一旦、元の拠点に戻りライオニックは畳の上のちゃぶ台に水道水とケーキを二つ置いた。
実際は場所が割れているアパートとは別の場所で隠れたかったのだが、金欠には辛いものがあり仕方なくノコノコと戻ってきたのだ。
アパートの部屋に爆発の後は一切なかった。
「よし……っと……これから何をするんだ?」
「尋問だ……」とKが答える。
「じ、じんもんってヒィヒィ言わせたり指切り落としたりするあれですか!?」
部屋の片隅でビクビク怯えているサグーの少年、Kの話によると彼が爆弾を仕掛けた犯人だそうだ。だがこの様子を見る限り彼に人を襲うことなど出来そうにない、脅されてやったのだろう。
「それは拷問だ……」とKが答えた。
「え!? 今からそれをするんですか!?」
少年は余計小刻みに震えてしまった。今着ている赤いジャージとハーフパンツが血で染まってしまう、そんな想像でもしてしまったのだろうか。
ここは俺がなだめなければ。
「おいK、怖がらせてどうするんだ。ここは……そうだ! 一緒にケーキを食おう、食卓を囲めばすぐに仲良くなれると本に書いってあったんだぞ!」
本音を言うと自分が食べたいだけである。
「そ、そのケーキに毒でも入ってるんじゃ……」
「何も入ってない入ってない。ひょらほれがくってもなにもひゃいひゃろ?」
ライオニックは自分のために用意したケーキをパクリと一口で飲み込んだ。やはりあそこの店のケーキは旨い。
「本当に傷物にしませんよね……」
少年は怯えながらもフォークでケーキを食べようとした。
だが残像が見えるほど震えてケーキのクリームを目に食べさせている。
そんな中、Kが言葉を発した。
「お前に……二つ聞きたいことがある……俺たちを破壊しようとしたのはガル……という男だ。それで間違えてはいないな……」
こくりこくりこくりこくりこくり。
あの青い獣野郎、自分の痛がるところを執拗に責める酷い奴だった。だが自分が倒した後、奴はどこへ行ったのか消えてしまっていた。あの傷でどうやって消えたのか、恐らく他にも味方がいる可能性が高い。
「なら……理由を聞きたい……」
「確かに……そうだな、俺たちが恨まれる事をした覚えはないはずだ」
少年は額に大量の冷や汗を出し苦難の末答えた。
「本当に、本当にあの人には僕が言ったって言わないでくださいね」
「よし、男の約束は絶対だ」
そう言うと何故か少年は少し顔色が暗くなったような気がした。
「うん? どうしたんだ。腹でも壊したか?」
「い、いえ何も……全部話します。ガ、ガルさんはこの世界にやってきてからは人を傷つける仕事をしてきました……そ、そして僕も生きていく方法なんて知らずパシリとしてついて行く事にしたんですよ……」
「かなり苦労したんだな」
少年は胸に手を当てて一度深呼吸をした。まだ緊張が解けてなく声が裏返っている。少女染みた声に変わっている。
「そんな中、ある日の事です。同じサグーの人が依頼しに来たんです……貴方達を倒してほしいと……」
「その事を……詳しく話してくれ……」
「ぼ、僕はその時いなかったんですよ……ごめんなさい……」
「知っている……限りで構わない……」
「わかりました。確か……中性的な青年らしく……年は僕よりも二、三歳年上らしいです……」
それを聞いたライオニックはうーむと頭を悩めた。
それぐらいじゃ犯人を見つけるには途方もない努力が必要だろう。
「すみません……これぐらいしか言い出せなくて……」
「いや、本当助かったっ! この情報でKが頑張って見つけてくれるはずだ」
「………………………………そうだな」
「あ、そうだ。K、二つの質問の内、もう一つはなんなんだ? 飯の事か?」
「今から聞くとこだ…………お前はこの世界にどうやって転移した……?」
その事を聞くことをライオニックはすっかり忘れてしまっていた。
だが過度な期待は虚しく少年も「気が付いたらこの世界に」と他のサグーと同じ事を喋った。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
身体中全身が死ぬほど痛い。喉が乾く、水が欲しい。
誰か水をくれ、誰か、誰か、水をくれ……
声が出ない、誰でもいい俺に気づいてくれ。
これも全てあのクソ野郎のせいだ。ライオン野郎、さっさと死んどけば俺はこんな目にあう必要はなかった。
クソ、クソ、あいつにやり返すまでは死んでも死に切れない。
「み………………す……」
このままだと奴等に見つかってしまう。だが逃げたくても這いずるのがやっとだった。
そんな時にざっざっと草を踏む足音が近づいてくる。
来るな、来るな、来るな。
「そんなに喉が乾くのかい? 君の身体は」
奴等かと思ったが声は比較的幼かった。その声の主は知っている。
ガルは顔を見上げた。
あの日、ライオン野郎を殺せと依頼したあのガキだ。お前のせいで俺は今、いや今は助けてくれ。
「悪いけど過度な期待はしない方がいいよ」
何を言ってるんだ、早く俺を助けろ。何銀色の弾丸を俺に見せつけてるんだ。
「この弾丸は転送効果がある銀色の指輪と同じなんだ。悪人限定にしか使えないけど君には丁度いい」
青年の右手の人差し指が口から吐いた白い糸で絡まっていっき、人差し指全てが包まれる頃には小さな煙突の形に変わっていた。その小さな煙突に弾丸を込めて俺に向けた。
ガルは出せる限りの声を放った。
「う…………そ…………だろ……?」
「悪いけど嘘じゃない。僕は嘘が嫌いなんだ……いや嘘は好きな方かな? まぁいい」
青年は冷酷に残酷に助けを願うガルを突き放した。
「君じゃ彼を倒すのは無理そうだ。じゃあね」
青年の指から弾丸が放たれた。