霊媒師「おばけいないよ」
ボンバヘッ!!「え、嘘……」
作家・漢女「『おばけいない』は、『ここヤバいから一旦退く』のサイン!」
箒ちゃん「霊に物理は効くのかな」
霊媒師「大丈夫だ、問題ない」
箒ちゃん「ならばよし!」
「古いおまもり……」
まるでiPod shuffle 第4世代みたいに見える様な、白い円が刷られたお守りを首に掛け続けてからそれなりに時間が経つ。
朝早い……うちの親が寝るのは11時。
11時半になったら俺の部屋の窓をあけて………そっから女の子達が忍び込む、と。
玄関から入ってくればいいのに。
(あと、一時間ちょい………眠いなぁ)
俺はシキやイリエさんのように直接見た訳じゃないけど、夜になると廊下からおかしな空気が流れてくる。
誰かが歩いているような、兄貴が寝込んでからそれは始まった。
(……兄貴も熱出して部屋から出てこねーもんなー。………つまんね)
詳しい原因は教えてもらえないけど、『ホモォ』に襲われたせいだ、と聞いた。
…………名前で察しがついたけど。
あ、だから女の子達だけだったのか?
ん?でも、霊感持ってる二人がおばけとか悪霊って言ってたしな………。
まぁ………なんにせよ、俺じゃ何もできないし、タコツボ小隊に任せるしかないか。
眠い目を擦りながら、とりあえず指定されている時間まで布団の上でダラダラ時間を潰すことにした。
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
カチコチ カチコチ カチコチ カチコチ カチコチ
『おうちの人が寝ちゃったらすぐに窓開けていいからね』
『間違っても寝過ごすことがないようにな』
『ちょっとでも遅れたら窓破るのもやぶさかじゃねーぞ』
『やめなさいって』
「……………ぐっ………重っ……なんだ、こりゃ……!?」
みんなの言葉が脳裏に過りながらも、窓に向かって畳の上を這いずる。
時計は既に11時半を過ぎていて、窓の方から窓を叩く音とみんなの声が聞こえてくる。
急いで開けたいのは山々だけどっ、なんだ、この大人が全体重を掛けられて座ってきたような重さは!?
『ムカイギ!』『ムカイギくん開けて!』『寝ているのかムカイギ!』
「何か……何か、物理的にのしかかって…窓……!鍵はあけてあるのに、開かないのか!?………やばいっ、ヒガサキに窓割られるっ!」
窓を割られる前に、必死に窓まで寄り、ようやっとたどり着く。
窓を開けようと、窓に手をかけたその瞬間、スゥゥゥと何故かガラスが雲った。
内側ッ………!
「うっ、うわぁああああああ!!」
「伏せろムカイギ!ファイナルベント!」
「伏せていろムカイギ!篠ノ之一刀流二の型!!」
曇りだしたガラスが突如無数の手形が浮かび上がってきたことに恐怖した俺は勢いよく窓を開ける。鍵もかけてないのに、どうしてか簡単に開くことが出来た。
窓を開けたと同時にヒガサキの指示が来たため俺は身を低くし――――
「キックストライク!!! ディアブルジャンブル!!!」
「『迦楼羅』!!!」
ヒガサキの蹴りと、シキの竹刀が俺の背後にいる何かを吹き飛ばした。
部屋に侵入した二人は何やら部屋中にいるであろう、何かに攻撃し始める。
「よかったムカイギ、無事!?死亡フラグは回避できたみたいね」
「やっぱりいっぱい出てきた!ホモォはいないからぱっぱとやっちゃおう!」
「ちょっ、イリエさんはともかく、キシの装備はなんだ!?」
「言わずと知れた消臭除霊よ。ご存知?」
『一体撃破!シキ、背後!』
『こちらも撃破!ハツミ、真横から来るぞ!』
「一般的ではねぇだろ!」
「あ、そうなの?」
「んー、群れているなぁ。とりあえず、ここではないとすると………」
「ザコまみれたぁ、好都合だぜ!ここ最近は平和ボケで鈍ってたんだ。肩慣らしに大殺戮してやんよ……!」
「ヒガサキ、スイッチ入ってるー!」
「まぁ、敵は元々死んでるんだけどね」
「おい、ハツミが小学生云々よりも女としてしちゃいけない発言と顔をしているぞ、大丈夫か?」
「1年の時からだから、気にしなくていいよ」
「それより来るぞ!」
「ちょっと私見えてないから誘導して!」
「2時の方向、斜め右上!」
(大丈夫、か…………?)
5月某日、夜11時45分。
こうして、常軌を逸脱した一夜が幕を開けた。
▽
除霊完了。ムカイギの部屋 Level.☆・済
ムカイギの部屋に蔓延っていた霊を退治し終えた4人は警戒しながらもいったん休憩を挟みながら、本格的に準備に取り掛かりだす。
そしてムカイギの首にかけていたお守りが、○から×印に代わっていた。
「うわ、バッテンになってる」
「うん。夜になってたくさん沸いてきたから……。それ、おじいちゃんが作ってくれたお守りなの。憑りつかれない様にするだけなんだけど…………」
「これのお蔭で、のしかかられるだけですんだって事か……」
「ともあれ、ムカイギに怪我がなくて安心した」
「ハッテン?(難聴)」
「やましいもん考えた奴、屋上」
「噂はかねがね聞いてたけど、イリエさん、すげぇな本当に」
「あんまり良い事じゃないけどね。見えちゃうから仕方なく詳しくなったってだけだよ」
(詳しい、ですむレベルでも無い気がする)
「しかしマズったな。私の見当違いだったか?ホモォ一匹も見当たらねぇ。なんかすまん」
「しゃあないわ。万一もあるし、良い判断だとは思うわよ」
「ユーダイ達がいたら、もしものことがあった時も困るし、それに大所帯で来れば動きが制限されて、私の武器が竹刀だから行動範囲が限られる………」
「そうだね。屋内だから、動きづらいよ」
実質、ユーダイ、シューヘイ、タカシの3人も連れてくるとなると、狭い通路で霊と遭遇した場合、守りながら、逃走経路を確保し戦うのは非常に厳しい。特にハツミは素手だから良いものの、シキは竹刀だ。下手すると仲間を巻き込んでしまうかもしれない。
「あ……あのさ、俺さっきから何も見えないんだけど」
「うん?」
「………夕方にシキの話を聞いて思ったけど、みんな、どんなものが見えてんだ?」
「私はチャンネル合わせてないから見えないわよ」
「え、そうなのか。なんでだ?」
「おばけ怖いからよ!窓に手形とかふざけんじゃないわよ!」
「なんで来たんだお前!?」
真顔で本音をぶちまけたナツメに思わずツッコミを入れてしまった。
色々と面倒事に巻き込まれているナツメだが、やはり怖いものは怖いのだ。
むしろ、小学生だから当然の反応とも言ってもいいだろう。
「ヨッコやシキも言ってたけど、見えないに越したことねーよ。エグいぜ結構、バケモンだ、ほとんど」
「ゴーストバスターズみたいじゃねぇの?」
「零………いや、バイオに近いな」
「それゴーストじゃなくてゾンビじゃねぇか」
「元々見えない私視点じゃバイオだけど、ヨッコはヤベーぞ。一回だけヨッコの視点で『見た』ことあるんだけどよ、ありゃ静岡でサイレンが鳴った上に貞子から着信アリってところだな………」
「因みにムカイギ、私の視点で言うなら夕方ヨッコが除霊したお前の背後についていた霊とさっきの霊は来る前に見てきたAKIRA終盤の肉体が暴走した鉄雄が赤子サイズに縮小された霊だ」
「どんだけフルコース!?それに、え!?俺の背中に、っんな気持ち悪いもんついてたの!?つうかシキ、AKIRA平然と見ちゃったんだ!?」
「まぁ、宇宙人や夕方の『悪霊』を見れば殆ど耐性がつくさ(遠い目)」
「逞しいけど、それはそれで虚しいな………」
「とまぁ、シキも同様ヨッコは物心ついたときからそんな視界だっていうから凄まじいよ。霊感的なのが強い程、より恐く、よりグロく見えるようだからな。ま、バケモンとして見えるからこそ除霊(物理)なんて無茶苦茶な芸当が出来るんだろうけーど」
「お前ら含めてな」
「…………あぁクソっ、やっぱ精神的にキチィな……アイデアロールに成功したら1D2のSAN値チェック!」
「それにしても、今しがた倒した霊どもは見た目もそうだが普通ではない数だった。これは、普通の心霊現象とは考えられない」
シキの視点で言うなら暴走した鉄雄の縮小版もそうだが……ペイルマンだったり、アクションゲーだと思ってたバイハが7だったり、サイコがブレイクだったりなどなど、これ小学生に見せたら倫理規定に反するんじゃねぇ?なんて疑問を抱くよりも早く、即決で倫理規定に反してると言われる奴らがウジャウジャいたのだ。
全然普通じゃない。というよりも、こうも一か所に霊が集まっているのがおかしい。霊地でも龍脈やらいわくつきとも言えないムカイギの家に、なぜこうも大量の悍ましい霊が集まっているのか疑問に思うシキだった。
「つうわけだからムカイギ!R15Gになっちまうから見ないままでいろな!」
「この小説、残酷描写タグ付いてんだよ!?あっちから接触してくるから逆に不安なんだけど…………」
「安心しろ、俺が守ってやる(低音)」
「我が剣にかけて」
(男子達も声変わり前だから、ハツミは特に違和感ないわよね………)
「なにカッコよく言ってんだ!あとシキ、悪乗りしなくていいからな!これだと男である俺の立つ瀬がねぇよ…………」
………ペタペタ
「?……何か音が」
聞き逃してしまいそうな小さな音を、ナツメの耳に届き、背後向いた瞬間だった。
ハツミの拳撃、ヨッコの除霊具、シキの剣術が同時にナツメの背後から押し寄せてきた『それ』に向けて放たれ、沸いて出てきた『それ』を除霊(物理)した。
「!?」
「また沸いてきやがった」
「全くもってしつこい」
「早いところ他の部屋も回らなきゃね」
「そうね。そろそろ行きましょうか」
「(やべぇ、これ俺だけ関われる次元じゃぁねぇ)って、ちょっと待て。他の部屋!?」
「うん。昼間電話した時、もしかしてと思ったの。ムカイギくんに電話代わる時に「呼んでくる」っておばさんが言ってた子機のほうじゃなかったでしょう。声に混じってノイズみたいな水音が入ってた……………でも、この家の固定電話周りには水なんてない」
「………!!!」
「水音はまずいと思ってきてみたら、案の定で………ムカイギくんやおばさんに憑いてるというよりは『家に溜まってる』状況。幽霊だらけよ、この家。なんでこんなことになってるか、まだ理由はなんとも言えないけど、ムカイギくんが見えない人でよかった」
「出てくんな、話し中だ!」
「大人しく地獄へ落ちろ!」
「見えないけどくらえ!」
「とりあえず安心してね。長引かせる気はないの。幸い同じ体質のシキちゃんもいるし、今夜中にケリをつけるよ」
「なんだろ、この奇妙な安心感は…………でも、すまねぇ。俺だけじゃお手上げだ。頼む」
「ん、がんばるよ。ねっ、みんな」
「あぁ。ユーダイとの約束もあるし、友達だからな」
「あだぼーよ。護衛は任せとけ」
「困ったときはお互い様よ」
「じゃあ、父さんと母さん起こしてこようか?そんな大変なことが起こってるなら……」
「うーんと………無理だと思うな」
「え?」
「そのおまもりは憑り付きを防ぐ『だけ』なの」
そう言ってヨッコは襖を開けた途端、とてもムカイギの家とは思えない大名の屋敷並のあるはずのない無数の襖と長い廊下が続いていたのだ。
「な、なんじゃこりゃあ!?ウチ、こんな廊下長くねぇぞ!」
「怪談でよくあるでしょう。あるはずのない扉とか、ないはずの曲がり角とか。霊がとどまってると場所がおかしくなるんだ」
「さすがの私でも、これは初めて目にするな………」
「でも、所詮は錯覚だから。雰囲気に飲まれなければ平気だよ。安心して。いこっか!」
「え、あ………おう」
不安で震えていた自分にギュッと手をヨッコから握られたムカイギは思わず赤面する。ザウルス小隊隊長・ムカイギ。仲間たちと共に様々な壁や困難に直面してきたが彼も小学生で男なのだ。異性に手を握られたらそりゃあ、照れてしまう。
そんなムカイギの反応に「………あぁ、やっぱり『普通』の部分もあるのだな」と、『異常』な空間の中で久方ぶりに見た『正常』に安堵していた。
「おい、いい雰囲気にも飲まれんなよ!ホラーのラブシーンはもはや様式美で死亡フラグだからな!」
ドゴォオオオオオオオオオオ!!
「ていうか、前フリよね。『これからこいつら死にますよ』っていう」
シュシュ!! ジュオオオオオオオオオオ……
「安心しろ。お前らがいればいい雰囲気にはならねぇ。台無しだ」
「そういえば家を出る際に、私もユーダイに死亡フラグとやらを立ててきたな」
「おい今すぐ乱立させろ!でねぇと死ぬぞ!」
「あはははっ、ナッちゃん、ハツミちゃん。後ろは頼むね」
緊張しながらも、賑やかになった一同は、先へと進んでいく。
ムカイギを中央に配置して守れるように、前衛にヨッコとシキを、後衛にハツミとナツメの陣形で、押し寄せてくる悪霊を蹴散らしながら、ほぼすべての部屋の除霊(物理)を行った。
いくらなんでも、これ俺と同い年のやつが出来るのか?などと同行中にムカイギは思ったりもしたが、おかしくなった廊下などを見ていくうちに段々どうでもよくなってきた。家がこんなことになってるんだし、除霊(物理)とかもアリじゃね?とかそんなノリで。
しかし、ひとつ気になったのがヨッコとシキだ。
怖がらせないためか、明るく振る舞っていたのだが、部屋をひとつひとつ回るうちに表情がどんどん硬くなっていく。
「イリエさん、シキ、大丈夫か?顔色が………」
「!……うん、大丈夫。ありがとう。……だいたい一階のお部屋は全部回ったかな」
「あ、そうだな。客間と台所と俺の部屋、風呂とトイレ、全部回ったぞ」
「そっか」
出来るだけ明るくムカイギに振る舞い、再び視線を戻す。
そんな時、シキはヨッコに耳打ちする。
(………どう思う)
(………まずいかな。大元がどこかにいるけど、それに浮遊霊が引き寄せられて、この家に霊道、霊が通る道が出来ちゃってる………)
(………拙いものなのか?)
(元はただの浮遊霊だったものまで、『害のあるもの』になっちゃってる。これも大元の影響?)
(しかし、どうしてムカイギの家にそんなものが……………この様子だと、大元は一階にはないようだな)
「ヨッコ!シキ!」
『!』
「ナッちゃん!」
「ナツメ、どうした!」
「…………下がってろ、ナッちゃん」
「ヤバいわ、ヨッコ。
霊感のないナツメでも見えてしまう『それ』に怯え、ヒガサキの陰に隠れてしまう。
何やらヒガサキが廊下の向こうを睨み付けている。
そして、なにやら『ひたひた』と、何かが近づいてくる音がする。
「この足音、夜中の………」
「落ち着いてね。目を合わせちゃダメ。………いったい、どこでこんなの拾ってきたの」
現れたそれは、ヒト型とは到底思えないほど大きく、入道雲の様に長く、ムカデの様に幾つもの手足が生えた、そんな畸形な姿をしていた霊だった。
ついさっきまで除霊した霊とくらべものにならない程の、化け物が現れたのだ。