怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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イエイイ

 

「あー……痛つつつつつ」

 

 数分、凸凹して破片がゴミのように散り張るヘリポートでKを待つが一向に現れる予感はしなかった。

 おそらく、自分が糸に苦戦してる中依頼主は逃走してKが後を追いかけたと考えるべきだ。

 Kの事に心配はなかったのだが、一つ別の疑問がライオニックには湧いた。

 どうして奴に指輪は効かなかったのだ? カイザの監獄に転送させる力を持つ指輪なのだが、奴にはめても効果はなかった。ちゃんとはめるのをこの目で見た。

 

 頭に血が出すぎたのかまともに回らない。視界が滲み、身体が怠い。

 一度アパートに帰るしかない。

 ライオニックは人間に戻り歩き出した。

 ビルから降りアパートに続く道をフラフラと歩いた。今日はえらく人通りが少なく今の血塗れの自分を見られる心配はなくて安心なのだが、今は猫の手も借りたいほど疲れ果ててしまっていた。今倒れても不思議じゃない。

 

「金もないし、家帰るまで飯は食えないかっ…………あ……」

 

 頭に血が滲むのを感じながらトボトボと歩いてる途中、身体がぐらりと傾き出すのを感じた。

 ああ……ここで限界が……仕方ない、ちょっとだけ寝よう。

 ライオニックの意識が闇の底に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。視線の先は赤色の天井だった。

 下が柔らかい、恐らくベッドの上だろうか。

 身体中が金縛りにあったみたいに痛む、仕方ないので眼だけを動かした。

 この部屋の四方は白いベッド以外全て赤で色塗られていた。ベッド以外、多分何もない。

 少々悪趣味な感じがした。

 身体を動かそうとすると突然ライオニックの腹の上あたりがもこもこと動き出した。白い布が波のように蠢いて「うぉぉっ!?」と驚いてしまった。

 

「ふぁー……やれやれ……やっと目が覚めたのか、我が何度起こしたかわかってるのか!」

 

 聴き慣れた青い声。

 布から抜け出したのは20センチほどの三頭身、二本の小さいドリルのような角が生えた、髪が青い少女カフェルであった。

 

「って、ええええええええ! なんでお前が……ゲフン、何故貴方がここにいるんだ……ですか? しかもぬいぐるみのような姿は?」

 

 そう言うとカフェルは自分の胸の上で頭をかいた。

 

「いつも喋り方にしてくれ、ライオ、お前のそれには一向に慣れん……」

 

「そうか? ならいつも通りにさせてもらうが……ごほん、俺は頭はよくないからなるべく分かりやすく説明を頼む。最初から最後までで」

 

「ああ、ここは我が作り出した簡単な空間だな。我がカイザで偶然虫の息のお前を見つけ、偶然二つの世界を繋げる穴を見つけて、偶然空間を作成しただけだ」

 

「偶然の連続だな……」

 

 よくわからんが相づちを打った。

 

「うん? ならどうしてカナは縮んでいるんだ?」

 

 ため息混じりにカフェルは言った。

 

「地球に続く穴は…………何しろ小さくてな、自ら身を縮めるしか術はなかったのだ」

 

 一瞬元の世界に帰れると思ったが、無理そうでライオニックは落胆した。

 

「そうなのか……だがその姿は意外と小さくて可愛いな、昔飼っていたペットを思い出すな」

 

 そう、この世界では狼に似た生物ガルンをライオニックは飼っていた。あいつは身体が小さいが勇敢で苦楽を共にした良い思い出がある。

 するとカフェルは驚いた声を上げながら言葉を返した。

 

「そ、そうか…………こ、これでも可愛いと言ってくれるのは素直に嬉しいぞ…………」

 

 そう緩んだ笑顔を見ると心が癒された。前にKに頼み込んでケータイを使わせて貰ったのだが、彼女の王佐のワルツとしか話せず、無事以外伝えられなかったのだ。

 しかし無事に会えたんだ。一旦難しい話はやめにして雑談でも楽しもうかと思ったのだが。

 

「無事に…………?」

 

 思い出した! 黒い影!

 小さいカフェルの肩を掴めないので脇腹を掴み、揺さぶる。

 

「な、なにをす……」

 

「あの時! 俺たちが森で消えた時! お前は無事だったのか!?」

 

「現に無事なんだが…………」

 

「いやそうではなくて…………どうして消えたんだ?」

 

 そう言うとカフェルは腕を組んでうーんと悩めた。

 

「我にもよくわからん、いつの間にか城の庭に戻ってたのだ。まるでワープだ……」

 

 わーぷ? 

 わーぷという単語が気になるが、黒い影の行動の方が気になる。自分より強いカフェルでさえ他の世界を繋げるのは苦難であったのだ、それなのに奴は自分を丸ごと飲み込めるサイズの穴を作り出した。もしかしたら過激派を送っているのは奴かもしれない。

 だが理由が一切わからない。奴はこの星にサグーを送り込んで何がしたいんだ?

 

「ううう…………」

 

 普段使ってないせいか脳味噌が燃え尽きそうであった。

 そんな自分を見てカフェルは溜息をついた。

 

「ライオ……お前は馬鹿だからな……頭を無理に使わなくてもいいだろう」

 

「…………そうだよなぁ……」

 

 自分で馬鹿なのは自覚してるが言われると色々と堪えるものがある。

 少し悲しくなってきた。

 

「あ……今のは悪意があって言ったわけではなく…………あれだ、一つの冗談という奴で…………」

 

 カフェルがオドオド焦り出した。

 

「わかってるわかってる。俺は俺であまり気にしてない」

 

 結構気にしてる。

 それはそうとして、そろそろ行かなければならない。Kも行方知らずでおちおち寝てはいられない。

 

「よしっ……と……」

 

 ベッドから降り軽い感謝の言葉を伝えた。

 

「もう……行くのか……少しぐらいは我の愚痴に付き合って欲しかったのだが……」

 

「悪いっ、今少し立て込んでいるんだ。俺が行かなかったら知り合いが死んでしまうかもしれん」

 

「なら……」

 

 少しカフェルは口籠り、後一歩、後一歩なのに言い出そうとはしなかった。

 

「約束してくれ……」

 

 カフェルは約束の内容は伝えなかった、だが考えてる事は分かる気がする。

 恐らく、今度愚痴に付き合えって事だ! 

 

「了解だ」

 

 中腰になって彼女の腕と握手して、ライオニックは空間から出ようとした。

 

「じゃあな……………………? 待てよここからどうやって出るんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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