タコツボ小隊員・篠ノ之箒!!   作:沙希

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前回までのあらすじ。

箒ちゃん「新学期ウキウキ」

You Die!「縦横すべり台くらいの白いだいふくを離島で見た」

一同「でけぇ!」

作家「それニホンホモクレヒトモドキじゃない?」

You Die!「あとなんかパキケファロサウルスの化石×夕暮れの教室って言ってた」

一同「日本語でおk」




悪の定義

 

 

 

 

「よぉユーダイ、久しぶりだな。それにそっちはなつめが言っていた篠ノ之束の妹か」

 

 西暦2×××年、日本………の都内某所の住宅街。

 学校でホモォを目撃した翌日の放課後、箒改めシキとユーダイはナツメの姉に話を聞きに来ていた。

 

「(ナツメたちの話を聞いて、どういう人なのかと思ってはいたが………濃ゆいな。雰囲気もそうだが、…………化粧が)え、えっと……篠ノ之箒といいます」

 

「ご丁寧に。喜四かずら、だ。そうビビる事はねぇよ。別に政府に売り渡そうだとか、テメェのせいで一家離散しただとか、お前自身に理不尽な難癖をつけるわけじゃねぇからな。まぁ入んな」

 

「お時間とらせてすいません。お邪魔します」

 

「えっと……お邪魔します。」

 

「なんだ畏まって、ガキのくせに」

 

「あのこれ、母さんが渡してっておみやげ。めんたいばな奈夕張の恋人」

 

「あ、私からも。薄紅金萬さなづら荻の月」

 

「博多なのか東京なのか北海道なのか釈然としねーな。で、そっちは青森と秋田と宮城か。ま、いいか。ありがとな」

 

 お土産を渡した後、二人は家に上がり、ナツメの姉かずらの後を追う様に案内されたリビングへと向かった。

 

「座って待ってろ。ジュースでいいか?」

 

『おかまいなく』

 

 そう言って、ソファーに座っているユーダイの隣にシキは座る。

 

「にしても、ユーダイ。今回は随分と面倒な案件に手出したな。篠ノ之束の妹となりゃ、相手は国家、世界を相手にするようなもんだ。なつめから聞いたが、政府に物申しに行くって? お前らガキが手を出せる様なものじゃないんだぞ」

 

「子供だから大人だからって言われて、ホントは助けてほしいのに自分たちに向けられている悪意を無理やり納得して救われる可能性を切り捨てるのが賢明な判断なんて、それは怠慢だよお姉さん」

 

「確かに怠慢だ。でもな、正論を言って「はいそうですか」と納得しねぇ大人だっているんだ。ISというたった一つだけで国家の勢力図を変えるものを作れる唯一の存在の妹を、みすみす道具として使わないと思ってんのか?」

 

「でも、それは大人の都合だよ! シキは泣いてたんだ。苦しんでいたんだ。家族がバラバラになって、いろんなところを転勤する羽目になって、いろんな人たちから嫌われて、監視される生活を送ることになって…………そんなの、大人の都合ばかり押し付けられているシキや伯母さんが一番不幸じゃないか!大人だからとか子供だからとか、そんなの関係ない。事件の当事者でも、ISの製作者でもないシキ本人が辛い思いをしているこの事実を、目を向けてほしいんだ」

 

「…………ユーダイ」

 

 誰もがシキや伯母のことを目にかけようとはしない。

 全部篠ノ之束という一個人のことしか考えていないのだ。

 保護プログラムだとか篠ノ之束の親族だから守らなければとか、体のいい口実だけを並べても、本人達にとって迷惑しかならなかった。

 政府、マスメディアといった者達が家に押し寄せてきて、四六時中生活を監視され続け、挙句の果てには一般人、主に男性からは白い目で見られることもあったし、どう考えても篠ノ之束個人が起こした白騎士事件というマッチポンプのせいだというのに、まるで親の敵ばかりと言わんばかりに責められ続けてきた。

 結局誰が悪いの、この際どうでもいい。

 発端が篠ノ之束しろ、シキたちを蔑ろにする政府やマスメディアにしろ。

 問題はまだ幼いシキが、辛い思いをしてきたということだ。

 

「代替案もないのにどうするつもりなんだよ」

 

「大丈夫。案ならもうとっくに出来てるよ。なかったら大臣に物申しになんて行こうとは思わない」

 

「…………それで、その案とはなんなんだ、ユーダイ?」

 

「簡単だよ、憲法を利用するんだ」

 

「憲法、を?………つまり、どういうことだ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」an explanation not found

 

「おい」

 

 小隊リーダーの癖に説明が下手であることがユーダイの致命的な欠点だった。

 本当に大丈夫なんだろうな、とシキは不安を持つが、すると、かずらが何かを思いついたように身を乗り出してきた。

 

「なるほど、人権蹂躙か」

 

「人権蹂躙?」

 

「国家権力、特に「公権力」を行使する行政主体が憲法の保障する基本的人権を犯すことだ。分かりやすく言うなら顔役、ボス、雇主、マスゴミなどが、弱い立場にある人間の人権を違法に侵犯する行為だよ」

 

「そう、それ! お姉さんの言う人権蹂躙を利用すれば、マスメディアや監視からの負担も減ると思うんだ」

 

「ま、当面の間はな。だが保護プログラムはどうする? 護衛や監視まで取っ払って貰えるほど、篠ノ之束の影響力は小さくねぇぞ」

 

「それも大丈夫。ポーラー小隊のダンやサチが、「ジジィからの許可が出た。いつでも組を動かせる」「おばあちゃんに頼んだから大丈夫」って言ってたし、少し遠出したり町にいる分には護衛や監視はいらなくなるよ」

 

「…………はぁ、ったく。お前らのコネクションはどうなってんだよ」

 

「ま、待ってくれユーダイ! まだ私はどういう状況なのか理解できていないんだ。えっと………………つまり、どういうことなのだ?」

 

「どうにかなるかもしれねぇ、ってことだ。まぁ、あくまで案が通ればの話だが」

 

「大丈夫だよ。『あの』ぐっちゃんやカラスマが「大丈夫だ、問題ない」って言ってたし」

 

「そいつらをどこまで信用しているか知らねぇけど、そのセリフで不安になってきたぞ」

 

 だが、間違いなく現状はマシになるだろう。

 しかし、あくまでそれが『マシ』という程度で、元の暮らしが戻ってくる訳じゃない。

 期間を置いて政府やマスメディアが面会を求めてくるだろうし、周りがシキに突然心変わりしたように優しく接するわけではない。

 ユーダイたちが出来るのは、あくまで一時的な処置なのだ。

 

「………つまり私は、普通の生活を送れるのだな?」

 

「シキの基準がどうなのか分からないけど、今迄より比較的マシな生活は送れると思う。でも、証拠が必要だから当分家に大人たちが押し寄せてくることになるけど、それまで我慢って、シキ!? なんで泣いてるの!?」

 

「………ありがとうっ、ユーダイ。ホントに、ありがとうっ」

 

「でも、まだ案が通ったわけじゃないし」

 

「それでも、ありがとうっ」

 

 結果も大事だが、過程も大事だ。

 どんな結果が訪れるのか不安はあるがシキに、篠ノ之箒にとってユーダイの言葉は何よりも救いだった。

 今まで誰も手を差しのべてくれなかった。

 篠ノ之束の妹だからと、誰も自分の想いを汲取ろうとせず見離されてきた。

 

 

 

 悪は何故生まれると思う?

 誰かが決めたから善ではない。どこかに書いてあるから悪ではない。

 悪というのは、誰かが誰かを見捨てた時に発生する。

 こいつはもうダメだと周囲から諦められ、救う道を目の前で取り上げられたときに。

 大勢から切り離された誰かが悪ということになってしまう。

 歴史を紐解けば分かる事だ。

 例えば。一人を殺した殺人犯と百万人殺した英雄の違いはなんだ?

 本人の問題じゃない。

 その行為そのものが大勢に認められた否か、多数決の違いでしかない。

 

 

 

 故に篠ノ之箒は見捨てられてきた。幼い彼女はそれを対処する手段を知らなかった。

 篠ノ之束の妹だからということで、女尊男卑の原因となった姉の妹だからという理由なだけで『悪』に仕立て上げられてしまった。

 追い詰めて、やがて自分は救われがたい人間だと思う様になるほど追い詰めて、溝に落ちた薄汚い野良犬を『善良なる市民』が一斉に袋叩きにするかのように責め続ける。

 

 

 そんな過酷な生活を送ってきた少女にとってユーダイは光だった。

 事情を顧みず、媚びを売る訳でも無く、ただ純粋に助けたいという想いで「キミのせいじゃない」「キミは悪くない」と言って手を差しのべてくれた。

 ユーダイは、シキにとっての光。もう一度、自分を奮い立たせてくれる光なのだ。

 

「…………ありがとうっ、ユーダイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい泣いたのか分からないが、かずらから渡されたタオルがぐっしょりするほど長い時間、泣いていたようだ。

 

(………私、最近泣いてばかりだな)

 

「シキ、もう大丈夫?」

 

「あぁもう大丈夫だ。かずらさん、タオルありがとうございます。こんなに濡らしちゃって」

 

「気にするな。…………まったく、大人どもはこんな風に泣いてまで苦しんでいるようなガキを甚振るのを許容していたんだよ。大人ってのは、未来ある子供の見本となるべき存在だろうが。悪い意味での見本になってどうする。」

 

 そう言って不機嫌そうに口に咥えていた飴を嚙み砕く。

 ネットの情報でしか知りえないかずらはシキの様子や事情を顧みて大人、主に政府への評価がさらに下がったのは言うまでもない。

 

「まぁ、なんにせよだ。案があるならいいがユーダイ。やるからには責任持ってそいつを守ってやれよ。私は兎も角お前やなつめ達はそいつと同い年で一番近くにいるんだからな」

 

「うん、わかってる」

 

「それと篠ノ之、お前も守られているばかりのつもりでいるなよ。この先、お前が高校に入る頃には他の連中は別の高校行ってバラバラになってる。そん時までとは言わねぇが、ユーダイ達以外でちゃんと自分を理解してくれる仲間を作っていけ」

 

「…………はい」

 

 かずらのアドバイスをシキは素直に聞き入れる。

 かずらの言う通りユーダイ達とは中学まで一緒だろうが、この先、特に高校は一緒だとは限らない。みんな自分の進路があり、シキの都合でそれを捻じ曲げることはできないから、必然的にも自分の力、言葉で、行動で仲間を増やしていくしかない。

 

(口下手な自分にそんな事が出来るのか……いや、そんなのはただの甘えだ。ここまでされているのに、自分の力で出来ることを放棄してしまうのは怠慢だ。そう学んだだろ、私!)

 

 内心自分に喝を入れて、覚悟を決めることにした。

 

「さて、話は重っ苦しい話は終わりだが……………なんか忘れてるな」

 

「………………なんだっけ?」

 

「………………確か、ホモォについて聞きに来たのではなかったのか?」

 

『あっ』

 

 シキの話題で忘れてしまっていたが、本題はホモォの話を思い出す一同だった。

 

 




※小学生と高校生の会話です。
なんかD×D書くよりもこっち書いている方が楽しくなってきた。

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