タコツボ小隊員・篠ノ之箒!!   作:沙希

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前回までのあらすじ。


天災・「IS作ったった」

伯母・「転勤になった」

箒ちゃん・「不幸だ」

You Die!母・「娘として接します(善意100%)」

You Die!・「誰かを助けるのに理由がいるのかい?(善意100%)」

他タコツボ小隊員・「なになにどうした? (野次馬根性100%)」




出会い(下)

 

 絶賛迷子になっている私は公園で泣いていたらユーダイと呼ばれる男を筆頭に他の男女5人に半場囲まれた状態で逃げ場がなくなり、何やら男が他5人に私が迷子であることを説明し始めた。

 こうなれば男を突き飛ばしてでも公園を出るべきだったと後悔した。

 

「迷子ってことは、町外から来たわけだよな。観光、転勤、物見遊山?」

 

「最初と最後だいたい一緒よ、シューヘイ。でも、観光や転勤で越してきても普通知らない町をいくら真昼間とはいえ子供一人で出歩かないでしょうに」

 

「ほら、よくある未知への探求とか。そういうの抱いた時期があっただろ」

 

「あぁ、あったあった。特に洞窟とか森さ、こえぇけど惹かれるよなぁ」

 

「時期って言えるほど年をとってないけどね、私たち」

 

 未だ名前すらも明かしていないのに、若干ふざけ合いながらも冷静に考察し始める。

 私はそれがとても違和感に思い、モヤモヤしていた。

 

「そーれーよーりーもっ! みんなにはこの子の親御さんを一緒に探すのを手伝ってほしいんだ」

 

「普通に交番とかつれて行けばいい話じゃね?」

 

「…………あ、それもそっか」

 

「後先考えねぇのはお前の悪い癖だな、ユーダイ」

 

「いいじゃない、タカシ。別に七不思議が襲ってきたり宇宙人が侵略してきたり校庭に隕石が落ちてきたりしたわけじゃないんだし。迷子なんて軽いもんじゃない」

 

「それに、こうやって無駄話をしている間にこの子の親御さんがきっと心配してると思うよ。最悪、誘拐と勘違いされるかもしれない」

 

「げっ、そうなると面倒だな。ヨッコの言う通りになる前にさっさと見つけねぇと。で、髪の長いお前。乗り掛かった舟だ、親御さん探すの手伝ってやるよ。それで、名前なんていうんだ?」

 

「名前知らないとは言えその呼び方はどうなのよハツミ。とりあえずアナタ、まずは名前を教えて。後は親御さんのケータイ番号か家の電話番号。交番に行けば電話くらい貸してくれるだろうし」

 

「待て待て! 私は別に助けてほしいなんて言っていない! この男といいお前達といい、どうして見ず知らずの私なんかの為にそこまでする! いい加減、迷惑だ!」

 

 訳が分からない。私の意思を無視して勝手に話が進んでいたかと思えば、一緒に探そうという話になっている。

 それにこの落ち着きよう、本当に同じ小学生なのかと疑ってしまう。

 

「あん、せっかく善意で助けてやろうってのに、なんだその言い草は。なら独りでお家に帰ることができるんですか迷子の迷子の小猫ちゃんよぉ?」

 

「やめろヒガサキ。どうやらこの子、訳ありっぽいぞ」

 

「でも町のことも知らない迷子を放っておくのも危ないし、下手に動き回られたら余計に話が拗れるかもしれん」

 

「アナタの事情はどうであれ、一人で帰れない、ましてやこの町に来たばかりなら、意地を張らない方がいいよ?」

 

「いらないと言っている。………いい加減に余計なお世話だと気づけ」

 

「おい、いい加減にここは黙って素直に従ってくれ。このままグダグダと続くと画面向こうの人たちから、「中身のねぇ会話すんな!」「尺稼ぎとは浅ましい屑ね」って貶される羽目になる」

 

 もうやだ帰りたい。助けて伯母さん。

 誰かを彷彿とさせるようなお節介焼きがいるわ、本当に小学生なのかと疑いたくなるくらい冷静で、姉さんとは別の意味で私に分からないようなことを言う5人組。

 イライラする、あぁぁ、イライラするっ!

 これだったら、まだ影で暴言や陰口を言われた方が楽だった。

 白い目で見られる方が、無視しやすかった。

 私がこうも苛立っているのに、此奴らは察しが悪いのか、全然いなくなってくれない。

 もう耐えられないとばかり、胸の奥の何かが爆発した。

 

 

 

「いい加減にしろ! 助けなど必要ないと何度言えば分かるんだ! なんだお前たちは、人の話しを聞かないバカなのか? 私が苛立っているのが分からないほど大馬鹿者なのか? それともなんだお前たちは、こっちが迷惑だと言っているのに困っているからと赤の他人を助けて自己満足する偽善者か? もうそんなのはたくさんだ!! 今迄のことで苛立っているのに、更に苛立たせるなこのバカどもが!」

 

 

 

 思わず、自分でもびっくりするくらい大声で、長文で、罵詈雑言を吐いた。

 完全に拒絶するように、これだけ怒鳴り散らしたのだからきっと無視してくれる。放っておいてくれる、そう思っていた。

 でも、

 

「…………大丈夫? はい、これハンカチ」

 

 お節介焼きの男から、タコと蛸壷が刷られたハンカチを手渡された。

 気づいていたら私は、また泣いていた。

 

「事情は分からないけど、キミがただ迷子だけじゃなくて、深刻な悩みを抱えてるのは分かった。でも、だからこそ見過ごせない。どこにいるのかも分からないどこかで泣いている子ならどうしようもないけど、今ここにいて、泣いているキミを見捨てるなんて出来ないよ」

 

「……どうして、どうして、そんなにお節介ななんだ、お前は………お前と私は―――」

 

「初対面だよ。それに、言ったじゃん。誰かを助けのに、理由がいるのかい?」

 

「……………………」

 

「話せるところまで話していいよ。それが辛いなら、何も話さなくていい。ただ交番まで連れて行ってほしいって言えば、それでいいから」

 

 優しく笑う此奴が、心底呆れてしまいそうになるくらいお人好しだった。

 まるで馬鹿みたいにお節介で、何の得もないのにいじめから守ってくれたアイツにそっくりで、重なってしまう…………思い出してしてしまう。

 また、取り戻したいと願ってしまう。

 元の生活を、あの日々を。

 だから、だから私は―――――――――――

 

 

 

「あぁぁっ、……ぁぁぁあっ…………うぁぁああああああああああっ!」

 

 

 

 ただ自分でも考えられないような大きくて情けない声を上げて、泣いた。

 

 

 

 

 

 

 情けなく泣いた後、私が誰なのか、この町に来たのかを説明した。

 最初、躊躇う思いがあった。

 きっと白い目で見られるかもしれない、人が変わった様に暴言や陰口を言うかもしれない、そんな恐れと不安が沸々と湧き上がった。

 でも、お節介焼きのあの言葉信じてみたくなった私は決心した。

 そして―――――――――――――――

 

「お前の姉ちゃん、バカだろ」

「うん、バカだ」

「稀に良くいる頭の良いバカだ」

「とりあえずバカね」

「控えめに言って……………うん、バカだね」

 

「み、みんな失礼だよ! 確かに、バカと天才は紙一重ってよく言うし」

 

 全員満場一致で出たセリフが、「お前の姉はバカだ」というセリフだった。

 なぜ頭のいい姉さんがバカ呼ばわりされるのか、不思議でならなかった

 

「いいか、よく考えてみろ。白騎士事件なんて起こしてまでISを印象付ける前、普通学会とかで論文発表するはずだ。企業勤めの公務員でもディベートするんだからよ、どう考えても白騎士事件の発端は論文発表が上手くいかず、おまけに周りから年下の小娘の幼稚な妄想と吐き捨てられたことが原因だろ十中八九」

 

「3DSで悪いんだけど、動画見つけたぜ。見ろ、この滅茶苦茶で下手っクソなディスカッション能力。コミュ障拗らせた中学生そのものじゃねぇか」

 

「なにこのへんちくりんで人を見下したような喋り方、痛々しくて見てられないわ。キャラづくりでもあれはないわ。うん、ない」

 

「しっかし、ほんと見てて痛々しいな。『この天災束さんが作った~』以降から嫌な予感はしてたんだが…………中二の後半か中三の初期か分からねぇけど年齢的に仕方ねぇわな。メーコなら「誰でも通る道よォ」とか言いうだろうけど、うん。ねぇわ」

 

「それに問題は国だよね。保護プログラムとは言うけど、毎日家に大人の人が押し寄せてくるんだもん。全然保護できてない。身体に危害が及ばないからって、精神的に追い詰められているのに」

 

「特にマスコミだよ。報道する自由はあっても、いくらなんでもあれはないよ! 篠ノ之さんたちにだって、人権とかあるのに」

 

「たくっ、白騎士事件以前に論文発表の時に現物持ってきてデモンストレーションすりゃよかったのに、あれじゃあ篠ノ之の姉ちゃんだけじゃなくて、家族に良い印象を持たれなくなるのが分からなかったのかよって、おい篠ノ之。呆然としてるけど大丈夫か?」

 

 思わず困惑してしまった。

 私が篠ノ之束の妹であることを明かしたにも関わらず、この6人は今までの人たちとも、今迄出会った小学生たちとの反応が違い過ぎている。

 みんな私に指を指して陰口や暴言を言って来るのに、姉さんとの繋がりを得ようと媚びを売ってくる訳でもなかった。

 

「ど、どうにも思わないのか? 私は、あの姉の妹なんだぞ? 他の大人や、私やお前達と同じ小学生や、いろんな人たちから―――――――」

 

「媚び売ってコネクション作ってISを手に入れようとか、他の奴らみたいに後ろ指を指して陰口言わないのか、そう思った? 別にどうでもいいわよ、そんなの」

 

「親がISやアナタ個人に殺されたとかそういうわけじゃないしね」

 

「まぁ、確かにISってどんなものなのか間近で見たり体験したりしたいけどさ、空を飛ぶにしても空の上でバトるってのも、宇宙人侵略で経験済み」

 

「むしろこっちに火種が飛ばないか若干心配」

 

「そん時は全小隊かき集めて大合戦だな!」

 

 真剣に、淡々に、達観的に、心配そうに、興奮気味にそう述べられた。

 違う。なんか、違う。もっとこう、考えていた反応とは斜め上どころか真上に投げたボールが途中でベクトル変換して斜め上に跳んで行くくらい違う。

 

「そういえば篠ノさんって、どこの学校に通うの?」

 

「う、梅の木川小学校という所だ………今年から4年生のクラスに」

 

「嘘、同い年だった!? 綺麗だし、雰囲気が少し大人っぽかったから5~6年生かと思った」

 

「俺たちと同じ学年かぁ。……一緒のクラスになれるといいねっ」

 

「~~~~~~っ………うん」

 

「でも、どうするユーダイ。迷子ならまだ良かったけど、これは流石に予想外」

 

「悪霊や宇宙人、キチガイ教師とはわけが違うからな」

 

「乗り掛かった舟とは言ったものの、相手は世界だぜ? リヴァイアサン相手に小船の上に立って素手で挑むようなもんだぞ」

 

「とりあえずムカイギやシンイチ、カシザワにぐっちゃん達に要相談するよ」

 

「むしろ小隊員全員で要相談でしょ」

 

「また大臣に会わなきゃならないって、シンイチとムカイギの二人が嘆くだろうな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 大臣って……まさかと思うが、お前たちは『せいふ』というところにいる人に苦情を言うつもりなのか!?」

 

 思わず聞き逃してしまいそうなとんでもないセリフに驚くしかなかった。

 すると6人は、何言ってんの当然でしょ?と声を揃えて応える。

 

「子供の不満なんか聞いちゃくれねぇかもしれねぇけどな、全員が全員、篠ノ之を切り捨てようとする奴らばかりじゃないかもしれない」

 

「何もせず救える可能性を捨てて、「あぁもうダメだ」って諦めたらダメだよ」

 

「諦めたら、そこで試合終了ですよ?」

 

「安西先生乙」

 

「規模は違うけど、前に公園のことで大臣の人に署名を届けて、聞き入れてもらえたことがあるから可能性は決して0じゃないから安心していいよ」

 

「そ、そうなの、か?」

 

 6人の言葉はとても信じられない事ばかりだった。

 でも、そこに嘘がないことは目を見ればわかる。

 よく見れば、彼らの目は幾多の苦難を乗り越えてきた歴戦の戦士の様な目をしている。

 もしかしたら…………もしかしたら、本当に。

 

「お前たちは…………いったいなんなんだ? それに、リーダーや小隊とか」

 

「俺は棚花周平。みんなからはシューヘイって呼ばれてる。美術工作が趣味だ」

 

「俺は葦田貴志。普通にタカシって呼んでいいよ。趣味はエレキとアコースティックギター」

 

「あたしは未来の作家・喜四なつめよ。よろしくね」

 

「私は日々崎初美!喧嘩のことなら任せとけ!」

 

「改めて、はじめましてかな。私は入江理与子といいます。えっと、一応除霊が得意かな。それで、そこにいる私たちの小隊リーダー」

 

「佐咲雄大だよ。よろしくね、篠ノ之さん! そして――――――――」

 

 

 

『俺 / 私 / アタシたち、タコツボ小隊!』

 

 

 

 本当に、元の生活が返ってくるのかもしれない。

 そんな淡い希望を抱く。

 

 

 そして今日この日、私はタコツボ小隊の一員となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談・『あだ名付けの儀』

 

 

「そういや篠ノ之のことなんて呼ぶ?」

 

「しのちゃん、ののちゃん、しののんとか?」

 

「な、なんだその気の抜けるような呼び名は」

 

「あれ、ダメだった?」

 

「箒よりも大概マシだと思ったんだけどなぁ」

 

「なぜ私の名前よりもマシだと思った」

 

「いやだって、箒ってあれだろ、掃除道具。子供に名付けるにしたって可哀想だろ」

 

「箒は掃除道具の意味もあるけど、民間信仰では『魂をかき集める』意味や『邪を払う』って意味があるからきっと篠ノ之さんのご両親はそういった意味合いで付けたんだと思うよ」

 

「そ、そういう意味だったのか!?」

 

「でも普通、そんな意味なんて大概の人は知らないだろ。名付けられた本人でさえ、名前でイジメられていたんじゃねぇかってくらい驚くほど気づいてなかったみたいだし」

 

「じゃあリーダー! ここはキミに決めた!」

 

「俺、ポケモンか何かなの!? でも、篠ノ之さん的にはあだ名とか迷惑じゃ」

 

「い、いや、迷惑ではないっ。…………ユーダイが呼びたければ、迷惑じゃ、ない」

 

『あっ(察し)』

 

「そお? う~~~ん、じゃあ……………しののの ほうきの最初と最後を取って、シキってのはどうかな?」

 

「なんか『死の線』とかが見えてそうな主人公の名前だな………」

 

「生きているなら神様だって殺せそう(小並感)」

 

「本人が剣道やってるし、わりかし行けそうと思えるのは何故だろう」

 

「それでどうかな、篠ノ之さん。シキって、よんでいい?」

 

「う、うむっ、勿論いいぞ!」

 

 こうして、篠ノ之箒は小隊内で『シキ』と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 

余談その2・『隊員たちにとっての衝撃の事実』

 

「忘れる所だったけどさ、シキが迷子ってこと、忘れてない?」

 

『あっ』

 

「いや、なんで迷子本人のシキが忘れてるのよ。とりあえず、交番に行きましょ。きっと親御さんも心配しているだろうし、というか早くしないとヤバイかも」

 

「そ、そうだね。えっとね、シキ。親御さんの電話番号は分かる? もしくはケータイの番号とか」

 

「すまない。引っ越してきたばかりで電話番号は覚えていないし、私も伯母もケータイを持たないんだ」

 

「おい、それってかなり拙くねぇか。それだと町ん中を駆け巡らなきゃならなくなるし、最悪夕刻を越えても帰れなくなるぞ」

 

「ちょっ、こっちは門限があるってのにそれはないだろっ!」

 

「かといって警察に預けるのも、まだ不安が残るし万が一」

 

「………迷惑をかけてすまない。私が分かっているのは、ユーダイと同じ佐咲という苗字だけなんだ。本当に申し訳ない」

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

「なんだ、みんなして黙って。どうかしたのか?」

 

「ねぇ、シキ。その佐咲って人の家主って、広恵って人だったりしない」

 

「あ、あぁ、確かそんな名前だった。伯母の友人らしくて、厚意で居候させてもらうことになったんだ。なぜお前達が知っているんだ?」

 

『それユーダイのお母さんだから!』

 

「母さんが言ってた居候って、シキのことだったの!?」

 

「なんだと!?」

 

 あまりの偶然に、シキを含めタコツボ小隊全員があまりの真実に衝撃したのだった。

 

 




祝・箒ちゃんの小隊員とあだ名が確定。
ついでに、プロローグもこれにて終了します。
後は森のホモォの話やちょくちょく町内会報の話を混ぜようと思います。

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