ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第142話『第7回戦終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第142話『第7回戦終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊と西部機甲部隊の試合………

 

戦車道・歩兵道全国大会の第7回戦………

 

意図せぬ事とはいえ、フレンドリーファイヤによって自軍フラッグ車を撃破してしまった白狼………

 

大洗女子学園の命運もココに尽きたかに思われたが………

 

何と、全く同時のタイミングで………

 

サンショウウオさんチームが西部機甲部隊のフラッグ車を撃破していた事が判明………

 

勝負は引き分けとなり、戦車道の公式ルールに則って………

 

両機甲部隊から代表戦車チームを1チーム選抜し合っての………

 

延長戦に突入するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道公式戦、第7回戦の試合会場………

 

大洗機甲部隊の野営陣………

 

「予備のシュルツェンを急いで持って来い!」

 

「馬鹿! 補給は榴弾じゃない! 徹甲弾だ!!」

 

「機銃弾の補充は如何したっ!?」

 

「足回りの点検、急げっ!!」

 

整備部員達の怒号が飛び交う中、ボロボロになっていたⅣ号が急ピッチで整備・修復されている。

 

延長戦に臨むチームがあんこうチームと決まったので、大急ぎで完全な状態に仕上げているのだ。

 

良く見れば、整備部員だけでなく、他の戦車チームや歩兵部隊の隊員達も何かしらの作業を手伝っている。

 

「あ、あの! 私達も何か出来る事ありますか!?」

 

「お手伝いさせて下さい!」

 

とそこで、その様子を見ていたあんこうチームの内、沙織と華が近くに居た敏郎にそう尋ねた。

 

「いや、君達はこの後に延長戦に臨まなくてはならないんだ。少しでも身体を休めておいてくれ」

 

「しかし………」

 

「コレは俺達の仕事っすよ! 任せてくだせえ! 勝負までには新品同様に仕上げてみせますぜ! 野郎共ぉーっ! 整備部魂を見せてやれぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

敏郎がそう返すと、華が食い下がろうとしたが、藤兵衛がそう言い、整備部員達の勇ましい雄叫びが挙がる。

 

「皆さん………」

 

「だ、そうだ………私達は精々延長戦に向けて、身体を休め………むにゃむにゃ………ZZZ」

 

「だからって寝るのは休み過ぎだよぉーっ!!」

 

そんな整備部員達の姿に感激した様子を見せる華と、言われた通りに身体を休めようと寝に入る麻子と、そんな麻子にツッコミを入れる沙織。

 

「…………」

 

「………神狩殿」

 

そして、優花里は他のメンバーと同じ様にⅣ号の整備を手伝っている白狼に、不安げな瞳を向けている。

 

あの後、白狼は碌に会話もせずに野営陣へと戻り、Ⅳ号の整備が始まると、無言のままに率先して整備の手伝いを始めた。

 

罪滅ぼし、或いは良心の呵責を感じているかの様に………

 

一方、そんな白狼と同じ程に………いや、それ以上に暗い雰囲気を出している者が居た。

 

「…………」

 

みほである。

 

顔色は悪く、右手が小刻みに震えている。

 

(多分、西部機甲部隊の代表はクロエさんになる筈………戦わなくちゃいけないんだ、あの人と………)

 

(さあ如何した!? まだシュルツェンが吹き飛んだだけだぞ! 掛かって来い!! 作戦を立案しろ! 徹甲弾を撃ち出せっ! 機銃で牽制しろっ! 速度を上げて喰らい付いて来いっ! さあ戦車道はこれからだ!! お楽しみはこれからだ!! ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリーッ!!)

 

「!!」

 

その脳裏には、あのクロエの狂気の入り混じった心底楽しそうな笑みが何度も甦っており、その度にみほは頭を振ってその顔を振り払おうとする。

 

「西住ちゃん?」

 

「如何かしたの?」

 

「顔色悪いよ? まさか具合が良くないんじゃ?」

 

とそこへ、カメさんチームの面々が現れて、杏、柚子、蛍が心配する様にそう言って来る。

 

「あ、い、いえ、大丈夫です………」

 

心配を掛けない様にとしながらも、オドオドとした様子でみほがそう返す。

 

「ならもっとしゃんとしろ! 負けたかと思ったが、引き分けになって延長戦に持ち込めたんだぞ! お前が負けたら全て終わりなんだぞっ!!」

 

「!?」

 

しかしそこで、桃の怒声交じりのそんな台詞が飛び、みほの目が見開かれる。

 

「ちょっ!」

 

「桃ちゃん!」

 

「………か~しま」

 

途端に蛍と柚子が慌て、杏は桃をジト目で睨み付けた。

 

「あ………」

 

そんな杏達の様子を見て、桃はハッとしたが………

 

「…………」

 

その瞬間にはみほは、一同に背を向けて、その場から逃げる様に走り出した。

 

「! みぽりんっ!?」

 

「みほさんっ!?」

 

「西住殿っ!?」

 

突然逃げる様に離れて行ったみほに、沙織、華、優花里が驚きの声を挙げる。

 

「あ、い、いや、違うんだ! 私は………」

 

「先生~、お願いしま~す」

 

慌てて言い訳を始めようとしていた桃だったが、そこで杏がそんな台詞を言ったかと思うと………

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「…………」

 

何時の間にか桃の背後に立っていた熾龍が、無言で桃の頭をアイアンクローで掴んで持ち上げた。

 

心なしか、何時もより力が入っている様に見え、桃の頭からはミシミシと頭蓋骨が軋んでいる音が聞こえて来ている。

 

「「「…………」」」

 

杏達は、今回(今回も?)ばかりは桃が悪いと思っているので、止める気配は微塵も無かった。

 

「みぽりんを追い掛けないと!」

 

「その必要は無いぞ………」

 

とそこで、沙織がみほの事を追い掛けようとしたが、半分寝ていた麻子がそう言って来る。

 

「? 冷泉さん? 如何言う事ですか?」

 

「ん………」

 

華がそう尋ねると、麻子は顎で、みほの後を追う様に付いて行った人物の事を指す。

 

「………お願い致します」

 

優花里も、その人物の背中に向かって、そう言いながら頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ううう」

 

逃げる様に去って行ったみほは、九四式六輪自動貨車の陰に隠れる様に、震える自分の身体を抱き締めていた。

 

脳裏に浮かぶのは、やはりクロエの狂気の笑みである。

 

(落ち着いて………落ち着かなきゃ………この後、あの人と戦って勝たないと………じゃないと、私達の学校が………)

 

必死に心を落ち着かせ、恐怖を振り払おうとするみほ。

 

しかし、その思いと裏腹に、身体の震えは酷くなる一方である。

 

(だ、駄目………震えが………止まらないよ………)

 

みほは、遂に涙が零れそうになる。

 

と、その時………

 

「みほくん」

 

「!!」

 

声を掛けられて、みほは驚きながら俯いていた顔を上げる。

 

そこに居たのは、弘樹だった。

 

「弘樹くん………」

 

「大丈夫か? 大分震えていた様だが………」

 

「…………」

 

弘樹の問いに、みほは俯いて黙り込む。

 

「相手の総隊長………クロエが原因か?」

 

「………私………あんな風に戦車道をする人なんて、初めて見た」

 

そう弘樹が言葉を続けると、みほは吐露する様に語り出す。

 

「黒森峰に居た頃から、色んな人と試合をしてきたけど、あんな風に………例え自分がやられそうになったり、不利になっても笑っていられる人なんていなかった………」

 

「彼女は相当の戦闘狂らしい………戦う事自体に楽しさを見出しているんだろう」

 

「それがあの人の戦車道なんだと思う。けど、私は………それが凄く怖い」

 

そう言うと、再び身体の震えが酷くなるみほ。

 

「負けられないのに………私達の学校を守らないといけないのに………あの人と1対1で戦わないといけないと思うと、どうしようもなく身体が震えて来るの………」

 

「みほくん………」

 

「私………如何したら………」

 

そう言って、またもみほの目から涙が零れそうになる。

 

するとそこで………

 

「…………」

 

弘樹は、腰に挿していた英霊を鞘ごと抜き、みほの前に差し出した。

 

「えっ?………」

 

「…………」

 

戸惑うみほの前に、英霊を差し出し続ける弘樹。

 

「…………」

 

受け取れと言う事なのかと思ったみほは、英霊を受け取る。

 

(! 重い………)

 

弘樹の手が英霊から離れると、その重さが改めて分かる。

 

何時も弘樹が軽々と振り回し、如何なる敵をも斬り捨てて来た英霊。

 

それがこんなにも重たいものだったとは………

 

みほは初めて知った。

 

「それを持って試合に臨め」

 

「えっ?」

 

「御先祖様が御守り下さる」

 

「!!」

 

そこでみほはハッと思い出す。

 

そう、この英霊は………

 

弘樹の祖先である、舩坂 弘軍曹が使っていた物なのだ。

 

「だ、駄目だよ、弘樹くん! コレは弘樹くんの御先祖様が使っていた大切な………」

 

「ああ………だから試合に勝ったら、必ず返してもらうぞ」

 

「!!」

 

そこでみほは察した。

 

コレは弘樹なりの不器用な激励だと言う事に………

 

その為に、大切な祖先の刀まで託してくれたのだ。

 

「…………」

 

みほは英霊を右手で持ったまま、自分の左手を見る。

 

震えは、何時の間にか止まっていた………

 

「………ありがとう、弘樹くん」

 

そしてみほは、1点の曇りも無い顔を上げると、弘樹にお礼を言う。

 

「…………」

 

弘樹は無言で、ヘルメットを被り直す様な仕草をする。

 

「それで、あの………もうちょっとだけお願いしても良いかな?」

 

「お願い?」

 

しかし、続くみほの言葉で、首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れ………

 

いよいよ延長戦開始の時刻が迫り、修理と整備を終えたⅣ号が大洗機甲部隊の隊員達を伴って、集合地点へと移動。

 

そこでは既に、クロエの乗るヘルキャットが待機しており、そのクロエとヘルキャットの姿を遠巻きに見ている西部機甲部隊の隊員達の姿も在った。

 

それを確認すると、大洗機甲部隊の隊員達は停止し、Ⅳ号だけがヘルキャットの元へと向かう。

 

「来たわね。待ってたわよ」

 

目の前まで来たⅣ号に向かって、ハッチから姿を晒していたクロエがそう言い放つ。

 

とそこで、Ⅳ号のハッチが開き、みほが姿を見せる。

 

………が、

 

「あら?」

 

「うえっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「はっ?………」

 

「何アレ?………」

 

それを見たクロエと、西部機甲部隊の隊員達から困惑の声が挙がった。

 

何故なら、今みほは………

 

頭に『必勝』と書かれた日の丸入りの鉢巻を巻き………

 

大洗女子学園の校章が描かれた校旗を、マントの様に羽織り………

 

英霊を下緒で背に背負っていると言う姿だったからだ。

 

「…………」

 

コスプレと言われてもおかしくない恰好だが、本人の顔は至って真剣であり、伊達や酔狂でこんな恰好をしているのではなく、彼女なりの覚悟の現れと言うのが感じ取れる。

 

(何だよ、アレ?………)

 

(スッゲー恰好だな、オイ………)

 

(西住 みほと言えば、大洗の軍神と言われてるけど………)

 

(差し詰め、あの恰好は………大軍神モードって言ったところか)

 

西部歩兵部隊の間で、そんなヒソヒソ話が展開される。

 

「…………」

 

一方で、大洗機甲部隊の方では、弘樹が無言でそのみほ(大軍神モード)の姿を見守っていた。

 

「いや~、舩坂ちゃんがあの恰好の西住ちゃんを連れて戻って来た時には流石にビックリしたよ~」

 

「一瞬、如何かしちまったのかと思ったぜ」

 

と、そんな弘樹の傍に居た杏と地市がそう言って来る。

 

「やはり君の影響かな? 舩坂 弘樹くん」

 

更に、ゾルダートもやって来て、弘樹に向かってそう言う。

 

「黒森峰に居た頃の彼女の姿を知る者からすれば、あんな事をするなんて想像出来ないだろう………君の存在が彼女を様々な意味で勇気づけ、前向きにしているのだね」

 

「………小官の影響など微々たるものです。最後に決めたのはみほくんの意志です」

 

そう言葉を続けるゾルダートに、弘樹はみほから視線を外さずにそう返す。

 

「ねえ、ファインシュメッカーさん。黒森峰の頃の西住総隊長を知ってるって事は、やっぱりファインシュメッカーさんって………」

 

「フッ………私はゾルダート・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

とそこで、聖子がゾルダートの正体について尋ねて来ると、ゾルダートはお決まりの台詞を返すのだった。

 

「………フフフフ………アッハッハッハッハッハッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、不意にクロエが大笑いを始め、西部機甲部隊の面々はハッと我に返り、大洗機甲部隊の面々も彼女に注目する。

 

「ハッハッハッハッハッ! 良いわ! 良いわよ、西住 みほ!! 最高じゃない!! 本当に貴方は、私を熱くしてくれるわっ!!」

 

クロエはそう言い放ち、またもや狂気の笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

しかし、そのクロエの笑みを見ても、みほは微塵も怯む様子を見せず、背負っていた刀の柄に手を掛けたかと思うと、天に向かって掲げる様に抜き放つ。

 

「大洗機甲部隊、戦車部隊長兼総隊長! 西住 みほ!! いざ、尋常に………勝負っ!!」

 

そして直後にそう言い放ち、クロエに向かって切っ先を突き付ける。

 

「望むところよっ!!」

 

クロエはそう応じ、両手でハッチの端をガッと掴んだ!

 

『では、これより、戦車道・歩兵道全国大会第7回戦………大洗機甲部隊と西部機甲部隊の延長戦を開始致します!!』

 

そこで、タイミング良く、主審のレミにより、延長戦開始の知らせが入る。

 

『さあ、いよいよ始まります! 大洗機甲部隊と西部機甲部隊の延長戦!!』

 

『延長戦自体は珍しい事ではありませんが、この勝負はひょっとしたら、戦車道の歴史に残る名勝負になる予感がしますよぉ』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中も、興奮した様子の実況をお届けしている。

 

「………優花里さん。用意は良いですか?」

 

そんな中、キューポラから姿を晒したまま、装填手席の優花里に声を掛けた。

 

「ハ、ハイ! ですが、西住殿………本当にこんな作戦で行く積りですか?」

 

やや戸惑った様子の優花里がそう返して来る。

 

みほに心酔していると言っても過言ではない優花里が不安げに尋ねて来る………

 

それ程までに、今回みほが立てた作戦は無茶苦茶なものだった。

 

「クロエさんに勝つにはこの方法しかありません」

 

「大丈夫なの? みぽりん?」

 

みほがそう返すと、今度は沙織が尋ねて来た。

 

「………私は………沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんなら………あんこうチームの皆さんならきっと出来ると信じて………いえ、『確信』しています」

 

だが、みほは一点の曇りも迷いも無い顔でそう言い放つ。

 

「みほさんにそこまで言われたら………応えないワケには行きませんね」

 

それを聞いた華が、不敵そうに笑顔を浮かべた。

 

「麻子さん、手筈通りに動いたら、初撃は絶対にかわして下さい。そうしないとこの作戦は始まらないどころか、そこで終わりです」

 

「無茶を言ってくれる………まあ、やってやるんだがな」

 

麻子も呆れた様な表情の後に、不敵な笑みを浮かべてそう返す。

 

『では、延長戦………試合開始っ!!』

 

そこで遂に………

 

レミの試合開始の宣言が出され、信号弾が撃ち上がった!

 

「GO!!」

 

と、先に動いたのはクロエのヘルキャット!

 

一直線にⅣ号に向かって突っ込んで行く!!

 

(機動力はコチラが遥かに上! Ⅳ号の機動性じゃコチラに喰らい付いて来れない! 初弾で決まれば良し! 外れたとしても、そこからは機動戦になるからコチラが有利!! さあ、如何出る!!)

 

そんな事を考えながら、みほが如何動くかを期待しているクロエ。

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

するとみほは、再び英霊を掲げる様に構えたかと思うと、振り下ろす様に正面に切っ先を向けた!

 

それと同時にⅣ号が発進!

 

突っ込んで来るヘルキャットに自ら向かって行く!!

 

(!? 突っ込んで来た! 良いわよっ! 何を見せてくれるのかしら!?)

 

その様子に驚きながらも、みほの行動への期待が高まるクロエ。

 

「撃てぇっ!!」

 

とそこで、Ⅳ号が発砲する!

 

「何のっ!!」

 

だが、クロエはお得意の片輪走行でかわす!

 

「ファイヤッ!!」

 

そして反撃と、その状態のまま、今度はヘルキャットの主砲が火を噴く!

 

「麻子さんっ!!」

 

「!!」

 

即座にみほの声が飛び、麻子が操縦桿を動かす。

 

Ⅳ号が僅かに左へとズレたかと思うと、ヘルキャットが撃った砲弾は、Ⅳ号の車体右側に付いて居たシュルツェンを根こそぎに吹き飛ばした!!

 

そのまま、Ⅳ号と片輪走行状態のヘルキャットが擦れ違い合う………

 

かに思われた瞬間!

 

「優花里さん! 今ですっ!!」

 

「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

みほの声が飛び、装填手ハッチが開いて、姿を見せた優花里が、『何か』をヘルキャットに向かって放り投げた!!

 

「!? 何っ!?」

 

投げられた物の正体が分からず、クロエが声を挙げる中、ヘルキャットは普通の態勢に戻る。

 

「! 牽引用のワイヤーッ!?」

 

そこでクロエは、優花里が投げた物が、他の戦車を牽引する際に使用するワイヤーであった事に気づく。

 

ワイヤーはヘルキャットの車体の突起箇所などに、複雑に絡みついている。

 

「今です!!」

 

「ええいっ!!」

 

するとそこで、ヘルキャットに巻き付けたのと反対側のワイヤーの端を持っていた優花里が、そのワイヤーの端を………

 

起動輪に引っ掛けた!

 

「デスマッチ作戦! 行きますっ!!」

 

そしてみほがそう言い放ったかと思うと、Ⅳ号が反転!

 

ワイヤーを引っ掛けた起動輪を全開で回し始めた!

 

すると!!

 

引っ掛けられていたワイヤーが掃除機のコードの様に巻き取られ、Ⅳ号が一気にヘルキャットに再接近する!!

 

『コレはぁっ!? 何とぉっ! まさかの戦車同士によるチェーン・デスマッチだぁっ!!』

 

『いや、最早プロレスですねぇ』

 

その様子をヒートマン佐々木が興奮した様子で実況し、DJ田中も呆れ混じりのコメントを漏らす。

 

「! 振り払えっ!!」

 

クロエがそう叫ぶと、ヘルキャットがⅣ号を振り払おうと急旋回を始めるが、ワイヤーで繋がっている為、Ⅳ号はヘルキャットに振り回される様に旋回を始める。

 

「西住さん! 履帯が切れるっ!!」

 

「構いませんっ!!」

 

と、ワイヤーを巻き込んでいる事で、履帯が切れそうになっている事を麻子が報告するが、みほは即座にそう返す。

 

直後に、Ⅳ号の履帯が破断!

 

だが、ワイヤーはまだ巻き取られている為、Ⅳ号は通常ではありえない、円を描く様な動きでヘルキャットに迫る。

 

「砲塔旋回っ!!」

 

振り払うのは無理だと思ったクロエがそう命じ、ヘルキャットの砲塔がⅣ号に向かって指向する。

 

「近接戦闘っ!!」

 

「!!」

 

「撃つよぉっ!!」

 

だがそこで、みほが機銃架、華が同軸機銃、沙織が車体機銃を一斉に発射!

 

弾丸の豪雨が、ヘルキャットに襲い掛かる。

 

「ぐうっ!?」

 

「駆動系損傷っ! 移動不能っ!!」

 

「通信機破損っ!!」

 

「砲塔旋回装置に異常! 砲塔旋回速度が落ちますっ!!」

 

「照準器にも問題がっ!!」

 

装甲の薄いヘルキャットにとっては機銃弾でも脅威であり、目の前で散る火花にクロエが僅かに怯む中、乗員達から次々と損傷の報告が挙がる。

 

が、まだ致命傷には程遠い!

 

「負けるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

クロエがそう叫ぶと、旋回速度が落ちながらも指向を続けさせていた砲が、Ⅳ号に向かって火を噴く!

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の砲塔左側のシュルツェンに命中!

 

シュルツェンは砕け散り、その破片がキューポラから出ていたみほへと襲い掛かった!

 

「!?」

 

咄嗟に、持っていた英霊を盾にする様に構えたみほ。

 

シュルツェンの破片は英霊の刃に当たると、真っ二つに切り裂かれて、みほを避ける様に飛んで行った。

 

(! 守ってくれた!)

 

弘樹が預けてくれた先祖の刀が自分を守ってくれた………

 

一瞬みほは、その事に感動を覚える。

 

「! 主砲発射用意っ!!」

 

「装填完了してますっ!!」

 

しかし、すぐに勝負の事へ戻って指示を飛ばすと、優花里からそう声が挙がる。

 

Ⅳ号は、ワイヤーで振り回されている様に動きながら、ヘルキャットの正面に位置取ろうとする。

 

「砲塔戻してっ!!」

 

すぐにクロエがそう指示を飛ばし、ヘルキャットの砲塔が正面に戻され始める。

 

「華さん! お願いっ!!」

 

「決めてみせます!」

 

一方、Ⅳ号の方も、華が照準器を覗き込んで集中しており、後はみほが撃つタイミングを見計らうばかりだった。

 

そして、Ⅳ号がヘルキャットの正面に位置取り、ヘルキャットの主砲も正面を向く。

 

「「撃てえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」」

 

みほとクロエの叫びが木霊し、Ⅳ号とヘルキャットが同時に発砲!

 

ヘルキャットの放った砲弾は、みほの横を擦り抜ける様に通過………

 

対するⅣ号の砲弾は、ヘルキャットの車体正面に命中!

 

ヘルキャットから派手に爆発が上がる!!

 

直後に牽引ワイヤーが切れ、Ⅳ号は駒の様に回転し始める。

 

「ぐううっ!」

 

しかし、麻子の天才的な操縦テクニックにより、残った片方の履帯操作だけで如何にか停止する。

 

損傷は激しいものの、白旗は上がっていない………

 

一方、黒煙を上げていたヘルキャットの方からは、独特の音と共に、白旗が上がった。

 

『西部機甲部隊代表、ヘルキャット行動不能! よって、この試合………大洗機甲部隊の勝利!!』

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

主審のレミが、大洗機甲部隊の勝利を告げると、大洗の面々は歓声を挙げる。

 

今回は負けたと思っていたのが首の皮1枚で繋がり、逆転の勝利となったのだ。

 

喜びも一入である。

 

「西住総隊長ーっ!!」

 

「西住先輩ーっ!!」

 

「西住さ~~んっ!!」

 

皆口々にみほの事を呼びながら駆け出す。

 

「…………」

 

しかし、白狼だけは、影の有る表情のまま、呆然とその場に立ち尽くしたままだった………

 

「やれやれ………今回ばかりは本当に無茶だったな………」

 

「手がもう汗だくだよぉ~」

 

「そうですか? 私は結構楽しかったですけど………」

 

「五十鈴殿………益々肝が据わってきましたね………」

 

ボロボロのⅣ号から脱出する様に這い出た麻子、沙織、華、優花里がそう言い合う。

 

「やった………」

 

「「「「「「「「「「西住総隊長~っ!!」」」」」」」」」」

 

みほもそう呟き、Ⅳ号から降りると、その周りを大洗機甲部隊の面々が取り囲む。

 

「皆さん………」

 

「見事な作戦でした、西住総隊長」

 

皆の事を見回していたみほの前に、弘樹が立つ。

 

「弘樹くん………」

 

そこでみほは、握ったままだった英霊を背の鞘に戻し、下緒を外すと弘樹に差し出した。

 

「ありがとう………守ってくれたよ」

 

「お礼なら小官ではなく、御先祖様に言って下さい」

 

弘樹は英霊を受け取ると、腰に差し直してそう言う。

 

「西住 みほ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、不意にみほを呼ぶ声が聞こえ、一同はその声が聞こえて来た方向を見やる。

 

そこには、クロエの姿が在った。

 

「クロエさん………」

 

「…………」

 

みほがその存在を認めると、クロエはみほに向かって歩き出す。

 

「「「「「「「「「「!!………」」」」」」」」」」

 

思わず大洗機甲部隊の面々は揃って道を譲り、まるでモーゼの十戒の様に人の波が割れて行く。

 

「…………」

 

とうとうクロエは、みほの目の前に立つ。

 

「あ、あの………」

 

みほが戸惑っていると………

 

「…………」

 

クロエは、スッと右手をその眼前に差し出した。

 

「えっ?………」

 

「良い勝負だったわ。久々に熱くなれたわ。礼を言うわよ」

 

驚くみほに、クロエは試合中に浮かべていたのとは違う、翳りの無い笑顔を浮かべてそう言い放つ。

 

「! ハイッ! 私の方こそ、ありがとうございました!!」

 

そこでみほも笑顔になり、クロエの手を取ると、ガッチリと握手を交わした。

 

やはり彼女も戦車道求道者。

 

試合中は戦闘狂となっても、普段は淑女そのものである。

 

………かに思われたが。

 

「うふふふ………可愛い」

 

「えっ?………」

 

突然クロエはそう呟いたかと思うと、不意にみほの顔に自分の顔を近づけたかと思うと、その頬に口付けた。

 

「!? ふえええっ!?」

 

「なあっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「まあっ!?」

 

「おお………」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

クロエの思わぬ行動に、みほ、優花里、沙織、華、麻子は驚きの声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も仰天する。

 

「な、何をっ!?………」

 

「ねえ、今晩暇? 私空いてるんだけど、良かったら如何?」

 

狼狽するみほに向かって、クロエは試合中とは違う狂気の笑みを浮かべてそう尋ねる。

 

「えっ!? ええっ!? わ、私達、お、女の子同士で………」

 

「大丈夫! 私、ソッチでも行ける口だから!」

 

「ええええっ!?」

 

物凄い事をサラッとカミングアウトしたクロエに、みほはまたも驚きの声を挙げる。

 

「ひ、弘樹く~んっ!!」

 

そしてクロエの前から逃げる様に駆け出し、バッと弘樹の背中に隠れた。

 

「…………」

 

一方の弘樹の方も、片腕でみほを庇う様にしながら、もう片方の手を英霊の柄に掛ける。

 

「アラ、残念………フラれちゃった」

 

その様子を見たクロエは、ケタケタと笑いながらそう言う。

 

「総隊長~! 行きますよ~っ!!」

 

「それと~! 何かシャムさんがすっごく怒ってますよ~っ!!」

 

とそこで、クロエのヘルキャットに乗って居た乗員達が、クロエに向かってそう呼び掛けて来る。

 

「あ~、今行くわーっ! あの子ったら、すぐ焼きもち焼くんだから、しょうがないわね。じゃあ、また今度ね」

 

乗員達にそう返すと、クロエはみほにウインクを送り、去って行った。

 

「ハア~~、ビックリした~………」

 

「色々な意味で危ない奴だったな………」

 

ホッと息を吐いて胸を撫で下ろすみほと、クロエの性格に呆れた様子を見せる弘樹。

 

「まあ、何はともあれ、勝てたんだし、OK~」

 

「ホントにギリギリでしたけどね………」

 

やがて締める様に杏がそう言うと、柚子がツッコミを入れる。

 

「さあ! 皆! ライブの準備だよ! 前回は出来なかったから、今回は気合入れてかないと!」

 

「うん!」

 

「そうだね!」

 

「頑張りましょうっ!」

 

サンショウウオさんチームも、1試合ぶりの勝利ライブに向けて動き出そうとする。

 

「………アレ? 宮藤殿。神狩殿は、何処に?」

 

するとそこで、優花里が飛彗に向かってそう尋ねた。

 

「えっ?………」

 

しかし、飛彗もその言葉で、初めて白狼の姿が無い事に気付く。

 

「おかしいな………さっきまで居たのに………」

 

「………!!」

 

飛彗がそう言った瞬間に、優花里はある嫌な予感を感じて、本能的にその場から駆け出す!

 

「!? 優花里さんっ!?」

 

「優花里ちゃん!?」

 

(神狩殿!!………)

 

みほ達の声も耳に入らず、優花里は走り続けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部学園との延長戦。
クロエへの恐怖と廃校のプレッシャーが重なり、潰れる寸前だったみほ。
しかし、それを救ったのはやはり弘樹。
愛刀である英霊をお守り代わりに預け、彼女を奮い立たせる。

そして始まった延長戦。
みほは何と!
ヘルキャットとチェーンデスマッチを展開する。
今回の戦闘は、『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』で、ヤマトとメタルーザの最終決戦を参考にしました。
宇宙戦艦がチェーンデスマッチするんだから、戦車がチェーンデスマッチしても不思議ではないと思いまして(爆)

如何にか勝利をもぎ取った大洗。
しかし、白狼が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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