ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第14話『新教官登場です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第14話『新教官登場です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女子学園と聖ブリティッシュ男子高校との練習試合は………

 

健闘したものの、大洗の負けとなってしまった………

 

敗北の悔しさを噛み締めたみほ達と弘樹達だったが………

 

それに落ち込んでいる暇も無く、次なる練習試合が、既に決められていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園………

 

戦車格納庫前………

 

「わあ~、凄~い!」

 

「直ってるぅ~!」

 

格納庫前に並べられ、新品同様の輝きを放っている戦車達を見て、1年生チームからそう声が挙がる。

 

「いや~、真田さんの整備技術が凄くってさぁ。思いのほか捗ったよ」

 

「いやいや、君の方こそ、良い腕だ」

 

それを行った女子学園自動車部のリーダーであるナカジマと、男子校整備部の部長である敏郎がそう言い合う。

 

「コレでまた練習出来るね」

 

「次の練習試合までまた時間がありません。出来るだけ、根を詰めて練習しませんと」

 

みほがそう言うと、戦闘服姿の弘樹がそう言葉を続ける。

 

「それにしても………遅いですねぇ、教官達」

 

とそこで、優花里が未だに姿を見せない教官達にそう言葉を呟く。

 

「確かに………いつもは、蝶野教官は兎も角、最豪教官は授業の前にはもう着いていましたし………」

 

と、華がそう言った瞬間、迫信の携帯が鳴る。

 

「ハイ………コレはどうも………ハイ………何ですって?………それでは、今後は………ハイ………ハイ………そうですか………分かりました」

 

何かを真剣な様子で話し合っていたかと思うと、携帯を切る迫信。

 

「会長。誰からですか?」

 

「蝶野教官と最豪教官からだ」

 

逞巳が尋ねると、迫信はそう答える。

 

「教官達から? それで、何と?」

 

「うむ………戦車道・歩兵道の全国大会の審判に選ばれた為、我が学園艦の教官役をする事が出来なくなったそうだ」

 

「!? ええっ!?」

 

「何だとっ!?」

 

サラリとそう言う迫信に、逞巳と桃が驚きの声を挙げる。

 

「出来なくなったって………」

 

「全国大会で審判を勤める者が、何処か特定の高校の教官になっていて、審判との癒着を疑われない為の措置だそうだ」

 

「まあ、当然っちゃあ、当然だね」

 

柚子がオロオロとしていると、迫信はそう言葉を続け、杏も毎度の如く干し芋を齧りながらそう言う。

 

「何、心配は要らない。蝶野教官の同期で親友の方が代わりに教官役として赴任してくれるそうだ」

 

しかし、迫信が心配無いとそう言う。

 

「蝶野教官の同期の方が?」

 

「何でも、女だてらに歩兵道まで極めた変わり者らしい」

 

基本的に、戦車道は女子の武芸と完全に決まっているが、歩兵道は男性だけの武道と言うワケではなく、少数ながら女性の歩兵道者も存在している。

 

そう言った女性は、主に自衛官などの役職に就いている者、或いはそれを目指している者などが多い。

 

「へえ~、女の人なのに歩兵道もやってるんだぁ~」

 

「オイオイ、まさかゴリラみたいな女の教官が来るんじゃねえだろうなぁ?」

 

沙織が関心した様な声を挙げると、地市が不安そうにそう言う。

 

「筋肉モリモリ、マッチョレディの教官………そ、それはそれで良いかも………」

 

「貴方は見境無しですか? 了平」

 

やや上級者的な呟きを漏らす了平に、毎度の如く楓がツッコミを入れる。

 

とそこで………

 

「俊~~っ!!」

 

「ん?」

 

自分を呼ぶ声が聞こえて、俊が振り返ると………

 

コチラに向かって駆けて来る、1人の大洗女子学園の生徒の姿が目に入る。

 

プラチナブロンドの髪に琥珀色の瞳、白磁の人形の様な白い肌という浮世離れした美貌を持ち………

 

身長と体格は杏と同程度とさえ思われるほど小柄かつ華奢ながら、胸は驚くほど豊満である。

 

「うおおおっ!? 何というロリ巨乳!!………!? ぶべぇっ!?」

 

「何を失礼な事を言っとるんだ、貴様は」

 

思わず歓喜の声を挙げた了平の頭を、弘樹が刀の峰でブッ叩いた。

 

「おう、元姫」

 

「アレ? 橘ちゃん?」

 

と、その少女の姿を見た俊と杏がそう声を挙げる。

 

「司馬さん。知人ですか?」

 

「会長、お知り合いですか?」

 

逞巳と桃が、俊と杏にそう尋ねる。

 

「うん、クラスメートだけど………司馬ちゃんは?」

 

杏が桃にそう答えると、俊は………

 

「俺の幼馴染で………彼女だ」

 

「「「「「「「「「「!? 何いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

そうサラリと答え、男子歩兵部隊の一部から驚愕と嫉妬の混じった声が挙がった。

 

「始めましてねぇ。私は橘 元姫(たちばな げんき)。何時も俊がお世話になってます」

 

少女………『橘 元姫(たちばな げんき)』はそう言って、一同に向かって挨拶と共にウインクを飛ばす。

 

「ところで、俊。また学校に泊まり込んでたから郵便溜まってたよ」

 

そこで元姫は、大量の郵便物を俊に手渡す。

 

「ああ、すまないな。ここんとこ忙しくて帰る暇が無かったからな………苦労かけんな」

 

「気にしないで。これぐらい当然だし、もう慣れっこだから」

 

早速仲良さげな様子を見せる俊と元姫の2人。

 

((((((((((うぎぎぎぎぎ………リア充爆発しろっ!!))))))))))

 

そんな光景を見て、了平を始めとした非リア充達が血の涙を流しながら羨ましがる。

 

「な、何か………綿貫くん達が怖い………」

 

「やれやれ………」

 

みほがそんな様子の了平達に怯え、弘樹は呆れた様に肩を竦める。

 

「ねえねえ、橘ちゃん? 良かったら一緒に戦車道しない?」

 

するとそこで、杏がそう言いながら、元姫の前に立つ。

 

「えっ? 戦車道?」

 

元姫はそう言いながら杏と向き合う。

 

同じ背と体格をした両者が互いに見詰め合う形となった、両者の間に1つだけ大きく違うモノが存在する。

 

「…………」

 

と、それに気づいた元姫が、杏を見た後、彼女の友人達である桃、柚子、蛍を見やる。

 

「………大丈夫。需要は有るよ」

 

そして、哀れむ様な表情をすると、杏の肩に手を置いてそう言う。

 

「………喧嘩売ってんの?」

 

珍しく杏は、いつもの不敵に笑っている様な表情を崩し、殺気の篭った視線で元姫を睨み付ける。

 

「あ? バレた? てへぺろ☆」

 

途端に元姫は、すっ惚ける様にそう言う。

 

「ムカつくぅっ! すっごいムカつくぅっ!!」

 

「か、会長!!」

 

「杏! 落ち着いて!!」

 

「貴様ぁっ! 会長を侮辱する積もりかぁっ!!」

 

思わず元姫に掴みかかって行きそうになった杏を柚子と蛍が抑え、桃が元姫に噛み付く。

 

「ゴメンゴメンってぇ………それより、戦車道だけど、私は家が飲食店でね。放課後とか休みの日とかはそっちの手伝いしなきゃいけないし、バイトもしてるから無理だよ」

 

今度は割りと真剣に謝りながらも、元姫は戦車道への誘いを断る。

 

「まあ、差し入れを持ってくるぐらいならしてあげるから、それで勘弁してね………それにしても………」

 

とそこで、元姫の視線が、大洗女子学園の戦車達へと向けられる。

 

「………この戦車の塗装………笑いでも取りに行ってるの?」

 

(随分と切り込んで来るな………)

 

そう指摘する元姫に、弘樹は部外者ながらも遠慮無しな物言いの彼女に思わず苦笑いしそうになる。

 

「何だとぉっ!?」

 

「ええ~~っ!? そんな~っ!?」

 

「我々の魂を馬鹿にするのかっ!?」

 

「バレー部復活に懸ける情熱を!!」

 

当然、桃、あや、カエサル、典子がそう噛み付く。

 

「だってそうじゃない。あの文字のペイントは兎も角………他の3両は如何考えても目立つじゃん」

 

しかし、元姫は臆せずにそう言う。

 

「何ぃっ!!」

 

典子を中心に、一同が元姫に掴み掛かって行こうとするが………

 

「揉め事は控えてもらいたい」

 

弘樹がそう言いながら両者の間に割って入り、そう制した。

 

「それに言い方はキツイかもしれないが、彼女の言う事も最もだぞ。グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と試合をした時の事を忘れたか?」

 

「「「「! うう………」」」」

 

そう言われて言葉が出なくなる典子達。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と試合時、Ⅳ号以外の戦車はその目立つ配色とペインティング故か、攻撃が集中していた節がある。

 

特にCチームのⅢ突など、幟が有ったせいで負けたと言っても過言では無い。

 

「じゃあ~、この際だから戦車の色、皆元に戻そうか?」

 

と、漸く落ち着いた様子の杏が、皆にそう提案する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

戦車隊メンバーは、やや不満そうにしている様子を見せながらも、反対意見は挙げなかった。

 

「じゃ、決まりだね」

 

「では、新しい教官が来る前に手早く済ませた方が良いな」

 

杏がそう言うと、迫信も扇子を閉じながらそう言う。

 

「我々も手伝うぞ」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

「整備班集合だ。10分で終わらせるぞ」

 

「「「「「「「「「「オースッ!!」」」」」」」」」」

 

歩兵部隊と整備班も手伝い、大洗戦車部隊の戦車の色を元に戻す作業が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かなりの人数で行った事もあり、塗り替え作業は順調に進行。

 

「皆~! 甘い物持ってきたよ~!」

 

そんな中、作業開始前に姿を消していた元姫が、早速差し入れを持参。

 

「わあ~っ! 凄~いっ!!」

 

「美味しそ~うっ!!」

 

とても個人で作ったとは思えないスイーツが差し入れされ、大洗女子学園の面々は目を輝かせる。

 

「それから………コレはサービスね」

 

更にそこで、元姫は何やら可愛げなイラストが書かれたスケッチブックのページを数枚取り出した。

 

「? 何ですか? コレ?」

 

そう言いながら、そのスケッチブックのページを受け取るみほ。

 

丁度1番上のページには、デフォルメされたあんこうらしきマークが描かれている。

 

「各チームのマークだよ。Aチームとかα分隊じゃ味気無いじゃん。今度からそのマークのチーム名で呼び合う事にしたら?」

 

「可愛い~。良いかも」

 

サラッとそんな事を提案する元姫の言葉を聞きながら、その可愛さに満足したみほは次のページを見やる。

 

すると今度は、あんこうと同じく、デフォルメされた『とら』が、神風の文字と日の丸を描いた鉢巻を巻いて、三八式歩兵銃に結んだ旭日旗を掲げているマークが現れる。

 

「あ、それはα分隊のマークね。如何かな?」

 

「う、うん………」

 

元姫がそう言うと、みほは今度は苦笑いを浮かべた。

 

このとらのマーク………明らかに誰か1人をモチーフにしている。

 

「ほう?………」

 

と、そのモチーフにされていると思われる人物………弘樹が、スケッチブックを覗き込んで来る。

 

「あ、ふ、舩坂くん………ど、如何かな? このマーク?」

 

恐る恐ると言った様子で弘樹に尋ねるみほだったが………

 

「悪くない………いや、寧ろ気に入ったぞ」

 

当の本人は、かなりお気に召した様子であった。

 

「そ、そう………」

 

「さっすが、伝説の日本兵の子孫! そう言うと思ったよ!!」

 

みほがまた苦笑いを浮かべ、元姫が当然と言った様に笑う。

 

そのまま、他のチームのマークも公開され、戦車チームは戦車にマークを描き込み、随伴分隊は戦闘服の臂章としてマークのワッペンを縫い付けると、そしてそれに合わせて、チーム名を改変した。

 

その結果………

 

戦車隊のみほ達のAチームは、『あんこうチーム』

 

バレー部のBチームは、『アヒルさんチーム』

 

歴女達のCチームは、『カバさんチーム』

 

1年生達のDチームは、『ウサギさんチーム』

 

生徒会のEチームは、『カメさんチーム』へと改名。

 

更に随伴歩兵分隊は、弘樹が率いるα分隊が、『とらさん分隊』

 

大河が率いるβ分隊が、『ペンギンさん分隊』

 

磐渡が率いるγ分隊が、『ワニさん分隊』

 

勇武が率いるδ分隊が、『ハムスターさん分隊』

 

そして、迫信が率いるε分隊が、『ツルさん分隊』へと改名された。

 

「………幼稚園のお遊戯か」

 

更新した情報を纏めていた煌人が、改めて各チームと随伴分隊の改名した名前を確認し、ボソリとそう呟く。

 

「色戻しちゃったのは残念だけど~」

 

「でも、名前は可愛くなったよね~」

 

マークを描いたカラーリングを戻したM3リーの横で、あやと優季がそう言い合う。

 

「それにしても………新しい教官さん、まだでしょうか?」

 

とそこで飛彗が、何時まで経っても姿を見せない新しい教官の事を思い出し、そう呟く。

 

「確かに遅いな………もうすぐ授業が終わってしまうぞ」

 

弘樹が女子学園の校舎に掛かっている時計を見てそう言う。

 

………その時!

 

キュラキュラキュラと言う履帯が唸る音と、まるでスポーツカーの様なエンジンの爆音が聞こえて来た。

 

「? 何だぁ?」

 

白狼がそう声を挙げた瞬間!!

 

戦車格納庫横の方に広がっていた森の中から、木々を薙ぎ倒して、1台の戦車が飛び出す!!

 

「!?」

 

「うええっ!?」

 

「何だぁっ!?」

 

突然の事態に混乱する大洗機甲部隊の一同。

 

森の中から飛び出した戦車は、そのまま大洗女子学園の敷地を表すフェンスをも踏み潰し、大洗女子学園のグラウンドへと侵入!!

 

唖然としていた大洗機甲部隊の面々目掛けて突っ込んで来た!!

 

「ちょっ!? 突っ込んで来るぞっ!?」

 

「逃げろぉっ!!」

 

大洗歩兵部隊の面々は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し、戦車部隊のメンバーも逃げる様に其々の戦車の後ろへと隠れる。

 

「「「…………」」」

 

そんな中でも、弘樹、迫信、熾龍の3人は平然としており、その場を動かなかった。

 

「弘樹!?」

 

「会長っ!? 逃げて下さいっ!!」

 

「轢き殺されるぞっ!!」

 

地市、逞巳、海音がそう声を挙げるが、3人は微動だにしない。

 

やがて現れた戦車は、そんな3人の横をスルリと擦り抜け、そのままスピンする様に車体を回転させ、大洗戦車部隊の戦車達の前に、ピタリと停止した!!

 

「「「…………」」」

 

振り返ってその戦車の姿を見やる弘樹、迫信、熾龍。

 

その戦車は、細かな所が色々と弄られている様子があるが、亜美が乗っていたのと同じ、陸自の迷彩色をした10式戦車だった。

 

「アレって………10式ですよね?」

 

「細かい所が弄られてるっぽいが………多分、そうだな」

 

勇武と竜真が、その10式を見てそう言い合う。

 

「と言う事は………新しい教官さんのものですか?」

 

「荒っぽい事するよな~………一体どんなゴリラが乗ってるんだ?」

 

楓がそう言っていると、了平が先程の10式の運転の仕方を思い出し、愚痴る様にそう言う。

 

すると………

 

突如10式の砲塔が旋回を始め、了平にその砲口が向けられる。

 

「………へっ?」

 

了平が呆けた声を挙げた瞬間!!

 

44口径120mm滑腔砲が火を噴いた!!

 

「!? おうわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

慌ててその場に伏せる了平と、砲弾が発射された爆風で吹っ飛ばされる運悪く了平の周りに居た一同。

 

砲弾はグラウンドに隣接していた森の中へと着弾すると、派手に爆炎を上げた!

 

「!?」

 

「ちょっ!?」

 

「オイ、撃ったぞ!? 撃ったぞ、オイッ!?」

 

突然発砲した10式に、一同は騒然となる。

 

その次の瞬間!!

 

「聞こえたわよ! 誰がゴリラですってぇっ!!」

 

そう言う台詞と共に、10式のハッチが開いて、中から戦車・装甲車帽を被り、迷彩服3型に身を包んだ女性が姿を現した。

 

「あ、あああ………」

 

余りの出来事に腰を抜かして、へたり込んでいる了平。

 

「おう、コラァッ!! お前か、そんな事言ったのは! もういっぺん言ってみろ!!」

 

女性はそれにお構い無しに、10式から降りると了平に詰め寄り、胸倉を掴んでネック・ハンギング・ツリーの様に持ち上げる!

 

「ぐええっ!?」

 

「オラッ! 言ってみろ、コノヤロウッ! 誰がゴリラ女じゃコリャァッ!!」

 

そのまま了平を前後にガクガクと揺さぶる女性。

 

「く、苦しい~~………でも、ちょっと良いかも!」

 

既に色々と手遅れだが、更に段々と危ない方向に目覚めそうになる了平。

 

「むうっ!………」

 

流石にコレ以上はマズイのと、了平が今以上に危ない奴になるのを避ける為、弘樹が止めに入ろうとしたところ………

 

「お姉ちゃん、駄目ぇっ!!」

 

「コレ以上はマズイですよ、空さんっ!!」

 

「藤林一尉! 落ち着いて下さいっ!!」

 

10式から、新たに3人の迷彩服3型に身を包んだ女性が飛び出し、了平を締め上げていた女性を引き剥がす。

 

「ぐへっ!?」

 

「離せぇっ! みゆき! キリノ! ミカ! 止めてくれるなぁっ!!」

 

「落ち着いて、お姉ちゃん!」

 

「空さん! 向こうだって悪気があったワケじゃないんですよ!!」

 

「民間人に手を挙げたら問題ですよ!!」

 

空と呼ばれた暴れる女性を、如何にか押し止めるみゆきとキリノ、そしてミカと呼ばれた女性。

 

「………大丈夫か? 了平?」

 

それを尻目に、了平に声を掛ける弘樹。

 

「ゲホッ! ゴホッ!………もうちょっとで天国が見れたんだけどなぁ~」

 

「心配した小官がアホだった………」

 

危ない顔でそう言う了平に、弘樹は溜息と共に呆れた言葉を漏らす。

 

「………何なの? この状況?」

 

混沌とする中で、沙織の呟きが虚しく響いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「いや~、ゴメンね~。ついついカッとしちゃって………今は反省してるから」

 

漸く落ち着きを取り戻した空と呼ばれた女性が、先程の事を軽い感じで謝罪する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同は、何とコメントして良いか分からず、全員が困惑した表情を見せている。

 

「ホラ、お姉ちゃん………皆引いてるよ」

 

「いや、ホント、ゴメンね。空さん、ちょっと短気な所があって………」

 

「本当に申し訳ありません」

 

みゆきと呼ばれた女性が、呆れた様にそう言い、キリノと呼ばれた女性とミカと呼ばれた女性が改めて謝罪する。

 

「は、はあ………」

 

「あの~、ところで………貴女方が、蝶野教官と最豪教官の代わりに来られた教官方で宜しんですね?」

 

柚子がコメントに困っていると、逞巳が代わる様に女性達に向かってそう尋ねた。

 

「ああ、そうそう。自己紹介がまだだったわね。私は空、『藤林 空(ふじばやし そら)』一等陸尉よ。戦車長をやってるわ」

 

「私は妹の『藤林 みゆき』二等陸尉。砲手をやってるわ」

 

「『叶 ミカ』三等陸尉です。操縦手を担当しています」

 

「同じく、『川添 桐野(かわぞえ きりの)』二等陸尉。この10式・改の専属整備士をやってるよ。だから整備については色々とアドバイス出来ると思うよ。キリノって呼んでね!」

 

そこで、3人の女性………『藤林 空(ふじばやし そら)』、『藤林 みゆき』、『叶 ミカ』、『川添 桐野(かわぞえ きりの)』はそう自己紹介する。

 

「どもども~。アタシが大洗女子学園の生徒会長、角谷 杏です。で、コッチが総隊長の西住ちゃん」

 

杏が干し芋を齧りながらそう返し、序にとみほの事も紹介する。

 

「あ………初めまして」

 

そこでペコリと頭を下げて、空達に挨拶をする。

 

「西住?」

 

「ひょっとして、西住流の?」

 

「きっとそうですよ。西住 まほちゃんにそっくりですし」

 

すると、みほの名字を聞いたみゆきとキリノ、ミカが顔を見合わせてそう呟く。

 

「あうう………」

 

逃れられぬ西住の名に、みほの表情が一瞬曇ったが………

 

「えっ、何? ひょっとして、あの鬼ババの娘?」

 

「!? ふえええっ!?」

 

空が何とも無礼な発言をし、みほは思わず仰天してしまう。

 

「ちょっ!? お姉ちゃん!?」

 

「藤林一尉! 仮にも西住流の師範に向かって!?」

 

「だってアタシ、アイツの事嫌いなんだもん」

 

「いや、だからって、娘の前で言わなくても………」

 

「鬼ババを鬼ババと言って何が悪いのよ。ホントの事じゃない」

 

みゆきとミカ、キリノが止めるにも関わらず、空は現西住流の当主であるみほの母………『西住 しほ』への罵倒を続ける。

 

「まあ、良いわ。言っとくけど、私が指導する以上、西住流のやり方は忘れてもらうわよ。良いわね」

 

「は、ハイ………」

 

空の言葉に、みほは半分唖然としてまま、反射的に返事を返すのだった。

 

「蝶野教官に輪を掛けて豪快だな」

 

「豪快過ぎますよ」

 

俊と清十郎が、亜美以上に豪快な空の人となりに、呆れる様に呟く。

 

「あ、あの………藤林教官殿」

 

とそこで、優花里がオズオズと言った感じで、手を挙げる。

 

「何? それと、私の事は空で良いわよ。妹と紛らわしいからね」

 

「で、では、空教官殿。教官達のその戦車ですが………それ、10式ですよね?」

 

優花里は、空達が乗って来た戦車………細かな所が色々と弄られている10式を見ながらそう説明する。

 

「ああ、アレね。10式は10式だけど、私なりの改造が大分入ってるからねぇ………言うなれば、『10式・改』ってとこかしら?」

 

空は、乗って来た10式………『10式・改』の事を見ながらそう答える。

 

「改造って………良いんですか? 官給品を弄ったりして………」

 

「良いの良いの! 気にしない気にしない!!」

 

優花里が心配する様に言っても、空は呵呵大笑するだけだった。

 

「そうそう。聞いてると思うけど、私は歩兵道もやってるから、その男子の方は私が中心になってみるからね」

 

とそこで、空は今度は男子側………歩兵部隊の方を見ながらそう言う。

 

「最豪一尉の話だと、中々の逸材揃いだと聞いてるわ。容赦無くビシバシ扱いていくから、その積りで居なさい!!」

 

「うおっ! ヤベェ………今のセリフでちょっとゾクッとした」

 

「何がだよ」

 

やはり危ない方向に目覚めかけている了平に、地市が突っ込みを入れる。

 

「さあ~! 遅くなったけど早速訓練を始めるわよ! 練習試合まで時間が無いんでしょう!! 詰め込んで行くわよぉっ!!」

 

「あ! そう言えば、次の対戦相手って何処なの?」

 

とそこで、沙織がまだ次の練習試合で戦う相手校の事を聞いていないのを思い出す。

 

「あ~、ゴメンゴメン。言うのを忘れてたよ」

 

「次の対戦相手は………『天竺女学院』の戦車部隊と『ジョロキア男子校』の歩兵部隊からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』だ」

 

杏がそう言うと、迫信が次の対戦高校を発表した。

 

「『天竺女学院』?」

 

「『ジョロキア男子校』?」

 

沙織と華が首を傾げながら、対戦校の名を反復する。

 

「西住さん、秋山さん、知っていますか?」

 

楓が詳しそうなみほと優花里に尋ねる。

 

「あ、ハイ。黒森峰やグロリアーナとブリティッシュの学校と比べると、戦車道と歩兵道を始めた年数はまだ浅いですけど………」

 

「それでも全国大会では毎回上位に食い込んでくる強豪校です。戦車部隊の砲撃命中率は高く、歩兵部隊は格闘技の達人ばかりで、接近戦では無類の強さを誇るそうです」

 

みほと優花里が、知る限りの『天竺ジョロキア機甲部隊』の事を話す。

 

「格闘技の達人って………」

 

「な~んか、嫌な予感がしてきたぜ………」

 

地市が若干顔色を悪くしながら呟き、了平も背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

 

「やっぱり強いとこなんだ………」

 

「また負けちゃうかも………」

 

今度の対戦相手も強敵だと知り、ウサギさんチームの優季と桂利奈が不安を口にする。

 

それを皮切りに、ざわめき立つ大洗機甲部隊の一同。

 

「貴様等ぁっ! グロリアーナとブリティッシュとの戦いの前と同じ様な事で如何する!! あの敗北の悔しさを忘れたのか!!」

 

すると弘樹が、そんな一同に活を入れる様にそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた一同は、前回のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との戦いで敵前逃亡をやらかしてしまった1年生を中心に、敗北の悔しさを思い出し、身を震わせた。

 

「よーし! やるぞっ!!」

 

「今度こそ活躍して見せマス!」

 

「頑張るぞーっ!!」

 

ハムスターさん分隊の竜真、ジェームズ、光照がそう最初にそう声を挙げる。

 

「…………」

 

分隊長である勇武も、決意を固めた表情で拳をグッと握っていた。

 

「西住隊長。宜しければ、言葉を頂けませんか?」

 

「えっ? あ、う、うん………」

 

するとそこで、弘樹は場を纏めようと、みほにそう言い、それに答える様にみほは大洗機甲部隊の一同の前に出て立つ。

 

「皆さん! グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊では、惜しくも負けてしまいました………けど! 皆さん其々得たものが有った筈です!!」

 

みほがそう呼びかけると、一同は何か思うところが有る様な顔になる。

 

「それを次の試合に活かし、精一杯頑張りましょう! 私も隊長としての責任………務めさせてもらいます!!」

 

「今度こそ必ず勝つぞ! 勝利の栄光をこの手に!! 大洗、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、気持ちが高ぶった弘樹が万歳を行うと、呼応するかの様に、大洗機甲部隊の一同は万歳三唱を始める。

 

「す、凄い………」

 

「へえ~、やるわね………」

 

「言葉だけで皆さんの気持ちを持ち直させました」

 

「流石は伝説の日本兵の子孫だね」

 

そんな弘樹とみほ、大洗機甲部隊の一同の姿に、みゆき、空、ミカ、キリノはそう感想を呟く。

 

(実質、あの2人がこの機甲部隊の纏め役ね………どれだけ皆を引っ張れるかが課題になりそうね)

 

そして空は1人、冷静に観察し、本人達に自覚は無いだろうが、みほと弘樹が大洗機甲部隊の核である事を見抜く。

 

「よおし! アンタ達、気合十分ね! 演習場へ向かうわよっ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

空がそう言うと、女子学園の戦車チームは自分達の戦車へ乗り込んで行き、男子校の歩兵チームは其々に自分達の獲物を携え、演習場へ向かう為に兵員輸送車やくろがね四起へ乗り込んで行く。

 

「ああ、そうだ………神狩 白狼って奴は居るっ!?」

 

「? 俺だが………何だよ?」

 

そこで不意に、空が白狼の事を呼び、飛彗達が乗っているくろがね四起に乗ろうとしていた白狼が足を止め、返事を返した。

 

「ああ、アンタが神狩 白狼? アンタに最豪一尉からの贈り物があるわ」

 

「俺に?」

 

嵐一郎からの贈り物に、白狼が首を傾げる。

 

一体あの鬼教官が何を送って来たのかと………

 

そんな白狼の内心を知ってか知らずが、空は自分達が乗ってきた10式・改の方へ向かったかと思うと、後付けされていた荷台から『何か』を降ろす。

 

それは、国防色のカラーリングをした自転車だった。

 

一見すると民生品の様に見えるが、一部に民生品ではありえない仕様が見て取れる。

 

「コレは?」

 

「歩兵道用の自転車よ。アンタ、バイクレーザーなんですってね? 歩兵道でバイクは使わないって言ってたそうだけど、前回民間人の自転車を勝手に徴用して大目玉食らったそうじゃない」

 

「止めろ、思い出させんな」

 

情けない記憶が蘇り、ばつの悪そうな顔をする白狼。

 

「それで最豪一尉が態々この軍用自転車を取り寄せてくれたのよ。コレなら歩兵道で使っても問題無いってね」

 

「余計な真似を………俺はバイクを歩兵道で使う積りは無い」

 

「なら何で前回の試合で自転車を使ったの?」

 

「! それは………」

 

白狼は言葉に詰まる。

 

「神狩 白狼………勝手だけど、貴方のレーサーとしての経歴、調べさせてもらったわ。貴方は何より勝ちに拘る性分でしょう?」

 

「…………」

 

「例え貴方の本業がレーサーだったとしても、負けっぱなしなのはプライドが許さないんじゃないの?」

 

「………人を乗せるのが上手い奴だ」

 

とそこで、白狼は悪態を吐きながら、空の手から軍用自転車を引っ手繰る様に取った。

 

「やる気になった?」

 

「勘違いすんじゃねえ………飽く迄『借りる』だけだ」

 

「ま、そう言う事にしとくわ」

 

どこぞのサイヤ人の王子の様な台詞を吐く白狼に、空は不敵に笑う。

 

「ふん………」

 

白狼は自転車を押して行き、待っていた飛彗達のくろがね四起の荷台に乗せると、自身は助手席に座り込んだ。

 

直後に運転席に居た飛彗が、くろがね四起を発進させる。

 

「さっ! 私達も行くわよ!!」

 

「了解!」

 

「了解しましたっ!!」

 

「了解っ!!」

 

それを見た空は、みゆきとミカ、キリノの方を振り返ってそう言い、自分達も10式・改へ乗り込んで、大洗機甲部隊と共に演習場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「全車、凹角陣を取って下さい!」

 

みほの指示で、大洗の全戦車が凹の形を取って前進して行く。

 

「ポジションキープッ!!」

 

「鶴翼の陣だっ!!」

 

アヒルさんチームの典子と、カバさんチームの左衛門佐からそんな声が上がる。

 

すると、戦車部隊の前方に、1台の仮想目標戦車が現れる。

 

「このまま敵戦車を囲い込みます。その後に全車で一斉攻撃です」

 

「りょ~か~い」

 

「分かりました!」

 

今度はカメさんチームの杏と、ウサギさんチームの梓から声が挙がる。

 

戦車部隊は凹角陣を維持したまま、仮想目標戦車の方へ移動。

 

そのまま仮想目標戦車を囲い込む。

 

「互いの射線が重ならない様に注意して下さい!」

 

「ええい! 早く撃たせろぉっ!!」

 

「も、桃ちゃん、落ち着いて………」

 

みほの指示中、早くもトリガーハッピーしている桃を、蛍が宥める。

 

「撃てぇっ!!」

 

そして遂に攻撃指示が出され、戦車部隊の戦車砲が一斉に火を噴く!!

 

その内、Ⅳ号が撃った砲弾が仮想目標戦車の右側面の砲塔と車体の継ぎ目に命中。

 

更に、Ⅲ突が撃った砲弾が車体左側面にめり込み、M3リーの37mm副砲の砲弾も車体後部へと命中。

 

仮想目標戦車から黒煙が上がると、撃破を示す白旗が挙がった。

 

「やりました!」

 

「的中でござるっ!!」

 

「あ! 当たったよ!!」

 

華、左衛門佐、あやから歓声が挙がる。

 

「あ~、命中したけど、弾かれました~」

 

「やっぱり正面は無理かぁ~………」

 

一方、仮想目標戦車の右前方向から攻撃したアヒルさんチームの砲弾は、仮想標的戦車の砲塔正面装甲を突き破れず、弾かれていた。

 

「私の方は外しちゃった………」

 

「大丈夫だよ。次頑張ろう」

 

M3リーの方でも、主砲である75mm砲を外しており、あゆみが落ち込んだ様な様子を見せるが、優季がフォローする。

 

「桃ちゃん………」

 

「う、煩いっ!! 桃ちゃんと呼ぶなっ!! 次は必ず当てて見せるっ!!」

 

そして、相も変わらず明後日の方向へ砲弾を飛ばした桃に、柚子の呆れた声が漏れる。

 

「まあ、味方を撃たなかっただけ良かったかな?………」

 

「そーそー! 何事もポジティブシンキングが大事だよ~、あむっ!」

 

蛍が無理矢理なフォローを入れ、そしてただ干し芋を齧るばかりの杏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

歩兵部隊の方はと言うと………

 

「ホラホラァッ! 死ぬ気で掛かってらっしゃいっ!!」

 

キューポラから上半身を乗り出している空がそう叫ぶと、10式・改が主砲を発射するっ!!

 

「「「「「おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

九〇式野砲に着いていた砲兵達が直撃を貰い、木の葉の様にブッ飛ばされる。

 

勿論、九〇式野砲も粉々である。

 

「ソラソラソラソラァッ!!」

 

更にそこで、空はキューポラの傍に装備されていた12.7mm重機関銃M2を構え、薙ぎ払う様に乱射して来たっ!!

 

更に、それに合わせるかの様に、10式・改は砲塔を旋回させながら、同軸機銃の74式車載7.62mm機関銃も発射して来るっ!!

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く薙ぎ払い射撃を食らった歩兵達が次々に倒れ、戦死の判定を受ける。

 

「弘樹ーっ! 生きてるかぁっ!?」

 

「何とかな………」

 

その機銃掃射で舞い上がった土片を頭から浴びながら、塹壕に立てこもっていた地市が、少し離れた場所に居た弘樹へと呼びかける。

 

「冗談じゃないぜ! 何で10式と戦わなきゃならいんだよぉーっ!!」

 

塹壕の中で更に這い蹲って、必死に身を隠そうとしている了平が、悲鳴の様にそう叫ぶ。

 

演習開始前に、空は………

 

「アンタ達に絶対的に不足しているモノ………それは実戦経験よ! 実戦での経験はどんな訓練にも勝るっ! 次の練習試合まで時間が無いんでしょっ!! だから今後の演習は実戦形式で行くわよっ!!」

 

と言い放ち、何と自身が乗る10式・改を撃破して見せろと言う無茶苦茶な課題を出してきたのだ。

 

「第4世代とも噂される最新鋭の主力戦車と戦うなんて………」

 

「つーか、仮にも自衛隊の主力戦車が学生に撃破されて良いのかよ?」

 

同じ塹壕に隠れていた逞巳と俊が、戦々恐々と10式・改を覗き見ながらそう言い合う。

 

「飽く迄演習と言ってましたよ。だから、対戦車火器を1発でも命中させるか、車長である空教官を無力化出来たら勝ちにしてやるとも言っていたじゃないですか」

 

それを聞いていたモシン・ナガンM1891/30に装弾を行っていた飛彗がそう返す。

 

「それを差し引いても無茶苦茶だって言ってんだよーっ!!」

 

「例えそうでもやるしかない。我々に選択の余地は無い」

 

了平が愚痴る様に叫ぶ中、弘樹はそっと塹壕から顔を出し、10式・改を見やる。

 

すると空は、近くに敵が居なくなったと判断したのか、やや遠方で7.62 ㎝ PaK 36(r)を用意している鷺澪達を見つけ、そちらの撃破に向かおうとする。

 

「地市! 来いっ!!」

 

それを確認した瞬間、弘樹は地市にそう言い、返事も聞かずに三八式歩兵銃を構えて塹壕を飛び出した!!

 

「!? オ、オイ、弘樹っ!? ええい、クソッ!!」

 

有無を言わせずに飛び出した弘樹に悪態を吐きながらも、地市も試作九糎空挺隊用噴進砲を担いで塹壕を飛び出す!

 

「援護しますっ!!」

 

「よおし、任せろっ!!」

 

飛彗と俊も、塹壕の淵に寄り掛かる様にしてモシン・ナガンM1891/30とGew98を構えて援護態勢を取る。

 

「綿貫さん! 僕達も援護しましょうっ!!」

 

「やだやだぁっ! 怖い怖いっ!!」

 

逞巳も了平に援護を呼びかけるが、完全にビビっている了平は駄々を捏ねる様に拒否するのだった。

 

「! おっとぉっ! 来たわねぇっ!!」

 

空はすぐに弘樹達の存在に気付くと、すぐに12.7mm重機関銃M2を向ける。

 

「!!」

 

弘樹は空の射撃を阻止しようと、その場で膝立ちになると、三八式歩兵銃を構えて空目掛けて発砲する。

 

「!? わたたっ!?」

 

距離が遠い為、命中こそしないが、至近距離を三八年式実包の弾が掠め、慌てる。

 

「地市! 今の内に背後へ回り込めっ!!」

 

「分かったぁっ!!」

 

射撃を続けながら、弘樹は続いてきていた地市にそう呼びかけ、地市は10式・改の背後を取ろうとする。

 

「チイッ! そうはさせるかぁっ!! 超信地旋回っ!!」

 

だが、空がそう叫ぶと、10式・改は移動せずにその場で向きを変える『超信地旋回』を行い、背後に回られるのを防ぐ。

 

そして、車体ごと旋回した10式・改は、主砲を地市へと向ける。

 

「!? ヤベェッ!!」

 

慌てて地市がその場に伏せると、10式・改の主砲が発射され、伏せた地市の上を通り過ぎて、演習場の一角へ着弾した。

 

「まだ終わりじゃないわよっ!!」

 

そこで空がそう言うと、今度は同軸機銃の74式車載7.62mm機関銃が発砲される!

 

「!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

地市は悲鳴の様な叫びを挙げながら、試作九糎空挺隊用噴進砲を放棄して地面の上を転がって弾丸をかわしつつ、そのまま再び塹壕内へ転がり込んだ!!

 

「ハハハハハッ! コレでも現役自衛官よ!! そう簡単にやられたりしないわっ!!………!? わたたっ!?」

 

空が笑いながらそう言いかけたところ、再び弘樹と援護についている飛彗達の弾丸が周りで跳ねて、一瞬慌てる。

 

「こんのぉーっ! 人が決めてる時にぃっ!!」

 

それで機嫌を悪くした様子の空は、12.7mm重機関銃M2を弘樹達へと向ける。

 

「! 伏せろぉっ!!」

 

「「!!」」

 

「ホント、歩兵道は地獄だぜぇーっ!! ヒャッハーッ!!」

 

走り出した弘樹の声で、慌てて飛彗と俊が塹壕内へ引っ込むと、空は何処ぞの映画の様な台詞と世紀末的な叫びを挙げて12.7mm重機関銃M2を発砲!!

 

辺りの地面が次々に爆ぜる様に土片を舞い上げるっ!!

 

「!!」

 

それを横目に、弘樹は走り続けて10式・改の背後に回り込もうとする。

 

「そうはさせないって言ってるでしょっ! 超信地旋回っ!!」

 

しかし、空の掛け声で10式・改は再び超信地旋回を行い、弘樹を正面に捉える。

 

「!!」

 

すると、それを見た弘樹は、即座に今度は10式・改に向かって突撃した!!

 

「敢えて突っ込んで来るか………良い度胸ねっ!!」

 

そう言って、12.7mm重機関銃M2を弘樹へと向ける空。

 

「………!!」

 

それを見た瞬間!

 

弘樹は、ベルトに下げていた九九式手榴弾(乙)を投擲する!

 

手榴弾は10式・改の近くに落ち、爆発!!

 

「!? キャアッ!?」

 

殺傷範囲外だった為、破片が飛んでくる事はなかったが、爆音と爆風に一瞬怯む空。

 

そして弘樹は、その爆煙に紛れて、10式・改の履帯と履帯の間、車体の下へとスライディングする様に潜り込んだ!!

 

「ああっ!? こんのぉ~! 猫みたいな真似してぇ!! ミカ! 超信地旋回っ!!」

 

装甲の最も薄い下部を攻撃されては堪らないと、すぐに10式・改を超信地旋回させる様に指示を出す空だったが………

 

直後に、10式・改の近くで爆発が挙がるっ!!

 

「うわっ!? 何っ!?」

 

慌てながらもすぐに状況を確認する空。

 

「…………」

 

すると、10式・改の左側面の方向に、軍用自転車に乗って、マークII手榴弾を右手だけでお手玉している白狼の姿が在った。

 

「! アイツゥッ!!」

 

すぐに12.7mm重機関銃M2を白狼に向け、発砲する空。

 

「へっ!」

 

しかし、白狼は不敵に笑うと、自転車を扱ぎ始める。

 

マルチなバイク乗りだけあって、自転車の扱いも長けており、空が撃つ12.7mm重機関銃M2の弾を、まるでアクロバティックの様な動きで回避して行く。

 

「クウッ! 流石バイクレーサー! 良い動き………って、しまったぁっ!! 下に潜り込まれてたんだったぁっ!?」

 

白狼を狙うのに夢中になっていた空だったが、ふと弘樹が10式・改の下へと潜り込んでいた事を思い出す。

 

「!!………」

 

当の弘樹は、10式・改の底面に、吸着地雷を仕掛けようとしていた。

 

「そうはさせるものですかぁっ!!」

 

しかし、空がそう叫んだかと思うと、10式・改が走り出す!!

 

「!!」

 

咄嗟に車体前面下部にあった取っ手を掴む弘樹。

 

「ミカ! スピード上げて!! 振り落してっ!!」

 

更に空の指示が飛び、10式・改が速度を上げ、スラロームやドリフトを行って、弘樹を振り払おうとする。

 

「!!………」

 

戦闘服越しに背中を思いっきり擦られる弘樹だが、それでも根性で10式・改の底へしがみ付き続ける!

 

「くう~~っ!? 何て根性なのっ!?」

 

弘樹の並外れた頑丈さと根性に、空は感心する。

 

「………!!」

 

そして遂に!!

 

弘樹は吸着地雷を10式・改の底へと設置したっ!!

 

「ふっ!………」

 

吸着地雷がくっ付いたのを確認すると、弘樹は取っ手から手を放し、10式・改の底を擦り抜けて離脱する。

 

弘樹が10式・改が離れて行くのを確認した瞬間!

 

10式・改の下部で爆発が起こった!!

 

そして、走っていた10式・改がノロノロと停止したかと思うと、撃破を示す白旗が挙がる。

 

「やったぁっ!!」

 

「流石だぜ、弘樹ぃ!」

 

10式の撃破判定を見た了平や地市達が弘樹の元へ駆け寄って来る。

 

「いや、まだだ!!」

 

「「!?」」

 

しかし、弘樹がそう叫び、地市達の足が止まった瞬間!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

女性とは思えない雄叫びを挙げて、空が10式・改の中から出て来る。

 

しかも、その手には取り外した74式車載7.62mm機関銃が握られており、ベルト式の弾倉を身体に巻きつけている。

 

「うええっ!?」

 

「空教官っ!?」

 

突然珍妙な恰好をして現れた空に、了平と飛彗が驚きの声を挙げる。

 

「やってくれたわね! 流石は英霊の子孫!! でも………まだこの私が残ってるわよ~っ!!」

 

そして空はそう叫ぶと、74式車載7.62mm機関銃を大洗歩兵部隊に向かって薙ぎ払う様に連射して来た!!

 

「!? ぎゅああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

避ける間も無く、了平が全身に銃弾を浴びて倒れ、戦死判定を受ける。

 

「オラオラオラオラァッ! 逃げる奴は敵兵だぁっ! 逃げない奴は良く訓練された敵兵だぁっ!!」

 

またも何処ぞの映画の様な台詞を言い、空は74式車載7.62mm機関銃を撃ちまくる。

 

「あの人、アマゾネスか何かの化身だったりしないかぁっ!?」

 

「怯むなぁっ! 大洗歩兵部隊の意地を見せろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

地市がそんな事を言う中、弘樹は部隊をそう鼓舞し、大洗歩兵部隊は空へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無茶苦茶ながらも頼もしい新教官、藤林 空達の指導の下………

 

大洗機甲部隊の日々は過ぎて行く………

 

そして、次の相手………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子校』………

 

『天竺ジョロキア機甲部隊』との対戦の日が訪れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

次なる相手は今作初のオリジナル学園、『天竺女学院』と『ジョロキア男子校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』です。
ガルパンに登場する学園は、使う戦車に合わせたお国柄っぽい感じになっていますが、この学園も、とある国をリスペクトしています。

また、原作での戦車部隊のチーム名決定をオリジナルを混ぜてココでやらせていただきました。
それに伴い、随伴歩兵分隊にも同じ様な名前が付きました。
とらさん分隊以外のマークは深く考えていませんので、各自ご自由にご想像して下さって結構です。

それと今回より新教官が登場します。
原作では、蝶野教官がずっと大洗の指導をしていた様ですが、全国大会で審判をしている人が特定の学校の指導をしているんじゃ、有らぬ癒着を疑われるんじゃないかなと思いまして。
古い友人より頂いたキャラなのですが、中々個性的で面白いキャラですので、如何か長い目で見てやって下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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