「って痛ァァァァ!」
鳴り止まない銃の音が続く中、糸を突き破り恐らくKの弾丸が俺の腕にめり込んだ。五、六発飛んできたが糸が威力を抑えてくれたおかげか貫通する事はなかった。
何すんだと銃弾で空いた穴から覗き言ってやろうと思ったが、今はそれどころじゃない。逆に助けてくれたと考えるべきだ。
ライオニックは穴から覗くと今はKと青年が一旦戦いをやめ話し合いをしていた。
「ここでは……被害が出る……」
青年は手の平から弾丸をばららっと床にブチまけ。
「同感だね、さてと……じゃあ外でやろうか!」
両者取っ組み合い、窓ガラスごと突き破って外に出た。
「ガラス代がぁぁぁぁぁぁぁ!」
って叫んでる場合じゃない、早くこの糸を解こうとするのだが不器用な自分ではより無駄に暴れより悪化するのであった。
その時、部屋の片隅で頭を抱えながらしゃがみこむ少年が視界に入った。
「おーい! この糸を解くのに少し手伝ってくれないか!」
すると少年はクルッと振り向きこちらに向かって来る。
バダン。
「倒れたっ!?」
そのまま少年は畳と口づけを交わしてしまった。
「ご、ごめんなさい……さ、さっきので足が震えて……」
「もう少しだけ頑張るんだ! 根性だ! 気力だ! 筋力だ!」
「む、無理なもんは無理なんですよ……足がガクブルで地震状態です」
もうこうなってしまっては、残るべき選択肢はただ一つ。
自分でぶち破る。
身体中が怪我だらけ、エナも残り少ない、いやそんなものは言い訳に過ぎない。今力を出せない自分が悪いのだ。
だから力を出せ、力をMOTTO! MOTTO!
「ガァァァァァァァァ!」
無理でした。
こういう時、どうにかならないかと少ない頭で考えて見ると意外にもいい案が浮かんだ。
「そうだ! そういやお前は時間を止めれるんだったなっ!」
Kに聞いた話によると少年は時間を止めれるらしい、時間をかければこの糸も千切ることができるし、早くKの元へ行くことができる。
「え!? 時間を止めて僕に何をするんで……」
「何もしない何もしない!」
ここまでくるとワザとではないのか。
「でも……その力は1日1回しか使えませんし……相手に触れる事さえできないんですよ……」
「それは本当か!?」
「マジです。万引きもできませんし……いや、やろうとはしてませんよ! 考えたことあるだけで!」
万能の力だと思っていたが、かなり不便な能力のようだ。
こうなったら本当に力技でなんとかするしかない。
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夜の冷たい風がひゅうひゅう吹き、僕の首を撫でた。
このビルはこの町でも一番大きなビルらしい、隣のビルもかなり高いがこっちはもっと高い、そりゃあ寒いわけだ。
今はヘリポートの上にいるのた。
「マフラーでも持ってきたらよかったなぁ。君は寒くないのかい? 凄いね、痩せ我慢じゃなさそうだね」
Kは無言のまま身震い一つすらしなかった。
「僕は寒い、冷たいが大嫌いなんだよね。どうでもいいけどさ」
どうやら冗談が通じない相手らしい。
「ここなら……被害は出ない……」
Kが右腕を前に出した。
どうやら撃つ気らしい。上等だ。
「そうだね……さてと……」
僕は笑うことをやめた。相手を倒すことだけを考えた。
『少女』の為ならどんな事でもやってみせると誓ったのだ。手を血に染めても、身体を壊しても、他人が不幸になっても、
『少女』の世界に色をつける為に。
「始めようか!」
僕は右足を思いっきり蹴ってKへと走り出した。
Kの放った弾丸が飛んでくる、頬を掠め血が噴き出る事も構わない。
ただ一つの敵に向かって走る、走る、走り近く。
そこだ。
さっきの会話の中、時間をかけて作り出した糸の槍をKの顔に突き刺した。
「へぇ……」
だがKの左手が槍を掴んで阻止していて一瞬の隙も逃さないよう右腕の銃口を僕に構えた。
僕は槍をすぐ捨て数メートル後ろに下がってる途中、Kの様子がおかしかった。銃を撃たず、ピッチャーのように左手を大きく振りかぶった。
「チィッ!」
高速を超え一直線に走る槍。
避けれるか……いや間に合わない。
最低限致命傷を避けようと両腕を糸でギブスのように絡め盾にしたのだが、槍は盾を掠め、僕の身体を傷つけようとはしなかった。
その時、自分の腕が握り締められるような痛みを感じた。
それはKの……
突然自分の身体が引っ張られ、なすすべもないまま。
ドゴォ!
背中に強烈な痛みを感じた。床が砕ける勢いで叩きつけられ、口から血が噴き出た。
そしてまた身体が浮んで床を転がった。
僕は傷む身体に鞭を打ち、即立ち上がり次の攻撃に備えたのだがKはこちらに向かってくる様子も撃ってくる様子もなく立ちすくんでいた。
「もう……勝負はついた……」
「ハァ……ハァ……ハハハ」
やっぱり舐められているらしい……笑えてくる。本音を言うとこんな事やめてさっさとベッドで眠りたいし、卑劣で一匹狼の自分には合わない。
「まだ……本当の姿も見せてないのにかい?」
『一緒に海を見てみたいね』
思い出すのは『少女』の言葉。
だから、それでもやる。やるしかないんだ。
「まだ野球でいうと1回の表なんだけどな……仕方ない、温存しておきたかったけどなぁ、奥の手を使うか……」
「………………」
僕の身体が異形の者、本当の姿に変わって行くのを感じる。
身体は黒く、背中には折れ曲がった八つの蜘蛛の足を想像させる糸を射出する穴、胸には水晶のような黒い目が集合していた。
「……お前は…………何のために戦う……?」
「僕の気持ちを理解していいのは僕だけだ。理由なんて…………必要ないさ!」
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車椅子の少女だった。
信号を渡りたいはずなのだが、渡ろうとはしなかった。
無視だ無視、放っておけ、いつか通行人が構ってくれるはずだ。だがその考えとは逆の行動を僕は取ってしまっていた。
「付添人はどうしたんですか?」