勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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うーんセプテムで終わる感じだったのに遂にキャメロットですか。感慨深いッスね!

あと今回は前回の様な14000字とかはありません、普通にノルマです。

あとサブタイは珍しく意味がある(?)のか……?


神王(ファラオ)に会って一番欲するものは何? ──ただし自分がブレエリちゃんだとする!

 砂塵舞う大地、高温低湿で水分など望めない不毛の地に私たちは立っている。今回はチェイテスタートではなく、すぐに現場入りさせて貰った。誤差ではあるが子ジカ達より速くに到着しておきたかったからだ。

 

「砂嵐がうざったいわ」

 

「視界が悪いうえにこの気温ですからね。人間では迷って飢えで死んでしまうでしょう」

 

 おまけにここにはヒト喰いの魔獣まで居るので入り込んだらほぼ確定で死ぬという。魔術の適正が無ければ魔力濃度だけでグロッキーだし。

 

 この様子では人理は既にお亡くなりかもね。まぁ太陽王も獅子王も倒せば何とかなるとは思うけど。言うは易し、やるは難しって感じ。どっちも超級宝具をバカスカ撃ってくる奴らだから。こっちは硬いだけが取り柄の剣と盾なんだけど!

 

「さて折角の砂漠スタートだし、要領良く行きましょうか」

 

「でも本当にこんな場所に人が住める環境が?」

 

「それが有るのよね……」

 

 そりゃ信じられないだろう。こんな水も食料も無くて果てしない砂だらけの場所に居を構えるなんて。チェイテ召喚すれば私たちは住めるけど普通は無理よ。

 

 ぐるりと辺り一体を確認して見れば矢張り見えるのはどこも同じ、時折謎の骨が落ちてたりするくらい。凶骨落ちてたら垂涎ものなんだけどなぁ。

 

「取り敢えず空から俯瞰してみようかしら」

 

「エリザ」

 

「ん?」

 

 呼び掛けてきた清姫に意識を移せば此方を、と言うより私の頭上を飛び越えた所に指と視線を集めている。いや今しがた周りを確認したばかり、目立ったものも無かった。

 

 その筈──

 

「おぅふ」

 

 そこには私の身長なんて遥かに超える魔獣がThe鎮座。星空の様に光が明滅し闇色を映えせている身体はネコ科動物に似ている。黄金の装飾はエジプト感が満載で何処か馴染みがあるフォルムだ。そしてその顔は存在しなかった。

 

 無貌の神獣である。

 

「コスモスフィンクス!?」

 

 コスモスフィンクスとは正式名称『スフィンクス・ウェヘムメスウト』。通常のスフィンクスの統率個体にあたる幻獣種だ。通常のスフィンクスでサーヴァント一体とそう変わらない計算、此奴は果たしてどれ程強いのかなんて最早わかんないっス。

 

 やっぱりプロト勢って頭おかしい。

 

「エイティーン! レトロニア!」

 

 即座に武器を呼び出し臨戦態勢。

 

「出来ればやり合いたくなかったわ」

 

「前回といい今回といい召喚場所可笑しくありません?」

 

 実は最初から可笑しい!

 

「アレは運命ですので!」

 

 どう考えても作為的なんだよなぁ。

 

 何時も通りギャアギャアしながら前衛後衛に別れるもコスモスフィンクスに動きは無い。顔がないからどこを見てるのかも分からない。やがて見るものは見たとばかりに踵を返す。

 

「えぇ?」

 

 しばらく歩を進めるコスモスフィンクスだったが着いてこようとしないからか中途で停止し顔だけ此方に向けて来た。どうやら待ってくれている様だ。

 

 構えていた武器をゆっくり下ろして清姫と顔を見合わせる。

 

「どうしましょう?」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ。元より会いに行く予定だったし渡りに船ってやつね!」

 

 出迎えがあるとは思わなかったけどこの劣悪な環境下で闇雲に探すより楽に着けるなら万々歳。巡回してるスフィンクスともやり合わずに済むだろうし良いこと尽くめ。

 

 清姫の手を引き後を追えばコスモスフィンクスはもう振り返ることは無かった。

 

 変化は一瞬だった。

 最初から無かったかのように砂嵐は止み、青空と白雲が挑める。正面に見える風景は混沌と調和が奇跡的に成立したエジプト神殿のオンパレード。

 

 『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)

 攻防どちらにおいても最強と言っても過言ではないインチキ宝具である。そしてこれから会うのはその所有者だ。あっちが殺る気なら一瞬で塵と化す可能性があったりなかったり。

 

「混沌具合でなら張り合えるのでは?」

 

「チェイテに姫路城とピラミッドが合体する世界線が存在する以上分類は同じかも」

 

「増設しますか?」

 

「するか!」

 

 然しもの私とて自分からピラミッドはぶっ刺さないし丁度いい平面だからと言って姫路城を設置したりしないしさせない。清姫が私の座に来れるから油断出来ないのよね。来んなよニート姫とくぎゅファラオ!

 

 観光気分でうろちょろしていると焦れたのかコスモスフィンクスが器用に私たちを指に挟んで連行。

 

「もうちょっと見せなさいよ!」

 

 ブンブン顔を振っている。ダメみたい。

 

「今後の参考にもう少しダメですか?」

 

 ブンブン顔を振っている。ダメですって。

 

「ところで参考って何処を?」

 

「閨」

 

「やめてもろて」

 

 まず神殿ってそういう場所あんの?

 時代を遡ったらありそうだけども、イシュタルの神殿とかそう言う場所でしょ絶対。

 

 ずんずん奥へ進んで行くと無駄に多い階段のある玉座の間へと投げ入れられた。勿論此処も神殿である。

 

 そして階段の先には2人の青年の姿がある。1人は玉座にふんぞり返る褐色の美丈夫、1人はその傍らに控える褐色の美少女。前者が太陽王オジマンディアス、この神殿の主にしてスフィンクスの召喚者だ。後者はお節介焼きポンコツンであるニトクリス、布面積は私と競ってる。

 

 敵か味方か分からない者を真っ直ぐ自身の側まで連れてこさせたファラオたちの真意は分からないが、どうにもニトクリスは不満だと言わんばかりに眉を八の字にさせている。

 

 太陽の如き瞳は未だ揺らぎを見せず、ただ私たちを見ている。手に持つ錫杖を弄びながらオジマンディアスはやがて興味深い者を見たと喉を鳴らす。その様は高貴な猫を思わせる。

 

「お前たちが5つの特異点を修復した事、まずその功績は称賛しよう。余の想定を越えて成果を上げたとあっては辛口評価に定評のある余も手放しで褒めること、やぶさかではない」

 

 褒めると言う割にその顔は笑みを浮かべることも無く、ひたすら感情のバラメータは平坦である。オジマンディアスは笑っていない。

 

「だが余りに遅かったぞ勇者とやら。既に風前の灯どころか灰の山となったこの時代の人理、如何にして救うと宣う?」

 

 予想通りこの特異点は獅子王の蹂躙にあってしまった様だ。既に十字軍は過去の彼方。となると聖抜なる選定も聖罰なる虐殺も行われた、いや進行中か。

 

 ファラオの中のファラオは遅遅として来なかった勇者()に不満があるのだろう。ヒーローは遅れてくるとは言うが、既に事が終わっている所に来たら「何こいつ?」となって当然なのだから。

 

「取り敢えず獅子王は止める。邪智暴虐の魔王と化したのなら其れを討つのは私の仕事」

 

「ならば行け、余の言いたいことは全て言った!」

 

「ただのクレームじゃない!? その為だけにスフィンクス駆り出すんじゃないわよ!」

 

 マジで会って早々に「はじめまして、じゃあ死ね」と理不尽に攻撃されると思ったわ。王様のサーヴァントは普通にそういうことしそう、偏見だろうけど。

 

 しかしはいそうですかと獅子王戦に向かうと無理ゲーが過ぎるのである。つまりまだ帰れない。

 

「そっちの要件は以上? じゃあ次はこっちよね?」

 

 ニトクリスの眉間にシワが寄る。此処で叫び出さないのはまだ彼女が冷静だから、隣にオジマンが居なかったら今頃メジェド神の冥府にぶらり途中下車の旅が始まったところ。

 

「案ずるな余とて此方が招いた客人に何も施さず砂漠には放り出さん。こういう時は無駄にケチくさく少ない路銀に木の棒を渡せば良いのだろう?」

 

「違うそうじゃない」

 

「貴様が次なる位階に達する情報もやろう」

 

「それはそれで欲しい!!」

 

 出来るのか、いやファラオは地上に在って不可能なし万物万象我が掌中にありと常日頃長ったらしいセリフを吐いているし出来るかもしれない。

 

「って違う違う。確かに物資や情報の提供は有難いけど違うのよ!」

 

 相手はギフトと呼ばれるマジモンの聖杯(ホーリーグレイル)の加護を受けた円卓の騎士。真っ向からやり合っても袋にされるのが目に見えてる。

 確実に勝つには戦力を集中させる必要がある。纏まらなきゃキャメロットを落とすのは不可能だと私は考える。

 

 だからこのカードは無理にでも確保したい。

 

「私、勇者エリザベート・バートリーはファラオ・オジマンディアスを仲間にしに来たわ」

 

「私は別にいらないと思っていますが」

 

 清姫さんは是非空気をお読みになって。私は裏拳で清姫をぶっ叩きつつオジマンに指を突き付ける。

 

「フム……」

 

「な、ななななっ──!?」

 

 池の鯉の様に口を開閉するニトクリスは遂に我慢の限界を突破したようで手に持つ杖をガツンと床で突き鳴らす。目尻を痙攣させて彼女は激昴する。

 

「不敬、余りに不敬! 貴女が口にした全てが許され難いと理解していますか!」

 

「理解した上で言っているわ。当然でしょ?」

 

「なっ!?」

 

 この身は元々貴婦人。教養は幼い頃より植え付けられ本能にまで根付くもの。私の身体の記憶は今もその記録に基づいている。まぁそういうの抜きにしてみても十分にやっちゃいけないラインは超えてるでしょうけれど。

 

 ニトクリスは泰然とした私に暫し言葉を失いやがて鋭い視線をくべる。

 

「ならば私から言うこともありません。冥府で悪霊たちとでも語らっていなさい!」

 

 魔力の迸りと共に今までとは違う雰囲気で杖を突き鳴らそうとニトクリスは腕に力を込めた。ガツンと音がなる頃には私の周りにミイラとメジェドの集団が召喚され四肢を搦めとり地に引きずり下ろそうとするだろう。

 

「杖を引けニトクリス」

 

 流麗な音でその行為は静止させられた。有無を言わさぬ圧と一緒に。

 

「し、しかしファラオ……」

 

「二度言わすな。余は引けといった」

 

「──ッ!? 差し出がましいまねを致しました。如何様にも罰を」

 

「特に赦す! 余は機嫌がいい。実に、実に!」

 

 ここまで気だるげに見えたオジマンの顔は喜色を見せている。山の天候並みに不安定な機嫌だ。

 

「寛大な御心に感謝致します」

 

「ハハッ、よもや余を仲間にと嘯くその口と肝の座りよう。なかなかに目を見張る、誇れ今貴様は余の興味を引いたぞ?」

 

「物珍しいって事ですかね?」

 

「珍獣のような扱いはごめんだわ」

 

 見世物とアイドルはなんか違うでしょ。

 

「だが余もこの地に召喚された民を護らねばならん。故に迂闊には動けん。今も獅子王との決着を図る為に大局を見ているほどだ」

 

「常であればゴリ押しするって聞こえるんだけど」

 

「そう言っているのでは?」

 

「まっさかぁ……」

 

「あっさり灼き尽くされれば良いものを、業腹なことに白亜の宮殿は容易くは灼け落ちん」

 

 うんゴリ押しだね。

 互いに護りが得意なだけあって無理やり籠城戦に持ち込むのは厳しいし、攻城戦に切り替えるしかないよね。時間は敵みたいだし。何時かの聖杯戦争みたいに都市まるごとを人質とか出来ればもっと楽だっただろう。

 

 いやだとしてもゴリ押しだな!?

 

「別に私の後ろに続けなんて言う気は無いわ。ここからでも援護可能でしょ?」

 

 スフィンクスの派遣や物資搬入、空飛ぶ舟の破壊光線にデンデラ大電球の雷撃、最終手段は大質量で直接攻撃。それらを任意に呼べるって言うのはチートだと思うの。スフィンクスと物資だけでも本来えげつない。

 

「それにその首も私ならちゃちゃっと繋げてあげるわよ。エリクサー1個で事足りるでしょ」

 

「……」

 

「その首、繋がってないでしょ? デュラハンみたいに」

 

 何処ぞの初代山の翁に断たれた首は概念的な死を刻み込んでいる。恐らく死のルーンに近しいかその上位互換。呪いとも近しい。

 どうあっても死ぬ運命にあるのに今もこうして元気でいるのはこの神殿のおかげ、チートもここまで来ると清々しい。

 

 だがどちらにしても状態異常。私のエリクサーの効能に掛かればチョイチョイっと。病気にまで効く仙豆だと考えて欲しい。

 

「今ならなんともう1本付いてくる!」

 

「この2本組本来の所2000万QP。ですが1本はさぁびすですので1000万QPでの提供です」

 

「有料ですか!?」

 

「ええい100セット買おう!」

 

「オジマンディアス様!?」

 

 目の前に積み上がるエリクサー。これでも在庫はまだ余裕という謎の生産力である。チェイテは一晩でやってくれます。

 

 オジマンは迷い無く首に吹き掛けるとあら不思議お肌に潤いとハリが生まれる。ついでに首も綺麗に跡形もなく治る。

 

「フム、余の首は何とも無かったよいな?」

 

 もう既に遅いとか言ってはいけない。

 

「じゃあ予定を詰めていきましょっか!」

 

 支援の内容やら作戦やら、これから来るであろうカルデア陣営の対応までお願いしてみた。誘導する意味はあるかどうか分からないが、予定が狂うと困るので一応。まぁ原作通りなんだけど。

 

 終始ノリノリなオジマンとは違い、渋い顔をしたニトクリスが印象的だった。スフィンクス便とかデリバリーメジェドとか聞けばそらそうなるか。逆になんでオジマンは笑っていられるのか。

 

「"獣"の1匹や2匹貸し与えたとて余にとって問題では無い。勿論相応しき者とそうでない者とで問題が生じるが。瑣末な事よ」

 

 本当にその通りだからなんにも言えない。量産型メカエリチャンをグレードアップすれば張り合えるかな?

 

「ぁ、一番大事な事忘れてたわ!」

 

「あぁ……今更別にいいのでは?」

 

「イヤ!」

 

「?」

 

 ファラオたちが首を傾げる中、私は変わらぬ第一優先事項を思い出す。最近ネタにしてなかったから忘れているでしょうけど。別に慣れたとかそういう事は有り得ないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず服ちょうだい!」




はい答えは服でしたね!
正解者はいたかな?

正直オジマンが脳内で大暴れ過ぎて御しきれない。誰かネフェルタリとモーセを呼んできて欲しい。いやそれはそれで私が尊死ぬか……

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