勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
ドラクエってモンスターをボコったあと仲間になるよねって話。
安全バー無し、席なしの棒立ちに申し訳程度の手すりがあるだけのイカれたアトラクションがあるらしい。そうだね超高弾道超高速移動、アーラシュ十八番の宴会芸の逆バンジーだね。
「待って、待て待てどう見ても安全性に難があるよね!」
「当たり前だろ、命懸けだからな。これに乗った屈強な男連中はこぞって2度目は絶対に乗らないって断言してたくらいだ」
マシュに子ジカをしっかり捕まえておくように念を押したあと、アーラシュは私達が乗る足場へと繋がれた矢を番えて弓を引いた。いやぁやっぱりアーチャーって頭が可笑しいですよコレ。なんでただの弓矢でこの足場を一山越えた先まで運べるんだ。
「ちょっ心の準備が!」
「大丈夫よいざって時は拾ってあげるし」
「安全が保証されようと怖いものは怖い!」
「大丈夫です先輩!」
「マシュ……」
「怖いのは私も同じですから!」
「聞きたくなかった!」
そんな情けない人類最後のマスターの一言を最後に矢は射出された。ドゥルドゥルとロープが空に吸われるのを見て私は隣の清姫の腰を抱き寄せておく。滞空中は大丈夫でも着弾時は弾け飛ぶから一応ね。
「よっと、フジマルもう喋るのはやめとけ。舌噛んじまうからな」
足場に乗り込んだアーラシュはそう言うと子ジカもギュッと口を噤んだ。まぁ直ぐに口は開きっぱなしになるんだけど。
ロープが余さずピンと張った時、足場は翔んだ。矢の気持ちが分かる。大気を切って進んでいく感覚だ。風の抵抗もえげつない。子ジカたちは案の定絶叫、口を開けっ広げ風で波打っている。
呑気に描写してる私ではあるけれど、決して余裕があるわけじゃない。絶賛恐怖に見舞われている。いやこの逆バンジーはちょっと刺激が強いアクティビティだ。
だがこの強風はだいぶ問題だ。なんせ私の装束は身を覆うローブでその下はいつものビキニアーマー。これはビキニアーマーの呪いの特性上仕方ない。まぁでも何が言いたいか分かるかね。つまりそうめっちゃ風に煽られる!
それこそローブが吹き飛ばんとする位には!
「ぬぐぉ! 清姫ちょっと押さえて。片腕じゃやばい」
「いえこうすれば一石二鳥です」
「ああ、確かにローブの中に一緒に入れば解決! でも近過ぎだし、もう自分1人で立ってくれる!?」
密着し過ぎて着弾時の脱出のタイミングを見逃しそう。片腕を割いてた理由が無くなるので離れてもろて。身体さわさわするのもこしょばいのでやめてもろて。やめ、やっ、やめろってんだろ!
「もう着く! 脱出のタイミングは任せろ。そらカウントするぞ!」
アーラシュのお陰で遅れを取ることはなさそうで一安心。だってこの娘マジで離さねぇ。一先ず横抱きにしておく。いやだからもう着くから離してって。
「3、2、1、今だ!」
無理やり抱き上げた清姫を頭突きして黙らせ足場から飛び出す。マシュもキチンと子ジカと脱出できていたし問題ないでしょう。黙りこくってた呪腕も気絶してた訳じゃなくて安心した。
勿論足場は爆発四散してた。もはや兵器。
「よし無事、無事だな? 流石オレ、目標にドンピシャだ」
「手足が震えてますけど無事です!」
「此方も手が震えていますが戦闘に問題ありません」
うんうん、無事だね。下手すれば死ぬからねアレ。
「乗り心地は最悪だったけど移動手段としてはエコでいいわね」
「優秀な弓手が居ないと不可能なのが難点ですが」
「最悪私がエイティーンをぶん投げれば……」
「おっなんだ興味あんのか、なんだったら後でコツを教えてやるよ」
なんか被害者が増える気がするんだけど。まぁ教えて貰えるなら是非ともってところね。なんせ講師はあのアーラシュ・カマンガー。この際弓も使えるようになると便利か。スーパーソニックとかブレス系くらいしか遠距離対応出来ないし。まぁチェイテをぶつけりゃ勝てるとは思うけどね。
村までは此処から少し先にある。足場は相変わらず舗装のされてないから悪い。この身体になって以降足場が原因で転んだことは無いけど。
「大丈夫子ジカ、走れる?」
「大丈夫大丈夫、余裕も余裕だよ」
プルップルの脚じゃ説得力に欠けるけど、まぁ大丈夫って言うなら大丈夫でしょう。子ジカの場合素直だし、ダメって言う時が本当の限界なんだろうし。我慢強いって知ってるし。
「じゃあ行くわよ! 呪腕案内して」
狼煙に真っ直ぐ最短の道をスイスイ進んで道中の魔物をかぼちゃで吹き飛ばして進む。素材は子ジカに渡しておこう。霊基再臨、スキル上げとあって困る代物じゃないからね。
そして見えてくるのはややボロい姿になったモードレッド卿だったとさ、なんでボロいんでしょうね(すっとぼけ)
「テメェさっきの!」
被害者と加害者、ここで再開。
此処が裁判所か。弁護人は清姫、証人はベディヴィエール、裁判官は子ジカたちにして貰うとして、検察はどうしましょうか。焦げた粛清騎士?
「モードレッドさん!?」
『ロンドンのモードレッド卿とそこに居るモードレッド卿は別人だ。複雑かもしれないけど、彼女は敵である円卓の騎士モードレッドだ!』
「あん? オレとどっかで会ったのかよ? やり辛ェ」
ロンドンは何処ぞの節穴のおかげでいい思い出もないし、モードレッド卿とも話せなかった。起きたらラスボス居たし。
「それよりお前だよお前!」
「言われてるわよ呪腕」
「いえどう見てもエリザベート殿を指してますぞ!」
だよね。
「テメェさっきはよくもコケにしてくれたな!」
「うん、ごめん!」
「ごめんで許されるかァ死ねェ!!」
完全にブチ切れてますね。クラレントくんも戦慄く馬の如くバチバチの赤雷を放出してる。しかも
「いやごめんって言ってるじゃない!」
全部レトロニアで防げるとは言えビリッビリする。スリップダメージとか聞いてない。めっちゃ痒い!
「痒いって言ってるでしょうがァ!」
「ガハッ!?」
「言ってた?」
「言ってなかったと思います」
『ボクも聞こえなかった』
手を竜種に変化し硬質化させ、さらに魔力放出を全開でぶん殴るのはいい組み合わせだわ。余っ程硬さに定評のある鎧でも無いと防ぎきれない。ヤコブ神拳とかオンラインで教導して貰えないかしら。
「ゴホッ、かひゅっ……」
やっぱり円卓の騎士だけあって頑丈頑丈。まぁあんなに念入りに轢いて汚れる程度だし納得だけれど。
「ねぇモードレッド卿。どうか教えて、なんで獅子王に使い潰されようとしてるの?」
「テメェにゃあ関係ねぇ!」
字そのままの意味で身を焦がすように魔力を回し、絶えず打ち込んでくる。
「消し飛べッ!
「あぁもう話くらい出来ないの!」
「エリザが煽るからでは?」
ヒラリと避けて家屋が吹き飛ぶ。ヒラリと避けて山が削れる。この辺りが更地になるのもそう遠くない。そしてヒラリと避けるとモードレッドのフラストレーションがさらに高まる。
アーラシュは粛清騎士の処理、アサシン組は正面切って戦うのには向かない。ベディヴィエールは寝てたから連れて来てない。マシュも防戦向け。となると私か清姫くらいしか攻勢に出れないのか。
「しょうがない。やるわよ清姫!」
「何時でもどうぞ」
心強い相棒の返答を合図に間合いを一気に潰す。溜め時間が聖杯の力で無くなったとはいえ超近距離戦闘に於いて聖剣ビーム系統は振るい難くなる。下手すればただの自爆、いやモードレッドは自爆覚悟ではあるんだけど自爆するならもっと広範囲を巻き込む手段に出るだろうさ。
鍔迫り合いに持ち込んで膂力でゴリ押して崩す。さらにスーパーソニックでスタンを付与。さらにさらにヒールを使いメルトリリスの如く鋭い脚技で、拷問技術スキルを併用しながら眉間を穿つ。
如何に敵を無力化し続け一方的に殴り続けられるかなんてfgoプレイヤーならみんな知ってる。スタンとか魅了とか、無敵にも無敵貫通、回避にも必中で対応し殴って殴る。バフを山盛りで一発でゲージを飛ばすなんて事も基本だ(白目)
短期決戦でエネミーも単騎なら絶やさず毎ターン行動不能状態を付与すりゃ勝てんのよ。いや宝具連射で十分だけど。
「そらおまけで『やけど』と『延焼』も喰らいなさい」
清姫の火炎に加えて私の火炎もお見舞すればゴリッゴリ削れる。こんなの特殊な高難度クエストくらいでしか使わないんじゃない?
「そろそろ鼓膜がナイナイしたでしょ? 大丈夫大丈夫ちょっと
『鬼だ鬼がいるぞ!』
「勇者様の戦い方じゃねぇ!」
誉はオルレアンで死にました。
「グォ、ォオオ!」
やっと膝を着いた。いや円卓の騎士硬すぎ。
「そこまでの根性があるなら叛逆の騎士らしく叛逆しなさいよ! 叛逆三銃士の名が泣くわよ!」
「知んねぇよなんだよ叛逆三銃士って!?」
「まだ叫ぶ元気があるの? 私ドン引きなんだけど!」
「こっちはエリちゃんにドン引きなんだけど」
子ジカも何れ分かると言うか……あれ? アメリカの最後私よりえげつないことしてた様な気がする。君素質あるよ。
「獅子王はアンタの敬愛した騎士王とは違う。こんな事くらい理解できてるでしょう」
「お前がアーサー王を語るな! んな事分かってんだよ!」
そう叫び一層強く魔力を放つ。もう霊核がひび割れても可笑しくない出力。更に高めれば壊れた幻想もびっくりな爆弾に早変わりする。
「自爆するつもり? もう叛逆は終わり? ねぇモードレッド、アンタ満足したの?」
このツンギレ拗らせ反抗期野郎の琴線は基本的にアーサー王に関する事柄と自身の性別と言うか出生とかにある。そこをまずちょちょいと擽る。
「獅子王は最後までアンタを気にも留めない。役に立ったとか立たなかったとかそういう話にもなりゃしない。報告が挙がったって『そうか』の一言で終わり」
明らかにモードレッドの扱いだけ酷いから特別と言えば特別だけど。流石に距離を置いて無関心を貫かれるオチだから嬉しくない贔屓よ。
アッくんがモードレッドを遠ざけてるっていうのも有るんだろうけど、ランスロットが通常営業な所を鑑みて獅子王の意思も織り込んだ上での扱いとみて間違いなさそう。
「満足できるのモードレッド! モルガンとかブリテンとか関係無しにアンタの行動意義は最初からシンプルで、執るべき行動指針は明白で、その結果が今の人理に刻まれたアンタだった筈よ!」
メガホンで敵にエールを贈ってやるわ。行け行けモードレッド、やれやれモードレッド!
「今こそ反旗を掲げる時、打ち破るは自らの王にして父! 我
バシバシとピンスポを当てて、静寂も演出してやる。完璧な舞台演出。私が前説してんだからはやく立ち上がりなさいってぇの!
膝を付けさせたの私だけどそれはそれ。
過去最高潮に高まったモードレッドの魔力は霊核を破壊すること無く、邪剣クラレントに流れ込んだ。すわ一大事かと思ったけれど直ぐに否定される。
宝具は天高く打ち上げられたから。
それは反旗であると誰もが理解しただろう。
「我が名はモードレッド、叛逆の騎士モードレッドだッ──!!」
モードレッドが なかまに くわわった。
そう言って白目を剥いて倒れちゃったけど。取り敢えずエリクサーをぶっ掛けてリアカーにでも乗せとくわ。
「怒涛の展開が過ぎる。何時もながらに!」
「いや私もまさかあんなにノリノリで返ってくると思わなかったわ。若干のチョロさを感じる」
ダメだったらダメでスフィンクスとメジェドでリンチにするつもりだったし。まぁ言わぬが花よね。
「と、取り敢えず戦闘終了、でしょうか? 粛清騎士もアーラシュさんが倒してしまったみたいですし」
「お疲れ様マシュ」
「いえ私は何も、気付いたら終わりもとい仲間が増えてました。……モードレッドさんを仲間と言っていいのか正直な所分からないのですが」
「そうねぇ一応縛っとく?」
「それはあんまりじゃない?」
「私実は試してみたい縛法が!」
「やめなさいっての!」
絶対ロクな縛り方じゃない。
取り敢えずここの住民は移住して一纏めにさせて貰おう。場所が割れた以上危険が増えるだけだし、纏めた方が管理が楽。一々アーラシュの宴会芸に付き合う必要も無くなる。
百貌も呪腕からの説明でゴリ押し。静謐の件で好印象、初代の件で卒倒と喜んで協力してくれるらしい。暗殺教団なのに優しい人々だなぁ。
そんなこんなで山の民と百貌とモードレッドを持ち帰ってきましたとさ。
「何があったらそうなるのですかレディ!!?」
私もオルレアンの時から気になってる。
正直モードレッドが此処で叛逆しない理由が思い至らない。職場環境も頗る悪いし。もうスパ公呼ぼうぜ!
結局じぃじまで辿り着かなかったな。となると次回も静謐でストップになるのかな。溶岩水泳部だしじぃじまで行かないかも。頼むよぉ立香について行ってくれぇ頼むぞぉ。
感想は一生待ってる。更新は早くならなくとも!