怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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 一瞬たりとも逸らす事が出来ない睨み合いだった。

 少しでも隙を見せると敗北する、ライオニックはサグーの姿のまま警戒を解かず、平和的交渉を始めようとした。

 だが口を開こうとした瞬間、そんな理屈は通じないと肌で感じ取った。

 恐ろしい殺気だ、まるで本能に身を任せた獣のようだ。

 目の光は濁り、髪はくたびれ、何かを思いつめてるように依頼主は頭を何度も叩き、こちらを憎悪が混じった笑みを浮かべた。

 

「ハハハ! 話し合いなんて意味はないよ! 僕たちの世界じゃあ力が一番だったからねぇ……!」

 

「ここはカイザではない! チーキュという星だ!」

 

「僕たちはサグーじゃないかァ! カイザで産まれた生物、それに何の間違いがあるのさぁ!」

 

 依頼主は叫び声をあげ、身体を蜘蛛に似たサグーへと姿を変え口から一本の糸を吐き出した。

 その糸は後ろの扉にへばりつき、逃げ道を塞いだのだと思った途端依頼主は糸に引っ張られるように伸縮して右蹴りを放ってきたのだ。

 

 だがライオニックは両腕で防ぎ、瞬時に右足を掴んで投げ飛ばした。依頼主が宙を舞いながらも糸の凶器が飛んでくる。

 木製の床が貫通していく。

 ライオニックは右側に走り、避ける。

 この洋館の玄関ホームは意外にも広い、借りているアパートの部屋の二十倍はありそうだ。

 自慢の爪で槍を弾き、受け流し、投げ返す。そして避ける。

 依頼主の糸の雨が止んだ瞬間に床を蹴って宙に佇むサグーに拳を喰らわそうとする。

 だがこれはサグーの騙しであったと気づいた時には右肩に束ねた糸の弾丸が突き刺さっていた。

 

「ッ……!」

 

 糸が肉に食い込む痛みを振り切り、ライオニックそのまま躊躇いもせず「くらえぇぇぇ!」と蜘蛛の顔を狙った。

 その時、サグーの口に笑みがあった、しまったとライオニックの感が告げている。

 

「目よ……開けぇぇぇぇぇぇ!」

 

 胸の六つの赤い目が光り出した。

 あの目が輝くと幻覚を見せられる、だがこの位置からじゃ引くことはできない。

 目を瞑るか? いやその瞬間が隙になるし視界を防いだ程度で効果が消えるとは限らない。

 だがこんなピンチの中、一つ思い出すことがあった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 右腕を自分に向けたのだった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 ライオニックは目の光を見て床にがくんと落ちていった。

 そして正座のように座り、両手をだらんと、首をがくりと。

 彼は今や幻を見てるのだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 青年は肩で息をしながら心を落ち着かせた。

 まだ時間はある、焦るなと言い聞かせた。

 口から吐き出す糸で尖った槍を作り出し、一瞬目を閉じた。

 

 そうだ、考える事はやめたんだ。だからこれでいい。

 

 白い槍を手にライオニックの目の前に一歩一歩近づいていって彼の前に立つ頃には手を動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポタッ……ポタッ……

 何か水滴音が聞こえた。青年は目を丸くした。

 水滴音にではない、槍が、ライオニックが槍を片手で受け止めていたからだ。

 

「まだだ…………まだ終わってはいないっ!」

 

 ギラリと彼の目に金色の光が灯った。

 理解が追いつかず、ただ数歩距離を取ろうと下がったが。

 

 ライオニックの踏み込みはこちらよりも速いッ!

 左腕の糸の盾ごとパンチで砕かれ、避ける事だけを脳にインプットしても彼の音速を超える拳には反応できなかった。

 

 二発目の左ストレートは胸の目を破壊し痛みが来る頃には体全身に衝撃が走り、壁にぶつかっていたことに気づいた。

 視界が揺らぎ脳がシェイクされたようだった。

 

 くそ……このままじゃ、彼に勝てない。彼女も救えない、何も変わらない。最悪な展開だ。

 彼女だけ救えればいい、だから僕の命を賭けよう。

 

 少しづつ相手に気づかれないように糸を広げよう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 ライオニックはポタリポタリと床を血で染めているのを見て鼻から出血しているのだと今気づいた。歯も一本折れた。

 Kは幻覚に陥いた自分を何度も叩きつけて助けたのだ、だから依頼主の胸の目が光り出した時、自分の顔を思いっきり一発殴った。

 一か八かの勝負だったが成功したらしい。

 

 ふぅ、と深呼吸をして壁にめり込み人の姿に変わった依頼主を睨んだ。

 まだ殺気は消えていない。

 依頼主は口元から血を垂らしながら立ち上がった。

 なぜそこまでして戦うのだろうか、ライオニックは彼を突き動かす原動力が気になった。

 もしかしたらこのまま戦闘せず会話で解決できるかもしれない、奴の殺気などに負けてたまるか。

 だが何を言えばいい、今の奴は暴走状態とさほど変わらない。

 うーんと頭を両手で抑え悩みに悩んだ末、自然と言葉が出た。

 

「何か……悩みでもあるのぼぁっ!?」

 

 錐のような弾丸がライオニックの頬を掠めた。首を右に傾げなければ絶対貫かれていたと断言できる。

 

「ハハハハハ…………ハハ……ッ……まだだ! まだだぁ!」

 

 サグーに変わった依頼主は飛び出し右腕で殴る素振りをライオニックは見た。

 こちらも負けずと右腕を後ろに引いた。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「だああああああああっ!」

 

 お互いの拳がぶつかり合い均衡状態が生まれた。

 そしてすかさず第二撃が繰り広げられる刹那、ライオニックの左手に重みを感じそのまま吹き飛ばした。

 依頼主は吹っ飛びながら、身体をくるりと回転させずざざざと腰を低くしながら着地した。

 相手が大勢を崩した瞬間を狙おうとしたが、足が動かなかった。

 

「うっ……!」

 

 右足の足の裏に白い錐が突き刺さっていたのだ。

 糸を抜こうとするが、依頼主はその隙を逃してはくれないようで数十発の鋭い糸が放たれた。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 自慢の爪で糸をさばき続ける、だが足の糸を抜く隙がなくしまいに押され始めてくる。

 

「ぐっ……!」

 

 三発の糸に自分の身体は突き刺さされ、一瞬痛みで意識が飛んだ。相手が糸を作る瞬間に足や右腕、左肩、左腿に刺さった糸を引き抜く、痛みに嘆いてる暇はない。

 ライオニックはこのまま戦うのは不利だと、一旦この屋敷の中でKを探し出しながら逃走する、よし完璧だ。

 

 非常時の為に遠距離武器として隠し持っていた石一つ依頼主に向けて投擲した。そしてすかさず二階に続く階段に足をつけたのだが。

 ザシュ! と左足から糸が突出した。

 

「なぁっ!?」

 

 まさかこの室内に罠を仕掛けているのか!

 

 モタモタしているうちに背後から気配がして左足の傷口を広げながら体を回らせた。

 僅かスレスレで依頼主が自分を突き刺そうとする槍を脇で挟んだ、だがサグーの口から糸の先端が突き出ている事に気づいた。

 糸の弾丸を防ぐ為に右腕で顔を隠した。

 

 だが腹に鋭い痛みを感じ、腹に刺さったのだと気づいた。

 判断をしくじった、と右足で思いっきり依頼主を蹴り飛ばした。

 

 罠から左足を引き抜いた、さっきとは違って痛みに叫び声をあげた。

 依頼主はまだ立ち上がろうとする、ライオニックも迎え撃とうとするが膝をつき血を吐いた。

 

 だが壁にへばりついた依頼主も血で床を濡らしていた。壁にもしかけていた糸の罠が依頼主の右足を貫いていたのだった。

 依頼主は右足の罠を引き抜き、床に倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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