タコツボ小隊員・篠ノ之箒!!   作:沙希

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前回までのあらすじ。

霊媒師「霊を倒しに行こう」

作家「決着!」

漢女「勝った!第三部完!」

箒ちゃん「ちっ、肩が外れたが、填めればなんとかなる」

ボンバヘッ!!「お前逞しすぎだろ」

作家・漢女「って、ホモォまで居やがった!?」




オカルティック・ナイト 終 其弍

 

 

 ナツメに促されて、ムカイギの部屋で待機することになった私たち。

 ハツミだけは残されたが、いったいムカイギ兄の部屋に何が居たのか。

 

「ヨッコはどう思う?」

 

「うーん……確実に大元に憑いてた霊は祓ったと思うけど、もしかすると」

 

「ホモォ……か」

 

 だとすれば、私がいても良かったと思うが。

 純粋な者にホモォの妄想は害だからと言われたが、つまりそう言う事なのだろう。。

 かずらさんから一通り話を聞いて理解しただけではダメということか。

 そんな事を思っていると、ムカイギが氷嚢と包帯を手にして戻ってきた。

 

「氷嚢と包帯、持ってきた」

 

「感謝するムカイギ。それにしても、よく氷嚢など持っていたな」

 

「兄貴がバスケしてるから、よく突き指とか捻挫とかするんだよ。とりあえず、氷嚢は使い終わったら何時でも返しに来ていいから」

 

「そうか。何から何まで感謝する」

 

「いいって別に。身体張ってまで除霊しに来てくれたんだ、むしろこんなんじゃ足りないくらいだよ………俺、何も出来なかったし」

 

 そう言うムカイギの表情には陰りがあった。

 男として何も出来なかった自分を責めているようだが………私はそんなムカイギを責めるつもりも嘲るつもりはない。

 この町に来て、私は人には向き不向きがあることを知ったから。

 

「そう気に病むな。もし私の言葉で気が収まらないなら、今度は私の案件のことで手伝ってくれたらそれでいい。私は口下手だから、特に細かいことや難しい事は説明しづらい」

 

「おう、任せとけ。ザウルスリーダーとして責任もってやらせてもらうよ」

 

「うむ。さて……さっきから肩が痛むな、ヨッコ手伝ってくれ」

 

「って、ちょっ!?俺が見てる前で脱ごうとするな!」

 

「そうだよシキちゃん。いくら小学生と言えど、女の子なんだから」

 

「すまん、つい。ではムカイギ、後ろを向いていてくれ」

 

「お、おう(……ついって、俺、男として認識されていないんだろうか)」

 

 脱臼した肩をはめ直しても、未だ痛みが引いていないので上手く服が脱げないためヨッコに脱ぐのを手伝ってもらう。服を脱いで下着姿になった自分の肩を見れば、もう片方の肩と比べてほんのり赤くなっている。

 ムカイギが用意してくれた氷嚢を赤くなった肩に押し当て、ヨッコに包帯で固定してもらい、脱いだ服を再び着直してムカイギに終わったと伝える。

 

「にしても、上で何やってるんだか、あの二人は」

 

「それについて、シキちゃんと二人でホモォが出たんじゃないかって話してたんだ」

 

「マジか。幽霊とホモォのダブルブッキングとか笑えない冗談はやめてくれよ」

 

「あくまで憶測にすぎない。だが……ナツメがハツミだけを残していったあたり、どうも憶測ではないような気がする」

 

「兄貴、大丈夫かな」

 

「………気になるなら、私が見てくるとしよう」

 

「でもシキちゃん。肩を痛めてるし、もし襲われたりしたりしたら………それにそんな状態じゃ、竹刀持てないだろうし」

 

「なに、心配するな。篠ノ之流には無手の型もあるから、どうにかなる。では、行ってくる。ムカイギを頼むぞヨッコ!」

 

「あ、ちょっ!」

「シキちゃん!」

 

 静止を無視し、私は竹刀を手にムカイギの部屋を出て急いで二階へと向かう。

 きっとあのままでは、絶対に二人は私を行かせようとはしなかっただろう。

 霊もいないし、万一ホモォが現れてもヨッコなら何とかするはずだ。

 

 

 

 

 

 

 四月某日、喜四宅にて。

 第一回かずらの甘ェもんクッキング♀ ―お菓子編―

 

「いいか、なつめ。お前には『対ホモォ』の戦闘法を教えとくぞ」

 

 二人でクッキーの下地を作っている最中、姉のかずらがそんな事を言い出した。

 

「あれ、いいの?」

 

「教えるつもりなかったんだが…………ユーダイが会っちまってるからな。万が一が起こりかねねぇ。つってもまぁ、基本お前らお得意の物理攻撃が効くんだが」

 

「お得意じゃないわよ、ハツミとシキだけよ!」

 

「なんだ、篠ノ之もか。まぁいいや。流石にそれは最終手段。それより重要なのはやっぱり精神攻撃だ」

 

「嫌な響きよね、『精神攻撃』。こないだそれで追っ払ったけど、あれ、こっちがイジメてる図になるわよ。あれは全面的に私が悪かったけども」

 

「しゃーねぇだろ。あっちもしてくるんだ、お相子だお相子。アイツらの原動力はアイツらが何かに『ときめいた時の感情』なんだ…………なんか自分で言っててウソくせーなコレ」

 

「まぁ、創作物じゃありがちよね…………『感情がエネルギー』。いいじゃない別に夢があって。営業野郎はお断りだけど」

 

「僕と契約して魔法少女になってよ。ハハッ☆(裏声)」

 

「うわこの人知ってた。………ていうか、お姉ちゃんの声真似のバリエーションがミ〇キーしかないわね……………あと、著作権云々でこの小説を細切れにしてやらなくちゃならなくなるからこれっきりにしてね」

 

「とにかく、エネルギーがときめきならときめかせなきゃいいんだ。要は、暴走したホモォは萎えさせりゃいい。そいつが『地雷』とするジャンルの何がしかをぶつけてやればホモォは消滅する」

 

「………何それ、マジ気?」

 

「そういうケースが多数報告されてる」

 

「ソースは?」

 

「2ちゃんねる」

 

「信憑性薄ぅ……」

 

 半信半疑の目で、クッキングシートにクッキーの下地を垂らすかずらを見つめる。

 ネットの情報の大半はウソなので、あまりに信じられなかったのだが、ちゃんとかずらは裏を取っている。

 

「バカヤロ。私が裏も取らずにネットの情報ばら撒く奴だと思うか。こないだ部活帰りの同級生が襲われた時に実践済みだ」

 

「高校生も被害に遭うのね」

 

「徹底的にホモォ避けされてんのは小・中学校くらいで、高校大学は最低限しか設備設置されてねぇからな……むしろネタ的には一番狙われやすい年代じゃね?青春真っ盛りだし」

 

「そーよ。ホモォ避けってどうやっての?」

 

「屋上とかに設置してある特殊な電波出してんだと。ホモォが嫌がるやつな」

 

「いよいよ害獣扱い………あ、ていうか先生が言ってた機械のチェックってそのことか」

 

「………………」

 

「……………消滅する?」

 

「まぁそこひっかかるわな。そうだ『消滅する』。実際死んでんのかどうかは分からねぇがその場から消え失せるんだ」

 

「跡形もなく?」

 

「そう、跡形もなく。妙だよな………実体があるし、触れるのにきれいさっぱり消えちまう。生物扱いされちゃいるが捕まえてもすぐ消え失せるんで研究しようがねぇらしい」

 

「消える時点で生物じゃなくない?」

 

「まぁな………ただ、生物じゃないとすると何なんだよって話になってくる。集団幻覚?あるいはヒステリー?だけど物理的にも影響がある以上、現実的な考えじゃねぇな。カメラとかフィルム、デジタル問わずに記録媒体にもがっつり写るし。学者や研究者が今分類頑張ってるらしいが、ネットじゃもう妖怪でいいんじゃねって思考停止の段階だ」

 

 クッキーの下地を乗せたクッキングペーパーを天板に乗せ、電子レンジの中に勢いよくぶち込んでそう言った。

 では、ホモォとはなんだろうか。

 シキの姉、篠ノ之束が作ったISが女性にしか扱えない、そしてコアの中がブラックボックスであることと同じくらい謎に包まれている。

 

「霊感ないやつでも見えてるし、白昼堂々街中に出てきてるから妖怪ってのもどうなんだろうな。ホモォについての最古の文字記録は妖怪扱いだったけど………まぁ、UMA扱いでいいんじゃねぇか」

 

「UMAも結構思考停止よ?」

 

「対策見つかってるなら思考停止で構わねぇよ。ともかくいいか、相手の地雷を見極めてそれをぶつける。………だからホントに奥の手だぞ、なつめ。できれば周りに誰もいない状態でやれよ?お前んとこ純粋なの多いだろ。ユーダイだのヨッコちゃんだの、篠ノ之だの、男子は言わずもがな」

 

「んーむ、てことは協力を仰ぐとしたらハツミかぁ…………あの子、恋愛に関しては全面的に無関心だからR指定以外なら多分ダメージないわね」

 

「まぁ、頼るならそいつだろうな」

 

『心底どうでもいい!!』と、両手の親指を立てて満面の笑顔で言うだろう。

 チュドーンッ!!と、クッキーを乗せた天板をぶち込んだ電子レンジが爆発する。

 

「地雷つまり…………受け付けないジャンル。相手が大嫌いだと思うようなものをぶつける、か……………」

 

「そーだな。ただ注意点がよく見極めないで逆にときめいちまうものをぶつけちまった日にはそれは『燃料』になるかんな。火に油で大惨事必至」

 

「うわぉ」

 

「だから倒さざるをえなくなった場合はキッチリやれよ………手遅れになる前にお前が皆を守ってやれ」

 

「分かってるわ」

 

 かずらの言いつけに、ナツメは当然の如く頷く。

 

 

 

 同時にこれにて、ウルトラ上手に焼き上がったかずらの家電破壊クッキー ―完成―

 

 

 

 

 

 

 

 

(大事なのは見極めること。あいつはどうしてお兄さんに………?)

 

 そんな、家電破壊クッキーを作った先月の事を思い返し状況を打破するべく慎重に考える。

 

「ナッちゃんナッちゃん、どうする。どうしたらいい。てかあれはホモォだよな?さっき倒した霊みてぇに相当妙なことになってるけど」

 

「うんたぶん自信ないけどあれはホモォよ。幽霊でたまるか。一応奥の手があるんだけど情報が少ないの。時間稼いで頂戴」

 

「時間稼ぎ、な………OK。だけどナッちゃん一ついいか?」

 

「なに、どうしたの?」

 

「ああ。時間を稼ぐのはいいが――別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

  ズギャッ(フラグが建った音)

 

「フラグ定型文!!!」

 

 なんでこんな状況で負けフラグを建てたのか額に手を当てて天を仰ぐナツメ。

 しかし、フラグを建てたハツミだが、さっきまでと様子が変わった。

 

(それよりも、こっちはこっちで判断しないと。フラグ、折らなきゃ………)

 

「……フ―――…………離れろ、てめぇっ!!」

 

《…………!!》

 

 ハツミはムカデの様なホモォに向かって飛び蹴りを放った。

 しかし危機を察知したのか、ホモォはハツミの蹴りを回避し、そのまま壁に直撃する。

 ホモォはそのままハツミとムカイギ兄から距離を取る様に壁をはいずり回る。

 

「センパイ、大丈夫ッスか!センパイ!!」

 

 中腰になって安否を確認するが、ムカイギ兄の息は未だ荒く、顔色も悪い。

 どうやら相当長い間、妄想を吹き込まれたらしい。

 そう判断したヒガサキの顔つきが更に変わる。

 

《………………》

 

「…………センパイはなぁ、休み時間紛れ込んできた下級生のクソガキにも対等に接してくれるいい人なんだよ。こっちを馬鹿にしねーで真剣勝負してくれた上級生なんか、先輩くらいしかいなかったんだ…………」

 

 ゆっくりと立ち上がり、ホモォを睨み付ける。

 それも小学生とは思えない殺気と鬼気迫るもの感じさせる表情で。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッと、彼女の周りにそんな擬音が浮かび上がる程に。

 

「そのセンパイに手ェ出しやがって。()の恩人に危害加える奴は、誰であろうと何だろうと許さねぇ!テメェっ、センパイに何しやがった……!!」

 

(ハツミが敵前で語り始めた!…………あの子なりの時間稼ぎか。でも、「俺」って言っちゃった。結構頭に血が上ってるんだわ)

 

《…………ホモォ………》

 

「!?」

 

 ホモォが言葉を発し、何やら微動したその時だった。

 壁と接した手を勢いよく弾き、ハツミの懐まで飛んできた。

 

「ごぅっ!?」

 

 唐突だったことと、あまりの速度に反応できずモロに穿つように突っ込んできたホモォの頭部(?)がハツミの身体を押し飛ばした。

 押し飛ばされたハツミの身体は、勢いよく壁際に叩きつけられる。

 

「かっはぁ!?本日2度目の背中―――――痛ェェエッ!?」

 

「ちょ、ウソでしょやめて!死んじゃう!」

 

 身体だけでなく、今度は頭まで叩きつけてきた。

 加えて、頭をルロイ修道士よろしくと言わんばかりの万力パワーで締め付け始めたのだ。

 あのままじゃハツミの頭が潰れると危惧したナツメが近づこうとしたのだが。

 

「ま、待てナッちゃん………コイツなんか言ってる!!」

 

《―――――――――――――》

 

「………あ?しょたぜめ?後輩×先輩?なに言ってんだコイツ!部活帰りしちゅ………いや知るかよ、何でそれを今………いででででっ!?潰れる!潰れちまうぅぅうううう!!」

 

「は、ハツミ、とりあえず逃げて!」

 

 

 

「すぐに助けるぞ、ハツミ!!」

 

 

 

 半分ほど訳の分からない事を囁かれ、挙句万力の様に頭を締め付けてくるため肉体的にも精神的にも不味い状況に追い込まれているハツミの耳に、知っている声が響く。

 その声の主はホモォの眼下に接近し、ホモォの胴体に打撃を放つ。

 

「篠ノ之流零の型一式―――――『撫子』!!」

 

《――――ゲホォォ!?》

 

「げはっ、た、助かったぁ!――――――サンキューな、シキ!」

 

「仲間の窮地だ、当然のこと」

 

 ホモォを吹き飛ばした人物、同じタコツボ小隊員のシキだった。

 正直ハツミはシキの登場に感謝しきれない。何せ頭をザクロの様にされかかっていたのだから。

 篠ノ之流零の型一式『撫子』、通称・鎧通しにより吹き飛ばされたホモォはムカデの様にニョロニョロと素早く二人から距離を取りはじめる。

 倒すつもりで放ったが、やはりあれほどの大きさのホモォにそれほどダメージは与えられなかったと見える。

 

「やはり父の様にいかないなか」

 

「なに、引き剥がしてくれただけで十分だよ。さぁて、ナッちゃんが奥の手を出すまでの時間稼ぎだ。シキ、肩痛めてるし外野に居てもいいんだぜ?」

 

「冗談。片腕でも十分やれる」

 

 ホントは強がりだ。安静にしなきゃいけないのに、激しく動いたせいでアイシングしていても肩から腕にかけて痛みが走り出す。

 

《武士ッ子美少年……先輩→美少年←後輩………3P………昂る……昂ルゾォォオ!》

 

(!!?)

 

「ハツミ。このホモォは、何を勘違いしているのだ。あと、3Pとはなんだ?」

 

「いや、まぁそうだな…………」

 

(いやいやいやいやちょっと待って。わかる……分かるわよ、今のが恐らくあのホモォの反応するジャンル!あいつの好み!でも、え?なんでハツミとシキに向かって言ってんの?)

 

 ホモォの発言にナツメは思わず驚き、困惑する。

 確かにハツミの言動を鑑みれば、『そう』捉えられてもおかしくなくもない。

 それに、シキも今はハツミの様に『髪を下ろして』状態。

 きっとシキも『そう』勘違いされたのかもしれない。

 そんな中、気を失っていたムカイギ兄の意識が戻り、身体を起こす。

 

「………うくっ………」

 

「やっべ、センパイ逃げろ!」

 

《!!》

 

「な………これ………どうなって………ヒガサキさんと、隣にいる女の子は、誰……あと、そいつは……」

 

「説明は後です!早く部屋から出ていてください――――――――」

 

《……ハ、ハツミ……ヒガサキサン………女ノ子…………!?》

 

『!?』

 

《女ァァッ!!汚ラワシイ雌豚共ガァァアアアアアアア!!向日木君に近寄ルンジャネェエエエエエエエエエエエエ!!!》

 

(わ、わかった、コイツの『地雷』!…………え、ていうかマジ!?マジでコイツ、ハツミとシキを男子だと勘違いしてたの!?ハツミは分かるとして、シキはどう見ても将来美人間違いなしなのに………ミラクル!むしろハツミがミラクル!って、いやいや今はそれより地雷は分かったけど、素材が足りない。ええい、迷っている暇は無いわ、一か八か!)

 

 ムカイギ兄に避難を促そうとしていた時、何やらホモォの様子がおかしくなったかと思えばシキとハツミを交互に見つめながら、ガタガタと震えながら、まるでこっちが悪者であると言わんばかりにムカイギ兄を背に吼える。

 そしてその様子に、ハツミは答えに辿り着き、一か八か思いついた策を決行する。

 

「ハツミィ!シキィ!」

 

「んぁ、ナッちゃん?」

「どうした、ナツメ?」

 

 予測不可能であるため、ホモォの動向を窺っていた二人が急に呼ばれたて振り向く。

 いま目を離せない状況なのだが、時間稼ぎであることを思い出し、もしかすると何か策が出たのかと思って、条件反射で視線をナツメに向けてしまった。

 

 

 

「ハツミっ……シキッ!こ、こんな時になんだけど………っ、あたし本当は、二人のことが………す……すきなの……っ!」

 

 

 

『!?』

「ふぁ!?」

《オエッ……カハッ……!?》

 

 

 

 あ………ありのまま今起こったことを(ry

 うなされて目が覚めたら弟の友達の女の子と知らない女の子(自分)が化け物に襲われてて、もう一人の女の子が襲われてる二人に愛の告白をかました。

 そんなポルナレフ状態に陥った、ムカイギとシキだった。

 

「………ヒ、ヒガサキさん?だ、大丈夫?」

 

「………ナッちゃん」

 

 ムカイギ兄の応答に、ハツミの耳には届いておらずわなわなと身体が震えていた。

 そして――――――――――

 

 

 

「光栄だわ。貴方の方から言ってもらえるなんて………」

 

「誰だお前!?」

 

「!?」

 

《イヤ………ナ、ナイ………ムリムリ………》

 

 

 

 ナツメの顔つきがりぼんの表紙かと思いきや、ハツミの顔つきが突如ベルばらに変貌したためシキは思わずツッコミを入れた。

 ムカイギ兄なんてハツミのまさかの返しに固まっている。

 しかし、ホモォには何やら効果絶大なようで、終わらなかった。

 

「シキ、ヒガサキ、キシ!すげー音がしたけど大丈夫か!?」

 

「3人とも、何があったの!?」

 

 

 

「ハツミっ、シキっ、あ……あたし……ごめん、どうしても………二人のことが好きで………我慢できなくて………。でも、二人のどちらかを選ぶなんて出来ない!」

 

「ま、待てナツメ、落ち着け。calm downだ、calm downして落ち着いて考えるのだ!私やハツミ、そしてお前も女だ!」

 

「でも……ダメなのっ、日を追うごとに二人の背中を視線で追いかけてしまう……お願い、私だけを見て!お兄さんじゃなくて、私をっ!二人の視線を、私だけに向けてほしいの!」

 

「あぁナッちゃん、そんな事を気にしていたの?可愛い人………ほら、泣くのはやめて?私も彼女も、いつでもあなたのものよ。そうでしょ、シキ?」

 

「いや、私は別に「シキは………私のこと、嫌いなの?」うぐっ、嫌いとは言っていない!ただ、私たちは女で、女同士こんなの……普通じゃない」

 

「そんなことないわ。愛に性別は関係ない。お互いを想い合ってこそ成立する。そうでしょ?」

 

 

 

『!?』

 

 騒ぎを聞きつけ、心配してやってきたヨッコとムカイギが襖を開けると、そこには百合の花畑の空間が広がっていた。

 作画が統一されていない少女漫画の顔で未だ愛を拒むシキに二人が詰め寄っている光景に、ヨッコもムカイギも理解が追いつかない。

 

《ウゥ………マジ、アリエン…………女同士………シカモ、3Pトカ………ナイワァ…………ナエ…………ルワ》

 

 地雷だったか、そんな光景を目の当たりにされ吐血し始めるムカデ型ホモォはそんなこと言いながら巨大な身体が勢いよく倒れる。

 すると徐々に体が小さくなり元のサイズに戻ったのかと思えば、消滅するかのように跡形もなく消え去った。

 そして再び静寂が広がり、未だ誰もが無言のままだ。

 ホモォが消えたことを確認したナツメトハツミの二人の顔つきが元に戻る。

 

「………ぷはぁ、つっかれたぁ。表情筋が痛い………あれが女の子同士も受け付けなくて良かった。ハツミ、よく覚えてたわね。奥の手に協力してって頼んだこと。」

 

「いや、忘れてたけどナッちゃんがガチ演技モード入ったからな。ノらなきゃダメな気がして。とりあえず便乗してから協力の件思い出したよ。あービビった」

 

「な、なんだ、演技だった、のか………脅かすな、二人とも」

 

「ごめんごめん。でも、シキのアドリブ、良かったわよ。ああいう素の表情と天然の反応が一番いいのよね」

 

「あまり褒められた気はしないのだが…………」

 

「さて、とっとと誤解説いて退散しましょ。ヨッコまでショック受けちゃって………ほら、固まってないで!今の全部嘘だから!もー、だから下にいろって言ったのに」

 

「おーいセンパイ、大丈夫っすか。しかし、幼稚園時代からごっこ遊びで磨いた演技力がこんなところで役立つとは」

 

 その後、固まっていた一度を正気に戻し、誤解を解いた後すぐに大元を見つけて両親が起きない様にひっそりと急いでムカイギの家を出ていったシキたち。

 ―――かくして、長い夜は明け、ムカイギ家を襲ってきた二つの事件は色々面倒と疑問を残しつつ、その幕を下ろすのであった。

 

 

 


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