「ほらほらほらほら! 避けねえと死んじまうぞ!」
「ちょ、待てよ!」
「……だからそれは誰のマネのつもりなんだ。随分余裕有りそうだなあおい?」
マトリフがイオを、まるでベジータの連続エネルギー弾みたいにガンガン放ってくるのを慣れぬトベルーラを使用して空中で華麗に避けられる筈もなく、ボンボンボンボン被弾、被弾、また被弾。避けてる弾のほうが少ないという状態にポップの衣服はボロボロになっていた。いい加減この世界で相手から魔法を放たれる事に慣れたポップは絶賛死にそうです。
「ぐっへぇ……こんなん避けれるかバカ師匠! エロじじい! おっぱい魔神!」
「よーし、イオラに格上げしてやる」
「……いーのかなー。死んだらパフパフが無くなるんじゃないかなー?」
「く、生意気な小僧だぜ!」
そう言いながらイオラではなくイオを連発してくるマトリフ。このスケベじじい、欲望に忠実過ぎて笑えてくるわ。亀仙人かお前は。まあイオでも絶賛死にそうなんですが。避けれるかこんなもんとぶつぶつ言ってるポップを見てマトリフは不審に思った。あいつ何発イオ喰らって痛いって喚く程度で済んでいるのかと。そしてすぐにその秘密に気付いた。
「あーくそ、痛てててて」
「……ん? おい」
「なんだよエロじじい」
「……お前、何をしている?」
「何って……あれ?」
ポップは自身の行動を考える。何してるかと言われれば、痛いから痛い場所に手を当てて魔法力を込めて傷を癒して……
「あ!? これホイミだ!?」
「気付かずに使う奴がいるか馬鹿が」
ポップは思った。いやいやいや、だって賢者に覚醒するのってポップの重大イベントだし。メルルとの大事なポップのイケメンイベントだし。え? こんなにしれっと使えるもんじゃないよね? 何これマジで? 大事なイベント潰したけど大丈夫? これでメルルフラグぽっきり逝ったとかないわーと。
「どうりで大量のイオ貰って生きてやがる訳だ」
「殺す気だったんかおい」
「いや、なかなか死なねえなと思っただけだ」
「……マジでてめえの寿命来る前にぶっ殺して墓にエロじじいって書いて小便ブっ掛けてやる」
「おーおー、やってみろヒヨっ子が。青二才に殺される程朦朧してねえがな」
「むっかー!」
ポップは怒りに任せてトベルーラの速度を上げながら、片手で体を回復させつつマトリフのイオの光弾をギラで撃ち抜き、光弾を次々と爆発させながらマトリフに迫る。無意識だろうが、三呪文を同時にコントロールし出すポップを見て思わずマトリフは唸る。
「ほう……」
マトリフの思惑通り、見事挑発に乗ったポップは神業ともいうべき呪文のコントロールを見せる。しかもトベルーラもホイミも覚えたてである。こいつ、センスあるなとマトリフは思うが口には出さない。どう考えてもポップは調子に乗るタイプである。そしてマトリフの事を単純エロじじいと言っているが単純なのはどっちだと言いたい所である。
「あっ」
慣れない事、それも高難易度の事を連続してやってみせたポップの魔力はあっという間に減っていき、呪文のコントロールを失い今までの攻勢が嘘のように見事姿勢を崩し一転落下。海に向かってゴーゴゴー。
「あ、やば、たすけ、へるぷ!」
ジャボンと落下した海で、丁度海中にいたマーマンの群れに襲われ慌てるポップを空中で胡座をかき、頬杖を突きながら眺めるマトリフ。
「……こいつは本当に拾いもんかも知れねえな」
くっくっくとイタズラを思い付いた子供のような笑顔を浮かべたマトリフは自身の周囲に、またイオの光弾を大量に浮かべる。追い込めば追い込むだけ面白い物を見せるポップにマトリフの嫌がらせが止まらない。
「ほーれ、助けてやるぞー」
「うぎゃー!!!」
マトリフは空からポップとマーマンの群れに向け、イオの光弾を雨のように降り注いだ。勿論、ボロボロのポップに直撃はしないようコントロールしてだが。ただ今のポップにそんなマトリフのコントロールなど分かる訳もなく、バタバタ泳ぎながら必死な形相で避ける避ける。何しやがるだのクソじじいだのギャーギャー叫びながら避ける様は正直端から見ると余裕を感じる事がマトリフをこういった行動に駆り立てるのだが、その辺りをポップはまったく察していなかった。馬鹿だからである。
「……うん?」
気が付くと、ポップは同じ境遇におかれテンパっていたマーマンと抱き合いながらお互いに協力し避け始めていた。野生のモンスターと協力して。そのポップの行動にマトリフの心中には感心と呆れの両方の感情が浮かぶ。
「ほんと変な奴だぜ……な!?」
ポップとマーマンは、お互いに降り注ぐ光弾を避けながら目を合わせた瞬間に通じあった。爆撃してくるじじいをぶっ殺してやりたい気持ちが一つになったのだ。マーマンは無言で頷き、ポップを自身の背に乗るように促す。ポップもマーマンの意思を読み取りマーマンの背に乗った。お前いつ魔物使いに転職したんだよと言いたくなるが、こいつは何も考えて行動していないので突っ込んでも突っ込んでも阿呆面で「何の事?」と返してきそうなので突っ込むだけ無駄である。
ポップはマーマンの背に乗り、残り少ない魔力で光弾を撃ち落とし、マトリフに一泡吹かせる方法を考える。その時、ポップの脳内にいかりや長介竜が囁きが聞こえた。『モシャスを使え』と。
「……モシャス!」
ポップは光弾を撃ち落とせる者になりたいと考えながらモシャスを唱えた。その姿にマトリフは驚く。薄めの黄色の肌(?)に星条旗をあしらったベストとジーンズ。テンガロンの四次元ハットに左腕には空気砲。髭が長く3対生えており、首周りには保安官バッジをつけたスカーフを巻いている。そう、ザ・ドラえもんズのドラ・ザ・キッドに変化した!
「な……に!? 黄色いタヌキのようなモンスターに? モンスターなんかにモシャスして何する気だ?」
モシャスは姿見を変えるだけの呪文である。そう、そのはずだった。
「ドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカン!!!」
「なにぃぃぃ!!?」
ポップ、もといドラ・ザ・キッドは百発百中の空気砲で光弾を全て撃ち落とす。脳内のいかりや長介竜は言った。『声優一緒だから能力コピーしてもセーフ』と。チートですねわかります。ちなみに二分の一の確率で失敗して機動戦士Zガンダムのカツ・コバヤシになります。ニュータイプのくせに余所見して隕石ぶつかって無駄死にしそう。
全ての光弾を撃ち落としたキッドはその手の空気砲をマトリフに構える。
「死ね!」
ポンッ!
死ねと叫んだ瞬間、モシャス(cvバグ仕様)が切れた。燃費もクソ悪い模様。そして汗をたらーっと流したポップはマトリフに言う。
「……今の死ねは無かった事にならない?」
「なるか!」
再び光弾を大量に浮かべ、ポップに向かって雨霰とイオを降り注ぎながらマトリフは考える。いまの変化は何だと。あいつは本当に何者なんだと。しかし、いま海でマーマンと逃げ回ってる姿はやはり間抜けにしか見えなかった。マトリフは、まだポップを計り兼ねていた。
その日、ポップはマトリフにマリンになってパフパフをする振りをしてマトリフが目を瞑った瞬間にバダックじいさんになり、じじいの胸板にじじいが飛び込むという酷い絵面になるイタズラを仕掛けたらマトリフが本気でキレたので、アバンの兄弟子のヒュンケルに教わったイタズラだという事にした。マトリフの目がまじで恐かった。
バグモシャスは下手するとカツになるので一か八かで使うにはリスクが高すぎる模様。