怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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蜘蛛男の過去話(スパイダーマンじゃないよ)
始まり


 

「ちぃっ…………」

 

 右足を貫かれたせいで動けない。

 青年は自分の口から糸が出ない事や人の姿に変わっている事に気付いた。糸を代用できるほどエナも残ってやいなかった。

 

「あと少しなんだよ……! あの少しなんだよぉ!」

 

 喉から叫びが溢れ出る。ライオニックはふらつく足取りで壁にもたれかかるよう立ち上がり、こちらを見つめている。

 

「もう…………やめろ……! 俺たちの命を狙う理由は知らんが、今のお前は……不味い卵かけご飯だ……」

 

 何故だ、何故君は死んでくれないんだ。何故こちらを悲しそうな目で見つめるんだ。

 

「お前は……いろんなものがぐるぐる混ざっている状態なのは馬鹿な俺だって理解できる……」

 

「ハハハハハ……君は本当に面倒だよ……」

 

 僕は這いずりながら壁から突き出している糸を掴んだ。すると糸は解けて手にまとまっていく。

 

「君が……僕の事を理解してくれるのならここで死んでくれぇぇ!」

 

 銃口と化した糸をライオニックに向けて弾丸を飛ばした。

 彼も既に枯れかけている。弾丸を避ける力など持ち合わせてないはずだ。

 

 だが放った弾丸はライオニックには当たらず、がぎゃんと金属同士がぶつかり合うような音を鳴らし破裂した。

 何が起こったのか青年は理解できた。同時に失望や後悔の念が胸から溢れ出た、ああここで終わりなのかと。

 今のはKの弾丸であった。

 

 そして彼の背中には。

 

「楓(かえで)…………」

 

 眠っている少女がいた。

 身体中から憎しみや力が抜けて行く。

 

「お前の戦う理由は…………理解できた……だから話がある…………」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 僕はカイザの世界での国の一つ、ガルガスに住んでいた。

 その国は他の国に比べる弱く、強者こそが全ての戦乱の世ではいつ侵略されてもおかしくはなかった。

 奴隷として扱われるのは御免だ、兵士として死ぬのも御免だ、僕は侵略される前に国から出て旅に出た。そして一回り身体が成長したある日森で遭難してしまった。上を向いても赤、全てが赤な不気味な森だった。

 そして野蛮なサグー喰いな植物や獰猛な獣に襲われて死を覚悟した。そして意識が切れた。

 ふと、絶たれていた意識が戻った時には自分が立っている世界はカイザから地球に変わっていたのだ。

 

 始めは頭が追いつかず元に戻る方法を探す毎日であったが、分かる事は地球に転送されるが転送されたサグーは転送される間の記憶が無いという憶測、それぐらいだった。

 そして地球に転送されたサグーは過激派が多くこの世界なら邪魔されず好き勝手できるとカイザへの未練など持たなかった、エナが薄い癖によく下が回るなと呆れた。

 僕は戻る方法など不可能なのだと段々元の世界への関心は薄れていった。

 向こうの世界で僕を心配するサグーなどいないしこの世界の方が楽しそうでカイザの未練など消えていった。

 

 この世界に慣れていったある日だった。

 季節は冬で最初はカイザとは違う季節の変わり目に新鮮さを感じていたが寒いのは苦手だった。

 耳が取れ落ちそうな痛みを我慢しながら道路の信号を渡りさっさと服でも買いに行こうとしたが、足が止まった。

 

 車椅子の少女だった。彼女は渡りたいはずの信号を渡ろうとせずただ何かを待っているようだった。

 無視だ、無視、親切な人が構ってくれるはずだ。そして立ち去ろうとしたが、考えとは真逆の行動をしてしまった。

 

「付添人はどうしたんですか?」

 

 結局、無視したら無視で後悔しそうだ。

 

「私の……こと?」

 

 長い黒髪の少女は炭酸の抜けた感じの返事だった。

 

「……そうですよ。信号をずっと待ってるのはおかしいと思って」

 

 この時僕は、声をかけたらかけたでその後どうするか何も考えてなかった。

 このまま『親切にありがとうねえ』な足腰悪い婆さんな感じで話を切り上げてくれたらありがたい。

 少女はにこやかに微笑んだ、少し可愛いなと思ったが人間の趣味は無いと頭で否定した。

 

「知り合いの用を待っているの」

 

 まぁそんな事だろうなと思った。だが車椅子の少女を置いて行くのは少々酷い付添人だ。

 とはいえこれ以上他人と関わる気はないので、軽く挨拶を交わしマフラーを買いに行った。

 

 買った青いマフラーを帰り道に試しに巻いてみたが、3桁で売ってる割には柔らかく風を突き通さない、悪くはない。

 そういえばこの近くは車椅子の少女と出会った場所近くだつだ。もしかしたら、まだ……いや、もう関係ない、他人と関わる興味ないし。

 

 頭の中で自分はそういう奴だと何度も言い聞かせるが、やはり気になって仕方がない。

 もう流石にいないだろと、方向を変え信号の場所に足を運んだが、車椅子の少女はまだその場にいたのだった。

 

 

 

 

 


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