ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第149話『バトリングです!』
白狼の行方を知る為に冥桜学園を訪れた大洗機甲部隊の一同………
行方を知る足柄から情報を得る為………
夏祭りのカレー大会の参加チームに助っ人として参戦する事になったあんこうチーム………
結局カレーを作り上げたのは2チームだったり………
湯江を助っ人にした木曾チームの乱入があったりした中………
いよいよ優勝者の発表がなされようとしたところ………
まるゆからカツアゲをしようとして、木曾に撃退された不良達が、『パンツァーレディース』………
『戦車暴走族』の総長・『湘南 晴風』を引き連れて、仕返しにやって来た。
そして卑怯にも、武道の名門である冥桜学園の誇りを逆手に取り、晴風は戦車道・歩兵道での勝負を木曾に挑む………
誇りの為に勝負を降りる事をしなかった木曾に助太刀をしようとする大洗だが、肝心の戦車や、着用義務の有る戦闘服が無い………
だが、そこで………
冥桜学園に眠っていた旧日本軍がドイツから輸入したティーガーⅠを回収に来ていた絹代と………
弘樹の戦友である『神楽坂 ライ』に『紅月 カレン』に出会う。
更に、そんな一同に声を掛ける者が現れた。
それは………
冥桜学園の甲板都市………
夏祭り会場………
「? 誰?」
突然聞こえて来た声の方向を、みほを初めとした一同が振り返ると、そこには………
赤備えの様に真っ赤に染められ、砲塔両面と車長ハッチにムカデ、車体前面に武田菱を黒色ペイントしている小型の戦車………
『九七式軽装甲車(砲搭載型)』、通称『テケ』と、その車長ハッチから上半身を出しているショートの黒髪に大きな赤いリボンをしている目つきの鋭い少女と、操縦手ハッチから顔を見せているロングの金髪の少女の姿が在った。
「おお! テケ車です! 珍しいっ!!」
「あのマークは、赤備え………武田………百足紋………」
テケに反応する優花里と、そのテケのカラーリングとエンブレムに反応する左衛門佐。
「君達は?………」
「馬上より失礼致す。身共は楯無高校、『鶴姫 しずか』と申す」
弘樹が尋ねると、リボンの少女………『鶴姫 しずか』が時代掛かった口調でそう自己紹介する。
「そして、我が愛馬………」
「あああ、あの! 西住 みほさんですよね!? 私、『松風 鈴』って言います! 試合、何時も見てます! 大ファンなんです!!」
「え、えっと、あ、ありがとうございます………」
と、続けて操縦手の子を紹介しようとしたが、その子、『松風 鈴』はテケから降りて、みほの前に立ち興奮した様子でそう捲し立てていた。
「君、ちょっと落ち着いて………」
「! わあぁーっ!? 出たっ!? 大洗の鬼神! 蘇った英霊! カオスを体現する男! 不死身の歩兵、舩坂 弘樹!!」
鈴を落ち着かせようとした弘樹だったが、鈴は弘樹の姿を見て、更に興奮した様子を見せる。
「…………」
弘樹は困った顔になって、テケの上に居るしずかを見やる。
「…………」
しかし、しずかもしずかで、如何して良いか分からずに居る様子だった。
「ちょっと、鈴。落ち着きなさいよ」
「わたたっ!?」
とそこで、制服姿の女子が現れ、鈴のシャツの首根っこを掴んで落ち着かせる。
「友人が大変失礼致しました」
「いや、構わない。ところで、君は?」
「あ、申し遅れました。私、楯無高校の『遠藤 はるか』。『ムカデさんチーム』のマネージャーみたいなものです」
そう女子生徒………『遠藤 はるか』は自己紹介する。
「『ムカデさんチーム』? 戦車道の者か?」
と、弘樹がそう問い質した瞬間………
「否っ!!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
テケの砲塔上に立つしずかがそう声を挙げ、一同の注目が集まる。
「我等がするのは戦車道などと言う婦女子の暇潰しに非ず。戦也」
「なっ!?」
「戦車道が………暇潰しですって」
戦車道を婦女子の暇潰しと断ずるしずかに、他校戦車チームの面々の一部が渋面を浮かべる。
「如何にも。所詮はお遊戯。故に廃れているのではないか?」
「このぉっ! 黙って聞いてればっ!!」
「粛清してやるわ!」
「許せないわっ!!」
尚もそう言葉を続けるしずかに、アリサ、カチューシャ、ルウが掴み掛って行きそうになったが………
「オイ、お姫さん。その辺にしときな。助っ人しようってのに、喧嘩売って如何すんだ?」
「! この声は………」
そう言う男性のものと思われる渋い声が聞こえて来て、弘樹が反応する。
そして、テケの後ろから、楯無高校の男子用の制服に身を包んだ3人の男が現れる。
「よう、弘樹」
「久しぶりだな」
「元気そうじゃねえか。まあ、お前さんなら当然だろうがな………」
顔中に傷跡のある男と、寡黙そうな男、そしてニヒルな感じのする男が、弘樹を見ながらそう言う。
「『グレゴルー』! 『ムーザ』! 『バイマン』もか!」
その3人………『グレゴルー・ガロッシュ』、『ムーザ・メリメ』、『バイマン・ハガード』の姿を見て、弘樹がそう言う。
「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」
「ちょっと、ノンナ。またぁ?」
その3人の姿を見た途端、ノンナが………
むせる
カチューシャはそんなノンナの姿に呆れる様に呟く。
「お前達も、まだ歩兵道を続けていたのか?」
「いやあ、生憎ともうルールで縛られた戦いにはうんざりしてな」
「今は『バトリング』の方にのめり込んでるのさ」
弘樹がそう尋ねると、グレゴルーとバイマンがそう返す。
「『バトリング』?………成程。するとそちらの2人は『強襲戦車競技(タンカスロン)』の選手という事か」
『バトリング』と言う単語を聞いた弘樹が、再びしずかと鈴の事を見やりながらそう呟く。
「ねえ、ゆかりん。『バトリング』とか『強襲戦車競技(タンカスロン)』って何?」
「どちらも連盟非公式・非公認の歩兵競技と戦車競技です。戦車の方は参加可能車輌が10トン以下である事以外はルールが無く、歩兵側に至っては粗ルール無用と言っても過言ではありません。車輌数の制限も無いうえ、試合中の増援や試合への乱入も禁止されていません。競技会場や開催時間にも制限は無く、夜間でも競技が行われます。一部では非合法な賭け試合も行われていると聞きます」
「つまりは野試合………若しくは非合法戦というワケだな」
沙織が『バトリング』と『強襲戦車競技(タンカスロン)』について優花里に尋ね、優花里がそう答えると、麻子が口を挟む。
「そこであのお姫さんとも出会ってな。色々あって、今じゃチーム組んでやってるってワケだ」
「成程………お前達らしいな」
グレゴルーがそう言うと、弘樹は微笑する。
「まあ、兎に角。豆戦車とは言え、コレで戦車は2輌。多少はマシに………」
「いや、3輌だよ」
と、カレンがそう言いかけた瞬間、そう言う台詞と共に、弦楽器を鳴らした様な音が響いた。
「! この音は………」
その弦楽器の音に、シメオンが反応した瞬間………
小型の車体に頭でっかちな砲塔を持つ戦車………
フィンランド軍が、ソ連軍から鹵獲したBT-7にイギリス軍から提供されたQF 4.5インチ榴弾砲を搭載した改造戦車………
『BT-42』が姿を現した。
その砲塔の上には、チューリップハットとジャージ姿で、フィンランドの民族楽器・カンテレを持っている少女が腰掛けている。
「やあ、久しぶりだね、シメオン」
「シメオンさん、久しぶり」
「元気そうだね」
チューリップハットの少女がそう言うと、砲塔上部のハッチが開いて、ブロンド色の髪を二つ結びで纏めたおさげの少女が姿を見せ、操縦手用のハッチからも、赤茶色の髪をビックテール状で纏めている少女が顔を見せた。
「『ミカ』! 『アキ』に『ミッコ』も!」
「! 『ミカ』さん!」
シメオンがそう声を挙げ、みほも驚きを示す。
チューリップハットの少女は『ミカ』
ブロンド色の髪を二つ結びで纏めたおさげの少女は『アキ』
赤茶色の髪をビックテール状で纏めている少女『ミッコ』
彼女達は、『継続高校』の戦車道チームの隊長とその隊員達だった。
「みほさんも久しぶりだね。何時かの練習試合以来かい?」
「ハイ、お久しぶりです」
「みぽりんとヘイヘくんの知り合い?」
そのミカ達と面識がある様子を見せるみほとシメオンに、沙織がそう尋ねる。
「うん、継続高校の戦車道チームの隊長さんと隊員さん達だよ。黒森峰に居た頃、練習試合をした事あるんだけど、苦戦させられて」
「ええっ!? あの黒森峰が!?」
黒森峰が苦戦させられたと言うみほの話に、聖子が驚きの声を挙げる。
「ヘイヘさんは、如何言ったお知り合いで?」
「ああ、言ってなかったな。ワシが大洗に転校して来る前に居た学校が継続だったんだよ」
「ええっ!? そうだったんですか!?」
清十郎が、シメオンは如何言う知り合いなのかと尋ねると、シメオンがそう答え、光照が驚きの声を挙げる。
「しかし、ミカ。何で此処に………って、聞くだけ野暮か」
「その通り………風に吹かれて来たのさ」
シメオンの問いに、ミカはそう返すと、カンテラを鳴らした。
「もう~、ミカってば、そればっかり」
「何だか………浮世離れしている感じがする子だな」
アキが呆れた様にそう言うと、磐渡がそんな感想を漏らす。
「君達も手を貸してくれるのか?」
「風がそう言っているからね」
弘樹が尋ねると、ミカはそう返しながら、またカンテラを鳴らす。
「コレで戦車の数ではイーブンね」
「豆戦車と実質突撃砲の戦車ですけどね」
絹代がそう言うと、カレンが若干呆れた様子でそう返すのだった。
◇
数分後………
冥桜学園・夏祭り会場から少し離れた草原………
月明かりに照らされる草原を進む3輌の戦車と、5名の歩兵の影………
「すまねえな。巻き込む形になっちまって」
ティーガーⅠの操縦席に乗り込んでいる木曾がそう言う。
「気にしないで。コッチはこのティーガーを貰う約束になってたから、言わば恩返しよ」
砲手席のカレンがそう返す。
「そうそう。でも、みほちゃん達は良かったの?」
と、通信手席の絹代もそう言うと、車長席のみほと、装填手席の優花里の姿を見やる。
「ハイ。戦車乗りとして、戦車を暴走行為やあんな事に使う人を見逃せませんから」
「私も同じです! あんな使い方をされては、戦車が可愛そうであります!」
車長席のみほがそう言うと、優花里もそう同意する。
「それもそうね………よおし! あの暴走族達に、本当の戦車乗り魂って奴を教育してやりましょう!!」
「「「「おおーっ!(おうっ!)」」」」
絹代がそう言うと、車内に勇ましい返事が響き渡るのだった。
「姫。助っ人買っといてなんだけど、大丈夫かな? 相手は何時ものタンカスロンで戦ってる豆戦車や軽戦車じゃなくて、重戦車だよ?」
「フッ、相手は強大であればあるほど良い。戦とはそういうものよ」
一方、テケの方では、不安そうな様子を見せている鈴に、しずかが狂気染みた笑みを浮かべてそう返す。
彼女も中々の戦闘狂の様である。
「で、ホントのところは、如何して助っ人する気になったの?」
「戦車道には人生の大切な事が色々と詰まっている………そんな戦車道を汚す様な彼女達がちょっと許せないのさ」
「お、珍しくマジだね、ミカ」
BT-42の車内でも、アキ、ミカ、ミッコがそんな会話を交わしている。
「まさか、こんな形でまた弘樹さんと同じ戦場に立つとは思いませんでしたよ」
「全くだ………」
そして、随伴していた歩兵の中で、知波単の戦闘服姿のライが、弘樹にそう言う。
「オイ、弘樹。戦闘服の具合は如何だ?」
するとそこで、ムーザが弘樹にそう尋ねて来た。
「ああ、サイズはピッタリだ。問題無い」
「運良く予備の戦闘服が有って良かったな」
弘樹がそう返すと、今度はバイマンがそう言って来る。
今、弘樹が来ている戦闘服は、グレゴルー達の古巣………
『赤肩学園』の物である。
その証拠に、右肩が血の様な暗い赤で染められている。
「しっかし、こうしているとまるで亡霊にでもなった様な気分だな」
「フッ、亡霊か………なら、さしずめ、レッドショルダーの亡霊って事か。序にコイツの肩は赤く塗らねぇのか?」
「えっ? 僕ですか?」
グレゴルーがそんな事を言うと、バイマンがライの事を見ながらそう言う。
「貴様………塗りたいのか?」
「へっ、冗談だよ」
グレゴルーがバイマンを睨みつけると、バイマンはそう返す。
「お喋りはその辺にしておけ。そろそろ目標地点だ」
と、ムーザがそう言い、目標地点が近い事を告げる。
「! 伏せろっ!!」
「「「「!?」」」」
「! 全車停止っ!!」
「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」
するとそこで、弘樹とみほが何かに気付いた様にそう声を挙げ、歩兵部隊は一斉に伏せ、戦車も停止する。
直後に、その周辺に次々と砲弾が着弾!
派手に火柱を上げたっ!!
「!!」
火柱が治まると、みほがハッチを開けて車外に姿を晒す。
「!? アレはっ!?」
そこでみほは目にする。
前方の小高い丘の上に陣取り、主砲から硝煙を上げている3輌のIS-3………
そして、その周辺に展開している、合わせて50輌近くは居る………
『T-54』と『T-10』の戦車部隊の姿を!
戦車の周りには、世紀末的な恰好をしたチンピラ達の歩兵部隊の姿も在る。
「『T-54』と『T-10』!!」
「なっ!? そんなっ!? どっちも第二次世界大戦後の戦車じゃないですか!?」
みほがそう叫ぶと、優花里が驚きの声を挙げる。
「端から戦車道で勝負する気なんてなかったのね!」
「挨拶も無しに仕掛けて来てる時点で、その積りみたいよ」
カレンが怒りを露わにする中、絹代は冷めた様子でそう言う。
「良いぜ。本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」
だが木曾は、立ちはだかる50輌近くの戦車を見ながら、逆に闘志を燃え上がらせる。
「クククク………」
そしてもう1人………
しずかも、居並ぶ戦車部隊を前に、闘志が高まる余り、狂気の笑みを浮かべていた。
(ヤバ~イ! 姫が超楽しそうな笑みを浮かべてる~っ!!)
一方の鈴の方は、敵戦車部隊としずかの様子に、戦々恐々としている。
「何よ、アレ!? 卑怯にも程があるよっ!!」
「…………」
アキがそう言うと、ミカの顔も無表情になる。
「…………」
そして、無言のままにカンテラを鳴らし始め、ある曲を演奏し始めた。
「おっ! いきなりやる気だね、ミカ!!」
その曲を聞いたミッコがそう声を挙げる。
それはフィンランドの民謡………
『サッキヤルヴェン・ポルッカ』だった。
「ライ、お前はこのまま護衛として戦車と一緒に居ろ。小官達は側面に回って仕掛ける」
「了解!」
「行くぞっ!」
「「「おうっ!!」」」
そして歩兵部隊も、弘樹がそう命じ、ライを戦車の護衛に残すと、グレゴルー達と共に棲蛇亜麟の側面へと向かう。
戦場となっているフィールドから少し離れた丘の上………
「何アレ!? 卑怯じゃないっ!!」
「戦後の戦車を使い、挨拶も無しに攻撃………オマケにあの数………」
「如何やら初めから戦車道で勝負する気など無かったようですわね」
棲蛇亜麟の部隊編成を見た沙織がそう声を挙げ、麻子が呟くと、ダージリンも不快感を露わにする。
「だが、コレは非公式の試合だ。審判も居ないとなればルールを順守する必要も無い。つまり、向こうがやってる事を咎める事は出来ないと言う事だ」
しかし、十河が淡々とそう言い放つ。
「だからって、幾らなんでも、アレはあんまりですよ!」
そんな十河に、梓が棲蛇亜麟部隊を指差してそう言い放つ。
「如何しようっ!?」
「今からでも西住総隊長と舩坂先輩に加勢に行きましょうっ!!」
「でも、戦車と戦闘服が………」
男子・女子の1年生達は、今からでも加勢に行こうと言うが、やはり戦車も戦闘服も無いので如何する事も出来ない。
「クウッ! 折角加勢してくれた彼女達に、我々は何も出来ないのか………」
「長門………」
長門を初めとして冥桜学園の生徒達も、自分達の代わりに戦ってくれている弘樹やみほ達を見ている事だけしか出来ず、歯痒い思いを募らせる。
「皆、落ち着いてくれ」
しかしそこで、シメオンがそう声を挙げ、一同の視線が集まる。
「弘樹達なら大丈夫だ。ワシが保証する」
「で、でも! あんなに数の差が………」
「まあ、見ているんだ」
不安そうにそう言う沙織に、シメオンはそう言い、再び戦場を見やるのだった。
草原エリア………
「ハハハハハハッ! 馬鹿正直に来やがって! 誰が真面に戦車道なんかするかってんだ! どんな手を使おうが、勝てば良いんだよ! 勝てばっ!!」
IS-3の砲塔の上に仁王立ちしている晴風が、高笑いしながらそう言い放つ。
「総長! 1輌突っ込んで来やすぜっ!!」
「あん?………」
と、傍に居た随伴歩兵の不良からそう声が挙がり、晴風が視線をやるとそこには………
隊列から飛び出し、コチラに向かって爆走してくるBT-42の姿が在った。
「何だぁ? 自棄になっての特攻か? 構わねえっ! 捻り潰せっ!!」
晴風がそう命じた瞬間、棲蛇亜麟戦車部隊が、突っ込んで来るBT-42に一斉砲撃する!
………だが!!
「行っくよーっ!!」
ミッコがそう言い放つと、BT-42は巧みな機動で、棲蛇亜麟戦車部隊の砲撃を紙一重で回避して行く。
「んなっ!? 馬鹿野郎っ! もっと良く狙えっ!!」
晴風がそう怒鳴り、棲蛇亜麟戦車部隊の砲撃の激しさが増すが、やはりBT-42には掠りもしない。
やがて、BT-42はそのまま、棲蛇亜麟部隊の中へと飛び込んだ!
「トゥータッ!」
そして至近距離から、手近に居たT-54のエンジン部に砲弾を撃ち込んだ!
エンジン部に砲弾を撃ち込まれたT-54が爆発し、白旗を上げる。
更にBT-42は、棲蛇亜麟戦車部隊の中を走り回りながら、次々とエンジン部や砲塔リング、車体の覗き窓と言った弱点部分だけを正確に狙い撃って行く。
「は、速過ぎるっ!?」
「何だ、あの操縦は!? レーサーでも乗ってるのか!?」
戦車や歩兵が密集した中を、縦横無尽に走り回るBT-42の姿に、棲蛇亜麟戦車部隊のレディース達からは驚愕の声が挙がる。
「落ち着けっ! 包囲して、逃げ場を………」
「総長っ! 今度はテケが突っ込んで来やすっ!!」
「!? 何ぃっ!?」
晴風がBT-42を包囲しろと言いかけた瞬間、レディースの1人がそう声を挙げ、その言葉通り、BT-42に続く様に突っ込んで来るムカデマークのテケの姿を確認する。
「ええいっ! 消し飛ばせっ!!」
晴風がそう命じると、数輌のT-54とT-10が、テケに向かって砲撃する。
「キャアアアッ!? 怖い怖い怖い~っ!!」
「落ち着け、鈴。コチラの速度と車体の大きさなら、そうそう当たるものではない………」
「でも怖いよ~っ!! 普段飛んで来る砲弾とは全然違うよ~っ!!」
タンカスロンでは絶対に経験する事の無い大型砲弾の着弾の嵐に、鈴が悲鳴を挙げるが、対するしずかは狂気の笑みを浮かべたままである。
「クソッ! あのテケ、タンカスロン用だな! 大分弄られてるぞっ!!」
明らかにカタログスペックを凌駕している動きを見せているテケに、レディースの1人がそう声を挙げる。
「慌てるな! 所詮は豆戦車だ! 装甲なんざ無いに等しい! 接近して来たら吹き潰してやれば良いんだ!!」
と、別のレディースの1人がそう言った瞬間に、テケは棲蛇亜麟戦車部隊の布陣の中へと飛び込んで来る。
「来たぞっ! 潰せぇっ!!」
途端に、1輌のT-10が、テケを踏み潰そうとダッシュする。
「…………」
だが、それを見たしずかは、狂気の笑みのまま、足を鈴の背中に這わせた。
操縦の指示である。
「!? ひゃううっ!?」
それに若干悶えながらも、指示通りに戦車を急停車させたかと思うと、すかさずバックする。
「なっ!?」
「うわっ!? 馬鹿っ!?」
テケを狙ったT-10は、そのまま奥に居たT-54に衝突!
余程勢い良くぶつかったのか、両車から白旗が上がる。
「チキショウがッ!!」
と、別のT-54が、テケに向かって発砲する!
「見切ったっ!!」
しかし、しずかはそう言い放ち、テケの主砲を発砲したかと思うと、何と!!
テケから放たれた砲弾が、T-54が放った砲弾に当たり、明後日の方向に弾かれた!!
「「「「「うわあああっ!?」」」」」
弾かれた先にはT-10が居り、直撃を受けて白旗を上げる。
「んなっ!?」
「砲弾に砲弾を当てて弾いただとっ!?」
「嘘だろ!?」
「何なんだよ、あの女っ!?」
とんでもない神業を見せたしずかに、パンツァーレディース達の間に戦慄が走る。
「ええい! うろたえるんじゃねえっ!! それでも天下の棲蛇亜麟かぁっ!?」
そう叫ぶ晴風だが、パンツァーレディース達の動揺は収まらない!
「クソッ! どいつもこいつも………おうわっ!? アダッ!?」
と、晴風がそう悪態を吐いた瞬間に、彼女のI-3に砲弾が命中。
傾斜装甲で弾かれたが、その振動で晴風は足を滑らせ、ハッチから車長席に落ちて尻餅を衝く。
「総長! 大丈夫ですか!?」
「イデデデデッ! な、何だっ!?」
装填手のレディースがそう尋ねて来る中、晴風は車長用のスコープで外を確認する。
「装填完了っ!」
「発射ぁっ!!」
そこには、自分達に向かって発砲して来ているティーガーⅠの姿が在った。
「チイッ! ティーガーのヤツが仕掛けて来やがったか!!」
「総長! 突っ込みますかっ!?」
「いや、このまま撃てっ! コッチは虎狩り用に開発されたIS-2の後継機だぜ! 自慢のアハトアハトもこの距離じゃコッチの装甲は抜けねぇっ! なら、アウトレンジで仕留めさせてもらうぜ!!」
晴風がそう指示すると、3輌のIS-3がティーガーⅠに向かって砲撃する。
ティーガーⅠの周辺で、次々に火柱が上がる!
しかし、ティーガーⅠは回避行動を取りはするものの、距離を詰めようとはして来ない。
「? 何考えてんだ? この距離じゃ貫通出来ねえって分かってる筈だぜ?」
ティーガーⅠの行動の意味が分からず、首を傾げる晴風。
と、その直後にティーガーⅠがまたも発砲!
砲弾は晴風の乗って居るIS-3の隣に居たIS-3の砲塔に命中したかと思うと、傾斜装甲によって明後日の方向に弾かれる。
「無駄だってのっ!!」
晴風は余裕の様子でそう言う。
だが………
「装填完了!」
「良し! 分かったわ! ココねっ!!」
再度装填を終えたティーガーⅠが発砲したかと思うと、放たれた砲弾が晴風の左側に居たIS-3の防盾部分下側に命中!
下向きに跳ね返った砲弾が、車体上部を貫通したと判定され、爆発!
一瞬の間の後に、IS-3から白旗が上がる!
「なっ!?」
何が起こったのかと、晴風が再び車外に姿を晒す。
直後に、今度は晴風の右側に居たIS-3に、同じ様に砲弾がショットトラップで命中!
もう1輌のIS-3も、白旗を上げた!
「!? ま、まさかっ!? アイツ、狙ってショットトラップをっ!?」
そこでそう言う結論に至り、晴風が戦慄する。
「砲塔3時! T-10!!」
「了解っ!!」
みほの指示で、照準器に捉えたT-10に向かって発砲するカレン。
砲弾はまたもショットトラップで、T-10の車体上部に命中して爆発。
白旗を上げさせる。
「良しっ!」
「凄いですね、紅月殿っ! ショットトラップをコレだけ連発させるだなんて!!」
カレンが軽くガッツポーズを決めると、優花里が次弾を装填しながらそう言う。
「私も初めて見ました。凄い腕ですね」
「別に大した事じゃないよ。昔っから火力の有る戦車と無縁だったから、如何やったら相手の戦車を撃破出来るかと考えた時に思いついた戦法がコレで、馬鹿の1つ覚えみたいに練習してただけよ」
みほもカレンを褒めるが、カレンはそう返して大した事じゃないと言う。
(そう言えば、黒森峰じゃそう言う練習はしなかったな………大体どんな戦車とも正面から撃ち合える戦車ばかり使ってたから)
そうみほが考えている中、反撃の砲撃が、ティーガーⅠの付近に次々と着弾する。
「甘いぜっ!!」
しかし、木曾の巧みな操縦で、ティーガーⅠは次々に砲弾を回避する。
「良い操縦ね。さっきマニュアルを読んで覚えたばかりとは思えないわ」
木曾の操縦テクニックを、絹代がそう褒める。
「いや、俺は特別な事はしてない。何故か向こうの弾が当たり難いだけだ」
「じゃあ、倒福のおまじないの効果かしらね」
木曾がそう返すと、絹代はティーガーⅠの車体側面に在った『倒福』マークの事を思い出してそう言うのだった。
「やられたーっ!?」
「コッチもだぁっ!?」
ティーガーⅠからの砲撃と、自陣内で暴れ回っているBT-42とテケによって、棲蛇亜麟戦車部隊のT-54とT-10は次々に撃破されて行く。
「ええいっ! 歩兵部隊! 何やってやがるっ!! お前等も働けっ!!」
「りょ、了解っ! ティーガーを狙えっ! 頭を仕留めればコッチのもんだっ!!」
晴風がキレ気味にそう命じ、アタフタしていた不良歩兵達が、パンツァーファウストやバズーカでティーガーⅠを狙う。
しかしそこで、発砲音がしたかと思うと、不良歩兵の1人が持っていたパンツァーファウストの弾頭が撃ち抜かれた!
「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」
弾頭が爆発し、パンツァーファウストを持っていた不良歩兵と、周りに居た不良歩兵数名が巻き込まれる!
「!? 何っ!?」
「…………」
驚く不良歩兵の1人の目が、ウィンチェスターM70を構えているライの姿を目撃する。
ライは次々に発砲し、パンツァーファウストを持った不良歩兵だけを狙って、その弾頭を撃ち抜いて行く。
「「「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」
「クソッ! 先に奴を片付けろっ!!」
対戦車兵の不良歩兵が次々にやられて行った為、先にライの方を片付けようと、突撃兵の不良歩兵達が、得物をライに向けて構える。
と、その瞬間!!
側面から、無数のロケット弾が飛んで来て、不良歩兵達の中に次々と着弾した!!
「「「「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」
「!? 今度は何だっ!?」
不良歩兵達は狼狽えながら、ロケット弾が飛んで来た方向を見やる。
「「「「…………」」」」
そこには、丘の稜線の上に立つ、弘樹、グレゴルー、ムーザ、バイマンの姿が在った。
「回り込んで来やがった!」
「クソッ! やっちまえっ!!」
不良歩兵達の攻撃が、一斉に弘樹達に向かう。
「行くぞ!」
「「「おうっ!!」」」
その直後に、弘樹の号令で、4人は一斉に敵陣へと突撃する!!
飛び交う銃弾の射線を読み、ジグザグに動きながら斬り込んで行く!!
夜の草原に、血の様に赤く染められた弘樹達の右肩が、不気味に蠢く!!
「気を付けろ!………」
「ケッ! こんなもん、裸のマヌケにしか効きゃしねえ!」
至近距離を銃弾が飛び交う様子を見て、弘樹がそう言うが、ムーザはそう言って更に速度を上げる。
「チキショウッ! 何で当たらねえっ!?」
「あの右肩………アイツ等、まさか赤肩学園のっ!?」
と、不良歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間………
「そこだっ!!」
その不良歩兵目掛けて、ムーザがMP40を発砲する!
「ぐああああっ!?」
蜂の巣にされた不良歩兵は、バタリと倒れる。
「そらよっ!!」
続けて、グレゴルーが腰溜めに構えていたフリーガーファウストを放つ!
「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」
ロケット弾が次々に不良歩兵達を吹き飛ばす!!
「た、助けてくれぇっ!」
「何にやってんのよ! 全く、だらしないわねっ!!」
と、不良歩兵の1人が思わず悲鳴を挙げると、1輌のT-54が弘樹達に主砲を向ける。
「榴弾装填完了っ!!」
「コレでも喰らいなさいっ!!」
装填手が榴弾の装填を追えると、砲手が引き金を引く。
「そうは行かねえなぁ………」
だが、その瞬間に、バイマンがそのT-54目掛けて、バズーカからロケット弾を発射!
主砲口から飛び出そうとしていた榴弾に、ロケット弾が直撃っ!!
「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」
榴弾とロケット弾の爆発で、主砲身が完全に破損っ!!
車内にも爆風が逆流したと判定され、白旗を上げる!!
「…………」
そして弘樹は、MG34を単射で連発し、不良歩兵の頭や心臓部を狙い撃ち、次々に戦死判定で動けなくして行く。
「無駄弾を使う積りは無い………」
その言葉通りに、1発も外していない。
「チキショウッ! こうなりゃ白兵戦でっ!!」
とそこで、不良歩兵は白兵戦を挑むべく、各々にナイフや軍刀と言った近接武器を手にし始める。
………その時!!
「「「「「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」
突如不良達の中を影が走り抜け、銀色の閃光が閃いたかと思うと、次々に戦死判定者が出た!!
しかし、戦死判定を受けた不良歩兵達は、全員が首を刎ねられたと言う判定だった。
「なっ!?」
不良歩兵の1人が驚きの声を挙げると、またもや影が走り抜け、閃光と共に首を刎ねられたと判定されての戦死者が増えて行く。
そして、影は不意に、不良歩兵達の目の前で止まる。
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「首置いてけ! なあ! 大将首だ!! 大将首だろう!? なあ大将首だろお前!!」
それは、刀を携え、狂気の顔を浮かべた人物だった。
戦場となっているフィールドから少し離れた丘の上………
「だ、誰? あの妖怪みたいな人?………」
突然の乱入者を見て、沙織が唖然としながらそう呟く。
「! 提督っ!!」
と、その乱入者を見た長門がそう声を挙げる。
「えっ!? 提督!?」
「じゃ、じゃあ、あの人が………」
「そう、我等が提督………」
「冥桜学園最強の武人………『島津 豊久』よ」
「テートクーッ!! バーニングラァァァァァァブッ!!」
長門と陸奥がそう言う横で、提督こと『島津 豊久』に熱烈なラブコールを送る金剛だった。
アッと言う間に、棲蛇亜麟部隊は、晴風の乗るIS-3だけとなった。
「あ………が…………」
アレだけ居た手勢が、今や自分だけとなってしまった事に、晴風は言葉を失う。
「残りはお前だけだ………」
「降伏して下さい。コレ以上の戦闘は無意味です」
その晴風の前に集まった混成部隊一同の中で、弘樹とみほがそう言い放つ。
「…………」
それを受けて黙り込む晴風。
だが、その時!!
「総長ーっ!!」
「!!」
晴風の事を呼ぶ声が聞こえた来たかと思うと………
新たにT-54とT-10の部隊が現れる!
「! まだ居たのっ!?」
「此処に来て増援っ!?」
その新たに出現したT-54とT-10の部隊を見て、カレンとアキが声を挙げる。
「! よっしゃあっ! お前等、良く来た! ココから一気に逆転………」
それを見て、晴風の士気が戻った瞬間………
「いや、もう終わりだ………」
「へっ?………」
弘樹がそう言い放ち、晴風が思わず間抜けた顔をすると………
空から、サイレンの様な音が響いて来た。
「「あ………」」
その音を聞いたみほと優花里が、思わず声を漏らす。
その直後………
「イワンの戦車めええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」
ハンネスの乗ったJu87 G-1が、新たに現れたT-54とT-10の部隊に1トン爆弾を投下した!!
部隊の中心部に着弾した1トン爆弾は大爆発!!
殆どの車両が撃破判定となった!!
「うおおおおっ!!」
更に、生き延びていた車輌を、37ミリ砲で次々に天板を撃ち抜いて行くハンネス。
「ちょっ!? 隊長、落ち着いて………」
「イワン共めえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」
「駄目だ。前の試合で出番が無かったからフラストレーションが溜まって手が付けられない………」
目を血走らせているハンネスの姿を見て、エグモンドは力無く項垂れる。
「えっ!? え、えっ!?」
「退避っ!!」
戸惑うばかりの晴風を余所に、みほの号令で混成部隊は一斉に戦場外へと退避する。
「喰らえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」
その直後に、増援部隊を片付けたハンネスが、残っていた37ミリ砲の砲弾を、全て晴風のIS-3へと叩き込む!
「!? ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」
断末魔の叫びと共に、多数の37ミリ砲弾を喰らったIS-3が大爆発。
暫く黒煙が漂っていたかと思うと、やがて晴れ………
中から白旗を上げたボロボロのIS-3が現れる。
「「「「「御愁傷様………」」」」」
そのIS-3を見て、ティーガーⅠに乗って居たみほ達はそう憐れみの念を送ったのだった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
前回のラストで助っ人を買って出て来た人物………
スピンオフ作品『リボンの武者』の主人公・鶴姫 しずか松風 鈴のムカデさんチームでした。
この作品では、原作より試合が多くなっていて、大会の開催期間が延びているので、ムカデさんチームは既にタンカスロンに参加していると言う設定になっています。
しかし、続く3人の登場は予想外だった人も多いでしょう。
野望のルーツ、ザ・ラストレッドショルダーに登場したグレゴルー、ムーザ、バイマンです。
この組み合わせを考えたのは、タンカスロンは非公式の戦車戦だから、非公式の歩兵戦もあっても良いなと思い、そう言うのが似合いそうなキャラをチョイスして、組ませてみました。
過去話でチラッと出てたので丁度良いかと。
ノンナさん、大感激でむせる(笑)
そして、劇場版に先駆けて継続校の皆さんにも登場してもらいました。
シメオンとの関係と、劇場版への布石みたいな感じのゲスト出演してもらいました。
そして冥桜学園の提督も満を持して登場。
意外!
それは妖怪首おいてけ!
『島津 豊久』!!
武人の学校なので、この人が思い浮かんで離れなくなってしまいまして。
そして肝心の戦車暴走族ですが………
少数で性能の劣った戦車軍と言えど、精鋭。
ハンネスの強襲もあって、敢え無く撃破となりました。
しかし、次回で意外な展開に………
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。