ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

139 / 287
第139話『暴走特急です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第139話『暴走特急です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦に次ぐ激戦の連続となった西部戦………

 

相手のエース達を撃破しながらも、自らも撃破されてしまって行く大洗機甲部隊………

 

しかし、フラッグ車が倒されてなければ、試合は終わる事は無い………

 

まだ、勝利の女神はどちらに微笑むか、決めかねている様だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

西部の街並みのセットの一角・鉄道の駅舎の敷地内………

 

「アハハハハハハハッ!!」

 

狂気の混じった笑みを浮かべて笑い声を挙げるクロエが姿を見せているヘルキャットが、Ⅳ号に向かって突撃して来る!

 

「! 撃てっ!」

 

そのクロエの姿に、みほは一瞬気圧しされながらも、砲撃命令を出し、Ⅳ号の主砲が火を噴く。

 

「甘いっ!!」

 

だが、クロエがそう叫ぶと、ヘルキャットは一瞬車体をブレさせたかと思うと、またもや片輪走行を披露!

 

Ⅳ号が放った砲弾は、ヘルキャットの車体下を潜り抜ける様に通り抜け、停めてあった貨車に命中。

 

貨車を粉々に粉砕する。

 

「!!」

 

驚くみほの乗るⅣ号をも擦り抜けながら、ヘルキャットはⅣ号の背後で元に戻ると、砲塔を後ろに向ける。

 

「! 砲塔及び車体旋回っ!!」

 

「「やってます(る)!!」」

 

慌ててみほが指示を飛ばすが、既に華と麻子はⅣ号の砲塔と車体を旋回させていた。

 

しかし、ヘルキャットの方が僅かに早い。

 

「やらせないよーっ!!」

 

だがそこで、聖子のクロムウェルが、ヘルキャットの側面から突撃を敢行する。

 

「おっと!」

 

それに気づいたクロエは、ヘルキャットを発進させる。

 

直後に、先程までヘルキャットが居た場所に、6ポンド砲の砲弾が叩き込まれる。

 

「それっ!!」

 

その間に、砲塔を旋回させていたヘルキャットが発砲し、クロムウェルに徹甲弾が叩き込まれる。

 

幸いにも装甲の厚い砲塔正面部だった事と、角度が浅かった事もあり、クロムウェルは砲弾を弾き飛ばす。

 

「キャアッ!?」

 

「フフフ………」

 

車体に走った衝撃に、聖子が悲鳴を挙げていると、クロエは不敵に笑いながら、一旦離脱する。

 

「サンショウウオさんチームはフラッグ車を狙って下さいっ!!」

 

「でもクロエさんは強いですよ! 先ずは2人でクロエさんを倒してから………」

 

「駄目ですっ!!」

 

「!?」

 

突然怒鳴る様な口調で言って来たみほに、聖子は驚愕する。

 

「確かにクロエさんは強いです。ひょっとしたら………2輌掛かりでも勝てないかも知れません」

 

「!? そんなっ!?」

 

みほの分析に、聖子は驚愕の声を挙げる。

 

「ですが! フラッグ車さえ倒せれば、この試合は私達の勝ちです! 危険ですが、コチラのフラッグ車である私達が何とか時間を稼ぎます! だからフラッグ車を!!」

 

「!!………了解っ!!」

 

聖子は逡巡した様子を見せたが、やがて苦渋の決断を下した様に、フラッグ車の方へと向かって行った。

 

「タコさん分隊はサンショウウオさんチームを! とらさん分隊はあんこうチームの援護を願いますっ!!」

 

「任せてもらおう」

 

「了解」

 

更に続けて、みほはタコさん分隊にサンショウウオさんチーム、とらさん分隊に自分達あんこうチームの援護を命じる。

 

「フフフ………」

 

その一連の動きを、クロエはハッチの縁に両肘を置いて、頬杖をした状態で愉快そうに眺めていた。

 

「………随分と余裕だな」

 

指示を出し切るまで待っていた様子のクロエに、弘樹が皮肉の様にそう言い放つ。

 

「別に余裕だなんて思ってないわ。ただ楽しいだけよ」

 

しかし、クロエは特に気にした様子も無く、只そう返す。

 

「やっぱり良いわね、戦車道は。全身の血がこう熱くなって………今にも身体が燃えそうだわ」

 

そう言って口の端を釣り上げるクロエ。

 

「………生粋の戦闘狂だな、貴様は」

 

そんなクロエの姿を見て、弘樹はそう評す。

 

「知ってるわよ」

 

「………行きますっ!!」

 

と、クロエがそう返した瞬間に、不意を衝く様にⅣ号が仕掛けた!

 

ヘルキャットの右側面側に向かって行ったかと思うと、急停車して90度ターン!

 

そのままヘルキャットの側面に向かって発砲する!

 

「アハハッ!」

 

だが、クロエはヘルキャットを急発進させたかと思うと、あんこうチームと同じ様に即座に90度ターンし、発砲する!

 

「! 後退っ!!」

 

「クッ!」

 

珍しく麻子が苦い声を挙げながらⅣ号を下がらせると、先程までⅣ号が居た場所に砲弾が着弾する。

 

「撃て! 至近距離ならばライフル弾でも装甲を抜ける筈だ!!」

 

とそこで弘樹がそう声を挙げ、とらさん分隊の面々が、手にしていた得物で攻撃を始める。

 

「おっとと、後退よ」

 

装甲に当たった銃弾が次々に火花を散らすのを見て、クロエはヘルキャットを一時後退させる。

 

「逃がすかよ!」

 

とそこで、地市がパンツァーファウストを構え、ヘルキャットに狙いを定める。

 

「喰らえっ!!」

 

そう叫んで引き金を引くと、弾頭がヘルキャットに向かって発射される。

 

しかしそこで………

 

銃声がしたかと思うと、飛翔していたパンツァーファウストの弾頭に銃弾が命中!

 

パンツァーファウストの弾頭は空中で爆発した!

 

「!? 何っ!?」

 

「!? 西住総隊長! 後退して下さいっ!!」

 

「!! 全速後退っ!!」

 

地市が驚きの声を挙げた瞬間に、弘樹が何かに気付いてそう叫び、みほは反射的に全速後退の指示を飛ばす!

 

「全員、伏せろぉっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

直後に弘樹がそう叫んで、とらさん分隊の隊員達が地面に伏せたかと思うと………

 

その頭上から、無数のロケット弾が降り注いで来た!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く直撃弾を貰ってしまったとらさん分隊員数名が、爆風で宙に舞った後、地面に叩き付けられて戦死判定を受ける。

 

「ありゃ、気づかれたか………流石に良い感してるねえ、舩坂分隊長」

 

「…………」

 

そこでそう言う台詞と共に、右手に銃口から硝煙の上がって居るM1917リボルバーを握ったジャンゴと、その傍に控える様に、多数のフリーガーファウストを携えているピューマが現れた。

 

「ジャンゴ………」

 

「ピューマの奴も居るぜ!」

 

「このタイミングでですか………」

 

弘樹が呟き、地市が声を挙げると、楓が苦い顔でそう言い放つ。

 

「総隊長、悪いがこの戦いに介入させてもらうぜ」

 

「う~ん、仕方ないわね………でも、Ⅳ号は私がやるわよ」

 

「ご自由に………」

 

クロエとそう会話を交わすと、ジャンゴはヘルメットの上から被っていたテンガロンハットをかぶり直す。

 

「さてと………大洗さん。悪いがこの試合もウチ等が勝たせてもらうぜ」

 

「…………」

 

そう言ってM1917リボルバーを向けて来たジャンゴの姿を見て、弘樹の四式自動小銃を握る手に力が入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、西部機甲部隊のフラッグ車であるミケととりお・ざ・きゃっつのM5軽戦車・スチュワートを狙うサンショウウオさんチームとタコさん分隊は………

 

「待てーっ!!」

 

「待てと言われて待つワケないだろーっ!!」

 

スチュワートを追うクロムウェルのキューポラから姿を晒していた聖子がそう叫ぶと、同じく姿を晒しているミケがそう返す。

 

「スコッティ! あの車両と車両の間にっ!!」

 

「ホイ、来たっ!!」

 

と、ミケが続け様にそう指示を飛ばしたかと思うと、スチュワートがレールの上に停められていた客車と客車の間に潜り込む様に入る。

 

「クッ! 駄目だ! 追い掛けられないっ!!」

 

同じ様に追おうとしたクロムウェルが、スチュワートが入って行った隙間の前で停止する。

 

カタログスペック上、クロムウェルの方が速度では僅かに優れていたが、車体が比較的小柄なスチュワートは、クロムウェルが通り抜けられない隙間を見つけては飛び込み、上手く逃げ回っていた。

 

「そっち行ったぞっ!」

 

「いや、コッチだっ!!」

 

タコさん分隊の分隊員達も、高速で動き回る2輌に付いて行けず、翻弄されるばかりであった。

 

「クッ! コレでは援護もままならないか………」

 

「軽戦車なら、上手く行けば収束手榴弾でも片付けられるのに………」

 

エースと弁慶がそう呟く。

 

「くうっ!? 何処に!?………」

 

スチュワートの姿を見失った聖子が、辺りをキョロキョロと見回していると………

 

「貰ったぁっ!!」

 

そう言う声が響いて来て、クロムウェルの後方に在った、砂利が積まれた貨車の影からスチュワートが飛び出して来る。

 

主砲は既に、クロムウェルの後部へ向けられている。

 

「! 思いっきりバックゥッ!!」

 

「ぬおおっ!!」

 

すると聖子は反射的にそう指示を飛ばし、唯がギアをバックに入れると同時にアクセルを思いっきり踏み込んだ!

 

クロムウェルが高速バックしながら、スチュワートに迫る。

 

「!? 砲撃中止! 緊急発進っ!!」

 

それを見たミケは、慌てて砲撃を中止させ、スチュワートを急発進させる。

 

直後に、クロムウェルがスチュワートが盾にする様にしていた砂利の積まれた貨車に衝突!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

衝撃でクロムウェルの車体全体が揺れ、衝突した貨車が倒れて、砂利が地面に広がった。

 

「ハア~………危なかったぁ………」

 

「ちょっ! ミケ! 前見て、前っ!!」

 

ミケが安堵の溜息を吐いていると、車内のマンチカンが悲鳴の様な声を響かせて来る。

 

「えっ?………」

 

それを聞いたミケが、前方を見やると、そこには………

 

積まれて小さな山となっていた大量の砂利が在った!

 

「! ブレーキィッ!!」

 

「駄目! 間に合わないぃっ!!」

 

慌ててスコッティに向かってそう叫ぶが、当人からそんな声が返って来た瞬間!!

 

スチュワートは砂利の山をジャンプ台に大跳躍!

 

そのまま数秒間、空の旅をする。

 

「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

そして重力に引かれて落下を始めたかと思うと、線路の上に停止していた先頭車が蒸気機関車となっている車両の、2両目の客車に上から突っ込んだ!!

 

「!?」

 

「!? ミケッ!?」

 

「やったのかっ!?」

 

「おいおい、大丈夫かぁ?」

 

辺り一面に轟音が響いた為、みほやクロエ、弘樹達やジャンゴ達は思わず戦闘を中断し、落下したスチュワートの姿に注目する。

 

やがて、立ち込めていた粉煙が晴れて来ると、そこには………

 

完全に客車に埋まり込んでいる形となっているスチュワートの姿が露わになった。

 

白旗は上がっていない………

 

「アイタタタタ………オデコぶつけた………」

 

ハッチから姿を見せていたミケが、額の辺りを擦りながらそう言う。

 

「ミケ! 大丈夫なのっ!?」

 

と、それを見たクロエが、ミケに向かってそう叫ぶ。

 

「あ、うん! 大丈夫~! 旗もまだ上がってないよ~っ!! スコッティ! 早く脱出してっ!!」

 

即座にミケはそう叫び返し、スコッティに脱出する様に指示するが………

 

「そ、それが………完全にハマっちゃってて無理」

 

「!? ええっ!?」

 

スコッティがそう返して来たのを聞いて、ミケは思わず声を挙げる。

 

見れば、スコッティが操作をしているにも関わらず、スチュワートの履帯は空回りしていて、全く動いて居ない。

 

「チャンスだ!!」

 

「動かない的を外しませんよ」

 

思わぬチャンスに出くわしたサンショウウオさんチームは、容赦無くスチュワートに狙いを定める。

 

「!? うわぁっ!? ちょっ!? タ、タンマ! タンマッ!!」

 

慌ててそう叫ぶミケだが、それが通じるワケも無く、6ポンド砲がスチュワートに合わさる。

 

「チイッ! やらせないよっ!!」

 

「行かせませんっ!!」

 

クロエのヘルキャットが救援に向かおうとするが、Ⅳ号が阻止に動く。

 

『コレは思わぬチャンス! この試合は大洗機甲部隊の勝利かぁっ!!』

 

『いや~、コレは予想外の形ですね~』

 

実況者のヒートマン佐々木とDJ田中も、大洗の勝利は決まったと思い、そう実況をする。

 

だが、次の瞬間………

 

誰も予想していなかった事が起きる!

 

スチュワートが突っ込んでいた客車が連結している蒸気機関車が、汽笛を鳴らして、煙突から煙を噴き上げたのだ!!

 

「「「「「「「「「「えっ!?…………」」」」」」」」」」

 

そして、車輪がゆっくりと動き始め、遂には発車した!!

 

「!? 優ちゃん! 撃ってっ!!」

 

「! クッ!!」

 

聖子が咄嗟に優にそう叫び、クロムウェルの主砲が火を噴くが、列車が発車した事で狙いがズレ、砲弾がスチュワートが突っ込んでいた客車の1つ後ろの客車を吹き飛ばす。

 

「ちょっ!? ちょっとぉっ!?」

 

「ど、如何なってるの!?」

 

「分かんないよっ!!」

 

「何々っ!?」

 

ミケ、スコッティ、ラグドール、マンチカンの声が響き渡る中、スチュワートを乗せた列車はスピードを上げて離れて行く。

 

「フラッグ車がっ!?」

 

「クッ! 唯ちゃん! 追ってっ!!」

 

「! 応っ!!」

 

明菜がそう叫ぶと、聖子がそう言い、我に返った唯がクロムウェルで列車を追い掛ける。

 

「! マズイッ! ピューマッ!!」

 

「!!」

 

続いてジャンゴが我に返り、ピューマに呼び掛けたかと思うと、ピューマは走って列車の後を追い始める。

 

「来いっ! 相棒ぉっ!!」

 

更に続けてそう言い、右手の親指と中指で作った指笛を吹く。

 

するとそこで、彼の愛馬と思われる馬が駆けて来る。

 

「ハアッ! ハイヤーッ!!」

 

その馬に飛び乗ると、列車を追うジャンゴ。

 

「アララ~、コレは予想外………でも益々面白くなって来たわ! 西住 みほっ!!」

 

「!!」

 

その光景を見ていたクロエがそう言い放ったかと思うと、続いてみほに呼び掛け、突如呼び掛けられたみほはビクリとする。

 

「付いてらっしゃいっ!」

 

と、続けてそう言い放ったかと思うと、ヘルキャットが発進し、Ⅳ号の脇を擦り抜けて、スチュワートの乗った列車を追い始めた!

 

「!?」

 

「みぽりん!」

 

「西住殿! 如何なさいますかっ!?」

 

その光景にみほが驚いていると、車内の沙織と優花里からそう声が飛ぶ。

 

「! フラッグ車を追いますっ!!」

 

「分かった………」

 

一瞬の逡巡の後、みほはそう決断を下し、麻子が列車を追い始める。

 

「我々も続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

更にそこで弘樹もそう声を挙げ、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達は停めてあった車輌に乗り込み、同じ様に列車を追って行ったのだった。

 

「コチラはジャンゴ! 残存部隊に告げるっ!!」

 

その時………

 

列車を追跡する一同の中で、先頭を行くクロムウェルの次を行っていたジャンゴが、通信機で西武残存部隊に何か指示を飛ばしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

西部の街並みのセット内では………

 

あんこうチームとサンショウウオさんチーム以外で唯一生き残っていたウサギさんチームのM3リーが、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の隊員達と共に、街道を進んでいる。

 

「! 前方にM4A3を2輌確認!」

 

と、キューポラから姿を見せていた梓が、前方の交差点を横切ろうとしている2輌のM4A3の姿を見つけてそう声を挙げる。

 

「………!!」

 

M4A3の方も、片方の車長がハッチを開けて姿を晒しており、ウサギさんチーム達に気付く。

 

「交戦用意っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

勇武がそう言い放つと、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の面々が得物を構える。

 

「もう砲弾も残り少ないけど………やれるだけやるよ!」

 

M3リーの方でも、あやが照準器を覗き込みながらそう言い放つ。

 

しかし………

 

M4A3は速度を上げると、ウサギさんチーム達から逃げる様に交差点を通過して行った。

 

「!? えっ!? 逃げたっ!?」

 

敵の思わぬ行動に、梓は驚きを露わにする。

 

「ええ~? 何々?」

 

「如何して逃げたんだろう?」

 

あやと桂利奈も困惑を露わにする。

 

「きっと私達に恐れをなしたんだよ~」

 

「主砲の壊れてるM3と消耗している歩兵部隊に?」

 

優希がお馴染みのノンビリ口調でそう言うが、あゆみは有り得ないと返す。

 

「…………」

 

そしれ、紗希は1人、険しい表情をしていた。

 

「! 清十郎くん! 高い所から敵の動きを見てくれる!」

 

「分かりました!」

 

そこで梓も、何かに気付いた様に清十郎にそう言い、清十郎は高所となっている場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

『コチラ竹中。敵は戦車を先行させながら街のセットから抜け出し始めて行っています。如何やら、駅のセット辺りから何処かへ向かっている様ですが………』

 

高所から西部機甲部隊の動きを見ていた清十郎が、そう報告を送って来た。

 

「やっぱり……街のセットから抜け出そうとしていたんだ………」

 

「でも、如何して急に?」

 

梓がそう呟くと、あやがそう尋ねて来る。

 

『コチラあんこう! ウサギさんチーム! 応答願いますっ!!』

 

「あ! 武部先輩だ!! こちらウサギさんチームで~す!!」

 

そこで、沙織からの通信が入って来て、優希が応答する。

 

『ウサギさんチーム! コチラは現在、敵フラッグ車を追跡中です!!』

 

「追跡中? 発見したけど、逃げられたんですか?」

 

『いや~、逃げられたと言うか、逃げられてると言うか~………』

 

「? 如何したんですか?」

 

『実はね………』

 

沙織の要領を得ない回答に、梓が首を傾げていると、沙織は詳細を説明し始めた………

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!? そんな事がっ!?」

 

『そうなの! だから至急に援護に来て下さい! 繰り返します! 至急援護に来て下さいっ!!………』

 

と、沙織が救援要請を繰り返したところで、突如通信音声が雑音しか聞こえなくなる。

 

「!? 先輩!? 武部先輩っ!? 応答して下さいっ!!………優希!!」

 

「さっきの戦闘で通信機もダメージ受けてたみたい~。遠距離になって通信が不調なの~」

 

梓が応答を願うが返事が無く、優希に声を掛けると、そう言う報告が挙がった。

 

『成程………敵戦車も、そのフラッグ車を追って街から出て行っているんですね』

 

「梓ちゃん! 私達もすぐにフラッグ車を追おうよ!!」

 

「でも、主砲の壊れたM3リーじゃ、追い付いても戦力になるか如何か………」

 

清十郎からの通信が入る中、あやが梓にそう進言するが、梓はM3リーの損傷状態を気にする。

 

「………澤車長。意見具申、宜しいでしょうか?」

 

するとそこで、M3リーの傍に控えていた勇武が、ハッチから姿を見せている梓を見上げながらそう言って来た。

 

「? 柳沢くん?」

 

「追撃に向かって戦力にならないのならば、敵の戦車部隊を足止めしましょう!」

 

梓が返事をすると、勇武はそう意見具申する。

 

「敵の戦車部隊を?」

 

「ハイ。敵のフラッグ車は状況を見る限り、西住総隊長と舩坂先輩達に任せるしかありません。ならば我々は合流に向かって居る敵戦車部隊を足止めし、総隊長達が挟撃を受けるのを防ぐべきです」

 

「食い止めるって言っても、如何やって? M3リーは主砲が壊れてるし、パンツァーファストやバズーカの残弾も少ないんだよ」

 

「………僕の考えは」

 

そこで勇武は、思わぬ考えを発表した。

 

「ええっ!?」

 

「そりゃ無理ッスよ!」

 

「デンジャーです!」

 

途端に、竜真、正義、ジェームズから反対の声が挙がる。

 

「幾らなんでもそれは………」

 

おおかみさん分隊の方でも、飛彗も難色を示すが………

 

「今ココで敵を足止め出来るのは我々しか居ないんですよ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

勇武にそう言われ、一同はハッとする。

 

「選択肢は2つ! このまま何もしないか! それとも! この地雷と爆薬と火炎瓶を使って、馬鹿な事をするかです!!」

 

そして勇武は、地雷と爆薬、火炎瓶を取り出してそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、西部フラッグ車を追撃している一行は………

 

「誰か停めてーっ!!」

 

ミケの悲鳴が響く中、スチュワートがめり込んだままの客車を引っ張って、荒野を爆走する蒸気機関車。

 

荒野に出てからは、レールが敷かれている場所が少し高くなった鉄道土手となっており、走る蒸気機関車を中心に右側に西部機甲部隊のクロエとジャンゴ、ピューマ。

 

そして反対側に、大洗機甲部隊のⅣ号とクロムウェル、それに車輌に乗ったとらさん分隊とタコさん分隊の面々が、列車を追って走っている。

 

鉄道土手を挟んでいるので、両者は相手の姿を直接確認出来ていないが、立ち上る土煙で、確実に居る事は察している。

 

「このままじゃ埒が明かないな………ハイヤーッ!!」

 

とそこで、ジャンゴがそう言ったかと思うと、愛馬を列車に近づけさせた!

 

「! ジャンゴ!………」

 

ジャンゴの姿が鉄道土手の向こう側から現れたのを見た、くろがね四起の荷台部分に乗って居た弘樹が、四式自動小銃を向けたが、ジャンゴはアッと言う間に列車の陰に隠れてしまう。

 

「クッ………」

 

「ハイヤーッ!!」

 

弘樹が苦い顔をして四式自動小銃を構えるのを止めると、ジャンゴは馬を限界まで早く走らせ、列車の傍に寄ったまま、成るべく前の方まで移動する。

 

「…………」

 

そして、鞍の上に足を置いて屈む姿勢を執ったかと思うと………

 

「ハアッ!!」

 

何と!!

 

そのまま列車に向かって跳躍!!

 

側面にしがみ付いたかと思うと、客車の窓から中へと入り込んだ。

 

「ピューマァッ!!」

 

「!!」

 

そしてまたもピューマの事を呼んだかと思うと、ピューマが走っている蒸気機関車と同じ様に、鼻息を煙の様に噴き出ししながら、鉄道土手と列車の陰に隠れて、列車に接近。

 

ジャンゴから近い位置に飛び付き、そのまま列車内へ潜り込んだ。

 

「クソッ! アイツ等、中に入りやがったぞっ!!」

 

「我々も行くんだ! 続けーっ!!」

 

弘樹はそう叫ぶと、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達が乗った車輌が、列車に近づく。

 

「させないよ」

 

だがそこで、客車の窓から身を乗り出したジャンゴが、M1917リボルバーを発砲!

 

「ガッ!?………」

 

放たれた銃弾は、1台のジープの運転手をやっていた隊員の頭に命中し、その隊員は戦死判定。

 

運転していたジープはコントロールを失い、別のジープと激突した!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

乗って居た隊員達が投げ出され、地面に叩き付けられると戦死と判定される。

 

「ピューマッ!!」

 

「…………」

 

更に、ジャンゴが叫ぶと、今度はピューマが、フリーガーファウストを構えた状態で、客車の窓から身を乗り出してくる。

 

「! イカンッ! 退避っ!!」

 

「「!!」」

 

弘樹がそう叫ぶと、真っ先に反応した聖子とみほが、クロムウェルとⅣ号を離脱させる。

 

直後にピューマはフリーガーファウストを発射!

 

多数のロケット弾が、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達が乗る車輌部隊へと叩き込まれる!

 

「「「「「「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

直撃弾を喰らい、或いは爆発で車体が引っ繰り返ったり、撃破された別の車輌の残骸に衝突するなどして、次々に隊員達がやられて行く。

 

「クッ! 楓! 強引にでも寄せてくれっ!!」

 

「ハ、ハイッ!」

 

そんな中、至近距離での爆発の熱を感じながらも、弘樹は乗って居るくろがね四起を列車に近づかせる様に運転手の楓に指示。

 

強引ながらも、如何にか列車の最後尾に着く事に成功する。

 

「良し!」

 

列車の最後尾の貨車の後部デッキに飛び乗ろうと、くろがね四起の荷台から立ち上がると、フロントガラスを超えてボンネットの上に立つ弘樹。

 

「!? 弘樹! ヘルキャットだっ!?」

 

「!!」

 

そこで地市の声が挙がり、みほ達が居る反対側の鉄道土手の下に、主砲をコチラに向けて居るヘルキャットの姿を確認する。

 

「チイッ!」

 

弘樹は反射的に、ボンネットを蹴って、後部デッキへと跳んだ!

 

少し遠かったが、何とか転落防止用の柵にしがみ付く事に成功した!

 

「地市! 楓! お前達も跳べぇっ!!」

 

そしてすぐに残っていた地市と楓にそう呼び掛けたが………

 

「弘樹ぃっ! 受け取れぇっ!!」

 

地市がそう叫んで、自分が持っていたパンツァーファウストを、弘樹に向かって投げる。

 

「!!」

 

それを見た弘樹は、如何にか片腕で柵にしがみ付いたまま、もう片方の手でパンツァーファウストを掴む。

 

「武運を祈りますっ!!」

 

と、楓がそう言った直後!!

 

ヘルキャットが発砲し、砲弾が地市と楓の乗って居たくろがね四起に着弾!

 

くろがね四起は炎を上げて宙に舞い、鉄道土手横に転がって、遠ざかって行った………

 

「!!………」

 

その光景に弘樹はショックを受けながらも、すぐに気持ちを切り替え、柵をよじ登って後部デッキに立った。

 

「…………」

 

そして、パンツァーファウストと四式自動小銃をベルトで背に背負うと、M1911A1を構えて列車の車内へと侵入するのだった。

 

「舩坂さんが車内に!」

 

「良し! 私達も………」

 

と、みほがそう言い掛けた瞬間に、Ⅳ号の目の前に砲弾が着弾した!

 

「!?」

 

驚きながらも、砲弾が飛んで来たその方向を見やるみほ。

 

そこには………

 

「撃て撃て! こうなったら自棄だよーっ!!」

 

客車に填まったままの状態で、主砲をみほ達の方に向けて発砲しているスチュワートの姿が在った。

 

「ちょっ! 撃って来たよ!!」

 

「こうなると武装列車ですね!」

 

「クッ! 行進間射撃で当てるのは無理ですね………」

 

その光景を見て沙織と優花里がそう声を挙げ、必死に狙いを付けようとしていた華も、悪路での振動に苦戦している。

 

「…………」

 

そしてみほは、己の頬に嫌な汗が流れるのを感じ取っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にお互いのフラッグ車を狙ってのガチンコ対決。
しかしその途中で、西部のフラッグ車が暴走特急と化す。
西部劇と言えば蒸気機関車が出ているイメージがあったので、ちょっとこんな展開にしてみました。
果たしてクロエとみほは如何するのか?

そして、増援に向かおうとしている西部残存戦車部隊を足止めする為に、ウサギさんチーム達が執った手とは………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。