真っ白な閃光な場所だった。
その光は目の奥を焼かれているようで、酷い吐き気を覚えた。
どこなんだここは? 謎の気配は自分に何をしたんだ?
色々と思考を巡らせてみたが、ここの眩しさに頭がやられたのか胃の中が逆流しそうになった。身体中も酷く痛む、取り敢えず今は早くここから抜け出そう。
両腕で不快な光を掻き分けるように動き、地に足が付いているのか、そもそも地が存在するのかも分からないので、水の中を泳ぐかのように進んだ。
ある程度進むと小さな穴が出現し、そこから青い光が差し込んだ。
もしかしてあそこが出口なのでは、と笑みが浮かんで身体のダメージなど忘れたかのように頭から飛び込んだ。
抜けた先は地からかけ離れた空だった。そして落下した。
「ぎゃあああああああああ!」
雲を矢のように突き抜け直下して、豆粒だった建築物達が段々と落ちていく度に大きさを増していった。
身体中が痛みで動かず、ライオニックは地面と激突すると死ななくても肉塊になるだろうと恐ろしい考えをしてしまった。血の気が引いてくる。
どうすればと少ない脳を回転させるが、ダメだ思いつかない。
無理矢理に身体中の悲鳴をあげた筋肉達に力を入れ、その場でバタつかせた。落下速度を遅めれるかと思ったが、身体のバランスを崩し余計に事態を悪化させてしまった。
「ター! トー!」
落下する恐怖や落ちた先の被害の対処方法が出てこなく、頭が混乱してしまい悲鳴をあげた。そんな中、一か八かの確率だが案が浮かんだ。誰もいない所までエナを使い瞬間移動することだ。だがどこへ行けばいい? 今の場所さえも分からないのに。
もうどうにでもなれと、ヤケクソ状態のまま自分の姿は消えた。
「あのねー。確かに無銭飲食で犯罪にならない時もあるけどさーあっ、君やっぱり外国の人? それにしては日本語ペラペラだけど……とりあえず証明書とか持ってる?」
金髪で中肉中背の人間姿であるライオニックは交番という小さな建物内に連れ込まれ椅子へ座っていた。そして前方に青い背広を着た小暮という男性がめんどくさそうな表情を浮かべ頭をぽりぽりと掻いた。
「いや……えーと、すんません……」
とにかく謝る事しかできなかった。なんとかこの世界に住む人間という生物と言葉は通じ合えるが話が通じない。さっきから一方通行な会話の連続な事に少しだけ恐怖を感じた。自分の世界の常識がまるっきり効いてない。
こんな状況になってしまったのも瞬間移動した後の出来事だった。
ライオニックが運良く移動した先は海の中だった。
息が出来ず酸素を求めクタクタになりながも海から抜け出し砂浜に倒れたのだが、この時サグー状態であった自分はニメートル近い巨体も相まってか、海水浴に来た人間達に怯えられてしまった。その時の自分はまだその生物を人間だと知らなかったが、カフェルと角以外、骨格や姿が類似していて目を疑った。
そして水着姿の小さな男の子が自分の側に近寄り、
お兄ちゃんって怪人?
と質問をされ、エナの力で言葉が通じたライオニックは、怪人は知らないが自分はサグーだと答えようとすると、母親か姉らしき若い女性が青白い表情をしながらその子を庇うようにこちらに背を向け抱きしめた。
その様子を見て心配した自分は手を差し伸べようとしたが、
来ないで、と恐怖に怯えるように叫ばれ、この時やっと自分の姿が異質な事に気付いた。このままではマズイと海へ逃げるように飛び込み、潜っている内にサグーから人間へと変身させた。
なんとか窮地を脱したその後、上下赤いジャージを着たライオニックは地球の日本の非常識で見た事がない光景ばかりに頭をやられ、ここは自分が知っているカイザではないと気付いた。
ライオニックは恐らく謎の気配の力により別の世界へ転送させられたと推測した。馬鹿な自分でもこれぐらいは理解できたが、この世界がどの位置に存在するのかも分からないので帰る事が出来ないのだ。
ライオニックは気分が滅入り、身体中も辛く、少し休もうとした瞬間、食欲が注がれる匂いがして、その匂いに釣られるまま小さくてボロい定食屋へ辿り着いた。
腹が減った、まずは飯だ。
その店の中へ入り、本を読んでいた白髪混じりの女性が、いらっしゃい、と声をかけた。
その言葉の意味も知らないまま椅子へ座り、適当にお任せすると、頼んだ。
そして出てきたラーメンにライオニックはなんだなんだと驚いた。店の女性は、何ってラーメンだよ、と返した。
ナニッテラーメンダヨ? 聞いた事はない食べ物だったが、ナニッテラーメンダヨが異常に美味くて10杯もお代わりをした。
へー、あんたのようにラーメンを美味しそうに食べる人間は初めて見たよ、もしかして大食い選手かい?
違うと答えた。
飯を食べ終え、カイザの世界では代金としてエナを支払うのが当然なのだが、この世界では金で無ければ意味が無かったのだ。
ライオニックと女性は話が通じない会話を何度も繰り返した。
金を払え。
金って一体なんなんだよ? だーかーら、俺はエナを払うって言ってるだろ。
そんな会話に痺れを切らした女性は等々警官を呼び出してしまった。そして連れて行かれてこうなってしまった。
そして1時間程尋問のやり取りをして、この世界についての知識は得れた。
ここは日本である。
それだけだった。
「住所とかは?」
住所ってなんなんだよ……
さっきからライオニックは口ごもるばかりの対応しかしないせいか、とうとう痺れを切らし小暮は用を足しに席を外してしまった。去っていくのを尻目に、ライオニックは机に頭を落とした。
地味に痛みを感じ、この世界での自分の肉体はかなり弱体化している、回復の速度もかなり遅い。なぜだかは知らない。こっちが聞きたい。
「はぁ……」
情けない声が出た。
ふとイカルの森で突如姿を消してしまったカフェルの事を考えた。あいつは強いし大丈夫だろうが、もしもの事があったら自分の責任だ。自分にもっと力があればと……非力な自分に嫌気が指した。もっと鍛えなければならないようだ。
そんな事をあれこれ考えている内に、用足しを終えた小暮がまたやってきた。
またため息が出そうになったが、本当にため息を尽きたいのは小暮の方なのだ。自分が無知なせいで彼にも重荷を付き合う事になっているのだ。
交番の引き戸が開いた。
「ちょっと座ってて」
そう小暮に指示され、静かに座りながらも交番へやって来た男に目をやる。
高身長で血のような赤い髪にサングラス、黒いロングコートを着用していたが、近づこうにも近づき辛い雰囲氣な男だった。
小暮は少し驚きながらも男に声をかけたが、その男は小暮を無視した。そしてライオニックに目線を合わせ、ライオニックは首を不思議そうに首を傾けた。
「やっと見つけたぞ。ライオニック」
「えっ、誰?」