ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第106話『クソ真面目な男です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第106話『クソ真面目な男です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6回戦にて、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と相対した大洗機甲部隊。

 

砂漠戦を得意とするクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、砲兵部隊に自走砲を配備し、その着弾による砂煙で大洗機甲部隊の目を潰す。

 

身動きが取れなくなった大洗機甲部隊を、モグラの如く砂の中からスフィンクス歩兵部隊が強襲。

 

砂煙の中から脱出を試みたみほ達の前にも、隊長車兼フラッグ車であるティーガーⅠが立ちはだかる。

 

その強靭な装甲と圧倒的な攻撃力の前に、あんこうチームのⅣ号は手も足も出ない………

 

だが、その最中………

 

大洗機甲部隊からみほと弘樹………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊からネフェティが………

 

崖下へと転落する事態が発生したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「………う………長………隊長………西住総隊長!」

 

「う?………ううん………」

 

自分を呼ぶ声が聞こえて、みほは重たい瞼を如何にか開ける。

 

「気が付かれましたか………」

 

飛び込んで来たのは、全身砂塗れになっている弘樹の姿だった。

 

「弘樹くん………! そうだ! 私、崖から落ちて!………! ッ!?」

 

身体を動かそうとした瞬間に、右足に鈍い痛みが走り、みほは苦痛の表情を浮かべる。

 

見ると、右足には応急処置と思われる処置が施されていた。

 

「軽い捻挫です。骨には異常はありませんが、暫く動かさないで下さい」

 

「弘樹くんが手当してくれたの? ありがとう」

 

「いえ、お礼を言われる資格はありません………小官がもっと気を付けていれば、西住総隊長が転落する様な事態は防げていたのに………」

 

「ううん、弘樹くんのせいじゃないよ。私がうっかりしてたのがいけなかったんだから………それより此処は………」

 

頭を下げる弘樹にそう言うと、みほは辺りを見回す。

 

向かって右手には、先程転落して来た崖が壁の様に聳え立っており、後は全て砂漠である。

 

現在みほは、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の正面の履帯の間の車体に背中を預けて地面に座っている状態である。

 

「崖の下ですね………この崖を登るのは不可能でしょう。通信機も落下した時に故障してしまった様で………」

 

垂直の崖を見上げながら、みほにそう言う弘樹。

 

「私の通信機も駄目みたい………ところで、この戦車は?」

 

みほは自分の通信機も駄目な事を確認してそう言うと、自分が背を預けている鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車について尋ねる。

 

「元々この場所に在りました。恐らく、昔の大会でマナーの悪い選手が壊れたのをそのまま捨てて行ったのでしょう」

 

「酷い………一緒に戦ってくれた戦車を捨てるなんて………」

 

弘樹がそう言うと、みほは物悲し気な表情で、背にしている鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲を撫でる。

 

と、その時!!

 

突如として機関銃の発砲音が鳴り響き、飛んで来た無数の銃弾が、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲上で火花が散らす!

 

「!? キャアッ!?」

 

「!!」

 

すぐさま弘樹はみほを抱き抱えて、銃弾が飛んで来た方向の反対側へと移動し、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車を盾にする。

 

直後にまた機関銃の発砲音がして、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲上で火花が散る!

 

「…………」

 

みほを庇いながら、銃弾の飛んで来る方向を見やる弘樹。

 

そこには、砂の稜線上から覗いているブルーノZB26軽機関銃の銃身が在った。

 

「………西住総隊長、コレを」

 

それを確認した弘樹は、四式自動小銃をみほに渡すと、腰のホルスターからM1911Aを抜く。

 

「弘樹くん!?」

 

「此処を動かないで下さい」

 

そう言うと弘樹は、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車から飛び出す。

 

当然、ブルーノZB26軽機関銃からの銃弾が襲い掛かるが、運良く命中せず、向かい側の稜線の陰へと入る事に成功する。

 

「…………」

 

そのまま大回りで、ブルーノZB26軽機関銃が見えていた稜線の後ろへと回って行く。

 

「…………」

 

ブルーノZB26軽機関銃が見えていた稜線の後ろに近づくと、気配を殺し、抜き足差し足でゆっくりと進む弘樹。

 

「………!」

 

やがて至近距離まで近づいたかと思うと、M1911Aを構えながらバッと飛び出す。

 

しかし、そこに在ったのはブルーノZB26軽機関銃だけで、射撃していた人物の姿は無かった。

 

「?………」

 

警戒をしながらも、置かれていたブルーノZB26軽機関銃に近づき、調べようとする弘樹。

 

「………!」

 

だが、その瞬間!

 

何か嫌なモノを感じ取った弘樹は、ブルーノZB26軽機関銃から離れる様に飛び退く!

 

直後に、ブルーノZB26軽機関銃が在った場所が爆発した!

 

「………手榴弾を埋めていたのか」

 

伏せたままの状態で、その爆発が手榴弾のものである事を見抜いた弘樹がそう言うと、その目の前に銃弾が着弾した。

 

「!!」

 

すぐさま起き上がり、走り出す弘樹。

 

その足元に、弾丸が次々と着弾して、砂を撒き上げる。

 

「………!」

 

それから逃げながら、弘樹は砂丘の稜線の上で、ワルサーP38を構えて撃っているネフェティの姿を認める。

 

「彼女か………!? ッ!」

 

そう思った瞬間、砂に足を取られて、派手に転倒してしまう。

 

「クッ!………」

 

「そこまでじゃ」

 

すぐに起き上がろうとした弘樹だったが、目の前には既に、ワルサーP38を構えているネフェティの姿が在った。

 

「不覚………」

 

「不死身の英霊の命運も遂に尽きた様じゃのう。貴様さえ居なければ、大洗の歩兵など、所詮は烏合の衆よ」

 

ネフェティはそう言い、ワルサーP38の引き金に指を掛ける。

 

そして、銃声が鳴り響いた!

 

「ぬあっ!?」

 

しかし、吹っ飛ばされたのはネフェティのワルサーP38だった。

 

「!!」

 

弘樹がすぐに、その銃声がした方向を見やると、そこには………

 

「…………」

 

稜線の上に立ち、銃口から硝煙の上がって居る四式自動小銃を構えているみほの姿が在った。

 

「! あうっ!………」

 

しかし直後………

 

みほは短く悲鳴を漏らし、右足を押さえる様にして倒れる。

 

「! 西住総隊長!」

 

そう叫んで立ち上がりながらも、弘樹は油断無く、M1911Aをネフェティに向ける。

 

「クッ………さっさと撃つが良い。敵に情けを掛けられとうない」

 

弘樹を睨みながら、ネフェティはそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は一瞬ネフェティから視線を反らしたかと思うと、M1911Aを腰のホルスターに納める。

 

「!」

 

「歩兵が戦車乗りを攻撃する事はルールで禁止されている。それに………女を撃つ趣味は無い」

 

驚くネフェティにそう言い放つと、弘樹はみほの元へと向かう。

 

「西住総隊長!」

 

すぐにみほを助け起こす弘樹。

 

そこで、みほの包帯を巻いている方の足が僅かに腫れ上がっているのを確認する。

 

「何故動いたのですか!?」

 

「ゴメン………弘樹くんが危ないと思って、つい………! ッ!」

 

弘樹にそう返すと、足に鈍い痛みが走り、みほは苦悶の表情を浮かべる。

 

「総隊長!」

 

「だ、大丈夫………弘樹くん………頼みが有るの」

 

「?」

 

「私を………置いて行って」

 

「!」

 

みほの言葉に、弘樹は僅かに驚きを露わにする。

 

「まだ試合は続いている筈。でも、この足じゃ歩くのは無理だよ………だから………コレを持って、弘樹くんだけで皆と合流して」

 

みほはそう言いながら、パンツァージャケットの内ポケットからノート手帳を取り出す。

 

「この手帳に、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に対しての対策と作戦が皆入ってるから。コレを神大さんに見せて指揮を移譲して………」

 

「…………」

 

「お願い! 行って! 弘樹くん!!」

 

懇願するかの様に、弘樹の手を握ってそう言うみほ。

 

しかし………

 

「冗談は無しだ。小官はクソ真面目な男だ」

 

「! キャッ!?」

 

弘樹はそう言ったかと思うと、みほを抱き抱え上げた。

 

「ひ、弘樹くん………」

 

「小官に任せておけ………」

 

戸惑うみほを抱えたまま、また鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の元へと歩く弘樹。

 

そしてみほを一旦下ろすと、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車から次々と部品を外し始める。

 

その外した部品で、即席の背負子式の椅子を作り出す。

 

「コレで西住総隊長を背負って行きます」

 

「む、無理だよ! この砂丘を人を背負ったまま超えるなんて………」

 

「やってみなければ分かりません」

 

無理だと言うみほを半ば無理矢理背負子式の椅子に座らせると、背に背負って立ち上がる弘樹。

 

「…………」

 

そして、試合会場の地図とコンパスを取り出し、現在位置を割り出すと、歩き出した。

 

(しかし、本当に試合は続いているのか………続いていたとしても、上手く味方と合流出来るのか………出来たとしても、今のみほくんは………)

 

その胸中には、様々な不安が過っている。

 

(………他の何ものも要らない。只………今は彼女だけを助けたい)

 

しかし、頭を振ってその不安を振り払うと、只今はみほを助ける為だけに歩き続ける。

 

「逃がさんぞ………お前達を本隊の合流させるワケには行かぬ」

 

だが、その後を、ネフェティが付いて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

みほと弘樹を欠いた、大洗機甲部隊は………

 

砂丘内に在ったオアシスの様な場所に陣地を張り、何やら話し合っていた。

 

「やっぱりみぽりんと舩坂くんを探そうよ!」

 

「いや! 先にクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を叩くべきだ!」

 

沙織がそう言うと、続いてハンターがそう言う。

 

「でも! コチラは総隊長が不在なんですよ! それに舩坂殿も!………」

 

「それは敵も同じだろう。寧ろ、敵が混乱している今こそ、俺達が攻め入るチャンスだ」

 

今度は、優花里がそう言うと、白狼がそう言う。

 

如何やら、みほと弘樹を探しに行くか、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に攻撃を仕掛けるかで意見が割れている様だ。

 

「西住さんの指揮無しでコレまで真面に戦えた例が無いぞ。このままクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と戦うのは危険でしかない」

 

「それは我々も十分理解している。だから最近は各歩兵部隊の分隊長や、戦車チームの戦車長にも戦術論や戦略論の座学を受けさせていたのだろう」

 

みほが不在では戦えないと言う大洗機甲部隊の弱点を指摘する麻子だったが、十河がそれに対する対策はして来たと反論する。

 

「ですが、みほさんの事が心配です。この炎天下で、この砂丘の中で迷っているとなると………」

 

「しかし、舩坂さんも一緒なんですから、大丈夫なんじゃないですかね」

 

みほの事を心配する華と、弘樹が付いて居るから心配無いと言う飛彗。

 

「お前等ぁ! 何を揉めている! 隊長が不在でも、副隊長が此処に居るではないかぁっ!!」

 

とそこで、38tの砲塔上に立った桃が、腕組みをして仁王立ちの状態で、大洗機甲部隊の一同を見下ろしながらそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな桃の姿を見て、先程までの喧騒が嘘の様に静まり返る大洗機甲部隊。

 

「フフフ、分かった様だな。では、指揮は私が引き継いで………」

 

その様子を見た桃が、得意げになって言葉を続けようとしたところ………

 

「「「「「「「「「「………ハアァ~~~ッ」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同が一斉に、深い溜息を吐いた。

 

「! な、何だ、その態度は!?」

 

「そうだった………この人副隊長なんだった………」

 

「今の今まで忘れてましたよ………」

 

「河嶋さんが部隊の指揮を?」

 

「駄目だこりゃ………大洗の命運もコレまでだな」

 

狼狽する桃の耳に、絶望混じりの大洗機甲部隊のメンバーの声が聞こえて来る。

 

「! き、貴様等ぁ~~~っ! 私を侮辱する気かぁっ!!………!? うわっ!?」

 

桃が激昂した様子を見せたかと思うと、何者かがその足を払った。

 

空中で1回転したかと思うと、砂の上に落ちそうになる桃。

 

と、そんな桃の頭を掴んで止める者が居た………

 

お馴染み、熾龍である。

 

「貴様に侮辱される様な実績があったのか?」

 

「な、何をぉ~っ! 仮にも総隊長代理に向かって、この態度は………!? ぐええええっ!?」

 

桃が抗議の声を挙げた瞬間に、熾龍はアイアンクローで桃の頭を締め上げる。

 

「ちょっ! 栗林先輩! ストップ! ストップ! 河嶋さんの頭から嫌な音がしてますけどぉっ!?」

 

「…………」

 

逞巳が慌てて止めに入るが、熾龍は無言で桃の頭を締め続ける。

 

(マズイな………ココまで意見が割れるとは………)

 

一方、そんな中………

 

迫信は意見が真っ二つに分かれている大洗機甲部隊の面々を見て、内心で苦い顔を浮かべる。

 

仮にココで迫信が、歩兵部隊総隊長の権限でどちらかの意見を強行採用したとしても、角が立つ事になる。

 

そうなれば敵と遭遇した場合に連携に支障が生じ、全滅の危険性もある。

 

(だが、この場で座して居ても何もならない………如何したものか………)

 

迫信は珍しく、頭を悩ませていた。

 

「小規模の分隊を作って、それを西住総隊長と舩坂分隊長の捜索に当てると言うのは如何でしょう?」

 

「しかし、さっきの砂埃の中で大分やられちまったからなぁ。コレ以上歩兵を割くのはなぁ………」

 

「それに、その小規模分隊が敵と遭遇すれば全滅は必至………無駄に戦力を消耗するだけだ」

 

清十郎の言葉に、俊と大詔がそう反論する。

 

「通信も先程から通じていないな………」

 

「手詰まりやなぁ………」

 

「ああ~、もう駄目だ~! もうお終いだぁ~~っ!!」

 

「了平。頼むから絶望を煽る様な事は止めてくれませんか?」

 

煌人がそう言い、大河がそう呟くと、了平がどこぞの映画での王子の様な台詞を吐いて取り乱し、楓がそうツッコミを入れる。

 

「(このままではバラバラになるだけか………決めねばなるまいな)皆………」

 

と、迫信が意を決した様にそう口を開いた瞬間………

 

「! 敵襲~っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

見張りをしていた偵察兵の1人がそう声を挙げ、大洗機甲部隊の一同に緊張が走る!

 

(このタイミングでか………)

 

迫信はそう思いながら、報告を挙げて来た偵察兵が居る方向を見やる。

 

そこには、クレオパトラ戦車部隊のM3A1スチュワート軽戦車が3両、セモヴェンテM42 da 75/34が2両。

 

その戦車達を守るかの様に展開しているスフィンクス歩兵部隊の歩兵達の姿が在った。

 

「クソッ! 向こうから来やがったか!!」

 

「けど、随分と数が少ないな………戦車も軽戦車と駆逐戦車だけだし………」

 

磐渡がそう声を挙げると、重音が向かって来るクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の部隊規模を見てそう呟く。

 

「(何かの罠か? しかし、向かって来る以上、迎撃しないワケには行かないか)総員、戦闘準備! 指揮は臨時で私が取る! フラッグ車を防衛しつつ迎撃戦を行う!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

迫信は罠の可能性を感じつつも、向かって来る敵を迎撃しないワケにも行かず、そう指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

崖下へと落下したみほと弘樹。
ネフェティの襲撃を退けたが、みほの負傷が悪化し、動けなくなってしまう。
そこで弘樹は、みほを背負っての砂丘越えを試みるのだった。
一方、意見に割れていた大洗機甲部隊にも、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が襲い掛かる。

感想で予測されている方も居ましたが、砂漠と言う事なので、ボトムズのサンサ編のエピソードをオマージュしてみました。
クソ真面目な男は名台詞ですよね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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