フレイザードちゃんまじ天才。ヒュンケルと修行しているだけで見よう見まねで海破斬と大地斬を覚えた。クロコダインの獣王痛恨撃も覚えてた。なにこの娘。そしてこの前、嬉しそうにオリジナル呪文作ったとか言ってフィンガーフレアボムズをぶっ放した。まあそれに関しては禁呪なんて編み出してフレイザードちゃんの寿命縮んだらどうすんだ!ってめっちゃ怒った。使用禁止って言ったら泣きながら謝られたので頭ポンポン撫でて慰めた。
このまま成長すればフレイザードちゃんは物凄く強くなる気がする。しかし足りない。実はミストやヒュンケルに闘気の使い方も教えてと頼んだんだけどこの娘、暗黒闘気の素養がまったく無いらしい。つまりこの娘の素養は光。ヒュンケルも現状暗黒闘気のみだし、俺も闘気は使えない。クロコダインも技は闘気系かも知れないけど基本力業だからなあ。ダイと戦うのであれば対竜の騎士、というか対ドラゴニックオーラの対策が必要である。やっぱり闘気は必要だと思う。
やだよ俺。この娘がアバンストラッシュで真っ二つにされるとか。無理矢理拉致られたようなこんな世界ほんとどうでもいいし、めちゃくちゃ荒らして適当に遊んで笑ってやろうと思ってたし、その通りいままで過ごして来たんだけどそれだけは駄目だね。魔界にこの娘連れてって静かに暮らそうかなーとか思ったけど、この娘の生まれ的になあ。ハドラーが禁呪で作り出したこの娘、場所とかすぐばれそう。それに例えばダイ側に寝返って勝つとしよう。前大戦の大功労者であるマトリフですら一度城に迎えられるもいじめられて追い出された。いくらレオナ姫と仲良くても人間でもないフレイザードちゃんはどうなる? 始めはいいかも知れないが何れは……
この娘が死ぬ。不幸になる。それだけはさせない。
つー訳で、バランの所に来て頭下げてフレイザードちゃんに闘気の使い方を教えて欲しいと今現在めっちゃ頼み込んでいる次第であります。頭下げまくって頼んでます。横でフレイザードちゃんがあたふたしてます。
「頼む、この通りだ。この娘に闘気の使い方を、闘い方を教えてくれないか」
「あ、あの、お父様!?」
「……何故私がそのような事をせねばならん」
確かに。じゃなかったお前こんだけ頼んでも何も思わないとか鬼か、この人でなし。あ、人じゃなかった竜の騎士とかいう種族だった。
「この娘を強くしたい! その為にあんたの力が必要だ。俺じゃ足りない」
「そんな……お父様!」
「ふん……」
くっ、どっか行きそうなバランの気配を感じて速攻で頭を下げるスタイルからジャパニーズ土下座スタイルに移行した。
「この通りだ!」
「……誇りが無いのかお前は」
「お父様! 顔を上げて下さい! あ、あの私が弱いのであれば頑張って強くなりますから! その……お父様はお強いです! そこまでしてバランに頼まなくても私にはお父様がいます!」
「……」
なんと言われようがジャパニーズ土下座スタイルを崩さない俺。土下座で駄目なら……土下寝する? いや逆に馬鹿にしてんのかって言われそう。普段ならそこまでやって馬鹿にするけど、今やることじゃない。
「……分かった。ただし、条件がある」
「条件?」
「私と戦い、私が貴様を認める事だ」
認める事? まあ竜の騎士相手に勝つのは無理だろうから妥当なのかこれは。いやいやいやでも無理あるだろ対バランは。四角いリングで呪文とドラゴニックオーラ禁止ならやれると思うけどさー。むー、いやしかし……
「お父様がバランに勝つに決まってます!」
そうだな。俺は勝つよな娘よ。闘ってる所なんて見せた事ないけどな。なんなんその絶大な信頼感。裏切りたくないよこの娘は。という訳でこの世界来て初めてのプロレス以外のガチバトルを対バランで行う事になった。筆下ろしの相手豪華過ぎると思うんですが。
闘技場に移動した。何故か話を聞きつけた将来の軍団長達が観客席にいる。あと工事現場で酒盛りしてワイワイ仲良くやっているモンスター達が応援に来ている。という事はもちろんこれバーン様も見てるんだろうなあ。まあ相手が相手だし、手の内隠すような真似は出来ないけどさ。
「さあ、いくぜバラン!」
「いつでもこい!」
ポップは一瞬で自身の廻りに数百と言える膨大な数のイオラの光球を出現させた。まず、この時点で観客の大半が度肝を抜かれた。あいつ攻撃魔法使えたのかよと。レスラーだけじゃないのかよと。
そして魔法を使えるものはポップの技量に驚いた。数百と言える光球を出現させた。一発を放つのでは無い。己の意志で光球の動きを、しかも夥しい数の一つ一つがイオラクラスの威力を持つ光球を同時に制御しているのだ。
「化け物か奴は」
誰かがそう呟いた。ハナタレ魔王は「むう……」とか言いながら顔から汗が流れる。しかし、ポップ自身はこの光球がバランに通じるなどとは微塵も思っていない。イオラごときでドラゴニックオーラを突き破れるはずなどないと確信していた。単なる目眩ましの為、光球を出したのだ。幾つかの光球が爆発する。粉塵が舞い、視界が閉ざされた空間でバランは気配を探っていた。突如背後から現れたポップがバランの身体を掴む。そのままキン肉バスターに移行しようとしたがバランがドラゴニックオーラを全身から発生させ、ポップを引き剥がした。ポップは後退しながら数十の光球をバランにぶつけるも無傷を確信しているポップは新たに魔法力を片手に溜め、イオラで起こった爆煙に向けベギラマを放つ。しかしポップの放った閃熱は爆煙の中から飛び出してきた竜の紋章形の閃光が切り裂き、逆にポップの拳を焼いた。
「ぐう……紋章閃か……やっぱドラゴニックオーラって反則だろ!」
痛めた拳を見ながら心の中で思いっきり文句を言うも、爆煙が晴れ現れたバランには、紋章の焼け跡を見せながら軽口を叩く。
「ほら、紋章お揃いだぜ」
「ほう。その程度で済むか」
「お父様、すごい!」
フレイザードちゃんが叫ぶ。観客となっていた将来の軍団長達もポップの実力に驚いていた。ルーラとモシャスが使える力業を得意とする男だと思っていたら、蓋を開ければ神業的魔道士だったのだから当然といえば当然だが。
「ライデイン!」
「ちっ」
ポップはトベルーラで空中を高速飛行し雷撃を避ける。ライデインを連続で放ち手を緩めないバランに対し、飛行しながら指先に極限まで集中し貫通力を高めたギラを連続で放つ。バランはそれを軽く避ける。そう、避けたのだ。
「避けたって事は、あれは当たれば多少なり効くって事だよな」
そう確信したポップは覚悟を決めた。一撃を貰う覚悟である。マトリフから爆撃や閃熱を幾度も喰らった身体である。たとえ雷撃であろうと、一撃で墜ちるとは思わなかった。
「ライデイン!」
「お父様!」
雷撃が直撃し、フレイザードちゃんが悲鳴を上げる。しかし直後、全員が驚愕した。
「あれは……人間があれを使うだと!?」
ハドラーが声を上げた。原時点ではハドラーでも使えぬ呪文。オリジナルで編み出された呪文と竜の騎士の呪文を除けば、この世界最強の呪文。多少溜めが必要だったこの呪文の溜めの時間を、ライデインを受けるという荒業で作り出した。
「くらえ、ベギラゴン!!」
「くっ」
ポップの両腕から放たれた極大閃熱呪文による閃熱を、バランは間一髪空中に逃げる。放たれた閃熱が闘技場の一部を破壊する。
しかし、極大閃熱呪文はおとりであった。
「ルーラ!」
「な!?」
目的地に高速で飛んでいくこの呪文の加速力を、バランに一直線に向けた。目的地をイメージして飛ぶ呪文である。ならば目標を目の前の相手に向ければいいというこの世界の人間がしなかった発想でポップはバランに突っ込んだ。
「猛虎破砕拳!!!」
「がぁ!?」
高速の突進力を上乗せした必殺の拳は、ドラゴニックオーラを破りバランの腹に叩き込まれた。さしものバランも吹き飛ばされ観客席に衝突した。
「お父様やった!」
フレイザードちゃんの歓声とは裏腹に、ポップは内心で舌打ちをした。手応えがあまり無かったのだ。恐らくわざと吹き飛び、威力はほぼ殺された。衝突のダメージはドラゴニックオーラで殺されたであろう。闘いの天才である竜の騎士相手に、奇襲に奇襲を重ねてここまで五分に見せてはいるが、ポップには圧倒的に実戦経験がない。力量も経験も不足している事を痛感した。
ポップの正直な所で言えば、竜の騎士やバーンなどの強者相手に闘うなどもってのほかであり、相手が強者であればなんとか逃げるだけの力があればいいと思っていたし、地上が消えるのであればそのタイミングで魔界にいるか、バーンパレスにいればいいとしか思っていなかった男である。力を出し策を練り戦ってはみたものの、やはりどう考えても勝ち筋が見えない。観客で応援してくれるフレイザードちゃんがいなかったら戦ってすらいない相手が立ち上がってくるのを見ながら、もう賭けに出るしかないなとポップは思った。
「認めようポップ、貴様は強い」
真魔剛竜剣の柄をバランが握った。代々の竜の騎士が受け継いでいる武器、正当な竜の騎士である事の証。ロン・ベルクが百年以上追い求めた究極の武器で、神が作ったといわれる地上最強の剣。正直勘弁して下さいと言いたいが、ポップの予想は最悪の方向に当たる。
落雷が真魔剛竜剣に落ちる。お前それは駄目だろう。クロコダインのおっさんがベホマ掛けてギリギリ死ななかった、それ以前に耐えた者はいなかったとか言ってたくらいだから多分ヴェルザーも耐えられなかった技。
「受けてみろ! 我が最強の剣を! ギガブレイク!!!」
「くそったれ!」
一瞬で間合いを詰めたバランが必殺剣をポップに放った。
そして激しい金属音が会場中に響いた。
「な、なんだとぉ!!?」
バランが驚愕する。ポップはバグモシャスを使った。下手をすれば負け確定の大博打である。そしてここまで激しく魔法力を消耗していたポップの手札が、一か八か、残る手が現状これしかなかったのである。そして賭けに勝った。残り少ない魔法力で変化したのは腕だけだった。しかしその両腕は、黄金聖闘士である魚座のアフロディーテの腕。そしてそれは神話の時代より傷すら付かなかった(正直聖戦の度に傷付いてる気はする)最強の黄金の聖衣を纏いし腕。更にポップ自身の体躯はクロコダインとでも単純な力比べで負けない体躯である。両の腕を交差し黄金の聖衣で一撃を受けながら、その両脚で踏ん張り見事に受けきってみせた。
『そこまでだ』
突如、悪魔の目玉を介し大魔王の声が闘技場に響き渡る。
『両者見事であった。双方剣を納めよ。人間界侵攻を前にどちらかを失う訳にはいかん。後で褒美を取らす』
よく言うぜ。魔王軍なんて遊びの駒程度にしか思ってないくせに、大体俺剣じゃねえよとポップは思ったが、これ以上戦闘が続かなくて助かったというほうがポップにとって大きかった。竜魔人にすらなっていない状態で博打を打って、外部の助けで引き分け。自身の現実を痛感させられた。
「ふっ」
真魔剛竜剣を鞘に納めたバランはポップに手を差し出した。
「我がギガブレイクを良く受け止めた」
「正直まぐれなんだけどな」
「ポップ、貴様の望み聞いてやる。我が友の望みをな」
「そりゃ……助かるぜ」
バランと握手を交わし観客席で声援を送ってくれたフレイザードちゃんに手を振り、フレイザードちゃんの笑顔を見て安心したポップは力尽き、その意識を手放した。
いつもより長くなりました。ごめんなさい。あと戦闘なんて書いてごめんなさい。