ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第133話『大空のサムライとリボン付きです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第133話『大空のサムライとリボン付きです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T28に続き………

 

次なる脅威であるシャーマン・カリオペの撃破を狙う大洗機甲部隊の意図を読み………

 

フラッグ車のM5軽戦車・スチュワート共々囮に使った西部機甲部隊の総隊長・クロエ………

 

巨大な岩が点在する場にて、頭上から襲い掛かって来たブラックパンサーを、小太郎がその身と引き換えに倒したが………

 

ジャンボを中心に現れた増援部隊によって時間稼ぎをされ、シャーマン・カリオペとフラッグ車の合流を許してしまうカバさんチームとワニさん分隊………

 

そして、シャーマン・カリオペの無慈悲なロケット弾攻撃が襲い掛かったが、アヒルさんチームの捨て身の防御により、辛くもカバさんチームは生き残る。

 

悔しさを滲ませながら、カバさんチームは残存歩兵部隊を引き連れて、撤退したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・大洗機甲部隊が集結している地点………

 

「アヒルさんチームが………」

 

アヒルさんチームが撃破されたと言う報告に、みほは表情を曇らせる。

 

「私達の盾となってくれたんだ………」

 

エルヴィンも辛そうな顔を軍帽のつばを下げて隠している。

 

「歩兵部隊にも大分戦死判定者が出た………蹄分隊長、鶏越くん、狗魁くんもやられた」

 

「大岩分隊長と東郷………葉隠もやられた」

 

ゾルダートと大詔もそう報告する。

 

「ゴメンね。私が全軍で向かっていれば、こんな事には………」

 

みほは自分の判断ミスだと謝ろうとしたが………

 

「西住総隊長の責任ではありません」

 

それを遮る様に、弘樹がそう言って来た。

 

「! 弘樹くん。でも………」

 

「西住総隊長の責任ではありません」

 

尚も何か言おうとしたみほだったが、途端に弘樹はそう言葉を繰り返す。

 

「「…………」」

 

暫しの間、2人の視線が交差する。

 

「………次の御指示をお願いします」

 

「………うん」

 

するとみほは、気持ちを切り替え終わったかの様に地図を広げ、新たな作戦と戦術を考え始めた。

 

(舩坂くん、ナイス!)

 

(今のは舩坂さんでないと出来ませんね)

 

(流石ですぅ! 舩坂殿ぉっ!!)

 

(やれやれ………)

 

そんな弘樹とみほの様子を見ていたⅣ号内のあんこうチームは、そんな感想を抱いていたのだった。

 

「多分、シャーマン・カリオペはロケット弾の再装填の為に一旦後退している筈………でも、アレだけのロケット弾を全部再装填させるには時間が掛かる筈………」

 

その間にも、みほはブツブツと呟きながら敵の戦術を予測する。

 

「となると、次に大打撃を与えられるのはやっぱり空爆………固まって移動するにはマズイ。けど、分散して移動しても、敵に見つかれば数の差で各個撃破される可能性が………」

 

「先んじて、此方が航空支援を要請すると言うのは如何だ?」

 

とそこで、俊がそう進言して来る。

 

「でも、相手の機甲部隊の位置が不明ですし、細かく分散されていたら空爆の効果は半減します」

 

だが、みほはそう反論する。

 

「とすれば………敢えて相手に空爆の機会を与えると言うのは如何だい?」

 

すると今度は、迫信がそんな提案をして来た。

 

「! 神大さんっ!?」

 

「相手に空爆の機会を与えるって………」

 

「正気ですかっ!? 会長っ!?」

 

みほが驚きの声を挙げ、清十郎が呆然となり、逞巳が迫信の正気を疑う。

 

「まあ、落ち着きたまえ」

 

と、迫信は何時もの調子で、そんな一同を宥める。

 

「空爆を要請すれば、当然敵の機甲部隊も攻勢に出るだろう。航空支援下での陸戦開始は戦闘の基本だからね」

 

「それは………確かに」

 

迫信がそう言うの聞いて合点が行った様子を見せるが、危険には変わりないので、冷や汗を流す逞巳。

 

「つまり、態と敵に航空支援を使わせて、攻勢に出て来たところで、ゲリラ戦に持ち込むって事ですか?」

 

「要約するとそうなるね」

 

飛彗がそう尋ねると、迫信は広げた扇子で口元を隠してそう返す。

 

「となると、先ず先に敵の爆撃機を、コチラの戦闘機で撃墜ないし食い止めてもらう必要がありますね」

 

「となると、問題となるのは航空部隊の技量か。だが………」

 

清十郎がそう呟き、十河が考え込む様に顎に手を当てたが、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「六郎達は一航専だ。技量は保障する」

 

「………では、その作戦で行きましょう」

 

シメオンがそう言うと、みほも腹を決めた顔でそう宣言する。

 

「場所は、この先に有る街です」

 

「西部劇の街並みですね………建造物は全て木造性ですから、盾にする事は出来ませんが、イザと言う時は破壊して脱出する事が可能ですね」

 

みほが地図を見ながらそう言うと、装填手席のハッチから姿を見せていた優花里が、その地図を覗き込んでそう言う。

 

「ワニさん分隊はファインシュメッカーさんが分隊長をお願いします。ペンギンさん分隊の残存歩兵はワニさん分隊に合流して下さい」

 

「心得た」

 

「了解だ」

 

そしてワニさん分隊とペンギンさん分隊の生き残りメンバーにそう言うと、ゾルダートと大詔が返事を返す。

 

「………全軍、前進!」

 

みほの指示に従い、大洗機甲部隊全軍は、西部劇の街を目指して前進するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西部機甲部隊は………

 

「大洗機甲部隊が全軍で移動している?」

 

ロケット弾を再装填しているシャーマン・カリオペの横に停まっているヘルキャットのハッチから姿を見せ、無線機のヘッドフォンを耳に当てていたクロエが、偵察兵からの報告にそう返す。

 

「間違いないの?」

 

『ハイ、全軍で街のセットが在る場所へ向かっています』

 

「ふむ………」

 

それを聞いたクロエは、顎に手を当てて考え込む様な様子を見せる。

 

「街のセットを使って、お得意のゲリラ戦に持ち込む積りかねぇ?」

 

「馬鹿め。コチラは既に動きを掴んでいる。空爆を浴びせた後に一斉攻撃で御終いだ」

 

ジャンゴがそう推測すると、オセロットがそう言い放つ。

 

「総隊長、空爆を要請して一気に攻め込もうぜ!」

 

レオパルドも、クロエに向かってそう言い放つ。

 

「………ロケット弾の再装填は?」

 

「あと10分は掛かるかと!」

 

そこでクロエは、シャーマン・カリオペの周りで作業をしていた工兵達に尋ね、工兵達はそう報告する。

 

「分かったわ、カリオペは護衛部隊と一緒に此処に待機! 残りは前進! 目標、街のセットッ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

クロエの号令一下、カリオペとその護衛部隊を除いて一斉に進軍を開始する西部機甲部隊。

 

(何か考えてるわね………良いわ。さっきはコッチが策に乗って貰ったからね。今度はコッチが乗って上げる番よ)

 

だがクロエは、頭の中ではその独特の価値観でそう考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部の街並みのセットが在るエリア………

 

先に到着した大洗機甲部隊は、4つに部隊を分け、街の彼方此方に展開する。

 

『カメさんチームとツルさん分隊、配置完了しました』

 

『アリクイさんチームとキツネさん分隊も配置完了したにゃあ』

 

蛍とねこにゃーが、配置に着いたとの報告を送って来る。

 

『カモさんチーム、それとマンボウさん分隊も配置完了よ』

 

『カバさんチームとワニさん分隊も配置に着いた』

 

続けて、みどり子とエルヴィンからの報告が挙がる。

 

『ウサギさんチーム、ハムスターさん分隊、配置完了しました~』

 

『レオポンさんチームとおおかみさん分隊も配置完了だよ~』

 

優季とナカジマが、共に間延びした声で報告して来る。

 

「サンショウウオさんチームとタコさん分隊もOKです」

 

「各部隊、対空警戒を怠らず、敵との遭遇に備えて下さい」

 

そして、Ⅳ号の隣に並んでいたクロムウェルのハッチから姿を見せていた聖子がそう報告するのを聞きながら、みほは喉頭マイクを押さえてそう指示を出す。

 

「敵の空爆を凌げるでしょうか?」

 

「六郎達なら必ずやってくれる。万一に備えて、高射部隊を分散配置させているからな」

 

楓が不安そうにそう言うと、弘樹はそう言い、近くに居たアハトアハトを仰角を目一杯上げて設置している高射砲兵を見やる。

 

「…………」

 

そんな中、指示を出し終えたみほは、双眼鏡を手に空を見据え、敵機の襲来を見逃さない様に全力で警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセットの近くまで進軍した西部機甲部隊………

 

「そろそろだね」

 

「全軍停止!」

 

シロミがそう言うと、クロエが全軍停止の指示を出し、進軍していた西部機甲部隊が停止する。

 

「…………」

 

それを確認すると、クロエは双眼鏡で街の方を見やる。

 

すると彼方此方に、展開している大洗の歩兵が動いている様子と、建物の隙間から戦車の一部も目撃する。

 

「………細かく分散して全軍で展開しているみたいね」

 

「分散していても纏まっている事に変わりはない。空爆で打撃を与えた後に全軍で一気に制圧だ」

 

勝利を確信したかの様に、オセロットが笑みを浮かべる。

 

「総隊長! さっさとおっ始めようぜっ!!」

 

レオパルドも、逸る気持ちを押さえずにそう言う。

 

「………此方クロエ。航空支援を要請する」

 

そこでクロエは、双眼鏡を外すと、喉頭マイクを押さえながらそう言い放った。

 

『支援要請受理! これより航空支援を開始します!』

 

即座に航空部隊から、要請を受理したとの返事が返って来る。

 

「大洗もコレで最後だね」

 

「…………」

 

そう言うシロミだったが、クロエは表情を引き締めたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセット………

 

「………! 敵機来襲ーっ!!」

 

コチラに向かって飛んでくる爆撃機の編隊を、建物の屋上で双眼鏡を構えて監視していた偵察兵が発見し、声を挙げる。

 

「来たか………」

 

「高射部隊、攻撃準備」

 

弘樹が呟くと、迫信が高射部隊に射撃準備の指示を出す。

 

「西住殿!」

 

「分かってるよ、優花里さん………コチラ西住。航空支援要請。戦闘機の出動を要請します」

 

優花里が声を挙げると、みほは即座に航空支援要請を発動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場・上空………

 

大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセット目指して飛ぶ西部学園の爆撃機部隊………

 

ダグラス・A-26・インベーダーが6機と、ボーイング・B-17・フライングフォートレスが2機の編隊である。

 

「見えたぞ! あの街だっ!!」

 

先頭を行っていたA-26の操縦士が、前方の眼下に、大洗機甲部隊が居る街のセットを発見してそう声を挙げる。

 

「覚悟しろよぉ。街のセットごと吹っ飛ばしてやるぜっ!!」

 

別のA-26の操縦士が、過激な事を言い放つ。

 

「良し、行くぞっ! 進路そのままーっ!!」

 

そして、B-17の操縦士がそう言い放つと、西部爆撃機部隊は、編隊を維持したまま街の上空へと差し掛かろうとする。

 

と、その時!!

 

1機のA-26が、上空から無数の弾丸を浴びてペイント弾の色に染まり、離脱して行った!

 

「!? 何っ!?」

 

別のA-26の乗員が驚きながらも上空を見上げるとそこには………

 

雲の中から次々と降下して来る真っ白なレシプロ戦闘機………

 

零戦二一型が姿を現し、急降下して来る!

 

「! 敵だ! チキショウッ!!」

 

西部爆撃機部隊の誰かがそう声を挙げたかと思うと、A-26とB-17は備え付けの防御火器で弾幕を張る。

 

「この程度の弾幕!」

 

「我等一航専の実力を甘く見るなっ!!」

 

だが、一航専の戦闘機部隊は、荒れ狂う弾の嵐の中をスイスイと飛んでみせる。

 

「嘘だろっ!? こんなに撃ってるのに何で当たらねえんだよっ!?」

 

「コレが………噂の一航専かっ!?」

 

その凄まじいまでの操縦テクニックに、西部爆撃部隊の隊員達は驚愕の声を挙げる。

 

「貰ったっ!!」

 

と、そこで六郎の零戦二一型が、防御火器の弾幕を擦り抜けて、B-17の1機を肉薄。

 

そのまま、B-17の垂直尾翼に向かって翼の九九式一号20ミリ機銃2挺を掃射!

 

20ミリの弾丸を浴びたB-17の垂直尾翼は一瞬でペイント弾で染め上げられる

 

「メーデー! メーデー! 垂直尾翼をやられた!! 駄目だ! 離脱する!!」

 

垂直尾翼をやられたB-17は自動離脱装置が働き、試合会場の上空から離脱して行く。

 

「良し、良いぞ! このまま………」

 

と、その様を目撃した別の零戦二一型のパイロットがそう言った瞬間………

 

下方から機銃掃射が浴びせられた!!

 

「!? うわあっ!? 脱出するっ!!」

 

穴だらけにされた機体から、パイロットが射出座席で脱出する。

 

直後に、その墜落して行く零戦二一型の下から、複数の機影が上がって来る!

 

「!!」

 

上がって来た機影を確認する六郎。

 

それは、ノースアメリカン・P-51・マスタングと、7機のグラマン・F6F・ヘルキャットだった!

 

「簡単に爆撃機部隊を全滅させるわけには行かないな………」

 

「さあ、獲物を捕らえる番だ!」

 

F6Fの1機に乗って居る西部戦闘機部隊の隊員である『イーグル』がそう言うと、マスタングに乗る西部戦闘機部隊の隊長『ファルコン』もそう言い放つ。

 

そしてそのまま、マスタングとF6Fの編隊は、六郎達の零戦二一型部隊へ突っ込んで来る!

 

正面から突っ込んで来た敵編隊を避ける為、零戦二一型部隊は方々に散開する。

 

「今だ! 下降中のヤツを狙えっ!!」

 

するとファルコンがそう指示を出し、西部戦闘機部隊は下降中の零戦二一型に狙いを定める。

 

「! 6番機! 狙われているぞっ!!」

 

「! チイッ!」

 

「遅いっ!!」

 

六郎からの通信で狙われている事に気付いた下降中の零戦二一型は、すぐに機体を上昇させようとしたが手遅れで、マスタングのブローニングM2重機関銃が火を噴き、蜂の巣にされる。

 

「! 脱出っ!!」

 

パイロットが脱出すると、機体は炎上して錐揉み回転を始め、空中で爆発四散した。

 

「クッ!」

 

「やったなぁっ!!」

 

六郎がその光景に苦い顔を浮かべたかと思うと、別の零戦二一型がマスタングへと向かう。

 

「フッ………」

 

だが、マスタングはF6Fの編隊と共に速度を上げたかと思うと、そのまま離脱して行く。

 

「待てっ! 逃げるのか、卑怯者めっ!!」

 

と、零戦二一型のパイロットがそう声を挙げたかと思うと、離脱していたかと思われたマスタングとF6Fの編隊が反転。

 

そのままトップスピードで零戦二一型に向かって突っ込んで来る!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

擦れ違い様に銃撃され、主翼が根元から圧し折れる。

 

パイロットが射出されたかと思うと、主翼が折れた零戦二一型は墜落して爆発した。

 

「このぉっ!」

 

別の零戦二一型が仕掛けようとしたが、マスタングとF6Fの編隊は再び離脱して行く。

 

「降下時を狙い、一撃離脱戦法を執る………零戦の弱点を狙って来たか」

 

その様子を見ていた六郎は、敵が零戦の弱点である急降下性能と速度が悪いところを衝いて来た事を察する。

 

「各機、護衛戦闘機は私が相手をする。お前達は爆撃機を叩け!」

 

「! 隊長!? しかし!!………」

 

「命令だ!」

 

自分が護衛戦闘機を一手に引き受けると言う六郎の言葉を聞いて、一航専戦闘機隊の隊員が何かを言おうとするが、六郎は命令だと言い放つ。

 

「!………了解! 全機、護衛機に構うなっ! 爆撃機を狙えっ!!」

 

一航専戦闘機隊の隊員がそう言うと、六郎の機体以外が、一斉に西部爆撃機隊へ向かう。

 

「良し! お前達の相手は私だ!」

 

それを確認した六郎は、単機で西部戦闘機部隊へと向かう。

 

「フフフ………」

 

だが、そんな六郎の零戦二一型を見て、ファルコンは不敵な笑みを浮かべる。

 

(! 何だ? この感じは?………)

 

すると六郎は、何か嫌なモノを感じ、西部航空隊に違和感を覚える。

 

(既に爆撃機2機を落としていると言うのに、この余裕の様子は何だ?………!? 爆撃機! まさかっ!?)

 

とそこで、何かに気づいた様に、風防越しに上空を見上げた。

 

そこには、白い雲の尾を引きながら高高度を飛ぶ1機の戦略爆撃機………

 

かつての大戦で日本中を火の海にした超空の要塞………

 

『ボーイング・B-29・スーパーフォートレス』だった!

 

「! B-29! あんな物までっ!!」

 

六郎はそう言うと、西部戦闘機部隊の相手を止め、機体を上昇させようとする。

 

しかし………

 

「クッ! 駄目だっ! 追い付けんっ!!」

 

零戦二一型の上昇性能では、高高度に居るB-29まで辿り着くのは至難だった。

 

このままでは、六郎の零戦二一型が同高度に上る前に、B-29は爆撃を開始するだろう。

 

1機だけと言えど、最大9トンもの爆弾を搭載できるB-29。

 

それだけあれば、十分に大洗機甲部隊を西部劇の街並みのセットごと吹き飛ばす事は出来る。

 

「やらせるワケには………!?」

 

それでも諦めずに機体を上昇させていた六郎だったが、殺気を感じて機体を左旋回させると、先程まで自機が居た場所を曳光弾交じりの機銃弾が通り抜けて行く。

 

「何処へ行く気だ?」

 

「ちゃんと僕達の相手をして下さいよ」

 

マスタングとF6Fの編隊が追い縋って来たのである。

 

「クウッ!」

 

敵機に追われては、とても高度を上げるどころの話ではない。

 

そうしている間にも、B-29はドンドンと街の方へと迫って行く。

 

「コレで大洗の命運も尽きたな」

 

「加えてあの一航専のエースを討ち取ったとあれば、僕達の名も上がると言うものです。観念しなさい」

 

「…………」

 

ファルコンとカイトの声を聴きながら、無言で操縦桿を動かし、敵弾を回避する六郎。

 

「………すまない」

 

やがてB-29の方を見上げて、ボソリとそう呟く。

 

「………任せたぞ………後輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高高度を飛ぶB-29………

 

いよいよ大洗機甲部隊の上空へと差し掛かろうとしている西部のB-29。

 

「もうすぐ目標視点だ!」

 

「ハッチ開けろぉっ!!」

 

B-29の乗員がそう言い合い、機体下部の爆弾投下用のハッチが開く。

 

「大洗め! 石器時代に戻してやるぜっ!!」

 

「程々にしてやれよ。イジメになっちまうからな」

 

「投下準備完了っ!!」

 

とうとう爆弾投下の準備が完了する。

 

「………ん?」

 

しかしそこで、防御用の機銃座に着いて居た乗員が、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何した?」

 

「いや、今、太陽の中に何か………」

 

別の乗員が尋ねると、機銃座の乗員は太陽の中に目を凝らす。

 

すると、やがて………

 

太陽の中から、1機のレシプロ機が姿を現した!

 

主翼には一航専の校章が描かれている。

 

「! 敵機だっ!!」

 

「何ぃっ!? 馬鹿なっ!?」

 

「チキショウッ! 予め高高度に控えてやがったのか!!」

 

「ええい、所詮零戦1機だ! 撃ち落としてやれっ!!」

 

B-29の機長がそう叫ぶと、機体の各所に装備された防御用の機銃が一斉に火を噴く。

 

だが、弾幕の隙間を縫う様に飛び回る。

 

「馬鹿なっ! 零戦がこの高度であんな自在に動けるワケがないっ!?」

 

「オ、オイッ! ありゃ零戦じゃねえっ!!」

 

その様子に乗員が驚きの声を挙げると、別の乗員がその機体が零戦でない事に気づく。

 

「アレは………まさかっ!?」

 

「『紫電改』だっ!!」

 

そう………

 

それは太平洋戦争後期に於いて………

 

開発が遅延した烈風に代わり、旧日本海軍の次期主力機となった局地戦闘機………

 

『紫電改』だった!

 

「…………」

 

そのパイロットは、弾幕が煌めく中、恐ろしい程に冷静な様子で操縦桿を握っている。

 

すぐ目の前を掠める曳光弾交じりの機銃弾を、まるでクラッカーか何かかと思っている様にも見える。

 

驚くべき事に、このパイロットはまだ1年生である。

 

入学して即座に頭角を現し、その才能を見込んだ六郎が、貴重な紫電改を与え(本人が紫電改を余り好んでいなかったと言う話もある)、肝入りの秘蔵っ子としていたのである。

 

「…………」

 

無言のまま、紫電改の射程距離までB-29に接近して行く。

 

やがて、B-29を射程内に納め、照準器のレティクルが完全にエンジン部を捉える。

 

そしてその瞬間に、パイロットは初めて言葉を発したのだった。

 

「メビウス1、交戦」

 

その紫電改の尾翼には、パーソナルマークと思われる捻じれたリボンの様なエンブレム………『メビウスの輪』が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部機甲部隊………

 

『コチラ爆撃部隊! 敵機の攻撃苛烈!! 爆撃不可っ!!』

 

「馬鹿な!? B-17やA-26は兎も角、B-29までだとっ!?」

 

B-29の爆撃が阻まれている事に驚きを露わにするオセロット。

 

「まあ、考えてみれば当然かしらね。あの一航専が護衛に付いてるんですもの。そう簡単に制空権を渡したりはしてくれないか」

 

しかしクロエは、冷静なままの様子でそう呟く。

 

「如何するんだ、クロエ。一旦後退するか?」

 

「それ癪だから嫌。このまま行くわよ」

 

ジャンゴがそう尋ねると、クロエは差も当然の様にそう返す。

 

「待って下さい、総隊長! 爆撃無しで攻め入るのは………」

 

「別に構わないわよ、元々爆撃の戦果はオマケ程度にしか考えてなかったから。何より、ココで退いたら、爆撃が無いから怖くて帰りますって言う様なものじゃないの?」

 

「ぐうっ!!………」

 

そう言われると、オセロットとしてもプライドが傷付き、何も言い返せなくなる。

 

「予定変更よ。爆撃の支援は無しで街へ突入するわ。大洗の連中は遭遇戦が得意みたいだけど、街はセットよ。いざとなればセットごと撃破してやりなさい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを見たクロエは、西部機甲部隊に改めて命令を下す。

 

「良し! 全軍前進っ!!」

 

そして、そう言い放つと自身も車内へ引っ込み、いの1番に進軍を始める。

 

「あ! 総隊長っ!?」

 

「待って下さい~っ! 総隊長~っ!!」

 

「やれやれ………」

 

その後を、西部機甲部隊のメンバーが慌てて追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部の街並みのセットが在るエリア………

 

『敵軍、進軍を再開! コチラに向かって来ます!』

 

「坂井さんが爆撃機隊を食い止めている間が勝負です! 各自、他の分隊との位置関係を忘れずにゲリラ戦に移って下さい! 但し、建物は遮蔽物として使えない事に注意です!」

 

『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』

 

みほの指示に、大洗機甲部隊のメンバーから勇ましい返事が返って来る。

 

(頼むぞ…………六郎)

 

その傍に居た弘樹も、西部戦闘機隊と空戦を繰り広げている六郎の零戦を見上げながら、そう思いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

アヒルさんチームが撃破され、ペンギンさん分隊とワニさん分隊にも多数の戦死判定者を出してしまった大洗機甲部隊。

だが、嘆いている暇は無いと、西部の街並みのセットを使って、得意のゲリラ戦を展開しようとする。
西部機甲部隊は空爆を要請し、一気に大洗機甲部隊を片付けようとするが、一航専に阻まれ、虎の子のB-29も、紫電改を翔ける若きエースに阻まれるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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