「ぎゃあああああああ! 腕! 腕に刺さってる!」
包丁が自分の腕にブスリと刺さり、まるで追い討ちをかけるように縦に動いて行った。
「やめ! やめてくれぇ!」
「す、すみません!」
パキン、とまた三つ目の包丁が犠牲になってしまった。
この糸は一体どれだけ硬いのだ。
だが腕一つ出せるぐらいの穴が空いた、手が自由の状態ならこれを破れる!
「しゃぁっ!」
自分の腕が元の剛腕に変わって行くのを感じながら糸を爪で縦横に切り刻んだ。
「やっと出れた……」
人の状態の腕に刺さった刃物を抜き出した。
「本当っに助かった……」
少年に向けて軽く礼を言った。
「マジで大丈夫ですか? 今腕にズブッと刺さってたんですけど……」
「刺したのはお前だろ……」
「貸した? 何言ってるんですか」
少年は首を傾げた。彼はどうやら本気で耳が悪いのかもしれない。今は少年の相手をしてる暇はない、今すぐにでもKの元へ向かわなければ。
ライオニックはその場に座ったままお経を唱えるように目を閉じて意識を高めた。気配を察知する力が薄れてしまっているからだ。
「何……やってるんですか?」
集中、集中。
「あの……もしかして怪我で……」
無視しろ、今は感覚に身体を委ねろ。うん? Kの気配は相変わらず分からないが、さっきの依頼主の気配は掴めてきた。
場所は……
「起! き! て! く! だ!」
「ええいうるさい! もう黙ってくれよ! 今それどころじゃないんだよ!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「まだだぁ!」
蜘蛛の異形の者へと変わった僕は、糸で作り出した錐を背中の背中の蜘蛛の脚から放った。
弾丸と錐がぶつかり合う音が夜に響いた。向こうは弾切れがないのか何度も銃弾を放ってくる。
8本の脚の二つが破壊された。
このままではこちらが負ける、破壊されなくても糸の量に限界がくる、この世界ではエナが薄すぎて、エナが糸の代わりにもなりゃしない。
「それなら……ッ!」
僕は錐の背後にもう一つの錐を隠れるように放った。
だがその隠し芸もあっさり見抜かれ、集中砲火で二発の錐は撃ち落とされた。
「一度でダメならもう一度ってね!」
さっきの同じ錐の攻撃を回数を増やし行った。また撃ち落とされた。だが変化が生まれた。
二発同時に撃ち落とすには火力がかなりの火力が必要だ、それに二つの腕を使わなければ不可能。そのため大きな隙が生まれた。
自分の糸が無くなるか彼が死ぬか、やってやる。
その隙を逃さず、Kの頭に放った。
頭を防ごうと弾丸を集中させると、胴体を貫かれる。彼はもう詰んでいる。死ななかったとしても致命傷になるだろう。
僕の勝ちだ。
錐は弾丸を避け彼の頭と心臓に向かって刺さっていく。
ガキン! ガキン!
はずだった。
「嘘だよね……」
まるで鉄同士がぶつかり合う金属音がなり、彼の身体に突き刺さることはなかった。
「うおおおおおぉ!」
僕が唖然としている間だった。空からライオニックの声が聞こえ「もう来たか!」と錐を放った。
「お、お、お、おっと! 危ない!」
だが奴は空中で身体をジグジクに折れ曲せて錐を避けた。
「彼は軟体動物か……っ!」
一瞬、彼に意識を向けてたのが間違いだった。ほんの3秒、その隙にKは僕の懐に入り込んで、腹を殴られた。
肉が壊れる、めり込む。
「くッ……!」
そんな時、Kは僕の耳元で囁いた。
「もう……やめろ……」
彼はこんな時にも僕に情けをかけている、それが余計に癪に触る。
「黙れぇぇぇぇぇ!」
Kの顔を殴りぶっ飛ばした。
そして真の姿に戻り、空中から右足を突き出した飛び蹴りのライオニックの足を掴み投げ飛ばした。
「ぎゃあああああ!」
「はぁ……はぁ……君たちはまだぁ! 僕の力を知ってない」
二人はムクリと立ち上がり、挟み撃ちをする形で僕に向かって来た。
そうだ、それでいい。
二体一の方がこちらに都合がいいんだ。
「ハハハハハッ! 目よ……」
僕の胸の六つの赤い目が。
「開け」
赤く発光した。