怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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チェンジ!やっぱうどん!

 

 空を見るに朝日が昇り、1日の始まりを告げていた。

 恐らく一晩中謎の空間で眠ってしまっていたのだろう。だが眠ったおかげか身体の疲労や痛みはほとんど消えている。

 全力疾走でアパート倉蔵に到着し、勢いよく木製の階段を一気に二階にまでジャンプした。

 ズシンと床を突き破りそうな音が鳴ったが、なんとも無い。流石古い建築物は違う。

 ライオニックが借りた部屋は昨日のままでドアが突き破られたままだった。大家にバレたら雷が落ちていたに違いないと身体が少し震えた。

 

 そして部屋の居間の戸を開け。

 

「K! 帰ってきてないのか…………」

 

 叫び声を上げようとして戦慄した。畳の上に鬼の仮面を被り薙刀を持つ中年の女性がその場に立っていたのだ。

 

「やぁ……おかえり……」

 

 その声を聞いて、鬼が誰なのか理解した。

 大家の戸塚である。

 

「た、ただいま……」

 

 地球ではこう返すのが常識らしいが、いやそんな事考えてる場合じゃない。今の彼女は殺気の塊である、なだめなければ自分か、隣で涙ぐみながら正座している少年が犠牲になる。

 

「きょ、今日はいい天気…………ですね……」

 

「ああそうだね。アンタは朝帰りかい? いいねぇ、私も後20年若けりゃあ男遊びできたのにねぇ……」

 

 チラリと戸塚は部屋の片隅に置かれたボロボロのドアに視線を移した。

 しまった。あのドアを壊した事を忘れていた。

 ライオニックは今に置かれている状況を理解する事ができた。

 

「い、今も頑張れば男を引き寄せる事ができると……思う……ます……」

 

 すると鬼神戸塚はワハハハハと笑い出した。

 仮面のせいで表情は読めないが機嫌を取り直していると思う、思いたい。

 

「そ、それに大家さんは……えーと、あれだ、なんだったっけ」

 

 なんでもいい、美しいおべっかを考えろ。馬鹿な自分の頭をフル回転させるんだ。

 その時、ライオニックの頭に三日前の出来事が再生された。

 それは同じアパートに住む若い男性の日常的会話だった。

『大家さんって若い男狙ってるらしいな』

『えー嘘だろ? 俺彼女いるんだけど」

 

 そうだ! いい案が浮かんだ。最近身近に起きた出来事と組み合わせると綺麗な例えが完成する!

 

「今の大家さんに感じる情熱は毒蜘蛛なんだっ! 一度狙った男は蜘蛛の巣(アパート)に捕まえて、その獲物を狙う目つきは蜘蛛みたいに綺麗だっ!」

 

 そう、あの時ヘリポートで見た依頼主の光る目は敵ながら天晴れだった。これを言えば流石の大家といえども機嫌を直すに違いない。

 

「何言ってるんですかァァァァ!」

 

 少年の悲鳴のような声が聴こえた同時に自分の視界が星だらけになった。ナギナタの鉄の刃の部分で殴られた事だけは理解できた。

 

 

 

 

 

「うう……頭が痛い……」

 

「ああやっと起きました…………? 10分ぐらい気絶してたんですよ」

 

 痛む頭を撫でながら身体を起こした。

 

「そういえば……あの、大家さん? から手紙が届いてたらしいですよ、宛先があなたらしいんですけど住所も書かれてないらしいんですよ……」

 

 少年は縦長の茶封筒をライオニックに手渡した。

 ライオニックは不思議に感じながらも、茶封筒のテープを剥がそうとした。

 

「というか昨日はどうしてたんですか? 僕一人だったんっすよ……聞いてます?」

 

 少年はライオニックとの関係に慣れて来たのか、妙に馴れ馴れしくなってきた。

 変に誤解したり怯えるよりは良いか、と気にすることはやめた。

 

「ん、ああ聞いている。悪いっ、色々と事情があったんだ」

 

 茶封筒のテープを剥がそうとするが、中々粘着力が強くて剥がれない。少しイライラする。

 仕方ない腕の一部を変身させるか。

 

「はぁ……こっちは酷い目にあったんですよ。あの大家さん、夜中の2時からずっと部屋にいたんです…………って!? ご、ごめんなさい! ぼ、暴力だけはやめてください!」

 

 少年は自分の変貌した右手を見て後ろに二、三歩すすすと下がっている、「何もしない」とライオニックはため息混じりに言った。

 

 粘着したテープを無理矢理剥がし、やっと中身とご対面できるのだが、まるで差出人は中身を確認されたくないと抵抗しているようにも、単なる嫌がらせのようにも思えた。

 

 中身を取り出すと一枚の紙だった。

 裏表、何も書かれてなどいない、と思いきや今の紙は半分に折られている状態だった。

 しかもまた粘着テープ付きである。

 

「変な嫌がらせですね」

 

 少年が自分の肩の上からヒョイと覗いた。

 

「一体どういう事なんだ…………そういやお前に聞きたいことがあるんだが、昨日はKは帰ってきたのか?」

 

「力が抜けて2時辺りまで倒れちゃったんですけど、多分帰ってないと思います……」

 

「そうなのか…………」

 

 2回目からはコツを掴めたのかあまり時間をかけずにテープを剥がす事が可能だった。

 一体差出人は何を考えてるのかと拝見させてもらうと、顔がピシリと固まった。

 

『やぁ僕だよ糸を使った粘着テープはどうだったかな? 君の相棒、Kは誘拐させてもらった。助けたければ下の洋館にまで来るんだね』

 

 by昨日のサグーより。

 

 下には住所と洋館の写真が貼られてあった。

 

「何が書かれてるんですか?」

 

「Kが…………あいつが……誘拐された……」

 

「えっあのデカイ人誘拐されたんですか……」

 

 商店街の電化製品のテレビで見た事がある。誘拐されると解放のため金を用意しなければならないのだ。少なくともこの世界ではそういうルールがあるらしい。

 

「し、しろじろ金!」

 

「……? 身代金の事ですか」

 

「そ、それだぁ!」

 

 しかし、自分は最近バイトをクビになった身分。金などとうに尽き果てる寸前。

 

「一体どうすればぁぁぁっ!」

 

 ふと少年に期待の眼差しを向けた。

 

「も、もしかして僕の身体を売って稼ぐ気じゃないですよね……」

 

 いやそういうわけではない。単にお金を持っているか聞こうとしただけだが、反応を見るに無理そうだ。

 ライオニックは今の状況に混乱して頭を両手で抱えた。

 

「いや……ちょっと待ってください。お金は必要無いと思うますよ。この世界での誘拐はお金を要求する事が多いですけど絶対そういうわけじゃないですし……」

 

「そうなのかっ!?」

 

「はっはい……それにこの手紙に『君の命を頂く』って書かれてますよ」

 

 そうなのか、なら安心……そんなわけない。

 

「つまり……Kは俺を引き寄せる人質ってわけなのか?」

 

「多分……そうだと思いますけど、でもあの人強そうでしたし捕まってるのは嘘じゃないんですか?」

 

「そうかもしれんが、行ってみないとわからんな。現にKは姿を現さない、それに奴を捕まえる機会になる可能性だってある」

 

 息を吸って吐いて、呼吸を整えたライオニックはもう一度手紙の内容をくべんなく確認した。

 確かに一番下に命を頂くと書いてあった。

 早とちりの癖も直さなければ。

 

 だがもう一つ問題があった。

 

「なぁ……この場所何処なんだ?」

 

 洋館の居場所が分からない。住所は書かれてあるが、自分はバカでこの世界に来て間もないのでわからない。

 

「えーっと…………ここからじゃ近いですけど電車やバスを乗って行かないと時間がかかりますね……」

 

「……………………一つお願いがある」

 

「お、お金……ですか? 通行料ぐらいなら貸してもいいですけど……」

 

 いや違う。確かに金は必要だがそうじゃない。

 

「……俺は」

 

 少年がびくりと震えた。

 

「俺は……っ!」

 

「な、なんなんですか……」

 

「電車やバスの乗り方を知らないっっっっ! だから一緒に来てくれ、頼むっ!」

 

 がくりと少年はバランスを崩したが、すぐ立ち上がり。

 

「い、嫌ですよ! だってあんな目に遭うのこりごりですよ!」

 

「いや頼むぅ! 近くまででいい、だから頼む!」

 

「嫌ですよ! なんなら歩いていけばいいじゃないですか」

 

「それだとKの身が危ないんだ!」

 

 そんなやり取りを数分近くやっていたが、最後に大家の雷が落ち終結を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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