に向かって深々と頭を下げたのだった。

 

「にひひひひひひひ………」

 

杏は独特な笑い方をしながら、また干し芋を齧る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話が繰り広げられている先頭を行く観光バスに続く、2台目の観光バス内では………

 

(栃木か………こんな形で戻って来るとは思いもしなかったな………)

 

学生服姿の弘樹が、窓の外で流れて行く景色を見ながらそう思いに耽っていた。

 

「如何だね、舩坂くん? 久しぶりの帰郷は?」

 

すると、前の席に居た迫信が、相変わらず口元を扇子で隠しながらそう聞いて来る。

 

「生徒会長………この度は思わぬ帰郷の機会を与えていただき、感謝します。それも小官だけでなく湯江達まで同行させていただいて………しかし………本当に宜しかったのですか?」

 

弘樹は迫信に感謝を表しつつそう尋ねる。

 

「構わないさ。元々戦闘を行うフィールドの決定権は此方に任されていたからね」

 

不敵に笑いながら、迫信はそう返す。

 

「…………」

 

弘樹はそれを聞くと、再び窓の外を見やり、昨日の事を思い出すのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夕方………

 

大洗女子学園の戦車格納庫前にて………

 

「よ~し! 今日はココまでぇっ!!」

 

「ありがとうございましたぁっ!!」

 

格納庫前に止められた10式・改の砲塔の上に仁王立ちしている空が、大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い、その日の訓練が終了する。

 

「ハア~、今日もキツかったぁ~」

 

「いよいよ次の試合も迫って来ましたからねぇ」

 

あやが愚痴る様に言うと、清十郎がそんな返しを送る。

 

他のメンバーも、チーム内や親友同士で談笑しながら帰宅の準備に入っている。

 

弘樹とみほ達も、とらさん分隊の面々、あんこうチームの面々で話し込んでいる。

 

とそこで………

 

「へくちゅんっ!」

 

みほが可愛らしいくしゃみをした。

 

「西住殿?」

 

「風邪か? 大丈夫なのか?」

 

その様子を見た優花里と弘樹が、心配をする様にみほにそう言う。

 

「う、ううん、大丈夫だよ………熊本と比べると、大洗はまだちょっと冷えるね」

 

みほは何でも無いという様にそう答える。

 

「あ、そっか~。みぽりんは九州から来たんだっけ」

 

そこで沙織が、みほが転校生である事を思い出し、そう言う。

 

「そう言やぁ、大洗女子学園は茨城の子が中心だったなぁ」

 

「ウチは国際校ですからね。地方は元より、海外からの留学生も多いですね」

 

「灰汁が強い連中ばかりが居るっても言えるけどな………」

 

それを聞いて、地市、楓、了平が大洗男子校生徒の多種多様性を思い、そんな言葉を漏らす。

 

「弘樹は確か栃木の出身だったよな?」

 

「ああ………学園艦に上がるまではな」

 

そこで地市が、そう弘樹へと話を振る。

 

(舩坂くんの故郷………)

 

とそれを聞いたみほが、舩坂の故郷である栃木に興味を抱く。

 

まだ本人は自覚していないかもしれないが、その行動は正しく『あの感情』から来るものだった。

 

「あ、あの、舩坂くん………舩坂くんの故郷って、どんな所だったの?」

 

好奇心を抑えられぬ様に、みほは弘樹にそう尋ねる。

 

「ん? そうだな………小官は山間の大分田舎の村の出身なんだが、此処茨城と同じで、自然豊かで長閑な農村だったよ」

 

「そうなんだ………」

 

まだ見ぬ弘樹の故郷に想像を膨らませるみほ。

 

すると………

 

「ふむ………栃木の山間か………」

 

「それ良いんじゃない? 迫信」

 

何時の間にか弘樹達とみほ達の傍に来ていた迫信と杏が、笑みを浮かべながらそんな事を言い合っていた。

 

「あわっ!? 会長!?」

 

「会長閣下!?………」

 

突然現れた杏に驚くみほと、迫信に向かってヤマト式敬礼をする弘樹。

 

「やあ、皆。実は次の試合の場所なんだけどさぁ………」

 

「君達の話を聞いて、栃木の山間………舩坂くんの故郷にしようと思う」

 

と、杏と迫信は、そんなみほ達と弘樹達に向かってそう言い放つ。

 

「!? ええっ!?」

 

「小官の………故郷でですか?」

 

みほは当然に、弘樹も僅かに驚いた様子を見せる。

 

「し、しかし、山間の農村での戦闘は結構難易度が高いですよ!」

 

すると優花里がそんな事を口にする。

 

「森林は此方の視界を遮り、遮蔽物にもなりますし………水田も在るでしょうから、泥濘で戦車が立ち往生する可能性も………」

 

「そう言った戦闘を経験する意味でも、今回の試合会場を栃木にするのだよ」

 

「何せ、天竺ジョロキア機甲部隊の試合が終わったら、次は公式戦に出場するからねぇ」

 

懸念を口にする優花里に向かって、迫信は平然とそう言い放ち、杏もサラリと重大発言をする。

 

「公式戦?」

 

「全国大会の事だ。全国の男子校の歩兵道部隊、女子高の戦車道部隊からなる機甲部隊が日本一を競って戦い合う………」

 

首を傾げる了平に、弘樹がそう説明する。

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

「連続の練習試合の次は公式戦に出場ですか………」

 

「無謀だな、オイ」

 

地市、飛彗、白狼の3人は、経験不足もいいとこなのに、全国大会に出場すると言う迫信と杏に呆れる。

 

「まあ、挑戦する事は良い事ですよ。それにオリンピックでも言ってるじゃないですか。参加する事に意義があるって」

 

そんな迫信と杏をフォローするかの様に、楓がそう言う。

 

「参加する事に意義が有る………か」

 

と、その言葉を聞いた杏が小声でそう呟き、表情に影を落としたが、一瞬の為、誰も気づかなかった。

 

「…………」

 

迫信を除いては………

 

「まあ、と言うワケだから! 今度の試合は遠征になるよ! 皆旅支度を忘れない様にね!!」

 

と、杏はすぐに何時もの調子になってあんこうチームととらさん分隊の面々に向かってそう言うと、迫信と共に他のチームと分隊にもその旨を伝えに行く。

 

「………まさか故郷で戦う事になるとはな」

 

2人が去って行った後、夕焼けの空を見上げながら弘樹はそう呟く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、現在………

 

弘樹の故郷へと向かっている観光バスの車内にて………

 

「あの時にゃあビックリしたぜ。今度は公式戦に出るってんだからな」

 

「い、今から緊張して来ました………」

 

「自分は逆に燃えてきたッスよ! ガッツ全国大会!!」

 

地市がその時の事を思い出しながらそう言うと、勇武が早くも緊張した様子を見せ、正義が逆に闘志を燃やす。

 

「…………」

 

そして弘樹は、そんな一同の喧騒を余所に、相変わらず窓の外に流れる景色を眺めていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小一時間後………

 

大洗機甲部隊の一同は遂に………

 

栃木の山間にある田舎の農村………

 

弘樹の故郷へと辿り着いた。

 

「おお~~っ! 此処が舩坂殿。そして、あの舩坂 弘軍曹の故郷なんですね」

 

「うわあ~、ホントに農村だねぇ」

 

目の前に広がる田舎の農村の光景に、優花里は感激の声、沙織は素直な感想を漏らす。

 

曲がりくねった川を中心に、水田と畑が規則正しく碁盤目状に広がっており、周りは青々とした山に囲まれている。

 

斜面にも棚田や果樹園が広がっており、茅葺屋根で漆喰の壁の木造住宅が点在している。

 

「………変わってないな」

 

「ええ………」

 

そして、弘樹と湯江は、そんな農村の光景を見ながらそう呟く。

 

するとそこで………

 

「お~い! 弘樹く~ん!!」

 

「湯江ちゃ~ん!!」

 

男性と女性の声が響いて来て、如何にも田舎の農夫婦と思わしき2人が、大洗機甲部隊………と言うよりも、弘樹と湯江の方へ向かって来る。

 

「! 小父さん!」

 

「小母様!」

 

如何やら、弘樹と湯江はその農夫婦と顔見知りらしく、2人揃って農夫婦の方へと向かう。

 

「いや~、久しぶりだな~。大きくなったじゃないか。昔はこ~んなだったのに」

 

「何時の話をされてるんですか、小父さん」

 

矢鱈と低い位置で腕を横にしてそう言う農夫に、弘樹は呆れる様な言い方ながらも、笑みを返す。

 

「湯江ちゃんも綺麗になって………お母さんに似て来たんじゃないの?」

 

「そうですか? ありがとうございます」

 

農婦の方も、湯江と朗らかに会話を繰り広げている。

 

「舩坂くん………」

 

するとそこで今度は、結構な年齢に見える、身形の良い老人が現れ、弘樹に声を掛ける。

 

「! 村長さん!………」

 

声を掛けられた弘樹は、その人物が村長である事を確認し、軽く驚いた様子を見せる。

 

「まさか村長さんにまでお出迎えしていただけるとは………」

 

「ハハハハ、私だけじゃないさ。見給え」

 

と、村長がそう言いながら横にずれて、その背後を見る様に促したかと思うと、そこには………

 

『おかえり、舩坂 弘樹くん、湯江ちゃん』と書かれた横断幕と………

 

『歓迎! 大洗機甲部隊!!』と書かれた幟を掲げて、笑顔を浮かべている村の人々の姿が在った。

 

「まあ! 村の皆さん、総出で!!………」

 

「こんな小さな村じゃイベントに飢えていてな………舩坂くん達が帰って来て、しかも歩兵道と戦車道の試合をやると言ったら、皆して歓迎の準備をしてくれたんだよ」

 

村の住民が総出で迎えてくれて驚く湯江に、村長がそう説明する。

 

「アレが舩坂くんの学校の友達たちべか」

 

「いや~、めんこい子ばっかりだわ」

 

「ほんに、カッコいい子ばかりだね~。あ~、アタシがあと50年若かったらね~」

 

歓迎に来ていた村の人々は、大洗機甲部隊を取り囲み、そんな言葉を口にする。

 

「コレは………」

 

「凄いですね………」

 

飛彗と清十郎が、その熱烈な歓迎ぶりに少し戸惑った様子を見せる。

 

「どうも、村長さん。大洗国際男子校の生徒会長、そして歩兵部隊総隊長の神大 迫信です」

 

「副会長の神居 十河です」

 

「大洗女子学園、生徒会長の角谷 杏だよ」

 

「広報の河嶋 桃です。この度は急な滞在を受け入れていただき、誠にありがとうございます」

 

とそこで、男子校・女子高の生徒会メンバーの内、迫信と十河、杏と桃が村長に向かって形式に則った挨拶をする。

 

「いやいや、言った通り、この村は長閑なだけが取柄でね。皆暇を持て余していたから、丁度良い刺激になると思ってね。まあ、何もない村だが、ゆっくりして行くと良い」

 

「感謝します」

 

「それで、我々の宿泊施設は何処に?」

 

村長に向かって、迫信が代表する様に頭を下げて感謝を表すと、十河が自分達が滞在する場所は何処かと尋ねる。

 

「村外れに、廃校になった学校の校舎があります。そこを使って下さい」

 

「廃校になった学校の校舎………」

 

「…………」

 

滞在施設が廃校になった学校の校舎だと聞き、桃が何やら複雑そうな表情を浮かべて、杏の顔からも一瞬笑みが消えた。

 

「良し………諸君! 早速だが、滞在施設まで移動してくれ給え」

 

「明日には試合だ! ゆっくりと身体を休め、英気を養って置け」

 

それを尻目に、迫信と十河は大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

大洗機甲部隊の面々は、弘樹の故郷の村人達に案内され、滞在施設である廃校になった学校の校舎へと向かい始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

すっかり日が暮れ、人工的な明かりの少ないこの村では、本日は晴天と言う事もあり、月と星の明かりが夜にも関わらず、村の中を明るく照らし出している。

 

田んぼからはカエルの合唱が聞こえてきており、草叢からは虫の声が鳴り響いている。

 

そんな村の外れ………

 

昔、学校が陸の上にあった頃の遺物である、廃校になった学校の、木造校舎にて………

 

何人もの人々の笑い声が響いて来ていた。

 

 

 

 

 

廃校になった学校の木造校舎の大教室………

 

村人に案内されて滞在施設であるこの場所へやって来た大洗機甲部隊の面々だったが………

 

そこで村人達は、歓迎会と称し、各々が育てた作物を持ち寄りだし、何時しかちょっとした宴会が開かれていた。

 

「いや~、しかしホント立派になったなぁ~、弘樹くん!」

 

「ホント、ホント! あの無愛想な子がねぇ!!」

 

「将来どうなっちまうんだと心配したが、こんなに立派になって………くうぅっ! おじさんは嬉しいよ!!」

 

「ハハハハハ………」

 

中心となっているのはやはり弘樹で、故郷の村の人々に囲まれ、昔話を聞かされている。

 

酒が入っており、大分テンションが高い村人達の様子に、弘樹も流石に乾いた笑いを漏らす。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

そんな弘樹を助けたいみほだったが、如何して良いか分からず、オロオロとするだけだった。

 

「今の学校は如何だい、湯江ちゃん?」

 

「ハイ。先生もクラスの皆さんも良い人たちばかりです。勿論、町の人達もです」

 

「そう。それは良かった。けど、辛くなったら何時でも帰って来て良いんだからね」

 

「そうそう。此処は湯江ちゃんと弘樹くんの故郷なんだから」

 

「ハイ。ありがとうございます」

 

一方、湯江も同じ様に故郷の人々に囲まれているが、コチラは酒が入っていない面子ばかりなので、特に苦労は無く、話に丁寧に受け答えしている。

 

「貴方達、湯江ちゃんのお友達?」

 

「あ、ハイ」

 

「そうです」

 

とそこで、湯江の近くに居た遥とレナに、1人の老年の女性村人が声を掛ける。

 

「湯江ちゃんと何時までも仲良くしてあげてね。あの子、口には出さないけど、お兄さんと一緒で無理する子だから」

 

「ハイ! 分かりました!」

 

「湯江ちゃんは大切なお友達ですから」

 

老年の女性村人の言葉に、遥とレナはそう返事を返すのだった。

 

「おお~、今時珍しい、良い子達だね~」

 

「良い子の周りにはやっぱり良い子が集まるんだね~」

 

その言葉に、村人達は感動した様子を見せる。

 

「あ、あの、村長さん………」

 

と、そんな様子に戸惑い、如何して良いか分からず、只々時折話しかけてくる村人に当たり障りの無い受け答えをしながら、出される料理に手を付けていた居た大洗機甲部隊の中で、優花里が恐る恐ると言った様子で村長に声を掛けた。

 

「うん? 何だい、お嬢ちゃん?」

 

幸い村長は素面だった為、普通に返事を返す。

 

「その………舩坂殿の祖先、舩坂 弘軍曹もこの村で生まれたんですよね?」

 

「おお、舩坂くんの御先祖様に興味があるのかい?」

 

「そりゃあ、もう。舩坂 弘軍曹は戦車道や歩兵道を求道する人達にとっては神様の様なお方ですから」

 

目を輝かせてそう言う優花里。

 

「ハハハッ、神様か。まあ、当の本人は、村に帰って来て暫くは幽霊扱いされていたそうだよ」

 

「!? 幽霊っ!?」

 

幽霊と言う単語を聞いた麻子がビクリと震える。

 

「? 麻子さん? 如何しました?」

 

「あ~、麻子、朝も苦手なんだけど、オバケも苦手なんだよぉ………ホラ、大丈夫だから」

 

華がそんな麻子を見て不審がると、沙織が麻子の肩を抱き寄せながら代わりに答える。

 

「幽霊………ですか?」

 

「ああ、何せ、舩坂 弘軍曹が所属していたアンガウル島の守備隊は玉砕したって伝えられていたからね。家族にも戦死公報が渡されていたし、生存が確認されるまでの間、戸籍上では死亡していたそうだよ」

 

「まあ、実際に1度死んでるしね………」

 

沙織が以前優花里が言っていた舩坂 弘の武勇伝を思い出してそう言う。

 

「舩坂 弘軍曹がこの村に帰って来て最初にした事は………自分の墓標を抜く事だったそうだよ」

 

「凄い話ですねぇ」

 

頬の手を当てながら華がそう呟く。

 

「…………あ………あの………」

 

そんな中、みほは村長の事を見ながら、何かを言おうとして止める様な素振りを繰り返していた。

 

「? そっちのお嬢ちゃんは如何したんだい?」

 

「あ、あの、えっと………」

 

「遠慮は要らないよ。何でも聞いてくれ」

 

緊張している様子のみほに、村長は優しい笑みを浮かべながらそう言う。

 

「その………舩坂くんって、子供の頃はどんな感じだったんですか?」

 

みほはその笑みに緊張を解され、聞きたかった事………弘樹の幼少時代について尋ねる。

 

「舩坂くんの子供の頃かい? そうだね………今とあまり変わらなかったかな?」

 

「今と?………」

 

「舩坂くんって、子供の頃からあんな感じだったんですか?」

 

みほが首を傾げ、沙織が村長に更にそう尋ねる。

 

「そう、昔っから生真面目でね………あんまり子供らしくなくて、心配した程さ」

 

「何だか、今の舩坂殿を見てると、容易に想像できますね………」

 

優花里が、故郷の村人に囲まれている弘樹の事を一瞬見やり、そう呟く。

 

「しかし、不思議な魅力の有る子でね………周りには何時も人が集まっていた」

 

「そうですね………」

 

今も故郷の村人に囲まれ、歩兵としての戦友も多い弘樹の事を思い、華が肯定する。

 

「…………」

 

みほも、弘樹の方へと視線を向ける。

 

「………お嬢ちゃん。ひょっとして………舩坂くんの彼女かい?」

 

「!? ふええっ!?」

 

と、そんなみほの様子を見た村長がそんな事を言うと、みほは忽ち顔を真っ赤にする。

 

「あ~! やっぱりみぽりんって舩坂くんの事~!」

 

「ち、違うよ~! そんなのじゃ………」

 

「に、西住殿ぉ! やっぱりそうなのですか~!?」

 

「だから違うよ~!!」

 

沙織と優花里が反応し、あんこうチームは忽ち大騒ぎとなる。

 

こうして、大洗機甲部隊と弘樹の故郷の人々との夜は更けて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

天竺ジョロキア機甲部隊との会合場所に、大洗女子学園の戦車隊5両と大洗男子校の歩兵部隊員達が集合し、天竺ジョロキア機甲部隊を待っていた。

 

「! 来ました!!」

 

楓が声を挙げると、前方の方から土煙を上げて、巡航戦車Mk.VIII・チャレンジャーが3台。

 

巡航戦車・コメット(A34)が2台。

 

その後ろにジープが1台。

 

モーリス軽偵察車が1台と多数の兵員輸送車がやって来る。

 

更に………

 

「オ、オイ!? アレ何や!?」

 

その後ろから続いてくる、車両とは明らかに違う3つの影を見て、大河がそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「?………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊のメンバーも、その影に注目する。

 

やがて、天竺ジョロキア機甲部隊が近づくに連れて、その影の形がハッキリとし始める。

 

「アレは………」

 

「象だっ!!」

 

楓と地市がそう声を挙げる。

 

そう………

 

天竺ジョロキア機甲部隊の中に居た、車両とは違う影の正体は………

 

象だった!!

 

象は鳴き声を挙げ、その長い鼻を上げる。

 

「凄~いっ!」

 

「おっきい~っ!!」

 

ウサギさんチームのあやと桂利奈が、象を見て無邪気な声を挙げる。

 

「流石、インドをモチーフにした天竺女学院と、タイをモチーフにしたジョロキア男子高校だね………」

 

「まさか象まで連れて来るなんて………」

 

愉快そうに笑う迫信と、驚きを露わにしている清十郎。

 

やがて天竺ジョロキア機甲部隊は、大洗機甲部隊の前で展開し、並び立つ。

 

そして、隊長車両と思われるコメットのハッチが開き、中から良く似た顔付きをした、美しい少女2人が現れる。

 

更に、歩兵部隊の中からも、屈強な体躯をした背の高い2人の男子が前へと出て来る。

 

4人はそのまま、大洗機甲部隊代表であるみほ、杏、河嶋、迫信、十河達の前へと歩み寄る。

 

「貴方が隊長さん?」

 

「! あ、ハ、ハイ! そうです!!」

 

少女2人の内、年上の方と思われる女性の方から話しかけられ、天竺女学園の女性の美しさに見とれていたみほは、思わず上擦った声を出してしまう。

 

「あらあら~、そんなに緊張しないで。私は天竺女学院の戦車隊隊長をしている『ローリエ』よ。こっちは妹の『ルウ』」

 

「よろしくお願いします」

 

年上と思わしき少女………『ローリエ』が微笑みながらそう言うと、傍に居たもう1人少女………『ルウ』も頭を下げて挨拶をする。

 

「ジョロキア男子高校歩兵部隊の隊長、『ターメリック』だ」

 

「副隊長の『キーマ』です。よろしく」

 

続いて、ジョロキア男子校歩兵部隊の隊長と副隊長である焼けた肌色で顔中に傷の有るスキンヘッドの男子・『ターメリック』と『キーマ』も挨拶をする。

 

普通に挨拶をしただけなのだが、ガタイが良く、背も高い為、それだけで若干の威圧感が有る。

 

「た、隊長の西住 みほです」

 

「大洗女子学園生徒会、広報担当の河嶋 桃です」

 

「生徒会長の角谷 杏だよぉ。今日は宜しくねぇ」

 

「大洗国際男子校生徒会会長兼歩兵部隊隊長の神大 迫信だ」

 

「同じく、副会長兼歩兵部隊副隊長の神威 十河だ」

 

天竺ジョロキア機甲部隊代表メンバーの挨拶が終わったのを見て、大洗機甲部隊の代表メンバーも挨拶をする。

 

「今日はよろしくね………それにしても、最近になって戦車道を復活させたんですって?」

 

「しかも、この前はグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と戦ったんだってね。そんですぐに今度はウチと試合だなんて………凄いね」

 

ローリエの言葉に、ルウが感心する様にそう言う。

 

「あ、その………」

 

「まあ、そっちにも色々と事情が有るんだろうし、深くは聞かないわ」

 

「それに、そういうガッツのあるのは大好きだよ!」

 

戸惑うみほだったが、ローリエとルウは気を使った様にそう言う。

 

「お互い、良い試合をしましょうねぇ」

 

そこでローリエはそう言って、みほに向かって右手を差し出した。

 

「! ハイ! よろしくお願いします!」

 

みほはその手を取り、握手を交わしながらローリエにそう返す。

 

「よろしく頼む」

 

「ええ………胸を借りる積りで行かせてもらいますよ」

 

その横で、ターメリックと迫信も握手を交わしていた。

 

「フフフ、よく言うぜ………グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との試合、負けはしたけど良いとこまで言ったそうじゃないか」

 

するとそこで、ターメリックの背後に控えていたキーマがそんな事を言う。

 

「オイ、キーマ………」

 

「聞けば、戦車隊の隊長はあの西住流………そして歩兵部隊には、あの『舩坂 弘』軍曹の子孫がいるそうじゃないか」

 

ターメリックの言葉も聞かず、キーマは大洗歩兵部隊の中から、舩坂 弘の子孫………弘樹の姿を探す。

 

「…………」

 

そして、みほ以外のあんこうチームが乗車して待機しているⅣ号の前に整列しているとらさん分隊の前に1人立っている弘樹の姿を見つける。

 

「へえ~、アンタかい? けど、戦車道の家元が居ようが、伝説の歩兵の子孫が居ようが、今日勝つのは俺達だぜ。覚えておきな………!? イテッ!」

 

「調子に乗るな、キーマ」

 

調子に乗って居たキーマの頭を、ターメリックが小突く。

 

「すまなかったな………」

 

「いや、気にしていない」

 

ターメリックは弘樹に向かって謝罪するが、弘樹は気にしていないと返す。

 

「助かる………だが、私とて伝説の歩兵の子孫と戦えるのは楽しみにしている。期待を裏切ってくれるなよ」

 

「………小官は出来る事を可能な限り遂行するだけだ」

 

若干闘志を見せながらそう言うターメリックに、弘樹は何時も通り冷静沈着な態度を保ってそう返すのだった。

 

「それではコレより! 天竺ジョロキア機甲部隊対大洗機甲部隊の試合を始める!!」

 

とそこで、試合の審判に来ていた篠川 香音、高島 レミ、稲富 ひびきの中で、レミがそう声を挙げる。

 

それを聞くと、みほ達とローリエ達は、其々の部隊の元へと戻る。

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

そして香音の号令で一斉に互いの相手に向かって頭を下げて挨拶をする。

 

その後、自分達の試合開始地点へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹の故郷で行われる事となった、2度目の試合………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子高校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』との練習試合。

 

象までも駆り出してきた天竺ジョロキア機甲部隊を相手に………

 

大洗機甲部隊は如何戦うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させてもらいました。

遂に天竺女学院とジョロキア男子校からなる天竺ジョロキア機甲部隊との試合の日を迎えた大洗機甲部隊。
その戦いの舞台となる地は、何と舩坂兄妹の故郷だった!

久々の帰郷で村人達の歓迎を受ける舩坂兄妹と大洗機甲部隊。
だが、その余韻を味わう暇も無く、天竺ジョロキア機甲部隊との試合に入る。
象までも投入してきた天竺ジョロキア機甲部隊を相手に、大洗機甲部隊はどう戦うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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