怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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食欲=戦闘力

 俺は弱い者を痛めつけるのが大好きだ、泣きながら許しを乞い醜くプライドの欠けらも無くなる姿、その時俺はそいつよりも上な存在なんだと実感できる。

 この星に来て半年、人間という生き物は柔らかく脆い人形のような生き物だった、軽く痛めつけるだけで死んでしまう。これじゃあダメだ弱すぎる、もう少ししぶとくないのか。

 この星に飽き飽きしていたそんな中、俺の元に一人のガキがやってきた。俺と同じサグーを倒してくれないかと。ああこれだ、俺はこれを待ってたんだと『ガル』は喜びを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「がばぅ……うっ」

 

 身体が痺れる。ライオニックは口の中に粘っこい赤色の液体が口から溢れ出し、草むらに落ちたのを見てそれが自分の血だと気づいた。

 

「あーあ、俺の服が汚れちまったよ。幾らすんと思ってんダァッ!」

 

 笑みを浮かべながら青髪の男は勢いよく胸から手を引き抜きライオニックに回し蹴りを放った。

 その刹那、ライオニックはサグーへ姿を変えたのだが、

 

 速い。避けれない。

 

 折れた右腕に強烈な痛みが走り、ふと気づくと空を飛んでいた。向こう岸の川沿いに落下しまた嘔吐するように血を吐いた。

 今にも叫びを上げている身体を無理矢理奮い立たせ、相手の姿を探した。

 

「ハハッ! こっちだよオラァ!」

 

 声がする空を見上げ、夜の満月の影になる青髪男が獰猛な両腕を振り下ろす。

 この際折れた腕なんて関係ない。ライオニックはそれに反応し自分の両腕を盾に防いだ。

 

「重い……ッ!」

 

 青髪男はその体制のまま身体を横に一回転させ鞭のような蹴りを放ったが、ライオニックは肉をかぶりつくかのように青髪男の足を口に挟み止めた。

 

「顔と見せかけて……! 胸ェッ!」

 

 逆の足が自分の胸の傷口を抉った。

 痛みが一回転して意識が本当に途切れそうになった。青髪男は瞬間を見過したのか、巨大な両腕をもう一度振り下ろした。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 Kはアパートが爆発したその瞬間、世界が凍りつくかのよう時間が止まったのを目視した。ライオニックや猫は驚いた表情を浮かべ止まっているのに自分だけは不思議と動けた。

 だが止まった時間を動いていたのはKだけではなかった。道路を一人全力で走るコオロギの姿をしたサグー、Kは猫をアパートの外にそっと置いて、そのサグーを追いかけた。

 

 おそらくあいつが犯人の可能性が高い。

 数十分ほど追いかけっこは続いた、だがKは疲れなんて感じず、右腕の銃でサグーの足を撃ち抜いたのだった。

 

「お前が……爆弾をしかけた犯人か……」

 

 ひぃひぃと息を切らし道路に横たわるサグーは人の姿に変わった。人間換算だと高校生ぐらいの少年であった。

 

「い、命だけは勘弁してください!」

 

「命を取る気はない…………お前が犯人か聞いているんだ」

 

 少年は悩むように下唇を噛み、恐る恐る口を開いた。

 

「僕が言ったって……あの人に言わないでください……」

 

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「おいおい……この程度で死んでんじゃねぇだろうな!」

 

 刺された胸に大きな重みを感じ、痛みによって視野がハッキリとするようになった。

 

「ガァァァァァ!」

 

 この卑怯野郎さっきから人の痛がる所ばかり狙いやがって、と言いたかったが、もはや叫ぶ以外声が出なかった。

 いや、もっと自分が不意打ちや弱点のフォローが出来るよう特訓しなかったのが悪いのだ。

 

「そうだそうだ! もっと叫び声を上げやがれ、この世界にはな俺とお前以外存在してねぇんだよ! 絶望したか? 絶望したかぁ!?」

 

 邪悪な笑みが増す度に胸を押しつぶす威力が上がっていき、ライオニックの声も増していく。

 

「泣いて土下座したら許してやるかもしれねぇなぁ! ハハハハハ!」

 

 首を掴んだまま持ち上げられ、顔を何度も巨大な腕で殴られた。

 意識が朦朧とする、これは本当にもうダメかもしれない。

 カナに最後一度ぐらい顔を見ておきたかった。あいつとは子供の頃から一緒だった兄弟のようなものなんだ。

 そんな意識が闇に落ちかける中で夜の満月が目に映った。

 

 この星では満月の時に餅を食うと美味いらしい、アパートの住民が言っていた。ああ、餅か……前に一度食った時があったがあれほど絶品な料理は無いだろう。

 海苔に巻いてもよし、きな粉にしてもよし、砂糖醤油でつけてもよし、餅はいいぞ。

 満月の時に餅を食いたい、食べたい、いや食わせろ。満月の時の餅を食うまで……………………………………………………死ねるか!

 

 

 

 

 

 

「も、も、も、も、も」

 

「あぁ? とうとうぶっ壊れたか?」

 

「餅を……」

 

「何言ってんだてめぇ」

 

「餅を食わせろォォォォォォォォォォォ!!」

 

 自分の血に濡れた拳を青髪男の顔に叩きつけた。青髪男はそのまま数十メートル吹き飛んだが、すぐに二足歩行の青犬のサグーに変身し「ガゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」と叫びを上げライオニックに飛びついたが、

 

「アァァァァァァ!」

 

 ライオニックの目にも留まらぬ速さの拳が何度もサグーを襲った。

 

「ァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 叫び声が大きくなる連れにラッシュの速度が増して、ドガバキとサグーの身体に鈍い音がラッシュに遅れて聞こえてくる。

 そして最後にアッパーを食らわせ、ボロボロになったサグーは倒れた。

 

「餅は…………どこだ……」

 

 身体中から血が吹き出し、ライオニックは後ろにフラフラと後退していき、

 

 ぼちゃん。

 

 川の水の中に沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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