「前回までのあらすじ………」
「キモいのが出てきた。以上」
「キモいじゃすまないわよ!ヤバいやつじゃないのよ!」
「ナッちゃん落ち着いて」
「キシ、あの、俺の布団………」
思いのほか、ヤバい霊と遭遇したため約一名大泣きしながらも撤退することに。
なんとかムカイギの部屋に辿り着き、今に至るのである。
「なぁイリエさん。………あいつ二階に行ったけど」
「うん……たぶん、お兄さんの部屋………危険だから、二人とも待っててほしいのはやまやまなんだけど…………」
「いいいいいいいいいいいいいわよ、る、留守番くらい出来るわ気にしないで行ってきていいからやめて置いて行かないで確実に死ぬっ」
「うん、ここに二人だけ残していくのも悪手なんだよね(……心の声と混ざってる)」
「しかしどうなる事かと思ってたけど、アイツ完全にこっちシカトしやがったな。結果助かったが…………見た目ヤバイだけの徘徊型かもしれねぇ」
「つまり、無害ということなのか、ハツミ?」
「いや、無害というわけではないだろうな。出会いがしらに攻撃してこない分だけ他の雑魚共よりはマシだってわけで、いるだけでもマズいヤツだ。不意打ちを警戒せずにすむから、私は楽なんだけどな…………」
「あれレベルで、たとえば見境なく暴れるタイプだったらもう私でも無理。でも、それならムカイギくんたちもとっくに…………だから今すぐどうこうはないはずだよ」
「ただなぁ。居座りや徘徊は取っ払い難しい。こっちから攻撃したとき、どう出てくるか」
「そうだね………ナッちゃんもムカイギくんもいるからなぁ。『大元』さえ見つけちゃえばいいんだけど…………」
「だがあれを相手にするのに、ここで『大元』を探すために戦力を分散するのは得策じゃないだろうな…………」
(どんだけ場数踏んでりゃ、ああなるんだよ。………それに隊に入って間もないシキなんて、馴染み過ぎだろ)
「あーもう、暫く夢に出るわっ、トラウマ決定!」
ヨッコ、ハツミ、シキの3人が作戦を立てている中、何も出来ないムカイギと布団に丸まって震えているナツメは実質戦力外通知を出された様なものだった。
「災難だな、キシ。あれは俺も怖かった」
「ほんとよ………お兄さんには悪いけど、ホモォのがマシだわ。ていうか、あんたも当事者!」
「そーだな………」
「ムカイギ、心当たりとかないわけ?」
「え、何の?」
「あんだけヤバいのがなんで私と同じ零感のあんたんちにいんのよ。家族全員零感でしょ。普通自然に居つくわけないわ。最近心霊スポット行ったとかない?妙なモノ持って帰ってきたとか………」
「……………いや、特になにも………いつも通りだったけど、兄貴もホモォ事件以外はいつも道理だったはずだぜ。旅行も行ってないし」
「いつも通り、ねぇ…………じゃあ何が原因?」
「うーん………」
「めんどくせぇ!考察なんざ後だ、後!行ってみりゃ分かるんだしよ!」
「米俵の米粒一つや二つ程度の情報だけではどうしようもない。兎も角、二階に行かなくては分からないな………」
そう締めくくり、各自隊列を組み直す。
前衛に脳筋特攻のハツミと万能型剣士(仮)のシキ、後衛には超絶霊感のヨッコと唯一良心のムカイギ、安定援護のナツメの隊列で構成される。
「いいか、先発私とシキ。その後ろにムカイギ、正気を保つだけのお仕事です。ナッちゃんは二丁消臭でムカイギ援護のみでオッケー。ヨッコはムカイギとナッちゃん専守でトドメまで動かなくて大丈夫」
「お前、そんな強いの?あと、何その黒手袋」
「気分。いや、私も素じゃ零感だから……精々HP削って弱らせるのが関の山。故に特攻厨」
「じゃあ、シキは………」
「霊感は持っているが、武器がこれでは精々雑魚の除霊程度だ。まぁ、武器を変えたところであのレベルの霊に太刀打ちできるか、謎だがな………」
「え、でも剣術とか出来るし……」
「こう言ってはなんだが、私は篠ノ之流を全てマスターしているわけではない。未だ四つある型の内、一の型さえ完璧に出来ないからな。ムカイギの霊を祓うとき使った『迦楼羅』も、あくまで見様見真似で覚えた粗雑な剣技だ」
「その、迦楼羅ってなんだ? Fate?」
「Fateが何なのか知らないが、そうだな………例えるなら瞬天殺、いや、天翔龍閃?」
「二番目の技で最終奥義クラス!?」
「それ比喩とか暗喩とかじゃないよね?」
「いや、私の例えはあくまれ父だったら、ということだ。他の人が篠ノ之流を使ったところを見たことないから、こういう表現しか出来ない。しかし……………身の丈の倍以上ある大岩や舞い落ちる花弁を『木刀』で斬ってたあたり、私の父も存外ヤバいな」
父が居たあの頃のことを懐かしそうに、そして遠い目で思いふけっていた。
あぁ、よく思い出せば父も存外化け物だったなぁ、と。
そして、なんか後半聞いちゃならないようなことを聞いてしまったシキ以外の一同はこう思った。なんで娘残してどこかへ消えたんだよ!と。
とりあえず、そんな些細な疑問よりもムカイギの案件があるため、気を再び引き締め、二階へと向かう一同。そんなとき、ヨッコが二階に上がってすぐ横にある襖を見て気づく。
「こっちが確か居間の上だから………お兄さんが心配だけど、さきにご両親のお部屋を片付けよう。乱入されると手が回らなくなっちゃうから」
「了解」「承知」
「クリアリング大事」
(夕方のあの短時間で間取りを把握されてる………)
「ごめんね、寄り道ばっかりで。ちゃんとお兄さんのとこも行くからね」
「大丈夫。俺何も詳しくないから従うよ」
「話のテンポ求めて焦って進むと背後取られることになるかんな。愚は犯さん」
「気にしてる余裕ないわね。死活問題だもん」
「まぁ、任せるわ……」
「よし、ならばいくぞ。一、二…………三!」
『突入!!』
襖を開け、前衛二人が先行し、後にナツメたちが続く。
部屋の中に広がる異様な雰囲気と状態に目をくれず、各自除霊を開始する。
「父さん、母さん!!……ね、寝てる!?」
「霊が湧いてる隔離空間ではよくあること。大丈夫、憑いてはいないから朝になれば目を覚ますよ」
「ちなみにあんたが窓開けるまで、私たちがこの家に入れなかったのも霊が空間遮断してたせいよ」
「だいたい霊のせい!」
「つまりそういうことだ!」
「お前らのその平常心はどんな保たれ方してんだ」
「平常心っていうか……言ったろ、空気に飲まれるって。ふざけてないとさっきみたいにホラー展開になるだろうが」
「計画的なおふざけだ」
「これ以上怖いことにしたくないのよ!必死なのよ!」
「空元気なのかよ」
空元気で振る舞う割には、霊の首をへし折らんばかりに締めあげたり、消臭剤撒き散らしたり、竹刀で未完の剣術を使って除霊したりなど動きは徹底している。
「っしゃあ殲滅完了!また沸く頃には夜明けてるな。次はラスボスだ!」
「いよいよ正念場かしら」
「なぁ、ホントに倒せるのか?ムリくせぇ」
「倒さなきゃダメだろうな」
「それより気を付けて…………来るよ」
「え―――――」
途端、先ほど除霊して異様な雰囲気を取り除いたかと思いきや、除霊する以前よりも重苦しく、頭や気分が悪くなるような雰囲気へと変わった。
そして、『それ』はムカイギの背後から襲い掛かって来る!
「コノヤロ、もうびっくりしてたまるか。必殺カウンタースタンプ!」
「『迦楼羅』!」
ハツミの蹴りが顔を、シキの竹刀が無数の手足を纏めて潰しへし折る。
だが、霊は怯むどころか動きさえ止まることはなかった。
へし折られた無数の手足は瞬く間に蘇生してすぐ、無数の手足が二人に襲い掛かかる。
「ぐっ!!」「がっ!」
「シキ、ヒガサキ!」
それぞれ腹部に、強烈な一撃を撃ち込まれた。
ハツミは壁に叩きつけられ、背中を強く打ち呼吸がままならない。
対するシキはハツミとは違い霊のすぐ傍にいるため、シキが痛みで悶えて動けない隙に霊は両腕を掴み、まるで磔にするかのように持ち上げ、両腕を引き千切らんばかりに
真横に引っ張り始めた。
「くっ………このっ、離せ――――――」
ボギッ、と嫌な音が部屋中に響き渡る。
「ああああああああああああああっ!?」
「っ、んにゃろ、シキを離せクソがぁ!ヨッコォォ!」
「任せて!」
背中を強打し、腹部の痛みを引いていない状態であるにも関わらずハツミはシキの両腕を引き千切らんばかりに引っ張る霊の腕を纏めてへし折り、襲い掛かって来る残りの手足をヨッコが除霊具で滅した。
霊から解放されたシキはそのまま無造作に畳に叩きつけられる。
「大丈夫シキちゃん!?」
「私のことはいい!ソイツがマズいことになる前に片付けろ!」
「っ………ハツミちゃん!」
「任せろぉおおお!」
シキの言う通り、何やら霊の身体が徐々に肥大化し、姿を変えようとしている。
身動きが出来ないシキの心配よりもヨッコは、霊を優先することにした。
このままでは、全員共倒れになってしまいかねない。
そう決断し、ヨッコは鞘に納めた小刀を抜く。
ハツミが霊を誘導している間、決定打を放つ瞬間を窺う。
そして、ハツミの攻撃で霊がひるみ、霊の意識が完全にハツミに集中したその時だ。
「ありがとう。これで―――――効く」
手に持っていた小刀を霊の顔に突き立てる。
すると霊の動きが停まり、身体が徐々に解け始める。
その時だった。
《し……しね……しししししねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねいしねしね!!!》
初めて霊が放った言葉は、怨嗟だった。
霊は怨嗟の言葉を口ずさみながらヨッコの首を掴み、持ち上げるがヨッコは小刀を突き立てたまま平然としている。
《し――――》
「嫌よ。死なない」
《……………》
「あいたたたっ………」
「イリエさん!」
「ヨッコ、大丈夫!?まったくもう、無茶して!」
巨大な霊は消え去り、そのまま尻を打つ形で落ちてしまった。
ムカイギとナツメが心配そうに寄り添い、安否を確認する。
「結局このおびき出して返り討ちにする作戦が一番安全だったけど…………ハ、ハツミちゃんにシキちゃん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、私の発案だしやっぱり私は骨を断たせて肉を切る戦法があってるぜ」
「それだと死ぬだろ」
「ていうか、シキ!アンタ、両腕大丈夫!?折れたりとかしてない!?」
「いつつつ…………安心しろ。肩の関節が外れた程度で済んでる。とりあえずハツミ、緊急措置の為に填めてくれ」
「ほい来た。…………そい!」
「~~~~~~っ」
外れたのが関節をはめ直され、同時に襲ってきた痛みに思わず悶える。
もしかすると鋼の錬金術師も、きっとこれ以上の痛みに悶えたんだろうなと一同は思いながら、シキの姿を見ていた。
しかし、関節をはめ直した所で、直ぐに肩を冷やし、湿布を張って安静にしなくてはならないが、そうは問屋が卸さない。まだ案件は終わっていないのだから。
「さて、大元を探そうではないか」
「そうだ。その大元ってなんのこと?」
「さっきのやつが憑いてる『もの』があるはずなの。それが他の霊までこの家に呼んじゃってるんだよ」
「有体に言うと呪いの品って奴?」
「んーと、まぁ………そうかな」
「そんな怖いもんが兄貴の部屋に!?」
「うん。憑いてるのは今倒したから急いで探しに行こ」
「そういやもうすぐ夜明けね。ご両親が起きちゃう前にずらかりましょう」
「あ、そうだね。急ごう」
「女の子3人連れ込んで誤解されっとマズいしな」
「お前、意地でも自分を数に入れねぇな」
「(ユーダイが言ってた女の子三人とは私とナツメとヨッコのことだったのか)ところでヨッコ、それは模造刀か?」
「うん。本物持ってると色々と言われるし、模造刀なら飾り物ってことで誤魔化せるから。シキちゃんも、竹刀じゃ心許ないと思うからもし持っていなければ貸してあげてもいいけど」
「いや、気遣いは無用だ。……しかし、模造刀という手もあったか。実家の神社に私用の刀と木刀があるから、近いうちに取りにいくとしよう」
自分の竹刀がボロボロで使い物にならなくなっている状態を鑑みて、これは模造刀に切り替えた方が良いと判断し、用事がないに日にでも実家の模造刀と予備として木刀も取りに行こうと予定するのだった。
そんな感じで、すっかり部屋や廊下も元に戻っていると確認し、大元を探しにムカイギの兄の部屋に向かう一同。
「お邪魔しま―……………す」
スターンッ
『!?』
襖を開けたナツミが瞬時に勢いよく襖を閉めたことに一同はビックリする。
「な……どっ、どうしたのナッちゃん急に」
「うん、えーと……ヨッコとシキ、ムカイギを連れて下で待ってなさい」
「えっ、でもナッちゃんじゃ大元がどれか分からないから………」
「わかってるわ。違うのよ、全部終わったら呼ぶから!」
「というか、なぜ私まで」
「アンタは肩を療養しなさい!」
そう言ってムカイギ兄の部屋から遠ざけようとするナツメに3人は渋々従い、ムカイギの部屋へと待機することにしたのだった。
ナツメは3人が階段を降りるのを確認した後、すぐまた襖の引手に手をかける。
「んっ、私はいいのか。どした?何かあんの?」
「ええ。というか、ハツミグッジョブ。私呼んで正解ね………」
「………えっ、ちょい待ち。ヨッコ何も言ってないから心霊騒ぎは全部片付いて……」
「そう。だからこれ多分『別件』だわ」
そう言って再び襖を開ける。
部屋の中を覗き込んだハツミは思わず息をのんだ。
「!? ムカイギセンパイ!」
「ムカイギんちの『心霊現象』はさっきの化け物………こっちが、シューヘイたちが話してた………『ホモォ』!」
部屋の中には、ムカイギの兄らしき人がうめき声をあげて倒れており、直ぐ傍にはさっき倒した畸形な霊と同じようにムカデの様に長く、無数の手足が生えた『ホモォ』が耳元でボソボソと何かを囁いている光景だった。
《――――――――――》
「う…………ぅぅ……」
「ちょっ……と、なんかこええぞ、こいつ!」
「(ユーダイ、やっぱりあんたが無事だったのは奇跡だわ!)やるわよハツミ!ノーマルな人間はホモォの妄想に耐えられない!」
そして再び、戦いの火蓋が切って落とされた。