もしかして今はあんな服装が地球では流行っているのか?
少女を観ての第一印象がそれだった。さっきの空から降って来た事よりもちぐはぐ過ぎるファッションに目が行った。自分が知る限りはテレビ以外観たことない。
「うーうーん……ってぎゃあああああ!」
今の落下衝撃に気絶していた少年がまた目を覚ました、と思えばまたバタンキュー。仕方ないので後で記憶を消しておこう。
そして少女はライオニックの方へ視線を向き、
「へぇー本当にサグーっていたんだぁ……」
声がにやけていた、まるで楽しいオモチャを見つけた子供そのもの。
「……一体どういうことなんだ?」
観るからに只の人間では無さそうだった、エナの気配も感じるが人間の気配を濃く感じた。
人間なのか?
ハッキリ言うとどちらとも言えない、それ以前に分からない。
ライオニックはKから人間という者についてギッシリと叩き込まれた。学習するのに馬鹿な自分ではかなり時間かかったが、それはともかく、自分が知る限りでは人間にこんな力は無いはずだ。
「お前…………げふん、君はなんなんだ?」
「うーん? アタシの事? 自分はね……なんだろーねぇ? あ、そうだ! 教えてあげるからコッチに来てきて!」
お面のせいか表情が読み取れないが、笑っているのは確かだろう。
ライオニックは疑問に感じながらも少女の元へ軽く走り出した。そして一メートル範囲内に入ると自分の胸辺りぐらいの身長のお面の少女が背伸びしたて耳で呟いた。
「せ、い、ぎ、の、み、か、た!」
そう呟かれた途端、突然下顎に痛みが走り意識が飛んだ。
次に意識がハッキリした時は……
空中に浮いていた。
「ふぇ、ぎゃああああああ!」
重力に沿って落ちていって、少女は次は細い足で背中を球遊びをするかのように宙に何度か蹴る。最後に強烈な回し蹴りを首に食らわされ転がった。
頭を強く打ったのか視界がかなりボヤけて血が出る。
フラつきながらも少女に指をさす。
「ふ、ふざけんな! お前みたいな正義の味方がいてたまるか!不意打ちとか卑怯だろが!」
「正義の味方ってさ暴力を正当化できるじゃない! それに悪役をいくら痛めつけても咎められないっし、最高に楽しい!」
こいつもかなりヤバい奴だ、と心の中で嫌な予感が蠢く。
「何言ってるのかわからないが……俺は何も悪いことはしてないはずだ!」
自分が思い浮かぶ辺りでは無銭飲食以外の悪事は行ってはいないし、ちゃんと返金してその代金分その店で働いた。
それ以外では…………あっまだKに金を返せていない。もしかしてこの暴力は罰なのか。
少女はそんなライオニックを観てケタケタ笑い出した。
「悪い事とかどうでもいいんだよー私が楽しめたらそれでいいんだ」
そう言いドレスの袖の中からある物を取り出した。
釘バット。
赤い絵の具がついたソレを持って暴走列車のようなスピードで走り出した。
「待て待て! 話を……」
説得を持ちかけようとしたが、そんな話は聞いてはくれない。
仕方なく少女が上から振り下ろすバットを両腕を交差して防ごうとした。
所詮はただのバットだ、この程度の威力なら蚊に刺された程度で大丈夫……
バキィ
「折れたっ!?」
右腕に重く鋭い一撃と共に誰が聞いても折れたと確信するほどの耳障りな音がなった。
少女は躊躇もせずもう一度殺戮兵器を振り下ろしたが、ライオニックはギリギリ避け数歩後ろに下がった。
「ライオンさんもっとアタシを楽しませてよ!」
少女は手に持つ殺戮兵器をポイッと捨てるように放り投げ、笑い声をあげた。
ライオニックは右腕を抑えながらも頭が混乱していた。この少女はどっちの種族なのか、もし人間だとしたら、出来るだけ人間を傷つけてはいけない。
しかしこのままでは自分が死んでしまう。説得の作戦も不可能そうでどうしたらいいのか、頭からの血が大量に流れ過ぎたせいか何も思いつかない。
「ああくそっ!」
少ない脳みそで考えぬいた答えは、撤退。
倒れている少年を担ぎ、後ろを振り向かずとにかく走った。
運良く少女はライオニックを追いかけては来なかった。