勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
それと私は反省も後悔もちょっとだけしてる。
転生したらモテる。それが最早テンプレである。男女は問わず、とにかく人を誑し込む。だが転生者に惹かれる存在は兎に角濃い、普通に見えて濃いキャラ、濃いキャラに見えてかなり濃いキャラ。これは必定であり覆すことの出来ない現象だ。所で─
「お帰りなさいませ、
私が自身の領域である座に帰ってきた後、扉を開けたら三つ指立てをした清姫が居た。ここ最近はずっとコレだ。今ではエスカレートして裸エプロン…清姫はどこに向かっていくんだろうか?エリちゃんはとっても心配です。
「ごめん清姫。どれ選んでも
清姫は「はい」と笑顔で応える。
「ご飯は私を食べてもらいます」
「Wow、いきなりハードね」
「お風呂は私がこう丁寧に優しく、KENZENな精神で身体中を洗うのです」
「身の危険しか感じないわ…」
「最後のはこう強引に床に押し倒して頂ければ…キャッ」
「知ってた……」
清姫はズズイっと身体を前へ前へと押し出してくる。心做しか息が荒い、その上赤く光る火花が散っている。
「さぁお選びください。アナタが選びたいモノを嘘をつかず。さぁ、さぁさぁさぁ!!」
清姫は私を壁際へと追いやる。縦に細く避けた瞳は私の目を逸らさず見つめ続ける。座に時間の概念が存在するか私は知らないが、この様なやり取りは多くやった。故に解決法もあるにはある。
私はソレを実行するにあたり清姫の耳元に唇を近づける。
「
「とぅわ!!?」
清姫は直立不動となった。顔を赤く、瞳は色味が帰る。口は声にならない声を零すばかりでパクパクとさせている。
後は放置するだけ。清姫は自然と回復しているはずだ。直立不動の裸エプロン少女…これは事案だな黒ひげを訴えよう。
……余談だがこの裸エプロンはメル友からの入れ知恵だとか何とか。
肘掛の幅が広い椅子にドカリと座った。横に備え付けられた小さな丸テーブルにこの部屋に合わないビール缶を出す。これが無ければ英霊などやってられない。プルトップをこじ開けるとプシュッと缶内の圧迫されていた二酸化炭素が吹く。そして一つ大きく煽る。
「はぁ…あぁもうずっと此処で引き篭ってもいい気がしてきたわ」
最初は性別変わってる上に服装に難があった。けれど性別が変わっても特に気苦労は無い上、服も今ではビキニアーマーでは無くドレスだ。唯一の難点は英霊召喚で煩いことだ。何が哀しくて応えなければならない?
一つまた大きく煽る。喉の奥から温まり、全身へと広がる。
「もう寝ましょうか…」
「では私もご一緒に!!」
清姫は既にyes枕を見えやすく胸に抱き完全復活を遂げていた。私は清姫の手を掴み広い面積を持つベッドに行く。謎魔術で着替えベッドに横たわる。
「私の上で寝るの止めてくれないかしら?息が当たって落ち着かないから」
「当てているんですよ」
微妙に使い方が違うセリフに苦笑しつつ、私は清姫の背に手を回し、顔を自分の肩に預けさせる。小さく声を漏らす清姫を抱き枕に私は目を閉じる。
『─呼び声に応えよ』
今更だが私は決して清姫が嫌いでは無い。家事全般をこなせるし、気立てもいい。過度なヤンデレさえなかったら完璧美少女なのである。まぁそのヤンデレもどうにか制御してるのでどうという事は無いが。
『─勇者よ、応えるのだ』
いい感じに眠りにつけそうだ。身体の力が抜け、徐々に瞼が下がってくる。清姫が私の服の中をまさぐっている気がしないでも無いが、最早気にならない所まで意識を落としている。
『─勇者よ。我が声を聞き入れるのだ』
先程から声がするがもうどうでもいい。セールスなぞ間に合っている。疾く失せるがいいさ。
『─そうか。ならばこちらにも考えがある。勇者としての使命を心に刻むといいよ』
何が勇者の使命だか。混沌・善の勇者など居てたまるものですか。私は勇者に勝手に仕立てあげられた只の超絶可愛いアイドル系美少女なんですよっと。眠りの邪魔だからさっさと消えてくださいな。
『─three』
カウントに嫌な予感がした。冷や汗が出てくる。ぁ、清姫、そこダメ…
『─two』
直ぐにベッドから遠ざかろうと上に居る清姫に手を掛ける。だがその手は清姫に逆に掴まれ頭の上に押さえ付けられる。
『─one』
身を捩り、身体だけでもベッドから外に投げ出そうとするが、この低身長ではベッドから出るには至らない。清姫は私の寝間着をはだけさせ下腹部を円を描くように触れる。思わず腰を浮かした。だがそれがイケナかったのだろう。清姫は腰とベッドの間に手を差し込む。その先には尻尾があり、その付け根には─
『──Good luck.』
突如襲う浮遊感。風を背中に感じる。そう今、私は空を飛んでいる。いや─
──空を落ちている!
「馬鹿なぁぁあああアアアア!!!??」
目の前に広がるのは、青い空、白い雲、どこまでも続く地平線の彼方、そして、嬉しそうな清姫。
「まぁ、なんて素敵な
どうやら盛大な勘違いをしているようだ。そもそもの話、私達は結婚してないし、サーヴァントにそんなのあるわけないでしょうが!あ〜もう、もうこんな事考えてる場合じゃないのよ!
「ダーレーかー!ヘルプミー!!」
迫る地面。抱きつく清姫。涙出そうな私。だが、誰も私を助けてくれる人は居ない。ワンチャンゲームオーバー!
「死ねるかぁこのバカァ!」
エリザは魔力放出(勇気)を発動。身体能力向上、防御アップ。
エリザは魔力放出(かぼちゃ)を発動準備。
地面到達までカウント開始。
─three
─two
─one
「止まれーーーー!!」
地面到達直前、魔力放出による衝撃波を地面に叩き付ける。叩き付けられた地面は、草が禿げ、陥没し、吹き飛んだ。だが、地面の犠牲の甲斐あって私達は緩やかに落下した。
相変わらず清姫はニコニコとしていたが、私はきっと真っ青だろう。いきなり空中スタートは即アボンの危険性が高い。一体何を考えているんだ召喚主は。
「岩の中の方が何倍もマシだったわまったく!!」
苛立ちを隠せず地面を蹴り上げる。轟音響かせながら消し飛んだがどうでもいい。こんな歓迎をしてくれた召喚主は何処だ。
「居ないじゃない!」
「前回と同じでしょうか?」
野良サーヴァントだと?前回はあんな声はしなかったはずなんだが…
改めて周りを見れば、隊列が組まれた兵士が衝突していた。紅と黄金の装飾からしてローマ軍だと察することが出来る。となればあの女性指揮官が第5代ローマ皇帝ネロ・クラウディウスか。アルトリア顔だ……これも全てセイバーを増やす神のせいなんだ。
「助けますか?助けませんか?私はどちらでも構いませんよ…嘘を吐かなければ、どちらでもなんなりと」
清姫の顔に闇が広がる。目の前に居るのは嘘を嫌う竜だ。故に嘘を言ってはイケナイ。
「助けるわよ清姫。だって私、アイドル系勇者だから!」
「勿論お供しますよエリザ」
ローマ軍に目掛け走り出す。そして都合よく襲い掛かってくるエネミーはかっ飛ばしていく。だが既に戦況はネロ軍に傾いていた。よくよく見ればサーヴァントがいるのに気づいた。
「エリちゃん!?」
成程、主人公は合流していたのか…アレレ〜私いらない子?いやそんな訳無いわね。だって私勇者だし?アイドルだし?何より可愛いし?
「エリザベートさん!来てくれたんですね?良かった。早速ですが恐縮ですが参戦をお願いします!」
「あ、うん」
ヒーローは遅れてやって来るものだと心に刻みながら、私は清姫を率いて敵の中心へと躍りでる。
基本的にサーヴァントの相手はサーヴァントか逸般人でないと務まらない。敵ローマ軍、つまり連合軍大隊がサーヴァントを組み込んでいない現状では戦闘機に生身の人間で挑んでいるのと変わらない。よってマシュと言う一体の未熟なサーヴァントだけで手を拱いていた連合軍大隊は私と清姫と言う兵器が参入したその時に壊滅した。具体的には焼かれ、灼かれ、焚かれた。
「戦闘終了です。良き采配だったと思いますよ先輩」
「ありがとうマシュ」
立香はマシュとハイタッチをし互いに褒めあっていた。横にいつの間にか居た清姫はウズウズとしたようなのモノ欲しげな顔を浮かべていた。
「お疲れ清姫。いい感じに焼けたわね」
私が肩の上辺りまで掌を出せば、清姫はパァっと晴れたように笑い、タッチしてくる。
「ウム、大儀であったぞリツカにマシュ。余はそなた等に頼ってばかりだな、この戦場から脱した後で見合う役職を与えようぞ。総督などどうだ?」
「総督…なんかかっこいいかも!」
「先輩ならキチンと務まると思いますよ」
「えへへ、そっかなぁ〜」
私が周辺を警戒をしていれば主人公勢はキャッキャしていた。戦場でそんな呑気なことで良いのかと疑問に思うが、しょうがないのだろう。皇帝もいるしね。
「して、リツカよ。先程から見慣れぬ者が居るが知り合いか?」
「うん。勇者エリザベートさんと清姫だよ」
「ほぉ勇者とな。ほぉほぉ、ほぉほぉほぉ」
ネロは私に視線を向ければ品定めをするかのように見つめてくる。美少女に見られるのは些か恥ずかしいな…清姫?あの娘はノーカンでお願い。
「ほぉ、成程…好みだ」
「は?」
思わずインテリな私に似合わないアホっぽい声が漏れる。今このローマ皇帝は何を言った?好み?いやそんな馬鹿な事ある訳が。
「は?では無い。好みだと言ったのだ。光栄に思うが良い。ローマ皇帝たる余がこの様な純粋な賛辞を述べるのも認めるのも珍しい事ぞ?」
「それはつまり…」
「ウム、所謂一目惚れ、というやつだな。ハッハッハッ!」
デスよね〜…こんのアホ毛皇帝が!?清姫の横で何を口走っているんだ!見てみろ隣の清姫を、目に光がなくなっているじゃないか!?
「どうだ余のものとならんか?然すればこの世の栄佳を余の傍らで楽しむ事も出来るぞ?」
「お断りします!」
「ムゥ、謙虚よなそなたは。もっと強欲であっても罰は当たらないであろうよ。だが良いぞ!余は第5代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス。手に入らなければ、手に入れるまで腕を伸ばすまでの事よ。見た目よし、声良し、心根も良しと来たらどれ程の財を持てば良いのやら想像もつかんな…」
皇帝陛下は人の心が分からない。見てくれ横の清姫を、まるで清姫サンみたいじゃないか!
「エリザは渡しませんよ…」
清姫は私の腕を掴むとそうネロに言い放つ。ギリギリと締め付けられる腕は引き抜こうにもびくともしないのだからタチが悪い。
「む?ほぉ、そなたも中々……もう良い」
「あら、思ったより早く引きましたわね」
「──もう二人とも余のものとなれば良い!」
「─」
これには清姫も絶句。バーサーカーを置いてきぼりにするローマ皇帝(
それにしてもこの皇帝押しが強い。流石に暴君と謳われただけはあると納得してしまう。
「グヌヌ、
原作エリちゃんとは大分扱いが違うな。私も慇懃無礼には違いないと思うんだけどね。でも好感度が高くて悪い事は無いだろうし現状維持かなぁ。それにしても、本当に執拗いなこの皇帝。酔っ払った上司の絡み酒かよ…ん?ちょっと待てよ。この皇帝さっき聞き捨てならないことを言っていたような…身形?
「ドゥエッセイ!!?」
私は気付かなかった。いやもしかしたら気付きたくなかったのかもしれない。だってヤツは私のトラウマだから。今まで見て見ぬ振りをしていたヤツの姿を私は見る。直後、私は崩れ落ちた。何故、何故だ。何故ヤツがいる?
──
「みえ、見えそ、う」
「先輩最低です…」
「ん?急にどうしたのだエリザとやら。いきなり四つん這いになぞなって。アレか?誘っておるのか?フフフ、愛いやつめ。良しそうと決まればローマへと帰還するぞ!待っておれ、直ぐに館へと案内しよう」
兵士達の気合の入った声が耳に伝わる。だが、脳にまでは届かない。私は結局マシュに背負われて、ローマへと連行されたのである。
ローマに行ったら私、服を着るんだ。
評価感想が思っていたより来ていて嬉しく思います。来れば来るだけ私は書きます。この章が終わっても感想評価が来るのであれば連載に移すかもですね…知らんけど、
あと、誤字報告は良い文明。本当にありがとうございます!