怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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次次々!

 背中が熱い、何度も床を転がりながらも確実に糸の弾丸を撃つ。

 そして戦っていくうちに、爆発させる時奴は必ず「ドカン」と言う、その言葉が爆発のスイッチになっているのだと僕は考えた。

 

 簡単にまとめるとワンテンポ間がある。その一瞬を突く。

 

「ドカン! ドカン! ガハハハハハハ楽しいなぁ~!」

 

 そう言ってられるのも今の内だ。

 僕が天井にへばりついたその時、奴はBB弾を僕に向けて数発放った。

 

 サグーが「ドカン」とスイッチを入れた瞬間、爆発する前に天井から足をバネのように力入れた。そしてミサイルのように突撃した。

 後ろの爆風が背中を押し、糸の槍を持った僕は一閃、槍を振るった。

 

「チィッ………!!」

 

 サグーのモデルガンは縦にリンゴの断面図のように真っ二つに切り裂かれた。だが黒い皮膚の腕には届かず槍の中心を折られたのだと気づいた。

 だがまだ止まる気はない、二つになった槍を両手で持ちサグーを突き刺しそうとした。

 これで……終わりだ……!

 

「ふぃー……」

 

 サグーはやれやれと言わんばかりに溜息をした。

 

「ドカン」

 

「なッ……!?」

 

 サグーの笑みを見た同時に身体が吹き飛ぶのを感じた。身動きなど出来ない。頭を強く打つ頃には身体が焦げ臭い匂いで染み込んだ。

 

「あ…………あ……」

 

「全然成長しないなぁ、俺ちゃんがっかりしちゃうぞ」

 

 姿もエナを使いすぎて消費の少ない人間の姿に変わり、身動き一つすら取れなくなった。

 今更になって奴の能力の正体を理解できた。奴はガソリンを何十倍に威力をあげ爆発させる能力なのだと。

 この廃工場がガソリン臭かった理由も分かった。床にばらまくなど準備をされていたのだろう、自分は糸で敵を絡めたのではなく寧ろ絡まっていたのは僕の方だった。

 

「おーい、生きてるかぁ? 今ので死んだんじゃないんだろうなぁ?」

 

 サグーの笑みを観るにムカつきが倍増する。

 だが為すすべなく奴に喉元を掴まれ宙にぶら下がった状態になる。

 

「さぁてこのまま首が飛ぶか、折れるか、楽な方を選ばせてやるよ!」

 

「ガハァッ……! ガァ…………」

 

 息が吸えない、苦しい。

 このまま終わるのか、自分らしい呆気ない終わり方だと思う、他人に興味無かった男は誰からも心配される事も気づかれる事もなく死ぬ、うん悲劇的で悪くない。

 そう思うと重みが取れた気がして抵抗する気も消え失せてくる。

 

「つまんねぇ顔だなぁ? いいぜ、折って木っ端微塵にしてやるよぉぉ!!」

 

 首に入る力が増し、もう頭に血も回すことさえ許されない。

 ああくそ、こんな終わり方も悪くないと言ったが、こいつにやられるのは癪に触る。

 だがどうしようもない、どうしようもないんだ。

 

 ダラリと足掻こうとする手が諦めたその時、上着のポケットから飴の袋がこぼれ落ちた。

 まだ諦めてはいけないらしい。

 

「ァァァァァァァァ!!!!」

 

 とにかく喉が裂けそうな、声にすらなっていない不協和音を喉から出した。

 

「うるせぇ……ガハァ……ッ!?」

 

 最後まで何か言おうとしたサグーの喉から血が噴き出し何かが貫通した何かが僕の手に絡まった。

 そしてその、指に絡まった糸は、右腕の長いご本の爪を尖った刃物へと変わらせた。

 

「ァァァァァァァァ!!」

 

 そのまま爪はサグーの胸を貫き、僕の全身は血で染まった。

 

「ハァ……………………やられたな」

 

 サグーは胸に五つの穴が空いたと言うのにまだ余裕の表情を浮かべていた。

 

「さっきの…………蜘蛛か……」

 

 サグーは口で血を染めながら笑みを浮かべた。そう、サグーを貫いた糸はさっきハイエースに侵入させた糸で作った蜘蛛だった。

 もうダメだと思った瞬間、蜘蛛が床に張り付いているのを見かけた。そして引き寄せてサグーの喉に貫通させた。

 

「そう…………だよ」

 

 こちらも首を潰されかけまともに声が出ない。首の骨にひびが入っているかもと少し笑えて来た。

 

「彼女…………どこだ?」

 

「けっ、まだ女の心配か…………久しぶりに…………楽しめのに冷めた野郎だガ、ハハ」

 

「今なら…………場所を言えば……助けて……やる」

 

 さっさと言わせるための作戦だが、土下座しながら言ってやれば助けてやらん事もない。

 

「その蜘蛛が……知っているだろ」

 

 爪の糸が再び集まり蜘蛛の姿へと変わる。蜘蛛は愛らしいデフォルメしたような感じで向こうにいると口から矢印の糸を作り示している。

 

「それもそうだね……」

 

 ふらつく足取りでサグーの横を通り過ぎろうとした時に、男の口からこんな言葉が飛んで来た。

 

「あの女には気をつけろ……あいつは不幸を運んでくるアマだ……ガハハ……」

 

「どういう事なんだい……?」

 

「さぁ? なんだろうねぇ……」

 

 鳥頭の男はそのままぼとりと床に倒れてしまった。

 肝心な事を一切言わずに、最後までこちらの弱みを握ったまま上から目線で死んでいった。

 勝ったのに負けた気分だ。

 

「嫌いだな……そういうの」

 

 血に染まっていく男の姿に背を向け、蜘蛛のしめす場所に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 少女の身体がこんなに軽かったとは思いもしなかった。しかも柔らかいし背中に当たる感触が、無視しろ、何を考えてる。

 今、ボロボロになった自分が道路反射鏡に写り、夜でよかったと思う。昼なら警官に職質されていた。

 

「ん……ん?」

 

 どうやら背中の眠り姫を目を覚ましたらしい。どうやってこの状況を説明してやろうか。

 

「えーっと……驚かないで聴いてください。僕はさっきの交番で会った親切な人で……あの後近くで事故があったんです。貴方はそれに巻き込まれて、僕がおんぶしてる状況です。何もやましい事はありません」

 

 最後の言葉は必要なかったかもしれないが、これなら理解はしてくれるだろうと。

 

「また…………私のせいなのね」

 

 彼女の口調はまるで知っているようだった。

 

「また……?」

 

「私をここに置いて行って」

 

「何言ってるんですか?」

 

 せっかく人が助けたというのにそんなセリフは聴きたくない。

 

「でも…………でも……」

 

 彼女の声が掠れて涙声になっていくのを感じた。

 ただ、こんな所に置いていく気はない、せめて交番……また事故りそうなのでやめておこう。

 彼女の家までは送って行った方が良さそうだ。そこまでが飴玉の借りだ。

 

「送っていきますよ、家はどこですか?」

 

 彼女は何も答えず、ただ倒れるように眠っていた。さっき起きてまた眠る。本当に疲れているのだろうと少し困った。

 背中に違和感を感じペンダントのようなアクセサリーが当たってるのだろうと思った。

 

 少しどころかかなり気がひけるが自分の家に泊めていくしかない。

 普通、彼女の家族はかなり心配しているだろう、多分自分の未来は刑務所だ。

 だが自分の力を使えば捕まる心配は一切ないので気にする必要はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「さ、てと……これからどうしようか」

 

 借りたアパートの畳の上に布団を敷き少女は眠る。

 これじゃまるで誘拐犯の気持ちだ。アパートの住人に誰一人会わないようにするのが心臓が破裂しそうだった。

 

 テレビでも観て、少女の事がニュースでやってないかテレビをつけた。

 やっているのはバラエティ、ドラマとチャンネルを変えていく内にニュース番組に変わった。

 だがめぼしい情報は何一つ得られずテレビを消して溜息をついた。

 

(ちょっと脅して『情報屋』に頼むか…………)

 

 そのまま1日の疲れがドッとやってきてそのまま泥に浸かるように畳に眠り込んだ。

 

 

 

 


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