勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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続きだよ…
ちょっとバーサーカーし過ぎだよ…

サブタイにはやっぱり意味は無いです。


諦めは時に試合開始になる

ㅤ私の名前は勇者エリザベート・バートリー。流麗な詩を歓喜呼ぶ歌声を持って豚共(ファン)に届けるアイドルでありながら、可憐で鮮やかに美しく世界を救う真紅の勇者。

ㅤ斯くして、その真実の姿とは──

 

 

ㅤ──ただの美少女である。

 

 

「急にキメ顔…どうなさいました?」

 

「二期だとこういうのが要るのよ!」

 

「二期?」

 

ㅤお茶を注ぎ足す清姫は困惑していた。だが思い出したかのようにビデオカメラを取り出して来る彼女は狂愛者(バーサーカー)だからなのか、それとも慣れてしまったからなのか…

 

ㅤ注がれた緑茶(ロビンフッドでは無い)を一口。

 

ㅤ「ふぅ……」

 

ㅤ前回で私は学んだ。特異点への営業は強制であり、どのような手段を講じても無駄無駄。最終的に特異点の修正を果たさなければならない。

 

ㅤ私が居なくとも子ジカが何とかしてくれるとは思わない。恐らく私が居てこそ廻る世界線なのだろう。私中心に廻る世界と考えたら悪い気はしないでも無いが、ちょっぴり怖い。

ㅤそして、私は案外強いのかも知れない。

ㅤこれが今までで一番の収穫であるだろう。と言っても、力だけならばと言う形容詞が入る。

ㅤその力を扱う技量などエリザベート(アタシ)に、ましてや私にも無い。

 

ㅤカタログだけでは読み取りきれない事柄もあるけれど、そのカタログさえあれば最大限と最低限は予想できるとも言える。

ㅤだが、カタログをも消失している私ではどうする事もできない。

ㅤそれ即ち、自分で自分が何を出来るのかが曖昧という事である。今思えば、私の生命線である二種類の魔力放出も勢いで発動していたのを思い出す。なお、カタログが消失したと発言するに至る起因はこの二種類の魔力放出によるものだ。

 

ㅤ結論を短く纏めるならば─

 

 

ㅤ─力はあるが扱う技量は拙く脆いものである(声は良いが歌は音痴)

 

ㅤそして─

 

 

ㅤ─その力もどこまでの物なのかが測りきれない(時々歌が上手い時があり結局よく分かんない)

 

 

ㅤコレに危機感を持たない程楽天家では無いつもりだ。第一特異点は歌でデストロイ、第二特異点はローマでローマした。

ㅤだが、所詮運が良かっただけだ。選択肢を一つ違えば死ぬのが型月、今までよく生き残ったものだと沁沁思う…

 

「…ねぇ清姫」

 

「夜伽のお誘いでしたら直ぐにでも用意致しますよ?」

 

ㅤセプテム終了からこの感じだ。淫乱狐は許せんよな。

 

「しないわよそんなのッ!ってそうじゃなくてね。日記とかって付けてるのかなって。いきなり可笑しな質問して悪いけど、必要だから答えて欲しいのよ」

 

ㅤ清姫は「本当にいきなりですね」と言ったが「まぁ隠す事でも無いですし」と言って懐からノートに取り出した。

 

「エリザは時々どうしようも無くだらしがないので、此処に留めて居るんですよ」

 

ㅤそう言って取り出したノートにはジャプニカと書かれていた。

 

「読み上げましょうか?」

 

「…いえ、結構です」

 

ㅤそう言うと清姫はアイアン・メイデンに入れられ俯いた私がプリントされているノートを懐に戻した。

ㅤふくしゅうと記載された下、名前の欄に清姫と丸っこい字で書かれていたので本当に彼女が所有しているのだろう。

 

ㅤ共通点が一つ有ったから聞いた。

ㅤしかし、知らなくとも良かったかもしれないと後悔の念が頭の中で高速スピンしている。

ㅤサーヴァントじゃなかったら確実に殺られていた。衛宮士郎の様な逸般人でなくて良かった。

 

 

ㅤ『─勇者よ海だ海に行くのだ。』

 

 

ㅤ頭に直接声が響く。声は善悪老若男女入り交じった声だ。

ㅤ心做しかノイズが多い気がしたが今はお仕事に集中した方がいいだろうと切り替えた。

 

「清姫。次の営業先は海らしいわよ!水着撮影とかあるかも!!」

 

「海…夏の魔物に夫婦のアレやソレ。タマモさんの言ったシチュエーションですね!」

 

ㅤ──淫乱狐ぇ!!?

 

ㅤ心の叫びが薄い胸の中を木霊する。

ㅤ実は案外純真だった清姫が、経験豊富な良妻希望の狐に色々吹き込まれている事実に辟易とする。

 

 

ㅤ『─さぁ世界をまた救─』『─デュフッ』

 

 

ㅤ声が変わった。怖気が身体を走り、強い嫌悪感を呼ぶ声だった。

 

ㅤ『─デュフフフフ…』

 

ㅤ引っ張られる。何時もとは違うねっとりした風が私の身体を舐める。気持ちが悪くて気持ちが悪くて頭が痛くなりそうだ。

ㅤこれは召喚による現象だと理解できてはいるが、受け入れ難いと脳では考えているらしい。それも仕方無し、それだけ嫌なのだから。

 

「清姫?」

 

ㅤ清姫は私の手をそっと握った。嫌悪感を慈愛で拭われていく気がした。やはり私は彼女に絆されているのかもしれないと握り返しながら思った。

 

「何処までも私は付いて行きます」

 

「本当にアンタって馬鹿…この先は地獄よ?」

 

「いずれは一人で行く所だと思っていましたのよ?貴女と行けるのならばきっと素晴らしい場所に成りますわ。えぇ、きっとそう…」

 

ㅤこの先は間違い無く地獄。だがしかし、身体は軽かった。

 

「狂ってるわ…アンタも私も」

 

「あら、お揃いですね?」

 

ㅤ彼女は嬉しそうに笑った。本当に嬉しそうだ。

 

ㅤ覚悟は決まった。

ㅤ私は引力に従って召喚されてやる事にした。と言ってもあの声を遮って召喚されようとしているので拒んでも無理だ。

ㅤただ盾は用意しておこう。

 

◇◆◇

 

 

ㅤ魔力の暴風吹き荒れ、潮の香りが鼻を衝く。

ㅤもう慣れ始めた召喚の瞬間。ネバネバネトネトと粘性が付与された視線が向いている事以外は概ね今までと同じ。

 

「デュフフ。潮風に運ばれて馨しいか・ほ・り。くぅーたまんねぇ!さぁさぁプリチーなお顔をプリーズでござる!!」

 

ㅤ思わず尻尾を強く甲板に打ち付けた。マナーの守れない豚も居るだろう。だがこれは厄介なソレと比較にならない。握手会で会ったが最期、ショック死を覚悟する程の嫌悪感を呼び覚ます。

 

ㅤまさに天災。

 

ㅤ彼が最も有名な大海賊と恐れられる所以とはソコにあるのかもしれないと本気で思う。

 

「モン娘キターーーッ!!!しかもビキニアーマーとは担当者分かってますなぁ。ア゙ア゙〜尻尾舐め回したいでござるぅ!」

 

「ヒッ!?」

 

ㅤ間違い無く変態だ。アレは変態だ!変態だァ!?

 

「変態!?変態よ!変態が居るわァ!!?助けて監禁されちゃうーーーー!!!躙り寄って来ないで謎の物体X──ッ!!」

 

黒髭(謎の物体X)は両手を広げ、四股を踏んで寄ってくる。顔は下品に歪み、これから悪い事をしますと自己表明しているようだ。

 

ㅤ火柱が立った。

ㅤ轟々と激しく燃える焔は黒髭の開かれた股を中心に展開する。

ㅤそれが数メートルの柱を立てたのだ。

 

「ぬぅわっーー!!?」

 

「無断のお触りは禁止されています。握手が精々でしょう…その握手権もCDを購入し、抽選会に参加して、当選者のみが得られるものです。それも無く触れよう等と、あまつさえ尾を舐め回したいとまで宣いましたね?─合法的に舐め回せる道理が私以外にある訳が無いでしょう!!」

 

「アンタにも無いわ───ッッッ!!!!!」

 

ㅤ火を鎮火しようと局部を手で払う黒髭。

ㅤ真面目に巫山戯た事を言い出す清姫。

ㅤツッコミを入れる私。

ㅤ黒髭の奥には船員とアンにメアリー、ヘクトールがいた。血斧王(けっふおう)は居なかった。

 

ㅤ取り敢えず黒髭と距離を置くために奥に駆け込む。

 

「やぁ不幸何て言葉じゃ抑えられないくらい災難だったね。僕はメアリー、こっちはアンだ。よろしく新人さん。アイツは見ての通り汚物だから適当な罵詈雑言を投げ付けてやってくれ」

 

「あらメアリー。あんなのどの様な罵詈雑言を浴びせたって最終的に浴びせた罵詈雑言が可哀想になるだけですわ。だからもう黒髭と言う固有名詞を罵倒の言葉にしましょ?」

 

「そうだね。じゃあ改めて、アイツにはこの世全ての嫌悪を込めて黒髭と言ってやってくれ」

 

ㅤ小柄の少女と色々大きい女性がそう言った。スマホを通して見てた分には黒髭に辛辣すぎると思っていたが、妥当を通り越して足りないと今では思う。

ㅤ『会ったら思ったよりイケメンでした』の逆バージョン、『会ったら思ったよりキモかった』というわけだ。

 

ㅤ恙無く自己紹介を終えると清姫がやって来た。後方には人型の炭があったが私は木炭だろうと見切りをつけ、清姫を紹介した。

ㅤ特に盛り上がりも無い簡素な紹介だったが、今までが濃口過ぎたと思う。

 

「それで、私たちは何すればいいの?海上ライブならセットを組み上げないといけないんだけど」

 

「私たちは聖杯を狙っているの。だけど既に他所が持って行ったみたいだから、それはそれ、海賊らしく奪っちゃいましょうって寸法よ」

 

「黒髭は女神様の方がお気に召してる様だけどね」

 

「その時は私たちだけで聖杯を使っちゃえば良いんじゃないかしら?」

 

ㅤ私は聖杯にこれといった願望を持ち合わせていない。言ってみてビキニアーマーの呪いを解き、自由気ままに服を選び着ると言った感じだ。

ㅤいや、正直それが叶ったらどれ程いいか…

 

「別にオジサンは必要無いけどねぇ〜」

 

ㅤヘクトールは槍を肩に預けてそう言ってくる。

ㅤ私はそっと後ろに回っておく。

 

「ん?なにしてんの嬢ちゃん…」

 

「黒髭が起き上がった時の盾にしようかと…」

 

「えげつないなぁ。まぁ良いけどね、守る事にゃあ一家言持ってるし」

 

ㅤヘクトールは皮肉げに笑った。

 

ㅤ木炭が跳ねるように動いた。まるで魚が陸に揚げられてしまった様に甲板を叩いた。

ㅤそして、次の瞬間には尺取虫や芋虫の様に地を這って接近してくる。真っ直ぐこちらに…

 

「死んだかと思ったァ!拙者ウェルダンよりレア派ですぞ!?」

 

「チッ」

 

ㅤ起き上がり、人語を用いた発声をしだした木炭に対して舌打ちをしたのは誰だったろうか。アンだった様な、メアリーだった様な気もするし、もしかしたら、歯を恐怖で鳴らしながら舌打ちをすると言う高等技術を天才な私がしてしまったのかもしれない。

 

ㅤただ言える事がある。

ㅤ清姫は舌打ちをしていないという事だ。

 

「フフフ…」

ㅤ清姫サンが御降臨なされているからである。

 

「デュフフ。おにゃの子の微笑み、もうそれだけで百年は生きていけるでござる。ぁ、ちょっ待って!早まらないで!じっくりねっとり話せば分かり合えるでござる──うわらばっ!!?」

 

ㅤ怒りに燃えた清姫の拳が黒髭を穿つ。

ㅤ身体のあらゆる部位に的確に拳は嵌り、空気の弾かれる破裂音と衝撃が海賊船の外まで響き渡っているだろう。

 

「アレ大丈夫なの?」

 

「無駄に耐久高いし、問題無いと思うよ…たぶん。そこん所どうなのエリザベート」

 

「補正が入るからセーフだと思う。サーヴァント以外にもやってたけど生きてたし、しばらくしたら収まる発作だと思えばいいわ」

「いい加減オジサン盾にするの止めない?」

 

ㅤ私は必死に顔を横に振る。油断は出来ない。

ㅤ黒髭が一匹居たら百匹以上は居ると思ったほうがいい。黒髭百匹とか洒落にもならない。まさに地獄絵図だ。

 

ㅤそう言えばヘクトールも苦笑しながら容認してくれた。敵だけど癒し枠かもしれないと思った。

 

ㅤその後一方的な攻撃は割と長めに続いた。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ甲板に立っているのは二人。

ㅤ巨躯の男性と非力そうな少女だ。

ㅤ片や殴られ、片や殴るだけの関係であった。だが、彼等は確かな絆を互いに感じていた。

ㅤ溢れんばかりの憎悪を向けていた少女は、倒れても立ち上がり、正面から拳を受ける男性に対して好感を持ったのだ。

 

『──彼は死ぬ気で萌えている』と

 

ㅤ熱い情熱は拳を通して伝わって来ていた。

ㅤ少女は嘘に敏感であった故に、冷静を取り戻した今では違える事無く分かった。

ㅤ彼は欲望に嘘を吐かない。どの様な後ろめたい性癖を持っていても偽らない。逸れず真っ直ぐ欲望に従う様は彼女にとってどのように映ったのかは分かりかねるが、負の感情では無いと断言出来る。

 

ㅤどちらとも無く距離を詰めた。そして強く握手を交わした。

 

「清姫です」

 

「エドワード・ティーチ。黒髭でいいでござるよ」

 

ㅤ黒髭の口調は依然ロジカルだが、表情は何時に無く真面目だった。彼の身体は焦げ、打撲痕も多く残っていた。数十発の弾丸を受けても戦い続けた彼にとってはへっちゃらなのかもしれないが、第三者から見れば痛々しい事この上ないものだ。

ㅤと言っても、彼を労る者はこの船には居ないだろうが…

 

ㅤ清姫は手を引いた。

 

ㅤ黒髭も引いたが、彼の掌には金に輝く板があった。

 

「会員証ですわ。渡すべきと思った方には渡しておりますの…」

 

ㅤ黒髭は膝をついた。そして咽び泣いた。

 

「家宝に、しゅるでごじゃるぅ──」

 

ㅤ黒髭はこうして正式なエリちゃんファンの一員となった。

 

ㅤ爛々と煌めく会員証に水滴が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「──デュフフ……」

 

 




清姫がブレないな…
黒髭もブレないな…
エリちゃんは……やっぱりブレねぇな!

続き希望の方へ
ㅤこれで満足か!私は満足だ(錯乱)

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